Oct 14, 2017

塩野義 欧州特許は無効、メルク社のラルテグラビルに対する差止訴訟敗訴へ

2017年10月13日付け塩野義製薬のプレスリリース(メルク社とのHIVインテグラーゼ阻害薬に関する欧州特許庁審判部での係争について)によると、塩野義が保有するHIVインテグラーゼ阻害薬に関する欧州特許(EP1422218)につき、2017年10月11日、欧州特許庁審判部が、メルク社の主張を認め、当該欧州特許が無効である旨の審決(T1150/15)を出したとのことです。

当該欧州特許についてはメルク社が異議を申立てていましたが、2015年に欧州特許庁異議部が特許有効である旨の審決を出したため、メルク社がその審決を不服として不服申立を行っていました。

現在、塩野義は、当該欧州特許を利用してアイセントレス(Isentress)®(有効成分はラルテグラビルカリウム(raltegravir potassium))を販売するメルク社に対して、ドイツ、英国、オランダ、フランスで差止・損害賠償を求め提訴していますが、これらの国の訴訟でも、当該審決を受けて敗訴判決が出される見込みとのことです。

販売されている抗HIV薬アイセントレスの差止を求め、塩野義がメルク社を各国で提訴しましたが、結局、塩野義特許は無効である(MSDのアイセントレス®(ラルテグラビル) 英国特許訴訟で塩野義が敗訴)か、販売差止を認めない判決(アイセントレスを販売するMSDに塩野義特許の強制実施権が認められる(ドイツ))が出されており、欧州特許も無効審決という塩野義にとっては望ましくない結果となりました。

日本特許(第5207392号)については、メルク社が請求項1ないし3について特許無効審判を請求し特許庁は塩野義による訂正を認めた上で請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする審決を下しました(無効2015-800226)。現在は知財高裁に審決取消訴訟が提起されています(平成29年(行ケ)10172)。

参考:
関連記事:

Oct 12, 2017

興和による東和リバロ後発品の製造販売差止請求で東京地裁が容認判決

2017年10月11日の興和のプレスリリースによると、興和は東和薬品に対し、興和が保有する高コレステロール血症治療剤「リバロ錠」(一般名:ピタバスタチンカルシウム)」の医薬特許(特許第5190159号)の侵害を理由として、同社が製造販売する「リバロ」の後発医薬品である『ピタバスタチンCa・OD 錠 4mg「トーワ」』の製造販売の差し止めを求める訴訟を東京地裁に提起していましたが、2017年9月29日付で、興和の請求を全面的に認める判決が言い渡されたとのことです。

参考:
ピタバスタチンCa・OD 錠 4mg「トーワ」の組成:
1錠中の有効成分
日局 ピタバスタチンカルシウム水和物
(ピタバスタチンカルシウムとして4mg)

添加物
D-マンニトール、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、メタケイ酸アルミン酸Mg、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、タルク、黄色三二酸化鉄、酸化チタン、アスパルテーム(L-フェニルアラニン化合物)、香料、ステアリン酸Mg、その他3成分
特許第5190159号:
請求項1
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;
を含有し、かつ、水分含量が2.9質量%以下である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。

請求項6
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;
を含有し、かつ、水分含量が2.9質量%以下である固形製剤。
J-PlatPatの経過情報を見る限り、特許無効審判は請求されていない。

Oct 8, 2017

2017.08.08 「FONTEC R&D v. サラヤ」 知財高裁平成28年(行ケ)10269

数値限定発明のサポート要件: 知財高裁平成28年(行ケ)10269

被告(サラヤ)が保有する「高純度羅漢果配糖体を含有する甘味料組成物」に関する特許第3502587号の特許無効審判請求に対する一部無効・一部不成立審決のうち一部不成立部分の取消訴訟。争点は、サポート要件判断の誤りの有無。請求棄却。

本件発明:
甘味料組成物を調製するための羅漢果エキスであって,モグロサイドⅤ,モグロサイドⅠⅤ,11-オキソ-モグロサイドⅤおよびシアメノサイドⅠの合計含有量が,35重量%以上である,羅漢果エキス。
原告は、
「本件明細書に接した当業者は,本件4成分のうち1成分のみを含有する実施例2及び実験例1は,本件発明の実施例ではなく,成分の単離に関する記述と認識するにすぎず,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の構成を満たすサンプルとして,4成分合計含有量が35.10重量%,53.00重量%,60.80重量%の例が記載されているにすぎないから,4成分合計含有量が「35重量%以上」という本件発明の全範囲(特に4成分合計含有量が60.80重量%を超えるもの)まで,これを拡張又は一般化することはできない。」
などと主張した。

裁判所は、平成17年(行ケ)10042号「偏光フィルムの製造法」大合議判決に言及して、
「本件明細書には,4成分合計含有量が35.10重量%~60.80重量%であるサンプルH~Jが,ショ糖の甘味質と類似した優れた甘味質を示す水溶液であることが開示されている上,4成分合計含有量が60.80重量%を超える範囲においては,本件4成分のいずれかを増加させることになるところ,前記(3)のとおり,本件4成分は,いずれも,本件味覚9要素のいずれにおいてもショ糖との乖離の程度は小さく,ショ糖と類似した優れた甘味質を有することが開示されているから,本件明細書に接した当業者は,4成分合計含有量が35重量%以上の羅漢果エキスは,ショ糖よりも少量で,ショ糖と同等の甘味強度を得ることができ,ショ糖と類似した優れた甘味質を示すものと理解することができる。
したがって,本件特許の請求項2に記載された本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり,サポート要件に適合するものと認められる。」
と判断した。

参考:

http://www.lakanto.jp/products/lakanto/


Oct 4, 2017

オキサリプラチン(乖離シュウ酸事件)特許侵害差止訴訟 最高裁上告不受理

日本化薬は、2015年5月8日、日本化薬が製造販売している抗悪性腫瘍剤「オキサリプラチン点滴静注液50mg『NK』」、「オキサリプラチン点滴静注液100mg『NK』」、「オキサリプラチン点滴静注液200mg『NK』」について、デビオファーム社から特許権侵害に基づく製造販売の差止訴訟を提起され、2016年3月3日の東京地裁判決(2016.03.03 「デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成27年(ワ)12416)では、日本化薬の主張が認められませんでしたが、2016年12月8日、知財高裁は、東京地裁の判決を取り消し、デビオファーム社の請求をいずれも棄却するとの判決を言い渡しました(2016.12.08 「日本化薬 v. デビオファーム」 知財高裁平成28年(ネ)10031)。

2017年10月4日の日本化薬のpress releaseによると、この判決に対してデビオファーム社は、最高裁に上告していましたが、2017年10月3日、最高裁第三小法廷は、裁判官全員一致の意見で、デビオファーム社の上告を棄却するとともに、上告不受理決定をしたとのことです。

参考:

Oct 1, 2017

2017.07.27 「 中外製薬 v. 岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ」 東京地裁平成27年(ワ)22491

特許権侵害に当たる後発医薬品薬価収載に伴う先発医薬品の薬価引下げによる損害賠償東京地裁平成27年(ワ)22491

【背景】

「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」とする特許権(特許第3310301号)を第三者(コロンビア大学)と共有する原告(中外製薬)が、マキサカルシトール製剤を販売等する被告ら(岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ)に対し、これらの行為が上記特許権の均等侵害に当たるものであるところ、
  • 被告ら製品の販売により原告製品(オキサロール軟膏)の市場におけるシェアが下落し、損害を被ったとして、民法709条ないし特許法102条1項に基づき、被告らに対し、それぞれ損害賠償金及び遅延損害金の支払、
  • 被告ら製品の薬価収載により原告製品(オキサロール軟膏及びオキサロールローション)の薬価が下落し、その取引価格も下落したことにより、損害を被ったとして、民法709条に基づき、被告らに対し、連帯して損害賠償金及び遅延損害金の支払
を、それぞれ求めた事案である。

【要旨】

先発医薬品メーカーの特許を侵害していた後発医薬品メーカーが後発医薬品を薬価収載したことと先発医薬品薬価引下げによる損害との間に因果関係が認められ、結果、原告先発医薬品メーカーによるその損害賠償請求(下記争点(4))が認められた判決である。

主 文(他略)
1 被告岩城製薬は,原告に対し,2億0363万2798円・・・を支払え。
2 被告高田製薬は,原告に対し,1億1815万9458円・・・を支払え。
3 被告ポーラファルマは,原告に対し,1億6822万3686円・・・を支払え。
4 被告らは,原告に対し,連帯して5億7916万9686円・・・を支払え。
裁判所の判断(抜粋)

1 争点(1)(本件製造方法について,本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの「特段の事情」の有無)について
「乙A10にはトランス体のビタミンD構造を出発物質とすることを内容とする本件発明と同一の構成の発明が記載されているとは認められず,被告らの上記主張は前提を欠くものであるから,原告が,本件特許出願の際に,本件製造方法(トランス体のビタミンD構造を出発物質とするマキサカルシトールの製造方法)を特許請求の範囲から意識的に除外したものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえない。・・・本件製法方法は本件発明の構成と均等であるものと認められる。」
2 争点(2)(原告が本件特許権の共有者の1人であることに関し,原告が被告らに対して損害賠償請求できる範囲)について
「原告は,自らが有する本件特許権の持分2分の1に基づき,特許権侵害に係る逸失利益の損害賠償請求権を有しているほか,・・・コロンビア大学の共有持分2分の1について独占的通常実施権を有するから,被告らによる本件特許権侵害は,原告に対する上記独占的通常実施権の積極的債権侵害に当たるといえ,原告は被告らに対し,同侵害行為による逸失利益の損害賠償を請求することができる。・・・なお,原告・コロンビア大学間の本件ライセンス契約においては,・・・既に原告が被告らに対して訴訟を提起した本件において,コロンビア大学が,別途,被告らに対して損害賠償請求し,被告らがコロンビア大学に二重払いしなければならないリスクがあるとは解されない。・・・以上によれば,原告は,被告らに対し,本件特許権の侵害によって被った損害(独占的通常実施権者として受けた損害も含む。)の全額について賠償を請求し得る。」
3 争点(3)(外用ビタミンD3製剤の市場でのオキサロール軟膏のシェア喪失による原告の損害額)について
「被告らは,オキサロール軟膏には複数の競合品(ボンアルファ,ボンアルファハイ,ドボネックス)があるところ,被告製品は,その性能が上記各競合品と同等であることに加え,安価であるため,原告製品だけでなく,上記各競合品のシェアをも奪ったものであるとし,上記各競合品は,乾癬の治療薬としての外用ビタミンD3製剤の市場において42%のシェアを有しているから,42%分について推定を覆滅すべきである,と主張する。
確かに,・・・ボンアルファ,ボンアルファハイ及びドボネックスは,いずれもオキサロール軟膏の競合品であって,被告製品は,オキサロール軟膏だけでなく,上記各競合品のシェアをも一定程度奪っていたものと認められる。・・・他方で,・・・オキサロール軟膏や被告製品,上記各競合品は,いずれも医師の処方箋を必要とする薬品であり,・・・オキサロール軟膏から被告製品に変更する場合と比較すると,上記各競合品から被告製品に変更するのは容易ではないというべきであって,上記各競合品(ボンアルファ,ボンアルファハイ,ドボネックス)が,乾癬の治療薬としての外用ビタミンD3製剤の市場で42%程度のシェアを有していたとしても,被告製品が同シェアをそのまま代替したものとは到底認められない。以上の諸事情を総合的に考慮すると,被告製品は,上記各競合品のシェアを一定程度奪ったものとして,特許法102条1項本文による推定が覆滅される割合を10%と認定するのが相当である。以上を前提とすると,前記(2)で計算した金額につき,10%分を控除した後の金額が,シェア喪失による原告の損害額となる。なお,民法709条のみに基づく請求についても,特許法102条1項に基づき計算した額を超える損害額は認められない。」
4 争点(4)(原告製品の取引価格下落による原告の損害額)について
「原告は,新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度によって,被告製品が薬価収載されるまでは,現に原告製品について薬価の維持という利益を得ていたところ,後発品である被告製品が薬価収載されたことにより,平成26年4月1日に原告製品の薬価が下落したものである。この薬価の下落は被告製品の薬価収載の結果であり,本件特許権の侵害品に当たる被告製品が薬価収載されなければ,原告製品の薬価は下落しなかったものと認められるから,被告らは,被告製品の薬価収載によって原告製品の薬価下落を招いたことによる損害について賠償責任を負うべきである。被告らは,そもそも薬価の維持は保護に値する利益ではなく,厚生労働省の薬価政策による結果にすぎないとも主張するが,新薬創出・適応外薬解消等促進加算という制度が実際に存在し,しかも,同制度に基づく加算は厚生労働省が裁量で行うものではなく,所定の要件を充たす新薬であれば一律に同制度による加算を受けられる以上,これは法律上保護される利益というべきであって,被告らの上記主張は採用できない。・・・現に,後記ウのとおり,原告・マルホ間での原告製品の取引価格の下落率は,薬価の下落率とほぼ同一である。以上によれば,原告・マルホ間の取引価格の下落分は,その全てが被告製品の薬価収載と相当因果関係のある損害と認められる。」
5 争点(5)(被告らの過失の有無)について
「被告らは,特許法103条は均等侵害を前提としておらず,均等侵害の場合に侵害者の過失を推定することは,立法趣旨にも反するから,均等侵害の場合に同条は適用されない旨主張する。しかしながら,均等侵害も特許権侵害に当たることに変わりはないところ,特許法103条は「他人の特許権…を侵害した者は,その侵害の行為について過失があったものと推定する。」と規定し,文言侵害と均等侵害とを何ら区別していないし,同条について均等侵害が成立する場合にその適用が排除されることを裏付けるような立法趣旨を認めるに足りる証拠もないから,本件のような均等侵害の事案においても,特許法103条が適用され,被告らの過失が推定されるものと解すべきである。」
6 争点(6)(過失相殺の成否)について
「本件全証拠によっても,被告らについて過失の推定を覆滅させるような事情が存在するとは認めるに足りず,被告らの主張は採用できない。」
7 争点(7)(特許法102条4項後段の適用の有無)について
「被告らは,本件において被告らには故意・重過失がない上,原告が特許出願時に容易にクレームに記載し得る技術をクレームに記載しなかった以上,特許法102条4項後段を適用して損害額を減額すべき旨主張する。しかし,前記5のとおり,被告らは,いずれも医薬品の製造販売等を業としているのであるから,その販売する医薬品の特許権侵害については高度の注意義務を負うというべきところ,被告製品の販売前に,本件特許の内容や本件製造方法が本件特許権を侵害する可能性について慎重に検討したならば,本件製造方法が本件発明の構成と均等であると判断される可能性について十分認識可能であったこと,前記6のとおり,原告に特許請求の範囲の記載について過失があったとまでは認められないこと等を考慮すれば,本件において,特許法102条4項後段を適用して原告の損害額を減額すべきほどの事情は見当たらず,被告らの上記主張は採用できない。」
【コメント】

注目すべき点は、後発品3社による侵害品の販売によって、中外製薬のオキサロール軟膏の販売が失われたことによる損害についての後発品3社の賠償責任を認めただけでなく、オキサロール軟膏及びオキサロールローションの薬価加算分の引き下げについて後発品3社の賠償責任も認められた点。2017年7月27日付の中外製薬のニュースリリース(「オキサロール®軟膏製法特許侵害に対する損害賠償請求訴訟の判決に関するお知らせ」)によると、薬価算定において新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象だった中外製薬のオキサロール軟膏及びオキサロールローションは、オキサロール軟膏の後発品の参入により、本来の時期より早く加算分の引き下げが行われた。本件は、薬価加算分の引き下げに起因して先発医薬品企業に生じた損害について判断された初めての事例とのこと。

