そう痒症改善剤レミッチ®OD錠の特許権の存続期間の延長登録「腹膜透析患者」についての無効審決部分は取消しとする判決。
本件特許について、
- レミッチOD錠「血液透析患者、慢性肝疾患患者のそう痒症」
- ノピコールカプセル「慢性肝疾患患者のそう痒症」
- レミッチカプセル「腹膜透析患者のそう痒症」
- レミッチOD錠「腹膜透析患者のそう痒症」(本件延長登録)
の延長登録出願または延長登録についての審決取消判決が同日に言い渡されたね。
1.はじめに
本件(知財高裁令和2年(行ケ)10098)は、東レが保有する「止痒剤」に関する特許権の存続期間の延長登録(出願番号2017-700310)を無効とする審決(無効2020-800004号)に対する取消訴訟である。
争点は、①被告ニプロに被告適格があるか否か、②本件特許(第3531170号)を実施するために本件処分を受けることが必要であったか否か、③延長登録の一部について無効理由があった場合に当該延長登録の一部のみを無効にすることができるか否かである。
なお、上記①については、被告ニプロに被告適格があり、被告ニプロの被告適格に対する本案前の抗弁は理由がないとする中間判決が言い渡されている(2020.12.02 「東レ v. 沢井製薬・ニプロ」 知財高裁令和2年(行ケ)10096, 令和2年(行ケ)10097, 令和2年(行ケ)10098(中間判決))。
裁判所は、上記②について原告が主張する取消事由1は理由があり、本件審決にはその結論に影響を及ぼす違法があるものの、本件審決が、上記③についての部分を無効にしたことは正当であるから、本件審決のうち「本件延長登録のうち『処分の対象となった医薬品について特定された用途』が『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)』との部分は無効とする」部分以外を取り消し、その余の請求を棄却した。
本事件と判決内容は以下の同日判決言渡し事件と一部共通するのでそちらも参照。
2.経緯
(1)本件特許(第3531170号)
【発明の名称】止痒剤
【特許番号】特許第3531170号
【登録日】2004.03.12
【出願番号】特願平10-524506
【出願日】1997.11.21
【優先日】1996.11.25
【特許権者】東レ株式会社
【請求項1】下記一般式(I)
[式中、・・・(省略)・・・]で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤。
(2)本件処分
本件延長登録は、以下の処分に基づくものである。
イ 延長登録の理由となる処分
薬機法14条9項に規定する医薬品に係る同項の承認
ウ 処分を特定する番号 22900AMX00538000
エ 処分を受けた日 平成29年9月22日
オ 処分の対象となった医薬品
販売名 レミッチOD錠2.5μg
有効成分 ナルフラフィン塩酸塩
カ 処分の対象となった医薬品について特定された用途
(補正後)次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)
透析患者(血液透析患者を除く),慢性肝疾患患者
本件医薬品については、本件処分に先立ち、
- 平成29年3月30日にされた先行処分
効能・効果
「次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)
血液透析患者,慢性肝疾患患者」
がされていた。
本件処分は、先行処分の後、「腹膜透析患者」にも効能・効果が認められ、既に承認を取得している効能・効果と合わせて「次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る) 透析患者,慢性肝疾患患者」として平成29年9月22日にされた承認である。
- 2017.09.22 東レ press release: そう痒症改善剤「レミッチ®カプセル2.5μg」、「レミッチ®OD錠2.5μg」の国内における効能追加承認取得のお知らせ
ここで、先行処分とは、以下の事件で争われている延長登録出願に係る処分である。
(3)本件審決の要点
被告沢井製薬は本件延長登録について無効審判(無効2020-80004号事件)を請求した(被告ニプロは参加)。特許庁は、「特許第3531170号の特許権存続期間延長登録出願2017-700310号に基づく特許権の存続期間の延長登録を無効とする。」との審決をした。
ア 無効理由1について
ナルフラフィン塩酸塩を有効成分とする本件医薬品は,本件発明1の発明特定事項を・・・備えていないから,本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められない。
イ 無効理由2について
慢性肝疾患患者を対象とする場合についても,先行処分によって実施できるようになっていたのであるから,慢性肝疾患患者を対象とする場合の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められない。・・・本件延長登録のうち「処分の対象となった医薬品について特定された用途」が「慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」の部分について理由がある。
ウ むすび
以上のとおり,本件延長登録は,その全体が旧特許法125条の2第1項1号に該当し,無効とすべきものである。
3.裁判所の判断(抜粋)
主 文
1 特許庁が無効2020-800004号事件について令和2年7月28日にした審決のうち「特許第3531170号の特許権存続期間延長登録出願2017-700310号に基づく特許権の存続期間の延長登録のうち『処分の対象となった医薬品について特定された用途』が『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)』との部分を無効とする。」という部分以外を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
(1)取消事由1(本件医薬品の有効成分に関する事実認定の誤り)について
本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったかどうかについて
ア 特許権の存続期間の延長登録の制度は,政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とするものであるから,本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったかどうかは,このような特許法の存続期間延長の制度が設けられている趣旨に照らして判断されるべきであり,その場合における本件処分の内容の認定についても,このような観点から実質的に判断されるべきであって,承認書の「有効成分」の記載内容から形式的に判断すべきではない。このように解することは,最高裁平成26年(行ヒ)第356号同27年11月17日第三小法廷判決・民集69巻7号1912頁の趣旨にも沿うものということができる。
イ 前記(1)エで認定した事実からすると,医薬品について,良好な物性と安定性の観点からフリー体に酸等が付加されて,フリー体とは異なる化合物(付加塩)が医薬品とされる場合があること,そのような医薬品が人体に取り込まれたときには,付加塩からフリー体が解離し,フリー体が薬効及び薬理作用を奏すること,ナルフラフィンとナルフラフィン塩酸塩についても同様の関係にあり,ナルフラフィンとナルフラフィン塩酸塩で薬効及び薬理作用に違いがないことは,平成18年11月28日に先行処分1に係る製造販売の承認申請がされた時までに,当業者に広く知られていたものと認められる。
ウ 上記イで述べたところに,前記(1)オ,カ,キで認定した事実や前記(1)クの専門家の意見書の内容を総合すると,医薬品分野の当業者は,医薬品の目的たる効能,効果を生ぜしめる作用に着目して,医薬品に配合される付加塩だけでなく,そのフリー体も「有効成分」と捉えることがあるものと認められる。
エ 前記(1)ア~ウのとおり,先行処分1に係る製造販売承認書には,「成分」として「ナルフラフィン塩酸塩」と記載されており,本件添付文書にも「有効成分に関する理化学的知見」として,「ナルフラフィン塩酸塩」と記載され,その構造式や性状などが記載されているが,これは,賦形剤などの製剤補助剤と区別する観点から,実際に医薬品に配合されている原薬(付加塩)を有効成分として捉えていることに基づく記載であると解される。これに対し,本件添付文書の「有効成分・含量(1カプセル中)」の欄に,「ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)」と記載されており,本件インタビューフォームには,和名は「ナルフラフィン塩酸塩」と記載されているものの,洋名については「ナルフラフィン塩酸塩」と「ナルフラフィン」が併記されているし,「有効成分(活性成分)の含量」として,「カプセル:1カプセル中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)含有 OD錠:1錠中ナルフラフィン塩酸塩2.5μg(ナルフラフィンとして2.32μg)含有」と記載されている。
そして,前記(1)アのとおり,先行処分1に係る製造販売承認書では,・・・同じく,前記(1)イ,ウのとおり,本件添付文書や本件インタビューフォームにおける,本件医薬品の「薬物動態」の血漿中濃度推移や薬物動態パラメータもナルフラフィン塩酸塩ではなく,ナルフラフィンを測定して得られたものとなっている。オ 以上のことを考え併せると,本件処分の対象となった本件医薬品の有効成分は,先行処分1に係る製造販売承認書に記載された「ナルフラフィン塩酸塩」と形式的に決するのではなく,実質的には,本件医薬品の承認審査において,効能,効果を生ぜしめる成分として着目されていたフリー体の「ナルフラフィン」と,本件医薬品に配合されている,その原薬形態の「ナルフラフィン塩酸塩」の双方であると認めるのが相当である。
したがって,「ナルフラフィン塩酸塩」のみを本件医薬品の有効成分と解し,「ナルフラフィン」は,本件医薬品の有効成分ではないと認定して,本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとはいえないと判断した本件審決の認定判断は誤りであり,取消事由1は理由がある。
※上記部分の判決内容は以下の同日判決言渡し事件と共通するのでそちらも参照。
(2)取消事由5(延長登録要件を充足する部分を除外せずに延長登録全部無効判断をしたことの法解釈の誤り)について
本件審決は,無効理由2については本件延長登録が部分的に無効になるにすぎないが,無効理由1があることにより,結局,本件延長登録全体が無効となることから,「第6 むすび」で「その全体が」と判断したものと解される。
すなわち,本件審決は,無効理由1に基づいて本件延長登録全体を無効にするとともに,無効理由2に基づいて本件延長登録のうち「処分の対象となった医薬品について特定された用途」を「慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」とする部分のみを無効にしたものであると解される。
ア 原告の主張について
原告は,本件審決が,無効理由2に基づいても本件延長登録全部を無効にしたとの前提に立って,取消事由5について主張するが・・・本件審決は,無効理由2に基づいて本件延長登録全体を無効にしたものではないから,原告の主張は,その前提において失当である。
延長登録を全体として不可分と解すべき根拠はなく,延長登録がされた「用途」の一部については,旧特許法67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められない場合には,その部分のみを無効審判において無効にすることができ,そのようにすべきであると解される。この点について特に明文の規定はないが,明文の規定がないからといって,上記のように可分と解することが妨げられる理由は見いだし難い。
イ 被告らの主張について
被告らは,①2件の最高裁判決からすると,延長登録を部分的に無効にできるのは,特許法に明文で規定された場合に限られる,②最初から慢性肝疾患を除外して,腹膜透析患者に対する用途についてのみ延長登録の出願をすることができたのに,それをしなかったのは原告の責任であるから,本件延長登録全体が無効となることはやむを得ないなどと主張する。
しかし,被告沢井製薬が指摘する2件の最高裁判決は,特許出願に対する特許査定の不可分性を説示したものであり,延長登録出願に関するものではなく,本件とは事案を異にするものであって,前記(1)の判断を左右するものとはいえない。
また,特許法では,延長登録出願は,審査官により審査が行われ,当該出願が,旧特許法67条の3第1項各号のいずれかに該当するとされた場合に,拒絶理由通知が発せられ(旧特許法67条の4,特許法50条),出願人はそれに応じて補正(特許法17条1項)などの応答をするとされているのであるから,出願人が,拒絶理由を全く含まずに延長登録出願をすることは必ずしも特許法の予定するところではないといえる。そうすると,本件の延長登録出願において,出願人である原告が,本件延長登録出願の願書において,旧特許法67条2項の「政令で定める処分の内容」(平成29年経済産業省令第3号による改正前の特許法施行規則38条の15)として,先行処分2との関係を考慮した記載を行わなかったとしても,それをもって,本件延長登録全体が無効となることはやむを得ないということはできないというべきであって,前記(1)の判断を左右するものではない。
(3)結論
取消事由1は理由があり,本件審決にはその結論に影響を及ぼす違法があるものの,本件審決が,無効理由2に基づき,本件延長登録のうち「処分の対象となった医薬品について特定された用途」を「慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)」とする部分を無効にしたことは正当であるから,本件審決のうち「本件延長登録のうち『処分の対象となった医薬品について特定された用途』が『慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)』との部分は無効とする」部分以外を取り消し,その余の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
透析患者(血液透析患者を除く)・・・つまり「腹膜透析患者」・・・におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)部分のレミッチOD錠延長登録無効とした審決判断を取消したということだね。
4.コメント
