Oct 12, 2018

中外がハーセプチン®バイオシミラー承認取得した第一三共とファイザーに対し用途特許侵害で差止訴訟提起

2018年10月12日付の中外製薬プレスリリースによると、抗HER2ヒト化モノクローナル抗体「ハーセプチン®注射用60」および「ハーセプチン®注射用150」のバイオ後続品(バイオシミラー)の製造販売承認取得者である第一三共とファイザーに対し、ロシュ・グループのジェネンテック社が保有する用途特許の侵害を理由として、専用実施権者である中外製薬は、ジェネンテック社とともに、10月12日付で東京地裁にバイオ後続品の製造販売等の差し止めを求める訴訟を提起し、併せて仮処分命令の申立てを行ったとのことです。


ハーセプチン®(Herceptin®)について

ハーセプチン®(Herceptin®)注射用は、ジェネンテック社が創製したHER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor Type 2:ヒト上皮増殖因子受容体 2 型)の細胞外領域に結合し、HER2過剰発現ヒト腫瘍細胞の増殖を抑制する抗HER2ヒト化モノクローナル抗体「トラスツズマブ(Trastuzumab)(遺伝子組換え)」を有効成分とする抗悪性腫瘍剤。米国において1992年より臨床試験が開始され、1998年乳癌治療薬としては世界で最初のヒト化モノクローナル抗体治療薬として、FDAで認可されました。国内では2001年4月4日承認され、HER2過剰発現が確認された乳癌、HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌に効能・効果が認められています。用法及び用量は下記の通りです。
HER2過剰発現が確認された乳癌にはA法又はB法を使用する。HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌には他の抗悪性腫瘍剤との併用でB法を使用する。
A法: 通常、成人に対して1日1回、トラスツズマブ(遺伝子組換え)として初回投与時には4mg/kg(体重)を、2回目以降は2mg/kgを90分以上かけて1週間間隔で点滴静注する。
B法: 通常、成人に対して1日1回、トラスツズマブ(遺伝子組換え)として初回投与時には8mg/kg(体重)を、2回目以降は6mg/kgを90分以上かけて3週間間隔で点滴静注する。
なお、初回投与の忍容性が良好であれば、2回目以降の投与時間は30分間まで短縮できる。

ジェネンテックが保有する特許について

ジェネンテックが保有する「抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ」に関する特許権(第5818545号)が2015年10月9日に設定登録がなされました。存続期間満了日は2020年8月25日。2016年6月にセルトリオンが特許無効審判請求をし、2017年3月にはファイザーが参加人として加わりましたが、特許庁は請求は成り立たないとの審決(無効2016-800071)を2017年7月に下しています(審決取消訴訟(平29年(行ケ)10165、平29年(行ケ)10192)は2018年10月11日が判決言渡期日)。また、同特許に対して、別途ファイザーが2017年5月に無効審判を請求しています(無効2017-800062)。今回の中外製薬のプレスリリースにある「ジェネンテック社が保有する用途特許」とはおそらく、少なくとも、この特許のことではないかと推測され、特許の有効性や侵害訴訟の行方など、今後の動向が注目されます。

特許第5818545号の請求項1:
(i)抗ErbB2抗体huMab4D5-8を含有し、8mg/kgの初期投与量と6mg/kg量の複数回のその後の投与量で前記抗体を各投与を互いに3週間の間隔をおいて静脈投与することにより、HER2の過剰発現によって特徴付けられる乳癌を治療するための医薬組成物が入っている容器、及び(ii)前記容器に付随するパッケージ挿入物を具備するパッケージ。

トラスツズマブBS点滴静注用60mg「第一三共」/トラスツズマブBS点滴静注用150mg「第一三共」(2018年9月21日承認)及びトラスツズマブBS点滴静注用60mg「ファイザー」/ トラスツズマブBS点滴静注用150mg「ファイザー」の効能・効果には、「HER2過剰発現が確認された乳癌」が含まれいますが、用法及び用量において、HER2過剰発現が確認された乳癌には、A法を使用するとなっており、B法は採用していません。第一三共とファイザーはこのような用法・用量の「虫食い」により本件特許のクレーム範囲を回避しているように思われます。


参考:
関連:

4 comments:

gemedicines said...

