Dec 11, 2017

2017.11.21 「X v. アルコン リサーチ, 協和発酵キリン」 知財高裁平成29年(行ケ)10003

特許庁と裁判所の間で事件が際限なく往復。裁判所が審判審理に問題があったと付言: 知財高裁平成29年(行ケ)10003

【背景】

「アレルギー性眼疾患を処置するためのドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物」に関する特許第3068858号について原告(X)がした無効審判請求(無効2011-800018)を不成立とした審決の取消訴訟。争点は進歩性。

過去の経緯: 知財高裁が特許無効とする審決(第1次審決)を取り消す旨の決定(平成24年(行ケ)10145)をした後、特許庁は被告らの訂正請求(第2次訂正)を受け審判請求は成り立たない旨の審決(第2次審決)をしたが、知財高裁は審決を取り消す旨の判決(2014.07.30 「X v. アルコン リサーチ, 協和発酵キリン」 知財高裁平成25年(行ケ)10058)をした。しかし、特許庁は被告らの訂正請求(本件訂正)を受け審判請求は成り立たない旨の審決(本件審決)をしたため、原告は再度審決取消訴訟を提起した。

【要旨】

裁判所の判断
「本件発明1の効果は,当業者において,引用発明1及び引用発明2から容易に想到する本件発明1の構成を前提として,予測し難い顕著なものであるということはできず,本件審決における本件発明1の効果に係る判断には誤りがある。・・・以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,本件審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。」
なお、裁判所は、本件審判の審理は、行政事件訴訟法33条1項の規定の趣旨に照らし問題があったといわざるを得ないとして、以下のように付言した。
「特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理,審決をするが,再度の審理,審決には,行政事件訴訟法33条1項の規定により,取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって,再度の審判手続において,審判官は,取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと,あるいは上記主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきではない。また,特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとの理由により,容易に発明することができたとはいえないとする審決の認定判断を誤りであるとしてこれが取り消されて確定した場合には,再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないと認定判断することは許されない(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。

前訴判決は,「取消事由3(甲1を主引例とする進歩性の判断の誤り)」と題する項目において,引用例1及び引用例2に接した当業者は,KW-4679についてヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用(ヒト結膜肥満細胞安定化作用)を有することを確認し,ヒト結膜肥満安定化剤の用途に適用することを容易に想到することができたものと認められるとして,引用例1を主引用例とする進歩性欠如の無効理由は理由がないとした第2次審決を取り消したものである。特に,第2次審決及び前訴判決が審理の対象とした第2次訂正後の発明1は,本件審決が審理の対象とした本件発明1と同一であり,引用例も同一であるにもかかわらず,本件審決は,本件発明1は引用例1及び引用例2に基づき当業者が容易に発明できたものとはいえないとして,本件各発明の進歩性を認めたものである。

発明の容易想到性については,主引用発明に副引用発明を適用する動機付けや阻害要因の有無のほか,当該発明における予測し難い顕著な効果の有無等も考慮して判断されるべきものであり,当事者は,第2次審判及びその審決取消訴訟において,特定の引用例に基づく容易想到性を肯定する事実の主張立証も,これを否定する事実の主張立証も,行うことができたものである。これを主張立証することなく前訴判決を確定させた後,再び開始された本件審判手続に至って,当事者に,前訴と同一の引用例である引用例1及び引用例2から,前訴と同一で訂正されていない本件発明1を,当業者が容易に発明することができなかったとの主張立証を許すことは,特許庁と裁判所の間で事件が際限なく往復することになりかねず,訴訟経済に反するもので,行政事件訴訟法33条1項の規定の趣旨に照らし,問題があったといわざるを得ない。」
【コメント】

本件特許第3068858号は、販売名 パタノール点眼液0.1%(有効成分は塩酸オロパタジン、処分の対象となった物について特定された用途はアレルギー性結膜炎)について存続期間延長登録(2006-700064; 延長の期間は5年)がなされたため、存続期間満了日は2021年5月3日となっている。

オロパタジン塩酸塩 (Olopatadine hydrochloride) は、協和発酵工業(株)(現 協和発酵キリン(株))が創製した抗アレルギー剤。日本においては、2000年12月に経口剤(販売名:アレロック錠2.5・5)が「アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う 痒(湿疹・皮膚炎、痒疹、皮膚 痒症、尋常性乾癬、多形滲出性紅斑)」に対する効能・効果で承認された。抗アレルギー点眼剤としては、米国アルコン社が協和発酵工業(株)よりライセンス供与を受け開発、日本では、アレルギー性結膜炎を効能効果とした薬剤として、2006年7月にパタノール®点眼液0.1%が承認された。米国では、PATANOL® (OLOPATADINE HYDROCHLORIDE)EQ 0.1% BASEについてすでに後発品が参入している。

参考:

Dec 8, 2017

2017.10.25 「ディーエイチシー v. 富士フイルム」 知財高裁平成28年(行ケ)10092; 知財高裁平成28年(ネ)10093

アスタキサンチン含有スキンケア用化粧料の進歩性2: 知財高裁平成28年(行ケ)10092知財高裁平成28年(ネ)10093

知財高裁平成28年(行ケ)10092は、富士フイルムが保有する「分散組成物及びスキンケア用化粧料並びに分散組成物の製造方法」に関する特許(第5046756)の無効審判請求(無効2015-800026)を不成立とした審決の取消訴訟。争点は進歩性の判断の当否。裁判所は、甲1ウェブページについて、本件出願日前に電気回線を通じて公衆に利用可能であったものと認めることはできず、本件発明が引用発明1に基づき容易に発明することができたとの無効理由はその前提に誤りがあり、審決の結論に誤りはないと判断した。ディーエイチシーの請求を棄却した。富士フイルム勝訴。

知財高裁平成28年(ネ)10093は、本件特許についての特許権侵害差止等請求事件。原審(東京地裁判決(2016.08.30 「富士フイルム v. ディーエイチシー」 東京地裁平成27年(ワ)23129))と同様に、ディーエイチシー製品はいずれも本件発明の各技術的範囲に属するものと認めたが、本件発明は、乙34ウェブページに記載された引用発明に基づき、本件特許には進歩性欠如の無効理由があり、無効にされるべきものと認められるから、本件特許権を行使することはできないとして、控訴人(富士フィルム)の控訴を棄却した。ディーエイチシー勝訴。

上記審決取消訴訟と特許権侵害訴訟とで知財高裁での勝敗が異なったのは、それぞれ無効理由として進歩性欠如の主張の基礎として挙げられていた引例が異なっていたためであって、引例として主張されたウェブページが本件出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであったかという問題において、前者引例ウェブページは利用可能となっていたとの主張が認められず、後者引例ウェブページは利用可能となっていたとの主張が認められたという点で異なってた。結局のところ、特許権侵害差止等請求事件(知財高裁平成28年(ネ)10093)により、富士フイルムは特許権を行使することができないと判断されたことで、一連の係争で富士フイルムは敗訴ということとなった。

参考:

Dec 3, 2017

ファイザー リネゾリド Meiji Seikaファルマ後発品で特許侵害訴訟提起

2017年11月30日付ファイザー(株)のプレスリリースによると、ファイザーは、ザイボックス®注射液およびザイボックス®錠(一般名:リネゾリド)の後発品(リネゾリド点滴静注液600mg「明治」およびリネゾリド錠600mg「明治」)に関して、Meiji Seika ファルマ(株)に対し、特許専用実施権の侵害を理由として上記製品販売の部分差止等および損害賠償を請求する訴訟を11月29日付で東京地裁に提起し、併せて上記製品販売等の部分差止等の仮処分命令の申立てを行ったとのことです。

ファルマシア・アンド・アップジョン・カンパニーは、リネゾリドの有効成分に関する特許をMRSA感染症適応医薬に関して保有しており、ファイザー(株)は、本特許権の専用実施権者として、ザイボックス注射液600mgおよびザイボックス錠600mgを製造販売しているとのことです。

参考:
ザイボックス(一般名:リネゾリド(linezolid)):
米国ファイザー社(旧ファルマシア・アップジョン社)で合成されたオキサゾリジノン系骨格を有する新しいクラスの合成抗菌薬。作用機序は、既存の抗菌薬とは異なり、細菌の蛋白合成の早期段階を阻害するため、既存の各種抗菌薬に耐性を示すグラム陽性球菌(MRSA、VRE等)に対しても抗菌活性を示します。日本においては、2001年4月4日に「本剤に感性のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム」による「各種感染症」を適応症として承認され、2006年4月20日には、適応菌種として「本剤に感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」、適応症として「敗血症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、肺炎」とする効能追加が承認されました。ザイボックス®注射液およびザイボックス®錠の効能又は効果は下記の通り。
1. <適応菌種>
本剤に感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)
<適応症>
敗血症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、肺炎
2. <適応菌種>
本剤に感性のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム
<適応症>
各種感染症
J-PlatPatで確認したところ、2006年のMRSA追加効能承認時の特許権存続期間延長登録出願として、物質特許と思われる特許3176630についての延長登録出願(2006-700049、2006-700050)がなされていました。処分の対象となった物として「リネゾリド」、処分の対象となった物について特定された用途として「<適応菌種>本剤に感性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)及び<適応症>敗血症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、肺炎」に基づき、4年9月17日の存続期間延長が認められ、特許3176630の満了日は2019年6月2日となっています(無効審判請求はされていません)。すなわち、MRSAを適応菌種とした適応症が承認されており、MRSA適応については上記特許権の効力は有効に働いていることになります。従って、現在承認されている後発品には、下記の通り、MRSAを適応菌種とした適応症は効能又は効果として認められていません。
  • リネゾリド点滴静注液600mg「明治」: 2015年2月承認、6月薬価収載、製造販売
    <適応菌種>
    本剤に感性のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム
    <適応症>
    各種感染症
  • リネゾリド錠600mg「明治」: 2015年8月承認、12月薬価収載、製造販売
    <適応菌種>
    本剤に感性のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム
    <適応症>
    各種感染症
  • リネゾリド注射液600mg「サワイ」: 2017年2月承認、6月薬価収載、9月製造販売
    <適応菌種>
    本剤に感性のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム
    <適応症>
    各種感染症
  • リネゾリド錠600mg「サワイ」: 2017年8月承認、薬価未収載
    <適応菌種>
    本剤に感性のバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム
    <適応症>
    各種感染症
ところで、薬剤耐性菌の出現と蔓延の抑制には抗菌薬の適正使用が不可欠です。上記の通り、リネゾリド後発品の適応取得菌種はいずれもVREのみであって、ザイボックス®のようにMRSAを適応としていないため、後発品の使用開始は頻用の一因になる恐れがあるとして、日本感染症学会・日本化学療法学会・日本臨床微生物学会は医療現場へ後発品の適正使用を呼びかけていました。この適正使用に取り組む組織として2015年に発足した日本感染症医薬品協会リネゾリド研究会にはファイザーの他、Meiji Seikaファルマ及び沢井製薬もメンバーとなっています。

ファイザーの主張内容の詳細は定かではありませんが、先発品と後発品の効能違いに起因する医薬品の不適正使用問題のおそれに対して切り込んでいくのだとしたら、特許権の効力をどのような行為に対して主張していこうとしているのか、大変興味深いところです。

参考:

Nov 25, 2017

2017.10.13 「アーシャ ニュートリション サイエンシーズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10216

医薬の用途発明の実施可能要件: 知財高裁平成28年(行ケ)10216

【背景】

「脂質含有組成物およびその使用方法」に関する特許出願(特願2011-506377; WO2009/131939; 特表2011-518223)の拒絶審決(不服2014-8788)取消訴訟。サポート要件及び実施可能要件を満たしていないことが審決の理由。

本願発明:
「対象における,更年期,加齢,筋骨格障害,気分変動,認知機能低下,神経障害,精神障害,甲状腺障害,過体重,肥満,糖尿病,内分泌障害,消化器系障害,生殖障害,肺障害,腎疾患,眼障害,皮膚障害,睡眠障害,歯科疾患,,自己免疫疾患,感染症,炎症性疾患,高コレステロール血症,脂質異常症,または心血管疾患から選択される医学的状態の予防および/または治療における使用のための,異なる供給源に由来する脂質の混合物を含む脂質含有配合物であって,前記配合物は,ある用量の ω-6脂肪酸および ω-3脂肪酸を含み,ω-6対 ω-3の比が4:1以上であり:
(i)ω-3脂肪酸は,総脂質の0.1~20重量%であるか;または
(ii)ω-6脂肪酸の用量は,40g以下である,脂質含有配合物。」
特に、審決は、本願発明に係る各医学的状態のうち、内分泌障害、腎疾患及び癌の3疾患(「本件3疾患」)を捉え、本願明細書の発明の詳細な説明にはこれらに係る実施例の記載がなく、これらを予防および/または治療することに本願発明が有用であると当業者が理解できる記載は認められないとして、本願は実施可能要件を満たさない旨判断した。

【要旨】

裁判所は、実施可能要件についての審決判断に誤りはないとして、原告の請求を棄却した。まず、裁判所は、医薬の用途発明について特許法36条4項1号(実施可能要件)を満たすためには何が必要か以下のように言及した。
「特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ,ここでいう「実施」とは,物の発明においては,当該発明に係る物の生産,使用等をいうものであるから,実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が当該発明に係る物を生産し,使用することができる程度のものでなければならない。
そして,本願発明のような医薬の用途発明においては,一般に,物質名や成分組成等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができない。そのため,医薬の用途発明において実施可能要件を満たすものといえるためには,明細書の発明の詳細な説明が,その医薬を製造することができるだけでなく,出願時の技術常識に照らし,医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されている必要がある。」
そして、裁判所は、本願発明については以下のように判断した。
「本願発明について医薬としての有用性があるといえるためには,前記所定の比率及び量のω-6脂肪酸及びω-3脂肪酸を含む脂質含有配合物(以下「本願発明に係る配合物」という。)を対象者に用いた場合に,本願発明に係る各医学的状態のそれぞれについて予防又は治療の効果が生じるものであることが必要であり,したがって,本願発明が実施可能要件を満たすものといえるためには,本願明細書の発明の詳細な説明が,本願出願当時の技術常識に照らし,本願発明に係る配合物を使用することによって本願発明に係る各医学的状態のそれぞれについて予防又は治療の効果が生じることを当業者が理解できるように記載されていなければならないものといえる。
このように,本願発明について実施可能要件の充足性を判断するに当たっては,本願出願当時の技術常識を踏まえる必要があるところ,本願出願前の文献をみると,・・・ω-6脂肪酸の過剰摂取による健康障害を避けるため,ω-6脂肪酸の摂取を減らし,ω-6脂肪酸とω-3脂肪酸の摂取量の比率を「4:1」程度までにとどめるのが望ましいことが,本願出願当時の技術常識であったものと認められる。・・・したがって,それにもかかわらず,本願発明に係る配合物が医薬としての有用性を有すること,すなわち,本願発明に係る配合物を使用することによって本願発明に係る各医学的状態のそれぞれについて予防又は治療の効果が生じることを当業者が理解できるといえるためには,本願明細書の発明の詳細な説明に,このような効果の存在を裏付けるに足りる実証例等の具体的な記載が不可欠なものといえる。
・・・しかしながら・・・本願明細書の本願発明に係る各医学的状態についての実施例の記載をみても,当業者が,本件3疾患を予防および/または治療することに本願発明が有用であると理解できるような記載があるとはいえない。」
【コメント】

