Nov 9, 2008

2007.06.28 「アプライド・リサーチ・システムズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10442

医薬用途発明の効果の定量性: 知財高裁平成18年(行ケ)10442

【背景】
原告は、「受精能を変化させる方法」との発明(特表平9-509418)について拒絶査定不服審判を請求したが、請求は成り立たない旨の審決をされたため、審決取消訴訟を提起した。

【要旨】
裁判所は、特36条4項について、

「この要件を医薬についての用途発明についてみると,一般に,物質名,化学構造だけからその有用性を予測することは困難であり,明細書に有効量,投与方法,製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても,それだけでは当業者は当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから,明細書に薬理データ又はそれと同視することができる程度の記載をしてその用途の有用性を裏付ける必要があると解される。したがって,このような薬理データ等の裏付けを欠く発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項に違反するものである。」

と一般原則を示し、
そして、本件原告主張の明細書記載箇所(1)~(3)について、裁判所は、それぞれ以下のように判断した。

(1) 「「約4倍」,「約2倍」などとおおまかな数値は示されているものの,その数値の性格からみて何らかの試験によって得られたデータであるとは解されず,薬理データであるということはできない。」

(2) 「得られた受精能刺激の程度が定量的に示されていない上,その投与対象は本願の請求項1が対象とする哺乳動物の一部である多卵胞性卵巣病の患者に限ったものである。」

(3) 「その効果に関しては,危険性がどの程度低いのか,排卵誘発がどの程度のものであるのかは定量的に示されていないばかりか,使用する特定の結合剤(非中和性抗体)が具体的にどのようなものであるかについても記載されていない。」

「以上のとおり,原告主張の~記載だけでは,LH活性を減少させる特定の結合剤を,具体的にどれだけの量で使用すれば,LH活性の減少量がどれだけになり,実際にどの程度の受精能刺激が得られるのかを示した具体的なデータであるということはできない。また,多卵胞性卵巣病を有する女性に適用した実施例をもってしても,哺乳動物における受精能刺激剤との限定以上に対象を限定するものではない本願発明1について,一定の受精能刺激効果が得られることが理解できるように記載されているということもできない。
したがって,本願明細書の発明の詳細な説明をもってしては,受精能の刺激される対象(動物)を特定しない本願発明1において,「受精能刺激」の効果が得られることの裏付けがあるとはいえず,特許法36条4項の要件を満たしているとはいえない。」

請求棄却。

【コメント】
医薬用途発明において、薬理データ等の裏付けを欠く明細書は、特36条4項違反とされる。この原則は、医薬発明に関する過去の判決においても確認されてきた点である。しかし、薬理データについて争った過去の判決(2002.10.01 「ファイザー v. 特許庁長官」 東京高裁平成13年(行ケ)345等)により、確かに薬理データは具体的である必要があるとされたが、本事件で裁判所は、薬理データの具体性について、一歩踏み込んで、「定量的」に示されているか否かで判断している。“どの程度の具体性をもった薬理データが求められるのか”について一定の指標が示された点で、本判決は参考になる事案であろう。

参考:


2 comments:

ぎっちょん said...

上位クレームと下位クレームがあり、明細書に薬理データが記載されている化合物がいずれも上位クレームに含まれるものの、下位クレームには含まれないものであった場合、薬理データの記載のない化合物のみを含む下位クレームは、36条4項違反とされるのでしょうか?

Fubuki said...

コメントありがとうございます。
化合物クレームの実施可能要件に薬理データ記載の有無が問題になるかどうかという視点では、
2005.08.30 「アステラス(藤沢) v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10312
にてコメントいただいた通りだと思います。
上位下位に関係なく、もちろんクレーム毎に特許性は判断(攻撃)されます。
また、下位クレームの瑕疵が上位クレームに影響した例としては(実施可能要件ではありませんが)、例えば、
2007.03.01 「ブリストルマイヤーズスクイブ v. 日本ケミカルリサーチ」 知財高裁平成17年(行ケ)10818
にて、下位クレームがサポート要件違反なので、その範囲を包含する上位クレームもサポート要件違反であるとされました。
ご質問の意図にあってますでしょうか?