はじめまして。いつも大変興味深い記事をありがとうございます。
記事の中で言及されている通り、特許第5818545号については、「虫食い」で回避しているように思いますが、特許第5623681号については、いかがでしょうか?

Fubuki Tokkyoteki said...

コメントありがとうございました。
既に状況はご存知かもしれませんが・・・
特許第5623681号については、
セルトリオンにより特許無効審判が請求されましたが、特許庁は請求人主張の無効理由によって無効とすべきものとはいえないとして請求は成り立たない旨の審決が出されました(無効2016-800021)。現在、その審決取消訴訟が知財高裁に係属中(平成29年(行ケ)10106)で、2018年10月22日が判決言渡期日となっています。同特許は存続期間延長出願されておらず存続期間満了日は2020年5月9日となっています。
請求項1は、
「ErbB2タンパク質が発現した乳腫瘍であると診断されたヒトの患者を治療するための、治療的有効量のヒト化4D5抗ErbB2抗体を含有してなる医薬であって、該治療が(a)該医薬によって患者を治療する、(b)外科的に腫瘍を除去する、及び(c)該医薬又は化学療法剤によって患者を治療するという工程を順次行うことを含む治療である、医薬。」

ハーセプチンのインタビューフォーム「開発の経緯」によると、
「・・・2008年2月に「HER2過剰発現が確認された乳癌における術後補助化学療法」について効能・効果及び用法・用量追加が承認された。さらに、厚生労働省「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」の検討結果に基づき、2011年11月に「HER2 過剰発現が確認された転移性乳癌における3週間1回投与法」及び「HER 過剰発現が確認された乳癌における術前補助化学療法」が、2013年6月に「HER2過剰発現が確認された乳癌に対する術後補助化学療法としてのA法(1週間間隔投与)の用法・用量」が承認された。これにより本剤の乳癌に対する効能・効果は「HER2 過剰発現が確認された乳癌」、用法・用量はA法(1週間間隔投与)又はB法(3週間間隔投与)となった。」
とあります。
従って、「HER2過剰発現が確認された乳癌」という効能・効果には、「HER2過剰発現が確認された乳癌における術後補助化学療法」及び「HER2過剰発現が確認された乳癌における術前補助化学療法」が含まれており、ファイザー品も第一三共品も、効能・効果が「HER2過剰発現が確認された乳癌」である以上、そのような術前および/または術後の補助化学療法を同様に含むものとなると考えられます。
となると、ファイザー品及び第一三共品が上記請求項の(a)、(b)及び(c)の工程を“順次行うことを含む”治療をするための医薬かどうかという属否の主張がどうなるのか気になりますね。

実は、こちらの特許が問題となっているのかもしれませんね。

なお、欧州特許については、Tevaによる異議申立で無効とされ、ジェネンテックは不服としてappealしましたが特許無効審決となったようです(T0402/12)。

ご指摘ありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

gemedicines said...

お返事ありがとうございます。
第一三共とファイザーのハーセプチン バイオシミラーでパテントリンケージが働かなったことが不思議なのですが、通知「医療用後発医薬品の薬事法上の承認審査及び薬価収載に係る医薬品特許の取扱いについて(平成21年6月5日付け医政経発第0605001号/薬食審査発第0605014号)」というのは、バイオシミラーは射程の範囲外なのでしょうか?もし何か知見があれば、コメントいただけると幸いです。

Fubuki Tokkyoteki said...

コメントありがとうございます。
いわゆるパテントリンケージがバイオシミラーについては別扱いといったことはないと思います(知る限りにおいて)。
特許第5623681号については、無効審判請求されましたが特許庁は一応特許有効審決(2016年12月27日)を下していますし、その審決取消訴訟判決期日(2018年10月22日)がもうすぐとはいえ、その状況での第一三共品とファイザー品の承認(2018年9月21日)ですから、この特許がパテントリンケージの用途特許として認知されていたとしたら、厚労省/PMDAはどのように判断して承認判断に至ったのですかね・・・