(1)本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったかどうかは実質的に判断すべき
本件特許の請求の範囲は「ナルフラフィン」のフリー体を保護するもので、本件医薬品に配合されている原薬形態の「ナルフラフィン塩酸塩」を範囲に含まないようである。この点、特許庁は、本件医薬品の有効成分は「ナルフラフィン塩酸塩」であるとして本件延長登録を無効であると審決した。
しかし、知財高裁は、特許権の存続期間延長制度の趣旨に照らして、実質的に登録可否を判断すべきであるとの一般原則を示したうえで、本件においては、実質的には、効能・効果を生ぜしめる成分はフリー体の「ナルフラフィン」であるから、「ナルフラフィン」も本件医薬品の有効成分であると認め、従って、本件発明(「ナルフラフィン」のフリー体)の実施に本件処分を受けることが必要であった、ということを判断したといえる。
上記と同内容の同日言渡し判決:
- 2021.03.25 「東レ v. 特許庁長官」 知財高裁令和2年(行ケ)10063
- 2021.03.25 「東レ v. 沢井製薬・ニプロ」 知財高裁令和2年(行ケ)10096
- 2021.03.25 「東レ v. 沢井製薬・ニプロ」 知財高裁令和2年(行ケ)10097
- 2021.03.25 「東レ v. 沢井製薬・ニプロ」 知財高裁令和2年(行ケ)10098(本件)
(2)「フリー体の特許発明を実施する」ことの意味
「ナルフラフィン」は本件医薬品の有効成分ではないと認定して本件発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとはいえないとした本件審決の認定は誤りであると判断した知財高裁。
すなわち、本件発明であるフリー体の実施に本件処分を受けることが必要であったことを認めた判断といえる。
物の発明について、「実施」とは・・・。
様々な論点・議論を生み出しそうだ。
(3)本件延長登録の「慢性肝疾患患者」部分は無効だが、「腹膜透析患者」部分は無効取消し
裁判所は、延長登録に一部無効理由があるから全体として無効であるとか、一部無効理由がないから全体として有効であるとか、というような、延長登録を全体として不可分と解すべきではなく、可分と解すべきであると判示した。
延長登録を全体として不可分と解すべき根拠はなく,延長登録がされた「用途」の一部については,旧特許法67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められない場合には,その部分のみを無効審判において無効にすることができ,そのようにすべきであると解される。この点について特に明文の規定はないが,明文の規定がないからといって,上記のように可分と解することが妨げられる理由は見いだし難い。
本件について、裁判所は、透析患者(血液透析患者を除く)・・・つまり「腹膜透析患者」・・・におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)部分のレミッチOD錠延長登録を無効とした審決判断を取消した。
従って、レミッチOD錠の「慢性肝疾患患者」におけるそう痒症の改善を効能・効果(用途)についての本件延長登録は無効であるが、「腹膜透析患者」におけるそう痒症の改善を効能・効果(用途)についての本件延長登録は無効ではないことになる。
本件特許権の存続期間満了日は2022年11月21日である。
(4)別件審決取消訴訟
本件特許に係る特許権は、東レが製造販売する経口そう痒症改善剤レミッチ®(一般名: ナルフラフィン塩酸塩)を保護し、その20年の存続期間満了日は2017年11月21日だが、以下の存続期間延長登録出願または登録
- 特願2017-700154(レミッチOD錠「血液透析患者、慢性肝疾患患者」)
- 特願2015-700061(ノピコールカプセル「慢性肝疾患患者」)
- 特願2017-700309(レミッチカプセル「腹膜透析患者」)
- 特願2017-700310(レミッチOD錠「腹膜透析患者」)(本件延長登録)
により現在も存続している。
本件特許については、無効審判請求不成立審決取消訴訟(記事参照:2021.03.25 「沢井製薬 v. 東レ」 知財高裁令和2年(行ケ)10041)のほか、上記延長登録出願・延長登録に関して、以下の4件の各判決が同日に言い渡されている(いずれも審決の取消し)。
- 令和2年(行ケ)10063:特許3531170号の下記処分(承認)に基づく延長登録出願(2017-700154)の拒絶審決(不服2018-7539号事件)取消訴訟(記事参照:2021.03.25 「東レ v. 特許庁長官」 知財高裁令和2年(行ケ)10063)。
販売名 レミッチOD錠2.5μg
有効成分 ナルフラフィン塩酸塩
(2)処分の対象となった医薬品について特定された用途
次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)
血液透析患者,慢性肝疾患患者
- 令和2年(行ケ)10096:特許3531170号の下記処分(承認)に基づく延長登録(2015-700061)の無効審決(無効2020-800002号事件)取消訴訟(記事参照:2021.03.25 「東レ v. 沢井製薬・ニプロ」 知財高裁令和2年(行ケ)10096)。
販売名 ノピコールカプセル2.5μg
有効成分 ナルフラフィン塩酸塩
(2)処分の対象となった医薬品について特定された用途
慢性肝疾患患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)
- 令和2年(行ケ)10097:特許3531170号の下記処分(承認)に基づく延長登録(2017-700309)の無効審決(無効2020-800003号事件)取消訴訟(記事参照:2021.03.25 「東レ v. 沢井製薬・ニプロ」 知財高裁令和2年(行ケ)10097)
販売名 レミッチカプセル2.5μg
有効成分 ナルフラフィン塩酸塩
(2)処分の対象となった医薬品について特定された用途
次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)
透析患者(血液透析患者を除く)、慢性肝疾患患者
- 令和2年(行ケ)10098:特許3531170号の下記処分(承認)に基づく延長登録(2017-700310)の無効審決(無効2020-800004号事件)取消訴訟(本件)。
販売名 レミッチOD錠2.5μg
有効成分 ナルフラフィン塩酸塩
(2)処分の対象となった医薬品について特定された用途
次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)
透析患者(血液透析患者を除く)、慢性肝疾患患者
5.おわりに
2018年6月よりレミッチ®の後発医薬品である「ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5μg「サワイ」」の製造販売を開始した沢井製薬に対して東レは特許権侵害訴訟を提起している(下記過去記事参照)。
- 2019.10.20 レミッチ®用途特許に対するジェネリックメーカーの動き
- 2018.12.12 東レがレミッチ®OD錠後発品を販売する沢井・扶桑を特許侵害で提訴
すなわち、延長された特許権(医薬用途発明)の行使を争う事件であり、まだ判決例の少ない延長された特許権の効力についての裁判所による判断がどうなるのか注目される。
本件特許について無効審判請求不成立審決取消訴訟で東レが勝訴(記事参照:2021.03.25 「沢井製薬 v. 東レ」 知財高裁令和2年(行ケ)10041)、延長登録出願拒絶審決取消訴訟で東レが勝訴(記事参照:2021.03.25 「東レ v. 特許庁長官」 知財高裁令和2年(行ケ)10063)、延長登録無効審決取消訴訟で東レが勝訴(記事参照:2021.03.25 「東レ v. 沢井製薬・ニプロ」 知財高裁令和2年(行ケ)10096、2021.03.25 「東レ v. 沢井製薬・ニプロ」 知財高裁令和2年(行ケ)10097)、そして、本件でも知財高裁が本件延長登録の無効審決を取消し、事実上東レが勝訴したことで、侵害訴訟の行方は大きな影響を受けると思われる。
参考:
- 2021.01.06 沢井製薬 press release: ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5μg「サワイ」 効能・効果追加承認取得のお知らせ
沢井製薬株式会社(本社:大阪市淀川区、代表取締役社長:澤井健造)は、本日1月6日、ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5μg「サワイ」につきまして、「効能・効果」の追加承認を取得したことをお知らせいたします。
これにより、先発品と効能・効果および用法・用量が同一になりました。
効能・効果(下線部分が追加項目)
次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)
〇透析患者※
〇慢性肝疾患患者※これまでは、「血液透析患者」への投与のみ認められていましたが、今回の効能・効果追加承認取得により、「腹膜透析患者」への投与も認められたため、今回、「透析患者」との表記に変更されました。
– 「2021.01.06 沢井製薬 press release: ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5μg「サワイ」 効能・効果追加承認取得のお知らせ」より
本件で「腹膜透析患者」についての無効審決部分が取消されたことで、後発医薬品の中で「腹膜透析患者」を含む効能・効果を標榜する製品は影響が出る可能性が出てきたかもしれないね。
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