後発医薬品メーカーは、特許侵害判断される可能性が残されている段階で、たとえそれが物質特許や用途特許ではなく製法特許のような特許であったとしても、薬価収載して販売に踏み切ることには、今回のような薬価引下げ分の損害賠償という金銭的なリスクも伴い得る、ということが判決上でも明らかとなったといえる。

過去に、セフゾン(Cefzon、一般名:セフジニル(Cefdinir)、経口用セフェム系製剤)の特許侵害訴訟に勝訴したアステラス製薬が、大洋薬品に対して、セフゾン特許存続期間中に大洋薬品がした後発品薬価申請行為が不法行為であるとしてセフゾンの2006年4月の薬価改定時の特例引下げ(通常改定に加えて8%の追加引下げ)分を逸失利益とする損害賠償を請求した訴訟はあった(2008.03.05 「アステラス v. 大洋薬品 セフゾン訴訟和解へ」; アステラス プレスリリース: 2007.08.09 経口用セフェム系製剤「セフゾン®」の損害賠償請求提訴のお知らせ)。しかし、この事件は、大洋薬品がアステラス製薬へ和解金を支払うことなどを内容とする和解契約を締結したことで一連の係争は終結しており(アステラス プレスリリース: 2008.03.05 大洋薬品工業との経口用セフェム系製剤「セフゾン®」に関する訴訟等の和解のお知らせ)、特許権侵害に当たる後発医薬品薬価収載に伴う先発医薬品の薬価引下げによる損害賠償請求を認めるという判決に至ったケースはこれまでなかった。

参考:

Sep 28, 2017

田辺三菱 タリオン®後発品薬価収載希望書提出したジェネリックメーカーに対し特許侵害差止仮処分命令申立て

田辺三菱製薬は、アレルギー性疾患治療剤「タリオン®(有効成分: ベポタスチンベシル酸塩)」について、同製品の後発品薬価収載希望書を提出した東和薬品、シオノケミカルおよび大興製薬に対して、田辺三菱が保有する物質特許等の侵害行為の差止めを求める仮処分命令の申立てを2017年9月15日付で東京地裁および大阪地裁に行ったとのことです。

田辺三菱および宇部興産は、ベポタスチンベシル酸塩を有効成分とする医薬品に関し、下記日本特許を有しています。下記物質特許(第4704362号)と医薬用途特許(第4562229号)についてだけ見れば、いずれも2017年12月19日に存続期間満了を迎えることから、特許期間満了後のそれら後発品の製造販売行為自体は特許権の効力が及ばないことになります。特許期間満了後の製造販売を目的として特許期間中に後発品薬価収載(12月)に向けて活動する行為が、侵害又は侵害のおそれに該当するとして、裁判所が差止仮処分命令申立てを認めるかどうかが気になるところです。
参考:


Sep 24, 2017

2017.07.27 「デビオファーム v. 武田テバファーマ」 知財高裁平成29年(ネ)10016

出願経過を参酌して「オキサリプラティヌムの水溶液」の技術的範囲を判断: 知財高裁平成29年(ネ)10016

「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許第3547755号(本件特許)を有する控訴人(デビオファーム)が、被控訴人(武田テバファーマ)の製造、販売する各製品(被控訴人各製品)は本件発明の技術的範囲に属し、かつ、存続期間の延長登録を受けた本件特許権の効力は被控訴人各製品の生産等に及ぶ旨主張して、被控訴人各製品の生産等の差止め及び廃棄を求めるとともに、損害賠償請求を追加した事案。原判決は、存続期間が延長された本件特許権の効力が被控訴人各製品には及ばないとして控訴人の請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴した。

原審:
知財高裁(第2部)は、
「延長登録された特許権の効力を及ぼすに当たっては,相手方の製品が特許発明の技術的範囲に属することが前提となるところ,本件特許に係る構成要件A③の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」との文言は,オキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であって,他の添加剤等の成分を含まないことを意味するものと解されるから,オキサリプラチンと注射用水のほか,有効成分以外の成分として乳糖水和物を含有する被控訴人各製品は,同構成要件を充足せず,したがって,被控訴人各製品に対し延長登録された本件特許権の効力は及ばない」
と判断した。控訴棄却。以下、判決抜粋。
「本件明細書の前記記載や上記出願経過を総合的にみると,本件発明の課題は,公知の有効成分である「オキサリプラティヌム」について,承認された基準に従って許容可能な期間医薬的に安定であり,凍結乾燥物から得られたものと同等の化学的純度及び治療活性を示す,そのまま使用できるオキサリプラティヌム注射液を得ることであり,その解決手段として,オキサリプラティヌムを1~5mg/mlの範囲の濃度と4.5~6の範囲のpHで水に溶解したことを示すものであるが,更に加えて,「該水溶液が,酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まない」ことをも同等の解決手段として示したものである。以上によると,本件発明の特許請求の範囲の記載の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」(構成要件A③)との文言は,本件発明がオキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であって,他の添加剤等の成分を含まないことを意味すると解するのが相当である。そうすると,被控訴人各製品は,オキサリプラチンと注射用水のほか,有効成分以外の成分として,乳糖水和剤を含有するものであるから,被控訴人各製品は,構成要件A③を充足しないものというべきである。
・・・したがって,被控訴人製品は,その余の構成要件について検討するまでもなく,本件発明の技術的範囲に属しないので,延長登録された本件特許権の効力は,被控訴人各製品に及ばない。」
上記のとおり、知財高裁第2部は、延長された特許権の効力について判断した知財高裁大合議判決(2017.01.20 「デビオファーム v. 東和薬品」 知財高裁平成28年(ネ)10046)とは異なり、知財高裁第3部の判決(2017.07.12 「デビオファーム v. ホスピーラ・ファイザー」 知財高裁平成29年(ネ)10009・平成29年(ネ)10023)と同様に、延長された特許権の効力について判断した地裁判決について触れることなく、そもそも被控訴人各製品は本件特許発明の技術的範囲に属しないと判断して本事件を決着させた。

Sep 19, 2017

2017.07.20 「デビオファーム v. 沢井製薬」 知財高裁平成29年(ネ)10015

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない知財高裁平成29年(ネ)10015

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:沢井製薬)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人ら各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、「本件発明等における『緩衝剤』には,外部から添加したシュウ酸のみならず,オキサリプラチン水溶液において分解して生じるシュウ酸も含まれる」という原告の主張を前提とすると、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとして、控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。
知財高裁(第2部)は、
「本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被控訴人各製品は,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を含有するものではなく,したがって,本件発明の技術的範囲に属せず,本件訂正発明の技術的範囲にも属しない」
と判断し、原判決は結論において相当であるから、本件控訴を棄却した。

原審: 2016.12.20 「デビオファーム v. 沢井製薬」 東京地裁平成27年(ワ)28698

Sep 17, 2017

2017.07.20 「デビオファーム v. 武田テバファーマ」 知財高裁平成29年(ネ)10014

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない知財高裁平成29年(ネ)10014

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:武田テバファーマ)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人ら各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとして、控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。
知財高裁(第2部)は、
「本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被控訴人各製品は,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を含有するものではなく,したがって,本件発明の技術的範囲に属せず,本件訂正発明の技術的範囲にも属しない」
と判断し、原判決は結論において相当であるから、本件控訴を棄却した。

原審: 2016.12.20 「デビオファーム v. 武田テバファーマ」 東京地裁平成27年(ワ)28467

Sep 9, 2017

中外がハーセプチン®バイオシミラー承認申請した日本化薬に対し用途特許侵害で製造販売差止訴訟提起

2017年9月8日付の中外製薬(株)プレスリリースによると、抗HER2ヒト化モノクローナル抗体「ハーセプチン®注射用60」および「ハーセプチン®注射用150」のバイオ後続品(バイオシミラー)の製造販売承認申請者である日本化薬(株)に対し、ロシュ・グループのジェネンテック社が保有する用途特許の侵害を理由として、専用実施権者である中外製薬は、ジェネンテック社とともに、8月17日付で東京地裁にバイオ後続品の製造販売等の差し止めを求める訴訟を提起し、併せて仮処分命令の申立てを行ったとのことです。

日本新薬は、韓国セルトリオン社と共同開発を進めてきたトラスツズマブ(開発コード CT-P6)のバイオ後続品の製造販売承認申請を2017年4月11日に行っており、承認はまだ得られていません(日本新薬
press release: 2017.04.11 「トラスツズマブ(遺伝子組換え)製剤のバイオ後続品(バイオシミラー)の製造販売承認申請について」)。

中外製薬は、日本新薬のバイオ後続品はまだ承認されていない(従って、薬価収載・製造販売には至っていない)現時点で、差し止め請求及び仮処分命令申立という訴訟提起に踏み切ったことになります。


ハーセプチン®(Herceptin®)について

ハーセプチン®(Herceptin®)注射用は、ジェネンテック社が創製したHER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor Type 2:ヒト上皮増殖因子受容体 2 型)の細胞外領域に結合し、HER2過剰発現ヒト腫瘍細胞の増殖を抑制する抗HER2ヒト化モノクローナル抗体「トラスツズマブ(Trastuzumab)(遺伝子組換え)」を有効成分とする抗悪性腫瘍剤。米国において1992年より臨床試験が開始され、1998年乳癌治療薬としては世界で最初のヒト化モノクローナル抗体治療薬として、FDAで認可されました。国内では2001年4月4日承認され、HER2過剰発現が確認された乳癌、HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌に効能・効果が認められています。用法及び用量は下記の通りです。
HER2過剰発現が確認された乳癌にはA法又はB法を使用する。HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌には他の抗悪性腫瘍剤との併用でB法を使用する。
A法: 通常、成人に対して1日1回、トラスツズマブ(遺伝子組換え)として初回投与時には4mg/kg(体重)を、2回目以降は2mg/kgを90分以上かけて1週間間隔で点滴静注する。
B法: 通常、成人に対して1日1回、トラスツズマブ(遺伝子組換え)として初回投与時には8mg/kg(体重)を、2回目以降は6mg/kgを90分以上かけて3週間間隔で点滴静注する。
なお、初回投与の忍容性が良好であれば、2回目以降の投与時間は30分間まで短縮できる。

ジェネンテックが保有する特許について

ジェネンテックが保有する「抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ」に関する特許権(第5818545号)が2015年10月9日に設定登録がなされました。存続期間満了日は2020年8月25日。2016年6月にセルトリオンが特許無効審判請求をし、2017年3月にはファイザーが参加人として加わりましたが、特許庁は請求は成り立たないとの審決(無効2016-800071)を2017年7月に下しています。また、同特許に対して、別途ファイザーが2017年5月に無効審判を請求しています(無効2017-800062 )。今回の中外製薬のプレスリリースにある「ジェネンテック社が保有する用途特許」とはおそらく、少なくとも、この特許のことではないかと推測され、特許の有効性や侵害訴訟の行方など、今後の動向が注目されます。

特許第5818545号の請求項1:
(i)抗ErbB2抗体huMab4D5-8を含有し、8mg/kgの初期投与量と6mg/kg量の複数回のその後の投与量で前記抗体を各投与を互いに3週間の間隔をおいて静脈投与することにより、HER2の過剰発現によって特徴付けられる乳癌を治療するための医薬組成物が入っている容器、及び(ii)前記容器に付随するパッケージ挿入物を具備するパッケージ。

参考:

Sep 3, 2017

2017.07.19 「三栄源エフ・エフ・アイ v. ジェイケー スクラロース」 知財高裁平成28年(行ケ)10157

数値限定に関する訂正要件: 知財高裁平成28年(行ケ)10157

【背景】

原告(三栄源エフ・エフ・アイ)が保有する「酸味のマスキング方法」に関する特許第3916281号に対して被告(ジェイケー スクラロース)が請求した無効審決(無効2014-800118)取消訴訟。審決は、無効審判請求に対して原告がした訂正請求(本件訂正)が特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項又は6項の規定に適合せず認められないとした上、進歩性欠如等により本件特許は無効とすべきものであると判断した。原告は、本件訂正が認められるべきであるとして、本件審決取消訴訟を提起した。

請求項1:
(訂正前)
醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品,又はコーヒーエキスを含有する製品に,スクラロースを該製品の0.000013~0.0042重量%の量で添加することを特徴とする酸味のマスキング方法。
(訂正後)
醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品に,スクラロースを該製品の0.0028~0.0042重量%の量で添加することを特徴とする該製品の酸味のマスキング方法。
上記訂正事項1が訂正要件を満たすか否か問題となった実施例2の記載は下記の通り。
【0016】
実施例 2:ピクルス
醸造酢(酸度10%)15部、食塩6.5部、ハーブ(ディル )抽出物0.4部、ウコン粉末0.2部、ディルフレーバー0.1部、スクラロース0.0028部、又はハイステビア500(ステビア抽出物 池田糖化工業株式会社製)0.013部を水にて100部とし、ローレル、カッシャ、唐辛子を適量加える。この調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6の割合で合わせ、瓶詰めする。
その結果、スクラロース又はステビア抽出物を添加していないピクルスに比べて、酸味がマイルドで嗜好性の高いピクルスに仕上がった。
請求項2:
(訂正前)
クエン酸を水溶液濃度で0.1~0.3%含有する製品に,スクラロースを0.0000075~0.003重量%の量で添加することを特徴とするクエン酸含有製品の酸味のマスキング方法。

(訂正後)
クエン酸を0.1~0.3%含有する飲料に,スクラロースをその甘味を呈さない範囲で且つ0.00075~0.003重量%の量で添加することを特徴とするクエン酸含有飲料の酸味のマスキング方法。
請求項3:
(新たに設けられた)
コーヒーエキスを含有する飲料に,スクラロースを,極限法で求めた甘味閾値の1/100以上0.0013重量%以下の量で添加することを特徴とする該飲料の酸味のマスキング方法。
【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2014-800118号事件について平成28年6月10
日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所は、
「ピクルスにおけるスクラロース濃度は,実施例2において調味液のスクラロース濃度を0.0028重量%とし,この調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6の割合で合わせ,瓶詰めされて製造されるものであるから,きゅうりに由来する水分により0.0028重量%よりも低い濃度となることが技術上明らかである(きゅうりにスクラロースが含まれないことは,当事者間に争いがない。)。そして,0.0028重量%よりも低いスクラロース濃度においてピクルスに対する酸味のマスキング効果が確認されたのであれば,ピクルスにおけるスクラロース濃度が0.0028重量%であったとしても酸味のマスキング効果を奏することは,本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識から当業者に明らかである。そのため,スクラロースを0.0028重量%で「醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品」に添加すれば,酸味のマスキング効果が生ずることは当業者にとって自明であり(実施例3の「おろしポン酢ソース」では,スクラロース0.0035重量%で酸味のマスキング効果が生じ,実施例4の「青じそタイプノンオイルドレッシング」では,スクラロース0.0042重量%で酸味のマスキング効果が生じることがそれぞれ開示されている。),このことは本件明細書において開示されていたものと認められる。
そうすると,製品に添加するスクラロースの下限値を「製品の0.000013重量%」から「0.0028重量%」にする訂正は,特許請求の範囲を減縮するものである上,本件訂正後の「0.0028重量%」という下限値も,本件明細書において酸味のマスキング効果を奏することが開示されていたのであるから,本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。
したがって,訂正事項1は,当業者によって本件明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「本件当初明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものといえるから(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号同20年5月30日特別部判決参照),特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定に適合するものと認めるのが相当である。
以上によれば,訂正事項1が本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず,特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定に適合しないとした審決の判断には誤りがあり,原告の主張する取消事由1は理由がある。」
と判断した。

