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2021.08.19 「マルホ v. 健栄製薬」 知財高裁令和3年(行ケ)10030; 令和3年(行ケ)10031・・・健栄製薬の登録商標「ヒルドソフト」について「ヒルドイド」に類似・混同するとのマルホの主張を認めず

健栄製薬(株)ホームページより

マルホは、健栄製薬の「ヒルマイルド」の販売等が、ヒルドイド®に係るマルホの商標権の侵害及び不正競争行為に該当すると主張して、2021年1月21日付で、大阪地方裁判所に、「ヒルマイルド」の販売差止等を求めて仮処分の申立てを行った(2021.01.22 マルホ press release: 健栄製薬株式会社に対する販売差止等仮処分命令申立てに関するお知らせ)。

訴えられた健栄製薬は、「あたかもヒルマイルドという商標の使用が違法であるかのような誤った印象を世の中の多くの人々に持たせる可能性のある「仮処分命令申立てのお知らせ」をマルホ株式会社が行ったことは、誠に遺憾であり、弊社の信用と信頼を著しく傷つけ、損なう行為である・・・不当な「販売差止等仮処分命令申立て」に対し、法律に則って闘って参る覚悟であり、弊社が築いた信用と信頼を傷つけた行為に対して、毅然とした態度で臨みます。」とのプレスリリースを出した(2021.01.25 健栄製薬 press release: マルホ株式会社による「販売差止等仮処分命令申立て」についての対応と経緯に関するお知らせ)。

マルホは、健栄製薬が登録した別の商標「ヒルドソフト」及び「HIRUDOSOFT」に対しても、「ヒルドイド」に類似する等主張して商標登録無効審判を請求した。その請求不成立審決の取消しを求めてマルホが提起した訴訟が判決に至ったので、その判決内容を本記事にて紹介する。

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1.背景

本件(令和3年(行ケ)10030; 令和3年(行ケ)10031)は、健栄製薬(被告)が商標権者である以下の商標に対して、マルホ(原告)が請求した商標登録無効審判において、特許庁が請求不成立審決をしたため、マルホが審決の取消しを求めて提起した訴訟である。争点は、本件商標の登録が商標法4条1項11号又は同項15号に該当するか否かである。

登録第6178215号登録第6178216号
商標権者健栄製薬株式会社健栄製薬株式会社
商標ヒルドソフト(標準文字)HIRUDOSOFT(標準文字)
指定商品第5類「薬剤」第5類「薬剤」
登録出願日平成30年8月8日平成30年8月8日
登録査定日令和元年7月30日令和元年7月30日
設定登録日令和元年9月6日令和元年9月6日
無効審判無効2020-890025号事件無効2020-890026号事件
請求人マルホ株式会社マルホ株式会社
請求日令和2年2月28日令和2年2月28日
審決令和3年1月5日
(請求不成立)
令和2年12月25日
(請求不成立)
本件訴訟令和3年(行ケ)10030令和3年(行ケ)10031
提起日令和3年2月12日令和3年2月12日
表1 本件商標
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2.裁判所の判断

裁判所は、本件商標は商標法4条1項11号及び同項15号に該当するものとは認められないから、これと同旨の本件審決の判断は結論において誤りはないと判断し、従って、マルホ(原告)主張の取消事由はいずれも理由がないとして、マルホ(原告)の請求を棄却した。

(1)取消事由1(商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)について

本件商標
登録第6178215号
本件商標
(登録第6178216号)
引用商標1
(登録第459931号商標)
引用商標2
(登録第1647949号商標)
商標ヒルドソフト(標準文字)HIRUDOSOFT(標準文字)Hirudoid
ヒルドイド
指定商品第5類「薬剤」第5類「薬剤」第5類「薬剤(・・・を除く。),・・・」第5類「薬剤,・・・」,第1類,第10類
類否について「ヒルドソフト」の呼称が生じるが,一般の辞書等に掲載されていない造語であって,特定の観念を生じさせない。「ヒルドソフト」の呼称が生じるが,一般の辞書等に掲載されていない造語であって,特定の観念を生じさせない。「ヒルドイド」の呼称が生じるが,一般の辞書等に掲載されていない造語であって,特定の観念を生じさせない。

両商標は,外観上明確に区別することができ,外観において明らかに相違する。

語頭3文字の「ヒルド」は共通するものの,それに続く「ソフト」と「イド」の語数と音の違いによって両者は明瞭に聴別することができるから,両商標は,称呼において明らかに相違する。
「ヒルドイド」の呼称が生じるが,一般の辞書等に掲載されていない造語であって,特定の観念を生じさせない。

両商標は,外観上明確に区別することができ,外観において明らかに相違する。

語頭3文字の「ヒルド」は共通するものの,それに続く「ソフト」と「イド」の語数と音の違いによって両者は明瞭に聴別することができるから,両商標は,称呼において明らかに相違する。
表2 本件商標と引用商標の対比

本件商標の取引者及び需要者は,医薬品を処方する医師及び薬剤師等の医療関係者のみならず,一般消費者も含まれることになる。

・・・本件商標と引用商標1は,外観及び称呼において明らかに相違し,両商標ともに特定の観念を生じさせないから,本件商標と引用商標1を本件商標の指定商品である「薬剤」に使用したときに,その出所について誤認混同を生じさせるおそれがあるものと認めることはできないから,本件商標は,引用商標1に類似する商標であるということはできない。

・・・本件商標と引用商標2は,外観及び称呼において明らかに相違し,両商標ともに特定の観念を生じさせないから,本件商標と引用商標2を本件商標の指定商品である「薬剤」に使用したときに,その出所について誤認混同を生じさせるおそれがあるものと認めることはできないから,本件商標は,引用商標2に類似する商標であるということはできない。

・・・以上によれば,本件商標は商標法4条1項11号に該当するものとは認められないから,これと同旨の本件審決の判断は結論において誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。

(2)取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について

本件商標の取引者及び需要者は,先発医薬品については,医師,薬剤師等の医療関係者であり,一般用医薬品及び医薬部外品については,薬剤師等のほか,一般消費者も含まれることになる。

別紙2

そして,仮に原告使用商標が周知著名であるとしても,原告使用商標は「Hirudoid」又は「ヒルドイド」として認知されているのであって,「Hirudo」又は「ヒルド」として認知されているわけではなく,また,本件全証拠を精査しても,薬剤の取引の分野において,販売名の語頭3文字に略して取引されているといった取引の実情を認めるに足りる証拠はないことからすると,一般消費者を含む取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準としても,本件商標を付した一般用医薬品又医薬部外品について,原告が製造販売したものであり,又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのようにその商品の出所について混同を生じるおそれがあるものと認めることはできない。

なお,前示のとおり,本件商標は先発医薬品に使用されることもあり得るところ,その取引者及び需要者は,医療関係従事者であり,薬効も原告使用商標に付される原告商品と異なるものであるから,その商品の出所について混同を生じるおそれがあるといえないことはなおさら明らかである。

・・・語頭が「ヒル」又は「ヒルド」が用いられる商品であるといった理由のみで,医療関係者をして原告が製造販売し,又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関連を有する者による商品ではないかとの誤認ないし混同を生じさせているとまで認めることはできず,また,医療事故の取り違えの事例から,薬剤師が業務上通常要求される注意をもってしても,頭文字3文字が共通する薬剤について日常的に取り違えの事故が生じているとまで認めることはできないことは前記2(2)で説示したとおりである。

そして,仮に原告使用商標が周知著名であり独創性があるとしても,「Hirudo」,「Hiru」,「ヒルド」又は「ヒル」として認知されていると認めるに足りる証拠はなく,原告使用商標はあくまで「Hirudoid」又は「ヒルドイド」として認知されていると認められる以上は,本件商標が指定商品である「薬剤」に使用されたときに,一般消費者を含む需要者及び取引者がその取引において通常払われる注意をもってすれば,語頭3文字が共通する原告使用商標を連想又は想起し,あるいは原告と経済的又は組織的に何らかの関連性を有する者の商品であるかのように,その出所について混同を生じるおそれがあるとはいえない。

・・・以上によれば,本件商標は,商標法4条1項15号に該当するものとは認められないから,これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2も理由がない。

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3.コメント

(1)マルホが請求している商標登録無効審判

マルホが請求している商標登録無効審判は、今回取り上げた事件を含めて5件あり、いずれも請求不成立審決となり、その取消しを求めて訴訟が提起された。近日中には他の判決内容も明らかになるだろう。

(2)仮処分の申立ての判断への影響

マルホは、健栄製薬の「ヒルマイルド」の販売等が、ヒルドイド®に係るマルホの商標権の侵害及び不正競争行為に該当すると主張して、大阪地方裁判所に、「ヒルマイルド」の販売差止等を求めて仮処分の申立てを行っている。

マルホ「ヒルドイド」商標権の侵害・不正競争行為に基づき、健栄製薬「ヒルマイルド」の販売差止仮処分の申立て
マルホ(株)のプレスリリースによると、マルホ(株)は、健栄製薬(株)が製造販売する「ヒルマイルド」の販売等が、ヒルドイド®に係るマルホ(株)の商標権の侵害及び不正競争防止法2条1項1号に定める不正競争行為に該当すると判断し、2021年1月21日付で、大阪地方裁判所に、商標権侵害および不正競争行為に基づき、「ヒルマイルド」の販売の差止等を求めて仮処分の申立てを行ったとのことです。2021.01....

本事件における「ヒルドソフト」は「ヒルドイド」と類似しないとの判断や出所混同を生じるおそれがないとの判断の内容からは、上記仮処分の申し立ての対象である「ヒルマイルド」が「ヒルドイド」と類似する又は出所混同するといえるほどのマルホに有利なロジックは見いだせない。

「ヒルマイルド」の販売差止等を求める仮処分の申し立てが認められるかどうかについてはマルホにとって厳しいものとなりそうだ。

残る点は、健栄製薬が製造販売する「ヒルマイルド」の商品パッケージが、ピンク色の蓋と白と赤色(商品名)を基調とする原告商品(ヒルドイド)と同じく赤色又はピンク色を基調とするものである点が不正競争防止法2条1項1号の観点でどう判断されるかどうかくらいだろうか。

参考:

コメント

  1. Fubuki Fubuki より:

    2021.09.01 健栄製薬「包装・表示ヒルマイルドローション 60g 包装変更案内
    キャップの色調をピンク色から白色へ変更。

    もしかして、ヒルマイルドの商品パッケージが、「ピンク色の蓋」と白と赤色又はピンク色を基調とする「ヒルドイド」と同じだった点が不競法2条1項1号に問われる可能性を回避したのでしょうか・・・以下の新製品もキャップの色調は白色となりました。

    2021.07.28 健栄製薬「新発売 ヒルマイルドローション30g 新商品案内

    2021.07.28 健栄製薬「新発売 ヒルマイルドクリーム30g、100g 新商品案内

  2. 流しの分包機屋 より:

    「ヒルド・・・」という文字列は、主成分のヘパリンから想起されるものではない以上、ヘパリンの外用薬 ⇒ヒルド・・・ ⇒マルホ という相関性が一般消費者の感じ方だと思います。
    マルホにとっては乗っかられたと思うだろうし、私は健栄の経営センスが悪いな、と感じました。
    ここに来てキャップ色変更なんかも後ろめたさの裏返しに見えてさらに気持ち悪さを覚えました。
    裁判の行方はマルホ不利のようですが、パクリ容認ならオリジナルを頑張る企業が報われないからうしなわれて、結局、国全体から独自性が失われるのではないかと危惧します。

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