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2021.04.15 「メディミューン v. 国」 知財高裁令和2年(行コ)10005

PCT出願の日本移行(法184条の4第4項: 外国語でされた国際特許出願の翻訳文)手続期限徒過でみなし取下げ。「相当な注意基準」から「故意基準」へ要件を緩和する権利回復制度見直し法律案が国会で可決成立(2021.05.14)。

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1.知財高裁令和2年(行コ)10005

控訴人メディミューン(以下、「MedImmune社」という。)は、2016年6月21日、Boston Pharmaceuticals社との間で、その名称を「IL-21に特異的な結合性分子およびその使用」とする発明について、本件特許出願に係る特許を受ける権利を含むあらゆるMedImmune社の権利、権原及び利益(関係者からは「IL21資産」又は「MEDI7169」などと呼ばれている)を譲渡等する旨の契約を締結した。

本件(知財高裁令和2年(行コ)10005)は、MedImmune社が、特許庁長官が所属する国(被控訴人)に対し、①MedImmune社が国内書面提出期間(その末日は2016年10月11日)内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて特許法184条の4第4項に規定する「正当な理由」があったにもかかわらず、特許庁長官が同条3項により本件国際出願(PCT/US2015/024650)が取り下げられたものとみなして国内書面に係る手続を却下したのは違法であって取り消されるべきである旨主張して、本件却下処分の取消しを求めるとともに、②上記却下処分についてMedImmune社がした行政不服審査法による審査請求を棄却した特許庁長官の裁決には理由付記不備の違法がある旨主張して、本件裁決の取消しを求める事案である。

原判決(2020.09.16 「メディミューン v. 国」 東京地裁令和元年(行ウ)536)は、MedImmune社が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなかったことについて同条4項所定の「正当な理由」があるということはできないから本件却下処分に違法はなく、また、本件裁決には理由付記不備の違法はない旨判断して、MedImmune社の請求をいずれも棄却した。

本件において,BP社が本件国際出願の国内移行手続をRPLLPに対して委任したと認めるに足りる証拠はない。 ・・・本件国際出願の国内移行に関する期間管理の責任を負っていたのはBP社であるというべきところ,同社は,本件国際出願の国内書面提出期間を認識していたにもかかわらず・・・,国内書面提出期間の徒過を回避するための必要な措置を何ら講じることなく,同期間を徒過させたものであって,同期間の徒過を回避するのが困難な特段の事情があったとも認められない。
したがって,BP社が同期間内に明細書等翻訳文が提出できなかったことについて法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるということはできない。

・・・仮に,原告の主張に基づき,RPLLPが本件国際出願の国内移行手続を受任していたとしても,RPLLPには国内書面提出期間の徒過について「正当の理由」があるということはできない。

MedImmune社がこれを不服として控訴をしたのが本件(知財高裁令和2年(行コ)10005)であるが、知財高裁も、MedImmune社の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり、原判決は相当であるとして、本件控訴を棄却した。

同項は,平成23年法律第63号による改正前特許法112条の2第1項が欧米と比較して非常に厳格であり実質的な救済が図られていないとの指摘を受けて,特許法条約(PLT)の「権利の回復」に関する規定に準拠して平成23年の特許法改正により規定されたものであり,こうした改正の経緯からすると,外国語特許出願人について,期限の徒過があった場合でも,柔軟な救済を図ることを目的としたものであると解されるが,他方で,①出願に係る権利は,その権利者の自己管理の下で行われるべきものであること,②失効した出願に係る権利の回復を無制限に認めると第三者に過大な監視負担をかけることになることを考慮すると,同項にいう「正当な理由があるとき」とは,特段の事情がない限り,国際特許出願を行う出願人が相当の注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいうものと解するべきであり(知財高裁平成29年3月7日判決・判時2363号79頁参照),出願人が書面の提出及びその期限の管理等の事務を弁護士(弁理士を含む。)に包括的に委任しているときには,特許管理等の専門性に鑑みると出願人がこれらの事務を処理することが一般的に想定されないことから,上記の「正当な理由」については,特段の事情のない限り,受任者を基準として判断するものと解するのが相当である。・・・