被告は、
「実施例2において酸味をマスキングしているか否かを確認したのは,調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6の割合で合わせ,瓶詰めして得られたピクルスであり,そのピクルスの酸味がマイルドで嗜好性の高いものであることが本件明細書に記載されているのであって,当該調味液の酸味がマスキングされたことについては本件明細書の実施例2に何ら記載されていないとして,原告の主張は,本件明細書の記載に基づかないものである」
などと主張した。

裁判所は、
「確かに,実施例2における酸味をマスキングする対象は,ピクルスであって調味液であるとは認められず,これを調味液であるという原告の主張は,本件明細書の記載に照らし,失当というほかない。しかしながら,酸味をマスキングする対象がピクルスであり,この場合におけるスクラロース濃度が直接明らかでないとしても,当該濃度で酸味のマスキング効果を奏すれば,少なくともこれより高い濃度である「0.0028重量%」の濃度で酸味のマスキング効果を奏することは,本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識から当業者にとって明らかなことである。そうすると,訂正事項1は,スクラロース濃度の下限値を「0.0028重量%」の濃度に減縮するものであり,当該濃度が酸味のマスキング効果を奏することは本件明細書に開示されていたといえるから,本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものと認められる。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。」
と判断した。

裁判所は、その他の訂正事項2(請求項2に係る訂正要件)についても審決の判断には誤りがあると判断したが、訂正事項3(請求項3に係る訂正要件)については実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであり、審決の判断に誤りはないと判断した。

【コメント】

数値限定に関する訂正要件について争われた事件。

審決において、特許庁は、
「上記実施例2のスクラロースの添加量「0.0028重量%」は、「ピクルス」を漬けるための調味液におけるスクラロースの濃度であって、調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6の割合で合わせて漬けた後には、きゅうりからどの程度の水分が浸透圧で排出されるか、また、スクロースがどの程度きゅうりに浸透するかなど不明であることから、調味液及びきゅうりのスクラロースの濃度は不明であると言わざるをえない。
そうすると、上記「0.0028重量%」を、製品である「ピクルス」のスクラロースの添加量とみなすことはできない。」
と述べている。

確かに、実施例2のスクラロースの濃度は不明であった。しかし、裁判所は、明細書の記載からその数値の範囲であれば発明の効果を奏することが当業者にとって自明であるならば、そのような数値範囲内において限定する訂正である限りは、特許請求の範囲を減縮するものであり、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということになると判断した。数値限定発明について、さらにその数値範囲(下限値または上限値)を限定するような訂正においては、明細書にその訂正上限値または訂正下限値が具体的に明記されていなくとも、明細書の記載からその範囲であれば発明の効果を奏することが当業者にとって自明である限り、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえると考えられる。付加される訂正(補正)事項が明細書等に明示されているときのみならず、明示されていないときでも新たな技術的事項を導入するものではないときは「明細書等に記載した事項の範囲内」の減縮であるということになるという点は、除くクレームの訂正(補正)を認めた判決(2008.05.30 「タムラ化研 v. 太陽インキ製造」 知財高裁平成18年(行ケ)10563; 2009.03.31 「テイコクメディックス v. クレハ」 知財高裁平成20年(行ケ)10065)からも整合するものといえる。

参考:


Aug 27, 2017

2017.07.12 「X v. シアトル ジェネティクス」 知財高裁平成28年(行ケ)10148

明細書記載データの一部分に誤記があったときの釈明知財高裁平成28年(行ケ)10148

【背景】

被告(シアトル ジェネティクス)が保有する「低いコアフコシル化を有する抗体及び抗体誘導体を調製するための方法並びに組成物」に関する特許第5624535号の特許無効審判請求を不成立とした審決(無効2015-800102号)の取消訴訟。争点は、①進歩性の判断の当否(相違点の容易想到性の判断の誤り)、②実施可能要件に関する判断の適否及び③サポート要件に関する判断の適否。

請求項1:
低いコアフコシル化を有する修飾抗体又は抗体誘導体を製造する方法であって,
糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンを介してFcドメインに結合した少なくとも一つの複合N-グリコシド結合糖鎖を有するFcドメインを有する抗体又は抗体誘導体を発現する宿主細胞を有効量のフコース類似体を含む培地中で適切な成長条件下で培養する段階,及び
前記抗体又は抗体誘導体を細胞から分離する段階を含み,
ここで,前記フコース類似体が以下の式・・・であり,・・・
前記抗体又は抗体誘導体が前記フコース類似体の不存在下で培養した宿主細胞からの抗体又は抗体誘導体と比較して低いコアフコシル化を有する,上記方法。
【要旨】

請求棄却。

明細書に記載されているフコース類似体のひとつとして挙げられたアルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害活性のデータが「不自然」であることに端を発した実施可能要件に関する判断の適否について以下に抜粋。

問題となった表1の記載部分は下記のとおり(50μMと1mM)。


原告は、
「本件明細書の表1によると,50μMでの阻害活性が「>80%」と記載されたアルキニルフコースジ(トリメチルアセテート)に,もう1つピバレートエステル基が付加しただけで,阻害活性が「約0%」(50μMアルキニルフコース1,2,-トリ(トリメチルアセテート))となるように,化学構造がわずかでも変化すると活性に大きな相違がもたらされるというのが技術常識であるから,本件発明1のフコース類似体の全てが低いコアフコシル化抗体の製造に使用することができるわけではない」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「当業者であれば,上記フコース類似体の50μMの濃度における阻害活性データを比較した際に,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害活性が,ピバレートエステル基を1つ多く有するアルキニルフコーステトラキス(トリメチルアセテート)よりも低下していることは,本件明細書の記載及び技術常識に照らし,不自然であると認識し,その阻害活性データについて,発明の詳細な説明の実施例(段落【0217】等)に記載されたコアフコシル化阻害活性の測定方法によって当該フコース類似体の阻害活性を確認し,表1におけるこのフコース類似体の阻害活性データが誤記であることを確認することに格別の技術的困難があるとは認められない。表1及び2に列挙された各種フコース類似体のコアフコシル化の阻害%のうちで唯一50μMにおいても1mMにおいても効果がないと解される表1のアルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の上記データが誤記であることは,共同発明者の1名により本件明細書に記載された実験の元データ(添付資料A。以下「本件データ」という。)を分析した結果報告(甲16。以下「本件分析報告」という。)によれば,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害が>80%程度であると認められることからも裏付けられる。
したがって,当業者であれば,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害活性に関する本件データを参照するまでもなく,発明の詳細な説明の記載から,表1の上記フコース類似体の阻害活性データが誤記であることを推測することができ,そのことを発明の詳細な説明の実施例の記載に基づいて容易に確認することができると認められるし,また,本件分析報告によれば,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)は,実際には非常に高いコアフコシル化阻害活性(>80%)を有することが確認できるのであるから,フコース類似体として,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)を発明の詳細な説明に記載されたとおりに用いることにより,本件発明1について実施をすることができるものと認められる。
以上によれば,表1のアルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)に関する「約0%」及び「ND」の記載のみをもって,実施可能要件を欠くということはできず,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の全体的な開示に基づき,本件発明1について実施をすることができると認められるから,原告の上記主張は採用することができない。」
と判断した。

また、原告は、
「審決が,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害活性のデータが「不自然」であると認定したのは,被告がその後に提出した生データを考慮した上での,後付けの判断によるものといわざるを得ず,この点に関する審決の判断は,本件優先日に当業者が知り得なかった生データに基づくものであるから,特許法36条4項1号の規定に反する」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「当業者であれば,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害活性に関する本件データを参照するまでもなく,発明の詳細な説明の記載から,表1の上記フコース類似体の阻害活性データが誤記であることを推測でき,それを発明の詳細な説明の実施例の記載に基づいて容易に確認することができると認められるのは前記認定のとおりである。
このように,本件は,本件明細書に,当業者が,技術常識に照らし,阻害活性に関するデータの一部分が不自然であると推測し確認することができる記載があるといえる場合であるから,本件明細書の発明の詳細な説明(【0217】の表1)に記載された阻害活性のデータ(50μMにおける阻害)について,出願後に補充した本件データを参酌することも許されるものと解される。被告は,本件明細書の発明の詳細な説明に開示された多くの実験結果の1つに誤記があったことから,本件明細書に記載された内容の範囲内での結果を示すような事後的な本件分析報告を提出して(甲16),上記誤記について釈明しているにすぎない(例えば,特許出願前に実施することができた実験データを,事後的に追完するような場合とは異なる。)。
したがって,出願後に補充した本件データを参酌した審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。」
と判断した。

【コメント】

争点は、進歩性、実施可能要件、サポート要件であり、いずれも裁判所は審決の判断に誤りはないと結論付けた。

そのうち、実施可能要件については、明細書に記載されているひとつのフコース類似体のデータに効果が無い(阻害活性が0%である)という記載が問題となった。

裁判所は、当業者であれば、本件明細書の記載及び技術常識に照らし、そのデータが不自然であると認識し、誤記であることを確認することに格別の技術的困難があるとは認められないことから、いわゆる後出しデータを参照するまでもなく、誤記であることを推測でき、それを明細書の記載に基づいて容易に確認することができると認められるし、そのような場合には、いわゆる後出しデータで誤記の釈明を参酌することができる、と判断した。

本件裁判所の判断によれば、明細書に記載されたデータの一部分に誤記があったときに釈明するためのポイントは以下の2点となる。
①当業者が、明細書の記載及び技術常識に照らして、その部分が不自然(誤記)であると推測できること
②当業者が、明細書の記載に基づいて、格別の技術的困難なく、そのデータの一部分を再確認することができること


Aug 21, 2017

製薬協 「オキサリプラティヌム事件の知財高裁大合議判決について」

オキサリプラティヌム事件の知財高裁大合議判決において延長された特許権の効力の及ぶ範囲(特許法第68条の2の解釈)について一定の判断が示されたことを受け、2017年8月21日、日本製薬工業協会知的財産委員会としての意見が出されました。

日本製薬工業協会webpage: 2017.08.21 「オキサリプラティヌム事件の知財高裁大合議判決について 知財高裁特別部平成29年1月20日判決(平成28年(ネ)第10046号)

(以下、一部抜粋)
(2) 医薬品としての実質同一の判断基準について
・・・政令処分の単純な比較ではなく、特許発明の内容との関連において医薬品の技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討すべきとした点が評価される。
なお、延長された特許権の効力が、医薬品として「実質同一」なものにも及ぶとした前記判断基準は、特許法第67条の3第1項第1号による延長登録の可否を判断する手法(医薬品としての審査事項について、処分の包含関係を判断する方法とは必ずしも一致しない。

(5)おわりに
本判決により、延長登録された特許権の効力が及ぶ範囲について一定の判断基準が示されたものの、未だ不明確な部分があり、「特許権の存続期間の延長」の審査基準の改訂に伴う課題は残されている。今後の判例の積み重ねによって、本制度の導入趣旨に即した方向で、延長登録された特許権の効力が及ぶ範囲が明確化されていくことを期待するが、世の中の動向や新技術の出現等により、本制度の導入趣旨と乖離する方向に進むおそれが生じる場合には、法改正を含めた本制度の抜本的な見直しを検討する必要があるものと考える。
参考:

Aug 20, 2017

2017.07.12 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成28年(行ケ)10160

訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるというためには: 知財高裁平成28年(行ケ)10160

【背景】

被告(バイオセレンタック)が保有する「経皮吸収製剤,経皮吸収製剤保持シート,及び経皮吸収製剤保持用具」に関する特許第4913030号に対して原告(コスメディ製薬)がした無効審判請求について、本件訂正を認め無効審判請求は成り立たないとした審決(無効2012-800073)の取消しを求めて原告が提起した審決取消訴訟。本件特許については、無効審判請求不成立とした審決の取消判決が繰り返され、本件が3回目となる(知財高裁平成25年(行ケ)10134; 2015.03.11 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成26年(行ケ)10204)。

【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2012-800073号事件について平成28年6月29日にした審決を取り消す。(他略)
裁判所の判断

裁判所は、訂正事項5は特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められないため、取消事由1(訂正目的違反・発明の要旨認定の誤り)は理由があり、本件審決は違法であって、取消しを免れないものと判断した。その理由の抜粋は以下のとおり。

「訂正事項5は,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「針状又は糸状の形状を有すると共に」とあるのを「針状又は糸状の形状を有し,シート状支持体の片面に保持されると共に」に訂正する,というものであり,これを請求項の記載全体でみると,「…尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」とあるのを「…尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有し,シート状支持体の片面に保持されると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」に訂正するものである。・・・すなわち,訂正事項5は,経皮吸収製剤のうち,「シート状支持体の片面に保持される」という使用態様を採らない経皮吸収製剤を除外し,かかる使用態様を採る経皮吸収製剤に限定したものといえる。」

「本件発明は「経皮吸収製剤」という物の発明であるから,本件訂正発明も「経皮吸収製剤」という物の発明として技術的に明確であることが必要であり,そのためには,訂正事項5によって限定される「シート状支持体の片面に保持される…経皮吸収製剤」も,「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であること,言い換えれば,「シート状支持体の片面に保持される」との使用態様が,経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものであることが必要である。
しかしながら,「シート状支持体の片面に保持される」との使用態様によっても,シート状支持体の構造が変われば,それに応じて経皮吸収製剤の形状や構造(特にシート状支持体に保持される部分の形状や構造)も変わり得ることは自明であるし,かかる使用態様によるか否かによって,経皮吸収製剤自体の組成や物性が決まるという関係にあるとも認められない。
したがって,上記の「シート状支持体の片面に保持される」との使用態様は,必ずしも,経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものとはいえず,訂正事項5によって限定される「シート状支持体の片面に保持される…経皮吸収製剤」も,「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であるとはいえない(なお,「シート状支持体の片面に保持される」との用途にどのような技術的意義があるのかは不明確といわざるを得ないから,本件訂正発明をいわゆる「用途発明」に当たるものとし
て理解することも困難である。)。
そうすると,訂正事項5による訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,技術的に明確であるとはいえないから,訂正事項5は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。
なお,仮に,「シート状支持体の片面に保持されると共に」の文言が経皮吸収製剤の使用態様を特定するものではなく,「尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有し」との文言と同様に経皮吸収製剤の構成を特定するものであるとすれば,本件訂正発明は,「シート状支持体の片面に保持された状態にある経皮吸収製剤」になり,構成としては「片面に経皮吸収製剤を保持した状態にあるシート状支持体」と同一になるから,訂正事項5は,本件訂正前の請求項1の「経皮吸収製剤」という物の発明を,「経皮吸収製剤保持シート」という物の発明に変更するものであり,実質上特許請求の範囲を変更するものとして許されないというべきである(特許法134条の2第9項,126条6項)。
したがって,かかる違法な結果を招来する解釈は取り得ない。」

【コメント】

本件発明は「経皮吸収製剤」なのだから、「経皮吸収製剤保持シート」ではないはずであり、だとすれば、「シート状支持体の片面に保持される…経皮吸収製剤」との訂正は、「シート状支持体の片面に保持される」使われ方をするものであったとしても「経皮吸収製剤」自体を形状,構造,組成,物性等により特定するものではないし、その技術的意義が不明確であるから用途発明として捉えることもできないという判断である。前回の判決(2015.03.11 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成26年(行ケ)10204)同様に、裁判所は、訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものということができるための前提として、訂正前後の特許請求の範囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要であることを判示した。