医薬の用途発明の実施可能要件について判断された事例。医薬の用途発明において実施可能要件を満たすものといえるためには、明細書の発明の詳細な説明が、その医薬を製造することができるだけでなく、出願時の技術常識に照らし、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されている必要がある。出願当時の技術常識を踏まえても当業者が有用性を理解できないのであれば、医薬としての有用性、すなわち効果の存在を裏付けるに足りる実証例等の具体的な記載が明細書に不可欠であるということである。

本願の欧米状況を確認したところ、欧州では審判部まで争い(T1712/15)、米国ではCAFCまで上訴(2016年8月16日)しているようである。

参考: Asha Nutrition Sciences, Inc.のwebpageからの知的財産情報(http://asha-nutrition.com/research/intellectual-property/


Nov 19, 2017

2017.09.29 「興和 v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)30872

医薬特許に対する先使用権の抗弁が認められなかった事例東京地裁平成27年(ワ)30872

【背景】

東和薬品(被告)がピタバスタチンCa・OD錠4mg「トーワ」(被告製品)を製造等する行為は興和(原告)が保有する特許権(第5190159号)を侵害すると主張して、原告が被告製品の製造等の差止及び廃棄を求めた事案。原告は弁論準備手続期日において請求項1に基づく請求を撤回、被告は被告製品が本件発明2の技術的範囲に属することを認めた上で先使用権(特許法79条)の抗弁及び特許無効の抗弁(特許法104条の3)を主張した。

請求項1:
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;
を含有し、かつ、水分含量が2.9質量%以下である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。
請求項2:
固形製剤の水分含量が1.5~2.9質量%である、請求項1記載の医薬品。
【要旨】

主 文
1 被告は,別紙物件目録記載の製品を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。
2 被告は,前項の製品を廃棄せよ。
3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
4 訴訟費用は,被告の負担とする。
裁判所の判断

1 争点1(被告は先使用権を有するか)について

被告は、
「先使用権の成立を基礎付ける事実として,本件出願日までに,本件2mg錠剤のサンプル薬を製造して本件2mg製品の製造販売承認の申請に必要な治験を実施したことや,本件4mg錠剤のサンプル薬を製造して被告製品(本件4mg製品)の製造販売承認の申請に必要な治験を実施した」
と主張した。
しかし、裁判所は、
「本件出願日までに,被告の社内において,本件発明2の内容を知らないでこれと同じ内容の発明がされていた(被告が被告の従業員等から当該発明を知得していた)と認めることは困難であるし,この点を措くとしても,・・・本件出願日までに,本件2mg製品及び被告製品(本件4mg製品)の内容が,本件発明2の構成要件E(固形製剤の水分含量が1.5~2.9質量%である)を備えるものとして,一義的に確定していたと認めることはできず,本件発明2を用いた事業について,被告が即時実施の意図を有し,かつ,その即時実施の意図が客観的に認識される態様,程度において表明されていたとはいえないから,被告に先使用権が成立したということはできない。」
と判断した。

被告は「乙32実験報告書」を提出したが、測定値はこれらの錠剤が製造されたとされる日から4年以上が経過した時点のものであり、4年以上が経過しても錠剤の水分含量がそのまま保持されることを直接裏付ける証拠はないとして、本件出願日までに被告において本件発明2と同じ内容の発明がされていたと認めることはできないとされた。

2 争点2(本件発明2についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について

裁判所は、本件発明2についての特許は、被告主張の理由及び証拠によっては無効とされるべきものとは認めることができないと判断した。以下抜粋。
「本件発明2と乙7発明とを対比すると,両発明は・・・②本件発明2では「固形製剤の水分含量が1.5~2.9質量%である」のに対し,乙7発明では固形製剤の水分含量が「1.5~2.9質量%」の数値範囲にあるか否かが明らかでない点(以下「相違点②」という。)において相違するものと認められる。・・・乙7公報の記載上,上記追試等において固形製剤の水分含量が本件発明2の数値範囲に含まれる値となるべきものと認めるべき根拠はなく,また,固形製剤の水分含量(殊にその下限値)と5-ケト体の生成抑制との関係についての示唆等は見当たらない。・・・当業者であれば,一般論としては,当該固形製剤の水分含量を低く調整することを試みることが容易であるといえるとしても,上記各書証に,ピタバスタチン又はその塩を含有する医薬製剤の水分含量をあえて本件発明2の数値範囲の下限である「1.5質量%」を下回らないようにすることの動機付けとなる記載があるとはいえない。・・・したがって,当業者といえども,乙7発明から出発して,相違点②に係る本件発明2の構成に想到することは,容易ではなかったものというべきである。」
被告は、
「本件明細書の【表4】には,水分含量が1.5質量%未満のデータが存在しないから,本件発明2における水分含量の数値範囲の下限値の意義が不明である」
と主張した。
しかし、裁判所は、
「本件明細書において当該下限値の臨界的意義が具体的な技術的裏付けを伴って明らかにされているとはいえないとしても,そのことによって,当業者であっても相違点②に係る本件発明2の構成に想到することは容易でなかったとする上記認定判断が直ちに左右されるものとはいえない。」
と判断した。

【コメント】

本件のように、被疑侵害品を測定しなければ特許発明の技術的範囲に属するかどうか分からないようなクレーム構成であってその構成要件が経時的に変化しうるものである場合、現存進行形で侵害しているかどうかを特許権者側が立証するためには現存する被疑侵害品を測定すれば済むわけであるが、一方、先使用権の抗弁を主張する被疑侵害者側にとっては、そのような特許発明の構成要件の存在を知らずに対象実施品をあらかじめ測定して記録を残しておくことは不可能であり、優先日前の実施品を運よく保管していたとしてもそれが過去に遡って優先日前もその構成要件が備わっていたといえることを立証する必要が出てくる。そもそも先使用権の立証は容易でないところ、本件のように発明の構成要件が経時的に変化しうる場合において、先使用権の抗弁を主張立証するためには、どのような準備をしておくことが現実的な方策なのか、難しい問題である。

J-PlatPatのよると、本件特許に対して無効審判は請求されていないようである。

参考:


Nov 12, 2017

2017.09.28 「レオ ファーマ v. 中外製薬・マルホ」 東京地裁平成28年(ワ)14131

マーデュオックス®軟膏の差止請求訴訟東京地裁平成28年(ワ)14131

【背景】

原告(レオ ファーマ)が保有する「医薬組成物」に関する特許権(第5886999号)を侵害すると主張して、被告ら(製造販売元である中外製薬及び販売会社であるマルホ)に対して被告物件(尋常性乾癬治療剤「マーデュオックス®軟膏」)の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。

請求項1:
ヒトまたは他の哺乳動物において乾癬を処置するための皮膚用の非水性医薬組成物であって,マキサカルシトールからなる第1の薬理学的活性成分A,およびベタメタゾンまたは薬学的に受容可能なそのエステルからなる第2の薬理学的活性成分B,ならびに少なくとも1つの薬学的に受容可能なキャリア,溶媒または希釈剤を含む,医薬組成物。
請求項11:
ヒトの乾癬を処置するための,請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物
請求項12:
医学的有効量で1日1回局所適用される,請求項11に記載の組成物
【要旨】

本件発明12は本件優先日における公知文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、そして、本件発明12に従属している他のいずれの発明も同様に当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、本件発明1ないし4、11及び12に係る本件特許には、特許法29条2項違反の無効理由があるから、原告は上記各発明に係る本件特許権を行使することができない。よってその余の点について検討するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。請求棄却。

相違点に係る容易想到性についての判決抜粋:
「乙15発明は,「ヒトにおいて乾癬を処置するために皮膚に塗布するための混合物であって,1α,24-dihydroxycholecalciferol(タカルシトール),およびBMV(ベタメタゾン吉草酸エステル),ならびにワセリンとを含有する非水性混合物であり,皮膚に1日2回塗布するもの」というものである。そして,乙16及び17に開示されているように,本件優先日において,乾癬治療剤としてのマキサカルシトールの軟膏が既に知られていたのであるから,当業者であれば,乾癬を処置するための混合物である乙15発明において,ビタミンD3の類似体からなるタカルシトールに代えて,同じくビタミンD3の類似体からなるマキサカルシトールを使用する程度のことは,容易に想到できることというべきである。

・・・乙24及び25に開示されているように,本件優先日において,タカルシトール軟膏が1日1回の用法で乾癬処置に使用されることも既に知られていたのであるし,そもそも塗布方式(1日1回か,2回か)の検討は,治療効果の向上や,副作用の低減等の観点から,当業者が適宜行うことにすぎないことであるから,当業者であれば,乙15発明において,塗布の回数を1日1回とする程度のことは,容易に想到できることというべきである。」
相違点に係る顕著な作用効果についての判決抜粋:
「・・・乙15に開示されている治療効果は,本件明細書に開示された本件発明12における有効な斑治癒の効果と実質的に変わらないというべきである。
なお,原告は,本件発明12の治療効果に関して,甲10及び甲11を提出するが,これらが頒布されたのは本件優先日以降であるから,本件明細書に開示された範囲を超えてこれらに基づく効果を本件発明12の進歩性の判断において参酌することは許されない。

・・・少なくとも,原告が主張するような効果,すなわち,混合物を適用する場合,1日の適用回数を減らしても優れた効果が得られることを,本件明細書の記載から読み取ることはできないから,そのような効果を本件発明12の進歩性の判断において考慮することはできない(まして,原告が指摘する甲11に示されるようなサイトカイン分泌の相乗的抑制効果については,かかるメカニズムは本件明細書には一切記載されていないから,そのような効果を本件発明12の進歩性の判断において参酌することは許されない。)。」
【コメント】

明細書に開示された範囲を超える効果や記載から読み取ることはできない効果を、進歩性の判断において参酌することは許されない。本事件では、控訴人が提出した論文(甲10)は参酌されなかった。発明の効果が顕著かどうかについての結論はよいとしても、効果に関する主張として提出された論文が参酌されなかった点については、理由が明らかでない。優先日?(出願日の間違いでは?)以降に頒布されたものだから参酌されなかったのか、明細書に開示された範囲を超えていたから参酌されなかったのか(判決文を見る限り、控訴人は新たな効果を主張しているようには感じられないが・・・)。顕著でないとの結論に変わりはないから説明を省略したということはないと思うが、進歩性における効果の顕著性を主張する際に後出しデータが参酌されるかどうかは両当事者にとって極めて重要なポイントとなることから、判決には丁寧な理由付けを示していただきたい。

マーデュオックス®軟膏(Marduox® Ointment)は活性型ビタミンD3外用剤であるマキサカルシトール(Maxacalcitol)軟膏の有効成分Maxacalcitolとvery strongクラスのステロイド外用剤であるベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル(BBP)軟膏の有効成分BBPをそれぞれ承認製剤濃度で配合した尋常性乾癬治療外用剤である。

参考:

ところで、本件特許の実施例として記載されているカルシポトリオール(Calcipotriol)とベタメタゾンジプロピオネート(Betamethasone Dipropionate)を含む軟膏に直接関連すると思われる製品は、レオファーマが製造販売元・協和発酵キリンが販売元となっている尋常性乾癬治療剤ドボベット®軟膏(Dovobet® Ointment)。

ドボベット®軟膏(Dovobet® Ointment)は、活性型ビタミンD3誘導体であるカルシポトリオール水和物52.2μg/g(カルシポトリオールとして50.0μg/g)と副腎皮質ホルモンであるベタメタゾンジプロピオン酸エステル0.643mg/gを含有する配合剤であり、レオ ファーマで開発され、日本では2014年7月に承認された。ドボベット®軟膏の配合成分であるカルシポトリオール(無水物)は「ドボネックス®軟膏 50μg/g」として、ベタメタゾンジプロピオン酸エステルは「リンデロン®‐DP 軟膏」として市販されている。

参考:
国内において、尋常性乾癬の適応を有する活性型ビタミンD3誘導体とステロイドの配合剤という点で、マーデュオックス®軟膏(Marduox® Ointment)(中外・マルホ)とドボベット®軟膏(Dovobet® Ointment)(レオ ファーマ・協和発酵キリン)は競合関係にある。

本件特許は第1の薬理学的活性成分Aがマキサカルシトールに限定されたものとして登録されたが、もともと本件出願は特願2013-014098(特開2013-075923)の分割出願であり、さらにその原出願は特願2008-191182(特開2008-297309、特許5721926)の分割出願であり、さらにその原出願は特願2000-613441(WO2000/064450、特表2002-542293、特許4426729)の分割出願であった。特許4426729は、第1の薬理学的活性成分Aとしてカルシポトリオール、第2の薬理学的活性成分Bとしてベタメタゾンに限定されたものとして登録され、ドボベット®軟膏で存続期間延長登録もされている(延長登録出願番号2014-700172、存続期間満了日2023.12.04)。特許5721926は、溶媒成分C等の限定下ではあるが第1の薬理学的活性成分Aも第2の薬理学的活性成分Bも一定の範囲で登録されている(存続期間満了日2020.01.27。存続期間延長登録出願情報なし)。


Nov 6, 2017

The 10th Anniversary

「医薬系"特許的"判例」ブログをこのドメイン(tokkyoteki.com)で2007年11月6日に再スタートしてから10年が経ちました。この10年間、ブログへのページビューで特に顕著なピークを認めた記事を一日当たりのページビューのグラフとともに振り返りました。この10年、特許期間延長登録制度の運用は判決に振り回され、今だに法的安定性を欠いた不透明な状況が続いています。10年とは長いようで短いですね。


① 特67条の3第1項1号の解釈と特68条の2の解釈 -特許存続期間延長登録制度のこれまでの運用が見直される契機となった判決
② 2009.07.16 「第5回 特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループ開催」

③ レボフロキサシン訴訟 全面終結

④ アクトス(ACTOS)併用の進歩性判断における効果の格別顕著性
⑤ 武田薬品 特許権の存続期間の延長登録出願 最高裁判決
⑥ 2011.09.09 「アリセプトの高度アルツハイマー型認知症に係る特許期間延長訴訟 最高裁が上告棄却」

⑦ プロダクト・バイ・プロセス・クレームの発明の要旨認定及び特許発明の技術的範囲
⑧ 2012.09.27 アクトス併用療法 特許侵害訴訟 大阪地裁判決

⑨ アバスチン®(有効成分 ベバシズマブ) 特許権の期間延長の拒絶審決取消請求事件 知財高裁 大合議事件に指定

⑩ 特許権存続期間延長登録出願の登録要件について知財高裁大合議判決
⑪ プロダクト・バイ・プロセス・クレームの発明の要旨認定及び特許発明の技術的範囲は物同一説で判断、明確性要件に一定のハードル
⑫ 特許権の存続期間の延長登録出願の登録要件についての最高裁判決(アバスチン事件)
⑬ マキサカルシトール製法特許の均等侵害事件を知財高裁が大合議事件に指定

⑭ デビオファームがエルプラット® (オキサリプラチン)後発品販売の日本化薬に対して特許侵害訴訟で勝訴

⑮ 小野薬品がMSD「キイトルーダ」を抗PD-1抗体特許侵害で提訴

⑯ 延長された特許権の効力(知財高裁大合議判決)
⑰ 均等の第5要件(特段の事情)の判断基準(マキサカルシトール事件)

そして、この10年間のページビューtop 10記事は下記のとおりでした(total 677,676ページビューのうち、トップページへのアクセス分の243,324ページビューは差し引く)。

