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日本のパテントリンケージ制度について、制度の仕組み、重要判例、行政の動向、現在の課題を体系的に整理する総合案内ページです。
このページでわかること
– 日本の制度の仕組みと法的背景
– 重要判例・行政資料・関連ニュース
– 現在の重要論点と今後の課題
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最終確認日: 2026年10月24日
1.パテントリンケージとは
パテントリンケージ(Patent Linkage)とは、先発医薬品に関する特許権と後発医薬品の承認審査等を関連づける仕組みをいう。日本では、厚生労働省の通知に基づき、後発医薬品及びバイオ後続品(バイオシミラー)の承認審査や薬価収載に際して、先発医薬品に係る特許との関係が考慮されている。
この制度は、特許権者の正当な権利保護と医薬品の安定供給を図る一方、後発医薬品の参入時期や医薬品へのアクセスにも影響する。したがって、特許法、薬事規制、医薬品市場における競争政策が交差する重要な論点である。
米国のHatch-Waxman制度のように法律に基づく特許情報の登録や当事者間の紛争解決手続を備えた制度とは異なり、日本のパテントリンケージは、行政通知に基づく運用を中心として発展してきた。この制度の法的根拠、判断手続及び司法審査のあり方は、現在も重要な検討課題となっている。
2.日本の制度の仕組み
(1)承認審査における特許の取扱い
2025年10月8日付けの厚生労働省通知により、医療用後発医薬品及びバイオ後続品に関する特許の取扱いが明確化された。
基本的な取扱いは、次のとおりである。
- 物質特許: 先発医薬品の有効成分に係る物質特許が存在し、そのため当該有効成分に係る医薬品の製造又は製造販売ができない場合には、後発医薬品等を承認しない。
- 用途特許: 先発医薬品の一部の効能・効果、用法・用量に係る用途特許が存在しても、特許の対象となる用途以外で製造・製造販売が可能な場合には、その用途を除外して承認することができる。
特許の存否は原則として承認予定日時点で判断される。また、承認申請者は、特許の状況を十分に確認し、承認取得後に速やかに製造販売できることを示す資料等を提出することが求められる。
(2)医薬品特許情報の報告
特許権者又は先発医薬品企業は、後発医薬品等の承認審査において考慮されるべきと考える物質特許又は用途特許について、厚生労働省に医薬品特許情報報告票を提出する。
原則として、報告は先発医薬品の再審査の調査期間終了前に行う。調査期間終了後に新たに物質特許又は用途特許が登録された場合は、特許公報発行日から30日以内に報告することとされている。
報告されていない特許は、原則として後発医薬品等の承認審査において考慮されない。このため、対象特許の選定、報告期限の管理及び報告内容の適切性は、先発医薬品企業の知財管理上重要である。
(3)薬価収載における特許の取扱い
特許係争のおそれがある後発医薬品等について薬価収載を希望する場合には、事前に特許権者又は先発医薬品企業との調整を行い、将来も含めて安定供給が可能と思われる品目について収載手続を進めることとされている。
もっとも、承認審査における特許の取扱いと、薬価収載時の調整は異なる段階の問題であり、それぞれの法的性質と実務上の効果を区別して理解する必要がある。
一次情報:
- 厚生労働省「医薬品特許情報」
- 2025年10月8日付け改訂二課長通知:医療用後発医薬品及びバイオ後続品に関する医薬品医療機器等法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて (令和7年10月8日) (/医政産情企発1008第1号/医薬薬審発1008第5号/) (各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生労働省医政局医薬産業振興・医療情報企画課長、厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知)
3.現在の重要論点・課題
(1)制度の法的根拠と法治主義
日本のパテントリンケージは、薬機法等に特許侵害を直接の承認拒否事由として明記する形ではなく、行政通知を中心とする運用によって実施されてきた。
そのため、特許権との抵触を理由として承認を制限することの法的根拠、行政裁量の限界、手続の透明性及び司法審査の実効性が問題となる。制度を安定的に運用するためには、特許権者の権利保護と後発医薬品企業の予見可能性の双方を確保する制度設計が重要である。
関連記事:
- 2021.03.08ブログ記事「日本のパテントリンケージの現状の課題とその解決に向けた提案」