参考:

Aug 17, 2017

2017.07.12 「デビオファーム v. ホスピーラ・ファイザー」 知財高裁平成29年(ネ)10009・平成29年(ネ)10023

出願経過を参酌して「オキサリプラティヌムの水溶液」の技術的範囲を判断: 知財高裁平成29年(ネ)10009・平成29年(ネ)10023

「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許第3547755号(本件特許1)及び「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許第4430229号(本件特許2)を有する控訴人(デビオファーム)が、被控訴人(ホスピーラ)の製造、販売する各製品(被告各製品)は上記各特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(本件発明1及び本件発明2)の技術的範囲に属する旨主張して、被控訴人に対し、被告各製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。原判決は、被告各製品は,延長された本件特許権1の効力が及ぶものではなく、また、本件発明2の技術的範囲に属しないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。

原審:

知財高裁(第3部)は、被告各製品は本件発明1の構成要件1Cを充足せず,また,本件発明2の構成要件2B,2F及び2Gを充足しないから,その余の構成要件について検討するまでもなく,被告各製品は,本件発明1及び2のいずれの技術的範囲にも属しないと判断した。控訴棄却。

1 構成要件1C(オキサリプラティヌムの水溶液からなり)の充足性)について
「・・・本件明細書1の記載及び本件特許1の出願経過を総合的にみれば・・・本件発明1の特許請求の範囲における「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」(構成要件1C)とは,本件発明1がオキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であって,他の添加剤等の成分を含まないものであることを意味すると解するのが相当である。
・・・被告各製品は,オキサリプラティヌムと水のほか,酒石酸及び水酸化ナトリウムが添加されているものであるから,構成要件1Cを充足しない。」
2 構成要件2B,2F及び2Gの「緩衝剤」の充足性)について
「本件発明2における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるべきである。したがって,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩が添加されていない被告各製品は,構成要件2B,2F及び2Gの「緩衝剤」を含有せず,これらの構成要件を充足しない。」
知財高裁(第3部)は、延長された特許権の効力について判断した地裁判決については触れることなく、地裁では判断しなかった構成要件1Cの充足性の争点も含めて、そもそも被告各製品は本件特許発明の技術的範囲に属しないと判断して決着させた。


Aug 16, 2017

2017.07.11 「デビオファーム v. ナガセ医薬品・日本ケミファ」 知財高裁平成29年(ネ)10034

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成29年(ネ)10034

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:ナガセ医薬品)(日本ケミファは補助参加人)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、本件特許は進歩性欠如により無効にされるべきものであるとして控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。

知財高裁(第4部)は、
「争点(1)(技術的範囲への属否)について,本件各発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるところ,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属するものではないから,控訴人の請求はいずれも棄却すべき」
と判断し、請求を棄却した原判決は結論において相当であるから、本件控訴を棄却した。

参考:

Aug 11, 2017

アクテムラの追加ロイヤルティ支払い求め英国MRCが中外に対して仲裁申立

2017年8月10日付の中外製薬ニュースリリースによると、英国Medical Research Council(MRC)およびLifeArcは中外製薬に対して、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体『アクテムラ(Actemra)®(有効成分: トシリズマブ(tocilizumab))』の開発に際し締結した1990年8月15日付の研究協力契約に関して契約義務違反があると主張し、当該契約に基づく追加のロイヤルティの支払いを求め、2017年5月10日、英国にて仲裁を申し立てたとのことです。

今後の見通しとして、中外製薬は、申立人の主張は無効だと考えており、仲裁の場において、積極的に反論を行っていく方針とのことです。

アクテムラ(Actemra)®(有効成分: トシリズマブ(tocilizumab))は、国内で開発された IgG1サブクラスのヒト化抗ヒトインターロイキン 6(IL-6)レセプターモノクローナル抗体。遺伝子組換え技術により、可変領域の中でも特に抗原との親和性が高い相補性決定領域(CDR)をマウス型ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体とし、その他の部分をヒトIgG1 としてチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を用いて創製されました。1990年に開始された英国MRCとの共同研究で中外製薬は研究員を派遣し抗体ヒト化技術を習得、結果ヒト化抗体であるトシリズマブの作製に成功したとされています。

参考:

中外製薬 press release: 2017.08.10 「当社に対する仲裁申立に関するお知らせ




Aug 10, 2017

2017.07.11 「デビオファーム v. マイラン」 知財高裁平成29年(ネ)10013

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成29年(ネ)10013

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:マイラン)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、被控訴人ら各製品はいずれも本件特許発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。

知財高裁(第4部)は、
「争点1(被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)について,本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるところ,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被告製品は,構成要件B,F及びGを充足せず,本件特許発明の技術的範囲に属するものではないから,控訴人の請求は棄却すべき」
と判断し、請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

原審: 2016.12.06 「デビオファーム v. マイラン」 東京地裁平成27年(ワ)29001

Aug 9, 2017

2017.06.29 「デビオファーム v. 共和クリティケア」 知財高裁平成29年(ネ)10008

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成29年(ネ)10008

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:共和クリティケア)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人ら各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、被控訴人各製品はいずれも本件特許発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。
知財高裁(第2部)は、
「当審における主張及び立証を踏まえても,本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被控訴人各製品は,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を含有するものではなく,したがって,本件発明又は本件訂正発明の技術的範囲に属しない」
と判断し、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

原審: 2016.12.07 「デビオファーム v. 共和クリティケア」 東京地裁平成27年(ワ)29158

Aug 8, 2017

2017.06.29 「デビオファーム v. 第一三共エスファ・富士フイルムファーマ・ニプロ」 知財高裁平成29年(ネ)10010

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない知財高裁平成29年(ネ)10010

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人ら(一審被告:第一三共エスファ、富士フイルムファーマ、ニプロ)に対し、被控訴人ら各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、被控訴人ら各製品はいずれも本件特許発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。

知財高裁(第2部)は、
「当審における主張及び立証を踏まえても,本件発明1における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被控訴人ら各製品は,いずれも,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を含有するものではなく,したがって,本件発明1又は本件訂正発明1~の各技術的範囲に属しない」
と判断し、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

原審: 2016.12.02 「デビオファーム v. 第一三共エスファ・富士フイルムファーマ・ニプロ」 東京地裁平成27年(ワ)28699・平成27年(ワ)28848・平成27年(ワ)29004

Aug 7, 2017

2017.06.28 「ヤクルト・デビオファーム v. 日本化薬」 知財高裁平成28年(ネ)10112

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成28年(ネ)10112

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有するデビオファーム及び専用実施権者であるヤクルト(控訴人ら)が、被控訴人(日本化薬)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、損害賠償支払いを求めた事案。原判決は、被控訴人各製品は本件特許発明1及び2の技術的範囲に属しないとして控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らは本件控訴を提起した。

知財高裁(第3部)は、
「争点1-1(構成要件1B,1F及び1Gの充足性)について,本件発明1における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩が添加されていない被告各製品は,構成要件1B,1F及び1Gの「緩衝剤」を含有するものではなく,これらの構成要件を充足しない~以上によれば~被告各製品は,いずれも本件発明1の技術的範囲に属しない。」
と判断し、請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

参考:


Aug 1, 2017

2017.06.22 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10141

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」が明らかでないと判断された事例: 知財高裁平成28年(行ケ)10141

【背景】

「苦味マスキング食材,及び苦味マスキング方法」に関する特許出願(特願2011-185374)の拒絶審決(不服2014-5021)取消訴訟である。主な争点は、①本願発明と引用発明との相違点は実質的な相違点ではないとした新規性判断の誤りの有無、②プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」が明らかでないとした明確性要件の判断の誤りの有無である。

請求項1:
可食物の苦味をマスキングする作用を有する無塩可溶性可食凝集剤を有効成分とすることを特徴とし,及び,さらに,前記可食凝集剤は,凝集作用のないナトリウムやカリウムやマグネシウム等の水酸化物は無効であり,凝集奇特作用を有する水酸化カルシウムを主成分とすることを特徴とする,pH測定の為に何度も水に溶解が不可欠で,かつ非常に変動しやすいpHの調節限定など非常に不安定で手間がかかる面倒な工程をなんら必要とせずに,単に混ぜるだけで有効な,苦い可食物の苦味を奇特強力にマスキングするものであることを特徴とする,苦味マスキング剤。
請求項5:
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の苦味マスキング剤を使うことを特徴とする苦味マスキング方法。
請求項11:
請求項5乃至請求項10のいずれか1項の方法を用いて製造されたことを特徴とする可食物。
【要旨】

請求棄却。

1.取消事由1(新規性判断の誤り)について

裁判所は、本願発明1と引用発明(ポリフェノールを含有する食品に添加してポリフェノールの渋味,苦味または収斂味を軽減する水酸化カルシウム)との相違点1~4は、いずれも実質的に相違するということはできないから、本願発明1は引用発明であると判断し、本願発明1は新規性がないとした。

原告は、
「引用発明の実施例は,水酸化ナトリウムと重曹のみであり,水酸化カルシウムは,いろいろなアルカリとして列挙されているうちの一つにすぎない」
と主張したが、裁判所は、
「引用文献には,前記(1)のとおり,ポリフェノールの渋味等の軽減の機序として,ポリフェノールを,水酸化ナトリウム,水酸化カルシウム,水酸化マグネシウム及び水酸化カリウムより成る群から選ばれるアルカリを用いて,ポリフェノールのナトリウム塩,カルシウム塩,マグネシウム塩又はカリウム塩とすることが記載されているとともに,水酸化ナトリウムを用いた実施例により,ポリフェノールの渋味等の軽減効果が得られたことが記載されているから,このような記載に接した当業者は,引用文献に水酸化カルシウムの実施例の記載がなくても,ポリフェノールに水酸化ナトリウムに代えて水酸化カルシウムを添加した場合にも,ポリフェノールがポリフェノールのカルシウム塩となることにより,渋味等の軽減効果が得られるという技術的思想を理解することができる。したがって,引用文献に水酸化カルシウムの実施例の記載がないことをもって,引用文献から引用発明を認定した本件審決が誤りであるということはできない。原告の主張は,理由がない。」
と判断した。

2.取消事由2(明確性要件の判断の誤り)について

裁判所は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいて特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか又はおよそ実際的でないという事情(不可能・非実際的事情)が存在するときに限られると解するのが相当である、という最高裁判決(平成24年(受)第1204号)を参照しつつ、
「請求項11は,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に当たる。そして,本願明細書には,不可能・非実際的事情について何ら記載がなく,当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであることを認めるに足りる証拠もない。・・・そうすると・・・請求項11の記載は,特許法36条6項2号所定の「発明が明確であること」を充足しないから,本願は,全体として特許を受けることができない。」
と判断した。

原告は、
「『不可能・非実際的事情』が存在することの主張・立証をする。出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であり,かつ,およそ実際的でないという事情である。つまり,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが,当方にとって,全く不可能であり,かつ,当方にとって,全く実際的でないという事情である。また,本願明細書[0008]に『新しいマスキング方法を提供する』と,明記してある。」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「本願明細書の【0008】には,「新しい苦味マスキング剤及び方法を提供する事を目的とする。」と記載されているが,この記載が,不可能・非実際的事情を直ちに基礎付けるものでないことは明らかであり,原告の上記主張によっても,不可能・非実際的事情が存在するとは認められない。」
と判断した。

また、原告は、
「水酸化カルシウムによる苦味マスキングの機序が,動植物体内の連続反応の様々な locus(loci)に係っていると推測され,これを解明することができないことが,不可能・非実際的事情に当たる」
旨主張した。

しかし、裁判所は、
「水酸化カルシウムによる苦味マスキングの機序を特定することが困難であるとしても,請求項11の「可食物」をその構造又は特性により直接特定するに当たり,このような機序を記載しなければならないものとは認められないから,原告主張の機序の特定が困難であるという事情は,不可能・非実際的事情を基礎付けるものとはいえない。」
と判断した。

【コメント】

1.新規性判断について

原告は、引用文献に記載された「水酸化カルシウム」はいろいろなアルカリとして列挙されているうちの一つにすぎないと主張したが、裁判所は、引用文献の記載に接した当業者は「水酸化カルシウム」を添加した場合にも渋味等の軽減効果が得られるという技術的思想を理解することができるとして原告の主張を退けた。新規性を否定する引用発明の成立性/適格性/根拠データは必要かどうかについて、これまで収集した過去事例はこちら(記載要件/引例適格/データは必要か)

2.プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」の判断について

裁判所は、本願プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」は明らかでないとして、特許法36条6項2号所定の「発明が明確であること」を充足しないと判断した。出願人が一定の事情が存在すること(直接特定が不可能・非実際的であること)を主張立証しなければならないわけであるが、具体的にどのような主張をすれば「不可能・非実際的事情」が存在することを立証することができたと判断されるのか、この事例を見ても判然としないままである。主張立証出来たと判断された判決の蓄積を待つしかないだろう。

医薬分野ではないが、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する最高裁判所判決後にいくつかの知財高裁判決が存在する。これらは、一定の場合には、プロダクト・バイ・プロセス・クレームとみる必要はない又は「不可能・非実際的事情」の主張立証を要しないと解するのが相当であると判断して決着させているようである。
  • 2016.09.20 知財高裁平成27年(行ケ)10242
    「プロダクト・バイ・プロセス・クレームが発明の明確性との関係で問題とされるのは,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば,その製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であることなどから,第三者の利益が不当に害されることが生じかねないことによるところ,特許請求の範囲の記載を形式的に見ると経時的であることから物の製造方法の記載があるといい得るとしても,当該製造方法による物の構造又は特性等が明細書の記載及び技術常識を加えて判断すれば一義的に明らかである場合には,上記問題は生じないといってよい。そうすると,このような場合は,法36条6項2号との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームと見る必要はないと思われる。」
  • 2016.09.29 知財高裁平成27年(行ケ)10184
    「PBP最高裁判決が上記事情の主張立証を要するとしたのは,同判決の判旨によれば,物の発明の特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合には,製造方法の記載が物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができないことによると解される。そうすると,特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,当該製造方法の記載が物の構造又は特性を明確に表しているときは,当該発明の内容をもとより明確に理解することができるのであるから,このような特段の事情がある場合には不可能・非実際的事情の主張立証を要しないと解するのが相当である。」
  • 2016.11.08 知財高裁平成28年(行ケ)10025
    「本願補正発明1及び2に係る前記の各記載は,いずれも,形式的にみれば,経時的な要素を記載するものといえ,「物の製造方法の記載」がある,すなわち,プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するということができそうである。しかしながら,前記最高裁判決が,前記事情がない限り明確性要件違反になるとした趣旨は,プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるが,そのような特許請求の範囲の記載は,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり,権利範囲についての予測可能性を奪う結果となることから,これを無制約に許すのではなく,前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。そうすると,特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても,前記の一般的な場合と異なり,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが,特許請求の範囲,明細書,図面の記載や技術常識から明確であれば,あえて特許法36条6項2号との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームに当たるとみる必要はない。」
参考:

Jul 27, 2017

特許権侵害の後発品参入 オキサロール®薬価引下げによる損害賠償 中外が勝訴

2017年7月27日付の中外製薬のニュースリリース(「オキサロール®軟膏製法特許侵害に対する損害賠償請求訴訟の判決に関するお知らせ」)によると、中外製薬が保有する尋常性乾癬等角化症治療剤「オキサロール®軟膏25μg/g(有効成分: マキサカルシトール)」の製法特許(特許第3310301号)に関して、オキサロール軟膏の後発品メーカーである岩城製薬、高田製薬、ポーラファルマの特許権侵害行為に対し中外製薬が損害賠償を求めていた訴訟で、本日、東京地裁にて、後発品3社の賠償責任を認める判決が言い渡されたとのことです。

注目すべき点は、後発品3社による侵害品の販売によって、中外製薬のオキサロール軟膏の販売が失われたことによる損害についての後発品3社の賠償責任を認めただけでなく、オキサロール軟膏及びオキサロールローションの薬価加算分の引き下げについて後発品3社の賠償責任も認められた点です。2017年7月27日付の中外製薬のニュースリリースによると、薬価算定において新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象だった中外製薬のオキサロール軟膏及びオキサロールローションは、オキサロール軟膏の後発品の参入により、本来の時期より早く加算分の引き下げが行われました。本件は、薬価加算分の引き下げに起因して先発医薬品企業に生じた損害について判断された初めての事例とのことです。

なお、後発品3社に対する本件特許の侵害差止訴訟における中外製薬の勝訴は既に確定しています(2017.03.24 「マキサカルシトール事件(均等の第5要件)」 最高裁平成28年(受)1242; 2017.03.24 中外製薬 press release: 「オキサロール軟膏の特許権侵害訴訟における最高裁判所判決勝訴のお知らせ」)。

参考:






Jul 22, 2017

アイセントレスを販売するMSDに塩野義特許の強制実施権が認められる(ドイツ)

2017年7月12日付のJETROからの欧州知的財産ニュースによると、ドイツ連邦通常裁判所(通常裁判権の最高裁判所に相当)は、7月11日、塩野義製薬が保有する欧州特許1422218について、当該特許権侵害を訴えらたHIV治療薬Isentress(アイセントレス、有効成分はラルテグラビル(reltegravir))を販売するMSD社が申立てた強制実施権付与の仮処分申請を認める決定を下したとのことです。

参考:

Jul 15, 2017

2017.06.14 「DIC v. JNC」 知財高裁平成28年(行ケ)10037

化合物の選択・組み合わせに関する選択発明の特許性: 知財高裁平成28年(行ケ)10037

【背景】

DICが保有する「重合性化合物含有液晶組成物及びそれを使用した液晶表示素子」に関する特許第5196073号を無効とした審決(無効2014-800103)の取消訴訟。本件発明と引用発明(甲1発明)は、いずれも多数の選択肢から成る化合物として「第一成分」、「第二成分」および「第三成分」を含有することを特徴とする液晶組成物の発明である。

本件審決は、① 甲1発明Aの「第三成分」として、甲1の…で表される重合性化合物を選択すること、② 甲1発明Aの「第一成分」として、甲1の…で表される化合物を選択すること、③ 甲1発明Aの「第二成分」として、甲1の…で表される化合物を選択すること、④ 甲1発明Aにおいて、「塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない」態様を選択すること、の各技術的意義について、上記①の選択と、同②及び③の選択と、同④の選択とをそれぞれ別個に検討した上、それぞれについて、格別な技術的意義が存するものとは認められないとして、相違点1ないし4を実質的な相違点であるとはいえないと判断し、本件発明1の特許性(新規性)を否定した。要するに、本件審決は、引用発明である甲1発明と本件発明との間に包含関係(甲1発明を本件発明の上位概念として位置付けるもの)を認めた上、甲1発明において相違点に係る構成を選択したことに格別の技術的意義が存するかどうかを問題にしており、その結果、本件発明が甲1発明と実質的に同一であるとして新規性を認めなかった。

【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2014-800103号事件について平成27年12月28日にした審決のうち,「特許第5196073号の請求項1ないし17に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
裁判所の判断

裁判所は、いわゆる選択発明の特許性の有無についての考え方に言及したうえで、本件審決の判断の妥当性を検討し、本件審決は必要な検討を欠いたまま本件発明1の特許性を否定しているものであるから審理不尽の誹りを免れないのであって特許性判断の結論に影響を及ぼすおそれのある重大な誤りを含むものであるから、本件審決の判断は妥当でないと判断した。以下、裁判所の判断の抜粋。
「特許に係る発明が,先行の公知文献に記載された発明にその下位概念として包含されるときは,当該発明は,先行の公知となった文献に具体的に開示されておらず,かつ,先行の公知文献に記載された発明と比較して顕著な特有の効果,すなわち先行の公知文献に記載された発明によって奏される効果とは異質の効果,又は同質の効果であるが際立って優れた効果を奏する場合を除き,特許性を有しないものと解するのが相当である。
ここで,本件発明1が甲1発明Aの下位概念として包含される関係にあることは前記3のとおりであるから,本件発明1は,甲1に具体的に開示されておらず,かつ,甲1に記載された発明すなわち甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏する場合を除き,特許性を有しないというべきである。
そして,甲1に本件発明1に該当する態様が具体的に開示されているとまでは認められない(被告もこの点は特に争うものではない。)から,本件発明1に特許性が認められるのは,甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏する場合(本件審決がいう「格別な技術的意義」が存するものと認められる場合)に限られるというべきである。」

「本件発明1は,甲1発明Aにおいて,3種類の化合物に係る前記①ないし③の選択及び「塩素原子で置換された液晶化合物」の有無に係る前記④の選択がなされたものというべきであるところ,証拠(甲42)及び弁論の全趣旨によれば,液晶組成物について,いくつかの分子を混ぜ合わせること(ブレンド技術)により,1種類の分子では出せないような特性を生み出すことができることは,本件優先日の時点で当業者の技術常識であったと認められるから,前記①ないし④の選択についても,選択された化合物を混合することが予定されている以上,本件発明の目的との関係において,相互に関連するものと認めるのが相当である。
そして,本件発明1は,これらの選択を併せて行うこと,すなわち,これらの選択を組み合わせることによって,広い温度範囲において析出することなく,高速応答に対応した低い粘度であり,焼き付き等の表示不良を生じない重合性化合物含有液晶組成物を提供するという本件発明の課題を解決するものであり,正にこの点において技術的意義があるとするものであるから,本件発明1の特許性を判断するに当たっても,本件発明1の技術的意義,すなわち,甲1発明Aにおいて,前記①ないし④の選択を併せて行った際に奏される効果等から認定される技術的意義を具体的に検討する必要があるというべきである。
ところが,本件審決は,前記のとおり,前記①の選択と,同②及び③の選択と,同④の選択とをそれぞれ別個に検討しているのみであり,これらの選択を併せて行った際に奏される効果等について何ら検討していない。このような個別的な検討を行うのみでは,本件発明1の技術的意義を正しく検討したとはいえず,かかる検討結果に基づいて本件発明1の特許性を判断することはできないというべきである。」
【コメント】

本件発明は、医薬に関するものではないが、化合物の選択・組み合わせに関する選択発明の特許性について争われた事案であり、有効成分の選択発明や、成分の組み合わせに関する医薬発明においても参考になる事例と考えられる。


Jul 9, 2017

2017.05.30 「フォーモサ・ラボラトリーズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10154

訂正が誤記の訂正を目的とするものであるというためには: 知財高裁平成28年(行ケ)10154

【背景】

「マキサカルシトール中間体およびその製造方法」に関する特許5563324の訂正審判請求(訂正2015-390128)不成立審決の取消訴訟。本件訂正の訂正事項は、明細書【0034】の「EAC(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載を「EAC(アクリル酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載に訂正するものだった。


【要旨】

主 文
1 特許庁が訂正2015-390128号事件について平成28年3月8日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断

取消事由1(目的要件の判断の誤り)について、裁判所は、
「特許法126条1項2号は,「誤記・・・の訂正」を目的とする場合には,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすることを認めているが,ここで「誤記」というためには,訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが,当該明細書,特許請求の範囲若しくは図面の記載又は当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の技術常識などから明らかで,当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないものと解される。」
と述べ、次のステップで、本件を検討し、本件明細書に接した当業者であれば、本件訂正事項に係る【0034】の「EAC(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載が誤りであることに気付いて、これを「EAC(アクリル酸エチル,804ml,7.28mol)」の趣旨に理解するのが当然であるということができるから、本件訂正は、「誤記・・・の訂正」を目的とするものということができると判断した。

Step 1: 本件明細書に接した当業者が,明細書の記載は原則として正しい記載であることを前提として,本件訂正前の本件明細書の記載に何らかの誤記があることに気付くかどうか。
「本件明細書に接した当業者は,【0034】の【化14】(化合物(3)から化合物(4)を製造する工程)において,側鎖を構成する炭素原子数の不整合によって,【0034】に何らかの誤記があることに気付くものと認められる。」
Step 2: 特定の反応工程(【0034】の【化14】)における技術的矛盾と,それに伴う誤記の存在を認識した当業者が,当該反応工程のうち,誤記が「EAC(酢酸エチル)」であると分かるかどうか。
「「(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載に示された化学物質名と,体積と,モル数とが整合しているかどうかを確認することは容易であるところ,…本件明細書に記載されているモル数と整合していないことが理解できる。…本件明細書に接した当業者は,…化合物(3)及び化合物(4)の化学構造については正しいものと理解し,「酢酸エチル」が誤記であると理解するものということができる。」
Step 3: 正しい記載が「アクリル酸エチル」であると分かるかどうか。
「化合物(3)と反応剤EACの反応機構に加え,化合物(4)の化学構造から,当業者は,【化14】の反応は,化合物(3)のアルコール性水酸基-OHの酸素の非共有電子対が反応剤(EAC)中のカルボニル基を構成する炭素原子の二つ隣の炭素原子を求核攻撃する,①3位に脱離基を有するプロピオン酸エチルを反応剤とする置換反応,又は,②アクリル酸エチルを反応剤とする付加反応のいずれかであると理解する。そして,…これらの反応剤の体積及びモル数が「804ml,7.28mol」という記載に整合するかどうかを検証してみると,…アクリル酸エチルの方が,本件明細書記載の上記数値に整合することが理解できる。…以上のとおり,「EAC」は,「アクリル酸エチル」の英語表記と整合し,略称と一致するものである上,モル数の記載とも整合するのであるから,当業者は,正しい反応剤が「アクリル酸エチル」であることを理解することができるというべきである。」
取消事由2(新規事項追加の判断の誤り)について、裁判所は、
「前記3の取消事由1で判断したとおり,本件明細書に接した当業者であれば,本件訂正事項に係る【0034】の「EAC(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載が誤りであり,これを「EAC(アクリル酸エチル,804ml,7.28mol)」の趣旨に理解するのが当然であるということができるから,本件訂正後の記載である「アクリル酸エチル」は,本件訂正前の当初明細書等の記載から自明な事項として定まるものであるということができ,本件訂正によって新たな技術的事項が導入されたとは認められない。したがって,本件訂正は,特許法126条5項に規定する要件に適合するものということができる。」
と判断した。

【コメント】

裁判所は、明細書の誤記の訂正(訂正前の記載「A」から訂正後の記載「B」に訂正すること)が許されるかどうかについての検討手順を下記のように行った。実務上の参考になる。
  • Step 1: 本件明細書に接した当業者が、明細書の記載は原則として正しい記載であることを前提として、本件訂正前の本件明細書の記載に何らかの誤記があることに気付くかどうか。
  • Step 2: 誤記の存在を認識した当業者が、誤記が訂正前の記載「A」であると分かるかどうか。
  • Step 3: 正しい記載が訂正後の記載「B」であると分かるかどうか。
とはいえ、審決では逆の結論だったのであり、Step 2および3の適否の判断が最も難しい点といえることには違いない。

参考: 審判便覧(第16版)38―03 P 訂正要件より
3.誤記の訂正

(1) 「誤記の訂正」とは、本来その意であることが、明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいう。

(2) 誤記の訂正が認められるためには、特許がされた明細書、特許請求の範囲又は図面中の記載に誤記が存在することが必要である。このうち、請求項中の記載が、それ自体で、又は特許がされた明細書の記載との関係で、誤りであることが明らかであり、かつ、特許がされた明細書、特許請求の範囲又は図面の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まるときにおいて、その誤りを正しい記載にする訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
本件特許は、INPADOC family searchで検索しても本件日本特許以外の出願は海外にされていない。優先権の主張もない。本件特許に無効審判請求はされていない。本件特許発明は、化合物(3)等の中間体及びその製法であり、化合物(4)やその製法の発明ではない。つまり、本件で問題となった記載を訂正しようがしまいが本件特許発明の記載要件の適否には影響せず特許が無効とされる可能性はないと思われる。なぜ特許権者は本件訂正審判を請求したのかは定かではない。


Jul 1, 2017

ベポタスチンベシル酸塩(タリオン®)に関する特許権について

2017年6月30日、田辺三菱製薬(株)および宇部興産(株)より「ベポタスチンベシル酸塩(商品名 タリオン®)に関する特許権について」の謹告文が掲載されました(参照: 日刊薬業website: 【謹告】ベポタスチンベシル酸塩(商品名 タリオン®)に関する特許権について)。

田辺三菱は、一般名ベポタスチンベシル酸塩(bepotastine besilate)を有効成分とし、その効能・効果を「アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴うそう痒(湿疹・皮膚炎、痒疹、皮膚そう痒症)」とする医薬品を、「タリオン®錠5㎎」「タリオン®錠10㎎」「タリオン®OD錠5㎎」「タリオン®OD錠10㎎」の商品名で製造販売している。タリオン®錠は、宇部興産と田辺三菱の共同研究により創成された抗アレルギー剤。国内において2000年7月に効能・効果をアレルギー性鼻炎としてタリオン®錠(普通錠)が承認された。また、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う掻痒(湿疹・皮膚炎,痒疹,皮膚掻痒症)の効能・効果については2002年1月に承認された。2007年7月に口腔内崩壊錠を発売し、2015年5月に小児(7-15歳)適応の承認を取得した。タリオンの国内売上収益(2016年)は189億円、2017年度は200億円を超えると予想されている。

ニプロは、田辺三菱の完全子会社だった田辺製薬販売(株)の発行済株式の全てを取得し子会社化したことで、タリオン®錠のオーソライズド・ジェネリック薬品(タリオン AG)を自社製品として取り扱うことが可能となっている(ニプロ press release 2017.03.28 「ジェネリック医薬品の製造販売会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」)

田辺三菱および宇部興産は、ベポタスチンベシル酸塩を有効成分とする医薬品に関し、下記日本特許を有している。
その他参考:

Jun 29, 2017

オキサリプラチン特許侵害訴訟 日本化薬の侵害認めず(知財高裁)

2017年6月29日付の日本化薬のプレスリリースによると、日本化薬から製造販売されている「オキサリプラチン点滴静注液50㎎『NK』」、「オキサリプラチン点滴静注液100㎎『NK』」、「オキサリプラチン点滴静注液200㎎『NK』」に関して、デビオファーム社及びヤクルト本社が特許権及び専用実施権の侵害を理由に損害賠償を請求していた訴訟において、2017年6月28日、知財高裁は、東京地裁の判決(2016.10.31 「ヤクルト・デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成28年(ワ)15355)を支持し、デビオファーム社及びヤクルト本社の控訴を棄却する判決を言い渡したとのことです。

なお、2016年12月8日付リリースのとおり、「オキサリプラチン点滴静注液50mg『NK』」等について、上記訴訟とは別に、デビオファーム社より特許侵害訴訟が提起されていましたが、知財高裁は、同訴訟に対しても、日本化薬による特許権等の侵害を否定していました(過去記事: オキサリプラチン特許侵害差止訴訟 日本化薬の侵害認めず(知財高裁)2016.12.08 「日本化薬 v. デビオファーム」 知財高裁平成28年(ネ)10031))。

参照:

Jun 24, 2017

田辺三菱 ジレニア®(Gilenya®)米国特許訴訟で勝訴

2017年6月20日付けの田辺三菱製薬のプレスリリースによると、2017年6月9日、米国デラウェア連邦地方裁判所は、「製品名「ジレニア®(Gilenya®)」の有効成分であるフィンゴリモド塩酸塩(Fingolimod hydrochloride)を保護する米国特許(US5,604,229)は有効であり、本件特許が満了する2019年2月18日(小児臨床試験実施に基づく6か月間の排他期間の追加の可能性あり)より早く、米国において後発品は承認されない」との判決を下したとのことです。この判決は、被告である後発品会社6社が、後発品をFDAに簡略申請するに当たり、本件特許の無効を主張してきたものの、本件特許は有効であり、原告3社(田辺三菱製薬、ノバルティス社(米国新薬申請ホルダー)および三井製糖(共有特許権者))の権利行使が可能であると認めたものであるとのことです。

ジレニア®:
フィンゴリモド塩酸塩を有効成分とする1日1回経口投与カプセル剤。フィンゴリモド塩酸塩は、スフィンゴシン 1-リン酸(S1P)受容体を標的とする多発性硬化症治療剤であり、田辺三菱製薬による開発着手の後、ノバルティス社に導出。米国においては、2010年9月21日に承認、日本(製品名「イムセラ®/ジレニア®」)をはじめ、欧州、カナダ等80か国以上で承認されている。
ジレニア®のOrangebookによると、リストされている特許は4つ。
  • 5,604,229 (Patent Expiration: Feb 18, 2019)
  • 6,004,565 (Patent Expiration: Sep 23, 2017)
  • 8,324,283 (Patent Expiration: Mar 29, 2026)
  • 9,187,405 (Patent Expiration: Jun 25, 2027)

US8,324,283は製剤特許。IPRでの無効判断がCAFCでも容認された(Novartis AG v. Torrent Pharmaceuticals. Ltd., No. 2016-1352 (Fed. Cir. Apr. 12, 2017))。

US9,187,405は用途特許。2015年11月17日に成立した。Apotexが2017年2月3日、Argentumが2017年6月9日に、IPRをfileしたようである(IPR2017-00854; IPR2017-01550)。

参考:
2017.06.20 田辺三菱製薬プレスリリース: 「米国におけるフィンゴリモド塩酸塩 特許侵害訴訟の地裁勝訴について


Jun 11, 2017

2017.05.16 「メソ スケール テクノロジーズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10196

イムノアッセイの連続交互プロセス: 知財高裁平成28年(行ケ)10196

【背景】

「アッセイ装置,方法,および試薬」に関する特許出願(特願2014-23320; 特開2014-130151)の拒絶審決(不服2015-12712)取消訴訟。争点は進歩性。具体的には、引用発明との相違点2(コンピュータを実装したプロセスが,本願補正発明では,「連続交互プロセス」であるのに対し,引用発明では,そのように特定されていない点)の容易想到性が争われた。


本願補正発明(請求項1):
マルチウェルプレートにおいてアッセイを実施するための方法であって,ここで前記方法は,(a)光検出サブシステム;(b)液体操作サブシステム;(c)プレート操作サブシステム,およびソフトウェアのスケジューラーへと動作可能に接続されたコンピュータを含有する装置を用い,

前記方法が,前記マルチウェルプレートの個々のウェルにおいて実施される以下のステップ:
(i)期間nを含有するサンプル添加フェーズの間に前記個々のウェルに対してサンプルを添加するステップ;
(ii)期間mを含有する放置フェーズの間に前記個々のウェル中に前記サンプルを放置するステップ;
(iii)期間pを含有する試薬添加フェーズの間に前記個々のウェルへと試薬を添加するステップ;ならびに
(iv)前記ソフトウェアのスケジューラーによって前記マルチウェルプレートの個々のウェルに対するステップ(i)~(iii)の状態をトラックするステップ,

を含有するコンピュータを実装した連続交互プロセスを含有し,

ここでステップ(i)が,サンプルを添加するステップの前に前記個々のウェルのシールを穴開けするステップをさらに含有し,

ここで前記マルチウェルプレートの第一のウェルがステップ(i)~(iii)へと供され,そして前記第一のウェルの少なくともステップ(i)が完了したのちに前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいてこれらのステップ(i)~(iii)が繰り返され,
かつ
期間n,mもしくはpの一つもしくはそれ以上が,前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上のウェルにおいて,前記ソフトウェアのスケジューラーによって調整できる,方法。

【要旨】

引用発明1に引用例2に記載された技術事項を適用することについて、裁判所は、
「引用例1と引用例2(甲2)は,共にイムノアッセイに係る技術であり,イムノアッセイにおける全作業時間を短縮させるという課題は,イムノアッセイ全般の一般的な技術課題にすぎない。したがって,引用例2に記載されている,マルチウェルプレートの第一のウェルに反応開始に必要な液体を添加するステップを行ってイムノアッセイの処理を開始し,その第一のウェルでのインキュベーション期間に,前記マルチウェルプレートの一つの追加のウェルに反応開始に必要な液体を添加するステップを行ってイムノアッセイの処理を開始し,マルチウェルプレートにおけるイムノアッセイの全作業時間を短縮することを,引用発明に適用することは,当業者が容易になし得たことである。
そうすると,引用例2に記載された技術事項を適用した引用発明は,「第一のウェル」に対するステップ(ii)中に「前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいて,」少なくともステップ(i)を行い,その後で,「第一のウェル」に対するステップ(iii)を行う,つまり「連続交互プロセス」を含有することになる。
よって,相違点2の容易想到性についての本件審決の判断に誤りはない。」
と判断した。請求棄却。

【コメント】

本出願についてINPADOC patent familyを見てみると、下記日本出願群が存在しているようである。
  • 優先権US 61/123,975 ⇒PCT/US2009/002244(WO2009/126303)
    ⇒特願2011-504004(特表2011-518323)
    ⇒拒絶審決

    ⇒特願2011-504004の分割⇒特願2014-23320(特開2014-130151)
    ⇒拒絶審決(本願
  • 優先権US 60/752,745; 60/752,513: 11/642,968 ⇒PCT/US2006/049049(WO2008/057111)
    ⇒特願2008-547613(特表2009-533650)
    ⇒特許5080494

    ⇒特願2008-547613の分割⇒特願2012-158378(特開2012-230122)
    ⇒拒絶審決

    ⇒特願2012-158378の分割⇒特願2014-148593(特開2014-211450)
    ⇒特許5885788

    ⇒特願2012-158378の分割⇒特願2015-237447(特開2016-048260)
    ⇒審査係属中
  • 優先権US 60/752,745; 60/752,513; 11/642,970 ⇒PCT/US2006/049048(WO2007/076023)
    ⇒特願2008-547612(特表2009-521686)
    ⇒特許5345854

    ⇒特願2008-547612の分割⇒特願2012-179913(特開2013-007751)
    ⇒特許5845156

    ⇒特願2012-179913の分割⇒特願2015-144598(特開2015-232568)
    ⇒特許6113788

    ⇒特願2015-144598の分割⇒特願2016-200778(特開2017-026635)
    ⇒審査係属中

Jun 4, 2017

2017.05.10 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 大阪地裁平成27年(ワ)11759

敗訴となった訴訟行為が不法行為を構成するのか大阪地裁平成27年(ワ)11759; 別紙1

【背景】

本件は、バイオセレンタックが提起した特許権侵害訴訟(バイオセレンタックが敗訴。東京地裁平成25年(ワ)4303; 知財高裁平成26年(ネ)10109)の被告であったコスメディと同社の代表取締役であるP1が、同訴訟の原告であったバイオセレンタック、同訴訟でバイオセレンタックを代表した代表取締役のP2、バイオセレンタックの代表取締役であり本件特許の発明者であるP3並びに同訴訟で訴訟代理人を務めたP4に対し、バイオセレンタックが「コスメディによる本件特許権侵害及び研究成果盗用」という虚偽の事実をコスメディの取引先である岩城製薬及び資生堂に告知した行為は不競法2条1項14号(現行法では15号)の不正競争に該当する或いは上記告知がP1の名誉を棄損したと主張して、不競法4条、民法709(719条1項)または会社法429条1項に基づき損害賠償の支払を求めた事案である。

「告知行為」に関するコスメディの主張は主に下記の点であった。
  • 「被告バイオは,別件侵害訴訟において,原告コスメディの取引先である岩城製薬を共同被告として訴えていたから,同訴訟を通じて,原告コスメディの営業上の信用を害する虚偽の事実を岩城製薬に継続的に告知したといえる。」
  • 「原告ら製品は,原告コスメディから資生堂に販売され,資生堂で製品として完成されて岩城製薬に販売される関係にあるので,原告コスメディは,別件侵害訴訟の情報を資生堂に提供せざるを得なかったが,被告バイオは上記取引関係を認識しながら岩城製薬を共同被告にしたのであるから,被告バイオは虚偽の事実を資生堂にも告知していたといえる。」
【要旨】

主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

裁判所の判断(抜粋)

1.資生堂に対する関係での告知行為について
「不正競争防止法2条1項14号にいう「告知」とは,自己が関知した一定の事実を特定の人に知らせる伝達行為をいうところ,そもそも資生堂に対する関係で被告バイオが告知したわけではないことは原告コスメディも認めているところである。また原告コスメディは,取引関係上,同原告が資生堂に同事実を伝えざるを得なかったことを指摘するが,もし,そうであったとしても,そのことをもって被告バイオが告知したことになるわけではない。」
2.岩城製薬に対する関係での告知行為について
「被告バイオは,原告ら製品の販売が本件特許権の侵害行為に該当するとして岩城製薬を共同被告として訴えているところ,岩城製薬に対する請求を理由づけるためには,岩城製薬が販売している原告ら製品が本件発明の技術的範囲に属するという事実を主張立証する必要があり,その事実関係を具体的に主張立証するためには,結局,共同被告である原告コスメディによる原告ら製品の製造販売が本件特許権の侵害行為であること,すなわち原告ら製品が本件特許権の侵害品であることを主張立証すべきことは避けようがない。

したがって,別件侵害訴訟における原告ら製品が本件特許権の侵害品である旨の事実主張が,共同被告である岩城製薬との関係で不正競争防止法2条1項14号の虚偽事実の告知に該当するということはできない(仮に岩城製薬だけを被告として本件特許権侵害を理由に訴訟を提起したとしても,岩城製薬が販売する製品が本件特許権の侵害品である旨主張することは,その購入先を知っている岩城製薬にとっては,原告ら製品が本件特許権の侵害品であるとの事実指摘を受けたと同じになるから,原告コスメディの論が失当であることは明らかである。)。

なお,被告バイオによる別件侵害訴訟の提起が,権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したことなどを理由として裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くため違法な行為といえるような場合には,同訴訟の被告それぞれに対する訴訟提起が不法行為を構成するとともに,取引先である岩城製薬を共同被告とされた原告コスメディに対する関係では,訴訟制度を濫用的に利用した不正競争防止法2条1項14号に該当する虚偽の事実の告知として不正競争となる余地はあり得ると考えられる。しかし,…別件侵害訴訟の審理経過に照らせば,同訴訟提起が違法な行為であるという余地がないことは明らかであり,そうであれば,やはり岩城製薬を原告コスメディの共同被告として提起された別件侵害訴訟においてなされた原告ら製品が本件特許権の侵害品である旨の事実主張は,不正競争防止法2条1項14号に該当する余地はないというほかない。」
3.研究成果の盗用指摘について
「仮に上記記載事実が虚偽であるとしても,…上記事実は,別件侵害訴訟の審理判断の上で,全く不要な事実であったとはいえないし,全く根拠のない推認に基づくものであったとも,また原告コスメディをもっぱら誹謗中傷するような態様で主張されたものとも認められないから,民事訴訟が,事実関係を究明するため,紛争当事者が攻撃防御方法として相互に立証命題となるべき事実主張を尽くすことが求められるものである以上,これらの事実主張は,訴訟行為として適法というべきであって,これをもって不正競争防止法2条1項14号に該当する「虚偽の事実を告知」したものということはできないというべきである。」
4.名誉棄損の成否について
「原告P1が名誉棄損である旨指摘する引用に係る別紙一覧表の各記載内容は,要するに,原告P1がアクセスして得た被告P3の研究に係る技術情報を不正に利用して原告ら製品を開発したことを指摘するものであるから,原告P1が原告コスメディの代表取締役であるとともに,大学研究室に所属して研究者としても活動している者であることからすると,その指摘に係る事実は,原告P1の社会的評価を低下させるものであり,その名誉を棄損するものということができる。

しかし,これらの事実指摘のうち別紙一覧表記載3ないし5に係る事実については,いずれも別件侵害訴訟において,被告バイオの訴訟活動の一環としてなされたものであり,その事実が別件侵害訴訟の審理判断の上での必要性が肯定されるべきことは上記…で説示したとおりであり,別紙一覧表記載1,2の各事実も結局,同じ問題であるので,その事実を主張することが名誉棄損として不法行為を構成するものということはできない。」
【コメント】

下記裁判でも同事件が取り扱われている。

民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、「その訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる」という観点で、その訴えに関連する行為の違法性の当否が判断されるということであろう。

1988.01.26 最高裁昭和60(オ)122
「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。」

May 28, 2017

2017.04.27 「デビオファーム v. 日医工」 知財高裁平成28年(ネ)10111

対応外国出願の禁反言が特許発明の技術的範囲に適用されるのか: 知財高裁平成28年(ネ)10111

【背景】

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告: デビオファーム)が、被控訴人(一審被告: 日医工)に対し、日医工各製品の製造販売等が特許権侵害に当たると主張して、日医工製品の製造等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決(2016.10.28 「デビオファーム v. 日医工」 東京地裁平成27年(ワ)28468)は、日医工各製品はいずれも本件発明の技術的範囲に属しないとしてデビオファームの請求を棄却したため、デビオファームは控訴した。

日医工各製品は、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)が本件発明に規定されているモル濃度の範囲内で含有するものだが、このシュウ酸は外部から添加されたもの(添加シュウ酸)ではなかった。日医工各製品における「解離シュウ酸」が、本件発明にいう「緩衝剤」に含まれるかどうかが争点。

【要旨】

知財高裁は、本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は、添加シュウ酸に限られ、解離シュウ酸を含まないものと解されるから、解離シュウ酸を含むのみで、シュウ酸が添加されていない日医工各製品は、構成要件の「緩衝剤」を含有するものではなく、したがって、本件発明の技術的範囲に属しないものと判断した。控訴棄却。

【コメント】

知財高裁は、判断の理由を、原判決を一部補正するほか原判決の記載のとおりであるからこれを引用した。すなわち、下記部分も引用しており、知財高裁は、クレームの用語の意義を対応外国出願の審査過程における出願人の主張内容も参酌して解釈する、ということを排除していない。

原判決41頁11行目~:
「確かに,対応米国特許及び対応ブラジル特許は本件特許とは異なる国における別個の出願であるから,それぞれの国の手続において成立する特許発明の範囲に差異がでることは否定できないものの,本件特許と同じ国際出願を基礎とするものである以上,その技術思想は基本的には共通すると考えられるところ,本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」が添加したものに限られず,解離シュウ酸をも含むものと解すると,上記対応米国特許及び対応ブラジル特許の技術思想とは整合しなくなり不合理である。」
原判決:

