2019/09/05

2019.05.29 「ジェネンテック v. サンド・協和発酵キリン」 東京地裁平成29年(ワ)44053

リツキサン®の併用療法における用途特許侵害訴訟でサンド・協和キリンが勝訴東京地裁平成29年(ワ)44053

【背景】

抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブ(Rituximab)(遺伝子組換え)を有効成分とするバイオ医薬品「リツキサン(Rituxan)®」のバイオ後続品(バイオシミラー)であるリツキシマブBS点滴静注「KHK」の製造販売者であるサンド及び販売者である協和発酵キリン(被告ら)に対し、バイオジェンが保有する用途特許の侵害を理由として、本特許権の専用実施権者であるジェネンテックが、被告製剤の製造販売等の差止め及び損害賠償を求めた特許権侵害差止請求事件。原告ジェネンテック側には全薬工業及び中外製薬が補助参加した(全薬工業はリツキサン®の独占的販売権者、中外製薬は同剤の全薬工業との共同販売権者)。

対象となった特許は、バイオジェンが保有する「抗CD20抗体の投与を含むB細胞リンパ腫の併用療法」に関する3つの用途特許(特許第6226216号、特許第6241794号、特許第6253842号)。いずれも1999年8月11日を出願日とする原出願(PCT/US99/18120; 特願2000-564662)からの分割で派生した特許ファミリーであり、2019年8月11日が存続期間満了日。特許無効審判は請求されていない。
  • 特許第6226216号(本件特許1)の本件発明1:
    リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法レジメンと組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ,シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の最中に投与される,上記医薬組成物。
  • 特許第6241794号(本件特許2)の本件発明2-1:
    リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法と組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ前記化学療法の間に投与され,かつ,前記化学療法が,CVPである,上記医薬組成物。
  • 特許第6253842号(本件特許3)の本件発明3:
    リツキシマブを含み,中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法レジメンと組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の最中に投与され,前記医薬組成物と,前記シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソンとが,前記CHOPによる化学療法の各サイクルの1日目に前記患者に投与される,医薬組成物。

【要旨】

裁判所は、①本件特許1及び3は特許法36条6項1号に違反により無効とされるべきものと認められるから権利行使は認められず、また,②被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属するとはいえないから侵害するとはいえない、と判断し、原告の請求を棄却した。

1.本件特許1及び3は特許法36条6項1号に違反しているかについて
「「最中」という文言は,本件特許1の分割出願時に「同時」という文言であったところ,「同時」はCHOP療法の各薬剤とリツキシマブを交互に投与する態様,すなわち,休薬期間中の投与を含むものであり,その態様は甲38文献に記載されており,新規性及び進歩性を欠くなどとして拒絶理由を通知され,拒絶理由を回避するために補正によって導入された文言であり,出願人であるバイオジェンによる本件意見書において,「最中」とすることにより,本件発明1は甲38文献で開示されているものとは異なる発明となることが示されている。・・・そうであれば,・・・CHOP療法の各薬剤の休薬期間中に投与するものは,「(CHOP)による化学療法の最中」から除外されたものと解するのが相当である。したがって,・・・「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間のうち,CHOP療法の各薬剤の投薬期間中を意味すると解するのが相当である。」

「そうすると,・・・本件明細書1及び3の発明の詳細な説明に,本件発明1及び3の用途を記載又は示唆するものはなく,本件全証拠によっても,本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載及び本件原出願日当時の技術常識に基づき,リツキシマブを含む医薬組成物を本件発明1及び3の用途に使用することにより新たに有効な治療法を提供するという発明の課題を解決することができると認識し得ると認めることはできない。よって,本件発明1及び3に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に適合しておらず,本件特許1及び3は,同号に違反する。」

2.被告製剤は「CVP」(構成要件2B)を充足するかについて
「本件原出願日当時の技術常識に照らせば,構成要件2Bの「CVP」は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するものであり,シクロホスファミドを1日目にのみ投与するものは含まないものと認めるのが相当である。・・・「CVP」については,本件特許2の特許請求の範囲及び本件明細書2に具体的な説明がされていない以上,技術常識を踏まえて,その意義,内容を解釈し得ることは当然である。」

「被告製剤についてみると,・・・被告製剤の添付文書には,用法・用量欄に「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合」が記載され,用法・用量に関連する使用上の注意として,「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」と記載されている。また,臨床成績欄には,被告製剤の臨床成績として,未治療の進行期ろ胞性リンパ腫の患者に,被告製剤又は先行バイオ医薬品がR-CVPレジメンによって投与されたことが記載されているほか,先行バイオ医薬品の臨床成績として,・・・ろ胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に,R-CVPレジメンによる寛解導入療法等が実施されたことが記載されている。そして,・・・被告製剤の添付文書に記載されているR-CVPレジメンは,リツキシマブを1日目に投与するとともに,シクロホスファミド(CPA)及びビンクリスチン(VCR)を1日目,プレドニゾロン又はプレドニソン(PSL)を1日目から5日目まで投与するレジメンであると認められる。そうすると,被告製剤は,添付文書に記載されたR-CVPレジメンがシクロホスファミドを1日目にのみ投与するものであり,1日目から5日目まで投与するものでない点で,構成要件2Bの「CVP」を充足するとはいえない。」

【コメント】

リツキサン®のバイオ後続品(リツキシマブBS「KHK」)の製造販売を特許権侵害で訴えたジェネンテック・中外製薬・全薬工業の主張は認められなかった。

本件出願の審査において、先行文献に記載された発明と明確に区別し、新規性・進歩性の主張をするために「前」と「後」に抗CD20抗体を投与するスケジュールは含まれない、すなわち「最中」とする補正をせざるを得なかったのだろう。その決断は、一方で記載要件欠如となるリスクを生むことになることは出願人は承知していたのではないか。ジェネンテック・中外製薬・全薬工業にしてみれば、非常に厳しい状況での訴訟提起だったに違いない。特許査定となり権利行使にチャレンジできたのだから御の字であろう。

被告製剤は「CVP」を充足するかについての争いに関して、「CVP」については明細書に具体的な記載がないため技術常識が参酌されることになり、その解釈の結果、被告製剤はその構成を充足しないと判断された。クレームに記載する構成要件は、明細書に具体的に説明しておくべきだった。そのようにしてあれば、もっと被告製剤を捉える構成に落とし込む補正を出来ていたかもしれない。進歩が著しい医療分野では、治療ガイドラインや投与レジメンは度々変更されることになるから、出願時にそれらで慣用されていた用語が現在も具体的に同じものを意味するとは限らないという点については出願時のクレーム及び明細書作成時において注意する必要がある。

リツキシマブ(遺伝子組換え)製剤初のバイオ後続品(バイオシミラー)であるリツキシマブBS点滴静注100mg、500mg「KHK」の販売が始まった2018年から、先発品であるリツキサン®の売上は以下の通り減少している(中外製薬ホームページ: 製商品別売上高の推移より)。
一方、協和キリンのバイオ後続品リツキシマブBS「KHK」の売上推移は以下の通り。
参考:
過去記事:

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