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抗PD-1抗体を巡る特許訴訟~小野/BMS(オプジーボ; Opdivo) vs Merck(キートルーダ; Keytruda)

Bristol-Myers Squibb(BMS)及びMerckの最近のSEC filing 10-Q資料は、抗PD-1抗体を用いた癌治療方法に関する特許(いわゆる本庶特許)及び広く抗PD-1抗体を保護する特許(いわゆるKorman特許)で構成される特許群に関して、世界中で特許訴訟が係属中であることを伝えています。各国裁判所が、MerckによるKeytrudaの販売が小野薬品(及びBMS)の抗PD-1抗体特許を侵害していると判断した場合、BMSと小野薬品はMerckからKeytrudaの将来の販売における実施料を含めた損害賠償金を受け取ることができることになります。その国でKeytrudaの販売差止めの可能性もあるわけですが、BMSと小野薬品は、MerckによるKeytrudaの販売を阻止するつもりはなく、裁判所により適切な金銭的補償が認められることを望んでいるようです。小野薬品/BMSが販売するオプジーボ(Opdivo)®(一般名: ニボルマブ、nivolumab)とMerckが販売するキートルーダ(Keytruda)®(一般名: ペンブロリズマブ、pembrolizumab)との間で繰り広げられている抗PD-1抗体に関わる特許紛争は小野薬品/BMSが優勢のようです。

欧州の状況

  • BMSは小野薬品が保有する欧州特許1537878(’878特許)を含む本庶特許の独占実施権を保有している。この特許は、Merckが販売するKeytrudaを癌治療に使用するといった、抗PD-1抗体の使用を広くクレームするものである。Merckは、2011年、この’878特許についてEPOに異議申立を提出したが、特許は有効と判断されたため、2015年2月にその決定に対し不服審判を請求している(T1994/14)。現在係属中。

    欧州特許(EP1537878B)Claim 1:
    Use of an anti-PD-1 antibody which inhibits the immunosuppressive signal of PD-1 for the manufacture of a medicament for cancer treatment.

  • 並行して、Merckと他の3つの会社は、2014年4月、Medarex(BMSが買収)と小野薬品が保有する欧州特許2161336(’336特許。いわゆるKorman特許出願に基づくもの)に対しても異議申立を提出していた。こちらは、BMSと小野薬品が提出したクレーム補正が許可され特許維持の決定がなされたが、結果として’336特許はもはやKeytrudaのような抗PD-1抗体を広くクレームするものではなくなったとのことである。
  • Merckは、2014年5月、’878特許及び’336特許に相当するUK特許の無効を求めUKで訴訟を提起した。それに対し、2014年7月、BMSと小野薬品はMerckによるUKでのKeytrudaの上市が’878特許に相当するUK特許の侵害となることの確認を求めて訴訟を提起した(’336特許に相当するUK特許は欧州特許と同様にクレームが補正され、もはやKeytrudaのような抗PD-1抗体を広くクレームするものでなくなる見込み)。2015年、UK裁判所は’878特許は有効であり侵害も認める決定をした。Merckはこの決定を不服として上訴しており、2017年3月に口頭審理が開始される予定である。BMSと小野薬品は損害賠償及び実施料の額を決定する手続きを進めておりそれらの口頭審理は2017年10月に予定されている。
  • Merckは、2015年2月、’878特許及び’336特許に相当するオランダ特許の無効を求めオランダで訴訟を提起した。その後BMSと小野薬品はMerckに対し’878特許に相当するオランダ特許の侵害訴訟を提起した(’336特許に相当するオランダ特許は欧州特許と同様にクレームが補正され、もはやKeytrudaのような抗PD-1抗体を広くクレームしていない)。2016年6月、Hague地裁は’878特許に相当するオランダ特許は有効でありMerckによる侵害も認める決定をした。Merckはこの判決を不服として控訴する予定。
  • 2015年12月~2016年1月、BMSと小野薬品はMerckに対し、フランス、ドイツ、アイルランド、スペイン及びスイスを含む他の欧州各国において’878特許に相当する各国特許侵害訴訟を提起している。

米国の状況

  • BMSと小野薬品は、2014年9月、MerckによるKeytrudaの販売が本庶特許出願に基づく米国特許8728474(’474特許)の侵害にあたるとして訴訟を提起した。その審理は2017年4月に開始される。

    米国特許(US 8,728,474)Claim 1:
    A method for treatment of a tumor in a patient, comprising administering to the patient a pharmaceutically effective amount of an anti-PD-1 monoclonal antibody.

  • BMSと小野薬品は、2015年6月および7月、MerckによるKeytrudaの販売が本庶特許に基づく米国特許9067999(’999特許)及び米国特許9073994(’994特許)の侵害にあたるとして訴訟を提起した。一方、Merckは、2016年7月、’999特許及び’994特許の無効を求めてInter Pates Reviewを請願した。BMSは2016年10月までにその請願に対して反論する機会が与えられている。
  • Dana-Farberは、2015年9月、本庶特許出願に基づく5つの米国特許のinventorshipの補正を求め、特にそれら特許に発明者として2名の科学者を加えるようマサチューセツ連邦地裁に申し立てた。それらの特許のうち3つ(上記’474特許、’999特許、’994特許)は現在BMSと小野薬品によりMerckに対してデラウエア連邦地裁で提起された特許侵害訴訟の対象である。
  • Merckは、2016年4月、Korman特許出願に基づく米国特許8777105(’105特許)及び米国特許9084776(’776特許)が無効でありKeytrudaによる侵害はないとの確認判決を求めてNew Jersey連邦地裁に訴訟を提起した。
  • PDL Biopharma (PDL)は、2015年10月、MerckによるKeytrudaの製造が2014年12月に期間満了した米国特許5693761(’761特許)の侵害にあたるとして損害賠償請求訴訟を提起している。この特許は組換え抗体とPDLの製造に使用されるプラットフォーム技術をクレームしているものである。
  • Merckは、2016年7月、Genentechに対して組換え抗体の製造に使用されるプラットフォーム技術をクレームする米国特許7923221(Cabilly III特許)は無効であり、Keytrudaは侵害していないとの確認判決を求め訴訟を提起し、また、同技術をクレームする米国特許6331415(Cabilly II特許)の無効を求めてInter Pates Reviewを請願している。

日本の状況(J-PlatPatより)

本庶特許においては無効審判等は請求されていない。

  • JP4409430(B2)

    請求項1: PD-1抗体を有効成分として含み、インビボにおいてメラノーマの増殖または転移を抑制する作用を有するメラノーマ治療剤。

  • JP5159730(B2)

    請求項1: PD-1抗体を有効成分として含み、インビボにおいて癌細胞の増殖を抑制する作用を有する癌治療剤(但し、メラノーマ治療剤を除く。)。

  • JP5701266(B2)

    請求項1: 抗PD-1抗体を有効成分として含む、ウイルス性肝炎治療剤。

  • JP5885764(B2)

    請求項1: PD-1の免疫抑制シグナルを阻害する抗PD-L1抗体を有効成分として含む癌治療剤。

Korman特許においては無効審判等は請求されていない。

  • JP4361545(B2)

    請求項1: (a)配列番号18のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域CDR1、(b)配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域CDR2、(c)配列番号32のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域CDR3、(d)配列番号39のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域CDR1、(e)配列番号46のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域CDR2および(f)配列番号53のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域CDR3を含む抗体であって、ヒトPD-1と特異的に結合する単離ヒトモノクローナルIgG4抗体。

  • JP5028700(B2)

    請求項1: ヒト生殖細胞型VH3-33遺伝子もしくはその体細胞変異を受けた当該遺伝子にコードされる重鎖可変領域およびヒト生殖細胞型VKL6遺伝子もしくはその体細胞変異を受けた当該遺伝子にコードされる軽鎖可変領域を含む抗体であって、
    (a)ヒトPD-1に特異的に結合し、配列番号4のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域および配列番号11のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む単離ヒトモノクローナルIgG4抗体によるヒトPD-1への結合と競合し、かつ
    (b)ビアコア分析における解離速度として0.13~5.46x10-9Mの活性でヒトPD-1に特異的に結合する単離ヒトモノクローナルIgG4抗体(ただし、配列番号18のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域CDR1、配列番号25のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域CDR2、配列番号32のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域CDR3、配列番号39のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域CDR1、配列番号46のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域CDR2および配列番号53のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域CDR3を含む抗体であって、ヒトPD-1と特異的に結合する単離ヒトモノクローナルIgG4抗体を除く。)。

  • JP5872377(B2)

    請求項1: 配列番号4のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域および配列番号11のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む、ヒトPD-1に特異的に結合する単離ヒトモノクローナルIgG4抗体を有効成分として含み、抗CTLA-4抗体と組み合わせて投与されることを特徴とする、メラノーマ、腎癌および肺癌から選択される癌に対する癌治療剤。

その他の国の状況

  • 2014年9月、Merckは、Korman特許出願に基づくオーストラリア特許2011203119の無効を求めて訴訟を提起した。2015年3月、BMS及び小野薬品はMerckに対して特許侵害訴訟の反訴を提起した。2017年9月に審理が予定されている。

過去記事:

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