May 21, 2017

2017.04.27 「デビオファーム v. サンド」 知財高裁平成28年(ネ)10103

オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸と特許発明の技術的範囲: 知財高裁平成28年(ネ)10103

【背景】

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告: デビオファーム)が、被控訴人(一審被告: サンド)に対し、サンド製品1及び2の生産等が本件発明1の技術的範囲に属し特許権侵害に当たると主張して、サンド製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。原判決(2016.09.12 「デビオファーム v. サンド」 東京地裁平成27年(ワ)28849)は、サンド製品1及び2はいずれも本件発明1の技術的範囲に属しないとしてデビオファームの請求を棄却したため、デビオファームは控訴した。また、デビオファームは、サンド製品3についても特許侵害に当たる旨及びサンド各製品が本件発明2の技術的範囲に属する旨の追加の訴えを申し立てた。

サンド製品は、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)が本件発明に規定されているモル濃度の範囲内で含有するものだが、このシュウ酸は外部から添加されたもの(添加シュウ酸)ではなかった。サンド製品における「解離シュウ酸」が、本件発明にいう「緩衝剤」に含まれるかどうかが争点。

【要旨】

知財高裁は、本件発明1における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は、添加シュウ酸に限られ、解離シュウ酸を含まないものと解されるから、解離シュウ酸を含むのみで、シュウ酸が添加されていないサンド製品1及び2は、構成要件の「緩衝剤」を含有するものではなく、したがって、サンド製品1及び2は本件発明1及び本件訂正発明2の技術的範囲に属しないものと判断した。控訴棄却。

また、知財高裁は、デビオファームの追加の訴えの申し立てを却下しなかったが、本件発明2は、本件発明1の「緩衝剤」であるという構成を含むものであるから、サンド各製品は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも本件発明2の技術的範囲にも属さないと判断した。

【参考】

原判決:

May 14, 2017

2017.04.25 「グロービア v. ナチュラルビューティー」 知財高裁平成28年(ネ)10106

フェルガードとフェルゴッド知財高裁平成28年(ネ)10106

【背景】

「フェルガード」と標準文字で書してなる商標(指定商品: フェルラ酸とガーデンアンゼリカを主成分とする粉末及びカプセル状の加工食品。)に関する商標権(第5059677号)を保有するグロービアが、ナチュラルビューティーに対して東京地裁に提起した商標権侵害訴訟において非侵害の判決を受けたため、控訴した事案。争点は、フェルラ酸含有商品を販売するナチュラルビューティーの各標章は本件商標に類似するかであった。

【要旨】

裁判所は、
「本件商標と被告各標章は,外観は異なり,いずれも特定の観念を生じさせるものではなく,その称呼においても,全体の語調,語感において,異なる印象を与えるものである。そして,原告商品及び被告各商品の具体的な取引の実情を踏まえつつ,本件商標と被告各標章が,その外観,観念,称呼等によって需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察した場合,本件商標と被告各標章について,需要者に,商品の出所につき誤認混同を生じさせるおそれがあるということはできない。」
として控訴を棄却した。

「被告各商品は,原告商品を故意に似せて作ったものであり,その販売形態が類似している。サプリメントは需要者が誤って商品を購入すれば,その生命や身体に多大な影響を及ぼすことなどから商標法による保護が一層重要である」等のグロービアの主張に対して、裁判所は、
「被告各商品は,原告商品と外箱のデザインなどが類似しているほか,インターネット上のウェブサイトにおいて,被告各商品が「フェルガードに替わるフェルラ酸含有食品」などと紹介されており,また,検索サイトで原告商品である「フェルガード」を検索すると,「フェルゴッド」との標章を有する被告各商品が表示されることが認められる。しかし,これらの事情は,他の法律の規制を受けることの一事情になり得るとしても,これらの事情によって,本件商標と被告各標章との間で,商標法上,出所の誤認混同のおそれを生じさせるに至るということはできない。」
と判断した。

【コメント】

原告の主張によれば、「被告各商品は,かつて原告と取引関係にあり,原告商品を販売していた株式会社サンユーコーポレーションの関係者が,原告との取引解消直後に,関連会社をして「フェルゴッド」との文字からなる商標に係る商標権を取得させ,さらに,被告を設立してこれを販売元として販売を開始しているのであって,原告商品又は本件商標の有するブランド力を利用する目的で作られたことが明らかである。」(原審より引用)との事情があったようである。

ところで、グロービアの商品に関連する判決として以下のものがある。

May 11, 2017

臨床開発中のemicizumabの米国内製造等が特許侵害にあたるとしてバクスアルタ社が中外製薬を提訴

中外製薬のニュースリリースによると、臨床開発中の血友病Aに対する新薬候補物質「emicizumab」(開発コード:ACE910)がバクスアルタ社保有の米国特許第7,033,590号に触れるとし、米国における上記emicizumabの製造、使用、譲渡の申出、譲渡、輸入の差止め等を求める訴えが中外製薬および米国ジェネンテック社に対して米国デラウェア州連邦地方裁判所において提起されたとのことです。

バクスアルタ社は、米国内でのemicizumab製造、販売および輸入等がバクスアルタ社の米国特許を侵害すると主張しているようですが、中外製薬は、emicizumabがバクスアルタ社の特許を侵害しないものと確信しており、当該特許の非侵害及び無効の主張、その他適切な反論を行っていく方針であるとのことです。

米国特許第7,033,590号のclaim 1:
1. An isolated antibody or antibody fragment thereof that binds Factor IX or Factor IXa and increases the procoagulant activity of Factor IXa.
Emicizumab(開発コード:ACE910):
中外製薬にて創製された抗factor IXa/X バイスペシフィック抗体(注射剤)であり、血友病Aを予定適応症として、現在、第III相(国際共同治験)の段階。
ちょうど昨年の今日、日本での行為に対して訴訟が提起されたというニュース(バクスアルタ社が国内臨床試験中emicizumabの製造・使用を特許侵害にあたるとして中外製薬を提訴)がありました。

参考:

May 8, 2017

2017.03.23 「DKSH v. ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ・中外製薬」 知財高裁平成28年(行ケ)10101

マキサカルシトールの製造方法の進歩性: 知財高裁平成28年(行ケ)10101

【背景】

ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ及び中外製薬が保有する「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許(第3310301号)に対して、DKSHがした無効審判請求を不成立とした審決(無効2015-800057)の取消訴訟。争点は進歩性の有無及びサポート要件違反の有無。

【要旨】

請求棄却。進歩性の有無についての裁判所の判断(一部)は下記のとおり。

原告は、
「甲1発明は,「甲1記載の化合物(9)を用い,SN2反応を経由してマキサカルシト-ル(1α,25-(OH)2-22-オキサ-D3。以下「OCT」ともいう。)を製造する方法」と認定されるべきである。…甲1には「化合物(9)を用いたOCTの製造方法」の発明が記載されていることが認められるところ,第1級ハロゲン化アルキルとアルカリ金属アルコキシドのような求核性化合物との反応がSN2反応となることは,技術常識であるから,「化合物(9)を用い,SN2反応を経由するOCTの製造方法」は,甲1に記載されているに等しい事項であり,原告主張の甲1発明が認定できる。仮に,ステロイド-20(S)-アルコールからOCTを得るまでの工程として,審決認定の甲1発明以外に具体的な記載が甲1にないとしても,審決認定の甲1発明の上位概念たる原告主張の甲1発明を認定することは,当然に許される。」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「ウィリアムソン反応がSN2反応の一種であることが技術常識であったとしても,甲1に,ウィリアムソン反応ではない反応も含むSN2反応について記載されているとは認められず,また,ウィリアムソン反応ではない反応も含むSN2反応が,甲1に記載されているに等しい事項であるとも認められないのであって,甲1に,「甲1記載の化合物(9)を用い,SN2反応を経由して,OCTを製造する方法」が記載されているとは認められないし,これが記載されているに等しい事項であるとも認めることはできない。
また,以上に述べたところからすると,甲1発明を原告が主張するような上位概念として認定することも相当ではない。」
と判断した。

また、原告は、
「甲1発明と甲2に記載された事項とは,技術分野,課題,作用・機能が共通する」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「甲1発明と甲2に記載された事項の技術分野,課題,作用・機能が共通するのは,前記イ(ウ)a~cのとおり,アルコール類と第1級のハロゲン化アルキルとの反応であり,その反応がいずれもSN2反応であるという限度においてである。アルコール類も第1級のハロゲン化アルキルも多数存在し,SN2反応をする化合物は,ウィリアムソン反応の対象となる化合物に限られないにもかかわらず,前記の限度での共通性をもって,甲1発明に甲2に記載された事項を適用する動機付けと認めることはできない。」
と判断した。

【コメント】

原告は、引用例に記載された発明から、技術常識に基づいて記載されているに等しい事項として、或いは、上位概念として、原告主張の発明が認定されるべきであることを主張したが、裁判所は認めなかった。

参考:

Apr 25, 2017

2017.03.22 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成28年(ネ)10094

訴訟提起した者が敗訴した場合、訴えの提起が相手方に対する違法な行為とされるのか?知財高裁平成28年(ネ)10094

【背景】

本件は、バイオセレンタックが提起した特許権侵害訴訟(バイオセレンタックが敗訴。東京地裁平成25年(ワ)4303; 知財高裁平成26年(ネ)10109)の被告であったコスメディと同社の代表取締役であるXが、同訴訟の原告であったバイオセレンタック、同訴訟でバイオセレンタックを代表した代表取締役のY1、バイオセレンタックの代表取締役であり本件特許の発明者であるY2並びに同訴訟で訴訟代理人を務めたY3に対し、バイオセレンタックが「コスメディによる本件特許権侵害及びY2の研究成果盗用」という虚偽の事実をコスメディの協業相手である岩城製薬及び資生堂に告知した行為は不競法2条1項14号(現行法では15号)の不正競争に該当する或いは上記告知がXの名誉を毀損したと主張して、不競法4条、民法709(719条1項)または会社法429条1項に基づき損害賠償の支払を求めた事案である。

【要旨】

知財高裁は、必要な範囲で判断を付加したほかは、原判決を引用し、控訴を棄却した。付加判断のうち、不正競争の成否について以下に引用する。
「訴えの提起が相手方に対する違法な行為となるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる(最高裁第三小法廷昭和63年1月26日判決・民集42巻1号1頁参照)。かかる要件を満たさないのに,訴訟提起という形による虚偽事実の告知が形式的に不正競争に当たることを理由として,これを違法とすることは,たとえ訴訟提起の相手方(本件では岩城製薬)との関係で違法と評価するものではなかったとしても(不正競争かどうかは,飽くまで競業者である控訴人コスメディとの関係において問題となるものである。),結局はこれを不当提訴であると断じるに等しく,裁判制度の自由な利用を著しく阻害することとなり妥当でない(むしろ,特許権者が自己の権利を侵害されているとの認識の下に,当該侵害者を相手方として訴訟を提起することは,当該訴訟が不当訴訟と評価されるような特段の事情がない限り,裁判を受ける権利の行使として当然許される行為であるというべきである。)。
したがって,かかる制度的観点からは,特許権者が,競業者ないしその取引先に対する関係でおよそ請求が成り立たないことを知りながら,あるいは,当然そのことを知り得たはずであるのに,あえて当該取引先をも共同被告として訴訟を提起するなど,訴訟制度を濫用的に利用したと評価し得るような特別な事情が存する場合は格別として,そのような場合でなければ,外形的には不正競争に当たり得るとしても,訴訟提起自体を違法と評価することはできないというべきである。

これを本件についてみるに…(略)…被控訴人バイオが,あらかじめ本件特許にかかる無効理由が存することを知りながら,あるいは,これを当然知り得たはずであるのに,あえて(無理を承知で)同訴訟を提訴したというような事情はうかがわれないし…(略)…,被控訴人バイオに,専ら控訴人コスメディの信用を毀損する目的など,訴訟制度を濫用的に利用したと評価されるべき不当な目的があったことを認めるに足りる的確な証拠もない。

以上によれば,被控訴人バイオが岩城製薬を共同被告として別件侵害訴訟を提起したのは,正当な権利行使の一環というべきであって,それが外形的には不正競争防止法2条1項14号の不正競争に該当し得る行為であったとしても,正当行為として違法性が阻却されるものと認めるのが相当である。原判決の認定判断もかかる趣旨を述べるものと理解することが可能であって,論旨不明との指摘は当たらない。」

従って、裁判所は、コスメディの主張は採用できないと判断した。

また、研究成果盗用の指摘が虚偽事実の告知に当たるとのコスメディの主張について、これを主張したコスメディは独自に開発した過程を明らかにして具体的に主張立証すべきところ、これを全く行わなかったため、虚偽事実の告知の成否についても裁判所はコスメディの主張は採用できないと判断した。

【コメント】

バイオセレンタックから「侵害だ、盗用だ」と訴えられたコスメディが、非侵害判決を受け、「言いがかりをつけやがって。どうしてくれるんだよ。責任とれ。」ということで、会社だけでなく代表取締役及び当時の訴訟代理人も相手にして訴え返したという事件。訴えの提起が違法な行為となるかどうかについては、判決文中でも引用されている下記最高裁判決での判示事項が参考になる。
  • 1988.01.26 最高裁昭和60(オ)122
    「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。」
本件特許は、「経皮吸収製剤,経皮吸収製剤保持シート,及び経皮吸収製剤保持用具」に関する特許第4913030号。

参考:

Apr 17, 2017

2017.03.08 「ホスピーラ v. デビオファーム」 知財高裁平成27年(行ケ)10167

「緩衝剤」としての「シュウ酸」は添加シュウ酸に限られ、解離シュウ酸を含まない(審決取消): 知財高裁平成27年(行ケ)10167

【背景】

被告(デビオファーム)が保有する「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許第4430229号の無効審判請求を不成立とした審決(無効2014-800121)の審決取消訴訟。

請求項1(訂正発明1):

オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,
1)緩衝剤の量が,以下の:
(a)5x10-5M~1x10-2M ,
(b)5x10-5M~5x10-3M ,
(c)5x10-5M~2x10-3M ,
(d)1x10-4M~2x10-3M ,または
(e)1x10-4M~5x10-4M
の範囲のモル濃度である,pHが3~4.5の範囲の組成物,あるいは
2)緩衝剤の量が,5x10-5M~1x10-4Mの範囲のモル濃度である,
組成物。

【要旨】

審決を取り消す。

本件訂正発明の「緩衝剤の量」とは、解離シュウ酸をも含んだ「オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」ではなく、解離シュウ酸を含まない「オキサリプラチン溶液組成物を作製するためにオキサリプラチン及び担体に追加され混合された緩衝剤の量」を意味するものと解釈すべきであり、そうすると、本件審決が、本件訂正発明の「緩衝剤の量」は「オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」を意味するとの解釈に基づいてした本件訂正発明の要旨認定は誤りであるといえる。そして、本件審決は、当該要旨認定を前提として、実施可能要件違反、サポート要件違反、新規性欠如及び進歩性欠如の各無効理由(無効理由2ないし5)についての判断をしたものであり、上記「緩衝剤の量」が「オキサリプラチン溶液組成物を作製するためにオキサリプラチン及び担体に追加され混合された緩衝剤の量」を意味することを前提とした場合の上記各無効理由の有無については判断していない。特に、進歩性欠如の無効理由(無効理由5)については、請求人(原告)が当該解釈を前提とした場合の本件訂正発明1ないし17に係る進歩性の欠如を具体的に主張していたところ、本件審決は、当該解釈が採用できないことを理由に、請求人(原告)の上記主張を検討の対象とせず、これについて何ら判断をしていない。してみると、本件審決の上記要旨認定の誤りは、少なくとも本件訂正発明1ないし17に係る進歩性欠如の無効理由についての審決の判断に影響を及ぼすものといえる。したがって、原告主張の取消事由2には理由がある。

