Aug 17, 2017

2017.07.12 「デビオファーム v. ホスピーラ・ファイザー」 知財高裁平成29年(ネ)10009・平成29年(ネ)10023

出願経過を参酌して「オキサリプラティヌムの水溶液」の技術的範囲を判断: 知財高裁平成29年(ネ)10009・平成29年(ネ)10023

「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許第3547755号(本件特許1)及び「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許第4430229号(本件特許2)を有する控訴人(デビオファーム)が、被控訴人(ホスピーラ)の製造、販売する各製品(被告各製品)は上記各特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(本件発明1及び本件発明2)の技術的範囲に属する旨主張して、被控訴人に対し、被告各製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。原判決は、被告各製品は,延長された本件特許権1の効力が及ぶものではなく、また、本件発明2の技術的範囲に属しないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。

原審:

知財高裁(第3部)は、被告各製品は本件発明1の構成要件1Cを充足せず,また,本件発明2の構成要件2B,2F及び2Gを充足しないから,その余の構成要件について検討するまでもなく,被告各製品は,本件発明1及び2のいずれの技術的範囲にも属しないと判断した。控訴棄却。

1 構成要件1C(オキサリプラティヌムの水溶液からなり)の充足性)について
「・・・本件明細書1の記載及び本件特許1の出願経過を総合的にみれば・・・本件発明1の特許請求の範囲における「オキサリプラティヌムの水溶液からなり」(構成要件1C)とは,本件発明1がオキサリプラティヌムと水のみからなる水溶液であって,他の添加剤等の成分を含まないものであることを意味すると解するのが相当である。
・・・被告各製品は,オキサリプラティヌムと水のほか,酒石酸及び水酸化ナトリウムが添加されているものであるから,構成要件1Cを充足しない。」
2 構成要件2B,2F及び2Gの「緩衝剤」の充足性)について
「本件発明2における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるべきである。したがって,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩が添加されていない被告各製品は,構成要件2B,2F及び2Gの「緩衝剤」を含有せず,これらの構成要件を充足しない。」
知財高裁(第3部)は、延長された特許権の効力について判断した地裁判決については触れることなく、地裁では判断しなかった構成要件1Cの充足性の争点も含めて、そもそも被告各製品は本件特許発明の技術的範囲に属しないと判断して決着させた。


Aug 16, 2017

2017.07.11 「デビオファーム v. ナガセ医薬品・日本ケミファ」 知財高裁平成29年(ネ)10034

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成29年(ネ)10034

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:ナガセ医薬品)(日本ケミファは補助参加人)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、本件特許は進歩性欠如により無効にされるべきものであるとして控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。

知財高裁(第4部)は、
「争点(1)(技術的範囲への属否)について,本件各発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるところ,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属するものではないから,控訴人の請求はいずれも棄却すべき」
と判断し、請求を棄却した原判決は結論において相当であるから、本件控訴を棄却した。

参考:

Aug 11, 2017

アクテムラの追加ロイヤルティ支払い求め英国MRCが中外に対して仲裁申立

2017年8月10日付の中外製薬ニュースリリースによると、英国Medical Research Council(MRC)およびLifeArcは中外製薬に対して、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体『アクテムラ(Actemra)®(有効成分: トシリズマブ(tocilizumab))』の開発に際し締結した1990年8月15日付の研究協力契約に関して契約義務違反があると主張し、当該契約に基づく追加のロイヤルティの支払いを求め、2017年5月10日、英国にて仲裁を申し立てたとのことです。

今後の見通しとして、中外製薬は、申立人の主張は無効だと考えており、仲裁の場において、積極的に反論を行っていく方針とのことです。

アクテムラ(Actemra)®(有効成分: トシリズマブ(tocilizumab))は、国内で開発された IgG1サブクラスのヒト化抗ヒトインターロイキン 6(IL-6)レセプターモノクローナル抗体。遺伝子組換え技術により、可変領域の中でも特に抗原との親和性が高い相補性決定領域(CDR)をマウス型ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体とし、その他の部分をヒトIgG1 としてチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を用いて創製されました。1990年に開始された英国MRCとの共同研究で中外製薬は研究員を派遣し抗体ヒト化技術を習得、結果ヒト化抗体であるトシリズマブの作製に成功したとされています。

参考:

中外製薬 press release: 2017.08.10 「当社に対する仲裁申立に関するお知らせ




Aug 10, 2017

2017.07.11 「デビオファーム v. マイラン」 知財高裁平成29年(ネ)10013

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成29年(ネ)10013

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:マイラン)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、被控訴人ら各製品はいずれも本件特許発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。

知財高裁(第4部)は、
「争点1(被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)について,本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるところ,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被告製品は,構成要件B,F及びGを充足せず,本件特許発明の技術的範囲に属するものではないから,控訴人の請求は棄却すべき」
と判断し、請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

原審: 2016.12.06 「デビオファーム v. マイラン」 東京地裁平成27年(ワ)29001

Aug 9, 2017

2017.06.29 「デビオファーム v. 共和クリティケア」 知財高裁平成29年(ネ)10008

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成29年(ネ)10008

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人(一審被告:共和クリティケア)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人ら各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、被控訴人各製品はいずれも本件特許発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。
知財高裁(第2部)は、
「当審における主張及び立証を踏まえても,本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被控訴人各製品は,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を含有するものではなく,したがって,本件発明又は本件訂正発明の技術的範囲に属しない」
と判断し、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

原審: 2016.12.07 「デビオファーム v. 共和クリティケア」 東京地裁平成27年(ワ)29158

Aug 8, 2017

2017.06.29 「デビオファーム v. 第一三共エスファ・富士フイルムファーマ・ニプロ」 知財高裁平成29年(ネ)10010

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない知財高裁平成29年(ネ)10010

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告:デビオファーム)が、被控訴人ら(一審被告:第一三共エスファ、富士フイルムファーマ、ニプロ)に対し、被控訴人ら各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被控訴人各製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決は、被控訴人ら各製品はいずれも本件特許発明の技術的範囲に属しないとして控訴人の各請求をいずれも棄却したため、控訴人は本件控訴を提起した。

知財高裁(第2部)は、
「当審における主張及び立証を踏まえても,本件発明1における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸が添加されていない被控訴人ら各製品は,いずれも,構成要件B,F及びGの「緩衝剤」を含有するものではなく,したがって,本件発明1又は本件訂正発明1~の各技術的範囲に属しない」
と判断し、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

原審: 2016.12.02 「デビオファーム v. 第一三共エスファ・富士フイルムファーマ・ニプロ」 東京地裁平成27年(ワ)28699・平成27年(ワ)28848・平成27年(ワ)29004

Aug 7, 2017

2017.06.28 「ヤクルト・デビオファーム v. 日本化薬」 知財高裁平成28年(ネ)10112

オキサリプラチンが分解して生じた解離シュウ酸は「緩衝剤」には当たらない: 知財高裁平成28年(ネ)10112

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有するデビオファーム及び専用実施権者であるヤクルト(控訴人ら)が、被控訴人(日本化薬)に対し、被控訴人各製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、損害賠償支払いを求めた事案。原判決は、被控訴人各製品は本件特許発明1及び2の技術的範囲に属しないとして控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らは本件控訴を提起した。

知財高裁(第3部)は、
「争点1-1(構成要件1B,1F及び1Gの充足性)について,本件発明1における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は,添加シュウ酸に限られ,解離シュウ酸を含まないものと解されるから,解離シュウ酸を含むのみで,シュウ酸又はそのアルカリ金属塩が添加されていない被告各製品は,構成要件1B,1F及び1Gの「緩衝剤」を含有するものではなく,これらの構成要件を充足しない~以上によれば~被告各製品は,いずれも本件発明1の技術的範囲に属しない。」
と判断し、請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却した。

参考:


Aug 1, 2017

2017.06.22 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10141

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」が明らかでないと判断された事例: 知財高裁平成28年(行ケ)10141

【背景】

「苦味マスキング食材,及び苦味マスキング方法」に関する特許出願(特願2011-185374)の拒絶審決(不服2014-5021)取消訴訟である。主な争点は、①本願発明と引用発明との相違点は実質的な相違点ではないとした新規性判断の誤りの有無、②プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」が明らかでないとした明確性要件の判断の誤りの有無である。

請求項1:
可食物の苦味をマスキングする作用を有する無塩可溶性可食凝集剤を有効成分とすることを特徴とし,及び,さらに,前記可食凝集剤は,凝集作用のないナトリウムやカリウムやマグネシウム等の水酸化物は無効であり,凝集奇特作用を有する水酸化カルシウムを主成分とすることを特徴とする,pH測定の為に何度も水に溶解が不可欠で,かつ非常に変動しやすいpHの調節限定など非常に不安定で手間がかかる面倒な工程をなんら必要とせずに,単に混ぜるだけで有効な,苦い可食物の苦味を奇特強力にマスキングするものであることを特徴とする,苦味マスキング剤。
請求項5:
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の苦味マスキング剤を使うことを特徴とする苦味マスキング方法。
請求項11:
請求項5乃至請求項10のいずれか1項の方法を用いて製造されたことを特徴とする可食物。
【要旨】

請求棄却。

1.取消事由1(新規性判断の誤り)について

裁判所は、本願発明1と引用発明(ポリフェノールを含有する食品に添加してポリフェノールの渋味,苦味または収斂味を軽減する水酸化カルシウム)との相違点1~4は、いずれも実質的に相違するということはできないから、本願発明1は引用発明であると判断し、本願発明1は新規性がないとした。

原告は、
「引用発明の実施例は,水酸化ナトリウムと重曹のみであり,水酸化カルシウムは,いろいろなアルカリとして列挙されているうちの一つにすぎない」
と主張したが、裁判所は、
「引用文献には,前記(1)のとおり,ポリフェノールの渋味等の軽減の機序として,ポリフェノールを,水酸化ナトリウム,水酸化カルシウム,水酸化マグネシウム及び水酸化カリウムより成る群から選ばれるアルカリを用いて,ポリフェノールのナトリウム塩,カルシウム塩,マグネシウム塩又はカリウム塩とすることが記載されているとともに,水酸化ナトリウムを用いた実施例により,ポリフェノールの渋味等の軽減効果が得られたことが記載されているから,このような記載に接した当業者は,引用文献に水酸化カルシウムの実施例の記載がなくても,ポリフェノールに水酸化ナトリウムに代えて水酸化カルシウムを添加した場合にも,ポリフェノールがポリフェノールのカルシウム塩となることにより,渋味等の軽減効果が得られるという技術的思想を理解することができる。したがって,引用文献に水酸化カルシウムの実施例の記載がないことをもって,引用文献から引用発明を認定した本件審決が誤りであるということはできない。原告の主張は,理由がない。」
と判断した。

2.取消事由2(明確性要件の判断の誤り)について

裁判所は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいて特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか又はおよそ実際的でないという事情(不可能・非実際的事情)が存在するときに限られると解するのが相当である、という最高裁判決(平成24年(受)第1204号)を参照しつつ、
「請求項11は,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に当たる。そして,本願明細書には,不可能・非実際的事情について何ら記載がなく,当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであることを認めるに足りる証拠もない。・・・そうすると・・・請求項11の記載は,特許法36条6項2号所定の「発明が明確であること」を充足しないから,本願は,全体として特許を受けることができない。」
と判断した。

原告は、
「『不可能・非実際的事情』が存在することの主張・立証をする。出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であり,かつ,およそ実際的でないという事情である。つまり,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが,当方にとって,全く不可能であり,かつ,当方にとって,全く実際的でないという事情である。また,本願明細書[0008]に『新しいマスキング方法を提供する』と,明記してある。」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「本願明細書の【0008】には,「新しい苦味マスキング剤及び方法を提供する事を目的とする。」と記載されているが,この記載が,不可能・非実際的事情を直ちに基礎付けるものでないことは明らかであり,原告の上記主張によっても,不可能・非実際的事情が存在するとは認められない。」
と判断した。

また、原告は、
「水酸化カルシウムによる苦味マスキングの機序が,動植物体内の連続反応の様々な locus(loci)に係っていると推測され,これを解明することができないことが,不可能・非実際的事情に当たる」
旨主張した。

しかし、裁判所は、
「水酸化カルシウムによる苦味マスキングの機序を特定することが困難であるとしても,請求項11の「可食物」をその構造又は特性により直接特定するに当たり,このような機序を記載しなければならないものとは認められないから,原告主張の機序の特定が困難であるという事情は,不可能・非実際的事情を基礎付けるものとはいえない。」
と判断した。

【コメント】

1.新規性判断について

原告は、引用文献に記載された「水酸化カルシウム」はいろいろなアルカリとして列挙されているうちの一つにすぎないと主張したが、裁判所は、引用文献の記載に接した当業者は「水酸化カルシウム」を添加した場合にも渋味等の軽減効果が得られるという技術的思想を理解することができるとして原告の主張を退けた。新規性を否定する引用発明の成立性/適格性/根拠データは必要かどうかについて、これまで収集した過去事例はこちら(記載要件/引例適格/データは必要か)

2.プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」の判断について

裁判所は、本願プロダクト・バイ・プロセス・クレームの「不可能・非実際的事情」は明らかでないとして、特許法36条6項2号所定の「発明が明確であること」を充足しないと判断した。出願人が一定の事情が存在すること(直接特定が不可能・非実際的であること)を主張立証しなければならないわけであるが、具体的にどのような主張をすれば「不可能・非実際的事情」が存在することを立証することができたと判断されるのか、この事例を見ても判然としないままである。主張立証出来たと判断された判決の蓄積を待つしかないだろう。

医薬分野ではないが、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する最高裁判所判決後にいくつかの知財高裁判決が存在する。これらは、一定の場合には、プロダクト・バイ・プロセス・クレームとみる必要はない又は「不可能・非実際的事情」の主張立証を要しないと解するのが相当であると判断して決着させているようである。
  • 2016.09.20 知財高裁平成27年(行ケ)10242
    「プロダクト・バイ・プロセス・クレームが発明の明確性との関係で問題とされるのは,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば,その製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であることなどから,第三者の利益が不当に害されることが生じかねないことによるところ,特許請求の範囲の記載を形式的に見ると経時的であることから物の製造方法の記載があるといい得るとしても,当該製造方法による物の構造又は特性等が明細書の記載及び技術常識を加えて判断すれば一義的に明らかである場合には,上記問題は生じないといってよい。そうすると,このような場合は,法36条6項2号との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームと見る必要はないと思われる。」
  • 2016.09.29 知財高裁平成27年(行ケ)10184
    「PBP最高裁判決が上記事情の主張立証を要するとしたのは,同判決の判旨によれば,物の発明の特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合には,製造方法の記載が物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができないことによると解される。そうすると,特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,当該製造方法の記載が物の構造又は特性を明確に表しているときは,当該発明の内容をもとより明確に理解することができるのであるから,このような特段の事情がある場合には不可能・非実際的事情の主張立証を要しないと解するのが相当である。」
  • 2016.11.08 知財高裁平成28年(行ケ)10025
    「本願補正発明1及び2に係る前記の各記載は,いずれも,形式的にみれば,経時的な要素を記載するものといえ,「物の製造方法の記載」がある,すなわち,プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するということができそうである。しかしながら,前記最高裁判決が,前記事情がない限り明確性要件違反になるとした趣旨は,プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるが,そのような特許請求の範囲の記載は,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり,権利範囲についての予測可能性を奪う結果となることから,これを無制約に許すのではなく,前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。そうすると,特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても,前記の一般的な場合と異なり,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが,特許請求の範囲,明細書,図面の記載や技術常識から明確であれば,あえて特許法36条6項2号との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームに当たるとみる必要はない。」
参考:

Jul 27, 2017

特許権侵害の後発品参入 オキサロール®薬価引下げによる損害賠償 中外が勝訴

2017年7月27日付の中外製薬のニュースリリース(「オキサロール®軟膏製法特許侵害に対する損害賠償請求訴訟の判決に関するお知らせ」)によると、中外製薬が保有する尋常性乾癬等角化症治療剤「オキサロール®軟膏25μg/g(有効成分: マキサカルシトール)」の製法特許(特許第3310301号)に関して、オキサロール軟膏の後発品メーカーである岩城製薬、高田製薬、ポーラファルマの特許権侵害行為に対し中外製薬が損害賠償を求めていた訴訟で、本日、東京地裁にて、後発品3社の賠償責任を認める判決が言い渡されたとのことです。

注目すべき点は、後発品3社による侵害品の販売によって、中外製薬のオキサロール軟膏の販売が失われたことによる損害についての後発品3社の賠償責任を認めただけでなく、オキサロール軟膏及びオキサロールローションの薬価加算分の引き下げについて後発品3社の賠償責任も認められた点です。2017年7月27日付の中外製薬のニュースリリースによると、薬価算定において新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象だった中外製薬のオキサロール軟膏及びオキサロールローションは、オキサロール軟膏の後発品の参入により、本来の時期より早く加算分の引き下げが行われました。本件は、薬価加算分の引き下げに起因して先発医薬品企業に生じた損害について判断された初めての事例とのことです。

なお、後発品3社に対する本件特許の侵害差止訴訟における中外製薬の勝訴は既に確定しています(2017.03.24 「マキサカルシトール事件(均等の第5要件)」 最高裁平成28年(受)1242; 2017.03.24 中外製薬 press release: 「オキサロール軟膏の特許権侵害訴訟における最高裁判所判決勝訴のお知らせ」)。

参考:






Jul 22, 2017

アイセントレスを販売するMSDに塩野義特許の強制実施権が認められる(ドイツ)

2017年7月12日付のJETROからの欧州知的財産ニュースによると、ドイツ連邦通常裁判所(通常裁判権の最高裁判所に相当)は、7月11日、塩野義製薬が保有する欧州特許1422218について、当該特許権侵害を訴えらたHIV治療薬Isentress(アイセントレス、有効成分はラルテグラビル(reltegravir))を販売するMSD社が申立てた強制実施権付与の仮処分申請を認める決定を下したとのことです。

参考:

Jul 15, 2017

2017.06.14 「DIC v. JNC」 知財高裁平成28年(行ケ)10037

化合物の選択・組み合わせに関する選択発明の特許性: 知財高裁平成28年(行ケ)10037

【背景】

DICが保有する「重合性化合物含有液晶組成物及びそれを使用した液晶表示素子」に関する特許第5196073号を無効とした審決(無効2014-800103)の取消訴訟。本件発明と引用発明(甲1発明)は、いずれも多数の選択肢から成る化合物として「第一成分」、「第二成分」および「第三成分」を含有することを特徴とする液晶組成物の発明である。

本件審決は、① 甲1発明Aの「第三成分」として、甲1の…で表される重合性化合物を選択すること、② 甲1発明Aの「第一成分」として、甲1の…で表される化合物を選択すること、③ 甲1発明Aの「第二成分」として、甲1の…で表される化合物を選択すること、④ 甲1発明Aにおいて、「塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない」態様を選択すること、の各技術的意義について、上記①の選択と、同②及び③の選択と、同④の選択とをそれぞれ別個に検討した上、それぞれについて、格別な技術的意義が存するものとは認められないとして、相違点1ないし4を実質的な相違点であるとはいえないと判断し、本件発明1の特許性(新規性)を否定した。要するに、本件審決は、引用発明である甲1発明と本件発明との間に包含関係(甲1発明を本件発明の上位概念として位置付けるもの)を認めた上、甲1発明において相違点に係る構成を選択したことに格別の技術的意義が存するかどうかを問題にしており、その結果、本件発明が甲1発明と実質的に同一であるとして新規性を認めなかった。

【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2014-800103号事件について平成27年12月28日にした審決のうち,「特許第5196073号の請求項1ないし17に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
裁判所の判断

裁判所は、いわゆる選択発明の特許性の有無についての考え方に言及したうえで、本件審決の判断の妥当性を検討し、本件審決は必要な検討を欠いたまま本件発明1の特許性を否定しているものであるから審理不尽の誹りを免れないのであって特許性判断の結論に影響を及ぼすおそれのある重大な誤りを含むものであるから、本件審決の判断は妥当でないと判断した。以下、裁判所の判断の抜粋。
「特許に係る発明が,先行の公知文献に記載された発明にその下位概念として包含されるときは,当該発明は,先行の公知となった文献に具体的に開示されておらず,かつ,先行の公知文献に記載された発明と比較して顕著な特有の効果,すなわち先行の公知文献に記載された発明によって奏される効果とは異質の効果,又は同質の効果であるが際立って優れた効果を奏する場合を除き,特許性を有しないものと解するのが相当である。
ここで,本件発明1が甲1発明Aの下位概念として包含される関係にあることは前記3のとおりであるから,本件発明1は,甲1に具体的に開示されておらず,かつ,甲1に記載された発明すなわち甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏する場合を除き,特許性を有しないというべきである。
そして,甲1に本件発明1に該当する態様が具体的に開示されているとまでは認められない(被告もこの点は特に争うものではない。)から,本件発明1に特許性が認められるのは,甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏する場合(本件審決がいう「格別な技術的意義」が存するものと認められる場合)に限られるというべきである。」

「本件発明1は,甲1発明Aにおいて,3種類の化合物に係る前記①ないし③の選択及び「塩素原子で置換された液晶化合物」の有無に係る前記④の選択がなされたものというべきであるところ,証拠(甲42)及び弁論の全趣旨によれば,液晶組成物について,いくつかの分子を混ぜ合わせること(ブレンド技術)により,1種類の分子では出せないような特性を生み出すことができることは,本件優先日の時点で当業者の技術常識であったと認められるから,前記①ないし④の選択についても,選択された化合物を混合することが予定されている以上,本件発明の目的との関係において,相互に関連するものと認めるのが相当である。
そして,本件発明1は,これらの選択を併せて行うこと,すなわち,これらの選択を組み合わせることによって,広い温度範囲において析出することなく,高速応答に対応した低い粘度であり,焼き付き等の表示不良を生じない重合性化合物含有液晶組成物を提供するという本件発明の課題を解決するものであり,正にこの点において技術的意義があるとするものであるから,本件発明1の特許性を判断するに当たっても,本件発明1の技術的意義,すなわち,甲1発明Aにおいて,前記①ないし④の選択を併せて行った際に奏される効果等から認定される技術的意義を具体的に検討する必要があるというべきである。
ところが,本件審決は,前記のとおり,前記①の選択と,同②及び③の選択と,同④の選択とをそれぞれ別個に検討しているのみであり,これらの選択を併せて行った際に奏される効果等について何ら検討していない。このような個別的な検討を行うのみでは,本件発明1の技術的意義を正しく検討したとはいえず,かかる検討結果に基づいて本件発明1の特許性を判断することはできないというべきである。」
【コメント】

本件発明は、医薬に関するものではないが、化合物の選択・組み合わせに関する選択発明の特許性について争われた事案であり、有効成分の選択発明や、成分の組み合わせに関する医薬発明においても参考になる事例と考えられる。


Jul 9, 2017

2017.05.30 「フォーモサ・ラボラトリーズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10154

訂正が誤記の訂正を目的とするものであるというためには: 知財高裁平成28年(行ケ)10154

【背景】

「マキサカルシトール中間体およびその製造方法」に関する特許5563324の訂正審判請求(訂正2015-390128)不成立審決の取消訴訟。本件訂正の訂正事項は、明細書【0034】の「EAC(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載を「EAC(アクリル酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載に訂正するものだった。


【要旨】

主 文
1 特許庁が訂正2015-390128号事件について平成28年3月8日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断

取消事由1(目的要件の判断の誤り)について、裁判所は、
「特許法126条1項2号は,「誤記・・・の訂正」を目的とする場合には,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすることを認めているが,ここで「誤記」というためには,訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが,当該明細書,特許請求の範囲若しくは図面の記載又は当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の技術常識などから明らかで,当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないものと解される。」
と述べ、次のステップで、本件を検討し、本件明細書に接した当業者であれば、本件訂正事項に係る【0034】の「EAC(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載が誤りであることに気付いて、これを「EAC(アクリル酸エチル,804ml,7.28mol)」の趣旨に理解するのが当然であるということができるから、本件訂正は、「誤記・・・の訂正」を目的とするものということができると判断した。

Step 1: 本件明細書に接した当業者が,明細書の記載は原則として正しい記載であることを前提として,本件訂正前の本件明細書の記載に何らかの誤記があることに気付くかどうか。
「本件明細書に接した当業者は,【0034】の【化14】(化合物(3)から化合物(4)を製造する工程)において,側鎖を構成する炭素原子数の不整合によって,【0034】に何らかの誤記があることに気付くものと認められる。」
Step 2: 特定の反応工程(【0034】の【化14】)における技術的矛盾と,それに伴う誤記の存在を認識した当業者が,当該反応工程のうち,誤記が「EAC(酢酸エチル)」であると分かるかどうか。
「「(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載に示された化学物質名と,体積と,モル数とが整合しているかどうかを確認することは容易であるところ,…本件明細書に記載されているモル数と整合していないことが理解できる。…本件明細書に接した当業者は,…化合物(3)及び化合物(4)の化学構造については正しいものと理解し,「酢酸エチル」が誤記であると理解するものということができる。」
Step 3: 正しい記載が「アクリル酸エチル」であると分かるかどうか。
「化合物(3)と反応剤EACの反応機構に加え,化合物(4)の化学構造から,当業者は,【化14】の反応は,化合物(3)のアルコール性水酸基-OHの酸素の非共有電子対が反応剤(EAC)中のカルボニル基を構成する炭素原子の二つ隣の炭素原子を求核攻撃する,①3位に脱離基を有するプロピオン酸エチルを反応剤とする置換反応,又は,②アクリル酸エチルを反応剤とする付加反応のいずれかであると理解する。そして,…これらの反応剤の体積及びモル数が「804ml,7.28mol」という記載に整合するかどうかを検証してみると,…アクリル酸エチルの方が,本件明細書記載の上記数値に整合することが理解できる。…以上のとおり,「EAC」は,「アクリル酸エチル」の英語表記と整合し,略称と一致するものである上,モル数の記載とも整合するのであるから,当業者は,正しい反応剤が「アクリル酸エチル」であることを理解することができるというべきである。」
取消事由2(新規事項追加の判断の誤り)について、裁判所は、
「前記3の取消事由1で判断したとおり,本件明細書に接した当業者であれば,本件訂正事項に係る【0034】の「EAC(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載が誤りであり,これを「EAC(アクリル酸エチル,804ml,7.28mol)」の趣旨に理解するのが当然であるということができるから,本件訂正後の記載である「アクリル酸エチル」は,本件訂正前の当初明細書等の記載から自明な事項として定まるものであるということができ,本件訂正によって新たな技術的事項が導入されたとは認められない。したがって,本件訂正は,特許法126条5項に規定する要件に適合するものということができる。」
と判断した。

【コメント】

裁判所は、明細書の誤記の訂正(訂正前の記載「A」から訂正後の記載「B」に訂正すること)が許されるかどうかについての検討手順を下記のように行った。実務上の参考になる。
  • Step 1: 本件明細書に接した当業者が、明細書の記載は原則として正しい記載であることを前提として、本件訂正前の本件明細書の記載に何らかの誤記があることに気付くかどうか。
  • Step 2: 誤記の存在を認識した当業者が、誤記が訂正前の記載「A」であると分かるかどうか。
  • Step 3: 正しい記載が訂正後の記載「B」であると分かるかどうか。
とはいえ、審決では逆の結論だったのであり、Step 2および3の適否の判断が最も難しい点といえることには違いない。

参考: 審判便覧(第16版)38―03 P 訂正要件より
3.誤記の訂正

(1) 「誤記の訂正」とは、本来その意であることが、明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいう。

(2) 誤記の訂正が認められるためには、特許がされた明細書、特許請求の範囲又は図面中の記載に誤記が存在することが必要である。このうち、請求項中の記載が、それ自体で、又は特許がされた明細書の記載との関係で、誤りであることが明らかであり、かつ、特許がされた明細書、特許請求の範囲又は図面の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まるときにおいて、その誤りを正しい記載にする訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
本件特許は、INPADOC family searchで検索しても本件日本特許以外の出願は海外にされていない。優先権の主張もない。本件特許に無効審判請求はされていない。本件特許発明は、化合物(3)等の中間体及びその製法であり、化合物(4)やその製法の発明ではない。つまり、本件で問題となった記載を訂正しようがしまいが本件特許発明の記載要件の適否には影響せず特許が無効とされる可能性はないと思われる。なぜ特許権者は本件訂正審判を請求したのかは定かではない。


Jul 1, 2017

ベポタスチンベシル酸塩(タリオン®)に関する特許権について

2017年6月30日、田辺三菱製薬(株)および宇部興産(株)より「ベポタスチンベシル酸塩(商品名 タリオン®)に関する特許権について」の謹告文が掲載されました(参照: 日刊薬業website: 【謹告】ベポタスチンベシル酸塩(商品名 タリオン®)に関する特許権について)。

田辺三菱は、一般名ベポタスチンベシル酸塩(bepotastine besilate)を有効成分とし、その効能・効果を「アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴うそう痒(湿疹・皮膚炎、痒疹、皮膚そう痒症)」とする医薬品を、「タリオン®錠5㎎」「タリオン®錠10㎎」「タリオン®OD錠5㎎」「タリオン®OD錠10㎎」の商品名で製造販売している。タリオン®錠は、宇部興産と田辺三菱の共同研究により創成された抗アレルギー剤。国内において2000年7月に効能・効果をアレルギー性鼻炎としてタリオン®錠(普通錠)が承認された。また、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う掻痒(湿疹・皮膚炎,痒疹,皮膚掻痒症)の効能・効果については2002年1月に承認された。2007年7月に口腔内崩壊錠を発売し、2015年5月に小児(7-15歳)適応の承認を取得した。タリオンの国内売上収益(2016年)は189億円、2017年度は200億円を超えると予想されている。

ニプロは、田辺三菱の完全子会社だった田辺製薬販売(株)の発行済株式の全てを取得し子会社化したことで、タリオン®錠のオーソライズド・ジェネリック薬品(タリオン AG)を自社製品として取り扱うことが可能となっている(ニプロ press release 2017.03.28 「ジェネリック医薬品の製造販売会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」)

田辺三菱および宇部興産は、ベポタスチンベシル酸塩を有効成分とする医薬品に関し、下記日本特許を有している。
その他参考:

Jun 29, 2017

オキサリプラチン特許侵害訴訟 日本化薬の侵害認めず(知財高裁)

2017年6月29日付の日本化薬のプレスリリースによると、日本化薬から製造販売されている「オキサリプラチン点滴静注液50㎎『NK』」、「オキサリプラチン点滴静注液100㎎『NK』」、「オキサリプラチン点滴静注液200㎎『NK』」に関して、デビオファーム社及びヤクルト本社が特許権及び専用実施権の侵害を理由に損害賠償を請求していた訴訟において、2017年6月28日、知財高裁は、東京地裁の判決(2016.10.31 「ヤクルト・デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成28年(ワ)15355)を支持し、デビオファーム社及びヤクルト本社の控訴を棄却する判決を言い渡したとのことです。

なお、2016年12月8日付リリースのとおり、「オキサリプラチン点滴静注液50mg『NK』」等について、上記訴訟とは別に、デビオファーム社より特許侵害訴訟が提起されていましたが、知財高裁は、同訴訟に対しても、日本化薬による特許権等の侵害を否定していました(過去記事: オキサリプラチン特許侵害差止訴訟 日本化薬の侵害認めず(知財高裁)2016.12.08 「日本化薬 v. デビオファーム」 知財高裁平成28年(ネ)10031))。

参照:

Jun 24, 2017

田辺三菱 ジレニア®(Gilenya®)米国特許訴訟で勝訴

2017年6月20日付けの田辺三菱製薬のプレスリリースによると、2017年6月9日、米国デラウェア連邦地方裁判所は、「製品名「ジレニア®(Gilenya®)」の有効成分であるフィンゴリモド塩酸塩(Fingolimod hydrochloride)を保護する米国特許(US5,604,229)は有効であり、本件特許が満了する2019年2月18日(小児臨床試験実施に基づく6か月間の排他期間の追加の可能性あり)より早く、米国において後発品は承認されない」との判決を下したとのことです。この判決は、被告である後発品会社6社が、後発品をFDAに簡略申請するに当たり、本件特許の無効を主張してきたものの、本件特許は有効であり、原告3社(田辺三菱製薬、ノバルティス社(米国新薬申請ホルダー)および三井製糖(共有特許権者))の権利行使が可能であると認めたものであるとのことです。

ジレニア®:
フィンゴリモド塩酸塩を有効成分とする1日1回経口投与カプセル剤。フィンゴリモド塩酸塩は、スフィンゴシン 1-リン酸(S1P)受容体を標的とする多発性硬化症治療剤であり、田辺三菱製薬による開発着手の後、ノバルティス社に導出。米国においては、2010年9月21日に承認、日本(製品名「イムセラ®/ジレニア®」)をはじめ、欧州、カナダ等80か国以上で承認されている。
ジレニア®のOrangebookによると、リストされている特許は4つ。
  • 5,604,229 (Patent Expiration: Feb 18, 2019)
  • 6,004,565 (Patent Expiration: Sep 23, 2017)
  • 8,324,283 (Patent Expiration: Mar 29, 2026)
  • 9,187,405 (Patent Expiration: Jun 25, 2027)

US8,324,283は製剤特許。IPRでの無効判断がCAFCでも容認された(Novartis AG v. Torrent Pharmaceuticals. Ltd., No. 2016-1352 (Fed. Cir. Apr. 12, 2017))。

US9,187,405は用途特許。2015年11月17日に成立した。Apotexが2017年2月3日、Argentumが2017年6月9日に、IPRをfileしたようである(IPR2017-00854; IPR2017-01550)。

参考:
2017.06.20 田辺三菱製薬プレスリリース: 「米国におけるフィンゴリモド塩酸塩 特許侵害訴訟の地裁勝訴について


Jun 11, 2017

2017.05.16 「メソ スケール テクノロジーズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10196

イムノアッセイの連続交互プロセス: 知財高裁平成28年(行ケ)10196

【背景】

「アッセイ装置,方法,および試薬」に関する特許出願(特願2014-23320; 特開2014-130151)の拒絶審決(不服2015-12712)取消訴訟。争点は進歩性。具体的には、引用発明との相違点2(コンピュータを実装したプロセスが,本願補正発明では,「連続交互プロセス」であるのに対し,引用発明では,そのように特定されていない点)の容易想到性が争われた。


本願補正発明(請求項1):
マルチウェルプレートにおいてアッセイを実施するための方法であって,ここで前記方法は,(a)光検出サブシステム;(b)液体操作サブシステム;(c)プレート操作サブシステム,およびソフトウェアのスケジューラーへと動作可能に接続されたコンピュータを含有する装置を用い,

前記方法が,前記マルチウェルプレートの個々のウェルにおいて実施される以下のステップ:
(i)期間nを含有するサンプル添加フェーズの間に前記個々のウェルに対してサンプルを添加するステップ;
(ii)期間mを含有する放置フェーズの間に前記個々のウェル中に前記サンプルを放置するステップ;
(iii)期間pを含有する試薬添加フェーズの間に前記個々のウェルへと試薬を添加するステップ;ならびに
(iv)前記ソフトウェアのスケジューラーによって前記マルチウェルプレートの個々のウェルに対するステップ(i)~(iii)の状態をトラックするステップ,

を含有するコンピュータを実装した連続交互プロセスを含有し,

ここでステップ(i)が,サンプルを添加するステップの前に前記個々のウェルのシールを穴開けするステップをさらに含有し,

ここで前記マルチウェルプレートの第一のウェルがステップ(i)~(iii)へと供され,そして前記第一のウェルの少なくともステップ(i)が完了したのちに前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいてこれらのステップ(i)~(iii)が繰り返され,
かつ
期間n,mもしくはpの一つもしくはそれ以上が,前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上のウェルにおいて,前記ソフトウェアのスケジューラーによって調整できる,方法。

【要旨】

引用発明1に引用例2に記載された技術事項を適用することについて、裁判所は、
「引用例1と引用例2(甲2)は,共にイムノアッセイに係る技術であり,イムノアッセイにおける全作業時間を短縮させるという課題は,イムノアッセイ全般の一般的な技術課題にすぎない。したがって,引用例2に記載されている,マルチウェルプレートの第一のウェルに反応開始に必要な液体を添加するステップを行ってイムノアッセイの処理を開始し,その第一のウェルでのインキュベーション期間に,前記マルチウェルプレートの一つの追加のウェルに反応開始に必要な液体を添加するステップを行ってイムノアッセイの処理を開始し,マルチウェルプレートにおけるイムノアッセイの全作業時間を短縮することを,引用発明に適用することは,当業者が容易になし得たことである。
そうすると,引用例2に記載された技術事項を適用した引用発明は,「第一のウェル」に対するステップ(ii)中に「前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいて,」少なくともステップ(i)を行い,その後で,「第一のウェル」に対するステップ(iii)を行う,つまり「連続交互プロセス」を含有することになる。
よって,相違点2の容易想到性についての本件審決の判断に誤りはない。」
と判断した。請求棄却。

【コメント】

本出願についてINPADOC patent familyを見てみると、下記日本出願群が存在しているようである。
  • 優先権US 61/123,975 ⇒PCT/US2009/002244(WO2009/126303)
    ⇒特願2011-504004(特表2011-518323)
    ⇒拒絶審決

    ⇒特願2011-504004の分割⇒特願2014-23320(特開2014-130151)
    ⇒拒絶審決(本願
  • 優先権US 60/752,745; 60/752,513: 11/642,968 ⇒PCT/US2006/049049(WO2008/057111)
    ⇒特願2008-547613(特表2009-533650)
    ⇒特許5080494

    ⇒特願2008-547613の分割⇒特願2012-158378(特開2012-230122)
    ⇒拒絶審決

    ⇒特願2012-158378の分割⇒特願2014-148593(特開2014-211450)
    ⇒特許5885788

    ⇒特願2012-158378の分割⇒特願2015-237447(特開2016-048260)
    ⇒審査係属中
  • 優先権US 60/752,745; 60/752,513; 11/642,970 ⇒PCT/US2006/049048(WO2007/076023)
    ⇒特願2008-547612(特表2009-521686)
    ⇒特許5345854

    ⇒特願2008-547612の分割⇒特願2012-179913(特開2013-007751)
    ⇒特許5845156

    ⇒特願2012-179913の分割⇒特願2015-144598(特開2015-232568)
    ⇒特許6113788

    ⇒特願2015-144598の分割⇒特願2016-200778(特開2017-026635)
    ⇒審査係属中

Jun 4, 2017

2017.05.10 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 大阪地裁平成27年(ワ)11759

敗訴となった訴訟行為が不法行為を構成するのか大阪地裁平成27年(ワ)11759; 別紙1

【背景】

本件は、バイオセレンタックが提起した特許権侵害訴訟(バイオセレンタックが敗訴。東京地裁平成25年(ワ)4303; 知財高裁平成26年(ネ)10109)の被告であったコスメディと同社の代表取締役であるP1が、同訴訟の原告であったバイオセレンタック、同訴訟でバイオセレンタックを代表した代表取締役のP2、バイオセレンタックの代表取締役であり本件特許の発明者であるP3並びに同訴訟で訴訟代理人を務めたP4に対し、バイオセレンタックが「コスメディによる本件特許権侵害及び研究成果盗用」という虚偽の事実をコスメディの取引先である岩城製薬及び資生堂に告知した行為は不競法2条1項14号(現行法では15号)の不正競争に該当する或いは上記告知がP1の名誉を棄損したと主張して、不競法4条、民法709(719条1項)または会社法429条1項に基づき損害賠償の支払を求めた事案である。

「告知行為」に関するコスメディの主張は主に下記の点であった。
  • 「被告バイオは,別件侵害訴訟において,原告コスメディの取引先である岩城製薬を共同被告として訴えていたから,同訴訟を通じて,原告コスメディの営業上の信用を害する虚偽の事実を岩城製薬に継続的に告知したといえる。」
  • 「原告ら製品は,原告コスメディから資生堂に販売され,資生堂で製品として完成されて岩城製薬に販売される関係にあるので,原告コスメディは,別件侵害訴訟の情報を資生堂に提供せざるを得なかったが,被告バイオは上記取引関係を認識しながら岩城製薬を共同被告にしたのであるから,被告バイオは虚偽の事実を資生堂にも告知していたといえる。」
【要旨】

主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

裁判所の判断(抜粋)

1.資生堂に対する関係での告知行為について
「不正競争防止法2条1項14号にいう「告知」とは,自己が関知した一定の事実を特定の人に知らせる伝達行為をいうところ,そもそも資生堂に対する関係で被告バイオが告知したわけではないことは原告コスメディも認めているところである。また原告コスメディは,取引関係上,同原告が資生堂に同事実を伝えざるを得なかったことを指摘するが,もし,そうであったとしても,そのことをもって被告バイオが告知したことになるわけではない。」
2.岩城製薬に対する関係での告知行為について
「被告バイオは,原告ら製品の販売が本件特許権の侵害行為に該当するとして岩城製薬を共同被告として訴えているところ,岩城製薬に対する請求を理由づけるためには,岩城製薬が販売している原告ら製品が本件発明の技術的範囲に属するという事実を主張立証する必要があり,その事実関係を具体的に主張立証するためには,結局,共同被告である原告コスメディによる原告ら製品の製造販売が本件特許権の侵害行為であること,すなわち原告ら製品が本件特許権の侵害品であることを主張立証すべきことは避けようがない。

したがって,別件侵害訴訟における原告ら製品が本件特許権の侵害品である旨の事実主張が,共同被告である岩城製薬との関係で不正競争防止法2条1項14号の虚偽事実の告知に該当するということはできない(仮に岩城製薬だけを被告として本件特許権侵害を理由に訴訟を提起したとしても,岩城製薬が販売する製品が本件特許権の侵害品である旨主張することは,その購入先を知っている岩城製薬にとっては,原告ら製品が本件特許権の侵害品であるとの事実指摘を受けたと同じになるから,原告コスメディの論が失当であることは明らかである。)。

なお,被告バイオによる別件侵害訴訟の提起が,権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したことなどを理由として裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くため違法な行為といえるような場合には,同訴訟の被告それぞれに対する訴訟提起が不法行為を構成するとともに,取引先である岩城製薬を共同被告とされた原告コスメディに対する関係では,訴訟制度を濫用的に利用した不正競争防止法2条1項14号に該当する虚偽の事実の告知として不正競争となる余地はあり得ると考えられる。しかし,…別件侵害訴訟の審理経過に照らせば,同訴訟提起が違法な行為であるという余地がないことは明らかであり,そうであれば,やはり岩城製薬を原告コスメディの共同被告として提起された別件侵害訴訟においてなされた原告ら製品が本件特許権の侵害品である旨の事実主張は,不正競争防止法2条1項14号に該当する余地はないというほかない。」
3.研究成果の盗用指摘について
「仮に上記記載事実が虚偽であるとしても,…上記事実は,別件侵害訴訟の審理判断の上で,全く不要な事実であったとはいえないし,全く根拠のない推認に基づくものであったとも,また原告コスメディをもっぱら誹謗中傷するような態様で主張されたものとも認められないから,民事訴訟が,事実関係を究明するため,紛争当事者が攻撃防御方法として相互に立証命題となるべき事実主張を尽くすことが求められるものである以上,これらの事実主張は,訴訟行為として適法というべきであって,これをもって不正競争防止法2条1項14号に該当する「虚偽の事実を告知」したものということはできないというべきである。」
4.名誉棄損の成否について
「原告P1が名誉棄損である旨指摘する引用に係る別紙一覧表の各記載内容は,要するに,原告P1がアクセスして得た被告P3の研究に係る技術情報を不正に利用して原告ら製品を開発したことを指摘するものであるから,原告P1が原告コスメディの代表取締役であるとともに,大学研究室に所属して研究者としても活動している者であることからすると,その指摘に係る事実は,原告P1の社会的評価を低下させるものであり,その名誉を棄損するものということができる。

しかし,これらの事実指摘のうち別紙一覧表記載3ないし5に係る事実については,いずれも別件侵害訴訟において,被告バイオの訴訟活動の一環としてなされたものであり,その事実が別件侵害訴訟の審理判断の上での必要性が肯定されるべきことは上記…で説示したとおりであり,別紙一覧表記載1,2の各事実も結局,同じ問題であるので,その事実を主張することが名誉棄損として不法行為を構成するものということはできない。」
【コメント】

下記裁判でも同事件が取り扱われている。

民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、「その訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる」という観点で、その訴えに関連する行為の違法性の当否が判断されるということであろう。

1988.01.26 最高裁昭和60(オ)122
「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。」

May 28, 2017

2017.04.27 「デビオファーム v. 日医工」 知財高裁平成28年(ネ)10111

対応外国出願の禁反言が特許発明の技術的範囲に適用されるのか: 知財高裁平成28年(ネ)10111

【背景】

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告: デビオファーム)が、被控訴人(一審被告: 日医工)に対し、日医工各製品の製造販売等が特許権侵害に当たると主張して、日医工製品の製造等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決(2016.10.28 「デビオファーム v. 日医工」 東京地裁平成27年(ワ)28468)は、日医工各製品はいずれも本件発明の技術的範囲に属しないとしてデビオファームの請求を棄却したため、デビオファームは控訴した。

日医工各製品は、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)が本件発明に規定されているモル濃度の範囲内で含有するものだが、このシュウ酸は外部から添加されたもの(添加シュウ酸)ではなかった。日医工各製品における「解離シュウ酸」が、本件発明にいう「緩衝剤」に含まれるかどうかが争点。

【要旨】

知財高裁は、本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は、添加シュウ酸に限られ、解離シュウ酸を含まないものと解されるから、解離シュウ酸を含むのみで、シュウ酸が添加されていない日医工各製品は、構成要件の「緩衝剤」を含有するものではなく、したがって、本件発明の技術的範囲に属しないものと判断した。控訴棄却。

【コメント】

知財高裁は、判断の理由を、原判決を一部補正するほか原判決の記載のとおりであるからこれを引用した。すなわち、下記部分も引用しており、知財高裁は、クレームの用語の意義を対応外国出願の審査過程における出願人の主張内容も参酌して解釈する、ということを排除していない。

原判決41頁11行目~:
「確かに,対応米国特許及び対応ブラジル特許は本件特許とは異なる国における別個の出願であるから,それぞれの国の手続において成立する特許発明の範囲に差異がでることは否定できないものの,本件特許と同じ国際出願を基礎とするものである以上,その技術思想は基本的には共通すると考えられるところ,本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」が添加したものに限られず,解離シュウ酸をも含むものと解すると,上記対応米国特許及び対応ブラジル特許の技術思想とは整合しなくなり不合理である。」
原判決:

May 21, 2017

2017.04.27 「デビオファーム v. サンド」 知財高裁平成28年(ネ)10103

オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸と特許発明の技術的範囲: 知財高裁平成28年(ネ)10103

【背景】

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告: デビオファーム)が、被控訴人(一審被告: サンド)に対し、サンド製品1及び2の生産等が本件発明1の技術的範囲に属し特許権侵害に当たると主張して、サンド製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。原判決(2016.09.12 「デビオファーム v. サンド」 東京地裁平成27年(ワ)28849)は、サンド製品1及び2はいずれも本件発明1の技術的範囲に属しないとしてデビオファームの請求を棄却したため、デビオファームは控訴した。また、デビオファームは、サンド製品3についても特許侵害に当たる旨及びサンド各製品が本件発明2の技術的範囲に属する旨の追加の訴えを申し立てた。

サンド製品は、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)が本件発明に規定されているモル濃度の範囲内で含有するものだが、このシュウ酸は外部から添加されたもの(添加シュウ酸)ではなかった。サンド製品における「解離シュウ酸」が、本件発明にいう「緩衝剤」に含まれるかどうかが争点。

【要旨】

知財高裁は、本件発明1における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は、添加シュウ酸に限られ、解離シュウ酸を含まないものと解されるから、解離シュウ酸を含むのみで、シュウ酸が添加されていないサンド製品1及び2は、構成要件の「緩衝剤」を含有するものではなく、したがって、サンド製品1及び2は本件発明1及び本件訂正発明2の技術的範囲に属しないものと判断した。控訴棄却。

また、知財高裁は、デビオファームの追加の訴えの申し立てを却下しなかったが、本件発明2は、本件発明1の「緩衝剤」であるという構成を含むものであるから、サンド各製品は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも本件発明2の技術的範囲にも属さないと判断した。

【参考】

原判決:

May 14, 2017

2017.04.25 「グロービア v. ナチュラルビューティー」 知財高裁平成28年(ネ)10106

フェルガードとフェルゴッド知財高裁平成28年(ネ)10106

【背景】

「フェルガード」と標準文字で書してなる商標(指定商品: フェルラ酸とガーデンアンゼリカを主成分とする粉末及びカプセル状の加工食品。)に関する商標権(第5059677号)を保有するグロービアが、ナチュラルビューティーに対して東京地裁に提起した商標権侵害訴訟において非侵害の判決を受けたため、控訴した事案。争点は、フェルラ酸含有商品を販売するナチュラルビューティーの各標章は本件商標に類似するかであった。

【要旨】

裁判所は、
「本件商標と被告各標章は,外観は異なり,いずれも特定の観念を生じさせるものではなく,その称呼においても,全体の語調,語感において,異なる印象を与えるものである。そして,原告商品及び被告各商品の具体的な取引の実情を踏まえつつ,本件商標と被告各標章が,その外観,観念,称呼等によって需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察した場合,本件商標と被告各標章について,需要者に,商品の出所につき誤認混同を生じさせるおそれがあるということはできない。」
として控訴を棄却した。

「被告各商品は,原告商品を故意に似せて作ったものであり,その販売形態が類似している。サプリメントは需要者が誤って商品を購入すれば,その生命や身体に多大な影響を及ぼすことなどから商標法による保護が一層重要である」等のグロービアの主張に対して、裁判所は、
「被告各商品は,原告商品と外箱のデザインなどが類似しているほか,インターネット上のウェブサイトにおいて,被告各商品が「フェルガードに替わるフェルラ酸含有食品」などと紹介されており,また,検索サイトで原告商品である「フェルガード」を検索すると,「フェルゴッド」との標章を有する被告各商品が表示されることが認められる。しかし,これらの事情は,他の法律の規制を受けることの一事情になり得るとしても,これらの事情によって,本件商標と被告各標章との間で,商標法上,出所の誤認混同のおそれを生じさせるに至るということはできない。」
と判断した。

【コメント】

原告の主張によれば、「被告各商品は,かつて原告と取引関係にあり,原告商品を販売していた株式会社サンユーコーポレーションの関係者が,原告との取引解消直後に,関連会社をして「フェルゴッド」との文字からなる商標に係る商標権を取得させ,さらに,被告を設立してこれを販売元として販売を開始しているのであって,原告商品又は本件商標の有するブランド力を利用する目的で作られたことが明らかである。」(原審より引用)との事情があったようである。

ところで、グロービアの商品に関連する判決として以下のものがある。

May 11, 2017

臨床開発中のemicizumabの米国内製造等が特許侵害にあたるとしてバクスアルタ社が中外製薬を提訴

中外製薬のニュースリリースによると、臨床開発中の血友病Aに対する新薬候補物質「emicizumab」(開発コード:ACE910)がバクスアルタ社保有の米国特許第7,033,590号に触れるとし、米国における上記emicizumabの製造、使用、譲渡の申出、譲渡、輸入の差止め等を求める訴えが中外製薬および米国ジェネンテック社に対して米国デラウェア州連邦地方裁判所において提起されたとのことです。

バクスアルタ社は、米国内でのemicizumab製造、販売および輸入等がバクスアルタ社の米国特許を侵害すると主張しているようですが、中外製薬は、emicizumabがバクスアルタ社の特許を侵害しないものと確信しており、当該特許の非侵害及び無効の主張、その他適切な反論を行っていく方針であるとのことです。

米国特許第7,033,590号のclaim 1:
1. An isolated antibody or antibody fragment thereof that binds Factor IX or Factor IXa and increases the procoagulant activity of Factor IXa.
Emicizumab(開発コード:ACE910):
中外製薬にて創製された抗factor IXa/X バイスペシフィック抗体(注射剤)であり、血友病Aを予定適応症として、現在、第III相(国際共同治験)の段階。
ちょうど昨年の今日、日本での行為に対して訴訟が提起されたというニュース(バクスアルタ社が国内臨床試験中emicizumabの製造・使用を特許侵害にあたるとして中外製薬を提訴)がありました。

参考:

May 8, 2017

2017.03.23 「DKSH v. ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ・中外製薬」 知財高裁平成28年(行ケ)10101

マキサカルシトールの製造方法の進歩性: 知財高裁平成28年(行ケ)10101

【背景】

ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ及び中外製薬が保有する「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許(第3310301号)に対して、DKSHがした無効審判請求を不成立とした審決(無効2015-800057)の取消訴訟。争点は進歩性の有無及びサポート要件違反の有無。

【要旨】

請求棄却。進歩性の有無についての裁判所の判断(一部)は下記のとおり。

原告は、
「甲1発明は,「甲1記載の化合物(9)を用い,SN2反応を経由してマキサカルシト-ル(1α,25-(OH)2-22-オキサ-D3。以下「OCT」ともいう。)を製造する方法」と認定されるべきである。…甲1には「化合物(9)を用いたOCTの製造方法」の発明が記載されていることが認められるところ,第1級ハロゲン化アルキルとアルカリ金属アルコキシドのような求核性化合物との反応がSN2反応となることは,技術常識であるから,「化合物(9)を用い,SN2反応を経由するOCTの製造方法」は,甲1に記載されているに等しい事項であり,原告主張の甲1発明が認定できる。仮に,ステロイド-20(S)-アルコールからOCTを得るまでの工程として,審決認定の甲1発明以外に具体的な記載が甲1にないとしても,審決認定の甲1発明の上位概念たる原告主張の甲1発明を認定することは,当然に許される。」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「ウィリアムソン反応がSN2反応の一種であることが技術常識であったとしても,甲1に,ウィリアムソン反応ではない反応も含むSN2反応について記載されているとは認められず,また,ウィリアムソン反応ではない反応も含むSN2反応が,甲1に記載されているに等しい事項であるとも認められないのであって,甲1に,「甲1記載の化合物(9)を用い,SN2反応を経由して,OCTを製造する方法」が記載されているとは認められないし,これが記載されているに等しい事項であるとも認めることはできない。
また,以上に述べたところからすると,甲1発明を原告が主張するような上位概念として認定することも相当ではない。」
と判断した。

また、原告は、
「甲1発明と甲2に記載された事項とは,技術分野,課題,作用・機能が共通する」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「甲1発明と甲2に記載された事項の技術分野,課題,作用・機能が共通するのは,前記イ(ウ)a~cのとおり,アルコール類と第1級のハロゲン化アルキルとの反応であり,その反応がいずれもSN2反応であるという限度においてである。アルコール類も第1級のハロゲン化アルキルも多数存在し,SN2反応をする化合物は,ウィリアムソン反応の対象となる化合物に限られないにもかかわらず,前記の限度での共通性をもって,甲1発明に甲2に記載された事項を適用する動機付けと認めることはできない。」
と判断した。

【コメント】

原告は、引用例に記載された発明から、技術常識に基づいて記載されているに等しい事項として、或いは、上位概念として、原告主張の発明が認定されるべきであることを主張したが、裁判所は認めなかった。

参考:

Apr 25, 2017

2017.03.22 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成28年(ネ)10094

訴訟提起した者が敗訴した場合、訴えの提起が相手方に対する違法な行為とされるのか?知財高裁平成28年(ネ)10094

【背景】

本件は、バイオセレンタックが提起した特許権侵害訴訟(バイオセレンタックが敗訴。東京地裁平成25年(ワ)4303; 知財高裁平成26年(ネ)10109)の被告であったコスメディと同社の代表取締役であるXが、同訴訟の原告であったバイオセレンタック、同訴訟でバイオセレンタックを代表した代表取締役のY1、バイオセレンタックの代表取締役であり本件特許の発明者であるY2並びに同訴訟で訴訟代理人を務めたY3に対し、バイオセレンタックが「コスメディによる本件特許権侵害及びY2の研究成果盗用」という虚偽の事実をコスメディの協業相手である岩城製薬及び資生堂に告知した行為は不競法2条1項14号(現行法では15号)の不正競争に該当する或いは上記告知がXの名誉を毀損したと主張して、不競法4条、民法709(719条1項)または会社法429条1項に基づき損害賠償の支払を求めた事案である。

【要旨】

知財高裁は、必要な範囲で判断を付加したほかは、原判決を引用し、控訴を棄却した。付加判断のうち、不正競争の成否について以下に引用する。
「訴えの提起が相手方に対する違法な行為となるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる(最高裁第三小法廷昭和63年1月26日判決・民集42巻1号1頁参照)。かかる要件を満たさないのに,訴訟提起という形による虚偽事実の告知が形式的に不正競争に当たることを理由として,これを違法とすることは,たとえ訴訟提起の相手方(本件では岩城製薬)との関係で違法と評価するものではなかったとしても(不正競争かどうかは,飽くまで競業者である控訴人コスメディとの関係において問題となるものである。),結局はこれを不当提訴であると断じるに等しく,裁判制度の自由な利用を著しく阻害することとなり妥当でない(むしろ,特許権者が自己の権利を侵害されているとの認識の下に,当該侵害者を相手方として訴訟を提起することは,当該訴訟が不当訴訟と評価されるような特段の事情がない限り,裁判を受ける権利の行使として当然許される行為であるというべきである。)。
したがって,かかる制度的観点からは,特許権者が,競業者ないしその取引先に対する関係でおよそ請求が成り立たないことを知りながら,あるいは,当然そのことを知り得たはずであるのに,あえて当該取引先をも共同被告として訴訟を提起するなど,訴訟制度を濫用的に利用したと評価し得るような特別な事情が存する場合は格別として,そのような場合でなければ,外形的には不正競争に当たり得るとしても,訴訟提起自体を違法と評価することはできないというべきである。

これを本件についてみるに…(略)…被控訴人バイオが,あらかじめ本件特許にかかる無効理由が存することを知りながら,あるいは,これを当然知り得たはずであるのに,あえて(無理を承知で)同訴訟を提訴したというような事情はうかがわれないし…(略)…,被控訴人バイオに,専ら控訴人コスメディの信用を毀損する目的など,訴訟制度を濫用的に利用したと評価されるべき不当な目的があったことを認めるに足りる的確な証拠もない。

以上によれば,被控訴人バイオが岩城製薬を共同被告として別件侵害訴訟を提起したのは,正当な権利行使の一環というべきであって,それが外形的には不正競争防止法2条1項14号の不正競争に該当し得る行為であったとしても,正当行為として違法性が阻却されるものと認めるのが相当である。原判決の認定判断もかかる趣旨を述べるものと理解することが可能であって,論旨不明との指摘は当たらない。」

従って、裁判所は、コスメディの主張は採用できないと判断した。

また、研究成果盗用の指摘が虚偽事実の告知に当たるとのコスメディの主張について、これを主張したコスメディは独自に開発した過程を明らかにして具体的に主張立証すべきところ、これを全く行わなかったため、虚偽事実の告知の成否についても裁判所はコスメディの主張は採用できないと判断した。

【コメント】

バイオセレンタックから「侵害だ、盗用だ」と訴えられたコスメディが、非侵害判決を受け、「言いがかりをつけやがって。どうしてくれるんだよ。責任とれ。」ということで、会社だけでなく代表取締役及び当時の訴訟代理人も相手にして訴え返したという事件。訴えの提起が違法な行為となるかどうかについては、判決文中でも引用されている下記最高裁判決での判示事項が参考になる。
  • 1988.01.26 最高裁昭和60(オ)122
    「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。」
本件特許は、「経皮吸収製剤,経皮吸収製剤保持シート,及び経皮吸収製剤保持用具」に関する特許第4913030号。

参考:

Apr 17, 2017

2017.03.08 「ホスピーラ v. デビオファーム」 知財高裁平成27年(行ケ)10167

「緩衝剤」としての「シュウ酸」は添加シュウ酸に限られ、解離シュウ酸を含まない(審決取消): 知財高裁平成27年(行ケ)10167

【背景】

被告(デビオファーム)が保有する「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許第4430229号の無効審判請求を不成立とした審決(無効2014-800121)の審決取消訴訟。

請求項1(訂正発明1):

オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,
1)緩衝剤の量が,以下の:
(a)5x10-5M~1x10-2M ,
(b)5x10-5M~5x10-3M ,
(c)5x10-5M~2x10-3M ,
(d)1x10-4M~2x10-3M ,または
(e)1x10-4M~5x10-4M
の範囲のモル濃度である,pHが3~4.5の範囲の組成物,あるいは
2)緩衝剤の量が,5x10-5M~1x10-4Mの範囲のモル濃度である,
組成物。

【要旨】

審決を取り消す。

本件訂正発明の「緩衝剤の量」とは、解離シュウ酸をも含んだ「オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」ではなく、解離シュウ酸を含まない「オキサリプラチン溶液組成物を作製するためにオキサリプラチン及び担体に追加され混合された緩衝剤の量」を意味するものと解釈すべきであり、そうすると、本件審決が、本件訂正発明の「緩衝剤の量」は「オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」を意味するとの解釈に基づいてした本件訂正発明の要旨認定は誤りであるといえる。そして、本件審決は、当該要旨認定を前提として、実施可能要件違反、サポート要件違反、新規性欠如及び進歩性欠如の各無効理由(無効理由2ないし5)についての判断をしたものであり、上記「緩衝剤の量」が「オキサリプラチン溶液組成物を作製するためにオキサリプラチン及び担体に追加され混合された緩衝剤の量」を意味することを前提とした場合の上記各無効理由の有無については判断していない。特に、進歩性欠如の無効理由(無効理由5)については、請求人(原告)が当該解釈を前提とした場合の本件訂正発明1ないし17に係る進歩性の欠如を具体的に主張していたところ、本件審決は、当該解釈が採用できないことを理由に、請求人(原告)の上記主張を検討の対象とせず、これについて何ら判断をしていない。してみると、本件審決の上記要旨認定の誤りは、少なくとも本件訂正発明1ないし17に係る進歩性欠如の無効理由についての審決の判断に影響を及ぼすものといえる。したがって、原告主張の取消事由2には理由がある。

【コメント】

裁判所は、無効審判における要旨認定において問題となった「緩衝剤」についての「シュウ酸」が添加シュウ酸に限られ解離シュウ酸を含まないことを意味するものと解釈すべきであることを、特許請求の範囲の記載、明細書における定義の記載及び定義以外の記載、並びに、発明の目的及び発明と引用発明との関係に照らして丁寧に検討し、結論を下した。

Apr 10, 2017

2017.02.28 「ザ・ヘンリー・エム・ジャクソン・ファンデイション v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10107

臨床効果が証明されていなければ引用発明にならない?知財高裁平成28年(行ケ)10107

【背景】

「乳癌再発の予防用ワクチン」に関する特許出願(特願2011-540853; 特表2012-511578; WO2010/068647)の拒絶審決(不服2014-19365)取消訴訟。争点は、引用発明の認定の適否。

請求項1:
製薬上許容される担体,配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドの有効量及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を含み,配列番号3のアミノ酸配列を有するE75ペプチドを含まないワクチン組成物。

すなわち、「製薬上許容される担体,GP2の有効量及びGM-CSFを含み,E75を含まないワクチン組成物。」
審決は、引用文献には「GP2とGM-CSFを含有するワクチン」の発明(引用発明)が記載されているものと認め、本願発明と引用発明は一致し、両者の発明を特定するための事項に差異はないと判断したが、原告は、引用発明は「GP2とGM-CSFを含有し,E75と組み合わせて使用される細胞傷害性T細胞(CTL)誘導剤」と認定されるべきであり、審決は引用発明の認定を誤ったものであり取り消されるべきであると主張した。

【要旨】

裁判所は、原告請求の取消事由1(引用発明はCTL誘導剤であってワクチンではないこと)には理由があるとして審決を取り消した。以下、裁判所の判断の抜粋。
「本願優先日当時,「癌ワクチン」について,以下の技術常識が存在したものと認められる。ペプチドが「ワクチン」として有効であるというためには,①当該ペプチドが多数のペプチド特異的CTLを誘導し,②ペプチド特異的CTLが癌細胞へ誘導され,③誘導されたCTLが癌細胞を認識して破壊すること,が必要である。あるペプチドにより,多数のペプチド特異的CTLが誘導されたとしても,誘導されたCTLが癌細胞を認識することができない,誘導されたCTLが癌細胞を確実に破壊するとは限らないなどの理由により,当該ペプチドに必ずしもワクチンとしての臨床効果があるということはできない。

引用発明は・・・標準治療後のHLA-A2型のリンパ節転移陰性乳癌患者について,GP2ペプチドとアジュバントのGM-CSFを6か月接種したところ,全ての患者においてGP2特異的CTL細胞のレベルが増加したというものであり,GP2ペプチドがワクチンとして有効であるというために必要な,当該ペプチドが多数のペプチド特異的CTLを誘導したことを示したものである。これに対し,本願発明は,上記1のとおり,GP2ペプチドとGM-CSFを投与した無病の高リスク乳癌患者に,GP2特異的CTLが増大したのみならず,再発率が低減した,すなわち,誘導されたCTLが腫瘍細胞を認識し,これを破壊することによって,臨床効果があることを示したものである。・・・本願優先日当時,あるペプチドにより多数のペプチド特異的CTLが誘導されたとしても,当該ペプチドに必ずしもワクチンとしての臨床効果があるとはいえない,という技術常識に鑑みると,ペプチド特異的CTLを誘導したことを示したにとどまる引用発明は,本願発明と同一であるとはいえない。」

これに対し、被告は、

「CTLが誘導されれば癌に効くという技術的事項は,本願優先日前から周知であるから,引用発明の組成物は本願発明の「ワクチン」と同一である」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「本願優先日当時の技術常識を踏まえると,CTLが誘導されることは,癌ワクチンとして有効であるための前提条件であるものの,さらにCTLが癌細胞へ誘導され,癌細胞を破壊することが必要であり,そのような誘導や破壊ができない場合があるから,CTLが誘導されることと,癌ワクチンとして有効であることが技術的に同一であるとはいえない。したがって,被告の主張は,理由がない。」

と判断した。

また、被告は、

「引用文献の組成物は,フェーズIの臨床試験の結果を開示するものである上,「ワクチン」と表記されている」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「引用文献(甲1)は,フェーズIの臨床試験の結果の概要を示すものであるが,引用発明は,・・・標準的治療後のHLA-A2型のリンパ節転移陰性乳癌患者について,GP2ペプチドとアジュバントのGM-CSFを6か月接種したところ,全ての患者においてGP2特異的CTL細胞のレベルが増加したというものであって,ペプチド特異的CTLを誘導したことを示したにとどまるものであるし,また,引用文献には「ワクチン」と表記されている箇所があるものの,「ワクチン」としての使用の可能性があることから,そのように述べたものと解されるから,引用発明が本願発明と同一であるということはできない。」
と判断した。

【コメント】

引用文献の著者は本願発明の発明者自身であり、自ら引用文献で「抗癌ワクチンとしてGP2+GM-CSFの臨床試験を実施し」、「6カ月間ワクチン接種した」と表記している。
引用文献中の臨床試験は、本願発明者がワクチンとしての効果を期待して実施したことは明らかであるし、そのような可能性が期待されて実施されたのだろうということは引用文献を見た当業者であれば認識できるわけであるが、裁判所は、引用文献には、その臨床効果、すなわち癌の再発率が低減したことまで示されていないことから、引用発明はワクチンではないと判断した。

すなわち、引用文献からその効果を期待して実施されたことが当業者が見て明らかであっても、臨床効果が証明されたという記載がなければ、医薬用途発明の引用発明として認定されないということを示した判断であり、本事件の個別具体的な判断だったとしても、医薬用途発明の新規性判断における引用発明の適否に関して極めてインパクトのある判決であると思われる。

今回の判決は、下記過去判決とは異なる考え方を示したものである。
ワクチンに限らず、医薬品分野の技術常識として、非臨床試験でデータを積み上げてきたとしても、必ずしも薬剤としての臨床効果があると証明することはできない(臨床効果があるかどうかは臨床試験しなければ証明できない)のは当たり前の話である。一方で、臨床効果を証明していなくても、非臨床試験データからでも、医薬品として有用であろう/期待できる/推論できるとの技術思想の創作は当業者であればできるわけである。臨床試験で結果確認しないかぎり、ワクチンとして開発中であることが知られても、当業者は本当にワクチンとしての発明をそこから認識できないのか。

臨床試験プロトコールが引用文献に記載されていたとしても、試験結果が記載されていない引用文献の内容からだけでは、(判決の文言を借りれば)「必ずしも[医薬品]としての臨床効果があるとはいえない」から、ヒト用医薬用途発明の新規性判断において、引用発明として認定されないことになってしまうのか。

裁判所の技術常識のあてはめ方は、医薬品として効果が「有用であろう/期待できる/推論できる」と当業者が認識できるかどうかという観点での技術常識をあてはめるべきところ、医薬品として効果が「証明できる」と当業者が認識できるかどうかという観点での技術常識をあてはめた点で、本判決における引用発明の認定判断は妥当だったのかどうか疑問が残る。

米国では、クレームを乳がんや患者細胞での遺伝子発現レベルについて限定することによって特許になっている(欧州でも同様の補正をして特許許可されたようである)。

US 9,114,099 B2
1. A method of preventing breast cancer recurrence in a subject, comprising: a) selecting the subject, wherein the subject is in remission following treatment with a standard course of therapy, and wherein the subject, prior to remission, had breast cancer cells with low or intermediate expression of HER2/neu, wherein low or intermediate expression of HER2/neu is an immunohistochemistry (INC) rating of 1+ or 2.sup.+ protein expression or a fluorescence in situ hybridization (FISH) rating of less than about 2.0 for HER2/neu gene expression; and b) administering to the subject selected in step a) a composition in an amount effective to prevent breast cancer recurrence, wherein the composition comprises a pharmaceutically effective carrier, a peptide consisting of the amino acid sequence SEQ ID NO: 2, and granulocyte macrophage-colony stimulating factor, and wherein, other than the peptide consisting of the amino acid sequence of SEQ ID NO: 2, the composition does not contain any other Her2/neu-derived peptides.



Apr 3, 2017

2017.02.22 「エヌ・エル・エー v. 東洋新薬」 知財高裁平成27年(行ケ)10231

「一部」、僅かな部分のサポート要件違反知財高裁平成27年(行ケ)10231

【背景】

東洋新薬(被告)が保有する「黒ショウガ成分含有組成物」に関する特許権(第5569848号)の無効審判(無効2015-800007)請求不成立の審決取消訴訟。

請求項1:
黒ショウガ成分を含有する粒子を芯材として,その表面の一部又は全部を,ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したことを特徴とする組成物。
原告は、
  • 請求項1における「ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆した」との文言は,コート層の厚み,被覆率等が規定されていない以上,コート剤に含まれるナタネ油あるいはパーム油の量が極小量である構成をも許容していることが明らかであるところ,これらが極小量の場合には,当該ナタネ油あるいはパーム油に起因して本件発明の効果を奏するとはいえないこと
  • 「その表面の一部又は全部を…」との文言は,芯材(黒ショウガ成分を含有する粒子)におけるコート剤によって被覆されている部分がごく一部である構成を許容していることが明らかであるところ,例えば,芯材におけるコート剤によって被覆されている部分が全表面積の10%,露出部分が同90%である場合に,「摂取前の黒ショウガ成分の酸化を防止して保存安定性も高め,摂取後の胃液等による変性を防止することができる」とする根拠が不明であること
の2点を理由に、本件発明は、発明の目的である「ポリフェノール類の体内への吸収性の向上」や「黒ショウガ成分の酸化の防止」を達成し得ない範囲を包含しており、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているのに、本件審決がサポート要件違反を認めなかったのは誤りであると主張した。

【要旨】

裁判所は、上記原告主張を認め、サポート要件違反を認めなかった審決を取り消した。

裁判所の判断(抜粋)
「特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,①発明の詳細な説明に記載された発明で,②発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。」
「当業者は,たとえ,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面を「油脂を含むコート剤」で被覆することにより,本件発明の課題が解決できると認識し得たとしても,その量や程度が不十分である場合には,本件発明の課題を解決することが困難であろうことも予測するといえる。
ところが…(略)…コート剤による被覆の量や程度が不十分である場合には,本件発明の課題を解決することが困難であろうとの当業者の予測を覆すに足りる十分な記載が本件明細書になされているものとは認められないのであり,また,これを補うだけの技術常識が本件出願当時に存在したことを認めるに足りる証拠もない。したがって,本件明細書の記載(ないし示唆)はもとより,本件出願当時の技術常識に照らしても,当業者は,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の僅かな部分を「油脂を含むコート剤」で被覆した状態が本件発明の課題を解決できると認識することはできないというべきである。…(略)…そうすると,本件発明の特許請求の範囲の記載は,いずれも,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識に照らして,当業者が,本件明細書に記載された本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており,サポート要件に適合しないものというべきである。」
被告は、
「芯材である「黒ショウガ成分を含有する粒子」におけるコート剤によって被覆されている部分がごく一部である態様等,本件明細書の記載や本件出願当時の技術常識からみて,当業者が通常想定しないような極端なケースを挙げてサポート要件違反とすることは,適切な発明の保護が観点からみて不当である」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「サポート要件の趣旨は,要するに,発明の詳細な説明に記載していない発明が特許請求の範囲に記載され,公開されていない発明について独占的,排他的な権利を認めることを許容しないことにあるところ,本件発明には,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の僅かな部分を「油脂を含むコート剤」で被覆した態様が包含されているといえるのであるから,このような態様についてのサポート要件を検討することが不当であるとはいえないことはもちろんであって,上記被告の主張は採用することができない。」
と判断した。

【コメント】

「その表面の一部又は全部を」というクレームの構成をサポートできるほどの記載が明細書になかった。クレーム自体どのように表現すればよかったか、明細書にどこまで詳細に記載すべきだったかという点を考えてみることは、製剤関連発明の出願をする際の参考になるかもしれない。

本特許においては分割出願があり、特許5964344号及び特許5997856号が登録されているが、いずれも無効審判請求はされていないようである。
  • 特許5964344号
    請求項1: 黒ショウガの乾燥粉末を芯材として、その表面の一部又は全部を、ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したことを特徴とする経口用組成物。
    請求項2: 黒ショウガ抽出物の乾燥粉末を芯材として、その表面の一部又は全部を、ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したことを特徴とする経口用組成物。
  • 特許5997856号
    請求項1: 黒ショウガの乾燥粉末に対してナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤を噴霧することにより、前記黒ショウガの乾燥粉末を前記コート剤で被覆することを特徴とする経口用組成物の製造方法。
    請求項2: 黒ショウガ抽出物の乾燥粉末に対してナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤を噴霧することにより、前記黒ショウガ抽出物の乾燥粉末を前記コート剤で被覆することを特徴とする経口用組成物の製造方法。
参考:

Mar 25, 2017

2017.03.24 「マキサカルシトール事件(均等の第5要件)」 最高裁平成28年(受)1242

均等の第5要件(特段の事情)の判断基準(マキサカルシトール事件)最高裁平成28年(受)1242

【背景】

「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許権(特許第3310301号)の共有者である中外製薬(被上告人)が、上告人らの販売に係る各マキサカルシトール製剤の製造方法は、本件発明と均等であり、その技術的範囲に属すると主張して、上告人ら製品の輸入、譲渡等の差止め及び廃棄を求めた事案。

原審である知財高裁大合議判決( 2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10014)では、均等の成否の判断における第5要件(特段の事情)について、本件では「特段の事情」が存するとはいえず、上告人らの製造方法は本件特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するとし、被上告人の請求を認容すべきものとした。それに対し、上告人らの主張は、原審の上記判断は「特段の事情」が認められる範囲を狭く解しすぎている旨をいうものである。

【要旨】

最高裁は、原審である知財高裁大合議判決( 2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10014)と同様に、均等の成否の判断における第5要件(特段の事情)の判断基準について以下のように判示した。
(1) 出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても,それだけでは,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえないというべきである。

(2) もっとも,上記(1)の場合であっても,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。
最高裁は、本件について、事実関係等に照らすと、被上告人が、本件特許の特許出願時に、本件特許請求の範囲に記載された構成中の上告人らの製造方法と異なる部分につき、客観的、外形的にみて、上告人らの製造方法に係る構成が本件特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて本件特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたという事情があるとはうかがわれないから、原審の判断は、これと同旨をいうものとして是認することができると判断した。上告棄却。

【コメント】

本事件は化学(医薬)分野の発明であり、その特許請求の範囲の構成は化学構造として認識でき、当該発明の技術的範囲に包含されるかどうかは文言上明確に判断できるものであったため、そのような発明であっても均等論が柔軟に適用されるのかどうかが注目された事件だったが、均等の成否の判断における第5要件(特段の事情)について一歩踏み込んだ判断基準を知財高裁大合議判決が示したことにより、化学分野だけに限らず、一般的にも、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの「特段の事情」とはどのような事情まで含まれるのかについての解釈が注目されることとなった。知財高裁大合議での解釈は最高裁でも是認されたことになる。

参考:



Mar 24, 2017

オゼックス(トスフロキサシントシル酸塩)製剤特許侵害訴訟でMeiji Seikaファルマ・高田製薬と富山化学工業が和解

2017年3月23日付けのMeiji Seikaファルマおよび高田製薬のプレスリリースによると、Meiji Seika ファルマの「トスフロキサシントシル酸塩小児用細粒15%『明治』」および高田製薬の「トスフロキサシントシル酸塩細粒小児用15%「タカタ」」の製造販売行為が富山化学工業の製剤特許(特許第5799061号)を侵害するとして、富山化学工業は特許権侵害差止請求訴訟を2016年3月7日付で東京地裁に提起していましたが(過去記事)、2017年3月22日付で裁判上の和解が成立したとのことです。先発製品は富山化学工業が製造販売するオゼックス®細粒小児用15%。

参考:

Mar 21, 2017

2017.02.14 「ナンジン キャベンディッシュ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10112

レブラミド(Revlimid)®の有効成分レナリドミド(lenalidomide)の結晶多形: 知財高裁平成28年(行ケ)10112

【背景】

「3-(置換ジヒドロイソインドール-2-イル)-2,6-ピペリジンジオン多結晶体及び薬用組成物」に関する特許出願(特願2012-535589; 特表2013-509357)の拒絶審決(不服2014-15527)取消訴訟。

請求項1:

Cu-Kα放射を使用したX線回折図が下記の回折ピークを有する,3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン半水和物の多結晶体I。


【要旨】

結晶形の発明の新規性・進歩性が争点。裁判所は、新規性欠如を理由とした拒絶審決を否定したが、進歩性欠如については審決に誤りはないと判断した。また、引用発明認定の誤りと意見書提出機会の付与に関して一部手続違背はあるもののこれらは審決の結論に影響を及ぼすものでないと判断した。請求棄却。

1. 新規性について
「本願補正発明に係る結晶と引用発明に係る結晶の各粉末X線回折パターンとの間には,おおむね同じ位置(2θ値)に存在する回折ピークであっても,その高さ(相対強度)が異なるものがあるということができる。そして,前記のとおり,粉末X線回折パターンの比較による結晶の同定に当たり,回折ピークの強度は,回折ピークの数や位置と同様に重要なパラメータであるから,本願補正発明に係る結晶と引用発明に係る結晶は同一の結晶ということはできず,よって,本願補正発明は,引用発明と同一のものとして特許法29条1項3号に該当するということはできない。」

2. 進歩性について

(1) 本願補正発明と引用発明との相違点に係る容易想到性について

本願補正発明と引用発明との一致点:
3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン(以下、化合物Pという。)の半水和物の結晶である点
本願補正発明と引用発明との相違点:
本願補正発明に係る結晶は,Cu-Kα放射を使用したX線回折図が,表1記載の19個の2θの数値及びその2θの数値ごとに特定の数値のFlex幅,d-値,強度及びL/LOである,回折ピークの組を有する,化合物Pの半水和物の多結晶体I(すなわち,結晶多形のうちIと称する結晶)であると特定されているのに対し,引用発明に係る結晶は,図6で代表される,約16,18,22,及び27度の2θに回折ピークを有するCu-Kα放射を使用したX線回折図を与える,化合物Pの半水和物の形体Bの結晶である点
動機付けについて、裁判所は、
「(ア) 周知例2の化学便覧には,「おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である。これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性…などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である。」との記載があることから,①結晶多形は,晶癖や粒径等と共に主な結晶特性の1つであり,結晶特性が異なれば,溶解度や安定性等が異なってくること,②特に医薬品の場合は,結晶特性によってバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なるので,結晶特性の制御が重要な意義を有することは,本件優先日当時において技術常識であったものと認められる。
そして,引用例には,「発明の分野」として「本発明は,化合物Pの多形相…並びに制限されないが炎症性疾患,自己免疫疾患,及び癌を含む疾患及び状態を治療するためのこれらの使用方法に関するものである。」との記載があることから,化合物Pの結晶を医薬品として用いることは明らかであり,引用例に接した当業者は,上記技術常識を踏まえて,結晶多形を含む主な結晶特性に注目するものということができる。
(イ) さらに,引用例には,…(略)…との記載がある。本件優先日当時の当業者は,これらの記載に接して,前記(ア)の主な結晶特性のうちとりわけ結晶多形に着目し,①化合物Pには,溶解性,安定性,バイオアベイラビリティなど医薬品において特に重視される性質が引用発明に係る結晶よりも優れた異なる構造を有する結晶が存在し得ること,②そのような結晶を,溶媒再結晶化等の公知の方法によって製造するとともに,X線粉末回折法等の周知技術によって検出し得ることを認識するものといえる。したがって,引用発明に接した当業者は,上記の医薬品において特に重視される性質がより優れた異なる構造の結晶を求めて,さらに溶媒再結晶化等の公知の方法による化合物Pの結晶の製造及びX線粉末回折法等の周知技術による検出を試行する動機付けがあるものというべきである。」
と判断した。

原告らは、
「対象化合物の結晶形及び形成可能な条件は予測不可能なものであり,結晶多形の分野において,動機付けがあることと実際に結晶を得ることができることとを単純に結び付けることはできない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「引用発明に接した当業者には,溶解性や安定性など医薬品において特に重視される性質がより優れた異なる構造の結晶を求めて,さらに溶媒再結晶化等の公知の方法による化合物Pの結晶の製造及びX線粉末回折法等の周知技術による検出を試行する動機付けがあったということができる。確かに,当業者は,引用発明から直ちに本願補正発明に係る結晶の構造及びその製造方法を具体的に想定し得たとまではいえないものの,上記動機付けに基づき,公知の方法による化合物Pの結晶の製造及び周知技術による検出を試行する過程において,前記ウ(イ)のとおり本件優先日当時において技術常識ないし周知技術であった貧溶媒晶析の操作及び粉末X線回折法によって本願補正発明に係る結晶を製造・検出し得たといえるのであるから,本願補正発明を容易に想到し得たものというべきである。」
と判断した。

(2) 顕著な効果の看過について

原告らは、
「本願補正発明に係る結晶の製造方法は,引用例及び周知例2から5に接した当業者であれば回避するジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドを溶媒として用いて結晶化を行い,その結果得られる上記結晶は,安定性が高く,また,残留溶媒がほとんどないという顕著な効果を奏するにもかかわらず,本件審決は,これを看過した」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「引用例及び周知例2から5に接した当業者が必ずしもジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドを溶媒として使用することを回避するとはいい難い。…(略)…当業者は,引用例の上記の記載により,引用発明に係る結晶は一定の安定性を備えたものであることを認識し,さらに,前記(4)イ(イ)のとおり,化合物Pには,安定性等において引用発明よりも優れた異なる構造の結晶が存在し得ることを認識するものといえる。また,前記(4)ウ(イ)のとおり本願補正発明に係る結晶の製造方法は,本件優先日当時の技術常識であったのであるから,上記結晶の製造に当たり残留溶媒がほぼ生じなかったとしても,それは,当業者において予期し得ないものとまではいうことができない。したがって,原告らが主張する効果は,引用発明に接した当業者において予期し得ない,顕著なものとまでは認めるに足りないというべきである。」
と判断した。

【コメント】

特許庁は、本願発明は粉末X線結晶回折パターンを値によって限定したに過ぎないことからもともとの回折パターン図と引用発明の粉末X線結晶回折パターンが「ほぼ同じ」であることから、測定誤差等の技術常識を踏まえて、同一であるものと推認した。

この審決判断に対して、裁判所は、粉末X線回折パターンの比較による結晶の同定に当たっては回折角及び回折X線の相対強度は重要なパラメータであることを踏まえ、本願発明の剛体強度は異なるから同一ではないと判断した。

互いに現物を持ち寄って直接同時比較しない限り、回折パターンが全く同一なのか、したがって互いに同一の結晶形であるのかどうかの判断には困難を伴う場合があるところ、裁判所は進歩性の問題として結論を導いた。結晶形発明において、①クレームに記載された数値に対して限定的に発明を認定して引用発明との同一性を判断する方向性、および、②新たな結晶形発明を発見しても、既に同一有効成分について他の結晶形が知られている場合にはその進歩性のハードルが高いという方向性、は、これまでのいくつかの判決の流れと変わりはないと思われる(結晶形に関する過去全記事はこちら)。

本件発明の結晶は、レブラミド(Revlimid)®カプセルの有効成分であるレナリドミド水和物(Lenalidomide Hydrate)に関連するものである。レブラミド(Revlimid)®カプセルは、セルジーン(Celgene)社が創製した多発性骨髄腫及び5番染色体長腕部欠失を伴う骨髄異形成症候群を効能・効果とする抗造血器悪性腫瘍剤。本件の引用例はセルジーン(Celgene)社の出願(特表2007-504248)であった。セルジーン社の2016年Financial Information(CELGENE REPORTS FOURTH QUARTER AND FULL-YEAR 2016 OPERATING AND FINANCIAL RESULTS)によれば、2016年のREVLIMID®の売上は69億7400万ドル。

Mar 14, 2017

オゼックス(トスフロキサシントシル酸塩)製剤特許侵害訴訟で東和薬品と富山化学工業が和解

2017年3月13日付の東和薬品のプレスリリースによれば、東和薬品のニューキノロン系経口抗菌製剤トスフロキサシントシル酸塩細粒小児用 15%「トーワ」の製造販売行為が富山化学工業の製剤特許(特許第5799061号)を侵害するとして、富山化学工業は、特許権侵害差止請求訴訟を2016年3月7日付で東京地裁に提起していましたが(過去記事)、2017年3月9日付で裁判上の和解が成立したとのことです。東和薬品は今後も引き続きトスフロキサシントシル酸塩細粒小児用 15%「トーワ」を製造販売できる和解内容とのことです。


Mar 13, 2017

AbbVieアダリムマブ(ヒュミラ®) 用法用量特許 英国で無効判決

2017年3月3日付けの協和キリン富士フイルムバイオロジクス press releaseによると、協和キリン富士フイルムバイオロジクスは、ヒト型抗TNFαモノクローナル抗体製剤「アダリムマブ(Adalimumab)」バイオシミラー(開発番号:FKB327、先発薬:ヒュミラ(Humira)®)の製造販売承認申請に向けて準備しているところ、AbbVie社の「アダリムマブ」の用法用量の特許が公知の技術に照らして無効であるとして、2015年10月29日に当該特許の無効・確認訴訟を英国特許裁判所で提起していました。訴訟の過程で、AbbVie社は訴訟対象の同特許を取下げましたが、同裁判所は確認訴訟を継続する判決を2016年12月に下し、2017年3月3日付で、「アダリムマブ」の関節リウマチ、乾癬(かんせん)および関節症性乾癬の用法用量は公知または自明であるため特許性がないとの判決(Fujifilm Kyowa Kirin Biologics Company Ltd v Abbvie Biotechnology Ltd [2017] EWHC 395 (Pat) (03 March 2017))を下したとのことです。