1位(5,065ページビュー)
2011.04.28 「特許庁長官 v. 武田薬品」 最高裁平成21(行ヒ)326
2位(4,187ページビュー)
イーライリリー エビスタ®の用途特許の無効審決の取り消し求め審決取消訴訟を提起
3位(4,167ページビュー)
2011.12.05 「フリバンセリン事件」特許庁審決 不服2006-027319号事件
4位(4,154ページビュー)
2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10458
5位(4,066ページビュー)
2011.03.22 「沢井製薬 v. 武田薬品」 特許無効審判事件 2010-800087, 2010-800088
6位(3,990ページビュー)
2012.10.05 「サノフィ アレグラ®後発医薬品に対する侵害訴訟提起」
7位(3,476ページビュー)
小野薬品・BMSがMerckを抗PD-1抗体特許侵害で提訴
8位(3,441ページビュー)
抗PD-1抗体を巡る特許訴訟~小野/BMS(オプジーボ; Opdivo) vs Merck(キートルーダ; Keytruda)
9位(3,393ページビュー)
アリセプト®の特許権存続期間延長登録
10位(2,994ページビュー)
オキサリプラチンに関する特許権について

また、これまでコメント頂いた記事はこちら(リンク)。各記事のタイトルをクリックして記事ごとにご覧頂くか、記事下のタブ"comment"をクリックして頂ければ、各記事にお寄せくださったコメントを見ることができます。

貴重なコメントをお寄せくださった方々、メールにて直接ご質問・ご指摘等のコメントをお寄せくださった方々には御礼申し上げます。
今後とも末永くよろしくお願いいたします。





Oct 29, 2017

2017.09.11 「三菱ケミカル v. 理研ビタミン」 知財高裁平成28年(行ケ)10056

進歩性判断の考慮要素にできる顕著な効果の明細書記載: 知財高裁平成28年(行ケ)10056

【背景】

原告(三菱ケミカル)が保有する「コーヒー飲料」に関する特許権(第5252873)の無効審決(無効2014-800165)取消訴訟。争点は進歩性における顕著な効果に関する判断。原告は、「本件発明1には,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」が弱いという効果があり,その効果は,TPの含有とマンナン分解酵素処理との組合せにより発現するものであって,甲4発明(TPを含有するものの,マンナン分解酵素処理が行われていないもの)と比較して当業者が予測できない顕著な効果であるといえるから,本件発明1が有する顕著な効果を否定し,その容易想到性を認めた本件審決の判断は誤りである」旨主張した。

【要旨】

裁判所は、本件発明1について甲4発明と比較して当業者が予測できない顕著な効果があるとする原告らの主張は理由がなく、したがって、本件発明1に甲4発明と比較した顕著な効果があることを否定し、これを前提に本件発明1は甲4発明と甲1ないし3記載の事項に基づいて容易に想到し得るものであるとした本件審決の判断に誤りはない、と判断した。請求棄却。以下、裁判所判断の抜粋。
「・・・甲4発明において相違点3に係る本件発明1の構成とすることが,その構成という観点からは当業者が容易に想到し得たものといえることは,上記アのとおりであるが,その場合でも,本件発明1に引用発明(甲4発明)と比較した有利な効果が認められ,それが本件特許の優先日当時の技術水準から当業者が予測し得る範囲を超えた顕著な効果といえる場合には,本件発明1の進歩性を認める余地があるものといえる。ただし,先願主義を採用し,発明の公開の代償として特許権(独占権)を付与するという特許制度の趣旨に鑑みれば,上記のような顕著な効果は,明細書にその記載があるか,又は,明細書の記載から当業者がその効果を推論できるものでない限り,進歩性判断の考慮要素とすることはできないというべきである。

・・・この点,コーヒー飲料の風味とマンナン分解酵素処理との関係を確認するのであれば,マンナン分解酵素処理されたコーヒー抽出物にTPを加えたミルクコーヒー(実施例1及び2)とマンナン分解酵素処理がされていないコーヒー抽出物にTPを加えたミルクコーヒー(本件明細書の比較例1(段落【0054】))との風味の比較が行われてしかるべきところ,本件明細書には,このような比較が行われたことを示す記載はない。また,マンナン分解酵素処理を行ったコーヒー抽出液を用いたコーヒー飲料に係る公知文献(甲1ないし3)をみても,当該処理がコーヒーの風味に与える影響についての記載はなく,技術常識に照らしても,当該処理を行うことによるコーヒー飲料の風味への影響を推測することは困難といえる。
してみると,原告らが本件発明1の顕著な効果であると主張する「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みは弱い」との風味に係る効果が,TPの含有とマンナン分解酵素処理を組み合わせることにより発現するものであることについては,本件明細書にその旨の記載はなく,本件明細書の記載から当業者がこれを推論することができるともいえないから,上記効果をもって,本件発明1が有する甲4発明(TPを含有するものの,マンナン分解酵素処理が行われていないもの)と比較した有利な効果として認めることはできないというべきである。

・・・原告らは,本件訴訟提起後に自らが実施し,又は第三者機関に実施させた官能評価試験の結果を証拠として提出し,これらによって,本件発明1の「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みは弱い」との効果がTPの含有とマンナン分解酵素処理の組合せにより発現するものであることが確認できる旨を主張する。しかしながら,前記のとおり,引用発明と比較した有利な効果が発明の進歩性判断の考慮要素となり得るのは,当該効果が明細書に記載され,又は,明細書の記載から当業者がこれを推論できる場合に限られるところ,本件明細書の記載からは,本件発明1の「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みは弱い」との効果を甲4発明と比較した有利な効果として認めることができないことは,上記(ア)bで述べたとおりである。これに対し,原告らの上記主張は,本件明細書の記載を離れ,事後的に実施した官能評価試験の結果に基づいて,本件発明1が甲4発明と比較した有利な効果を有する旨を述べようとするものであって,そもそも失当というべきである。」
【コメント】

引用発明と比較した有利な効果が発明の進歩性判断の考慮要素となり得るのは、当該"比較した有利な"効果が明細書に記載され、又は、明細書の記載から当業者がこれを推論できる場合に限られるとして、明細書記載からは、本願発明効果を"引用発明と比較した有利な効果として"認めることができなとした判決。

裁判所は、念のため、原告が事後的に主張した官能性評価試験結果を検討しているが、技術常識によれば統計学的な有意差を認めるためのn数が足りないこと等を理由にそれら試験結果から有利な効果を確認できると断ずることはできないと判断した。

日本における進歩性の判断において、引用発明と比較した有利な効果が参酌されるためには、(1)「引用発明と比較」という観点、及び、(2)いわゆる「後出しデータ」の許容性という観点があり、出願当初明細書にどのような記載が具体的に必要とされるのかについては特許法上規定されていないが、"進歩性のための明細書記載要件"なるものは存在している。2010.07.15 「P&G v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10238にて裁判所は「出願人が出願当時には将来にどのような引用発明と比較検討されるのかを知り得ないこと,審判体等がどのような理由を述べるか知り得ないこと等に照らすならば,出願人に過度な負担を強いることになり,実験結果に基づく客観的な検証の機会を失わせ,前記公平の理念にもとる」と言及し、当初明細書に定量的な効果比較の記載をあらかじめ要求する特許庁の主張を公平の観点から否定している。

本事案では、「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みがある」との本願発明の効果は記載されていたが、明細書に記載された比較の相手が進歩性に求められる比較相手ではなかったわけであり、出願人に過度な負担を強いる方向の判決であったように思える。硬直的な進歩性のための明細書記載要件へ進なないことを望む。これまでの具体的な事例として参考になりそうな判決(特に医薬に関する判決)はこちら

Oct 28, 2017

田辺三菱 タリオン®後発品薬価収載希望書提出したジェネリックメーカーに対する特許侵害差止仮処分命令申立てを取下げ

田辺三菱製薬の2017年10月26日付プレスリリースによると、田辺三菱は、ベポタスチンベシル酸塩を有効成分とするアレルギー性疾患治療剤「タリオン®」について、同製品の後発品薬価収載希望書を提出した東和薬品、シオノケミカルおよび大興製薬に対して、田辺三菱が保有する物質特許等の侵害行為の差止めを求める仮処分命令の申立てを2017年9月15日付で東京地裁および大阪地裁にそれぞれ行っていましたが、今般、各社との協議の結果、円満解決に至ったとのことで、田辺三菱は10月25日付で両地裁に本仮処分命令の申立ての取下げを行ったとのことです。

参考:
過去記事:

Oct 22, 2017

2017.08.29 「ロート製薬 v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10162

コンタクトレンズ装着液及び装用中点眼液の両方の用途知財高裁平成28年(行ケ)10162

【背景】

「眼科用組成物」に関する特許出願(特願2013-89552; 特開2013-139485)の拒絶審決(不服2015-4779)取消訴訟。本件審決の理由は、本願発明は引用例(同出願人による特開2006-241085)に記載された発明(引用発明)並びに周知例1及び周知例2に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというもの。

本願発明(請求項1):
(A)セルロース系高分子化合物,ビニル系高分子化合物,ポリエチレングリコール及びデキストランからなる群より選択される1種以上,及び(B)テルペノイドを含有するコンタクトレンズ用装着点眼液であって,
同一の組成でコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いられる,コンタクトレンズ用装着点眼液。
引用発明:
カルボキシメチルセルロースナトリウムとテルペノイドを含有する眼科用組成物
本願発明と引用発明との一致点及び相違点:
(ア) 一致点
(A)セルロース系高分子化合物,ビニル系高分子化合物,ポリエチレングリコール及びデキストランからなる群より選択される1種以上,及び(B)テルペノイドを含有する眼科用組成物

(イ) 相違点
本願発明は,眼科用組成物が「コンタクトレンズ用装着点眼液」であって,「同一の組成でコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いられる」ものであるのに対し,引用発明においては単に「眼科用組成物」としている点
【要旨】

請求棄却。以下、裁判所の判断の抜粋。

1. 周知技術について
「周知例1,周知例2及び乙1は,同一の眼科用組成物を,コンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いることについて,具体的な実施例を前提にしたり(乙1),具体的な用法をもって説明したり(周知例1,乙1),個別の用途だけではなく,両方の用途に用いることも可能であることを明示したりしつつ(周知例2),開示している。・・・よって,同一の組成でコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いられる眼科用組成物は,本願優先日当時の周知技術であったということができる(以下,この周知技術を「本件周知技術」という。)。」
2. 本件周知技術の適用について
「引用発明と本件周知技術の技術分野は共通し,引用発明と本件周知技術が前提とする発明の作用機能も共通している上,眼科用組成物について,コンタクトレンズ装着液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分と,コンタクトレンズ装用中の点眼液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分に差異がないことが知られている。
そして,眼科用組成物において,同一の組成をコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いることにより利便性を向上させることは,引用発明も当然に有する自明の課題であるから,当業者は,本願発明と同様に利便性を向上させるために,引用発明に本件周知技術を組み合わせることを試みるというべきである。
よって,引用発明に本件周知技術を組み合わせる動機付けがあるということができる。」

「確かに,引用例には,引用発明に係る眼科用組成物を,コンタクトレンズ装着液として用いた実施例2(【表4】)と,人工涙液型点眼薬(コンタクトレンズ装用中の点眼液)として用いた実施例7~9(【表7】)とが別々に記載されており,同一の組成でコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いられる眼科用組成物が具体的に記載されているとはいえない。
しかし,前記ウのとおり,コンタクトレンズ装着液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分と,コンタクトレンズ装用中の点眼液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分に差異がないことは,本願優先日において,技術常識であったものである。主薬成分か佐薬成分かによって,成分の含有量などに影響が及ぶことがあったとしても,配合可能成分及び配合不可成分に影響が及ぶものでもない。
したがって,引用例に接した当業者において,同一の組成でコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いられる眼科用組成物が想定できなかったということはできない。」
3. 顕著な効果の有無について
「本願発明は,ドライスポットの総面積,涙液安定性,並びに収斂感,清涼感及び乾燥感という使用感において優れるという効果を有するものである(試験1~3)。
これに対し,・・・引用発明は,コンタクトレンズ表面や角膜表面の濡れを持続させ潤いを保つことができ,使用感に優れ,ドライアイなどの粘膜が乾燥状態を呈する疾患や症状の予防や改善に効果を有するものである。そして,濡れの改善は涙液の安定性に関連があること(乙3),涙液安定性に優れていれば,ドライスポットの総面積の割合が小さくなること(乙4),「清涼感の好み」はテルペノイドの量に依存すること(甲11)が,それぞれ認められる。そうすると,引用発明の眼科用組成物が,ドライスポットの総面積,涙液安定性,並びに清涼感及び乾燥感などの使用感において優れた効果を奏するであろうことは当業者が予測できたものということができる。
(イ) なお,・・・本願明細書には,本願発明について,フリッカー値改善率が増大し(試験4),コントラスト感度が改善される(試験5)という効果を有する旨記載されている。しかし,・・・試験4及び試験5の結果は,A成分とB成分を含有する眼科用組成物を同一の組成で両方の用途に用いることによって奏せられる本願発明の効果,すなわち,コンタクトレンズ装着液としてのみ用いた場合と比較して奏せられる効果,及びコンタクトレンズ装用中の点眼液としてのみ用いた場合と比較して奏せられる効果の双方を示すものとはいえない。」
【コメント】

裁判所は、当業者が引用発明に本件周知技術を組み合わせることを試みるというべきであるかどうかについて、技術分野の共通性、作用機能の共通性、技術常識、本願発明が解決する課題が引用発明も当然に有する自明の課題かどうか、を検討し、結果、動機づけがあり、また、示されている顕著も予測可能なものであるとして、本願発明は進歩性を有しないと判断した。

引用発明である特願2005-59757(特開2006-241085)は本件出願人ロート自らが出願したもの。出願日が2005.3.3、公開日が2006.9.14、優先権主張はせず、INPADOC family searchによれば日本以外の出願はしていない。

本願(特願2013-89552; 特開2013-139485)は、もともと特願2009-532212(WO2009-035034、日本以外に米国、中国、香港に出願されている(INPADOC family searchによる))の分割出願であり、このいわゆる親出願では下記請求項1で特許登録(特許5525816)されている。
【請求項1】
(A)セルロース系高分子化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコール及びデキストランからなる群より選択される1種以上、(B)テルペノイド及び(C)非イオン性界面活性剤を含有する、コンタクトレンズ用装着点眼液であって、
(1)コンタクトレンズ装着時に該コンタクトレンズ用装着点眼液を直接コンタクトレンズに滴下し、コンタクトレンズの両面もしくは片面を濡らし、
(2)該コンタクトレンズを目に装着し、
(3)該コンタクトレンズ装用中に(1)で用いたものと同一処方からなるコンタクトレンズ用装着点眼液を点眼する
ことにより、目の乾きもしくはドライアイを抑制すること、または疲れ目もしくはコントラスト感度を改善することを特徴とするコンタクトレンズ用装着点眼液。
本願からは、特願2014-016418(特開2014-098013)及び特願2015-034892(特開2015-127329)として分割出願がなされたがいずれも拒絶査定となり、その後さらに分割出願(特願2016-117964(特開2016-190860))でつないできたが、現在、拒絶理由通知を受けた段階となっている。

Oct 14, 2017

塩野義 欧州特許は無効、メルク社のラルテグラビルに対する差止訴訟敗訴へ

2017年10月13日付け塩野義製薬のプレスリリース(メルク社とのHIVインテグラーゼ阻害薬に関する欧州特許庁審判部での係争について)によると、塩野義が保有するHIVインテグラーゼ阻害薬に関する欧州特許(EP1422218)につき、2017年10月11日、欧州特許庁審判部が、メルク社の主張を認め、当該欧州特許が無効である旨の審決(T1150/15)を出したとのことです。

当該欧州特許についてはメルク社が異議を申立てていましたが、2015年に欧州特許庁異議部が特許有効である旨の審決を出したため、メルク社がその審決を不服として不服申立を行っていました。

現在、塩野義は、当該欧州特許を利用してアイセントレス(Isentress)®(有効成分はラルテグラビルカリウム(raltegravir potassium))を販売するメルク社に対して、ドイツ、英国、オランダ、フランスで差止・損害賠償を求め提訴していますが、これらの国の訴訟でも、当該審決を受けて敗訴判決が出される見込みとのことです。

販売されている抗HIV薬アイセントレスの差止を求め、塩野義がメルク社を各国で提訴しましたが、結局、塩野義特許は無効である(MSDのアイセントレス®(ラルテグラビル) 英国特許訴訟で塩野義が敗訴)か、販売差止を認めない判決(アイセントレスを販売するMSDに塩野義特許の強制実施権が認められる(ドイツ))が出されており、欧州特許も無効審決という塩野義にとっては望ましくない結果となりました。

日本特許(第5207392号)については、メルク社が請求項1ないし3について特許無効審判を請求し特許庁は塩野義による訂正を認めた上で請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする審決を下しました(無効2015-800226)。現在は知財高裁に審決取消訴訟が提起されています(平成29年(行ケ)10172)。

参考:
関連記事:

Oct 12, 2017

興和による東和リバロ後発品の製造販売差止請求で東京地裁が容認判決

2017年10月11日の興和のプレスリリースによると、興和は東和薬品に対し、興和が保有する高コレステロール血症治療剤「リバロ錠」(一般名:ピタバスタチンカルシウム)」の医薬特許(特許第5190159号)の侵害を理由として、同社が製造販売する「リバロ」の後発医薬品である『ピタバスタチンCa・OD 錠 4mg「トーワ」』の製造販売の差し止めを求める訴訟を東京地裁に提起していましたが、2017年9月29日付で、興和の請求を全面的に認める判決が言い渡されたとのことです。

参考:
ピタバスタチンCa・OD 錠 4mg「トーワ」の組成:
1錠中の有効成分
日局 ピタバスタチンカルシウム水和物
(ピタバスタチンカルシウムとして4mg)

添加物
D-マンニトール、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、メタケイ酸アルミン酸Mg、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、タルク、黄色三二酸化鉄、酸化チタン、アスパルテーム(L-フェニルアラニン化合物)、香料、ステアリン酸Mg、その他3成分
特許第5190159号:
請求項1
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;
を含有し、かつ、水分含量が2.9質量%以下である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。

請求項6
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;
を含有し、かつ、水分含量が2.9質量%以下である固形製剤。
J-PlatPatの経過情報を見る限り、特許無効審判は請求されていない。

    Oct 8, 2017

    2017.08.08 「FONTEC R&D v. サラヤ」 知財高裁平成28年(行ケ)10269

    数値限定発明のサポート要件: 知財高裁平成28年(行ケ)10269

    被告(サラヤ)が保有する「高純度羅漢果配糖体を含有する甘味料組成物」に関する特許第3502587号の特許無効審判請求に対する一部無効・一部不成立審決のうち一部不成立部分の取消訴訟。争点は、サポート要件判断の誤りの有無。請求棄却。

    本件発明:
    甘味料組成物を調製するための羅漢果エキスであって,モグロサイドⅤ,モグロサイドⅠⅤ,11-オキソ-モグロサイドⅤおよびシアメノサイドⅠの合計含有量が,35重量%以上である,羅漢果エキス。
    原告は、
    「本件明細書に接した当業者は,本件4成分のうち1成分のみを含有する実施例2及び実験例1は,本件発明の実施例ではなく,成分の単離に関する記述と認識するにすぎず,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の構成を満たすサンプルとして,4成分合計含有量が35.10重量%,53.00重量%,60.80重量%の例が記載されているにすぎないから,4成分合計含有量が「35重量%以上」という本件発明の全範囲(特に4成分合計含有量が60.80重量%を超えるもの)まで,これを拡張又は一般化することはできない。」
    などと主張した。

    裁判所は、平成17年(行ケ)10042号「偏光フィルムの製造法」大合議判決に言及して、
    「本件明細書には,4成分合計含有量が35.10重量%~60.80重量%であるサンプルH~Jが,ショ糖の甘味質と類似した優れた甘味質を示す水溶液であることが開示されている上,4成分合計含有量が60.80重量%を超える範囲においては,本件4成分のいずれかを増加させることになるところ,前記(3)のとおり,本件4成分は,いずれも,本件味覚9要素のいずれにおいてもショ糖との乖離の程度は小さく,ショ糖と類似した優れた甘味質を有することが開示されているから,本件明細書に接した当業者は,4成分合計含有量が35重量%以上の羅漢果エキスは,ショ糖よりも少量で,ショ糖と同等の甘味強度を得ることができ,ショ糖と類似した優れた甘味質を示すものと理解することができる。
    したがって,本件特許の請求項2に記載された本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり,サポート要件に適合するものと認められる。」
    と判断した。

    参考:

    http://www.lakanto.jp/products/lakanto/


    Oct 4, 2017

    オキサリプラチン(解離シュウ酸事件)特許侵害差止訴訟 最高裁上告不受理

    日本化薬は、2015年5月8日、日本化薬が製造販売している抗悪性腫瘍剤「オキサリプラチン点滴静注液50mg『NK』」、「オキサリプラチン点滴静注液100mg『NK』」、「オキサリプラチン点滴静注液200mg『NK』」について、デビオファーム社から特許権侵害に基づく製造販売の差止訴訟を提起され、2016年3月3日の東京地裁判決(2016.03.03 「デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成27年(ワ)12416)では、日本化薬の主張が認められませんでしたが、2016年12月8日、知財高裁は、東京地裁の判決を取り消し、デビオファーム社の請求をいずれも棄却するとの判決を言い渡しました(2016.12.08 「日本化薬 v. デビオファーム」 知財高裁平成28年(ネ)10031)。

    2017年10月4日の日本化薬のpress releaseによると、この判決に対してデビオファーム社は、最高裁に上告していましたが、2017年10月3日、最高裁第三小法廷は、裁判官全員一致の意見で、デビオファーム社の上告を棄却するとともに、上告不受理決定をしたとのことです。

    参考:

    Oct 1, 2017

    2017.07.27 「 中外製薬 v. 岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ」 東京地裁平成27年(ワ)22491

    特許権侵害に当たる後発医薬品薬価収載に伴う先発医薬品の薬価引下げによる損害賠償東京地裁平成27年(ワ)22491

    【背景】

    「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」とする特許権(特許第3310301号)を第三者(コロンビア大学)と共有する原告(中外製薬)が、マキサカルシトール製剤を販売等する被告ら(岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ)に対し、これらの行為が上記特許権の均等侵害に当たるものであるところ、
    • 被告ら製品の販売により原告製品(オキサロール軟膏)の市場におけるシェアが下落し、損害を被ったとして、民法709条ないし特許法102条1項に基づき、被告らに対し、それぞれ損害賠償金及び遅延損害金の支払、
    • 被告ら製品の薬価収載により原告製品(オキサロール軟膏及びオキサロールローション)の薬価が下落し、その取引価格も下落したことにより、損害を被ったとして、民法709条に基づき、被告らに対し、連帯して損害賠償金及び遅延損害金の支払
    を、それぞれ求めた事案である。

    【要旨】

    先発医薬品メーカーの特許を侵害していた後発医薬品メーカーが後発医薬品を薬価収載したことと先発医薬品薬価引下げによる損害との間に因果関係が認められ、結果、原告先発医薬品メーカーによるその損害賠償請求(下記争点(4))が認められた判決である。

    主 文(他略)
    1 被告岩城製薬は,原告に対し,2億0363万2798円・・・を支払え。
    2 被告高田製薬は,原告に対し,1億1815万9458円・・・を支払え。
    3 被告ポーラファルマは,原告に対し,1億6822万3686円・・・を支払え。
    4 被告らは,原告に対し,連帯して5億7916万9686円・・・を支払え。
    裁判所の判断(抜粋)

    1 争点(1)(本件製造方法について,本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの「特段の事情」の有無)について
    「乙A10にはトランス体のビタミンD構造を出発物質とすることを内容とする本件発明と同一の構成の発明が記載されているとは認められず,被告らの上記主張は前提を欠くものであるから,原告が,本件特許出願の際に,本件製造方法(トランス体のビタミンD構造を出発物質とするマキサカルシトールの製造方法)を特許請求の範囲から意識的に除外したものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえない。・・・本件製法方法は本件発明の構成と均等であるものと認められる。」
    2 争点(2)(原告が本件特許権の共有者の1人であることに関し,原告が被告らに対して損害賠償請求できる範囲)について
    「原告は,自らが有する本件特許権の持分2分の1に基づき,特許権侵害に係る逸失利益の損害賠償請求権を有しているほか,・・・コロンビア大学の共有持分2分の1について独占的通常実施権を有するから,被告らによる本件特許権侵害は,原告に対する上記独占的通常実施権の積極的債権侵害に当たるといえ,原告は被告らに対し,同侵害行為による逸失利益の損害賠償を請求することができる。・・・なお,原告・コロンビア大学間の本件ライセンス契約においては,・・・既に原告が被告らに対して訴訟を提起した本件において,コロンビア大学が,別途,被告らに対して損害賠償請求し,被告らがコロンビア大学に二重払いしなければならないリスクがあるとは解されない。・・・以上によれば,原告は,被告らに対し,本件特許権の侵害によって被った損害(独占的通常実施権者として受けた損害も含む。)の全額について賠償を請求し得る。」
    3 争点(3)(外用ビタミンD3製剤の市場でのオキサロール軟膏のシェア喪失による原告の損害額)について
    「被告らは,オキサロール軟膏には複数の競合品(ボンアルファ,ボンアルファハイ,ドボネックス)があるところ,被告製品は,その性能が上記各競合品と同等であることに加え,安価であるため,原告製品だけでなく,上記各競合品のシェアをも奪ったものであるとし,上記各競合品は,乾癬の治療薬としての外用ビタミンD3製剤の市場において42%のシェアを有しているから,42%分について推定を覆滅すべきである,と主張する。
    確かに,・・・ボンアルファ,ボンアルファハイ及びドボネックスは,いずれもオキサロール軟膏の競合品であって,被告製品は,オキサロール軟膏だけでなく,上記各競合品のシェアをも一定程度奪っていたものと認められる。・・・他方で,・・・オキサロール軟膏や被告製品,上記各競合品は,いずれも医師の処方箋を必要とする薬品であり,・・・オキサロール軟膏から被告製品に変更する場合と比較すると,上記各競合品から被告製品に変更するのは容易ではないというべきであって,上記各競合品(ボンアルファ,ボンアルファハイ,ドボネックス)が,乾癬の治療薬としての外用ビタミンD3製剤の市場で42%程度のシェアを有していたとしても,被告製品が同シェアをそのまま代替したものとは到底認められない。以上の諸事情を総合的に考慮すると,被告製品は,上記各競合品のシェアを一定程度奪ったものとして,特許法102条1項本文による推定が覆滅される割合を10%と認定するのが相当である。以上を前提とすると,前記(2)で計算した金額につき,10%分を控除した後の金額が,シェア喪失による原告の損害額となる。なお,民法709条のみに基づく請求についても,特許法102条1項に基づき計算した額を超える損害額は認められない。」
    4 争点(4)(原告製品の取引価格下落による原告の損害額)について
    「原告は,新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度によって,被告製品が薬価収載されるまでは,現に原告製品について薬価の維持という利益を得ていたところ,後発品である被告製品が薬価収載されたことにより,平成26年4月1日に原告製品の薬価が下落したものである。この薬価の下落は被告製品の薬価収載の結果であり,本件特許権の侵害品に当たる被告製品が薬価収載されなければ,原告製品の薬価は下落しなかったものと認められるから,被告らは,被告製品の薬価収載によって原告製品の薬価下落を招いたことによる損害について賠償責任を負うべきである。被告らは,そもそも薬価の維持は保護に値する利益ではなく,厚生労働省の薬価政策による結果にすぎないとも主張するが,新薬創出・適応外薬解消等促進加算という制度が実際に存在し,しかも,同制度に基づく加算は厚生労働省が裁量で行うものではなく,所定の要件を充たす新薬であれば一律に同制度による加算を受けられる以上,これは法律上保護される利益というべきであって,被告らの上記主張は採用できない。・・・現に,後記ウのとおり,原告・マルホ間での原告製品の取引価格の下落率は,薬価の下落率とほぼ同一である。以上によれば,原告・マルホ間の取引価格の下落分は,その全てが被告製品の薬価収載と相当因果関係のある損害と認められる。」
    5 争点(5)(被告らの過失の有無)について
    「被告らは,特許法103条は均等侵害を前提としておらず,均等侵害の場合に侵害者の過失を推定することは,立法趣旨にも反するから,均等侵害の場合に同条は適用されない旨主張する。しかしながら,均等侵害も特許権侵害に当たることに変わりはないところ,特許法103条は「他人の特許権…を侵害した者は,その侵害の行為について過失があったものと推定する。」と規定し,文言侵害と均等侵害とを何ら区別していないし,同条について均等侵害が成立する場合にその適用が排除されることを裏付けるような立法趣旨を認めるに足りる証拠もないから,本件のような均等侵害の事案においても,特許法103条が適用され,被告らの過失が推定されるものと解すべきである。」
    6 争点(6)(過失相殺の成否)について
    「本件全証拠によっても,被告らについて過失の推定を覆滅させるような事情が存在するとは認めるに足りず,被告らの主張は採用できない。」
    7 争点(7)(特許法102条4項後段の適用の有無)について
    「被告らは,本件において被告らには故意・重過失がない上,原告が特許出願時に容易にクレームに記載し得る技術をクレームに記載しなかった以上,特許法102条4項後段を適用して損害額を減額すべき旨主張する。しかし,前記5のとおり,被告らは,いずれも医薬品の製造販売等を業としているのであるから,その販売する医薬品の特許権侵害については高度の注意義務を負うというべきところ,被告製品の販売前に,本件特許の内容や本件製造方法が本件特許権を侵害する可能性について慎重に検討したならば,本件製造方法が本件発明の構成と均等であると判断される可能性について十分認識可能であったこと,前記6のとおり,原告に特許請求の範囲の記載について過失があったとまでは認められないこと等を考慮すれば,本件において,特許法102条4項後段を適用して原告の損害額を減額すべきほどの事情は見当たらず,被告らの上記主張は採用できない。」
    【コメント】

    注目すべき点は、後発品3社による侵害品の販売によって、中外製薬のオキサロール軟膏の販売が失われたことによる損害についての後発品3社の賠償責任を認めただけでなく、オキサロール軟膏及びオキサロールローションの薬価加算分の引き下げについて後発品3社の賠償責任も認められた点。2017年7月27日付の中外製薬のニュースリリース(「オキサロール®軟膏製法特許侵害に対する損害賠償請求訴訟の判決に関するお知らせ」)によると、薬価算定において新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象だった中外製薬のオキサロール軟膏及びオキサロールローションは、オキサロール軟膏の後発品の参入により、本来の時期より早く加算分の引き下げが行われた。本件は、薬価加算分の引き下げに起因して先発医薬品企業に生じた損害について判断された初めての事例とのこと。

    後発医薬品メーカーは、特許侵害判断される可能性が残されている段階で、たとえそれが物質特許や用途特許ではなく製法特許のような特許であったとしても、薬価収載して販売に踏み切ることには、今回のような薬価引下げ分の損害賠償という金銭的なリスクも伴い得る、ということが判決上でも明らかとなったといえる。

    過去に、セフゾン(Cefzon、一般名:セフジニル(Cefdinir)、経口用セフェム系製剤)の特許侵害訴訟に勝訴したアステラス製薬が、大洋薬品に対して、セフゾン特許存続期間中に大洋薬品がした後発品薬価申請行為が不法行為であるとしてセフゾンの2006年4月の薬価改定時の特例引下げ(通常改定に加えて8%の追加引下げ)分を逸失利益とする損害賠償を請求した訴訟はあった(2008.03.05 「アステラス v. 大洋薬品 セフゾン訴訟和解へ」; アステラス プレスリリース: 2007.08.09 経口用セフェム系製剤「セフゾン®」の損害賠償請求提訴のお知らせ)。しかし、この事件は、大洋薬品がアステラス製薬へ和解金を支払うことなどを内容とする和解契約を締結したことで一連の係争は終結しており(アステラス プレスリリース: 2008.03.05 大洋薬品工業との経口用セフェム系製剤「セフゾン®」に関する訴訟等の和解のお知らせ)、特許権侵害に当たる後発医薬品薬価収載に伴う先発医薬品の薬価引下げによる損害賠償請求を認めるという判決に至ったケースはこれまでなかった。

    参考:

    Sep 28, 2017

    田辺三菱 タリオン®後発品薬価収載希望書提出したジェネリックメーカーに対し特許侵害差止仮処分命令申立て

    田辺三菱製薬は、アレルギー性疾患治療剤「タリオン®(有効成分: ベポタスチンベシル酸塩)」について、同製品の後発品薬価収載希望書を提出した東和薬品、シオノケミカルおよび大興製薬に対して、田辺三菱が保有する物質特許等の侵害行為の差止めを求める仮処分命令の申立てを2017年9月15日付で東京地裁および大阪地裁に行ったとのことです。

    田辺三菱および宇部興産は、ベポタスチンベシル酸塩を有効成分とする医薬品に関し、下記日本特許を有しています。下記物質特許(第4704362号)と医薬用途特許(第4562229号)についてだけ見れば、いずれも2017年12月19日に存続期間満了を迎えることから、特許期間満了後のそれら後発品の製造販売行為自体は特許権の効力が及ばないことになります。特許期間満了後の製造販売を目的として特許期間中に後発品薬価収載(12月)に向けて活動する行為が、侵害又は侵害のおそれに該当するとして、裁判所が差止仮処分命令申立てを認めるかどうかが気になるところです。
    参考:


    Sep 24, 2017

    2017.07.27 「デビオファーム v. 武田テバファーマ」 知財高裁平成29年(ネ)10016

    出願経過を参酌して「オキサリプラティヌムの水溶液」の技術的範囲を判断: 知財高裁平成29年(ネ)10016

    「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許第3547755号(本件特許)を有する控訴人(デビオファーム)が、被控訴人(武田テバファーマ)の製造、販売する各製品(被控訴人各製品)は本件発明の技術的範囲に属し、かつ、存続期間の延長登録を受けた本件特許権の効力は被控訴人各製品の生産等に及ぶ旨主張して、被控訴人各製品の生産等の差止め及び廃棄を求めるとともに、損害賠償請求を追加した事案。原判決は、存続期間が延長された本件特許権の効力が被控訴人各製品には及ばないとして控訴人の請求を棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴した。

    原審:
    知財高裁(第2部)は、
    「延長登録された特許権の効力を及ぼすに当たっては,相手方の製品が特許発明の技術的範囲に属することが前提となるところ,本件特許に係る構成要件A③の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」との文言は,オキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であって,他の添加剤等の成分を含まないことを意味するものと解されるから,オキサリプラチンと注射用水のほか,有効成分以外の成分として乳糖水和物を含有する被控訴人各製品は,同構成要件を充足せず,したがって,被控訴人各製品に対し延長登録された本件特許権の効力は及ばない」
    と判断した。控訴棄却。以下、判決抜粋。
    「本件明細書の前記記載や上記出願経過を総合的にみると,本件発明の課題は,公知の有効成分である「オキサリプラティヌム」について,承認された基準に従って許容可能な期間医薬的に安定であり,凍結乾燥物から得られたものと同等の化学的純度及び治療活性を示す,そのまま使用できるオキサリプラティヌム注射液を得ることであり,その解決手段として,オキサリプラティヌムを1~5mg/mlの範囲の濃度と4.5~6の範囲のpHで水に溶解したことを示すものであるが,更に加えて,「該水溶液が,酸性またはアルカリ性薬剤,緩衝剤もしくはその他の添加剤を含まない」ことをも同等の解決手段として示したものである。以上によると,本件発明の特許請求の範囲の記載の「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」(構成要件A③)との文言は,本件発明がオキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であって,他の添加剤等の成分を含まないことを意味すると解するのが相当である。そうすると,被控訴人各製品は,オキサリプラチンと注射用水のほか,有効成分以外の成分として,乳糖水和剤を含有するものであるから,被控訴人各製品は,構成要件A③を充足しないものというべきである。
    ・・・したがって,被控訴人製品は,その余の構成要件について検討するまでもなく,本件発明の技術的範囲に属しないので,延長登録された本件特許権の効力は,被控訴人各製品に及ばない。」
    上記のとおり、知財高裁第2部は、延長された特許権の効力について判断した知財高裁大合議判決(2017.01.20 「デビオファーム v. 東和薬品」 知財高裁平成28年(ネ)10046)とは異なり、知財高裁第3部の判決(2017.07.12 「デビオファーム v. ホスピーラ・ファイザー」 知財高裁平成29年(ネ)10009・平成29年(ネ)10023)と同様に、延長された特許権の効力について判断した地裁判決について触れることなく、そもそも被控訴人各製品は本件特許発明の技術的範囲に属しないと判断して本事件を決着させた。

    Sep 19, 2017

    2017.07.20 「デビオファーム v. 沢井製薬」 知財高裁平成29年(ネ)10015

    オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない知財高裁平成29年(ネ)10015

    「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:沢井製薬)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人ら各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、「本件発明等における『緩衝剤』には,外部から添加したシュウ酸のみならず,オキサリプラチン水溶液において分解して生じるシュウ酸も含まれる」という原告の主張を前提とすると、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとして、控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。
    知財高裁(第2部)は、
    「本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被控訴人各製品は,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を含有するものではなく,したがって,本件発明の技術的範囲に属せず,本件訂正発明の技術的範囲にも属しない」
    と判断し、原判決は結論において相当であるから、本件控訴を棄却した。

    原審: 2016.12.20 「デビオファーム v. 沢井製薬」 東京地裁平成27年(ワ)28698

    Sep 17, 2017

    2017.07.20 「デビオファーム v. 武田テバファーマ」 知財高裁平成29年(ネ)10014

    オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない知財高裁平成29年(ネ)10014

    「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:武田テバファーマ)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人ら各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとして、控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。
    知財高裁(第2部)は、
    「本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被控訴人各製品は,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を含有するものではなく,したがって,本件発明の技術的範囲に属せず,本件訂正発明の技術的範囲にも属しない」
    と判断し、原判決は結論において相当であるから、本件控訴を棄却した。

    原審: 2016.12.20 「デビオファーム v. 武田テバファーマ」 東京地裁平成27年(ワ)28467

    Sep 9, 2017

    中外がハーセプチン®バイオシミラー承認申請した日本化薬に対し用途特許侵害で製造販売差止訴訟提起

    2017年9月8日付の中外製薬(株)プレスリリースによると、抗HER2ヒト化モノクローナル抗体「ハーセプチン®注射用60」および「ハーセプチン®注射用150」のバイオ後続品(バイオシミラー)の製造販売承認申請者である日本化薬(株)に対し、ロシュ・グループのジェネンテック社が保有する用途特許の侵害を理由として、専用実施権者である中外製薬は、ジェネンテック社とともに、8月17日付で東京地裁にバイオ後続品の製造販売等の差し止めを求める訴訟を提起し、併せて仮処分命令の申立てを行ったとのことです。

    日本新薬は、韓国セルトリオン社と共同開発を進めてきたトラスツズマブ(開発コード CT-P6)のバイオ後続品の製造販売承認申請を2017年4月11日に行っており、承認はまだ得られていません(日本新薬
    press release: 2017.04.11 「トラスツズマブ(遺伝子組換え)製剤のバイオ後続品(バイオシミラー)の製造販売承認申請について」)。

    中外製薬は、日本新薬のバイオ後続品はまだ承認されていない(従って、薬価収載・製造販売には至っていない)現時点で、差し止め請求及び仮処分命令申立という訴訟提起に踏み切ったことになります。


    ハーセプチン®(Herceptin®)について

    ハーセプチン®(Herceptin®)注射用は、ジェネンテック社が創製したHER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor Type 2:ヒト上皮増殖因子受容体 2 型)の細胞外領域に結合し、HER2過剰発現ヒト腫瘍細胞の増殖を抑制する抗HER2ヒト化モノクローナル抗体「トラスツズマブ(Trastuzumab)(遺伝子組換え)」を有効成分とする抗悪性腫瘍剤。米国において1992年より臨床試験が開始され、1998年乳癌治療薬としては世界で最初のヒト化モノクローナル抗体治療薬として、FDAで認可されました。国内では2001年4月4日承認され、HER2過剰発現が確認された乳癌、HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌に効能・効果が認められています。用法及び用量は下記の通りです。
    HER2過剰発現が確認された乳癌にはA法又はB法を使用する。HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌には他の抗悪性腫瘍剤との併用でB法を使用する。
    A法: 通常、成人に対して1日1回、トラスツズマブ(遺伝子組換え)として初回投与時には4mg/kg(体重)を、2回目以降は2mg/kgを90分以上かけて1週間間隔で点滴静注する。
    B法: 通常、成人に対して1日1回、トラスツズマブ(遺伝子組換え)として初回投与時には8mg/kg(体重)を、2回目以降は6mg/kgを90分以上かけて3週間間隔で点滴静注する。
    なお、初回投与の忍容性が良好であれば、2回目以降の投与時間は30分間まで短縮できる。

    ジェネンテックが保有する特許について

    ジェネンテックが保有する「抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ」に関する特許権(第5818545号)が2015年10月9日に設定登録がなされました。存続期間満了日は2020年8月25日。2016年6月にセルトリオンが特許無効審判請求をし、2017年3月にはファイザーが参加人として加わりましたが、特許庁は請求は成り立たないとの審決(無効2016-800071)を2017年7月に下しています。また、同特許に対して、別途ファイザーが2017年5月に無効審判を請求しています(無効2017-800062 )。今回の中外製薬のプレスリリースにある「ジェネンテック社が保有する用途特許」とはおそらく、少なくとも、この特許のことではないかと推測され、特許の有効性や侵害訴訟の行方など、今後の動向が注目されます。

    特許第5818545号の請求項1:
    (i)抗ErbB2抗体huMab4D5-8を含有し、8mg/kgの初期投与量と6mg/kg量の複数回のその後の投与量で前記抗体を各投与を互いに3週間の間隔をおいて静脈投与することにより、HER2の過剰発現によって特徴付けられる乳癌を治療するための医薬組成物が入っている容器、及び(ii)前記容器に付随するパッケージ挿入物を具備するパッケージ。

    参考:

    Sep 3, 2017

    2017.07.19 「三栄源エフ・エフ・アイ v. ジェイケー スクラロース」 知財高裁平成28年(行ケ)10157

    数値限定に関する訂正要件: 知財高裁平成28年(行ケ)10157

    【背景】

    原告(三栄源エフ・エフ・アイ)が保有する「酸味のマスキング方法」に関する特許第3916281号に対して被告(ジェイケー スクラロース)が請求した無効審決(無効2014-800118)取消訴訟。審決は、無効審判請求に対して原告がした訂正請求(本件訂正)が特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項又は6項の規定に適合せず認められないとした上、進歩性欠如等により本件特許は無効とすべきものであると判断した。原告は、本件訂正が認められるべきであるとして、本件審決取消訴訟を提起した。

    請求項1:
    (訂正前)
    醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品,又はコーヒーエキスを含有する製品に,スクラロースを該製品の0.000013~0.0042重量%の量で添加することを特徴とする酸味のマスキング方法。
    (訂正後)
    醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品に,スクラロースを該製品の0.0028~0.0042重量%の量で添加することを特徴とする該製品の酸味のマスキング方法。
    上記訂正事項1が訂正要件を満たすか否か問題となった実施例2の記載は下記の通り。
    【0016】
    実施例 2:ピクルス
    醸造酢(酸度10%)15部、食塩6.5部、ハーブ(ディル )抽出物0.4部、ウコン粉末0.2部、ディルフレーバー0.1部、スクラロース0.0028部、又はハイステビア500(ステビア抽出物 池田糖化工業株式会社製)0.013部を水にて100部とし、ローレル、カッシャ、唐辛子を適量加える。この調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6の割合で合わせ、瓶詰めする。
    その結果、スクラロース又はステビア抽出物を添加していないピクルスに比べて、酸味がマイルドで嗜好性の高いピクルスに仕上がった。
    請求項2:
    (訂正前)
    クエン酸を水溶液濃度で0.1~0.3%含有する製品に,スクラロースを0.0000075~0.003重量%の量で添加することを特徴とするクエン酸含有製品の酸味のマスキング方法。

    (訂正後)
    クエン酸を0.1~0.3%含有する飲料に,スクラロースをその甘味を呈さない範囲で且つ0.00075~0.003重量%の量で添加することを特徴とするクエン酸含有飲料の酸味のマスキング方法。
    請求項3:
    (新たに設けられた)
    コーヒーエキスを含有する飲料に,スクラロースを,極限法で求めた甘味閾値の1/100以上0.0013重量%以下の量で添加することを特徴とする該飲料の酸味のマスキング方法。
    【要旨】

    主 文
    1 特許庁が無効2014-800118号事件について平成28年6月10
    日にした審決を取り消す。(他略)
    裁判所は、
    「ピクルスにおけるスクラロース濃度は,実施例2において調味液のスクラロース濃度を0.0028重量%とし,この調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6の割合で合わせ,瓶詰めされて製造されるものであるから,きゅうりに由来する水分により0.0028重量%よりも低い濃度となることが技術上明らかである(きゅうりにスクラロースが含まれないことは,当事者間に争いがない。)。そして,0.0028重量%よりも低いスクラロース濃度においてピクルスに対する酸味のマスキング効果が確認されたのであれば,ピクルスにおけるスクラロース濃度が0.0028重量%であったとしても酸味のマスキング効果を奏することは,本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識から当業者に明らかである。そのため,スクラロースを0.0028重量%で「醸造酢及び/又はリンゴ酢を含有する製品」に添加すれば,酸味のマスキング効果が生ずることは当業者にとって自明であり(実施例3の「おろしポン酢ソース」では,スクラロース0.0035重量%で酸味のマスキング効果が生じ,実施例4の「青じそタイプノンオイルドレッシング」では,スクラロース0.0042重量%で酸味のマスキング効果が生じることがそれぞれ開示されている。),このことは本件明細書において開示されていたものと認められる。
    そうすると,製品に添加するスクラロースの下限値を「製品の0.000013重量%」から「0.0028重量%」にする訂正は,特許請求の範囲を減縮するものである上,本件訂正後の「0.0028重量%」という下限値も,本件明細書において酸味のマスキング効果を奏することが開示されていたのであるから,本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。
    したがって,訂正事項1は,当業者によって本件明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「本件当初明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものといえるから(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号同20年5月30日特別部判決参照),特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定に適合するものと認めるのが相当である。
    以上によれば,訂正事項1が本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえず,特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定に適合しないとした審決の判断には誤りがあり,原告の主張する取消事由1は理由がある。」
    と判断した。

    被告は、
    「実施例2において酸味をマスキングしているか否かを確認したのは,調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6の割合で合わせ,瓶詰めして得られたピクルスであり,そのピクルスの酸味がマイルドで嗜好性の高いものであることが本件明細書に記載されているのであって,当該調味液の酸味がマスキングされたことについては本件明細書の実施例2に何ら記載されていないとして,原告の主張は,本件明細書の記載に基づかないものである」
    などと主張した。

    裁判所は、
    「確かに,実施例2における酸味をマスキングする対象は,ピクルスであって調味液であるとは認められず,これを調味液であるという原告の主張は,本件明細書の記載に照らし,失当というほかない。しかしながら,酸味をマスキングする対象がピクルスであり,この場合におけるスクラロース濃度が直接明らかでないとしても,当該濃度で酸味のマスキング効果を奏すれば,少なくともこれより高い濃度である「0.0028重量%」の濃度で酸味のマスキング効果を奏することは,本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識から当業者にとって明らかなことである。そうすると,訂正事項1は,スクラロース濃度の下限値を「0.0028重量%」の濃度に減縮するものであり,当該濃度が酸味のマスキング効果を奏することは本件明細書に開示されていたといえるから,本件当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものと認められる。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。」
    と判断した。

    裁判所は、その他の訂正事項2(請求項2に係る訂正要件)についても審決の判断には誤りがあると判断したが、訂正事項3(請求項3に係る訂正要件)については実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであり、審決の判断に誤りはないと判断した。

    【コメント】

    数値限定に関する訂正要件について争われた事件。

    審決において、特許庁は、
    「上記実施例2のスクラロースの添加量「0.0028重量%」は、「ピクルス」を漬けるための調味液におけるスクラロースの濃度であって、調味液と塩抜きしたきゅうりを4対6の割合で合わせて漬けた後には、きゅうりからどの程度の水分が浸透圧で排出されるか、また、スクロースがどの程度きゅうりに浸透するかなど不明であることから、調味液及びきゅうりのスクラロースの濃度は不明であると言わざるをえない。
    そうすると、上記「0.0028重量%」を、製品である「ピクルス」のスクラロースの添加量とみなすことはできない。」
    と述べている。

    確かに、実施例2のスクラロースの濃度は不明であった。しかし、裁判所は、明細書の記載からその数値の範囲であれば発明の効果を奏することが当業者にとって自明であるならば、そのような数値範囲内において限定する訂正である限りは、特許請求の範囲を減縮するものであり、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものということになると判断した。数値限定発明について、さらにその数値範囲(下限値または上限値)を限定するような訂正においては、明細書にその訂正上限値または訂正下限値が具体的に明記されていなくとも、明細書の記載からその範囲であれば発明の効果を奏することが当業者にとって自明である限り、明細書に記載した事項の範囲内においてしたものといえると考えられる。付加される訂正(補正)事項が明細書等に明示されているときのみならず、明示されていないときでも新たな技術的事項を導入するものではないときは「明細書等に記載した事項の範囲内」の減縮であるということになるという点は、除くクレームの訂正(補正)を認めた判決(2008.05.30 「タムラ化研 v. 太陽インキ製造」 知財高裁平成18年(行ケ)10563; 2009.03.31 「テイコクメディックス v. クレハ」 知財高裁平成20年(行ケ)10065)からも整合するものといえる。

    参考:


    Aug 27, 2017

    2017.07.12 「X v. シアトル ジェネティクス」 知財高裁平成28年(行ケ)10148

    明細書記載データの一部分に誤記があったときの釈明知財高裁平成28年(行ケ)10148

    【背景】

    被告(シアトル ジェネティクス)が保有する「低いコアフコシル化を有する抗体及び抗体誘導体を調製するための方法並びに組成物」に関する特許第5624535号の特許無効審判請求を不成立とした審決(無効2015-800102号)の取消訴訟。争点は、①進歩性の判断の当否(相違点の容易想到性の判断の誤り)、②実施可能要件に関する判断の適否及び③サポート要件に関する判断の適否。

    請求項1:
    低いコアフコシル化を有する修飾抗体又は抗体誘導体を製造する方法であって,
    糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンを介してFcドメインに結合した少なくとも一つの複合N-グリコシド結合糖鎖を有するFcドメインを有する抗体又は抗体誘導体を発現する宿主細胞を有効量のフコース類似体を含む培地中で適切な成長条件下で培養する段階,及び
    前記抗体又は抗体誘導体を細胞から分離する段階を含み,
    ここで,前記フコース類似体が以下の式・・・であり,・・・
    前記抗体又は抗体誘導体が前記フコース類似体の不存在下で培養した宿主細胞からの抗体又は抗体誘導体と比較して低いコアフコシル化を有する,上記方法。
    【要旨】

    請求棄却。

    明細書に記載されているフコース類似体のひとつとして挙げられたアルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害活性のデータが「不自然」であることに端を発した実施可能要件に関する判断の適否について以下に抜粋。

    問題となった表1の記載部分は下記のとおり(50μMと1mM)。


    原告は、
    「本件明細書の表1によると,50μMでの阻害活性が「>80%」と記載されたアルキニルフコースジ(トリメチルアセテート)に,もう1つピバレートエステル基が付加しただけで,阻害活性が「約0%」(50μMアルキニルフコース1,2,-トリ(トリメチルアセテート))となるように,化学構造がわずかでも変化すると活性に大きな相違がもたらされるというのが技術常識であるから,本件発明1のフコース類似体の全てが低いコアフコシル化抗体の製造に使用することができるわけではない」
    と主張した。

    しかしながら、裁判所は、
    「当業者であれば,上記フコース類似体の50μMの濃度における阻害活性データを比較した際に,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害活性が,ピバレートエステル基を1つ多く有するアルキニルフコーステトラキス(トリメチルアセテート)よりも低下していることは,本件明細書の記載及び技術常識に照らし,不自然であると認識し,その阻害活性データについて,発明の詳細な説明の実施例(段落【0217】等)に記載されたコアフコシル化阻害活性の測定方法によって当該フコース類似体の阻害活性を確認し,表1におけるこのフコース類似体の阻害活性データが誤記であることを確認することに格別の技術的困難があるとは認められない。表1及び2に列挙された各種フコース類似体のコアフコシル化の阻害%のうちで唯一50μMにおいても1mMにおいても効果がないと解される表1のアルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の上記データが誤記であることは,共同発明者の1名により本件明細書に記載された実験の元データ(添付資料A。以下「本件データ」という。)を分析した結果報告(甲16。以下「本件分析報告」という。)によれば,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害が>80%程度であると認められることからも裏付けられる。
    したがって,当業者であれば,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害活性に関する本件データを参照するまでもなく,発明の詳細な説明の記載から,表1の上記フコース類似体の阻害活性データが誤記であることを推測することができ,そのことを発明の詳細な説明の実施例の記載に基づいて容易に確認することができると認められるし,また,本件分析報告によれば,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)は,実際には非常に高いコアフコシル化阻害活性(>80%)を有することが確認できるのであるから,フコース類似体として,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)を発明の詳細な説明に記載されたとおりに用いることにより,本件発明1について実施をすることができるものと認められる。
    以上によれば,表1のアルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)に関する「約0%」及び「ND」の記載のみをもって,実施可能要件を欠くということはできず,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の全体的な開示に基づき,本件発明1について実施をすることができると認められるから,原告の上記主張は採用することができない。」
    と判断した。

    また、原告は、
    「審決が,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害活性のデータが「不自然」であると認定したのは,被告がその後に提出した生データを考慮した上での,後付けの判断によるものといわざるを得ず,この点に関する審決の判断は,本件優先日に当業者が知り得なかった生データに基づくものであるから,特許法36条4項1号の規定に反する」
    と主張した。

    しかしながら、裁判所は、
    「当業者であれば,アルキニルフコース1,2,3-トリ(トリメチルアセテート)の阻害活性に関する本件データを参照するまでもなく,発明の詳細な説明の記載から,表1の上記フコース類似体の阻害活性データが誤記であることを推測でき,それを発明の詳細な説明の実施例の記載に基づいて容易に確認することができると認められるのは前記認定のとおりである。
    このように,本件は,本件明細書に,当業者が,技術常識に照らし,阻害活性に関するデータの一部分が不自然であると推測し確認することができる記載があるといえる場合であるから,本件明細書の発明の詳細な説明(【0217】の表1)に記載された阻害活性のデータ(50μMにおける阻害)について,出願後に補充した本件データを参酌することも許されるものと解される。被告は,本件明細書の発明の詳細な説明に開示された多くの実験結果の1つに誤記があったことから,本件明細書に記載された内容の範囲内での結果を示すような事後的な本件分析報告を提出して(甲16),上記誤記について釈明しているにすぎない(例えば,特許出願前に実施することができた実験データを,事後的に追完するような場合とは異なる。)。
    したがって,出願後に補充した本件データを参酌した審決の判断に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。」
    と判断した。

    【コメント】

    争点は、進歩性、実施可能要件、サポート要件であり、いずれも裁判所は審決の判断に誤りはないと結論付けた。

    そのうち、実施可能要件については、明細書に記載されているひとつのフコース類似体のデータに効果が無い(阻害活性が0%である)という記載が問題となった。

    裁判所は、当業者であれば、本件明細書の記載及び技術常識に照らし、そのデータが不自然であると認識し、誤記であることを確認することに格別の技術的困難があるとは認められないことから、いわゆる後出しデータを参照するまでもなく、誤記であることを推測でき、それを明細書の記載に基づいて容易に確認することができると認められるし、そのような場合には、いわゆる後出しデータで誤記の釈明を参酌することができる、と判断した。

    本件裁判所の判断によれば、明細書に記載されたデータの一部分に誤記があったときに釈明するためのポイントは以下の2点となる。
    ①当業者が、明細書の記載及び技術常識に照らして、その部分が不自然(誤記)であると推測できること
    ②当業者が、明細書の記載に基づいて、格別の技術的困難なく、そのデータの一部分を再確認することができること


    Aug 21, 2017

    製薬協 「オキサリプラティヌム事件の知財高裁大合議判決について」

    オキサリプラティヌム事件の知財高裁大合議判決において延長された特許権の効力の及ぶ範囲(特許法第68条の2の解釈)について一定の判断が示されたことを受け、2017年8月21日、日本製薬工業協会知的財産委員会としての意見が出されました。

    日本製薬工業協会webpage: 2017.08.21 「オキサリプラティヌム事件の知財高裁大合議判決について 知財高裁特別部平成29年1月20日判決(平成28年(ネ)第10046号)

    (以下、一部抜粋)
    (2) 医薬品としての実質同一の判断基準について
    ・・・政令処分の単純な比較ではなく、特許発明の内容との関連において医薬品の技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討すべきとした点が評価される。
    なお、延長された特許権の効力が、医薬品として「実質同一」なものにも及ぶとした前記判断基準は、特許法第67条の3第1項第1号による延長登録の可否を判断する手法(医薬品としての審査事項について、処分の包含関係を判断する方法とは必ずしも一致しない。

    (5)おわりに
    本判決により、延長登録された特許権の効力が及ぶ範囲について一定の判断基準が示されたものの、未だ不明確な部分があり、「特許権の存続期間の延長」の審査基準の改訂に伴う課題は残されている。今後の判例の積み重ねによって、本制度の導入趣旨に即した方向で、延長登録された特許権の効力が及ぶ範囲が明確化されていくことを期待するが、世の中の動向や新技術の出現等により、本制度の導入趣旨と乖離する方向に進むおそれが生じる場合には、法改正を含めた本制度の抜本的な見直しを検討する必要があるものと考える。
    参考:

    Aug 20, 2017

    2017.07.12 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成28年(行ケ)10160

    訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるというためには: 知財高裁平成28年(行ケ)10160

    【背景】

    被告(バイオセレンタック)が保有する「経皮吸収製剤,経皮吸収製剤保持シート,及び経皮吸収製剤保持用具」に関する特許第4913030号に対して原告(コスメディ製薬)がした無効審判請求について、本件訂正を認め無効審判請求は成り立たないとした審決(無効2012-800073)の取消しを求めて原告が提起した審決取消訴訟。本件特許については、無効審判請求不成立とした審決の取消判決が繰り返され、本件が3回目となる(知財高裁平成25年(行ケ)10134; 2015.03.11 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成26年(行ケ)10204)。

    【要旨】

    主 文
    1 特許庁が無効2012-800073号事件について平成28年6月29日にした審決を取り消す。(他略)
    裁判所の判断

    裁判所は、訂正事項5は特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められないため、取消事由1(訂正目的違反・発明の要旨認定の誤り)は理由があり、本件審決は違法であって、取消しを免れないものと判断した。その理由の抜粋は以下のとおり。

    「訂正事項5は,本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「針状又は糸状の形状を有すると共に」とあるのを「針状又は糸状の形状を有し,シート状支持体の片面に保持されると共に」に訂正する,というものであり,これを請求項の記載全体でみると,「…尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」とあるのを「…尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有し,シート状支持体の片面に保持されると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される,経皮吸収製剤」に訂正するものである。・・・すなわち,訂正事項5は,経皮吸収製剤のうち,「シート状支持体の片面に保持される」という使用態様を採らない経皮吸収製剤を除外し,かかる使用態様を採る経皮吸収製剤に限定したものといえる。」

    「本件発明は「経皮吸収製剤」という物の発明であるから,本件訂正発明も「経皮吸収製剤」という物の発明として技術的に明確であることが必要であり,そのためには,訂正事項5によって限定される「シート状支持体の片面に保持される…経皮吸収製剤」も,「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であること,言い換えれば,「シート状支持体の片面に保持される」との使用態様が,経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものであることが必要である。
    しかしながら,「シート状支持体の片面に保持される」との使用態様によっても,シート状支持体の構造が変われば,それに応じて経皮吸収製剤の形状や構造(特にシート状支持体に保持される部分の形状や構造)も変わり得ることは自明であるし,かかる使用態様によるか否かによって,経皮吸収製剤自体の組成や物性が決まるという関係にあるとも認められない。
    したがって,上記の「シート状支持体の片面に保持される」との使用態様は,必ずしも,経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものとはいえず,訂正事項5によって限定される「シート状支持体の片面に保持される…経皮吸収製剤」も,「経皮吸収製剤」という物として技術的に明確であるとはいえない(なお,「シート状支持体の片面に保持される」との用途にどのような技術的意義があるのかは不明確といわざるを得ないから,本件訂正発明をいわゆる「用途発明」に当たるものとし
    て理解することも困難である。)。
    そうすると,訂正事項5による訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,技術的に明確であるとはいえないから,訂正事項5は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。
    なお,仮に,「シート状支持体の片面に保持されると共に」の文言が経皮吸収製剤の使用態様を特定するものではなく,「尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有し」との文言と同様に経皮吸収製剤の構成を特定するものであるとすれば,本件訂正発明は,「シート状支持体の片面に保持された状態にある経皮吸収製剤」になり,構成としては「片面に経皮吸収製剤を保持した状態にあるシート状支持体」と同一になるから,訂正事項5は,本件訂正前の請求項1の「経皮吸収製剤」という物の発明を,「経皮吸収製剤保持シート」という物の発明に変更するものであり,実質上特許請求の範囲を変更するものとして許されないというべきである(特許法134条の2第9項,126条6項)。
    したがって,かかる違法な結果を招来する解釈は取り得ない。」

