Jul 16, 2018

2018.06.27 「トライスター v. エーザイ」 知財高裁平成29年(行ケ)10178

経口投与用組成物のマーキング方法の進歩性: 知財高裁平成29年(行ケ)10178

エーザイが保有する「経口投与用組成物のマーキング方法」に関する特許権(5339723号)の無効審判請求不成立審決(無効2016-800126号)の取消訴訟。知財高裁は、進歩性(無効理由1)、サポート要件(無効理由2)、明確性要件(無効理由3)のいずれについても無効理由はないとした審決を支持。請求棄却。

本件特許に関連して、他に分割出願である特許5642100号および特許5903141号も成立しているが、これらについては無効審判は請求されていないようである。
J-PlatPatのワンポータルドシエによると、本件出願は日本以外にもUS, EP, KR, CN, AU, CA, BR, IL, MX, NO, NZ, RU, TWで出願されているが日本以外で成立している国はない(出願を放棄していると思われる)。

請求項1:
経口投与用組成物へのマーキング方法であって,
変色誘起酸化物を経口投与用組成物に分散させる工程と,
前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させるように,波長が200nm~1100nmであり,平均出力が0.1W~50Wであるレーザー光を,前記経口投与用組成物の表面に走査させる工程と,
を含み,
前記変色誘起酸化物が,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種であり,
前記走査工程が,80mm/sec~8000mm/secで実行される,
マーキング方法。
裁判所の判断(抜粋)

取消事由1-1(本件発明1の容易想到性の判断の誤り)について
「甲1ないし3に接した当業者において,甲2及び甲3からレーザ照射によって,二酸化チタンを充填又は配合したポリアセタール樹脂組成物又はフルオロポリマー樹脂組成物を変色させるレーザーマーキング方法の技術を理解したとしても,甲1発明アあるいは原告甲1発明アにおいて,レーザー光の照射(走査)により変色する物質を,「官能基と金属化合物または酸とを含有し,レーザの放射により脱離反応を起こすことで対比可能な色の,生理的に受容可能である反応物を生成する物質」(原告甲1発明アでは「Fe2 O3(三二酸化鉄)を含む特定の物質」)から,レーザー光の走査により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発明1の構成)に置換することについての動機付けがあるものと認めることはできない。したがって,甲1ないし3に接した当業者において,甲1に記載された発明にレーザー光の走査により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発明1の構成)を適用することを容易に想到することができたものとはいえない。

・・・原告が主張するように,本件出願の優先日当時,二酸化チタンを分散させてレーザを照射してマーキングすること,「酸化チタン」や「三二酸化鉄」を「経口投与用組成物」に用いること,二酸化チタンを分散させて紫外線レーザでマーキングする方法の対象が経口投与用組成物に限定されないことが,周知あるいは技術常識であったとしても,そのことから直ちに甲1発明アあるいは原告甲1発明アにレーザー光の走査により粒子を凝集させて変色する二酸化チタン(相違点1に係る本件発明1の構成)を適用することの動機付けを認めることはできないし,上記構成を適用することが設計的事項であるということもできない。」
取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について
「本件明細書の発明の詳細な説明の記載を総合すると,本件発明1においては,請求項1記載の波長(200nm~1100nm),平均出力(0.1W~50W)及び走査工程の走査速度(80mm/sec~8000mm/sec)の各上限値及び各下限値に臨界的意義があるのではなく,本件発明1は,上記の各数値範囲内で波長,平均出力及び走査速度を適宜設定したレーザー光で,酸化チタン,黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄からなる群から選択される少なくとも1種の変色誘起酸化物を分散させた経口投与用組成物の表面を走査することにより,変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させてマーキングを行うことを課題の解決原理とする発明であるものと認められるから,原告が主張するような全ての数値範囲において「前記変色誘起酸化物の粒子を凝集させて変色させる」という所定の効果を奏することについての記載が必要とされるものではない。」
取消事由3(明確性要件の判断の誤り)について
(省略)

Jul 8, 2018

2018.06.26 「バクスアルタ v. 特許庁長官」 知財高裁平成29年(行ケ)10151

特許協力条約規則17.1: 知財高裁平成29年(行ケ)10151

【背景】

「第FVIII因子ポリマー結合体」に関する特許出願(特願2011-521284; 特表2013-500238; WO2010/014708)について本件基礎出願(米国)に基づく優先権は認められないとされたため、本件基礎出願の米国公開公報が引例となり新規性なしとされた拒絶審決(不服2015-10108)の取消訴訟。

特許協力条約規則17.1
  • 特許協力条約の規定に基づく国際特許出願について,優先権を主張する場合,出願人は,原則として,優先日から16か月以内に,優先権書類を国際事務局又は受理官庁に提出しなければならない(特許協力条約規則17.1(a))。
  • この手続に代えて,一定の条件が満たされた場合においては,出願人は,優先日から16か月以内に,受理官庁に対し,優先権書類を作成し国際事務局に送付するよう請求するか,国際事務局に対し,優先権書類を電子図書館から入手するよう請求するなどしなければならない(同規則17.1(b)(bの2))。
  • 出願人が,これらの手続を採らない場合,指定官庁は,事情に応じて相当の期間内に出願人に優先権書類を提出する機会を与えた上で,優先権の主張を無視することができる(特許協力条約規則17.1(c))。
  • ただし,指定官庁が実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能な場合などは,指定官庁は,同規則17.1(c)の規定により優先権の主張を無視することはできない(同規則17.1(d))。
原告らは、本願について特許協力条約規則17.1(a),(b)及び(bの2)の要件のいずれも満たされないこと、並びに、JPOが事情に応じて相当の期間内に原告らに優先権書類を提出する機会を与えたことは争わないが、JPOは特許協力条約実施細則715(a)に定めるところにより本件基礎出願の優先権書類を電子図書館から入手可能であるとみなされるから、JPOは特許協力条約規則17.1(d)により本件基礎出願に基づく優先権の主張を無視することはできない、と主張した。

経緯
  • 2008年8月1日 基礎出願(米国特許出願12/184567)
  • 2009年3月19日 基礎出願が公開(米国特許出願公開第2009/0076237)
  • 2009年7月29日 PCT/US2009/052103出願
  • 2010年6月21日 基礎出願に係る優先権書類を提出
  • 2010年7月2日 国際事務局が優先権書類を受領
  • 2011年1月27日 PCT/US2009/052103を日本へ国内移行(本願)
請求項1:
水溶性ポリマーと第VIII因子の酸化炭水化物部分とを結合体化する方法であって、結合体化を可能とする条件下で前記酸化炭水化物部分を活性化水溶性ポリマーと接触させる工程を含む、方法。
請求項7:
(a)第VIII因子分子、及び
(b)前記第VIII因子分子に結合した少なくとも1個の水溶性ポリマーを含むタンパク質性構築物であって、前記水溶性ポリマーが、前記第VIII因子のBドメインに存在する1個以上の炭水化物部分を介して前記第VIII因子に結合している、
タンパク質性構築物。

【要旨】

裁判所は、
「本願について,特許協力条約規則17.1(d)にいう,指定官庁が実施細則に定めるところにより優先権書類を電子図書館から入手可能な場合に当たらない。そして,JPOは,同規則17.1(c)により,本件基礎出願に基づく優先権の主張を無視することができる。そうすると,本願の新規性判断の基準時は,本願の国際出願日(平成21年7月29日)であり,引用例は,本願の国際出願日前に頒布された刊行物である。そして,原告らは,本願発明は,引用例に記載された発明であるとの本件審決の判断を争わない。したがって,本件審決における,本願発明の新規性判断に誤りがあるということはできない。」
と判断した。請求棄却。

【コメント】

欧州では特許登録(EP2318050)された後、Novo Nordisk社より異議申立がなされた(異議申立不成立決定後、審判請求されたが取下げられ終結)。Novo Nordisk社は遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子製剤Novoeight®を販売している他、欧米で承認申請中のN8-GPがある。
"N8-GP (turoctocog alfa pegol) is a glycopegylated form of turoctocog alfa designed for prolonged half-life. The site specific glycopegylation is within the truncated B-domain. N8-GP is a B-domain modified form of turoctocog alfa and hence the active factor VIII generated by thrombin activation is identical to both activated endogenous FVIII and turoctocog alfa."

バクスアルタの第VIII因子に水溶性ポリマーが結合しているタンパク質性構築物といえば、バクスアルタ(シャイアーと合併)が開発したアディノベイト®静注用キット(ADYNOVATE® Intravenous Kit)(一般名:ルリオクトコグ アルファ ペゴル(Rurioctocog Alfa Pegol)(遺伝子組換え))が挙げられる。これは、遺伝子組換え血液凝固第 VIII 因子製剤「アドベイト®静注用」の有効成分であるルリオクトコグ アルファをもとにポリエチレングリコール(PEG)を共有結合した、ペグ化遺伝子組換え血液凝固第VIII因子製剤であり、血液凝固第 VIII 因子(FVIII)の効果持続を目的として、ルリオクトコグ アルファに PEG を共有結合することにより血中での循環時間を延長することが期待できる新たな血友病A治療薬として開発された。2016年3月28日に、厚生労働省より製造販売承認を取得(再審査期間は2017年12月5日~2024年3月27日)。ただし、ルリオクトコグ アルファ ペゴルにおいては、PEGがルリオクトコグ アルファのLysにリンカーを介して結合しているという点で本願発明とは異なるようだ。