【コメント】

裁判所は、無効審判における要旨認定において問題となった「緩衝剤」についての「シュウ酸」が添加シュウ酸に限られ解離シュウ酸を含まないことを意味するものと解釈すべきであることを、特許請求の範囲の記載、明細書における定義の記載及び定義以外の記載、並びに、発明の目的及び発明と引用発明との関係に照らして丁寧に検討し、結論を下した。

Apr 10, 2017

2017.02.28 「ザ・ヘンリー・エム・ジャクソン・ファンデイション v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10107

臨床効果が証明されていなければ引用発明にならない?知財高裁平成28年(行ケ)10107

【背景】

「乳癌再発の予防用ワクチン」に関する特許出願(特願2011-540853; 特表2012-511578; WO2010/068647)の拒絶審決(不服2014-19365)取消訴訟。争点は、引用発明の認定の適否。

請求項1:
製薬上許容される担体,配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドの有効量及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を含み,配列番号3のアミノ酸配列を有するE75ペプチドを含まないワクチン組成物。

すなわち、「製薬上許容される担体,GP2の有効量及びGM-CSFを含み,E75を含まないワクチン組成物。」
審決は、引用文献には「GP2とGM-CSFを含有するワクチン」の発明(引用発明)が記載されているものと認め、本願発明と引用発明は一致し、両者の発明を特定するための事項に差異はないと判断したが、原告は、引用発明は「GP2とGM-CSFを含有し,E75と組み合わせて使用される細胞傷害性T細胞(CTL)誘導剤」と認定されるべきであり、審決は引用発明の認定を誤ったものであり取り消されるべきであると主張した。

【要旨】

裁判所は、原告請求の取消事由1(引用発明はCTL誘導剤であってワクチンではないこと)には理由があるとして審決を取り消した。以下、裁判所の判断の抜粋。
「本願優先日当時,「癌ワクチン」について,以下の技術常識が存在したものと認められる。ペプチドが「ワクチン」として有効であるというためには,①当該ペプチドが多数のペプチド特異的CTLを誘導し,②ペプチド特異的CTLが癌細胞へ誘導され,③誘導されたCTLが癌細胞を認識して破壊すること,が必要である。あるペプチドにより,多数のペプチド特異的CTLが誘導されたとしても,誘導されたCTLが癌細胞を認識することができない,誘導されたCTLが癌細胞を確実に破壊するとは限らないなどの理由により,当該ペプチドに必ずしもワクチンとしての臨床効果があるということはできない。

引用発明は・・・標準治療後のHLA-A2型のリンパ節転移陰性乳癌患者について,GP2ペプチドとアジュバントのGM-CSFを6か月接種したところ,全ての患者においてGP2特異的CTL細胞のレベルが増加したというものであり,GP2ペプチドがワクチンとして有効であるというために必要な,当該ペプチドが多数のペプチド特異的CTLを誘導したことを示したものである。これに対し,本願発明は,上記1のとおり,GP2ペプチドとGM-CSFを投与した無病の高リスク乳癌患者に,GP2特異的CTLが増大したのみならず,再発率が低減した,すなわち,誘導されたCTLが腫瘍細胞を認識し,これを破壊することによって,臨床効果があることを示したものである。・・・本願優先日当時,あるペプチドにより多数のペプチド特異的CTLが誘導されたとしても,当該ペプチドに必ずしもワクチンとしての臨床効果があるとはいえない,という技術常識に鑑みると,ペプチド特異的CTLを誘導したことを示したにとどまる引用発明は,本願発明と同一であるとはいえない。」

これに対し、被告は、

「CTLが誘導されれば癌に効くという技術的事項は,本願優先日前から周知であるから,引用発明の組成物は本願発明の「ワクチン」と同一である」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「本願優先日当時の技術常識を踏まえると,CTLが誘導されることは,癌ワクチンとして有効であるための前提条件であるものの,さらにCTLが癌細胞へ誘導され,癌細胞を破壊することが必要であり,そのような誘導や破壊ができない場合があるから,CTLが誘導されることと,癌ワクチンとして有効であることが技術的に同一であるとはいえない。したがって,被告の主張は,理由がない。」

と判断した。

また、被告は、

「引用文献の組成物は,フェーズIの臨床試験の結果を開示するものである上,「ワクチン」と表記されている」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「引用文献(甲1)は,フェーズIの臨床試験の結果の概要を示すものであるが,引用発明は,・・・標準的治療後のHLA-A2型のリンパ節転移陰性乳癌患者について,GP2ペプチドとアジュバントのGM-CSFを6か月接種したところ,全ての患者においてGP2特異的CTL細胞のレベルが増加したというものであって,ペプチド特異的CTLを誘導したことを示したにとどまるものであるし,また,引用文献には「ワクチン」と表記されている箇所があるものの,「ワクチン」としての使用の可能性があることから,そのように述べたものと解されるから,引用発明が本願発明と同一であるということはできない。」
と判断した。

【コメント】

引用文献の著者は本願発明の発明者自身であり、自ら引用文献で「抗癌ワクチンとしてGP2+GM-CSFの臨床試験を実施し」、「6カ月間ワクチン接種した」と表記している。
引用文献中の臨床試験は、本願発明者がワクチンとしての効果を期待して実施したことは明らかであるし、そのような可能性が期待されて実施されたのだろうということは引用文献を見た当業者であれば認識できるわけであるが、裁判所は、引用文献には、その臨床効果、すなわち癌の再発率が低減したことまで示されていないことから、引用発明はワクチンではないと判断した。

すなわち、引用文献からその効果を期待して実施されたことが当業者が見て明らかであっても、臨床効果が証明されたという記載がなければ、医薬用途発明の引用発明として認定されないということを示した判断であり、本事件の個別具体的な判断だったとしても、医薬用途発明の新規性判断における引用発明の適否に関して極めてインパクトのある判決であると思われる。

今回の判決は、下記過去判決とは異なる考え方を示したものである。
ワクチンに限らず、医薬品分野の技術常識として、非臨床試験でデータを積み上げてきたとしても、必ずしも薬剤としての臨床効果があると証明することはできない(臨床効果があるかどうかは臨床試験しなければ証明できない)のは当たり前の話である。一方で、臨床効果を証明していなくても、非臨床試験データからでも、医薬品として有用であろう/期待できる/推論できるとの技術思想の創作は当業者であればできるわけである。臨床試験で結果確認しないかぎり、ワクチンとして開発中であることが知られても、当業者は本当にワクチンとしての発明をそこから認識できないのか。

臨床試験プロトコールが引用文献に記載されていたとしても、試験結果が記載されていない引用文献の内容からだけでは、(判決の文言を借りれば)「必ずしも[医薬品]としての臨床効果があるとはいえない」から、ヒト用医薬用途発明の新規性判断において、引用発明として認定されないことになってしまうのか。

裁判所の技術常識のあてはめ方は、医薬品として効果が「有用であろう/期待できる/推論できる」と当業者が認識できるかどうかという観点での技術常識をあてはめるべきところ、医薬品として効果が「証明できる」と当業者が認識できるかどうかという観点での技術常識をあてはめた点で、本判決における引用発明の認定判断は妥当だったのかどうか疑問が残る。

米国では、クレームを乳がんや患者細胞での遺伝子発現レベルについて限定することによって特許になっている(欧州でも同様の補正をして特許許可されたようである)。

US 9,114,099 B2
1. A method of preventing breast cancer recurrence in a subject, comprising: a) selecting the subject, wherein the subject is in remission following treatment with a standard course of therapy, and wherein the subject, prior to remission, had breast cancer cells with low or intermediate expression of HER2/neu, wherein low or intermediate expression of HER2/neu is an immunohistochemistry (INC) rating of 1+ or 2.sup.+ protein expression or a fluorescence in situ hybridization (FISH) rating of less than about 2.0 for HER2/neu gene expression; and b) administering to the subject selected in step a) a composition in an amount effective to prevent breast cancer recurrence, wherein the composition comprises a pharmaceutically effective carrier, a peptide consisting of the amino acid sequence SEQ ID NO: 2, and granulocyte macrophage-colony stimulating factor, and wherein, other than the peptide consisting of the amino acid sequence of SEQ ID NO: 2, the composition does not contain any other Her2/neu-derived peptides.



Apr 3, 2017

2017.02.22 「エヌ・エル・エー v. 東洋新薬」 知財高裁平成27年(行ケ)10231

「一部」、僅かな部分のサポート要件違反知財高裁平成27年(行ケ)10231

【背景】

東洋新薬(被告)が保有する「黒ショウガ成分含有組成物」に関する特許権(第5569848号)の無効審判(無効2015-800007)請求不成立の審決取消訴訟。

請求項1:
黒ショウガ成分を含有する粒子を芯材として,その表面の一部又は全部を,ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したことを特徴とする組成物。
原告は、
  • 請求項1における「ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆した」との文言は,コート層の厚み,被覆率等が規定されていない以上,コート剤に含まれるナタネ油あるいはパーム油の量が極小量である構成をも許容していることが明らかであるところ,これらが極小量の場合には,当該ナタネ油あるいはパーム油に起因して本件発明の効果を奏するとはいえないこと
  • 「その表面の一部又は全部を…」との文言は,芯材(黒ショウガ成分を含有する粒子)におけるコート剤によって被覆されている部分がごく一部である構成を許容していることが明らかであるところ,例えば,芯材におけるコート剤によって被覆されている部分が全表面積の10%,露出部分が同90%である場合に,「摂取前の黒ショウガ成分の酸化を防止して保存安定性も高め,摂取後の胃液等による変性を防止することができる」とする根拠が不明であること
の2点を理由に、本件発明は、発明の目的である「ポリフェノール類の体内への吸収性の向上」や「黒ショウガ成分の酸化の防止」を達成し得ない範囲を包含しており、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているのに、本件審決がサポート要件違反を認めなかったのは誤りであると主張した。

【要旨】

裁判所は、上記原告主張を認め、サポート要件違反を認めなかった審決を取り消した。

裁判所の判断(抜粋)
「特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,①発明の詳細な説明に記載された発明で,②発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。」
「当業者は,たとえ,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面を「油脂を含むコート剤」で被覆することにより,本件発明の課題が解決できると認識し得たとしても,その量や程度が不十分である場合には,本件発明の課題を解決することが困難であろうことも予測するといえる。
ところが…(略)…コート剤による被覆の量や程度が不十分である場合には,本件発明の課題を解決することが困難であろうとの当業者の予測を覆すに足りる十分な記載が本件明細書になされているものとは認められないのであり,また,これを補うだけの技術常識が本件出願当時に存在したことを認めるに足りる証拠もない。したがって,本件明細書の記載(ないし示唆)はもとより,本件出願当時の技術常識に照らしても,当業者は,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の僅かな部分を「油脂を含むコート剤」で被覆した状態が本件発明の課題を解決できると認識することはできないというべきである。…(略)…そうすると,本件発明の特許請求の範囲の記載は,いずれも,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識に照らして,当業者が,本件明細書に記載された本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており,サポート要件に適合しないものというべきである。」
被告は、
「芯材である「黒ショウガ成分を含有する粒子」におけるコート剤によって被覆されている部分がごく一部である態様等,本件明細書の記載や本件出願当時の技術常識からみて,当業者が通常想定しないような極端なケースを挙げてサポート要件違反とすることは,適切な発明の保護が観点からみて不当である」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「サポート要件の趣旨は,要するに,発明の詳細な説明に記載していない発明が特許請求の範囲に記載され,公開されていない発明について独占的,排他的な権利を認めることを許容しないことにあるところ,本件発明には,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の僅かな部分を「油脂を含むコート剤」で被覆した態様が包含されているといえるのであるから,このような態様についてのサポート要件を検討することが不当であるとはいえないことはもちろんであって,上記被告の主張は採用することができない。」
と判断した。

【コメント】

「その表面の一部又は全部を」というクレームの構成をサポートできるほどの記載が明細書になかった。クレーム自体どのように表現すればよかったか、明細書にどこまで詳細に記載すべきだったかという点を考えてみることは、製剤関連発明の出願をする際の参考になるかもしれない。

本特許においては分割出願があり、特許5964344号及び特許5997856号が登録されているが、いずれも無効審判請求はされていないようである。
  • 特許5964344号
    請求項1: 黒ショウガの乾燥粉末を芯材として、その表面の一部又は全部を、ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したことを特徴とする経口用組成物。
    請求項2: 黒ショウガ抽出物の乾燥粉末を芯材として、その表面の一部又は全部を、ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したことを特徴とする経口用組成物。
  • 特許5997856号
    請求項1: 黒ショウガの乾燥粉末に対してナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤を噴霧することにより、前記黒ショウガの乾燥粉末を前記コート剤で被覆することを特徴とする経口用組成物の製造方法。
    請求項2: 黒ショウガ抽出物の乾燥粉末に対してナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤を噴霧することにより、前記黒ショウガ抽出物の乾燥粉末を前記コート剤で被覆することを特徴とする経口用組成物の製造方法。
参考:

Mar 25, 2017

2017.03.24 「マキサカルシトール事件(均等の第5要件)」 最高裁平成28年(受)1242

均等の第5要件(特段の事情)の判断基準(マキサカルシトール事件)最高裁平成28年(受)1242

【背景】

「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許権(特許第3310301号)の共有者である中外製薬(被上告人)が、上告人らの販売に係る各マキサカルシトール製剤の製造方法は、本件発明と均等であり、その技術的範囲に属すると主張して、上告人ら製品の輸入、譲渡等の差止め及び廃棄を求めた事案。

原審である知財高裁大合議判決( 2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10014)では、均等の成否の判断における第5要件(特段の事情)について、本件では「特段の事情」が存するとはいえず、上告人らの製造方法は本件特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するとし、被上告人の請求を認容すべきものとした。それに対し、上告人らの主張は、原審の上記判断は「特段の事情」が認められる範囲を狭く解しすぎている旨をいうものである。

【要旨】

最高裁は、原審である知財高裁大合議判決( 2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10014)と同様に、均等の成否の判断における第5要件(特段の事情)の判断基準について以下のように判示した。
(1) 出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても,それだけでは,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえないというべきである。

(2) もっとも,上記(1)の場合であっても,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。
最高裁は、本件について、事実関係等に照らすと、被上告人が、本件特許の特許出願時に、本件特許請求の範囲に記載された構成中の上告人らの製造方法と異なる部分につき、客観的、外形的にみて、上告人らの製造方法に係る構成が本件特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて本件特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたという事情があるとはうかがわれないから、原審の判断は、これと同旨をいうものとして是認することができると判断した。上告棄却。

【コメント】

本事件は化学(医薬)分野の発明であり、その特許請求の範囲の構成は化学構造として認識でき、当該発明の技術的範囲に包含されるかどうかは文言上明確に判断できるものであったため、そのような発明であっても均等論が柔軟に適用されるのかどうかが注目された事件だったが、均等の成否の判断における第5要件(特段の事情)について一歩踏み込んだ判断基準を知財高裁大合議判決が示したことにより、化学分野だけに限らず、一般的にも、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの「特段の事情」とはどのような事情まで含まれるのかについての解釈が注目されることとなった。知財高裁大合議での解釈は最高裁でも是認されたことになる。

参考: