2025年11月21日付のラクオリア創薬株式会社(以下「ラクオリア」)の発表によると、同社が保有する胃酸分泌抑制剤 tegoprazan(韓国販売名「K-CAB®錠」)の韓国物質特許(韓国特許番号:特許第1088247号)につき、韓国の後発品メーカー等 60社以上が延長された特許権の効力範囲を争う消極的権利範囲確認審判を請求していました。特許審判院(第一審に相当)および特許法院(第二審)に続き、大法院(第三審)においても原告側の上告がすべて棄却され、ラクオリアが最終的に勝訴した判決が確定したとのことです。これにより、2031年まで韓国におけるK-CAB®錠の独占販売権が確立され、HK inno.N Corporation(以下「HK イノエン社」)とのライセンス契約に基づくロイヤルティが確保される見通しとのことです(2025.11.21 ラクオリア press release: 大法院における全件勝訴判決のお知らせ)。
Tegoprazanは、ラクオリアが創製し、提携先である HK イノエン社が韓国で開発・販売するGERD(胃食道逆流症)など酸関連疾患向けの胃酸分泌抑制剤です。2019年に韓国で発売され、2024年までの韓国国内売上(院外処方実績)累計では7,054億ウォン(約705.4億円/1ウォン=0.10円換算)に達する大型製品となり、同国の胃酸分泌抑制剤市場でシェア第1位を維持しているとのことです。
本件物質特許は、医薬品等の特許権存続期間延長制度により2031年まで延長されていました。しかし、韓国の後発品メーカー等は、通常の特許期間満了直後である2026年からの後発品発売を目指し、K-CAB®錠の適応症のうち、当初承認の適応症(びらん性胃食道逆流症および非びらん性胃食道逆流症)を除いた、後続承認の3適応症(胃潰瘍、ヘリコバクターピロリ除菌のための併用療法および維持療法)については、延長特許権の効力が及ばないと主張して審判を請求していました。
これに対し、2024年、特許審判院はラクオリアの主張を全面的に支持し、延長特許権の効力は後続承認の適応症にも及ぶとの判断を示していました(2025.08.14 ラクオリア press release: 胃酸分泌抑制剤 tegoprazan に関する審決取消訴訟の全件勝訴判決のお知らせ)。
ラクオリア側を代理したKIM&CHANG法律事務所の2025年8月14日付ニュースレター(特許法院、最初の許可に基づいて存続期間が延長された特許権の効力が及ぼす効力範囲に後続の許可適応症も含まれると判断)によると、特許法院(第二審)の判断は以下のとおりとされています(事件番号:2024ホ13541、2024ホ13695等)。
- 特許法と薬事法の目的、特許存続期間延長制度と医薬品品目許可制度の各趣旨及び具体的運用方式等を総合してみると、延長された特許権の効力範囲を判断するための基準としての「用途」は、「最初の品目許可を受けた適応症」だけでなく、これと実質的に同一の疾患の予防と治療に使用される医薬品の適応症まで全て含むと解するのが妥当である。
- 「用途」の同一については、明細書の記載等を通して把握した特許発明の技術的意義や技術思想の核心、薬理メカニズムの同一性、適用対象器官(organ)や組織(tissue)等、具体的適用部位、対象病症、処方等の使用現況等を総合的に考慮し、具体的かつ個別的に判断すべきである。
- 本件の最初の許可適応症と後続の許可適応症は、①本件物質発明の技術的意義及び明細書記載事項、②教科書、ガイドライン、学術文献等の通常の技術者の常識、③最初の医薬品品目許可報告書等を考慮すると、いずれも本件特許発明で公開した「プロトンポンプを抑制するメカニズムのカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(potassium competitive acid blocker)を通じた胃酸分泌抑制」という治療効果に基づいて治療できる「酸関連疾患」に属するものであって、用途が同一である。
今回、大法院(第三審)においても上告がすべて退けられたことにより、韓国では延長特許権の効力が最初の適応症だけに限定されず、追加された全ての適応症に及ぶことが明確になりました。延長存続期間中であるにもかかわらず、後発品メーカーが一部適応症のみで上市を図る、いわゆる「虫食い」によるただ乗りを排した重要な判決といえます。


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