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2018.01.30 「イデラ ファーマシューティカルズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10218

特許法50条を準用する同法159条2項の意義: 知財高裁平成28年(行ケ)10218

「トール様受容体に基づく免疫反応を調整する免疫調節ヌクレオチド(IRO)化合物」に関する特許出願(特願2008-535681; 特表2009-515823; WO2007/047396)の拒絶審決(不服2014-14059)取消訴訟。

争点は、手続違背(取消事由1)、本願発明の認定の誤り(取消事由2)、実施可能要件及びサポート要件に係る各判断の誤り(取消事由3)の有無。

裁判所は、取消事由2(本願発明の認定の誤り)及び3(実施可能要件及びサポート要件に係る各判断の誤り)は理由がないが、取消事由1(手続違背)は理由があるから、審決を取り消した。

以下、取消事由1(手続違背)についての裁判所の判断の抜粋。

「特許法50条本文は,拒絶査定をしようとする場合は,出願人に対し拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならないと規定し,同法17条の2第1項1号に基づき,出願人には指定された期間内に補正をする機会が与えられ,これらの規定は,同法159条2項により,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも準用される。

この準用の趣旨は,審査段階で示されなかった拒絶理由に基づいて直ちに請求不成立の審決を行うことは,審査段階と異なりその後の補正の機会も設けられていない(もとより審決取消訴訟においては補正をする余地はない。)以上,出願人である審判請求人にとって不意打ちとなり,過酷であるため,手続保障の観点から,出願人に意見書の提出の機会を与えて適正な審判の実現を図るとともに,補正の機会を与えることによって,出願された特許発明の保護を図ったものと理解される(知的財産高等裁判所平成22年(行ケ)第10298号同23年10月4日判決,知的財産高等裁判所平成25年(行ケ)第10131号同26年2月5日判決各参照)。

このような適正な審判の実現と特許発明の保護との調和は,複数の発明が同時に出願されている場合の拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定の理由が解消されている一方,複数の発明に対する上記拒絶査定の理由とは異なる拒絶理由について,一方の発明に対してはこれを通知したものの,他方の発明に対しては実質的にこれを通知しなかったため,審判請求人が補正により特許要件を欠く上記他方の発明を削除する可能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充足する上記一方の発明についてまで拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れる機会を失ったといえるときにも,当然妥当するものであって,このようなときには,当該審決に,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手続違背の違法があるというべきである。」

「本件拒絶査定不服審判において,本件拒絶理由通知では,TLR9に関する拒絶理由のみを通知し,実質的にはTLR7及び8に関する拒絶理由を通知しなかったため,原告はTLR7及び8に係る各発明を削除するなどの補正をする機会を失うことになり,実施可能要件及びサポート要件をいずれも充足するTLR9に係る発明まで最終的に特許を受けることができないことになったものと認められる。

このような結果は,原告にとって,不意打ちとなるため,原告に過酷というほかなく,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2項の趣旨に照らし,相当ではないというべきである。
かえって,被告は,本件訴訟に至っては,そもそもTLR7及び8が認識するものと,TLR9が認識するものが異なるという技術常識に基づけば,TLR9に対して本願IRO化合物がアンタゴニスト作用を奏するとする原告の作用機序の説明が,TLR7及び8には妥当し得ないことは明らかであるなどとして,現にTLR7及び8に固有の拒絶理由を具体的に主張しているのであるから,実質的にみても,上記のように,本件拒絶査定不服審判においてTLR7及び8に固有の拒絶理由を通知することが,審判合議体にとって困難なものであったとは認められない。

したがって,被告の主張は,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2項の意義を正解しないものに帰し,採用することができない。

なお付言するに,本願IRO化合物が治療効果を有するかどうかの点につき,本件拒絶理由では,TLR7ないし9によって媒介される疾患以外の疾患については治療効果を示すことが確認できないとしているところ,原告は,本件拒絶査定不服審判においては,TLR7ないし9によって媒介される疾患については治療効果を示すことが確認されたものと理解した上,本件拒絶理由を踏まえてTLR1ないし6を削除する補正をし,さらに,その後の意見書において,この点に係る拒絶理由が解消されたとまで述べているのであるから,審決においてTLR7ないし9によって媒介される疾患についても治療的に処置することができるといえる根拠がないと判断するのであれば,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2項の法意に照らすと,本件拒絶査定不服審判において,この点についても改めて拒絶理由を通知することが相当であったものと認められる。」

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