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2012.02.08 「オルガノサイエンス・CHIRACOL v. 特許庁長官」 知財高裁平成23年(行ケ)10115

化合物の引用発明の適格性: 知財高裁平成23年(行ケ)10115

【背景】

「シクロヘキサン化合物及び該化合物を含有した液晶組成物」に関する出願(特願2010-162348)の拒絶審決(不服2011-1277号)取消訴訟。争点は、本願発明化合物の新規性。引用例に本願発明が記載されているといえるかどうか(引用発明としての適格性を有するかどうか)が問題となった。

【要旨】

裁判所は、発明の新規性について、

「特許法は,発明の公開を代償として独占権を付与するものであるから,ある発明が特許出願又は優先権主張日前に頒布された刊行物に記載されているか,当時の技術常識を参酌することにより刊行物に記載されているに等しいといえる場合には,その発明については特許を受けることができない(特許法29条1項3号)。

しかるところ,本願発明が引用発明を包含するものであることそれ自体は争いがなく,本願発明は,前記(1)アに記載のとおり,特定の新規な化合物をその特許請求の対象とするものであるから,引用例に本願発明が記載されているといえるためには,引用例の記載及び本件出願日当時の技術常識を参酌することにより,当業者が,本願発明に包含される引用発明を製造することができたといえなければならない。」

と述べた上で、本願発明の新規性について、

「~引用例に記載された引用発明を合成しようとすれば,当業者は,~を使用することにより,引用発明を得ることができると認識するものといえる。そして,このことは,前記(3)ウに記載のとおり,引用例には引用発明の誘電異方性及び光学異方性の値が明記されており,したがって引用発明の発明者が引用発明を現実に製造していたことによっても裏付けられる。」

と判断した。

これに対し、原告らは、

「前記スキームで引用発明を合成する場合にグリニャール試薬として用いられる~B物質~の入手方法が明らかではなく,また,乙3の記載によっても,そこに記載のB物質を分離精製が困難である」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「乙3の刊行年月日及びその記載内容に照らすと,純粋なB物質の入手方法は,本件出願日当時,当業者に周知であったものと認められる。~以上によれば,引用例に接した当業者は,引用例の記載(スキーム3)に基づき,そこに実施例14として記載されている引用発明を製造することができたものといえるから,引用発明を包含する本願発明は,本件出願日前に頒布された刊行物である引用例に記載されているというべきであり,本願発明には新規性が認められないといわざるを得ない(特許法29条1項3号)。」

と判断した。

請求棄却。

【コメント】

化合物発明の新規性判断において、引用例に本願発明が記載されているといえるためには、引用例の記載及び本件出願日当時の技術常識を参酌することにより、当業者が、本願発明に包含される引用発明を製造することができたといえなければならない。
このような考え方は、特許法29条1項3号の「刊行物に記載された発明」について、特に化学物質発明について取り扱った過去の判例の考え方とも合致していると思われる。すなわち、特許法29条1項3号の「刊行物に記載された化学物質発明」であるためには、当該物質の構成が開示されていることに止まらず、当業者がその製造方法を理解し得る程度の記載があることを要する。そして十分であろう。

特許・実用新案審査基準(第Ⅱ部 第2章 新規性・進歩性)によれば、特許法29条1項3号の「刊行物に記載された発明」について下記のように記されている。

1.5.3 第29条第1項各号に掲げる発明として引用する発明(引用発明)の認定
(3) 刊行物に記載された発明
②また、ある発明が、当業者が当該刊行物の記載及び本願出願時の技術常識に基づいて、物の発明の場合はその物を作れ、また方法の発明の場合はその方法を使用できるものであることが明らかであるように刊行物に記載されていないときは、その発明を「引用発明」とすることができない。
したがって、例えば、刊行物に化学物質名又は化学構造式によりその化学物質が示されている場合において、当業者が本願出願時の技術常識を参酌しても、当該化学物質を製造できることが明らかであるように記載されていないときは、当該化学物質は「引用発明」とはならない(なお、これは、当該刊行物が当該化学物質を選択肢の一部とするマーカッシュ形式の請求項を有する特許文献であるとした場合に、その請求項が第36条第4項第1号の実施可能要件を満たさないことを意味しない)。

参考:

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