第一三共株式会社(以下「第一三共」)とSeagen Inc.(以下「Seagen社」)との間では、ENHERTU®(エンハーツ®)を含むADC技術をめぐり、米国において複数の法的係争が進行していました。
2026年3月10日、第一三共は、下記判決に対して、不服申立て期限であった2026年3月2日(現地時間)までにSeagen社が手続きを行わなかったことから、Seagen社との特許係争が終結したと公表しました(第一三共プレスリリース「当社ADC製品に関するSeagen社との特許係争の終結に関するお知らせ」参照)。
- Seagen社がテキサス州東部地区連邦地方裁判所(以下「テキサス地裁」)において第一三共に対して提起した、米国特許第10,808,039号(以下「’039特許」)に基づく特許権侵害訴訟については、2025年12月2日の控訴審判決において、米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)が、’039特許は無効であると判断しました。これにより、第一三共に特許権侵害に基づく損害賠償およびENHERTU®の米国売上に対するロイヤルティの支払いを命じたテキサス地裁の一審判決は取り消されています。
- また、第一三共が米国特許商標庁に請求していた’039特許に対する特許付与後レビュー(Post Grant Review:PGR)についても、同日付の控訴審判決において、CAFCは’039特許を無効としたPGR決定に対するSeagen社の控訴を棄却しました。
詳細は、2025年12月4日のブログ記事「第一三共、SeagenとのADC特許係争で逆転勝訴 ― CAFCが’039特許を無効と判断し控訴審決着へ」をご覧ください。

本件の背景には、共同研究関係にあった企業同士が関係解消後にそれぞれ研究開発を継続する中で、技術の帰属や利用範囲が争われた事案がありました(2022.08.13ブログ記事「第一三共ADC技術の知的財産権の帰属を巡るSeagen社との紛争における仲裁 Seagen社の主張を退け第一三共を支持」および2024.06.28ブログ記事「第一三共ADC技術の知的財産権の帰属を巡るSeagen社との紛争における仲裁廷による判断が最終確定 Seagen社特許の有効性を巡る争いはCAFCによる判断が待たれる」参照)。


一般に、共同研究終了後に類似分野の研究を継続する場合、相手方の営業秘密の不正使用や共同研究成果の無断利用を疑われるリスクが生じ得ます。そのため、共同研究期間中に得られた情報・成果と、研究終了後に独自に創出された成果とを明確に峻別し、研究記録や情報アクセス管理を含めた適切な情報管理体制を整備しておくことが重要であることを示唆する事例といえるでしょう。
※ご覧いただきありがとうございます。この記事の内容について、読者の皆さまのご意見や気づきもぜひお聞かせください!
以下のようなご感想・質問、大歓迎です!
- 🤔ここ理解しづらいな、という部分はありましたか?
- 🤔このニュース、事件、判決例の実務影響についてご意見ありますか?
- 🤔過去の類似事例や判決例をご存じでしたら教えてください!
- 🤔恥ずかしい質問、つぶやき、大歓迎です
- 「👍」「なるほど」「疑問あり」だけでもOK!
コメント欄は↓ コメントは匿名OK! ぜひ気軽に投稿してください🙇
皆さんの反応が、次回の記事や解説のヒントになります🥰



コメント
コメント失礼いたします。第一三共の全面勝訴ということでしょうか、、詳細は非公開の部分も多いかと思いますが、先生はどういったところが勝負の決め手になったと考えられますか?
コメントありがとうございます。
最終的には全面勝訴です。
CAFCの判決内容から、簡単に言えば、Seagen特許の範囲がエンハーツの有効成分を包含するには広すぎた・・・ということでしょうか。決め手はこれに尽きると思います。低分子と比較して、抗体等の高分子有効成分の発明については、最近の傾向として、記載要件・実施可能要件が厳しくみられる傾向にはあります(判決文中でもAmgen v. Sanofi事件を多く引用しているようですし)。
ただし、USPTOのPGRでは第一三共に肯定的判断であったものの、侵害訴訟において地裁では第一三共が敗訴しているので、微妙だったのかもしれません。
権利帰属の仲裁の決定については、内容が明らかにされていませんので決め手はわかりませんが、記事でもコメントしたように、共同研究期間中に得られた情報・成果と、研究終了後に独自に創出された成果とを明確に峻別し、研究記録や情報アクセス管理を含めた適切な情報管理体制を整備しておくことが重要であることを改めて肝に銘じなければならない教訓を与えてくれた事例といえます。