武漢ウイルス研究所と中国人民解放軍軍事科学院との共同研究成果・・・新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症に対するレムデシビルの使用に関する特許出願について

2020年2月に中国武漢ウイルス研究所が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)にレムデシビルが有効であると発表してから約10か月が経とうとしている現在、ギリアド社が開発を進めたレムデシビルは日本を含む一定の国で新型コロナウイルスの治療薬「ベクルリー®(Veklury®)」として承認に至り、これまで治療薬がなかった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した患者の命を救うための新たな手段を与えてくれました(WHOの意見など議論となってはいますが)。現在、ワクチン開発の成果が期待されているところですが、レムデシビルの特許状況について今一度ごく簡単に振り返りたいと思います。

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1.武漢ウイルス研究所の研究成果

2020年2月4日、中国科学院武漢ウイルス研究所(The Wuhan Institute of Virology)は、中国人民解放軍軍事科学院との共同研究成果として、ギリアド社のレムデシビル(remdesivir)及びクロロキン(chloroquine)が新型コロナウイルスに有効であること及びレムデシビルの用途発明に関して中国にて特許出願を行った旨を発表しました(2020.02.04 The Wuhan Institute of Virology press release: 我国学者在抗2019新型冠状病毒药物筛选方面取得重要进展)。

同発表では、レムデシビルについて、

  • 国益保護の観点から、2020年1月21日に中国の特許出願を行い、PCTルートで世界の主要国でも権利化を進めること
  • 関連する外国企業が中国での流行の予防と制御に貢献することに関心を持っている場合、国家的な必要性がある場合には特許権を主張しないことに合意し、外国の製薬会社と協力して流行の予防と制御に貢献したいと考えていること

を伝えています。

研究成果は以下の論文として上記発表と同日に公表されました。

  • Wang, M., Cao, R., Zhang, L., Yang, X., Liu, J., Xu, M., Shi, Z., Hu, Z., Zhong, W., & Xiao, G. (2020). Remdesivir and chloroquine effectively inhibit the recently emerged novel coronavirus (2019-nCoV) in vitro. Cell Research volume 30, pages269–271(2020).: https://doi.org/10.1038/s41422-020-0282-0

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2.中国の特許出願の現在

2020年1月21日に出願されたというこの中国特許出願は、その後、同出願を基礎とする優先権主張をした中国出願として2020年8月7日に公開されています(公開番号: CN111494396A)。9月30日付で最初の拒絶理由通知が発せられているようです。

発明の名称: SARS-CoV-2感染症の治療における置換アミノプロピオン酸化合物の適用(翻訳)
出願人: 中国人民解放軍軍事科学院軍事医学研究院
出願番号: CN 202010573430 (出願日2020.06.22)
公開番号: CN111494396A (公開日2020.08.07)
優先権情報: CN202010071087.7 (出願日2020.01.21; 公開日2020.06.12)
審査経過: 最初の拒絶理由通知

出願人は中国人民解放軍軍事科学院軍事医学研究院となっており、特許請求の範囲には、SARS-CoV-2によって引き起こされる疾患または感染症(例えば、呼吸器疾患(例えば、発熱、咳および咽頭痛などの単純な感染症、肺炎、重症急性呼吸器感染症、重症急性呼吸器感染症(SARI)、低酸素性呼吸不全および急性呼吸窮迫症候群、敗血症および敗血症性ショックなど)の治療のための薬剤としてレムデシビルの用途が記載されています。

中国人民解放軍軍事科学院軍事医学研究院によるPCT出願が(発表どおり出願されたとして)公開されるのはおそらくまだ先であり、さらに各国で特許として登録されるかどうかは今のところまだ不明です。

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3.ギリアド社の動き

2020年2月4日の武漢ウイルス研究所の発表あたりから、レムデシビルをはじめ既存薬物に新型コロナウイルスに有効なものがないかどうかについて多くの研究進展があり(クロロキン、ファビピラビル等)、レムデシビルのオリジネーターであるギリアド社もレムデシビルの臨床試験をすぐに開始しました。

以下はGoogle Trendsで3つの成分についての過去12か月間のキーワードの人気度動向変化を示したもので、2月4日以降、一気に注目度が上がった時期がありました。レムデシビルの注目度が最も高かった時は、FDAがレムデシビルをCOVID-19治療薬としての緊急使用を許可した2020年5月1日頃になります(2020.05.01 FDA news release: Coronavirus (COVID-19) Update: FDA Issues Emergency Use Authorization for Potential COVID-19 Treatment)。

Google Trends (2020.11.21)

2020年3月22日付記事「レムデシビル(Remdesivir)に関連する特許出願について」時点では、ギリアド社が、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)と診断された成人を対象としてレムデシビルの安全性と有効性を評価することを目的とした第III相臨床試験を開始するためにFDAに治験届を提出(IND)すると発表(2020年2月26日)、それら試験を実施中でしたが、その後、5月7日、日本において、ギリアド・サイエンシズ(株)が、レムデシビルを有効成分とする「ベクルリー®点滴静注液100 mg(水性注射液)およびベクルリー®点滴静注用100mg(注射用凍結乾燥製剤)」について「SARS-CoV-2 による感染症」を効能・効果とする製造販売承認を取得しました。

レムデシビル(Remdesivir)に関連する特許出願について
1. レムデシビル(Remdesivir)についてギリアドのプレスリリースによると、Remdesivir(開発コード: GS-5734)は、エボラウイルス、マールブルグウイルス、MERSウイルス、SARSウイルスを含む、複数のエマージングウイルス病原体に対し、in vitroと動物モデルを用いたin vivoの両方で広範な抗ウイルス活性を有する開発中の核酸アナログであり、これまでに、健常ボラン...

肝心のレムデシビルの物質特許権はギリアド社が保有しています。レムデシビルを有効成分とするSARS-CoV-2による感染症治療薬「ベクルリー®(Veklury®)」は日米等で承認されたことで、その製品を保護する特許群を、例えばOrangebook(収載対象特許)やJ-PlatPat(延長出願特許)から拾い上げることができます。それぞれ特許権の存続期間の延長出願が審査を経て登録されれば、物質特許権等の存続期間満了日が確定するでしょう(参照: 2020年3月22日付記事「レムデシビル(Remdesivir)に関連する特許出願について」)。

特許権による製品保護を確かなものに進めている一方で、ギリアド社は、ほぼ全ての低所得国と低中所得国を含む127カ国にレムデシビルを供給できるロイヤルティーフリーの非独占的ライセンスをジェネリックメーカーに与えています(Gilead webpage: Voluntary Licensing Agreements for Remdesivir)。

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