    【コメント】

    本件発明は「経皮吸収製剤」なのだから、「経皮吸収製剤保持シート」ではないはずであり、だとすれば、「シート状支持体の片面に保持される…経皮吸収製剤」との訂正は、「シート状支持体の片面に保持される」使われ方をするものであったとしても「経皮吸収製剤」自体を形状,構造,組成,物性等により特定するものではないし、その技術的意義が不明確であるから用途発明として捉えることもできないという判断である。前回の判決(2015.03.11 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成26年(行ケ)10204)同様に、裁判所は、訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものということができるための前提として、訂正前後の特許請求の範囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要であることを判示した。

    参考:

    Aug 17, 2017

    2017.07.12 「デビオファーム v. ホスピーラ・ファイザー」 知財高裁平成29年(ネ)10009・平成29年(ネ)10023

    出願経過を参酌して「オキサリプラティヌムの水溶液」の技術的範囲を判断: 知財高裁平成29年(ネ)10009・平成29年(ネ)10023

    「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許第3547755号(本件特許1)及び「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許第4430229号(本件特許2)を有する控訴人(デビオファーム)が、被控訴人(ホスピーラ)の製造、販売する各製品(被告各製品)は上記各特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(本件発明1及び本件発明2)の技術的範囲に属する旨主張して、被控訴人に対し、被告各製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。原判決は、被告各製品は,延長された本件特許権1の効力が及ぶものではなく、また、本件発明2の技術的範囲に属しないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。

    原審:

    知財高裁(第3部)は、被告各製品は本件発明1の構成要件1Cを充足せず,また,本件発明2の構成要件2B,2F及び2Gを充足しないから,その余の構成要件について検討するまでもなく,被告各製品は,本件発明1及び2のいずれの技術的範囲にも属しないと判断した。控訴棄却。

    1 構成要件1C(オキサリプラティヌムの水溶液からなり)の充足性)について
    「・・・本件明細書1の記載及び本件特許1の出願経過を総合的にみれば・・・本件発明1の特許請求の範囲における「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」(構成要件1C)とは,本件発明1がオキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であって,他の添加剤等の成分を含まないものであることを意味すると解するのが相当である。
    ・・・被告各製品は,オキサリプラティヌムと水のほか,酒石酸及び水酸化ナトリウムが添加されているものであるから,構成要件1Cを充足しない。」
    2 構成要件2B,2F及び2Gの「緩衝剤」の充足性)について
    「本件発明2における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるべきである。したがって,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩が添加されていない被告各製品は,構成要件2B,2F及び2Gの「緩衝剤」を含有せず,これらの構成要件を充足しない。」
    知財高裁(第3部)は、延長された特許権の効力について判断した地裁判決については触れることなく、地裁では判断しなかった構成要件1Cの充足性の争点も含めて、そもそも被告各製品は本件特許発明の技術的範囲に属しないと判断して決着させた。


    Aug 16, 2017

    2017.07.11 「デビオファーム v. ナガセ医薬品・日本ケミファ」 知財高裁平成29年(ネ)10034

    オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成29年(ネ)10034

    「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:ナガセ医薬品)(日本ケミファは補助参加人)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、本件特許は進歩性欠如により無効にされるべきものであるとして控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。

    知財高裁(第4部)は、
    「争点(1)(技術的範囲への属否)について,本件各発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるところ,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属するものではないから,控訴人の請求はいずれも棄却すべき」
    と判断し、請求を棄却した原判決は結論において相当であるから、本件控訴を棄却した。

    参考:

    Aug 11, 2017

    アクテムラの追加ロイヤルティ支払い求め英国MRCが中外に対して仲裁申立

    2017年8月10日付の中外製薬ニュースリリースによると、英国Medical Research Council(MRC)およびLifeArcは中外製薬に対して、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体『アクテムラ(Actemra)®(有効成分: トシリズマブ(tocilizumab))』の開発に際し締結した1990年8月15日付の研究協力契約に関して契約義務違反があると主張し、当該契約に基づく追加のロイヤルティの支払いを求め、2017年5月10日、英国にて仲裁を申し立てたとのことです。

    今後の見通しとして、中外製薬は、申立人の主張は無効だと考えており、仲裁の場において、積極的に反論を行っていく方針とのことです。

    アクテムラ(Actemra)®(有効成分: トシリズマブ(tocilizumab))は、国内で開発された IgG1サブクラスのヒト化抗ヒトインターロイキン 6(IL-6)レセプターモノクローナル抗体。遺伝子組換え技術により、可変領域の中でも特に抗原との親和性が高い相補性決定領域(CDR)をマウス型ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体とし、その他の部分をヒトIgG1 としてチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を用いて創製されました。1990年に開始された英国MRCとの共同研究で中外製薬は研究員を派遣し抗体ヒト化技術を習得、結果ヒト化抗体であるトシリズマブの作製に成功したとされています。

    参考:

    中外製薬 press release: 2017.08.10 「当社に対する仲裁申立に関するお知らせ




    Aug 10, 2017

    2017.07.11 「デビオファーム v. マイラン」 知財高裁平成29年(ネ)10013

    オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成29年(ネ)10013

    「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:マイラン)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、被控訴人ら各製品はいずれも本件特許発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。

    知財高裁(第4部)は、
    「争点1(被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)について,本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるところ,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被告製品は,構成要件B,F及びGを充足せず,本件特許発明の技術的範囲に属するものではないから,控訴人の請求は棄却すべき」
    と判断し、請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

    原審: 2016.12.06 「デビオファーム v. マイラン」 東京地裁平成27年(ワ)29001

    Aug 9, 2017

    2017.06.29 「デビオファーム v. 共和クリティケア」 知財高裁平成29年(ネ)10008

    オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成29年(ネ)10008

    「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:共和クリティケア)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人ら各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、被控訴人各製品はいずれも本件特許発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。
    知財高裁(第2部)は、
    「当審における主張及び立証を踏まえても,本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被控訴人各製品は,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を含有するものではなく,したがって,本件発明又は本件訂正発明の技術的範囲に属しない」
    と判断し、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

    原審: 2016.12.07 「デビオファーム v. 共和クリティケア」 東京地裁平成27年(ワ)29158

    Aug 8, 2017

    2017.06.29 「デビオファーム v. 第一三共エスファ・富士フイルムファーマ・ニプロ」 知財高裁平成29年(ネ)10010

    オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない知財高裁平成29年(ネ)10010

    「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人ら(一審被告:第一三共エスファ、富士フイルムファーマ、ニプロ)に対し、被控訴人ら各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、被控訴人ら各製品はいずれも本件特許発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。

    知財高裁(第2部)は、
    「当審における主張及び立証を踏まえても,本件発明1における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被控訴人ら各製品は,いずれも,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を含有するものではなく,したがって,本件発明1又は本件訂正発明1~の各技術的範囲に属しない」
    と判断し、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

    原審: 2016.12.02 「デビオファーム v. 第一三共エスファ・富士フイルムファーマ・ニプロ」 東京地裁平成27年(ワ)28699・平成27年(ワ)28848・平成27年(ワ)29004

    Aug 7, 2017

    2017.06.28 「ヤクルト・デビオファーム v. 日本化薬」 知財高裁平成28年(ネ)10112

    オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成28年(ネ)10112

    「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有するデビオファーム及び専用実施権者であるヤクルト(控訴人ら)が、被控訴人(日本化薬)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、損害賠償支払いを求めた事案。原判決は、被控訴人各製品は本件特許発明1及び2の技術的範囲に属しないとして控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らは本件控訴を提起した。

    知財高裁(第3部)は、
    「争点1-1(構成要件1B,1F及び1Gの充足性)について,本件発明1における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩が添加されていない被告各製品は,構成要件1B,1F及び1Gの「緩衝剤」を含有するものではなく,これらの構成要件を充足しない~以上によれば~被告各製品は,いずれも本件発明1の技術的範囲に属しない。」
    と判断し、請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

    参考:


    Aug 1, 2017

    2017.06.22 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10141

    プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」が明らかでないと判断された事例: 知財高裁平成28年(行ケ)10141

    【背景】

    「苦味マスキング食材,及び苦味マスキング方法」に関する特許出願(特願2011-185374)の拒絶審決(不服2014-5021)取消訴訟である。主な争点は、①本願発明と引用発明との相違点は実質的な相違点ではないとした新規性判断の誤りの有無、②プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」が明らかでないとした明確性要件の判断の誤りの有無である。

    請求項1:
    可食物の苦味をマスキングする作用を有する無塩可溶性可食凝集剤を有効成分とすることを特徴とし,及び,さらに,前記可食凝集剤は,凝集作用のないナトリウムやカリウムやマグネシウム等の水酸化物は無効であり,凝集奇特作用を有する水酸化カルシウムを主成分とすることを特徴とする,pH測定の為に何度も水に溶解が不可欠で,かつ非常に変動しやすいpHの調節限定など非常に不安定で手間がかかる面倒な工程をなんら必要とせずに,単に混ぜるだけで有効な,苦い可食物の苦味を奇特強力にマスキングするものであることを特徴とする,苦味マスキング剤。
    請求項5:
    請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の苦味マスキング剤を使うことを特徴とする苦味マスキング方法。
    請求項11:
    請求項5乃至請求項10のいずれか1項の方法を用いて製造されたことを特徴とする可食物。
    【要旨】

    請求棄却。

    1.取消事由1(新規性判断の誤り)について

    裁判所は、本願発明1と引用発明(ポリフェノールを含有する食品に添加してポリフェノールの渋味,苦味または収斂味を軽減する水酸化カルシウム)との相違点1~4は、いずれも実質的に相違するということはできないから、本願発明1は引用発明であると判断し、本願発明1は新規性がないとした。

    原告は、
    「引用発明の実施例は,水酸化ナトリウムと重曹のみであり,水酸化カルシウムは,いろいろなアルカリとして列挙されているうちの一つにすぎない」
    と主張したが、裁判所は、
    「引用文献には,前記(1)のとおり,ポリフェノールの渋味等の軽減の機序として,ポリフェノールを,水酸化ナトリウム,水酸化カルシウム,水酸化マグネシウム及び水酸化カリウムより成る群から選ばれるアルカリを用いて,ポリフェノールのナトリウム塩,カルシウム塩,マグネシウム塩又はカリウム塩とすることが記載されているとともに,水酸化ナトリウムを用いた実施例により,ポリフェノールの渋味等の軽減効果が得られたことが記載されているから,このような記載に接した当業者は,引用文献に水酸化カルシウムの実施例の記載がなくても,ポリフェノールに水酸化ナトリウムに代えて水酸化カルシウムを添加した場合にも,ポリフェノールがポリフェノールのカルシウム塩となることにより,渋味等の軽減効果が得られるという技術的思想を理解することができる。したがって,引用文献に水酸化カルシウムの実施例の記載がないことをもって,引用文献から引用発明を認定した本件審決が誤りであるということはできない。原告の主張は,理由がない。」
    と判断した。

    2.取消事由2(明確性要件の判断の誤り)について

    裁判所は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいて特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか又はおよそ実際的でないという事情(不可能・非実際的事情)が存在するときに限られると解するのが相当である、という最高裁判決(平成24年(受)第1204号)を参照しつつ、
    「請求項11は,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に当たる。そして,本願明細書には,不可能・非実際的事情について何ら記載がなく,当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであることを認めるに足りる証拠もない。・・・そうすると・・・請求項11の記載は,特許法36条6項2号所定の「発明が明確であること」を充足しないから,本願は,全体として特許を受けることができない。」
    と判断した。

    原告は、
    「『不可能・非実際的事情』が存在することの主張・立証をする。出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であり,かつ,およそ実際的でないという事情である。つまり,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが,当方にとって,全く不可能であり,かつ,当方にとって,全く実際的でないという事情である。また,本願明細書[0008]に『新しいマスキング方法を提供する』と,明記してある。」
    と主張した。

    しかし、裁判所は、
    「本願明細書の【0008】には,「新しい苦味マスキング剤及び方法を提供する事を目的とする。」と記載されているが,この記載が,不可能・非実際的事情を直ちに基礎付けるものでないことは明らかであり,原告の上記主張によっても,不可能・非実際的事情が存在するとは認められない。」
    と判断した。

    また、原告は、
    「水酸化カルシウムによる苦味マスキングの機序が,動植物体内の連続反応の様々な locus(loci)に係っていると推測され,これを解明することができないことが,不可能・非実際的事情に当たる」
    旨主張した。

    しかし、裁判所は、
    「水酸化カルシウムによる苦味マスキングの機序を特定することが困難であるとしても,請求項11の「可食物」をその構造又は特性により直接特定するに当たり,このような機序を記載しなければならないものとは認められないから,原告主張の機序の特定が困難であるという事情は,不可能・非実際的事情を基礎付けるものとはいえない。」
    と判断した。

    【コメント】

    1.新規性判断について

    原告は、引用文献に記載された「水酸化カルシウム」はいろいろなアルカリとして列挙されているうちの一つにすぎないと主張したが、裁判所は、引用文献の記載に接した当業者は「水酸化カルシウム」を添加した場合にも渋味等の軽減効果が得られるという技術的思想を理解することができるとして原告の主張を退けた。新規性を否定する引用発明の成立性/適格性/根拠データは必要かどうかについて、これまで収集した過去事例はこちら(記載要件/引例適格/データは必要か)

    2.プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」の判断について

    裁判所は、本願プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」は明らかでないとして、特許法36条6項2号所定の「発明が明確であること」を充足しないと判断した。出願人が一定の事情が存在すること(直接特定が不可能・非実際的であること)を主張立証しなければならないわけであるが、具体的にどのような主張をすれば「不可能・非実際的事情」が存在することを立証することができたと判断されるのか、この事例を見ても判然としないままである。主張立証出来たと判断された判決の蓄積を待つしかないだろう。

    医薬分野ではないが、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する最高裁判所判決後にいくつかの知財高裁判決が存在する。これらは、一定の場合には、プロダクト・バイ・プロセス・クレームとみる必要はない又は「不可能・非実際的事情」の主張立証を要しないと解するのが相当であると判断して決着させているようである。
    • 2016.09.20 知財高裁平成27年(行ケ)10242
      「プロダクト・バイ・プロセス・クレームが発明の明確性との関係で問題とされるのは,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば,その製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であることなどから,第三者の利益が不当に害されることが生じかねないことによるところ,特許請求の範囲の記載を形式的に見ると経時的であることから物の製造方法の記載があるといい得るとしても,当該製造方法による物の構造又は特性等が明細書の記載及び技術常識を加えて判断すれば一義的に明らかである場合には,上記問題は生じないといってよい。そうすると,このような場合は,法36条6項2号との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームと見る必要はないと思われる。」
    • 2016.09.29 知財高裁平成27年(行ケ)10184
      「PBP最高裁判決が上記事情の主張立証を要するとしたのは,同判決の判旨によれば,物の発明の特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合には,製造方法の記載が物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができないことによると解される。そうすると,特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,当該製造方法の記載が物の構造又は特性を明確に表しているときは,当該発明の内容をもとより明確に理解することができるのであるから,このような特段の事情がある場合には不可能・非実際的事情の主張立証を要しないと解するのが相当である。」
    • 2016.11.08 知財高裁平成28年(行ケ)10025
      「本願補正発明1及び2に係る前記の各記載は,いずれも,形式的にみれば,経時的な要素を記載するものといえ,「物の製造方法の記載」がある,すなわち,プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するということができそうである。しかしながら,前記最高裁判決が,前記事情がない限り明確性要件違反になるとした趣旨は,プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるが,そのような特許請求の範囲の記載は,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり,権利範囲についての予測可能性を奪う結果となることから,これを無制約に許すのではなく,前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。そうすると,特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても,前記の一般的な場合と異なり,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが,特許請求の範囲,明細書,図面の記載や技術常識から明確であれば,あえて特許法36条6項2号との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームに当たるとみる必要はない。」
    参考:

    Jul 27, 2017

    特許権侵害の後発品参入 オキサロール®薬価引下げによる損害賠償 中外が勝訴

    2017年7月27日付の中外製薬のニュースリリース(「オキサロール®軟膏製法特許侵害に対する損害賠償請求訴訟の判決に関するお知らせ」)によると、中外製薬が保有する尋常性乾癬等角化症治療剤「オキサロール®軟膏25μg/g(有効成分: マキサカルシトール)」の製法特許(特許第3310301号)に関して、オキサロール軟膏の後発品メーカーである岩城製薬、高田製薬、ポーラファルマの特許権侵害行為に対し中外製薬が損害賠償を求めていた訴訟で、本日、東京地裁にて、後発品3社の賠償責任を認める判決が言い渡されたとのことです。

    注目すべき点は、後発品3社による侵害品の販売によって、中外製薬のオキサロール軟膏の販売が失われたことによる損害についての後発品3社の賠償責任を認めただけでなく、オキサロール軟膏及びオキサロールローションの薬価加算分の引き下げについて後発品3社の賠償責任も認められた点です。2017年7月27日付の中外製薬のニュースリリースによると、薬価算定において新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象だった中外製薬のオキサロール軟膏及びオキサロールローションは、オキサロール軟膏の後発品の参入により、本来の時期より早く加算分の引き下げが行われました。本件は、薬価加算分の引き下げに起因して先発医薬品企業に生じた損害について判断された初めての事例とのことです。

    なお、後発品3社に対する本件特許の侵害差止訴訟における中外製薬の勝訴は既に確定しています(2017.03.24 「マキサカルシトール事件(均等の第5要件)」 最高裁平成28年(受)1242; 2017.03.24 中外製薬 press release: 「オキサロール軟膏の特許権侵害訴訟における最高裁判所判決勝訴のお知らせ」)。

    参考:






    Jul 22, 2017

    アイセントレスを販売するMSDに塩野義特許の強制実施権が認められる(ドイツ)

    2017年7月12日付のJETROからの欧州知的財産ニュースによると、ドイツ連邦通常裁判所(通常裁判権の最高裁判所に相当)は、7月11日、塩野義製薬が保有する欧州特許1422218について、当該特許権侵害を訴えらたHIV治療薬Isentress(アイセントレス、有効成分はラルテグラビル(reltegravir))を販売するMSD社が申立てた強制実施権付与の仮処分申請を認める決定を下したとのことです。

    参考:

    Jul 15, 2017

    2017.06.14 「DIC v. JNC」 知財高裁平成28年(行ケ)10037

    化合物の選択・組み合わせに関する選択発明の特許性: 知財高裁平成28年(行ケ)10037

    【背景】

    DICが保有する「重合性化合物含有液晶組成物及びそれを使用した液晶表示素子」に関する特許第5196073号を無効とした審決(無効2014-800103)の取消訴訟。本件発明と引用発明(甲1発明)は、いずれも多数の選択肢から成る化合物として「第一成分」、「第二成分」および「第三成分」を含有することを特徴とする液晶組成物の発明である。

    本件審決は、① 甲1発明Aの「第三成分」として、甲1の…で表される重合性化合物を選択すること、② 甲1発明Aの「第一成分」として、甲1の…で表される化合物を選択すること、③ 甲1発明Aの「第二成分」として、甲1の…で表される化合物を選択すること、④ 甲1発明Aにおいて、「塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない」態様を選択すること、の各技術的意義について、上記①の選択と、同②及び③の選択と、同④の選択とをそれぞれ別個に検討した上、それぞれについて、格別な技術的意義が存するものとは認められないとして、相違点1ないし4を実質的な相違点であるとはいえないと判断し、本件発明1の特許性(新規性)を否定した。要するに、本件審決は、引用発明である甲1発明と本件発明との間に包含関係(甲1発明を本件発明の上位概念として位置付けるもの)を認めた上、甲1発明において相違点に係る構成を選択したことに格別の技術的意義が存するかどうかを問題にしており、その結果、本件発明が甲1発明と実質的に同一であるとして新規性を認めなかった。

    【要旨】

    主 文
    1 特許庁が無効2014-800103号事件について平成27年12月28日にした審決のうち,「特許第5196073号の請求項1ないし17に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
    2 訴訟費用は,被告の負担とする。
    裁判所の判断

    裁判所は、いわゆる選択発明の特許性の有無についての考え方に言及したうえで、本件審決の判断の妥当性を検討し、本件審決は必要な検討を欠いたまま本件発明1の特許性を否定しているものであるから審理不尽の誹りを免れないのであって特許性判断の結論に影響を及ぼすおそれのある重大な誤りを含むものであるから、本件審決の判断は妥当でないと判断した。以下、裁判所の判断の抜粋。
    「特許に係る発明が,先行の公知文献に記載された発明にその下位概念として包含されるときは,当該発明は,先行の公知となった文献に具体的に開示されておらず,かつ,先行の公知文献に記載された発明と比較して顕著な特有の効果,すなわち先行の公知文献に記載された発明によって奏される効果とは異質の効果,又は同質の効果であるが際立って優れた効果を奏する場合を除き,特許性を有しないものと解するのが相当である。
    ここで,本件発明1が甲1発明Aの下位概念として包含される関係にあることは前記3のとおりであるから,本件発明1は,甲1に具体的に開示されておらず,かつ,甲1に記載された発明すなわち甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏する場合を除き,特許性を有しないというべきである。
    そして,甲1に本件発明1に該当する態様が具体的に開示されているとまでは認められない(被告もこの点は特に争うものではない。)から,本件発明1に特許性が認められるのは,甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏する場合(本件審決がいう「格別な技術的意義」が存するものと認められる場合)に限られるというべきである。」

    「本件発明1は,甲1発明Aにおいて,3種類の化合物に係る前記①ないし③の選択及び「塩素原子で置換された液晶化合物」の有無に係る前記④の選択がなされたものというべきであるところ,証拠(甲42)及び弁論の全趣旨によれば,液晶組成物について,いくつかの分子を混ぜ合わせること(ブレンド技術)により,1種類の分子では出せないような特性を生み出すことができることは,本件優先日の時点で当業者の技術常識であったと認められるから,前記①ないし④の選択についても,選択された化合物を混合することが予定されている以上,本件発明の目的との関係において,相互に関連するものと認めるのが相当である。
    そして,本件発明1は,これらの選択を併せて行うこと,すなわち,これらの選択を組み合わせることによって,広い温度範囲において析出することなく,高速応答に対応した低い粘度であり,焼き付き等の表示不良を生じない重合性化合物含有液晶組成物を提供するという本件発明の課題を解決するものであり,正にこの点において技術的意義があるとするものであるから,本件発明1の特許性を判断するに当たっても,本件発明1の技術的意義,すなわち,甲1発明Aにおいて,前記①ないし④の選択を併せて行った際に奏される効果等から認定される技術的意義を具体的に検討する必要があるというべきである。
    ところが,本件審決は,前記のとおり,前記①の選択と,同②及び③の選択と,同④の選択とをそれぞれ別個に検討しているのみであり,これらの選択を併せて行った際に奏される効果等について何ら検討していない。このような個別的な検討を行うのみでは,本件発明1の技術的意義を正しく検討したとはいえず,かかる検討結果に基づいて本件発明1の特許性を判断することはできないというべきである。」
    【コメント】

    本件発明は、医薬に関するものではないが、化合物の選択・組み合わせに関する選択発明の特許性について争われた事案であり、有効成分の選択発明や、成分の組み合わせに関する医薬発明においても参考になる事例と考えられる。


    Jul 9, 2017

    2017.05.30 「フォーモサ・ラボラトリーズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10154

    訂正が誤記の訂正を目的とするものであるというためには: 知財高裁平成28年(行ケ)10154

    【背景】

    「マキサカルシトール中間体およびその製造方法」に関する特許5563324の訂正審判請求(訂正2015-390128)不成立審決の取消訴訟。本件訂正の訂正事項は、明細書【0034】の「EAC(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載を「EAC(アクリル酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載に訂正するものだった。


    【要旨】

    主 文
    1 特許庁が訂正2015-390128号事件について平成28年3月8日にした審決を取り消す。
    2 訴訟費用は被告の負担とする。
    裁判所の判断

    取消事由1(目的要件の判断の誤り)について、裁判所は、
    「特許法126条1項2号は,「誤記・・・の訂正」を目的とする場合には,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすることを認めているが,ここで「誤記」というためには,訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが,当該明細書,特許請求の範囲若しくは図面の記載又は当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の技術常識などから明らかで,当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないものと解される。」
    と述べ、次のステップで、本件を検討し、本件明細書に接した当業者であれば、本件訂正事項に係る【0034】の「EAC(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載が誤りであることに気付いて、これを「EAC(アクリル酸エチル,804ml,7.28mol)」の趣旨に理解するのが当然であるということができるから、本件訂正は、「誤記・・・の訂正」を目的とするものということができると判断した。

    Step 1: 本件明細書に接した当業者が,明細書の記載は原則として正しい記載であることを前提として,本件訂正前の本件明細書の記載に何らかの誤記があることに気付くかどうか。
    「本件明細書に接した当業者は,【0034】の【化14】(化合物(3)から化合物(4)を製造する工程)において,側鎖を構成する炭素原子数の不整合によって,【0034】に何らかの誤記があることに気付くものと認められる。」
    Step 2: 特定の反応工程(【0034】の【化14】)における技術的矛盾と,それに伴う誤記の存在を認識した当業者が,当該反応工程のうち,誤記が「EAC(酢酸エチル)」であると分かるかどうか。
    「「(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載に示された化学物質名と,体積と,モル数とが整合しているかどうかを確認することは容易であるところ,…本件明細書に記載されているモル数と整合していないことが理解できる。…本件明細書に接した当業者は,…化合物(3)及び化合物(4)の化学構造については正しいものと理解し,「酢酸エチル」が誤記であると理解するものということができる。」
    Step 3: 正しい記載が「アクリル酸エチル」であると分かるかどうか。
    「化合物(3)と反応剤EACの反応機構に加え,化合物(4)の化学構造から,当業者は,【化14】の反応は,化合物(3)のアルコール性水酸基-OHの酸素の非共有電子対が反応剤(EAC)中のカルボニル基を構成する炭素原子の二つ隣の炭素原子を求核攻撃する,①3位に脱離基を有するプロピオン酸エチルを反応剤とする置換反応,又は,②アクリル酸エチルを反応剤とする付加反応のいずれかであると理解する。そして,…これらの反応剤の体積及びモル数が「804ml,7.28mol」という記載に整合するかどうかを検証してみると,…アクリル酸エチルの方が,本件明細書記載の上記数値に整合することが理解できる。…以上のとおり,「EAC」は,「アクリル酸エチル」の英語表記と整合し,略称と一致するものである上,モル数の記載とも整合するのであるから,当業者は,正しい反応剤が「アクリル酸エチル」であることを理解することができるというべきである。」
    取消事由2(新規事項追加の判断の誤り)について、裁判所は、
    「前記3の取消事由1で判断したとおり,本件明細書に接した当業者であれば,本件訂正事項に係る【0034】の「EAC(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載が誤りであり,これを「EAC(アクリル酸エチル,804ml,7.28mol)」の趣旨に理解するのが当然であるということができるから,本件訂正後の記載である「アクリル酸エチル」は,本件訂正前の当初明細書等の記載から自明な事項として定まるものであるということができ,本件訂正によって新たな技術的事項が導入されたとは認められない。したがって,本件訂正は,特許法126条5項に規定する要件に適合するものということができる。」
    と判断した。

    【コメント】

    裁判所は、明細書の誤記の訂正(訂正前の記載「A」から訂正後の記載「B」に訂正すること)が許されるかどうかについての検討手順を下記のように行った。実務上の参考になる。
    • Step 1: 本件明細書に接した当業者が、明細書の記載は原則として正しい記載であることを前提として、本件訂正前の本件明細書の記載に何らかの誤記があることに気付くかどうか。
    • Step 2: 誤記の存在を認識した当業者が、誤記が訂正前の記載「A」であると分かるかどうか。
    • Step 3: 正しい記載が訂正後の記載「B」であると分かるかどうか。
    とはいえ、審決では逆の結論だったのであり、Step 2および3の適否の判断が最も難しい点といえることには違いない。

    参考: 審判便覧(第16版)38―03 P 訂正要件より
    3.誤記の訂正

    (1) 「誤記の訂正」とは、本来その意であることが、明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいう。

    (2) 誤記の訂正が認められるためには、特許がされた明細書、特許請求の範囲又は図面中の記載に誤記が存在することが必要である。このうち、請求項中の記載が、それ自体で、又は特許がされた明細書の記載との関係で、誤りであることが明らかであり、かつ、特許がされた明細書、特許請求の範囲又は図面の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まるときにおいて、その誤りを正しい記載にする訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
    本件特許は、INPADOC family searchで検索しても本件日本特許以外の出願は海外にされていない。優先権の主張もない。本件特許に無効審判請求はされていない。本件特許発明は、化合物(3)等の中間体及びその製法であり、化合物(4)やその製法の発明ではない。つまり、本件で問題となった記載を訂正しようがしまいが本件特許発明の記載要件の適否には影響せず特許が無効とされる可能性はないと思われる。なぜ特許権者は本件訂正審判を請求したのかは定かではない。


    Jul 1, 2017

    ベポタスチンベシル酸塩(タリオン®)に関する特許権について

    2017年6月30日、田辺三菱製薬(株)および宇部興産(株)より「ベポタスチンベシル酸塩(商品名 タリオン®)に関する特許権について」の謹告文が掲載されました(参照: 日刊薬業website: 【謹告】ベポタスチンベシル酸塩(商品名 タリオン®)に関する特許権について)。

    田辺三菱は、一般名ベポタスチンベシル酸塩(bepotastine besilate)を有効成分とし、その効能・効果を「アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴うそう痒(湿疹・皮膚炎、痒疹、皮膚そう痒症)」とする医薬品を、「タリオン®錠5㎎」「タリオン®錠10㎎」「タリオン®OD錠5㎎」「タリオン®OD錠10㎎」の商品名で製造販売している。タリオン®錠は、宇部興産と田辺三菱の共同研究により創成された抗アレルギー剤。国内において2000年7月に効能・効果をアレルギー性鼻炎としてタリオン®錠(普通錠)が承認された。また、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う掻痒(湿疹・皮膚炎,痒疹,皮膚掻痒症)の効能・効果については2002年1月に承認された。2007年7月に口腔内崩壊錠を発売し、2015年5月に小児(7-15歳)適応の承認を取得した。タリオンの国内売上収益(2016年)は189億円、2017年度は200億円を超えると予想されている。

    ニプロは、田辺三菱の完全子会社だった田辺製薬販売(株)の発行済株式の全てを取得し子会社化したことで、タリオン®錠のオーソライズド・ジェネリック薬品(タリオン AG)を自社製品として取り扱うことが可能となっている(ニプロ press release 2017.03.28 「ジェネリック医薬品の製造販売会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」)

    田辺三菱および宇部興産は、ベポタスチンベシル酸塩を有効成分とする医薬品に関し、下記日本特許を有している。
    その他参考: