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2015.12.24 「日産化学・興和 v. ダイト・持田・東和・鶴原・科研・小林化工・Meiji Seikaファルマ」 知財高裁平成27年(ネ)10031

ピタバスタチン結晶の粉末X線回折ピークの回折角は一致するか: 知財高裁平成27年(ネ)10031

【背景】

ピタバスタチンカルシウム塩の結晶に関する特許権(特許第5186108号)及びその保存方法に関する特許権(特許第5267643号(前者の分割))を有する控訴人(日産化学)が、被控訴人らによる原薬及び製剤の製造・販売等が上記各特許権の侵害に当たる旨主張して、特許法100条1項に基づきその差止めを求めた事案。

原判決(2015.01.27 「日産化学・興和 v. ダイト・持田・東和・鶴原・科研・小林化工・Meiji Seikaファルマ」 東京地裁平成25年(ワ)33993)は被控訴人製品は上記特許権に係る特許発明の技術的範囲に属さないとして控訴人の請求をいずれも棄却した。

本件結晶発明1:

式(1)

で表される化合物であり,7~13%の水分を含み,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とするピタバスタチンカルシウム塩の結晶(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。

(下線部が本件で争点となった構成要件C・C’)

【要旨】

主 文

本件控訴をいずれも棄却する。(他略)

裁判所の判断(抜粋)

1 争点(1)(充足論)について

特許請求の範囲の記載に加え,本件各明細書の記載を参酌したとしても,本件各発明の構成要件C・C’を充足するためには,15本のピーク全ての回折角の数値がその数値どおり一致することを要し,その全部又は一部が一致しないピタバスタチンカルシウム塩の結晶又はその保存方法は,本件各発明の技術的範囲に属するということができないものと解するのが相当である。~以上のとおり,被控訴人製品及びその保存方法は,本件各発明の構成要件C・C’の回折角を充足しないから,その余の構成要件の充足性について検討するまでもなく,被控訴人製品及びその保存方法は,本件各発明の技術的範囲に属するとはいえない。

2 争点(2)(均等侵害の成否)について

本件各発明において,構成要件C・C’に規定された15本のピークの回折角の数値は,本件各明細書において,本件各発明の課題の特徴的な解決手段である特定の結晶形態を,他の結晶形態,すなわち本件各発明の課題の解決手段とはなり得ない結晶形態と画する唯一の構成として開示されたものであるということができる。したがって,本件各発明において,構成要件C・C’に規定された15本のピークの回折角の数値は,本件各発明の課題の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分であるというべきである。そうすると,控訴人が被控訴人製品に含まれるピタバスタチンカルシウム塩における15本のピークの回折角であるとする数値は,前記1(5)のとおり,原判決別紙物件目録記載1のとおりであり,控訴人の特定する数値に依ったとしても,15本のうち9本は構成要件C・C’の回折角の数値と相違するのであるから,被控訴人製品は,本件各発明と課題の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核をなす特徴的部分において相違していることになる。以上によれば,被控訴人製品は,均等侵害の第1要件を充足しない。

本件各特許の出願経過においてされた上記各補正は,本件各発明の技術的範囲を,回折角の数値が15本全て一致する結晶に限定するものであると解されるから,構成要件C・C’の15本のピークの回折角の数値と,全部又は一部がその数値どおり一致しないピタバスタチンカルシウム塩の結晶は,本件各発明の特許請求の範囲から意識的に除外されたものであるといわざるを得ない。したがって,被控訴人製品は,均等侵害の第5要件を充足しない。

以上のとおり,被控訴人製品は,本件発明1と均等なものということはできず,同様に,被控訴人製品の保存方法が,本件発明2と均等なものということもできない。

3 結論

以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は正当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

【コメント】

原審(2015.01.27 「日産化学・興和 v. ダイト・持田・東和・鶴原・科研・小林化工・Meiji Seikaファルマ」 東京地裁平成25年(ワ)33993)の記事参照。

原審では全く検討されなかった均等侵害の成否について、今回の控訴審では主張検討されたうえで結論に至った。本事案は判決のとおり、被控訴人製品は均等侵害の第1要件及び第5要件を充足しないという点は明らかであると思われるが、医薬品関連発明で均等侵害の成否が検討された貴重なケースであることから今後の均等侵害の参考事例となるだろう。

均等侵害に関連して、現在知財高裁大合議にて審理されているマキサカルシトール製法特許事件の均等侵害成否についての判決がどのようなものになるのかが気になるところである(マキサカルシトール製法特許の均等侵害事件を知財高裁が大合議事件に指定)。

Pitavastatinに関する過去記事: Pitavastatin

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