・・・BP社が本件国際出願の国内移行手続をRPLLPに委任したと認めることはできないから,本件国際出願の国内移行手続に関する期間管理の責任を負っていたのはBP社であってRPLLPではないので,この点に関する補充主張についてまで判断する必要はない。

なお,付言するに,仮に,控訴人が主張するように,BP社からRPLLPへの委任が成立し,RPLLPのコーポレート部門が知財部門に対応を委ねたというのであれば,たとえE弁護士が父の死に伴いインドにおいて宗教儀式に参加していたとしても,特許分野において長年のキャリアを有する同弁護士が,事務所に復帰後も含めて,補助者がフラグを付した知財部門にとって要確認の電子メールを読み落とした以上,本件知的資産の知財管理を受任した弁護士事務所に所属する弁護士として,その職務に求められる基本的な注意義務を尽くしたということができないことは明らかであるし,悲嘆にくれた同弁護士に事務処理を委ねるのが相当でない状況にあったというのであれば,RPLLPにおいて他の弁護士に担当替え等をする義務が生じ,これに違反したというほかない。結局のところ,この点に関する控訴人の主張は,弁護士約1200名を要するRPLLPの各部門間において相互に責任の転嫁を試みているにすぎないというべきものであるから(仮に,知財部門がコーポレート部門から適切な指示を得ていなかったとすれば,事務処理の委任を受けながら,適切な指示をしなかったコーポレート部門に義務違反があることは明らかである。),いずれにしてもRPLLPは,到底,第三者に対して免責を主張し得るものではない。

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2.コメント

MedImmune社は、2016年6月21日、Boston Pharmaceuticals社との間で、その名称を「IL-21に特異的な結合性分子およびその使用」とする発明について、本件特許出願に係る特許を受ける権利を含むあらゆるMedImmune社の権利、権原及び利益(関係者からは「IL21資産」又は「MEDI7169」などと呼ばれている)を譲渡等する旨の契約を締結した。

その権利の譲渡契約の締結(2016年6月21日)から本件国際出願の国内書面提出期限(同年10月11日)までの数カ月内に、Boston Pharmaceuticals社による代理人への委任指示・作業が適切に行われなかった(原告が主張するように、委任されていたとしても、受任代理人事務所の期限管理は適切でなかった)と判断された。判決文におけるクライアントと事務所のやり取りを見てわかるように、コミュニケーションエラーは、このような指示待ち姿勢や、メール送信した後は相手の責任だとの姿勢によって起こり得る。

本件国際出願(PCT/US2015/024650; WO2015157238)のpatent familyについて、EspacenetやPatentScope等で確認したところ、日本以外の主要国への移行手続きは無事行われているようである。

Boston Pharmaceuticals社のウェブページによると、抗IL-21抗体であるBOS161721(Avizakimab)がパイプラインに挙げられており、Sourceは”AstraZeneca”(MedImmune社はAstraZeneca社の完全子会社化となっている)、”Global Phase 2 Proof-of-Concept study in SLE ongoing”とある。

したがって、本件国際出願に係るMEDI7169とは、現在Boston Pharmaceuticals社が開発中のBOS161721(Avizakimab)のことであると推測される。

原判決についての記事:2020.09.16 「メディミューン v. 国」 東京地裁令和元年(行ウ)536)。

2020.09.16 「メディミューン v. 国」 東京地裁令和元年(行ウ)536
Boston Pharmaceuticals社がMedImmune社から取得したMEDI7169のPCT出願、日本移行手続期間徒過でみなし取下げ・・・本件(東京地裁令和元年(行ウ)536)は、MedImmune社(原告メディミューン)が、国(被告)に対し、MedImmune社が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて、特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」が...
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3.権利回復制度は「相当な注意基準」から「故意基準」へ要件を緩和する法改正へ

(1)権利の回復制度の見直し

特許権等が手続期間の徒過により消滅した場合に、権利を回復できる要件を緩和する特許法改正案を含む「特許法等の一部を改正する法律案」が、2021年3月1日に閣議決定され(経済産業省ニュースリリース: 「特許法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました)、同年5月10日、第204回通常国会で可決成立した。

産業構造審議会知的財産分科会 第44回特許制度小委員会(令和2年12月8日)資料2 「権利回復制度の見直し」より

例えば、特許法184条の4第4項(外国語でされた国際特許出願の翻訳文)の改正箇所は以下のとおり。

平成28年のPLT加盟にあたり、我が国は「相当な注意基準」を採用し、平成23年改正法で定めた判断基準である「正当な理由」を維持することとした。「故意基準」ではなく「相当な注意基準」を採用したのは、仮に「故意基準」を選択した場合は、救済の幅が広がり過ぎて、制度の濫用を招くおそれがあると当時は考えられたためである。

しかし、我が国が権利の回復のための判断基準として「相当な注意基準」を採用していることに起因し、他国との判断基準の乖離による不都合や条約趣旨との齟齬が生じている現状にある。

そこで、手続期間の徒過を治癒する要件について「正当な理由(相当な注意基準)」から、「故意でない(故意基準)」に転換することにより、特許権等が手続期間の徒過により消滅した場合に、権利を回復できる要件を緩和することとなった。

本件国際出願(PCT/US2015/024650)も、上記法改正後の「故意でない(故意基準)」であったなら、権利を失うことはなかったのだろう。

(2)改正案への議論

産業構造審議会知的財産分科会 第44回特許制度小委員会(令和2年12月8日)では、権利の回復制度の見直しについて議論され、意図的な期間徒過後の回復申請に対する歯止めの手段や、新制度の趣旨や運用の十分な周知方法について、検討するよう指摘された。

参考:

特許制度小委員会においては、例えば、高橋委員から、故意基準について、以下のようなご意見が述べられた(議事録 p22)。

アメリカでは「故意基準」を採用していて、私も経験があるのですけど、確かに陳述書だけでいいのです。証拠なんかは要らないのです。ただ、サインをしなければいけないので、縛りがあるわけです。それと、ここで言う 2000 ドル相当のかなり高い追加料金を支払う。これで回復されるわけです。
ただ、その陳述内容の真偽というのは、後日侵害訴訟とかで判断がされて、もしもこれが虚偽だということがわかれば、不公正行為があった、故意があった、inequitable conductがあったということで、権利行使不能というサンクションが発生するわけです。

・・・陳述内容の真偽をどう判断するのか、後日虚偽とわかった場合にはどう対応するのかというのは、セットで検討すべきではないかと思います。

「ウィズコロナ/ポストコロナ時代における特許制度の在り方」報告書(案)に対して寄せられた意見の中にも、回復制度の濫用を危惧する意見がある(「産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会 報告書 「ウィズコロナ/ポストコロナ時代における特許制度の在り方(案)」に対する意見募集結果 61)。

⼈為的ミスではなく、例えば、同⼀の出願⼈が頻繁に審査請求を4年でするようなケースは故意と⾔ってよいように思われ、また、第三者の失効している権利に⽬をつけて、復活を条件に買い取ること等、その後に転売が⾏われたケースは故意に回復期間の延⻑を利⽤するケースと⾔ってよいように思われます。故意の基準が不明確であるため、参考事例を適宜更新すると共に、制度濫⽤防⽌の観点から、回復期間が有限であったとしても、故意を事後的にどう判断するのか、後⽇故意と判断された場合にはどう対応するのかは、併せて検討する必要があると考えます。

また、設樂委員からは、第三者の利益の視点でご意見が述べられた(議事録 p25)。

問題は第三者の利益の保護ですが、特許料の納付がないので、権利が消滅したと思って事業を始めたら、また回復したということになりかねませんので、今後1年間は注意して見ていて、1年過ぎて完全に消滅したら、自由にやっていいというふうになると思います。

同報告書(案)に対して寄せられた意見の中にも、監視負担の増加を危惧する意見がある(「産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会 報告書 「ウィズコロナ/ポストコロナ時代における特許制度の在り方(案)」に対する意見募集結果 63)。

権利回復案件の増加が想定されるところ、第三者権利の回復により事業活動に影響を及ぼすケースも考えられるため、権利回復された案件を容易に検索できる仕組みの導⼊を望む。

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