アダリムマブ(Adalimumab)の英国での基本特許(EP 0,929,578)はSPC 含めて2018年10月15日に満了するため、その後も存続しているアダリムマブの用法用量特許がバイオシミラーの英国での販売の障壁となっていました。2016年度通年のヒュミラの全世界での売上高は営業ベースで160億7,800万ドル。

Mar 6, 2017

2017.02.02 「沢井・テバ・ホスピーラ v. イーライ リリー」 知財高裁平成27年(行ケ)10249; 平成28年(行ケ)10017; 平成28年(行ケ)10070

抗悪性腫瘍剤アリムタ®のビタミン療法特許知財高裁平成27年(行ケ)10249; 平成28年(行ケ)10017; 平成28年(行ケ)10070

【背景】

被告(イーライリリー)が保有する「新規な葉酸代謝拮抗薬の組み合わせ療法」に関する特許5102928について原告(沢井製薬、テバ、ホスピーラ)がした無効審判請求を不成立とした特許庁審決(無効2014-800039)に対して、原告が審決取消しを求めて本件訴訟を提起した。争点は、進歩性、サポート要件、実施可能要件。

請求項1:
葉酸とビタミンB12との組み合わせを含有するペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持するための剤であって,
ペメトレキセート二ナトリウム塩の有効量を,葉酸の約0.1mg~約30mgおよびビタミンB12の約500μg~約1500μgと組み合わせて投与し,該ビタミンB12をペメトレキセート二ナトリウム塩の第1の投与の約1~約3週間前に投与し,そして該ビタミンB12の投与をペメトレキセート二ナトリウム塩の投与の間に約6週間毎~約12週間毎に繰り返すことを特徴とする,該剤。
【要旨】

2017.02.02 「沢井・テバ・ホスピーラ v. イーライ リリー」 知財高裁平成28年(行ケ)10001; 平成28年(行ケ)10018; 平成28年(行ケ)10082

と内容は同じ。

Mar 1, 2017

2017.02.02 「沢井・テバ・ホスピーラ v. イーライ リリー」 知財高裁平成28年(行ケ)10001; 平成28年(行ケ)10018; 平成28年(行ケ)10082

抗悪性腫瘍剤アリムタ®のビタミン併用療法特許知財高裁平成28年(行ケ)10001; 平成28年(行ケ)10018; 平成28年(行ケ)10082

【背景】

被告(イーライリリー)が保有する「新規な葉酸代謝拮抗薬の組み合わせ療法」に関する特許5469706について原告(沢井製薬、テバ、ホスピーラ)がした無効審判請求を不成立とした特許庁審決(無効2014-800063)に対して、原告が審決取消しを求めて本件訴訟を提起した。争点は、進歩性、サポート要件、実施可能要件。

請求項1:
葉酸及びビタミンB12と用いられる,ペメトレキセート二ナトリウム塩を含有するヒトにおける腫瘍増殖を抑制するための医薬であって,下記レジメで投与される医薬:
a.有効量の該医薬を投与し;
b.葉酸の0.3mg~5mgを,該医薬の投与前に投与し;そして,
c.ビタミンB12の500μg~1500μgを,該医薬の第1の投与の1~3週間前に投与し,
該レジメは,該医薬の毒性の低下および抗腫瘍活性の維持を特徴とする,
上記医薬。

【要旨】

裁判所は、原告ら主張の取消事由(進歩性に係る判断の誤り、サポート要件に係る判断の誤り、実施可能要件に係る判断の誤り)にはいずれも理由がないとして請求棄却とした。取消事由1(進歩性に係る判断の誤り)について取り上げる。

裁判所は、当業者において、引用発明に基づいて、毒性の低下及び抗腫瘍活性の維持のためにビタミンB12を組み合わせて用いることまで容易に想到し得るとは認めるに足りないと判断した。以下理由抜粋。
「引用例には,葉酸の補充を受けても重篤な毒性を経験した患者がいたことも記載されているが,…(略)…葉酸以外のものを組み合わせれば,より一層MTA毒性の低下ないし抗腫瘍活性の維持が促進されるなど,さらに別のものを組み合わせる動機付けとなる記載も示唆もない。」

「ビタミンB12を投与するとホモシステインレベルが低下し,葉酸と併用投与すると,葉酸の単独投与に比してより一層ホモシステインレベルが低下することは,本件優先日当時の技術常識であった。しかし,ベースラインのホモシステインレベルは,MTAを含む葉酸代謝拮抗薬の投与に関連する毒性の程度に影響を与える同投与開始前における葉酸の機能的状態の指標として信頼性の高いものであることから,上記毒性のリスクを予測させるものにすぎない。証拠上,ホモシステインが上記毒性の発現に直接関与していることは認められない。よって,ホモシステインレベルを低下させること自体によって直ちに葉酸代謝拮抗薬の投与に関連する毒性が低下するということはできず,本件優先日当時においてそのような事実が公知であったことを認めるに足りない。」

「さらに,栄養障害を来すことが多いがん患者に対しては,通常,治療の一環として,葉酸,ビタミンB12等のビタミンやその他の栄養素を含む栄養補給が行われ,その効果の1つとして抗がん剤による副作用の軽減も挙げられているが,上記栄養補給の効果に関する本件優先日当時の公知文献の記載によれば,上記副作用の軽減は,葉酸,ビタミンB12のみならず,他の栄養素をも含む栄養補給によって患者の栄養状態を主とする全身状態が改善することによるものであると解され,葉酸とビタミンB12を組み合わせて投与したことによるものではない。よって,上記栄養補給は,葉酸,ビタミンB12に限らず必要な栄養素の補給により患者の栄養状態を主とする全身状態が改善することによる抗がん剤の副作用の軽減という効果を目的の1つとするものである。
したがって,上記のとおり葉酸補充の際にビタミンB12の併用が推奨されること及び上記栄養補給のいずれも,葉酸代謝拮抗薬の毒性の低下及び抗腫瘍活性の維持のために葉酸とビタミンB12を併用投与するという本件発明1の構成とは用途を異にし,上記構成に係る動機付けないし示唆となるものということはできない。」
原告は、
「相違点1に係る容易想到性を肯定する根拠として,…(略)…本件発明1は,従来から広く行われていたがん患者に対する栄養補給のうち,葉酸及びビタミンB12の補充を特に取り出して構成要件としたものにすぎない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「葉酸補充の際にビタミンB12の併用が推奨されるのは,本件優先日当時における技術常識であったから,がん患者に対してMTA等の葉酸代謝拮抗薬を投与するに当たり,その抗腫瘍活性を維持しながら投与に関連する毒性を低下させるために葉酸を補充する際,ビタミンB12を併用することが多かったものと推認することができる。しかし,上記併用が推奨されるのは,ビタミンB12の欠乏が看過されて同欠乏に特徴的な神経症状が引き起こされるおそれがあることによるものであり,葉酸代謝拮抗薬の抗腫瘍活性維持ないし毒性低下とは関係がない。
したがって,上記のがん患者に対する葉酸及びビタミンB12を含む栄養補給並びに葉酸補充の際におけるビタミンB12の併用は,いずれもMTA毒性の低下及び抗腫瘍活性の維持のために葉酸とビタミンB12を併用投与するという本件発明1の構成とは目的を異にし,同構成に係る動機付けないし示唆となるものではない。」
と判断した。

【コメント】

用途発明において、引用発明と本願発明とが「目的を異」にすれば直接的には動機付けは生まれない。

抗悪性腫瘍剤アリムタ®(ペメトレキセド注射剤。有効成分はペメトレキセドナトリウム水和物(Pemetrexed Sodium Hydrate))に関する2件のビタミン併用療法特許(特許第5102928号及び特許第5469706号)に関し、沢井製薬(株)らが請求した無効審判(無効2014-800039及び無効2014-800063)においてそれぞれ特許維持審決を下した特許庁審決の結論を知財高裁も支持した。本件特許は2021年6月まで有効に存続することになる。

抗悪性腫瘍剤アリムタ®は複数の葉酸代謝酵素を同時に阻害する葉酸拮抗剤。日本では、悪性胸膜中皮腫に対しては2007年1月に承認(再審査期間は~2015年1月3日)、切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌に関しては2009年5月に承認(再審査期間は同じく~2015年1月3日まで)。

抗悪性腫瘍剤アリムタ®における<用法・用量に関連する使用上の注意>には以下の記載があり、本件特許はこの用法用量に関するものと思われる。
1. 本剤による重篤な副作用の発現を軽減するため、以下のように葉酸及びビタミン B12を投与すること。

(1) 葉酸:本剤初回投与の 7 日以上前から葉酸として 1 日 1 回 0.5mg を連日経口投与する。なお、本剤の投与を中止又は終了する場合には、本剤最終投与日から 22 日目まで可能な限り葉酸を投与する。

(2) ビタミン B12:本剤初回投与の少なくとも 7 日前に、ビタミン B12として 1 回 1mg を筋肉内投与する。その後、本剤投与期間中及び投与中止後 22 日目まで 9 週ごと(3 コースごと)に 1 回投与する。
本事件に関する参考記事:
併用療法特許の進歩性に関しての過去参考判決記事:
米国でも2017年1月12日、CAFCはアリムタ(Alimta)®のビタミン併用療法特許の有効性を認め、同後発品のANDAを申請したテバの特許侵害を認める判決を下したところであった(Eli Lilly v. Teva No.15-2067 (Fed. Cir. 2017))。
アリムタの全世界の売上高(2016年通年)は約23億ドル(2017.02.23 イーライリリー press release: 米国イーライリリー社、2016年第4四半期および通年の業績を報告)。

ところで、日本において、このような組み合わせ特許が後発医薬品に対して実際に権利行使できるのかどうかについては。下記事件のとおり議論の余地がある。いわゆる「組み合わせ医薬」の発明は、医薬用途発明として「物」としての特許は認められている一方で、「方法」ではなく「物」でしか表現できない現在の特許法解釈・審査基準により、配合剤ではない「組み合わせ医薬」の発明に係る特許権の効力には問題が残されている。薬の組み合わせ方だけに限らず、IoT、AI、ビッグデータ等の「物」として表現できない組み合わせが期待される今後の医療技術の発展にとって、より良い医療方法・医薬投与方法を生み出していくことは重要であり、このような「方法」に特徴のある技術について、柔軟かつ安定した権利付与と活用が可能な法制度への改革の必要性議論が望まれる。

Feb 19, 2017

2017.01.26 「デビオファーム v. ナガセ医薬品・日本ケミファ」 東京地裁平成27年(ワ)29159

オキサリプラチンのシュウ酸包含溶液特許は無効: 東京地裁平成27年(ワ)29159

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)が、被告(ナガセ医薬品)に対し、被告製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被告製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。無効理由の有無が判断の決め手となった。

請求項1:
オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,緩衝剤の量が,以下の…(略)…の範囲のモル濃度である,組成物。
裁判所(民事46部)は、被告が提出した追試結果に基づいて乙3公報に本件発明等のオキサリプラチン溶液組成物の記載があると認めることはできないとして新規性欠如の被告主張は認めなかったものの、オキサリプラチンの濃度を5mg/mlとする水溶液を調整してこのシュウ酸の濃度を測定することは当業者にとって容易であり、構成要件に規定されている範囲内にすることが格別困難でもなく、何らかの臨界的意義があるとは認められないとして進歩性を欠くと判断した。


また、乙3公報においてシュウ酸が不要な不純物とされている点は、シュウ酸を添加することを要する発明に至る上では阻害要因となるとしても、シュウ酸の添加を不要とみる以上は本件において阻害要因となるものでないと判断した。

請求棄却。

参考:

Feb 14, 2017

2017.01.23 「X1・X2・X3 v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10022

引用発明の認定: 知財高裁平成28年(行ケ)10022

「タンパク質からなる疣と新生物を溶解して除去できる薬物及びその用途」に関する特許出願(特願2012-525865; WO2011/023013)の拒絶審決取消訴訟。

本願発明は引用例に記載された発明であると認定して新規性及び進歩性を否定した審決に対して、原告は、「審決は、引用例記載の構成から、目的達成のために必須の構成を除外し、技術的意義を失ったものを取り出して引用発明とし、このように誤って認定された引用発明の構成と本願発明を対比したものであり、考慮すべきでない事項を考慮し、考慮すべき事項を考慮していないことから、違法であり、取り消されるべきである。」と主張した。しかし、裁判所は、本件審決の引用発明の認定に誤りはないと判断した。請求棄却。

Feb 8, 2017

2017.01.18 「X v. ロート製薬」 知財高裁平成28年(行ケ)10005

「平均分子量」とは?(明確性要件): 知財高裁平成28年(行ケ)10005

【背景】

ロート製薬(被告)が保有する「眼科用清涼組成物」に関する特許権(第5403850号)の無効審判(無効2015-800023)請求不成立の審決取消訴訟。

請求項1:
a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,
b)0.01~10w/v%の塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種,および
c)平均分子量が0.5万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001~10w/v%含有することを特徴とするソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物。
【要旨】

裁判所は、明確性要件(特許法36条6項2号)違反及び進歩性(特許法29条2項)欠如についての無効理由があるとして、無効審判請求不成立とした審決を取り消した。

1.「平均分子量」についての記載不備に関する判断の誤りについて

原告は、本件特許請求の範囲及び本件明細書における「平均分子量」という記載が不明確であり、明確性要件を欠くと主張した。

裁判所は、
「特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。」
と特許法36条6項2号の趣旨を説示したうえで、本件については、
「「平均分子量」という概念は,一義的なものではなく,測定方法の違い等によって,「重量平均分子量」,「数平均分子量」,「粘度平均分子量」等にそれぞれ区分される(甲17)。そのため,同一の高分子化合物であっても,「重量平均分子量」,「数平均分子量」,「粘度平均分子量」等の各数値は,必ずしも一致せず,それぞれ異なるものとなり得る(甲27)。…(中略)…本件特許請求の範囲にいう「平均分子量が0.5万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,「重量平均分子量」,「粘度平均分子量」等のいずれを示すものであるかについては,本件明細書において,これを明らかにする記載は存在しない。もっとも,このような場合であっても,本件明細書におけるコンドロイチン硫酸あるいはその塩及びその他の高分子化合物に関する記載を合理的に解釈し,当業者の技術常識も参酌して,その平均分子量が何であるかを合理的に推認することができるときには,そのように解釈すべきである。しかし,本件においては,次に述べるとおり,「コンドロイチン或いはその塩」の平均分子量が重量平均分子量であるのか,粘度平均分子量であるのかを合理的に推認することはできない…(中略)…以上,上記記載は,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であり,特許法36条6項2号に違反すると認めるのが相当である。」
と判断し、原告主張の取消事由には理由があるとした。

