Nov 29, 2018

2018.09.14 「A v. ファイザー」 東京地裁平成29年(ワ)17070

マロピタントの職務発明対価請求権は時効消滅東京地裁平成29年(ワ)17070

【背景】

ファイザー(被告)の元従業員であった原告が「キヌクリジン誘導体」に関する特許(第2645225号)に係る職務発明の譲渡対価を請求した事案。原告はマロピタント(Maropitant)の合成に成功し、その職務発明に係る日本及び外国で特許を受ける権利は、被告の発明考案規程に基づき原告を含む発明者から被告に譲渡された。本件特許は1997年に登録され、本件発明の技術的範囲に属する実施品(有効成分をマロピタントとする犬用の制吐剤「セレニア」)は、ファイザーグループにおいて欧米諸国においては2006年から、日本においては2011年から販売されていた。

【要旨】

裁判所は、本件特許及びこれに対応する外国特許に関する職務発明対価請求権は時効消滅したと認められると判断し、その余の争点について判断せずに原告の請求を棄却した。

新薬セレニアに繋がるマロピタントの発見その後の研究開発に多大なる貢献をしたという功績に対して、平成19年(2007年)5月に、被告から原告に本件支給金(200万円)が支払われたことにより本件職務発明対価請求権の消滅時効が中断したか否かに争いがあった。しかし、本件支給金の支払いに至る経緯についての認定事実によれば、本件支給金は、職務発明の取り扱いについて定めた本件発明考案規程による褒賞としてではなく、当時新たに検討されていた制度(発明者に限らず上市に対する従業員の貢献を全体としてとらえ貢献があった者に対して広く報償する制度)に基づくものであり、本件特許を受ける権利の譲渡の対価としての性質を有するものではないと判断されたため、その支払いにより消滅時効は中断しないと判断された。

以下、消滅時効の成否についての裁判所の判断を抜粋。

(1) 本件特許権について

職務発明対価請求権の消滅時効は,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価の支払時期に関する条項が勤務規則等にある場合には,その支払時期が相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点となると解されるところ(最高裁平成13年(受)第1256号同15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照),本件特許を受ける権利の譲渡当時,被告における職務発明の対価の具体的内容を定めた本件褒賞基準は,日本国における特許出願1件につき,出願時1万円及び登録時2万円の褒賞金を支給する旨を定めていたから,遅くとも,本件特許権の登録がされた日の翌日である平成9年5月3日が本件特許に係る職務発明対価請求権の消滅時効の起算日となる。
前記のとおり,被告は,原告に対し,平成9年の年末頃に上記褒賞金のうち5000円を支払っていると認められるので,上記消滅時効は,この支払によりいったん中断したと認められるが,その後,遅くとも平成10年1月1日から再び進行を始め,平成19年12月31日の経過により完成したものというべきである。
そして,前記判示のとおり,本件支給金は本件特許を受ける権利の譲渡の対価としての性質を有しないと解すべきであるので,本件支給金の支払により消滅時効が中断することはなく,同請求権は,平成19年12月31日の経過によって時効消滅したと認めるのが相当である。

(2) 本件特許に対応する外国特許について

本件訴えの訴状において,本件特許に対応する外国特許に関する職務発明の対価が請求されているかどうかについては,当事者間に争いがあるが,訴状に同請求が含まれるとしても,本件褒賞基準には,日本の特許出願に対応する外国出願時には改めて褒賞金を支給しない旨の規定が置かれ,外国の特許を受ける権利の承継についてもこれに対応する日本特許の出願・登録があった際に併せて褒賞金が支払われることが想定されているということができる。
本件における外国の特許を受ける権利の譲渡の対価請求権の存否に関する準拠法は日本法となり,外国の特許を受ける権利の譲渡の対価請求権の消滅時効についても日本法が準拠法となると解されるところ,上記判示によれば,外国の特許を受ける権利に係る職務発明対価請求権の消滅時効の起算日はこれに対応する日本特許と同一となるので,上記(1)と同様の理由により,同請求権は平成19年12月31日の経過によって時効消滅したと認めるのが相当である。

【コメント】

原告による本件発明の譲渡の対価額は、原告の主張によると12億円、被告の主張によるとそのような金額になることはありえない、と争いがあったが、対価請求権の有無及びその額についての争点は判断されること無く、請求権の時効消滅により原告請求棄却となった。当時のファイザーにおける新たな発明報償制度についての検討過程が認定事実として判決文に記載されており、興味深い。


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