スポンサーリンク

経団連、医薬品の添付文書改訂手続を特許権存続期間延長の対象に追加するよう要望 ― 2026年度規制改革要望 No.24 ―

2026年9月15日、一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)は「2026年度規制改革要望」を公表しました。本要望書は、17の戦略分野および地域経済活性化に関する合計43項目の規制改革要望から構成されており、「創薬・先端医療」分野のNo.24として、医薬品の添付文書改訂手続きのうち一定の要件を満たすものを、特許権の存続期間延長登録出願(特許法第67条第4項)の対象に加えるべきとする提言が盛り込まれています(2026.09.15 経団連:2026年度規制改革要望(No.24「医薬品の添付文書改訂手続きの特許権存続期間延長の対象への追加」)参照)。

1.現行の存続期間延長制度と本要望の位置づけ

特許法第67条第4項は、医薬品等の「政令で定める処分」(=製造販売承認等)を受けることが必要であったために特許発明を実施することができなかった期間について、5年を限度として存続期間の延長登録出願を認める制度です。ここでいう「処分」は、特許法施行令第2条2号に列挙された行為に限定されており、現時点では医薬品医療機器等法上の製造販売承認等がその中心を占めます。

一方、承認後の添付文書改訂は、(適応追加等を伴わない限り)承認事項ではなく届出事項として整理されており、現行の施行令第2条2号には含まれていません。そのため、添付文書改訂に至るまでの当局との協議期間中に、企業が実質的に特許発明の実施や新情報に基づく販売活動を行い得ない状態が生じていたとしても、その期間は存続期間延長の対象外とされてきました。

2.経団連の要望内容

経団連は、禁忌の削除・修正や用法及び用量に関連する注意の変更等、臨床的影響が大きく重大な安全対策である場合、臨床試験中及び当局との協議中は変更後の情報を前提とした販売活動ができない等、添付文書改訂が完了するまで、実務上、企業には特許発明の実施や新たな情報提供を行い得ない期間が生じている点を問題視しています。

その上で、次のように指摘しています。

「企業が安全対策に積極的に取り組んだ結果、特許権の存続期間が実質的に短縮されてしまう。企業が安全対策を迅速に講じても、知財上不利益を被らない制度設計とすることが望ましい。」

具体的な要望内容は、以下のとおりです。

「添付文書改訂相談の手続きのうち、臨床データ等に基づく重大な禁忌の削除・修正や用法及び用量に関連する注意の変更等、臨床的インパクトが大きく、特許発明の実施が事実上制約されたものについて、特許法上の存続期間延長登録出願の対象に加えるべきである。」

これにより、以下が実現されると述べています。

  • 企業は、知財上不利益を被ることなく迅速に最新の安全性情報を反映した添付文書改訂を行うことができる。
  • 有害事象の未然防止と適正使用の促進につながることが期待される。重大な副作用や禁忌等に関する最新知見を迅速に反映する添付文書改訂は、医薬品の適正使用及び国民の安全確保の観点から極めて重要であり、国民の生命保護という公衆衛生上の大きな利益に資する。
  • ③政府が掲げる「創薬力強化」の観点からも、予見可能性の高い知財保護環境の整備は、イノベーション投資の回収可能性を高める経済効果が期待され、革新的新薬への投資を呼び込む基盤となり、日本発イノベーションの国際競争力強化に寄与する。

3.コメント

法制度上のポイントとして、少なくとも次の2点が今後の議論の焦点になると思われます。

第一に、「処分」と「届出」の概念的な距離です。要望内容自体が「添付文書改訂は、承認事項ではなく届出事項である」と明言しているとおり、現行の存続期間延長制度は、行政庁による許可等の「処分」を受けることを前提として設計されています。届出は原則として行政庁の応答的な行為を要しない行政手続きであり、これを「処分」の枠内に取り込むには、単なる運用(ガイドライン等)レベルでの対応では足りず、特許法施行令第2条の改正(新たな号の追加)、場合によっては特許法第67条第4項本文の解釈・改正にまで踏み込む議論が必要になる可能性があります。

第二に、対象となる改訂の範囲を画する基準の明確化です。要望では「臨床的インパクトが大きく、特許発明の実施が事実上制約されたもの」という要件が提示されていますが、この「事実上制約された」という評価は、事案ごとの個別判断になじみやすく、立証・認定の場面で争いを生みやすい要件でもあります。

ドラッグロス・ドラッグラグ解消に向けた「創薬力強化」という政策的文脈の中で、知財インセンティブと安全対策のインセンティブを整合させようとする問題意識自体には一定の合理性があります。もっとも、実際に制度化する段になれば、対象範囲の切り分けや立証負担のあり方について、特許庁・厚労省双方を交えた相応に技術的な検討が必要になると考えられます。

添付文書改訂と存続期間延長の関係を考える上で、以下の記事もあわせてご参照ください。

2025.05.26 「エフ・ホフマン―ラ・ロシュ v. 国」 知財高裁令和6年(行コ)10007 ― 特許権の存続期間の延長登録が認められる「処分」の対象
Summary本件は、控訴人(ロシュ)が、製造販売承認済みの医薬品「ガザイバ®点滴静注1000mg」の添付文書改訂に関する情報がPMDAウェブサイトに掲載された日を「処分を受けた日」として特許権の存続期間延長登録出願を行ったところ、特許庁長官がこれを却下したため、その取消しを求めた事案である。控訴人は、添付文書改訂が実質的に一部変更承認と同等であり、PMDAの「助言」も実質的に強制力を持つと主張し...

※ご覧いただきありがとうございます。この記事の内容について、読者の皆さまのご意見や気づきもぜひお聞かせください!

以下のようなご感想・質問、大歓迎です!

  • 🤔ここ理解しづらいな、という部分はありましたか?
  • 🤔このニュース、事件、判決例の実務影響についてご意見ありますか?
  • 🤔過去の類似事例や判決例をご存じでしたら教えてください!
  • 🤔恥ずかしい質問、つぶやき、大歓迎です
  • 「👍」「なるほど」「疑問あり」だけでもOK!

コメント欄は↓ コメントは匿名OK! ぜひ気軽に投稿してください🙇

皆さんの反応が、次回の記事や解説のヒントになります🥰

コメント

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました