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2026.05.20 「第一三共ヘルスケア v. A」 東京地裁令和7年(ワ)70554 ― メルカリ上の「Regain」模倣品事件にみる医薬・ヘルスケアブランド保護

Summary

本件は、原告(第一三共ヘルスケア株式会社)が保有する登録商標「Regain」について、被告がメルカリ上で、商品包装に類似標章を付した指定医薬部外品(原告商品の模倣品)を販売した行為が商標権侵害に当たるとして、損害賠償376万4087円を求めた事案である。

東京地方裁判所(民事第46部)は、2026年5月20日、被告標章と本件商標との類似性及び指定商品の同一性を認め、メルカリアカウントの登録者である被告を販売主体と推認し、アカウント乗っ取りの主張を証拠不足として排斥した。その上で、被告の行為は商標法37条1号の侵害行為に当たり、民法709条に基づく不法行為責任が成立するとして、損害賠償請求の一部(33万3825円)を認容した。

医薬品・ヘルスケア分野においては、成分や効能だけでなく、ブランド名そのものが重要な信用の源泉となる。本件は、フリマサイト上の模倣品販売について、アカウント登録者を販売主体と推認した上で、キャッチコピー部分を捨象した分離観察により商標類似性を認め、さらに損害論において調査費用等の回収可能性を限定的に解した事例であり、電子商取引時代におけるブランド保護実務上参考となる。

夜。

部屋の明かりは、スマホの画面だけだった。

ピポは、指先で画面を滑らせる。

見慣れた箱。

金色のロゴ。

六角形のマーク。

どこから見ても、あの製品だった。

隣からのぞき込んでいたミャオの動きが止まる。

「……本物?」

ピポは首をかしげる。

ミャオは答えない。

見た目は同じ。

だからこそ、怖い。

もし違っていたら。

もし誰かが、本物だと思って口にしたら。

静寂。

そのとき。

画面の中から、一つの商品が消えた。

ピポとミャオは顔を見合わせる。

……

その頃――

ある会社では、一つの箱が机の上に置かれていた。

画面を見つめる。

記録を取る。

そして、一つのアカウントにたどり着く。

しかし。

返ってきた言葉は、予想もしないものだった。

「私ではありません。」

「アカウントを乗っ取られていました。」

長い沈黙。

誰も何も言わない。

やがて。

誰かが、小さくつぶやいた。

「……それでも。」

再び、沈黙。

17年前――

ヤフーオークションでも、よく似た事件があった。

そして2026年。

舞台はメルカリへと変わった。

だが。

模倣品は、姿を変えて現れる。

誰かが信じ。

誰かが手に取り。

そして。

誰かが口にする。

だから。

戦わなければならない。

……

静まり返った法廷。

傍聴席の誰かが息をのむ。

裁判長が、ゆっくりと顔を上げた。

「主文……」

(※物語の内容はフィクションです)

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1.背景

本件(東京地裁令和7年(ワ)70554)は、原告(第一三共ヘルスケア株式会社)が保有する登録商標「Regain」(登録第6065350号、指定商品:第5類「薬剤、サプリメント」)について、被告がメルカリ上で、商品包装に類似標章を付した指定医薬部外品(原告商品の模倣品)を販売した行為が商標権侵害に当たるとして、損害賠償376万4087円を求めた事案である。

原告は、指定医薬部外品である「リゲイントリプルフォース」及び「リゲイントリプルフォースEX」(原告商品)を販売している。

令和6年9月から同年11月まで、メルカリにおいて、被告が登録したアカウント(以下「被告アカウント」)を利用し、指定医薬部外品として被告標章を付した被告商品が、合計62個、売上総額20万4500円で販売・販売のための展示に供されていた。被告商品の効能・効果は原告商品と同一であった。

被告標章は、本件商標と同一の「Regain」の文字及び七角形の図形構成に加え、図形内部に「カラダをつくる、明日をつくる」という2行の文字を付加したものであった。

原告は、被告アカウントにおける販売主体は被告であり、被告の行為は本件商標権を侵害するものとして、商標法38条2項に基づく損害(17万3825円)、無形損害(100万円)、調査費用等(アカウント調査費用140万円、被告商品購入費用1万9832円、発信者情報開示費用20万0430円、合計約162万円)、弁護士費用(97万円)の合計376万4087円の損害賠償を求めた。

これに対し、被告は、被告アカウントは第三者に乗っ取られており、自身は被告商品の販売に関与していないとして争った。

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2.裁判所の判断

(1)行為主体

東京地方裁判所民事第46部(以下「裁判所」)は、「アカウントを管理、利用しているのは通常は登録者であると考えられるから、これらは被告アカウントの登録者である被告によって行われたものと推認することができる。」として、被告アカウントの登録者である被告が販売主体であると推認した。被告は乗っ取りを主張したものの、その主張は曖昧であり、これを裏付ける証拠も提出されなかったため、上記推認を覆すには至らないと判断した。

(2)商標・指定商品の類否

裁判所は、結合商標の類否判断について、商標の構成部分の一部を抽出して比較することは原則として許されないが、当該部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合、又はそれ以外の部分から出所識別標識としての称呼・観念が生じない場合には、分離観察が許されるとする最高裁判例の枠組みを確認した。

これを本件についてみると、被告標章のうち「カラダをつくる、明日をつくる」の文字部分は「商品の効果についての一般的な説明にすぎず」、出所識別標識としての称呼・観念を生じないと認定し、この部分を除いた「Regain」の文字及び七角形図形の部分について本件商標と比較した結果、外観・称呼・観念のいずれも同一であるとして、両標章は類似すると判断した。

また、被告商品が指定医薬部外品として販売されていたことから、本件商標権の指定商品である「薬剤」と同一であるとした。

(3)損害額

裁判所は、

  • 商標法38条2項による損害:17万3825円
  • 無形損害:10万円(請求額100万円)
  • 調査費用等:3万円(請求額約162万円)
  • 弁護士費用:3万円(請求額97万円)

を認め、合計33万3825円及び令和7年11月20日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払が命じた(訴訟費用は原告9割・被告1割の負担)。

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3.コメント

(1)電子商取引時代における模倣品問題

本判決において認定された商標の類否判断や分離観察の手法自体は、最高裁判例の枠組みに沿ったものであり、法理上新規性の高いものではない。

しかし、本件の意義は、むしろ電子商取引時代におけるブランド保護実務の在り方を示した点にあると考えられる。

近年、ECサイトやフリーマーケットサービスを利用した模倣品販売が増加しているが、本判決は、メルカリアカウントの登録者を販売主体と推認し、乗っ取りの主張について具体的な裏付けを欠くとして排斥した。電子商取引における匿名性や追跡困難性が問題となる中、このような推認を認めることにより、権利行使の実効性を確保した点は実務上参考になる。

この点、医薬品・ヘルスケア分野においては、模倣品問題は単なるブランド毀損や営業上の損失にとどまらず、消費者の健康被害や公衆衛生上のリスクにも直結し得る。厚生労働省も、インターネット上で流通する健康食品や医薬品等について継続的な買上調査を実施し、医薬品成分を含有する違法製品や偽造品の存在について繰り返し注意喚起を行っている(2026.03.31 厚生労働省発表「令和6年度「インターネット販売製品の買上調査」の結果について~いわゆる健康食品から医薬品成分を検出~」)。本件は、このような社会的背景の下で、電子商取引時代における医薬・ヘルスケアブランド保護の一端を示した事例として位置付けることもできる。

もっとも、医薬・ヘルスケア分野における模倣品問題は、本件のような個別の民事訴訟や、フリマサイトでの少額・小口取引にとどまるものではない。近年の統計・行政動向を俯瞰すると、少なくとも三つの異なる層において、同時並行的に模倣品対策が強化されていることが分かる。

第一に、行政による市場調査の層である。

厚生労働省は、令和6年度について、国内のインターネットサイトを対象とする「無承認無許可医薬品等買上調査」(厚生労働省「令和6年度「無承認無許可医薬品等買上調査」の結果を公表します~いわゆる健康食品等から医薬品成分を検出~」)と、海外サイトから個人輸入される製品を対象とする「インターネット販売製品の買上調査」(厚生労働省「令和6年度「インターネット販売製品の買上調査」の結果について~いわゆる健康食品から医薬品成分を検出~」)を、いずれも2026年3月31日付で公表した。後者では、いわゆる健康食品18製品(強壮系10製品、痩身系8製品)のうち2製品からシルデナフィル・シブトラミンといった医薬品成分が検出されている。本件のリゲイン模倣品は登録商標・パッケージデザインの模倣という商標法上の問題であるのに対し、これらの調査が対象とする製品は無承認の医薬品成分混入という薬機法上の問題であり、法的な位置づけは異なる。しかし、いずれも「外見上は正規品・合法品であるのかどうか識別が困難な製品が、ECサイトを通じて消費者の手元に届く」という共通の構造を有しており、電子商取引時代における医薬品・健康食品分野特有のリスクを示す点で軌を一にする。