- 2023.09.18ブログ記事「【アンケート】パテントリンケージとして運用されている二課長通知の問題点は何だと思いますか?」
- 「パテント・リンケージ制度について」田村善之教授寄稿(2026年3月19日)
(2)特許抵触の判断と専門委員制度
特許権の技術的範囲や延長された特許権の効力については、個別の特許請求の範囲、明細書、対象製品の構成、効能・効果等を踏まえた専門的な検討が必要となる。
2025年11月には、厚生労働省が承認審査における特許抵触の確認に関し、専門委員から意見を聴取する制度の試行を開始した。
今後の重要課題は、専門委員の意見を求める対象や手続、判断に必要な資料の収集、当事者の意見提出機会、意見書の作成期間、専門委員の選任・関与の透明性などである。専門的な評価を導入することに加え、その評価がどのように行政判断に反映されるのかも注視する必要がある。
関連記事:
- 2024.07.25ブログ記事「【速報】厚生科学審議会(医薬品医療機器制度部会) パテントリンケージ制度の運用改善について議論 医薬品特許の専門家への意見照会制度の導入検討へ」
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- 2025.07.02ブログ記事「日本型パテントリンケージ制度において医薬品特許の専門家の意見を反映させる仕組みの構築に向けた調査研究」
- 2025.11.14ブログ記事「厚労省、パテントリンケージの運用に専門委員制度を試行的に導入」
- 2026.07.12ブログ記事「「医薬品特許情報の専門的評価の枠組み構築に向けた調査研究」報告書公開 ― パテントリンケージ制度の運用改善と新たな制度設計を提言」
(3)司法救済と当事者の手続保障
パテントリンケージの運用に関する行政判断について、特許権者及び後発医薬品企業がどのような手段で司法審査を求められるのかは、制度の根幹に関わる問題である。
後発医薬品企業が承認申請段階で特許侵害の不存在確認を求めた事案では、訴えの利益が争われた。また、特許権者による行政への情報提供について、不正競争防止法上の信用毀損行為に該当するかが争われた事例もある。
これらの裁判例は、承認審査における特許抵触の判断と、特許法上の侵害判断、さらに当事者間の民事上の救済が、必ずしも一致しないことを示している。行政判断の透明性、当事者双方の意見提出機会、紛争解決の時期及び司法審査の実効性をどう確保するかが課題である。
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- 2022.10.22ブログ記事「2022.08.30 「ニプロ v. エーザイ」 東京地裁令和3年(ワ)13905 特許権侵害差止請求権及び損害賠償請求権の不存在確認請求事件・・・抗悪性腫瘍剤ハラヴェン®(エリブリン)の後発医薬品申請時点における訴えの利益」
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(4)制度の透明性・予見可能性と国際整合性
日本の制度では、特許情報の報告対象や期限が明確化された一方、特許抵触の判断基準、判断理由の開示、行政判断に対する不服申立て等について、引き続き検討すべき課題がある。
米国では、特許情報の登録制度や後発医薬品企業による特許無効・非侵害の主張に関する手続が整備されている。欧州では、医薬品の販売承認と特許権の執行を原則として区別する考え方が採られている。日本の制度を検討する際には、各国制度の違いを踏まえ、特許権者の正当な保護と後発医薬品の適時参入をいかに両立させるかが重要となる。
また、CPTPP第18.53条との整合性、行政通知を基礎とする制度の位置づけ、制度を法制化する場合の具体的な仕組みも、継続して注視すべき論点である。
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4.今後の注目点
今後は、専門委員制度の実際の運用、専門的評価が行政判断に与える影響、判断過程の透明性、当事者の手続保障、司法救済のあり方を継続的に確認する必要がある。
2026年に公表された調査研究報告書では、専門委員制度の改善にとどまらず、中長期的な制度設計の選択肢も検討されている。ただし、研究報告書の提案と、厚生労働省が正式に採用した政策・制度変更とは区別して把握する必要がある。
パテントリンケージは、単に特許権者と後発医薬品企業の利害を調整する仕組みではない。特許制度、薬事行政、医薬品へのアクセス、安定供給及び競争政策をどのように調和させるかという、医薬品知財政策の重要な課題である。
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