Oct 17, 2018

2018.10.11 「ファイザー・セルトリオン v. ジェネンテック」 知財高裁平成29年(行ケ)10165; 平成29年(行ケ)10192

ハーセプチン®乳癌治療の用法用量発明の進歩性否定される知財高裁平成29年(行ケ)10165; 平成29年(行ケ)10192

【背景】

ジェネンテック(被告)が保有する「抗ErbB2抗体を用いた治療のためのドーセージ」に関する特許(第5818545号)の無効審判請求は成り立たない旨の特許庁審決(無効2016-800071号)を不服としてファイザー及びセルトリオン(原告ら)が提起した審決取消訴訟。原告主張の無効理由は、実施可能要件違反と進歩性欠如。

請求項6:
抗ErbB2抗体huMab4D5-8を含有し,8mg/kgの初期投与量と6mg/kg量の複数回のその後の投与量で前記抗体を各投与を互いに3週間の間隔をおいて静脈投与することにより,HER2の過剰発現によって特徴付けられる乳癌を治療するための医薬組成物。
【要旨】

裁判所は、本件発明は引用例2(米国で承認された医薬品ハーセプチンの添付文書)に記載された発明及び技術常識に基づき容易に発明をすることができたものであるから、原告ら主張の取消事由3(進歩性判断の誤り)は理由があるとして本件審決を取り消した。以下、裁判所の判断より抜粋。

ア 構成について
「当業者は,本件優先日当時,乳がんの治療薬を含む一般的な医薬品において,投与量を多くすれば,投与間隔を長くできる可能性があり,医薬品の開発の際には,投与量と投与間隔を調整して,効能と副作用を観察すること,抗がん剤治療において,投与間隔を長くすることは,患者にとって通院の負担や投薬時の苦痛が減ることになり,費用効率,利便性の観点から望ましいということを技術常識として有していたものである。
そして,引用例2には・・・本件抗体を週1回8mg/kg程度までの投与量で投与できることは,示唆されているといえる。また・・・本件抗体の毎週の投与と化学療法剤の3週間ごとの投与を組み合わせるという治療方法が記載され・・・さらに・・・本件抗体は投与量依存的な薬物動態を示し,投与量レベルを上昇させれば,半減期が長期化する旨記載されている。
そうすると,上記のとおりの技術常識を有する当業者は,引用発明2-1のとおり本件抗体を4/2/1投与計画によって投与するだけではなく,本件抗体の投与量と投与間隔を,その効能と副作用を観察しながら調整しつつ,本件抗体の投与期間について,費用効率,利便性の観点から,併用される化学療法剤の投与期間に併せて3週間とすることや,本件抗体の投与量について,8mg/kg程度までの範囲内で適宜増大させることは容易に試みるというべきである。そして,当業者が,このように通常の創作能力を発揮すれば,本件抗体を8/6/3投与計画によって投与するに至るのは容易である。・・・なお,A博士の宣誓書には,がん専門臨床医は,未試験の投与レジメンを実験することは患者の生命をリスクにさらすことになるから,本件抗体を8/6/3投与計画で投与することを動機付けられないなどと記載されているが,臨床医が薬剤の新たな用法用量を臨床的に試みる動機付けがないことをもって,薬剤の新たな用法用量の開発を試みる動機付けを否定するものにはならない。」

イ 効果について
「被告は,本件抗体を8/6/3投与計画で投与する本件発明6は,4/2/1投与計画で投与する引用発明2-1と同等の治療効果を有し,投与間隔が3倍となったから,顕著な効果を有すると主張する。・・・しかし,前記のとおり,本件優先日当時,抗がん剤治療において,投与間隔を長くすることが,費用効率,利便性の観点から望ましいということは,当業者にとって技術常識であったものである。・・・引用例2には,本件抗体は投与量依存的な薬物動態を示し,投与量レベルを上昇させれば半減期が長期化すること,本件抗体を4/2/1投与計画で投与すれば約79μg/mlのトラフ血清濃度を維持できたことが記載されている。そして,この記載から,本件抗体を8/6/3投与計画で投与すれば,17μg/ml程度のトラフ血清濃度を維持できるであろうことは予測できる。そうすると,実施可能要件やサポート要件に関しては格別,進歩性に関しては,本件発明6が過去の臨床試験で求められる程度の治療効果を有しつつ,単に投与間隔が3倍になったことをもって,本件発明6の治療効果が引用発明2-1と比較して予測できない顕著なものということはできない。・・・ところで,本件明細書には,本件抗体を8/6/3投与計画で投与した場合における,病勢進行の期間の長期化や生存率に関する具体的な記載はないから,本件発明6の治療効果は不明であって,引用発明2-1と同等の治療効果を有するとは直ちにはいえない。」
【コメント】

用法用量に関する発明の進歩性が否定された事例。本件特許は、ジェネンテック社が創製した抗HER2ヒト化モノクローナル抗体「トラスツズマブ(Trastuzumab)(遺伝子組換え)」を有効成分とする抗悪性腫瘍剤ハーセプチン®(Herceptin®)注射用(日本では中外製薬が製造販売)をカバーする特許と思われる。

ところで、ハーセプチン®をカバーすると思われる他の用途特許(第5623681号)も存在する(過去記事: 「中外がハーセプチン®バイオシミラー承認取得した第一三共とファイザーに対し用途特許侵害で差止訴訟提起」のコメント参照)。当該特許についてもセルトリオンにより特許無効審判が請求されたが、特許庁は請求は成り立たない旨の審決を出した(無効2016-800021)。その審決取消訴訟(平成29年(行ケ)10106)の判決言渡期日が2018年10月22日である。ハーセプチン®バイオシミラーの承認を取得したファイザー及び第一三共に対して中外製薬が提起した特許侵害訴訟の行く末は、上記審決取消訴訟判決の結果に大きく影響を受けるかもしれない。

参考:

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