2.甲1(特開2003-183157)発明に基づく進歩性欠如に関する判断の誤りについて

裁判所は、
「甲1公報には,「該点眼剤としては,医療用点眼剤でもよく,一般用点眼剤でもよく,またソフトコンタクトレンズ,ハードコンタクトレンズ等を装用した状態でも点眼可能である。」と記載されており,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズの装用者にも適用し得ることが示唆されているのであるから,当業者は,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いることを容易に想到することができたものと認められる。
特許出願に係る発明の構成が,公知技術である引用発明に他の公知技術,周知技術等を適用することによって容易に想到することができる場合であっても,上記発明の有する効果が,当該引用発明等の有する効果と比較して,当業者が技術常識に基づいて従来の技術水準を参酌した上で予測することができる範囲を超えた顕著なものであるときは,上記発明はその限度で従来の公知技術等から想到できない有利な効果を開示したといえるから,当業者は上記発明を容易に想到することができないものとして,上記発明については,特許を受けることができると解するのが相当である。
これを本件についてみると,前記(1)の認定事実によれば,本件発明は,ソフトコンタクトレンズ装用者に十分な清涼感を付与し,かつ,刺激がなく安全性が高い眼科用清涼組成物を提供するものであり,本件明細書(【0055】【表6】)に記載されている実施例19ないし21において,ソフトコンタクトレンズ装用中の点眼直後の清涼感は◎と評価され,かつ,ソフトコンタクトレンズ装用中の点眼直後の刺激も○又は◎と評価されている。
しかしながら,…(中略)…上記評価から,直ちに本件発明1の奏する効果が甲1発明と比較して予測できないほど顕著であると推認することはできず,その他に,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に適用した場合と比較して,本件発明1が奏する効果が当業者の予測を超える顕著なものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。のみならず,前記(2)の認定事実によれば,甲1発明の点眼剤は,目に対する刺激性が低く,良好な清涼感を付与することができ,かつ,清涼感の持続性の高いものであり,前記アのとおり,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズの装用者にも適用し得ると示唆されているのであるから,これらの記載に接した当業者は,甲1発明の点眼剤につき,ソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いた場合に,裸眼時やハードコンタクトレンズ装用時と同程度に,眼に対する刺激性が低く,良好な清涼感を付与することができ,清涼感の持続性が高いものであることを十分に予測することができる。しかも,甲1発明の点眼剤の効果と本件発明の効果は,そもそも清涼感を付与し刺激性が低いという同種のものにすぎず,本件明細書には,ハードコンタクトレンズ装用時における清涼感との比較評価等が一切記載されていないのであるから,本件優先日当時の技術常識を考慮しても,具体的にどの程度の清涼感の差異があるのかは不明である。
したがって,本件発明1の有する効果が予測することができる範囲を超えた顕著なものであると認めることはできない。」
と判断し、原告主張の取消事由には理由があるとした。

【コメント】

1.平均分子量

下記事件でも、判決文において用語が明確性要件を充足するか疑問視された。慣用的に使用されている用語であっても、クレームに記載する際には、単位や添加剤そのものの名称も含めて、何通りかの解釈がありえるのかどうか、正確な表現なのかどうか、注意を払う必要がある。
過去取り上げた事件で、「平均分子量」がクレームに記載された事例:

2.進歩性の判断、特に顕著な効果に関する判断について

本判決も取消された原審決も、当業者は引用発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いることを容易に想到することができると判断した点は共通した結論だったが、顕著な効果があるか否かという点では異なる判断となった。

審決では、ソフトコンタクトレンズ装用時にはハードコンタクト装用時とは異なる特有の問題が起こるとの記載を踏まえ、引用例には引用発明につきソフトコンタクトレンズ装用中においても同じような効果についての記載も示唆もないことから、引用発明をソフトコンタクトレンズ装用時に使用すれば同様の効果を奏すると当業者が予測し得たとはいえないと判断していた。

一方、裁判所は、引用発明はハードコンタクトレンズ装用時には本願発明と同じような効果があり、引用例にはソフトコンタクトレンズ装用時にも使用できるとの示唆があるのだから、同じような効果を奏すると予測され、そのうえで引用発明と比較して予測できないほどの顕著な効果があるとの証拠はないとして進歩性を否定したわけである。

引用発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いることを当業者は容易に想到することができると判断されるのだから、顕著な効果の判断は容易想到とされたことを踏まえたうえでの予期できる効果と比較してどうなのかということになる。

特許権者(被告)は、ソフトコンタクトレンズ装用時にはハードコンタクト装用時とは異なる特有の問題が起こるとして効果の顕著性を主張したのだが、そのような特有の問題が具体的に引用例や明細書に記載されているわけではなく、またその問題について具体的に比較検討された主張がされているわけでもなかった。特有の問題があるとして進歩性を主張するのであれば、阻害要因の存在を明確に示して容易想到性を否定するか、具体的な比較試験データを明細書に示して効果の顕著性を示す必要があったと思われる。


Feb 3, 2017

アリムタ®のビタミン療法特許 知財高裁が維持判決

イーライリリー・アンド・カンパニーの2017年2月2日付プレスリリースによると、抗悪性腫瘍剤アリムタ(Alimta)®(ペメトレキセド注射剤)の2件のビタミン療法特許に関し、沢井製薬が2015年11月の特許庁の特許維持審決を不服として提訴していた審決取消訴訟において、知財高裁は、特許庁の特許維持審決を支持し、本件特許が有効に維持される内容の判決を下したとのことです。
本件特許は2021年6月まで有効に存続するとのことです。

過去記事:
参考:

Feb 1, 2017

沢井と興和がLIVALO®ANDA訴訟で和解 沢井発売は2023年

2017年2月1日付の沢井製薬のpress releaseによれば、沢井と興和との間で争っていたLIVALO®(ピタバスタチン錠)米国ANDA特許侵害訴訟は和解に至ったとのことです。この和解契約に基づき、沢井のピタバスタチン錠は、2023年5月2日または特定の状況下においてはそれ以前の日を開始日として、発売が可能となるとのことです。

参考:

Jan 24, 2017

小野・BMS v. Merck 抗PD-1抗体特許係争で和解

2017年1月21日付の小野薬品のプレスリリースによると、小野薬品およびブリストル・マイヤーズ スクイブ社(BMS社)は、小野薬品と本庶佑氏との共有に係る抗PD-1抗体の用途特許および小野薬品とBMS社との共有に係る抗PD-1抗体の物質特許を保有しており、メルク社による抗PD-1抗体製品である「キイトルーダ®」(一般名:ペムブロリズマブ)の販売等の特許侵害に対し、日本、米国、欧州等において特許侵害訴訟を提起するなど係争していましたが、このたび小野薬品およびBMS社はメルク社と和解し、ライセンス契約を締結したとのことです。

本契約により、小野薬品およびBMS社が保有する用途特許および物質特許が有効であることを確認した上で、メルク社の「キイトルーダ®」の販売を許諾すること、また、メルク社は
小野薬品およびBMS社に対して6億2500万ドルの頭金を支払い、2017年1月1日から2023年12月31日まではキイトルーダの全世界売上の6.5%、2024年1月1日から2026年12月31日までは2.5%をロイヤルティとして支払うことで合意に至ったとのことです。

なお、頭金およびロイヤルティは当社に25%、BMS社に75%の割合で分配されるとのことです。

今回の和解により、メルク社の「キイトルーダ®」販売に関する各国の訴訟は終結することになります。

参考:

Jan 22, 2017

2017.01.20 「デビオファーム v. 東和薬品」 知財高裁平成28年(ネ)10046

延長された特許権の効力(知財高裁大合議判決): 知財高裁平成28年(ネ)10046
(原審: 2016.03.30 「デビオファーム v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)12414

【背景】

「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許第3547755号の特許権者であるデビオファーム(一審原告)が、東和薬品(一審被告)各製品は本件発明の技術的範囲に属し、かつ、存続期間の延長登録を受けた本件特許権の効力は一審被告各製品の生産等に及ぶ旨主張して、一審被告に対し一審被告各製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。原判決は延長された特許権の効力が一審被告各製品に及ばないとして一審原告の請求を棄却したため、一審原告がこれを不服として控訴した。知財高裁は本件を大合議事件に指定し審理された。

請求項1(本件発明):
濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり,医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。
【要旨】

争点は、存続期間が延長された本件特許権の効力が一審被告による一審被告各製品の生産等に及ぶか否か。

知財高裁大合議判決は、延長された特許権の効力は、政令処分の対象となった物と同一の物のみならず、これと実質同一なものにも及ぶこと、及び、実質同一の範囲とはどの範囲であると解すべきかについて説示した上で、特許請求の範囲と明細書から認定される本件発明の技術的特徴から、一審被告各製品は、本件の各政令処分の対象となった物と実質同一なものとはいえないと判断した。また、特許請求の範囲と明細書及び出願の経過で提出された意見書から、本件発明の技術的範囲を認定し、一審被告各製品は本件発明の技術的範囲に属しないとも判断した。控訴棄却。

本判決で示された考え方の要点は以下の通り。

1. 存続期間が延長された特許権の効力範囲について
延長された特許権の効力は、政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず、これと医薬品として実質同一なものにも及び、政令処分で定められた上記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても、当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ、存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属する。
2. 「実質同一なもの」の範囲の考え方について
医薬品の成分を対象とする物の特許発明において、政令処分で定められた「成分」に関する差異、「分量」の数量的差異又は「用法、用量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり、他の差異が存在しない場合に限定してみれば、僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどうかは、特許発明の内容に基づき、その内容との関連で、政令処分において定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して、当業者の技術常識を踏まえて判断すべきである。

実質同一の範囲を定める場合には、均等論を適用ないし類推適用することはできない。ただし、延長登録出願の手続において、延長された特許権の効力範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がある場合には、特許法68条の2の実質同一が認められることはない。
3. 「実質同一なもの」に含まれる類型について
以下の場合は、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれる。①、③及び④は、両者の間で、特許発明の技術的特徴及び作用効果の同一性が事実上推認される類型である。

① 医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長された特許発明において、有効成分ではない「成分」に関して、対象製品が、政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合

② 公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において、対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合で、特許発明の内容に照らして、両者の間で、その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき

③ 政令処分で特定された「分量」ないし「用法、用量」に関し、数量的に意味のない程度の差異しかない場合

④ 政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法、用量」も併せてみれば、同一であると認められる場合
4. 先発医薬品への依拠性との関係について
後発医薬品は、先発医薬品と治療学的に同等であるものとして製造販売が承認されるものであり、先発医薬品と代替可能な医薬品として市場に提供されることが前提であるから、そもそも医薬品としての品質において先発医薬品に依拠するものであることは当然である。しかし、これは飽くまで有効成分や治療効果(有効性、安定性を含む。)が原則として同一であるということを意味するにすぎず、特許発明の観点からその成果に依拠するかどうかを問題にしているわけではない。医薬品としての有効成分や治療効果(有効性,安定性)のみから延長された特許権の効力範囲を論じるべきではなく、少なくとも、法68条の2が、およそ後発医薬品であるが故に、すなわち、先発医薬品と同等の品質を備え、これに依拠するが故に直ちに特許権の効力を及ぼそうとする趣旨のものでないことは明らかである。裁判所は、特許発明の実施ができなかったことにより得られた成果に依拠して承認を得ていることから実質同一物に該当すると解釈すべきとの原告主張を否定した。
【コメント】

知財高裁大合議は、延長された特許権の効力が及ぶ実質同一の範囲を、「特許発明の内容との関連で、技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して判断する」との一般原則を示した。この考え方は、原審(民事第29部)(2016.03.30 「デビオファーム v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)12414)でも言及されていた「延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして…実質同一物についての実施行為にまで及ぶと解するのが合理的である」との考え方に沿ったものと思われる(若干の言葉の違いはあるにせよ)。一方、実質同一の範囲に均等論を適用した地裁判決(民事第40部)(2016.12.02 「デビオファーム v. ホスピーラ」 東京地裁平成27年(ワ)12415)の考え方は本大合議判決により否定された。また、別の地裁判決(民事第47部)(2016.12.22 「デビオファーム v. 武田テバファーマ」 東京地裁平成27年(ワ)12412)では、「その相違が周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないと認められるなど」との一般的な考え方を示していたが、特許発明の内容と関連させて検討する観点が欠落したものであった。

今回大合議判決で説示・類型①として示されたところによれば、有効成分のみを特徴とする特許発明について延長された特許権については、当該政令処分の対象となった先発医薬品と、同有効成分を有する後発品との間でその特許発明(有効成分)の技術的特徴及び作用効果の同一性が事実上推認されることから、当該後発医薬品は実質同一なものとしてその効力が原則及ぶとの考え方が示されたといえよう。このことはすなわち、延長された有効成分特許権の効力が当該政令処分の「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」と同一物にしか及ばないと解釈されてしまうという最悪の事態は避けられたことを意味する。

一方、類型②として示されたように、いわゆる製剤発明に関する延長された特許権については、製剤発明の技術的特徴及び作用効果に照らして、当該政令処分の対象となった先発医薬品と後発医薬品との間で同一性があるのかどうかが重要なポイントとなり、事案によってその判断が異なってくると思われる。本事件においては、問題となった製剤発明の技術的特徴が極めて限定された範囲である(他の添加剤等の成分を含まない水溶液)と解釈されたため、実質同一性が否定された。しかし、だからといって、延長された製剤発明の特許権は一般的にはもはや意味のないものとなったと悲観することはないと考えられる。製剤発明の技術的特徴及び作用効果を後発医薬品が明らかに持ち合わせているような場合であれば、一部において異なる成分を付加、転換しているような場合であっても実質同一なものとして認定される余地は残されているからである。今後、延長された特許権の効力が及ぶか否かの争いは、製剤発明に関するもので多発すると思われるが、技術的特徴及び作用効果は事案毎に異なるだろうから、個別具体的に判断されていくことになると予想される。

特許発明の内容との関連で技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して実質同一性を判断するということは、すなわち、延長された複数の特許権が存在する場合、それぞれの効力は、それぞれの特許発明の技術的特徴等に応じて互いに重畳的に後発医薬品に及ぼし得ることを意味すると考えられる。今後、製剤発明に関する延長された特許権の効力はその発明の技術的特徴によって個別具体的な判断で争われるにしても、有効成分発明に関する延長された特許権の効力がこれまでどおり後発医薬品に及ぶと解されることから、今回の大合議判決は、先発医薬品メーカーにとっても妥当な内容としてとらえることができるのではないだろうか。

本審理において、一審原告から追加的主張(当該政令処分対象物の成果に依拠して承認を得ていることから実質同一物に該当するとの主張)が出され、大合議はその主張についても判断している。当ブログ記事「2016.12.02 「デビオファーム v. ホスピーラ」 東京地裁平成27年(ワ)12415」のコメントにおいて、後発医薬品の依拠性に関連して「実質的同一物」の範囲について一提案を示したが、残念ながら大合議はそのような観点での解釈を制度趣旨や解釈論を無視するものとして否定している。

参考: