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2022.03.08 「ノバルティス v. アストラゼネカ」 知財高裁令和3年(行ケ)10041・・・COPD治療薬の登録商標「BREZTRI」を巡る争い

Summary

知財高裁は、

アストラゼネカの登録商標「BREZTRI」に対してノバルティスが請求した無効審判事件において、

  • 本件商標は、ノバルティスが商標権者である商標「ONBREZ」及び「BREEZHALER」に類似しない(商標法4条1項11号に該当せず)
  • 本件商標は、ノバルティスのCOPD治療薬「OnbrezBreezhaler」(「オンブレス®吸入用カプセル150μg」及びその専用吸入器「ブリーズヘラー®」)と混同を生ずるおそれはない(同条項15号に該当せず)

とした本件審決の判断に誤りはなく、取消事由はいずれも理由がないと判断し、ノバルティスの審決取消しを求める請求を棄却した。

アストラゼネカは、同社のCOPD治療薬に、「ビレーズトリ/BREZTRI」を使用しているが、ノバルティスとの商標紛争を背景に、欧州では「TRIXEO」を使用している。

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1.事件の背景

アストラゼネカは、「BREZTRI」の文字を標準文字で表してなり、指定商品を第5類「薬剤(農薬に当たるものを除く。)」とする商標(登録第6109074号、出願番号: 商願2018-022287)の商標権者である。

登録第6109074号(本件商標)
商標の構成 「BREZTRI」(標準文字)
指定商品 第5類「薬剤(農薬に当たるものを除く。)」
設定登録日 平成30年(2018年)12月21日(登録出願 平成30年(2018年)2月23日)

ノバルティスは、2019年11月29日、本件商標について、商標登録無効審判を請求した(無効2019-890073号)。

しかし、特許庁は、「本件商標は、本件各引用商標と類似する商標であるとはいえないから商標法4条1項11号には該当せず、また、原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であるとはいえないから同条項15号にも該当しない。」と判断して、「本件審判の請求は成り立たない。」とする審決をした。

そこで、ノバルティスは、本件審決の取消しを求めて、本件訴えを提起した(知財高裁令和3年(行ケ)10041)。

商標法4条1項11号による無効理由としてノバルティスが引用した商標は、ノバルティス自身が商標権者ある次の各商標(併せて「本件各引用商標」と総称)である。

国際登録第884931号商標(「引用商標1」)
商標の構成
指定商品 第5類「Pharmaceutical preparations.」
国際登録日 平成18年(2006年)5月18日(優先権主張 平成18年(2006年)5月15日 スイス)
設定登録日 平成19年6月15日
国際登録第893313号商標(「引用商標2」)
商標の構成
指定商品 第5類「Pharmaceutical preparations.」及び第10類「Medical apparatus and inhalers.」
国際登録日 平成18年(2006年)8月18日(優先権主張 平成18年(2006年)8月7日 スイス)
設定登録日 平成19年8月3日

ノバルティスは、COPD治療薬「OnbrezBreezhaler」を販売しており、当該治療薬につき、ノバルティスの日本法人であるノバルティスファーマ株式会社が、平成23年(2011年)9月20日、「オンブレス吸入用カプセル150μg」(原告治療薬)との名称で、日本国内における販売を開始するとともに、その専用吸入器である「ブリーズヘラー」(原告吸入器)の販売も開始していた。

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2.裁判所の判断

知財高裁は、

アストラゼネカの登録商標「BREZTRI」に対してノバルティスが請求した無効審判事件において、

  • 本件商標は、ノバルティスが商標権者である商標「ONBREZ」及び「BREEZHALER」に類似しない(商標法4条1項11号に該当せず)
  • 本件商標は、ノバルティスのCOPD治療薬「OnbrezBreezhaler」(「オンブレス®吸入用カプセル150μg」及びその専用吸入器「ブリーズヘラー®」)と混同を生ずるおそれはない(同条項15号に該当せず)

とした本件審決の判断に誤りはなく、取消事由はいずれも理由がないと判断し、ノバルティスの審決取消しを求める請求を棄却した。

以下に、裁判所の判断を抜粋する。

(1)商標法4条1項11号該当性に関する判断

(1) 判断基準

「商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である。そして,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品又は役務につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,右三点のうちその一つにおいて類似するものでも,他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によって,何ら商品又は役務の出所に誤認混同をきたすおそれの認め難いものについては,これを類似商標と解すべきではない(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。

また,商標はその構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものであるから,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標を除き,みだりに商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照)。」

(2) 本件商標と引用商標1との類否について

「・・・本件商標及び引用商標1は,外観及び称呼が明らかに相違するというべきであり,いずれも特定の観念を生じないものであるから,両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,当該商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。

したがって,本件商標は,引用商標1と類似する商標であるということはできない。」

(3) 本件商標と引用商標2との類否について

「・・・本件商標及び引用商標2は,外観及び称呼が明らかに相違するというべきであり,いずれも特定の観念を生じないものであるから,両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,当該商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえない。

したがって,本件商標は,引用商標2と類似する商標であるということはできない。」

(4) 原告の主張に対する判断

「原告は,本件商標につき,「BREZ」部分を要部として分離観察することが可能である旨主張する。

しかしながら,・・・本件商標は,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合している商標というべきであるから,全体を一連一体のものとして観察するのが相当であり,「BREZ」部分と「TRI」部分とを分離して観察することはできないというべきである。

原告は,引用商標1につき,「BREZ」部分を要部として分離観察することが可能である旨主張する。しかしながら,・・・引用商標1は,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合している商標というべきであるから,全体を一連一体のものとして観察するのが相当であり,「ON」部分と「BREZ」部分とを分離して観察することはできないというべきである。

原告は,引用商標2につき,「BREEZ」部分を要部として分離観察することが可能である旨主張する。しかしながら,・・・引用商標2は,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合している商標というべきであるから,全体を一連一体のものとして観察するのが相当であり,「BREEZ」部分と「HALER」部分とを分離して観察することはできないというべきである。

(2)商標法4条1項15号該当性に関する判断

(1) 判断基準

「商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該指定商品又は指定役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該指定商品又は指定役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。そして,上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。」

(2) 原告の表示の周知著名性の程度等

「・・・上記のとおり,原告治療薬及び原告吸入器の商品名である「オンブレス」,「ブリーズヘラー」及び「オンブレスブリーズヘラー」は,相当程度の周知性を有していたものといえるものの,これらの商品名のうち「ブレス」部分又は「ブリーズ」部分が格別の造語として需要者に認識されていたものとうかがわせる事情は存しないことからすれば,これらの部分のほか,これらの部分に対応する引用商標1の「BREZ」部分及び引用商標2の「BREEZ」部分についても,周知であるということはできない。」

(3) 取引者及び需要者の共通性

「本件商標の指定商品は,「薬剤(農薬に当たるものを除く。)」であり,本件各引用商標に係る商品は,COPD治療薬及びその専用吸入器であるから,これらは同一又は類似のものといえる。そして,その主な取引者及び需要者は,医師等の医療従事者及び患者であり,共通するものといえる。」

(4) 本件商標及び原告の表示の類似性

「・・・原告治療薬及び原告吸入器の商品名である「オンブレス」及び「ブリーズヘラー」は,本件各引用商標に対応する和名の表示であるといえる。そして,・・・本件商標は,本件各引用商標と類似するものとはいえないから,上記の各商品名とも類似しないというべきである。

したがって,本件商標及び原告の表示の類似性の程度は著しく低いというべきである。」

(5) 検討

「上記(2)ないし(4)の各事情を基に検討すると,本件商標及び原告の表示の類似性の程度は著しく低いというべきであることからすれば,原告治療薬及び原告吸入器の商品名が相当程度の周知性を有し,それに伴い本件各引用商標もある程度の周知性を有することや,本件商標の指定商品及び本件各引用商標に係る商品の主な取引者及び需要者が共通することを考慮しても,本件商標の指定商品の取引者及び需要者が,本件商標が付された商品に接した場合に,当該商品が原告の業務に係る商品であると混同するおそれがあるということはできない。

(6) 原告の主張に対する判断

「原告は,需要者は本件各引用商標の中でも特徴的で識別力の強い部分である「BREZ」部分及び「BREEZ」部分に注目するものであり,これらの部分は本件商標の「BREZ」部分と類似する旨主張する。

しかしながら,上記(2)ウのとおり,原告治療薬の商品名の「ブレス」部分及び原告吸入器の商品名の「ブリーズ」部分のほか,これらの部分に対応する引用商標1の「BREZ」部分及び引用商標2の「BREEZ」部分についても,原告の表示として周知であるということはできないことからすれば,需要者がこれらの部分に注目するものということはできない。そうすると,これらの部分が原告の表示に含まれるからといって,商品の出所について混同が生じるおそれがあるということはできない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。」

(7) 小括

「以上検討したところによれば,本件商標は,原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であるとはいえないから,商標法4条1項15号に該当するものとは認められない。」

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3.コメント

本件の当事者であるノバルティスとアストラゼネカとの間では、問題となった商標「BREZTRI」に関連して、COPD治療用吸入剤で競合している。

  • ノバルティスのCOPD治療薬・・・吸入剤「Onbrez / オンブレス」に専用吸入器「Breezhaler / ブリーズヘラー」を使用する(「Onbrez Breezhaler / オンブレス ブリーズヘラー」)。
  • アストラゼネカのCOPD治療薬・・・「Breztri Aerosphere / ビレーズトリ エアロスフィア」には専用吸入器が含まれる。

以下にそれぞれの製品を紹介するとともに、本件と関連する商標紛争についても記す。

(1)ノバルティスのオンブレス®吸入用カプセル150μg

オンブレス®吸入用カプセルは、インダカテロールマレイン酸塩(Indacaterol Maleate)を有効成分とする新規長時間作用性吸入β2刺激薬である。

2011年7月、ノバルティスファーマ株式会社は、「慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎、肺気腫)の気道閉塞性障害に基づく諸症状の緩解」を効能・効果として「オンブレス®吸入用カプセル 150μg 」の日本での製造販売承認を取得した。

販売名の和名は「オンブレス®吸入用カプセル 150μg」、洋名は「Onbrez® inhalation capsules 150μg」であり、当該製品の医薬品インタビューフォーム(2021年3月改訂(第11版))によると、その名称の由来として、以下の記述がされている。

1日1回投与を意味する「once daily」と、やさしい空気の流れである「そよ風」を意味する「breeze」を組み合わせて「Onbrez(オンブレス)」と命名した。
本剤は、専用の吸入用器具(ブリーズヘラー®)を用いて吸入する必要がある。これら「オンブレス®」と「ブリーズヘラー®」の組合せで「オンブレス®ブリーズヘラー®」との商品名を用いることもある。

(2)アストラゼネカのビレーズトリ®エアロスフィア®56吸入

ビレーズトリ®エアロスフィア® は、1吸入当たり、

  • 吸入ステロイド薬であるブデソニド(Budesonide)160μg
  • 長時間作用性吸入β2刺激薬であるホルモテロールフマル酸塩水和物(Formoterol Fumarate Hydrate)5.0 μg (ホルモテロールフマル酸塩として4.8μg)
  • 長時間作用性吸入抗コリン薬であるグリコピロニウム臭化物(Glycopyrronium Bromide)9.0μg (グリコピロニウムとして7.2μg)

を配合した加圧式定量噴霧吸入器による吸入薬である。

2019年6月、アストラゼネカ株式会社は、「慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎、肺気腫)の諸症状の緩解(吸入ステロイド剤、長時間作用性吸入抗コリン剤及び長時間作用性吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)」を効能・効果として「ビレーズトリ®エアロスフィア®56吸入」の日本での製造販売承認を取得し、同年9月から販売を開始した。

販売名の和名は「ビレーズトリ®エアロスフィア® 56吸入」、洋名は「Breztri® Aerosphere® 56 inhalations」であり、当該製品の医薬品インタビューフォーム(2022年1月改訂 (第5版))によると、その名称の由来として、以下の記述がされている。

Breztri:「Breeze (そよ風) 」と「Breathe (呼吸)」の「Brez」と3薬効成分による治療であることから「triple」の「tri」をとって「Breztri」と名付けられた。
Aerosphere:薬剤結晶と比べて比重の軽い担体がキャリアとなって薬剤を送達させる技術を用いたことから、空気のように軽い「Aero」と担体の「sphere」をとって「Aerosphere」と名付けられた。
ノバルティスが、「ビレーズトリ」の洋名に当たる本件商標「BREZTRI」の登録無効審判を請求したのは、アストラゼネカ株式会社が「ビレーズトリ®エアロスフィア®56吸入」の販売を開始した2か月後であった。

(3)「BREZTRI」に関連するアストラゼネカの登録商標の状況(日本)

  • アストラゼネカの「BREZTRI AEROSPHERE」の文字を標準文字で表してなり、指定商品を第5類「薬剤(農薬に当たるものを除く。)」とする商標(登録第6316644号)についても、ノバルティスから商標登録無効審判が請求されており(無効2021-890026号)、本件商標登録無効審判事件2019-890073(登録第6109074号)の審決の確定を待って審理が再開される。
  • アストラゼネカの「ビレーズトリ」の文字を標準文字で表してなり、指定商品を第5類「薬剤(農薬に当たるものを除く。)」とする商標(登録第6195575号)について、商標登録無効審判は請求されていない。
  • アストラゼネカの「ブレズトリ」の文字を標準文字で表してなり、指定商品を第5類「薬剤(農薬に当たるものを除く。)」とする商標(登録第6105420号)について、商標登録無効審判は請求されていない。

(4)「BREZTRI」を巡るグローバルな商標紛争

ア WIPO Global Brand Databaseによる商標検索

WIPO Global Brand Databaseを利用して、「BREZTRI」の商標検索を実施したところ、以下の26件の商標出願が見つかった(検索日2022.03.21)。

イ 英国・欧州

例えば、英国及び欧州でも、本件(日本)と同様の商標紛争が起きている。

アストラゼネカの「BREZTRI」の国際商標登録(DESIGNATION NO. WO1410987; AU, CH, GB, IS, LI, NO, RU)について、英国で、日本での本件審決・知財高裁判決の結論とは異なり、ノバルティスによる主張が認められ、無効であるとの判断が下された。

また、欧州では、「BREZTRI」の欧州連合商標(EUTM No.17816687)について、2019年9月にノバルティスが申請した無効宣言の請求(No.38382)に対する取消部決定(2021年2月)を不服としてノバルティスが上訴した審判請求事件(Appeal R0737/2021-2)において、2022年1月21日、審判部は、ノバルティスの主張を退け、アストラゼネカの「BREZTRI」の商標登録は有効であるとの審決を下したばかりだ。

BREXITにより、「BREZTRI」の英国商標登録(UK00917816687)は、一応上記欧州連合商標の結果の適用を受けるのだろうが、前記国際商標登録が無効とされたことを踏まえると、英国では無効リスクを孕んでいる。

英国及び欧州では、当該製品の販売前にこの商標を巡る問題が顕在化したため、アストラゼネカは、英国及び欧州での「BREZTRI」の使用を断念したと考えられ、当該製品には「Trixeo Aerosphere」のブランド名を使用している。

ウ 中国

国家知識産権局商標局 中国商標網のウェブサイトを利用して商標「BREZTRI」の法的状況を確認したところ、中国でも、本件(日本)と同様の商標紛争が起きている。

ステータス情報には”Cancellation/Invalidation Pending”と表示されている。

ノバルティスがした無効請求(2019年11月21日)は退けられ、「BREZTRI」の登録商標を維持するとの決定がなされ、その後、上訴されているようである。

エ まとめ

本件(日本)と同様に、少なくとも英・欧州・中国において、アストラゼネカの登録商標「BREZTRI」に対して、ノバルティスから無効請求がなされ、その判断は全てが同じというものではなさそうだ。

英国・欧州での商標紛争の背景もあり、現在、アストラゼネカは、当該COPD治療薬(有効成分: budesonide/glycopyrrolate/formoterol)の商品名を

  • 米・中・日では、「BREZTRI Aerosphere/ブリーズトリ エアロスフィア」
  • 欧州では、「TRIXEO Aerosphere」

として販売している。

製品の特性に関連する事項(例えば、本事例のような有効成分の組合せ数(tri)や投与回数(one))や適応症に関連する事項(例えば、本事例のような呼吸器疾患からの息(breathe)や空気・そよ風(breeze))が共通すれば、競合する製品の商品名検討においては似たような由来を想起しやすく互いの商標は似たものへと近づく可能性が高いこと、その結果、競合メーカーからの当該商標登録に無効の主張をされるリスクも増すことになる。

販売後に商品名を変更することは絶対に避けたいことを踏まえれば、商標の選択にあたってグローバルでの登録性を厳しく保守的に判断して進めることが定石だ。場合によっては、登録性の問題からグローバル統一ブランドを断念することもしばしばある。

そのため、製薬メーカーどうしで実際に販売されている製品の商標を争うことが顕在化する事例は稀である(と思う)。

本件は、グローバル統一ブランドとして製品を販売していくための商標選択とその登録に潜在するリスクがまさに顕在化した貴重な事例といえるのかもしれない。

参考:

  • 本ブログで取り上げた商標関連事件はこちら
Trademark/Unfair competition
「Trademark/Unfair competition」の記事一覧です。

コメント

  1. 匿名 より:

    いつも興味深く読ませて頂いています。
    初歩的な質問で恐縮ですが、商標権の無効を訴えるのは、どのような実益があるのでしょうか。商標権が無効になったところで、その商標が使用できなくなる訳ではないから、と思うのですが。

    • Fubuki Fubuki より:

      コメントありがとうございました。

      商標権は、その商標だけでなくその商標に類似する商標の使用にまで及びます。

      ノバルティスの立場に立てば、「BREZ」というキーワードを含んだ「ONBREZ」で製品ブランディングを進めていたわけですから、「BREZ」周りでブランドを固めて、「BREZ」といえばノバルティスのCOPD治療薬と需要者に想起させたいと願っていたことでしょう。もしかすると、次世代の改良製剤の製品には「ONBREZ3」みたいな周辺名称でブランド戦略を考えていたかもしれません(これは仮想です)。

      一方、アストラゼネカの「BREZTRI」登録商標はその類似範囲にまで排他的な効力が及びますので、考えようによっては、「BREZTRI」=「BREZ3」の意味で、それに類似した「ONBREZ3」のような商標にも及ぶ可能性もあり得ると考えれば、「ONBREZ3」のような商標を将来ノバルティスが使用することにはリスクが出てきます。

      つまり、アストラゼネカの登録商標「BREZTRI」の存在が、今後のノバルティスの製品ブランディングに障害となって立ちはだかることになってくるかもしれません。ノバルティスの将来の製品群のブランディング(「BREZ」まわり)の妨げになりそうな競合品の商標登録を無効にして排除することは、ノバルティスの将来の商標使用の陣地をできるだけ確保するという点で大きな意味があります。

      また、アストラゼネカの商標「BREZTRI」がノバルティス先行登録商標「ONBREZ」との類似等を理由に無効判断となれば、アストラゼネカの商標「BREZTRI」の使用は、ノバルティス「ONBREZ」商標に類似する商標の使用になるわけですから商標権侵害であるということに繋がってきます。そのような訴訟リスクを抱えたままアストラゼネカは商標「BREZTRI」を製品に使用(商標権侵害行為)し続けるとは思えませんので、製品名を変更せざるを得ず、結果アストラゼネカのその製品のブランド力は低下することになります。そうなれば競合するノバルティスにとってはベストシナリオでしたが、日本では無効判断とはなりませんでした。

      少なくとも以上のような点(商標陣地の確保、類似無効判断得られれば侵害訴訟でも有利)で、類似していると思われる競合品の販売名の商標登録の無効を訴え、勝ち取ることは意味のあることだと思います。

  2. 匿名 より:

    アストラゼネカの「BREZTRI」の国際商標登録の英国無効に付きまして、
    こちらが驚きであり詳細な論理建てに興味があるのですが、解説をなされる予定はございますでしょうか。

    • Fubuki Fubuki より:

      コメントありがとうございます。
      その無効判断について深堀する予定はございません。以下の決定の内容をご覧下さい。

      2021.03.31 Trade Mark Inter Partes Decision O/226/21
      https://www.ipo.gov.uk/tm/t-decisionmaking/t-challenge/t-challenge-decision-results/t-challenge-decision-results-bl?BL_Number=O/226/21

      個人的にはスッキリ納得感ある内容には見えませんでしたが、判断基準や他の類似ケースと比較できるほどの材料を持ち合わせておりませんので、英国商標専門家が解説してくれることを期待しております。英国を本拠とするグローバル製薬企業アストラゼネカの商標が英国にて無効判断されてしまったケース。英国民感情としてはどうなのでしょう・・・だからというわけではないでしょうが、ネット上で解説を見つけることはできませんでした。

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