第二に、水際取締りの層である。

財務省が公表した令和6年(2024年)の税関における知的財産侵害物品の差止状況によれば、輸入差止件数は33,019件(前年比4.3%増)と、統計公表を開始した昭和62年以来過去最多を更新した(財務省「令和6年の税関における知的財産侵害物品の差止状況」 )。差止点数も129万7,113点(同22.8%増)に達している。医薬品は、使用・摂取により健康や安全を脅かす危険性のある品目として、電気製品や家庭用雑貨などと並んで継続的に差止めの対象となっており、令和4年の統計では医薬品の差止点数が148,439点と最も多く前年比約7倍に急増したことも報告されている(財務省「令和4年の税関における知的財産侵害物品の差止状況(詳細)」)。これは、本件のような国内フリマサイトでの流通とは異なる経路(越境ECを含む輸入)ではあるが、医薬品・健康関連製品の模倣品・偽造品が、国内外の複数の流通チャネルで同時多発的に問題化していることを裏付けるものである。

第三に、個別製品レベルでの注意喚起である。

第一三共ヘルスケアは、2024年9月、「リゲイントリプルフォース」の模倣品について注意喚起を行い、外見上は正規品との識別が困難であり、服用により健康被害が生じるおそれがあるとして、公式販売チャネルの利用を呼びかけていた(2024.09.03 第一三共ヘルスケア お知らせ: 指定医薬部外品「リゲイントリプルフォース」模倣品に関するご注意)。指定医薬部外品にとどまらず、医療用医薬品(美容医療分野)においても、同時期に類似の問題が発生している。アッヴィ合同会社 アラガン・エステティックスは、同社が製造販売するボツリヌストキシン製剤「ボトックスビスタ」について、2024年7月、偽造品の発見に関する注意喚起を行った(厚生労働省「A型ボツリヌス毒素製剤「ボトックスビスタ®注用50単位」偽造品に関する注意喚起」(20240703アッヴィ合同会社 アラガン・エステティックス発表資料))。ロット番号や使用期限の記載不整合、外箱・バイアルの表示言語の相違といった識別ポイントを示し、正規流通経路以外からの入手製品について注意を呼びかけている。医療用医薬品は本来、医療機関を通じた流通が前提となるため、一般消費者が直接フリマサイトで購入する構造とは異なるが、「ブランド・パッケージの外観模倣により正規品との識別が困難になる」という点、そして「製造販売業者自らが消費者・医療従事者向けに注意喚起を行わざるを得ない」という対応構造は、本件におけるリゲインブランドの位置づけと共通する。

このように整理すると、本件(メルカリ上でのリゲイン模倣品販売)は、こうした行政調査・水際取締り・個別注意喚起という重層的な対策の中で、数少ない「民事訴訟による個別権利行使」の実例として位置づけることができる。行政による買上調査や税関による差止めは、いずれも事後的・統計的な把握や流通の遮断にとどまり、個々の販売者に対する損害賠償請求という形での責任追及には至らない。これに対し、本件は、ブランドホルダーが自ら販売主体を特定し、民事訴訟を通じて損害賠償を求めた事例であり、電子商取引プラットフォーム上の少額・小口模倣品取引に対して、権利者が個別に法的責任を追及することの可能性と回収可能な損害額の限界(後述)の両方を同時に示すものといえる。

なお、「民事訴訟による個別権利行使」の過去事例として大阪地裁平成21年5月21日判決(いわゆるシアリス模造品事件)がある。ヤフーオークションサイト上で偽造医薬品を販売した行為に対して商標権侵害に基づく損害賠償が認められている(2009.09.01ブログ記事「2009.05.21 「リリー アイコス v. P1」 大阪地裁平成20年(ワ)6081」参照)。

2009.05.21 「リリー アイコス v. P1」 大阪地裁平成20年(ワ)6081
インターネットを利用した偽造「シアリス錠」の販売: 大阪地裁平成20年(ワ)6081被告によるインターネットを利用した模造シアリスの販売が、原告の保有する本件商標権(「CIALIS」(4457616, 4964112), 「シアリス」(4850513)等)を侵害するとして被告に対し損害賠償を請求した事案。 2009.06.26 日本イーライリリー press release: シアリス商標権侵害訴...

(2)回収可能な損害額の限界

被告標章に付加されていた「カラダをつくる、明日をつくる」の文字部分については、商品の効果に関する一般的な説明にすぎず、独立した出所識別機能を有しないとして、「Regain」の文字及び七角形図形部分を要部とする分離観察が行われた。これは従来の判例法理に沿うものではあるが、ブランドロゴ部分が取引者・需要者に与える支配的印象を重視し、実質的な類似性を認めたものと理解することができる。

もっとも、本件で特に注目されるのは損害論である。

商標法38条2項による逸失利益については、被告商品の売上額から経費を控除した17万3825円が認められた一方、無形損害(請求100万円→認容10万円)、調査費用等(請求約162万円→認容3万円)及び弁護士費用(請求97万円→認容3万円)は大幅に減額された。

特に、模倣品監視のための外部調査サービスに係る費用について、年間契約に基づく継続的な監視活動の一部であり、本件侵害行為との相当因果関係が認められないとして、その大部分が否定された点は注目される。

ブランドホルダーによる模倣品対策は、平時からの継続的かつ包括的な監視活動として実施されることが多い。しかし、本判決は、そのような費用であっても、個別の侵害行為との具体的な結び付きが立証されない限り、損害としての回収は容易には認められないことを示したものといえる。

このことは、ブランドホルダーが外部監視サービスを利用する場合には、個別案件ごとの調査内容や費用配分を可能な限り明確化し、証拠として整理しておくことの重要性を示唆している。

製薬企業やヘルスケア企業におけるブランド保護活動は、特許侵害調査のような個別案件対応というよりも、ECプラットフォーム監視、テスト購入、削除申請等を含む継続的なリスク管理活動として行われることが多い。本判決は、そのような活動の必要性を前提としつつも、その費用負担を最終的に侵害者へ転嫁することの難しさを改めて示したものとも評価できる。

また、本件では、被告商品の売上総額が約20万円であったのに対し、原告は約376万円の損害賠償を請求したものの、認容額は約33万円にとどまった。

このような結果は、少額・小口の模倣品取引に対しても権利者が積極的に法的措置を講じ得ることを示す一方、実際に回収可能な損害額には限界があることも示している。

(3)まとめ

医薬品・ヘルスケア分野において、ブランドは単なる営業標識ではなく、安全性や品質に対する信頼そのものを体現する重要な無形資産である。そして、そのブランド保護は、単一の法的手段では完結せず、商標権・薬機法・関税法という複数の法的枠組みと、民事訴訟・行政調査・水際取締りという複数の実施主体が、それぞれ異なる次元で機能することによって、初めて実効性を持つ。本件は、その中でも「個別の侵害者に対する民事的責任追及」という一つのピースを埋める事例として、位置づけることができるだろう

しかし、シアリス模造品事件から17年を経た本件においても、ECプラットフォーム上における少額・小口の模倣品流通という問題の構図自体は大きく変わっていない。もっとも、2009年当時の主戦場がオークションサイトであったのに対し、現在はフリーマーケットサービスやSNSを通じた個人間取引へと流通経路が多様化しており、ブランドホルダーに求められる監視手法や対応体制も大きく変化している。電子商取引の拡大とともに、ブランドホルダーによる継続的な監視活動や権利行使の重要性は一層高まっている一方、そのために要する費用が必ずしも十分に回収できるとは限らないことも明らかになっている。

本件は、電子商取引時代において、国内外ECサイトやフリーマーケットサービスを通じた模倣品販売による健康被害の増加が懸念されるなか、医薬品・ヘルスケア分野のブランド保護において、民事訴訟による権利行使の実効性と費用対効果をいかに両立させるかという課題も、改めて浮き彫りにした判決といえるだろう。

Fubuki
Fubuki

企業が模倣品販売に対して毅然とした態度で対応することは、ブランド価値を守るだけでなく、消費者の健康被害を未然に防ぐ観点からも重要ですね。


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