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アバスチン®(有効成分 ベバシズマブ) 特許権の期間延長の拒絶審決取消請求事件 知財高裁 大合議事件に指定

2014年2月14日、アバスチン(Avastin)®(有効成分: ベバシズマブ)の特許権存続期間延長登録出願の拒絶審決取消請求事件(平成25年(行ケ)10195号、平成25年(行ケ)10196号、平成25年(行ケ)10197号及び平成25年(行ケ)10198号)を、知財高裁は大合議事件として取り扱うこととしました。

【背景】

処分の対象となったものを「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」、処分の対象となったものについて特定された用途を「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用における,成人への,ベバシズマブとして1回7.5mg/kg(体重)での,投与間隔3週間以上の点滴静脈内注射」として、ジェネンテックが保有する特許権(第3398382号及び第3957765号)についての存続期間延長登録出願(2009-700156、2009-700157、2009-700158、2009-700159)がなされ、審査されました。

しかし、特許庁は、本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は、先行処分により実施できるようになっていたとして、本件出願に係る特許発明の実施に特許法第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないから本件出願は特許法第67条の3第1項第1号に該当する、と判断し、拒絶審決(不服2011-8105、不服2011-8106、不服2011-8107、不服2011-8108)を下しています。

「血管内皮細胞増殖因子アンタゴニスト」に関する特許権(第3398382号)の存続期間延長登録出願(2009-700156、2009-700157)の拒絶審決(不服2011-8105、不服2011-8106)の概要は下記のとおりです。

特許権(第3398382号)の請求項1~11(「本件特許発明1~11」):

【請求項1】抗VEGF抗体であるhVEGFアンタゴニストを治療有効量含有する、癌を治療するための組成物。
【請求項2】抗体が抗hVEGF抗体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】抗体がモノクローナル抗体である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】抗体がヒト型化されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】抗体が腫瘍サイズを減少させるのに充分な量で用いられる、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】腫瘍が固形悪性腫瘍である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】抗体がVEGF介在脈管形成を阻止することにより腫瘍サイズを減少させる、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】抗体が細胞毒性部分に結合している、請求項1~7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】細胞毒性部分がタンパク質細胞毒素またはモノクローナル抗体のFcドメインである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】他の癌の治療剤と、連続的にまたは同時に投与されるように処方される、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】放射線学的治療に対して、連続的にまたは同時に投与されるように処方される、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物。

特許庁が拒絶審決とした理由の概要:

(1) 承認の対象となる医薬品は,承認書に記載された事項で特定されたものであるのに対し,特許発明は技術的思想の創作を「発明特定事項」によって表現したものである。したがって,特許法第67条の3第1項第1号の判断において,「特許発明の実施」は,処分の対象となった医薬品その物の製造販売等の行為ととらえるのではなく,処分の対象となった医薬品の承認書に記載された事項のうち特許発明の発明特定事項に該当する全ての事項(以下,「発明特定事項に該当する事項」という。)によって特定される医薬品の製造販売等の行為ととらえるのが適切である。そして,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」を備えた先行医薬品についての処分(先行処分)が存在する場合には,特許発明のうち,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は,先行処分によって実施できるようになっていたといえ,特許法第67条の3第1項第1号の拒絶理由が生じる。

(2) これを,本件について検討する。
ア.本件特許発明1について
本件特許発明1における発明特定事項は,医薬の発明であることを表現したものといえるから,本件特許発明1は,「抗VEGF抗体であるhVEGFアンタゴニスト」を有効成分とし,「癌」の治療を用途とする医薬の発明であるということができる。
一方,本件処分の対象となった医薬品は,一般名が「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」であり,効能・効果が「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」であると認められる。
ここで,「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」は,ヒト型化された抗VEGF(抗hVEGF)モノクローナル抗体であってヒトVEGF-Aアイソフォームを中和する性質を有しており,本件特許発明1の有効成分である「抗VEGF抗体であるhVEGFアンタゴニスト」に該当する事項である。
また,効能・効果である「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」は,本件特許発明1の用途における治療対象である「癌」に該当する事項である。

これに対し,医薬品医療機器総合機構のホームページからアクセス可能な以下のURL:
http://www.info.pmda.go.jp/shinyaku/P200700027/450045000_21900AMX00910_A100_3.pdf
に掲載された資料によれば,先行処分の対象となった医薬品は,一般名が「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」であり,効能・効果が「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」であると認められる。
そうすると,先行処分は,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」である「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」及び「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」を備えた先行医薬品についてのものである。

してみると,本件特許発明1のうち,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は,先行処分によって実施できるようになっていたといえる。

イ.本件特許発明2~11について

本件特許発明2~11は,いずれも本件特許発明1における発明特定事項をさらに限定した発明であるか,又は,新たな発明特定事項を追加することによりさらに限定した発明である。したがって,これら本件特許発明2~11のうち本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲(以下「範囲2」という。)は,本件特許発明1のうち本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」で特定される範囲(以下「範囲1」という。)に包含されるか又は一致するものである。
そして,上で述べたとおり,範囲1が先行処分によって実施できるようになっていたといえるのであるから,当該範囲1に包含されるか又は一致する範囲2もまた,先行処分によって実施できるようになっていたといえる。

ウ.請求人の主張について

請求人は意見書において,以下の(i),(ii)のような主張をしている。
(i) 先行処分(治癒切断不能な進行・再発の結腸・直腸癌)との関係において,こと本件処分(本件処分で承認された特定の用法用量での使用)を受けるにあたっては,安全性確認のため臨床試験を実施することが当局から要求され,6年もの相当の期間を要する臨床試験を必要とされた経緯に鑑みれば,先行処分の効果・効能に加えて用法・用量も勘案されるのが相当である。
(ii) 本件処分により「ベバシズマブ(遺伝子組換え)」について承認された「ベバシズマブとして1回7.5mg/kg(体重)での投与間隔3週間以上の点滴静脈内注射」の使用により,XELOX(カペシタビンとオキサリプラチンとの併用レジメン)との併用療法が可能となり,見かけ上の効能又は効果は同一ながら,その適用対象が拡大した。

しかしながら,本件特許発明は,請求人のいう用法・用量に対応する発明特定事項を有するものではないから,上記のとおり,本件特許発明のうち,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項に該当する事項」によって特定される範囲は先行処分によって実施できるようになっていたというほかない。(i)で主張するように,本件処分を受けるために6年間の臨床試験が必要だったとしても,また,(ii)で主張するように,本件処分を受けたことで特定レジメンとの併用療法が可能になったとしても,それらのことが,本件特許発明が先行処分によって実施できるようになっていたか否かの判断に影響を与えるものではない。」

また、「抗VEGF抗体」に関する特許権(第3957765号)の存続期間延長登録出願(2009-700158、2009-700159)の審決で、特許庁は下記のようにも言及しました。

「本件物質特許等発明ならびに本件用途特許発明は,請求人のいう用法・用量に対応する発明特定事項を有するものではなく,また,医薬品の承認書に記載された用途に該当する事項とは,延長された権利の実効性や第三者による結果の予測性を担保すべきことを考慮すると,承認書に記載された効能・効果であると解するのが相当であるから,上記のとおり,それら本件物質特許等発明ならびに本件用途特許発明のうち,本件処分の対象となった医薬品の「発明特定事項(及び用途)に該当する事項」によって特定される範囲が先行処分によって実施できるようになっていたというほかない。」

【コメント】

2011年12月28日に特許権の存続期間の延長の審査基準が改定されてから初めてその運用が知財高裁で問われる事件と思われます。審査基準改定の契機となった最高裁平成21(行ヒ)326判決以前から当ブログで特許権の存続期間延長制度の問題点についてコメントしてきましたが、先行医薬品が延長登録出願に係る特許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属するとき、どのように登録要件を判断するのか、具体的には、その技術的範囲の先行処分部分については先行処分により禁止が解除されていたとしても、後行処分により本件医薬品の禁止が解除されたことは間違いないので、本件に係る禁止解除部分についてだけは別途延長登録を認めるのか、合議体の判断が待たれます。また、存続期間延長登録要件には、何ら用途(効能効果)だけ特別視できるような規定はありません。用途(効能効果)を特別視してきた運用からそろそろ脱しなければ用途(効能効果)以外の点で改良された製剤発明等について延長登録できることを示した最高裁の判断との整合性は成り立ち得ないのではないでしょうか。

大合議には、日本の延長制度がわかりやすく合理的且つ合目的的に運用されている制度として誇れるような結論を導き出してくれることを願います。

参考:

今回の問題に関連してコメントしてきた主な過去の記事は下記のとおり。

アバスチン(Avastin)®:

アバスチン(一般名 ベバシズマブ(bevacizumab)(遺伝子組換え))は、マウス抗VEGF(vascular endothelial growth factor;血管内皮増殖因子)モノクローナル抗体muMAb A4.6.1をもとにヒト化した、抗VEGFヒト化モノクローナル抗体を有効成分とする抗悪性腫瘍剤。日本では、2007年4月に「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」に対する治療薬(1回5mg/kg又は10mg/kg(体重)・投与間隔2週間以上の用法・用量)として承認された。その後、2009年9月には1回7.5mg/kg(体重)・投与間隔3週間以上の用法・用量が追加承認、2009年11月に「扁平上皮癌を除く切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の効能(15mg/kg(体重)・投与間隔3週間以上)追加が承認、2011年9月に「手術不能又は再発乳癌」の効能(10mg/kg(体重)・投与間隔2週間以上)追加が承認、2013年6月に「悪性神経膠腫」において、初発及び再発の効能追加が承認、2013年11月に「卵巣癌」の効能追加が承認された。

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