Dec 23, 2009

2009.12.03 「イミュネックス v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10092

エンブレル(エタネルセプト)の特許権存続期間延長: 知財高裁平成21年(行ケ)10092

【背景】

関節リウマチを用途とするエンブレル(Enbrel、一般名: エタネルセプト(Etanercept)、完全ヒト型可溶性TNFα/LTαレセプター製剤: ヒトIgG1のFc領域と分子量75kDaのヒト腫瘍壊死因子II型受容体(TNFR-II)の細胞外ドメインのサブユニット二量体からなる糖蛋白質)の医薬品承認処分に伴ってなされた「腫瘍壊死因子-αおよび-βレセプター」に関する特許権(特許第2960039号)の存続期間延長登録出願(2005-700041号)の拒絶審決取消訴訟。

請求項1:
以下の(a),(b)または(c)から選択される哺乳類組換えTNF-Rタンパク質であって,哺乳動物由来の他のタンパク質を実質的に含まない前記哺乳類組換えTNF-Rタンパク質:
(a)以下のアミノ酸配列:
【化1】(省略)
を有するタンパク質;
(b)以下のアミノ酸配列:
【化2】(省略)
を有するタンパク質;および
(c)(a)または(b)のアミノ酸配列から1つまたはそれ以上のアミノ酸残基が削除,追加もしくは置換によって変化したアミノ酸配列を有し,かつ,TNF結合活性を有するタンパク質。


特許庁は、「エタネルセプト」のヒトIgG1のFc領域に対応するポリペプチドが請求項1に明示的に記載されていない点(相違点2)を挙げ、「TNF-Rタンパク質」という用語の意義を明細書の記載から検討した結果、本件発明(請求項1)を限定的に解釈し、「エタネルセプト」が本件発明に含まれないと判断、本件発明の実施に本件処分が必要であったとは認められない(特許法67条の3第1項1号)、と審決を下した。

【要旨】

裁判所は、

「本件特許請求の範囲「請求項1」~では,「TNF-Rタンパク質」について,審決が上記で判断しているような~限定する文言はない。~また~審決が引用する~記載は,その記載内容からすると,例示であることは明らかである。」

「さらに,本件特許明細書~には,「TNF-Rの1価形態および多価形態は両方とも本発明の組成物および方法において有用である。」,「別の多価形態は,例えば,TNF-Rを臨床的に許容しうる担体分子…の通常のカップリング技術を使って化学的にカップリングすることにより構築できる。」~「免疫グロブリン分子重鎖および軽鎖のいずれか一方または両方の可変部ドメインの代わりにTNF-R配列を有しかつ未修飾不変部ドメインを有する組換えキメラ抗体分子を作ることができる。」~と記載されているから,本件発明には,臨床的に許容しうる担体分子を含むTNF-Rタンパク質の二量体も含まれ,その担体分子として免疫グロブリン分子の未修飾不変部ドメインも含まれる。

~甲9によれば~ヒトIgG のFc領域は,免疫グロブリン分子1の未修飾不変部ドメインに含まれるものであって,二量体を形成する役割を担い,臨床的に許容しうる担体分子であることが広く知られていたと認められることからすると,当業者は,「エタネルセプト」について,前述した相違点2において本件発明と相違するものと理解するとは解されない。

~そうすると,審決の上記判断は是認することができず,「エタネルセプト」は,相違点2において本件発明と相違するものということはできない。」

と判断した。

審決を取り消す。

【コメント】

本件では、承認処分対象物が請求の範囲に含まれるかどうかの認定が問題となった。特67条の3第1項1号の条件として、承認処分の対象物が、明細書中に明示的に記載されているかどうかは問題ではなく、特許発明(請求の範囲)に含まれているかどうかが重要である。

本件は分割出願であって、その親出願である特許2721745号(こちらはTNF-Rタンパク質の生産方法)の特許権存続期間延長登録出願についても、本件と同様の問題で拒絶審決となったが、本件と同様の趣旨で審決取り消し判決となった(2009.12.03 「イミュネックス v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10093)。エンブレルの承認に伴って上記2特許以外に特2728968号(20年満了日は2010年9月12日)が特許権存続期間延長登録出願された(2005-700033)ようだが、現在拒絶査定不服審判(不服2009-016295)に係属中のようである。

本件特許権の満了日(2010年9月5日)は存続期間延長により2015年9月5日までとなる。エンブレルの承認日が2005年1月19日だっただけに、regulatory exclusivity(再審査期間)よりも短命だった本特許権が存続期間を延長できたことによりエンブレル後発品参入に対して一定の価値を持つことになる。一方、後発品メーカーにとっては、バイオシミラー(generic biologics)が認められるかどうかといった問題もあるわけだが。


参考:



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