Jun 30, 2018

ヘムライブラに対する特許侵害訴訟でバクスアルタが控訴

2018年6月29日付の中外製薬のプレスリリースによると、中外製薬の血友病A治療薬「ヘムライブラ®」(一般名:エミシズマブ)がバクスアルタ社保有の「第Ⅸ因子/第Ⅸa因子の抗体および抗体誘導体」に関する特許権(特許第4313531号; 存続期間満了日は2020年9月13日)に触れるとして上記ヘムライブラの製造等差止・廃棄を求め、バクスアルタ社が中外製薬を被告として提起した特許侵害訴訟について、バクスアルタ社は、東京地裁判決(2018.03.28 「バクスアルタ v. 中外製薬」 東京地裁平成28年(ワ)11475)を不服として、知財高裁に控訴したとのことです。

参考:

Jun 23, 2018

東和のピタバスタチンCa・OD錠 興和が製剤特許侵害で損害賠償請求

2018年6月22日付の東和薬品プレスリリースによると、2018年6月1日付にて、東和薬品に対して、2013年12月13日から2016年3月31日までに東和薬品が販売したピタバスタチンCa・OD錠1mg/2mg/4mg「トーワ」(先発・代表薬剤:リバロ OD 錠 4mg)について、興和が有する製剤特許の侵害を理由とする損害賠償請求訴訟(請求金額は約38億円)が、興和により、東京地裁に提起されたとのことです。OD錠4mg「トーワ」については同特許の侵害を理由として差止及び廃棄請求訴訟が先行しており、知財高裁から興和勝訴判決がでています(2018.04.04 「東和薬品 v. 興和」 知財高裁平成29年(ネ)10090)が、最高裁に上告受理を申立て中とのことです(下記過去経緯参照)。今回は上記差止訴訟の結果を受けて興和が損害賠償の回収を開始したと思われます。東和薬品は裁判において争っていく方針。


過去の経緯:

東和薬品がピタバスタチンCa・OD錠4mg「トーワ」を製造等する行為は興和が保有する製剤特許(第5190159号)を侵害すると主張して、興和が同製品の製造等の差止及び廃棄を求めた訴訟において、東京地裁は、東和薬品は先使用権を有するとは認められず、本件発明2についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとも認められないとして、興和の請求をいずれも認容しました(2017.09.29 「興和 v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)30872; 興和による東和リバロ後発品の製造販売差止請求で東京地裁が容認判決)。東和薬品は控訴しましたが、知財高裁においても、東和薬品は本件発明2に係る特許権について先使用権を有するとは認められず、本件発明2に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものとも認められないから、興和の請求は理由があると判断されていました(2018.04.04 「東和薬品 v. 興和」 知財高裁平成29年(ネ)10090; 興和、東和の「リバロ」後発品特許訴訟で勝訴)。

Jun 2, 2018

2018.04.13 「日本ケミファ v. 塩野義」 知財高裁平成28年(行ケ)10260

ロスバスタチンカルシウム(クレストール®)物質特許の無効審判請求取消訴訟: 知財高裁平成28年(行ケ)10260

塩野義製薬(被告)が保有する「ピリミジン誘導体」に関する特許(第2648897号; 2017.05.28満了)の無効審判請求(請求人: 日本ケミファ)を不成立とする審決(無効2016-800032号)の取消訴訟。争点は、訴えの利益の有無、進歩性の有無及びサポート要件違反の有無。本件は請求項13,15~17についての特許無効審判請求に係るものであり、請求項1,2,5,9~12についての特許無効審判請求については同日判決である2018.04.13 「日本ケミファ v. 塩野義」 知財高裁平成28年(行ケ)10182; 10184で判断された。

裁判所は、訴えの利益を認めた上で、本件特許が進歩性及びサポート要件を充足することを認め、原告らの請求を棄却した。判断内容は、同日判決である2018.04.13 「日本ケミファ v. 塩野義」 知財高裁平成28年(行ケ)10182; 10184と同じ。

訴えの利益について
「特許権侵害を問題にされる可能性が少しでも残っている限り,そのような問題を提起されるおそれのある者は,当該特許を無効にすることについて私的な利害関係を有し,特許無効審判請求を行う利益(したがって,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益)を有することは明らかであるから,訴えの利益が消滅したというためには,客観的に見て,原告に対し特許権侵害を問題にされる可能性が全くなくなったと認められることが必要であり,特許権の存続期間が満了し,かつ,特許権の存続期間中にされた行為について,原告に対し,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情が存することが必要であると解すべきである。」

参考:

May 22, 2018

2018.03.28 「バクスアルタ v. 中外製薬」 東京地裁平成28年(ワ)11475

機能的表現抗体クレームの技術的範囲の解釈(中外エミシズマブ(ヘムライブラ®)): 東京地裁平成28年(ワ)11475

【背景】

「第Ⅸ因子/第Ⅸa因子の抗体および抗体誘導体」に関する特許権(特許第4313531号; 存続期間満了日は2020年9月13日)に係る特許発明の技術的範囲に属すると主張して、特許権者である原告(バクスアルタ)が、被告(中外製薬)に対して、被告製品(開発コードACE910、一般名emicizumab(エミシズマブ)を有効成分とする血友病Aの治療を目的とした抗体医薬開発品)の製造等の差止・同製品の廃棄を求めた事案。被告は2012年から被告製品につき日本国内で臨床試験を行い、2017年7月21日に製造販売承認申請を行っていた。

争点:
  • 被告製品は本件各発明の技術的範囲に属するか(争点1)
  • 被告による被告製品の製造等が本件特許権を侵害し又はそのおそれがあるか(争点2)
  • 臨床試験のための被告製品の製造等は「試験又は研究のためにする特許発明の実施」(特許法69条1項)に当たるか(争点3)
  • 本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものと認められるか(争点4)

本件発明1:
第Ⅸ因子または第Ⅸa因子に対する抗体または抗体誘導体であって,
凝血促進活性を増大させる,
抗体または抗体誘導体(ただし,・・・(省略)・・・を除く)。

被告製品:
活性型第Ⅸ因子および第Ⅹ因子と同時に結合することで第Ⅷ因子様の機能を発揮し、血液凝固反応を促進するバイスペシフィック抗体(二つの抗原結合部位が異なる抗原と結合できるように設計された抗体)である。
【要旨】

裁判所は、上記争点のうち、争点1について、被告製品は本件各発明の技術的範囲に属すると認めることはできないと判断し、他の争点は判断せず原告の請求を棄却した。
以下、裁判所の判断の抜粋。

「特許権に基づく独占権は,新規で進歩性のある特許発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるものであるから,このように特許請求の範囲の記載が機能的,抽象的な表現にとどまっている場合に,当該機能ないし作用効果を果たし得る構成全てを,その技術的範囲に含まれると解することは,明細書に開示されていない技術思想に属する構成までを特許発明の技術的範囲に含ましめて特許権に基づく独占権を与えることになりかねないが,そのような解釈は,発明の開示の代償として独占権を付与したという特許制度の趣旨に反することになり許されないというべきである。
したがって,特許請求の範囲が上記のように抽象的,機能的な表現で記載されている場合においては,その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず,上記記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきである。
ただし,このことは,特許発明の技術的範囲を具体的な実施例に限定するものではなく,明細書及び図面の記載から当業者が実施し得る構成であれば,その技術的範囲に含まれるものと解すべきである。」

「(2) そこで,本件明細書において開示された具体的構成に示されている技術思想について検討する。・・・バイスペシフィック抗体については,本件明細書において,実施例として作製された例は記載されておらず,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に結合するアーム以外のアームが結合する対象の抗原がいかなるものかも開示されてない。しかし,バイスペシフィック抗体自体は,抗体誘導体の一態様として明記されている(段落【0019】,【0026】)。そして,凝血促進活性を増大させるモノスペシフィック抗体からの誘導体も複数作製されており(実施例10ないし13,15ないし18),本件出願日当時の技術常識によれば,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するバイスペシフィック抗体を作製可能であり,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノスペシフィック抗体から誘導されたバイスペシフィック抗体が,モノスペシフィック抗体が有する凝血促進活性を増大させる作用を維持できると予測できたと認められる。そうすると,バイスペシフィック抗体についても,モノスペシフィック抗体の活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体の一態様として「抗体誘導体」に含まれると解される。したがって,本件各発明の技術的範囲に含まれるというためには,「第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」であることが必要であるものの,バイスペシフィック抗体は「抗体誘導体」の一態様としてこれに含まれ得ると解すべきである。」

「他方,第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)が第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させるものでない場合には,別異に解すべきである。すなわち,本件各発明の技術的範囲に属するというためには,「第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」であることが必要であると解されるところ,これには,第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させるものではない第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)は含まれないし,かかるモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)から誘導される抗体誘導体(バイスペシフィック抗体もこれに含まれる。)も含まれないというべきである。このような抗体誘導体(バイスペシフィック抗体)は,たとえ,それ自体が第Ⅸa因子の凝血促進活性を増大させる効果を有するものであったとしても,本件各発明の課題解決手段とは異なる手段によって凝血促進活性を増大させる効果がもたらされているのであって,本件明細書の記載に基づいて当業者が実施できるものとはいえないというべきである。」

「前記(2)において説示したとおり,「凝血促進活性を実質的に増大させる」とは,少なくともネガティブコントロールとの比が2程度を超えるものでなければならないものと解されるところ,前記2において認定したとおり,左右のアームがいずれも被告製品の第Ⅸa因子に結合するアームで構成されたモノスペシフィック抗体(Qhomo)の色素形成アッセイキットによって測定されたネガティブコントロールとの比は,1.36から1.48であったこと(乙38)からすると,Qhomoは第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させるモノスペシフィック抗体とはいえない。
そして,被告製品は,Qhomoの片方のアームを第Ⅹ因子に対するものに改変したバイスペシフィック抗体(抗体誘導体)であるから,第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させるものではないモノスペシフィック抗体からの誘導体ということができる。
そうすると,被告製品は,第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させるものではないモノスペシフィック抗体から,その第Ⅸa因子結合部位を取り出し,特定の第Ⅹ因子結合部位と組み合わせてバイスペシフィック抗体に変換させることにより,凝血促進活性を増大させる作用をもたらしたものということができるから,「第Ⅸa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」に該当するとは認められない。したがって,被告製品は,本件各発明の技術的範囲に属すると認めることはできないというべきである。」

【コメント】

本件発明は、いわゆる機能的クレームであり、その技術的範囲が争われた。

裁判所は、機能ないし作用効果を果たし得る構成全てをその技術的範囲に含まれると解することは特許制度の趣旨に反することとなり許されないとして、そのような機能的クレームの場合には、その記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し、そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて確定すべきである(但し、実施例に限定するものではなく、当業者が実施し得る構成であれば含まれる)、との一般的解釈を述べた上で、本件について、下記のステップによる認定・解釈によって最終的な判断へと導いた。

・本件発明の技術的範囲に含まれるためには、当該活性を実質的に増大させる第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノスペシフィック抗体又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体であることが必要。

・バイスペシフィック抗体は、モノスペシフィック抗体の活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体の一態様として「抗体誘導体」に含まれる。

・当該活性を実質的に増大させない第Ⅸ因子又は第Ⅸa因子に対するモノスペシフィック抗体を改変したバイスペシフィック抗体は「抗体誘導体」に含まれない。

・たとえ、バイスペシフィック抗体(被告製品)自体が当該活性を有するものであっても、当該発明の課題解決手段と異なる手段によってその効果がもたらされているので、明細書の記載に基づいて当業者が実施できるものではない。

・したがって、被告製品は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。

結論に至るまでの上記各認定・解釈において、気になる点がいくつかある。

気になる点の一つ目として、被告製品のバイスペシフィック抗体は、「抗体誘導体」というよりも「抗体」ではないだろうか。「抗体誘導体」とは「抗体」ではない抗体フラグメント、ペプチド模倣物又はそれらを模した有機合成化合物の類ではないだろうか(【0022】、【0027】又は【0036】)。バイスペシフィック抗体は、原則、言葉通り「抗体」である。ただし、バイスペシフィックな抗体フラグメントのような「抗体誘導体」もあるだろう(【0026】)。判決文では、明細書中に「抗体誘導体」の一態様としてバイスペシフィック抗体が記載されていたかのように認定しているが、実際の明細書を読む限り、バイスペシフィック抗体(二重交代)は「抗体誘導体」であると一義的に分類しているようには思えない。被告製品は抗体フラグメントやペプチド模倣物ではない、全長のバイスペシフィック「抗体」である。裁判所は、判断に当たって一番最初に認定したこの前提をまずしっかり検討する必要があったのではないか。

気になる点の二つ目として、裁判所がクレーム文言を解釈した通りに、本件発明1を「第Ⅸ因子または第Ⅸa因子に対するモノスペシフィック抗体を改変したバイスペシフィック抗体であって,凝血促進活性を増大させる,バイスペシフィック抗体」と置き換えてみよう。これはプロダクト・バイ・プロセス・クレームである。被告製品が「第Ⅸ因子または第Ⅸa因子に対するバイスペシフィック抗体であって,凝血促進活性を増大させる,バイスペシフィック抗体」であるかどうかではなく、「第Ⅸ因子または第Ⅸa因子に対するモノスペシフィック抗体を改変した」というプロダクト・バイ・プロセス的構成に該当するかどうかで技術的範囲を解釈した点は、これまでのプロダクト・バイ・プロセス・クレームの権利効力に関する判例の考え方と一致しない。この点の不整合さも気になる点である。

気になる点の三つ目として、「第Ⅸ因子または第Ⅸa因子に対する抗体または抗体誘導体であって,凝血促進活性を増大させる,抗体または抗体誘導体」というクレームは、下記審査基準にも規定されているとおり、物(抗体または抗体誘導体)に固有に有している機能、特性(凝血促進活性を増大させる)を用いてその物を特定しようとする記載であり、「第Ⅸ因子または第Ⅸa因子に対する抗体または抗体誘導体」自体を意味していることになる。であれば、被告製品は特許発明の技術的範囲(「第Ⅸ因子または第Ⅸa因子に対する抗体または抗体誘導体」)に属する(だろう)と判断したうえで、当該特許請求の範囲には何等かの無効理由(新規性欠如又はサポート要件違反等)が存在し権利行使できないとの結論に至るのが妥当だったのではないだろうか。クレームとしては、「第Ⅸ因子または第Ⅸa因子に対する抗体または抗体誘導体を含む凝血促進活性を増大させる医薬組成物」、「・・・を含む血友病Aにおける出血傾向の抑制剤」であれば上記のような疑義は生じなかったと思われる。

特許・実用新案審査基準 第III部特許要件 第2章第4節 特定の表現を有する請求項等についての取扱い
2.1.1 その物が固有に有している機能、特性等が請求項中に記載されている場合
この場合は、請求項中に機能、特性等を用いて物を特定しようとする記載があったとしても、審査官は、その記載を、その物自体を意味しているものと認定する。その機能、特性等を示す記載はその物を特定するのに役に立っていないからである。

例1:抗癌性を有する化合物 X
(説明)抗癌性が特定の化合物 X の固有の性質であるとすると、「抗癌性を有する」という記載は、物を特定するのに役に立っていない。したがって、化合物 X が抗癌性を有することが知られていたか否かにかかわらず、審査官は、例1の記載が「化合物 X」そのものを意味しているものと認定する。

中外製薬は、2018年5月22日に、当該被告製品に相当するヘムライブラ®皮下注(有効成分はエミシズマブ)の販売を開始した(製造販売承認年月日:2018年3月23日)。

参考:

May 4, 2018

2018.04.04 「東和薬品 v. 興和」 知財高裁平成29年(ネ)10090

医薬特許に対する先使用権の抗弁が認められなかった事例(控訴審): 知財高裁平成29年(ネ)10090

【背景】

東和薬品(控訴人・原審被告)がピタバスタチンCa・OD錠4mg「トーワ」(被告製品)を製造等する行為は興和(被控訴人)が保有する特許権(第5190159号)を侵害すると主張して、興和が被告製品の製造等の差止及び廃棄を求めた事案。原審は、東和薬品は先使用権を有するとは認められず、本件発明2についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとも認められないとして、興和の請求をいずれも認容した。

原審: 2017.09.29 「興和 v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)30872

請求項1:
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;
を含有し、かつ、水分含量が2.9質量%以下である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。
請求項2(本件発明2):
固形製剤の水分含量が1.5~2.9質量%である、請求項1記載の医薬品。
【要旨】

裁判所は、東和薬品(控訴人)は本件発明2に係る特許権について先使用権を有するとは認められず、本件発明2に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものとも認められないから、興和の請求は理由があると判断した。

争点1(控訴人は先使用権を有するか)について

控訴人は、
「本件出願日までに,本件2mg錠剤及び本件4mg錠剤のサンプル薬を製造し,治験を実施していたことをもって,控訴人は発明の実施である事業の準備をしている者に当たり,本件発明2に係る特許権について先使用権を有する」
と主張した。

裁判所は、
「特許法79条にいう「発明の実施である事業…の準備をしている者」とは,少なくとも,特許出願に係る発明の内容を知らないで自らこれと同じ内容の発明をした者又はこの者から知得した者でなければならない(最高裁昭和61年(オ)第454号)。よって,控訴人が先使用権を有するといえるためには,サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明でなければならない。・・・サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明であるといえるためには,まず,本件2mg錠剤のサンプル薬又は本件4mg錠剤のサンプル薬の水分含量が1.5~2.9質量%の範囲内にある必要がある」
として、この点について検討した結果、以下の認定により、サンプル薬の測定時の水分含量が本件発明2の範囲内であるからといって、4年以上も前の製造時の水分含量も本件発明2の範囲内であったと推認できるものではないと判断した。
  • サンプル薬の製造時から測定時まで4年以上もの期間が経過していた。
  • サンプル薬には本件発明2と同様に極めて吸湿性の高い崩壊剤が含まれ、サンプル薬の水分含量は容易に増加し得るものであった。
  • サンプル薬と、実生産品やサンプル薬の再製造品が同一工程により製造されたものとは認められないから、サンプル薬の測定時の水分含量が製造時の水分含量とほぼ同じであったということはできない。
裁判所は、仮に、本件2mg錠剤のサンプル薬又は本件4mg錠剤のサンプル薬の水分含量が1.5~2.9質量%の範囲内にあったとしても、以下のとおり、サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明であるということはできないと判断した。
「本件発明2は,ピタバスタチン又はその塩の固形製剤の水分含量に着目し,これを2.9質量%以下にすることによってラクトン体の生成を抑制し,これを1.5質量%以上にすることによって5-ケト体の生成を抑制し,さらに,固形製剤を気密包装体に収容することにより,水分の侵入を防ぐという技術的思想を有するものである。」

「・・・控訴人は,本件出願日前に本件2mg錠剤のサンプル薬及び本件4mg錠剤のサンプル薬を製造するに当たり,サンプル薬の水分含量を1.5~2.9質量%の範囲内又はこれに包含される範囲内となるように管理していたとも,1.5~2.9質量%の範囲内における一定の数値となるように管理していたとも認めることはできない。」

「・・・以上のとおり,本件発明2は,ピタバスタチン又はその塩の固形製剤の水分含量を1.5~2.9質量%の範囲内にするという技術的思想を有するものであるのに対し,サンプル薬においては,錠剤の水分含量を1.5~2.9質量%の範囲内又はこれに包含される範囲内に収めるという技術的思想はなく,また,錠剤の水分含量を1.5~2.9質量%の範囲内における一定の数値とする技術的思想も存在しない。そうすると,サンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明2と同じ内容の発明であるということはできない。」
従って、裁判所は、控訴人は発明の実施である事業の準備をしている者には当たらないから、本件発明2に係る特許権について先使用権を有するとは認められないと判断した。

争点2(本件発明2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものか)について
「乙7発明において,少なくとも,相違点②のうち水分含量の下限値に関する部分に係る本件発明2の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たものということはできない。したがって,本件発明2は,乙7発明に周知の技術事項を適用することにより,容易に発明をすることができたということはできないから,本件発明2に係る特許は,特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。」
【コメント】

裁判所は、まず、4年以上も前のサンプル薬の水分含量が本件発明2の範囲内であったと推認できるものではないと判断した。この点は、実務上の問題点は残るものの(過去記事: 2017.09.29 「興和 v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)30872参照)、推認できないのであれば先使用権が認められないという判断は妥当であろう。

なお、裁判所は、「仮に、本件サンプル薬の水分含量が1.5~2.9質量%の範囲内にあったとしても・・・」と、一歩踏み込んだ想定をしたとしても、本件発明2に係る特許権について先使用権を有するとは認められないとも判断した。すなわち、
「・・・(最高裁昭和61年(オ)第454号)。よって,控訴人が先使用権を有するといえるためには,サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明でなければならない
という要件を示して、サンプル薬の水分含量には着目されていなかったというほかないと認定し、「サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明であるということはできない」から、結果、控訴人は発明の実施である事業の準備をしている者には当たらないと判断した。

判決は、ウォーキングビーム事件最高裁判決(最高裁昭和61年(オ)454 )を引用しているが、この最高裁判決で言及された「具現されている技術的思想」は、下記のとおり、先使用権者が自己のものとして支配していた発明の範囲において先使用権を認めるという先使用権の効力範囲を解釈するための文脈で用いられた言葉である。本判決で言及された「具現された技術的思想」の同一性が先使用権の要否判断の一つであると直接説示しているわけではない(先使用の発明が特許発明を実施する(形式上侵害行為となる)ことになる場合であっても、利用発明の関係などのように両者の技術的思想が同一でない場合はあるだろう)。
「先使用権の効力は、特許出願の際(優先権主張日)に先使用権者が現に実施又は準備をしていた実施形式だけでなく、これに具現された発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式にも及ぶものと解するのが相当である。けだし、先使用権制度の趣旨が、主として特許権者と先使用権者との公平を図ることにあることに照らせば、特許出願の際(優先権主張日)に先使用権者が現に実施又は準備をしていた実施形式以外に変更することを一切認めないのは、先使用権者にとつて酷であつて、相当ではなく、先使用権者が自己のものとして支配していた発明の範囲において先使用権を認めることが、同条の文理にもそうからである。」
一方、上記一歩踏み込んだ想定をした場合について、原審(東京地裁)判決での結論の持っていき方は異なる。
「この点を措くとしても,・・・本件出願日までに,本件2mg製品及び被告製品(本件4mg製品)の内容が,本件発明2の構成要件E(固形製剤の水分含量が1.5~2.9質量%である)を備えるものとして,一義的に確定していたと認めることはできず,本件発明2を用いた事業について,被告が即時実施の意図を有し,かつ,その即時実施の意図が客観的に認識される態様,程度において表明されていたとはいえないから,被告に先使用権が成立したということはできない。」
原審は、発明構成要件の一義的確定有無・即時実施意図有無といった主体的要件を論じること(最高裁昭和61年(オ)454)で適否判断しており、わかりやすい。

先使用権制度の趣旨が、主として特許権者と先使用権者との公平を図ることにあることに照らせば、特許法79条の「その発明の実施である事業の準備」のあてはめは慎重に検討されたほうがよいのではないだろうか。

特許法第79条(先使用による通常実施権)
特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。
参考:
  • 興和、東和の「リバロ」後発品特許訴訟で勝訴
  • 原審: 2017.09.29 「興和 v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)30872
  • ウォーキングビーム事件最高裁判決 1986.10.03 最高裁昭和61年(オ)454
    判示事項
    一 特許法七九条にいう発明の実施である事業の準備の意義
    二 先使用による通常実施権の範囲
    裁判要旨
    一 特許法七九条にいう発明の実施である事業の準備とは、特許出願に係る発明と同じ内容の発明につき即時実施の意図があり、かつ、その意図が客観的に認識されうる態様、程度において表明されていることをいう。
    二 先使用による通常実施権は、特許出願の際に当該通常実施権者が現に実施又は準備をしていた実施形式だけでなく、これに具現された発明と同一性を失わない範囲内において変更された実施形式にも及ぶ。
  • 特許庁Website: 先使用権制度について

Apr 23, 2018

大日本住友 LATUDA®(ラツーダ)物質特許のANDA訴訟で勝訴

2018年4月18日付の大日本住友製薬のプレスリリースによると、FDAに非定型抗精神病薬「LATUDA®(ラツーダ)」(一般名:ルラシドン塩酸塩(lurasidone HCl))の後発品申請(ANDA)を行った被告3社(Emcure社、InvaGen社、Teva社)に対して大日本住友製薬が保有する物質特許(米国特許5,532,372)の侵害を理由としてサノビオン社と共同で提訴していた特許侵害訴訟に関して、CAFCは、2018年4月16日、地裁によるクレーム解釈を支持する判決を下しました。この結果、物質特許は依然として被告3社および他の後発医薬品会社に対して有効であり法的強制力を有しているとのことです。

Latuda®の米国承認は2010年10月28日。承認から4年経過して間もない2015年1月14日に始まった物質特許のANDA訴訟でした。本件米国物質特許5,532,372の特許期間満了日は5年間の延長と小児適応追加による独占期間の延長を含めて2019年1月2日までとなっています。

本件訴訟は、Latuda®に関する用途特許(米国特許9,815,827)の侵害を理由として、大日本住友製薬とサノビオン社が共同で、Latuda®のANDAを申請した複数の後発医薬品会社に対して2018年に提訴した特許侵害訴訟(2018年2月14日および24日付けのニュースリリース)とは別の訴訟であり、用途特許に基づく特許侵害訴訟は係属しているとのことです。

参考:


Apr 19, 2018

2018.04.13 「日本ケミファ v. 塩野義」 知財高裁平成28年(行ケ)10182; 10184

知財高裁大合議判決「膨大な数の選択肢を有する一般式形式記載の化合物が引用発明となる場合とは」: 知財高裁平成28年(行ケ)10182; 10184

【背景】

塩野義製薬が保有していた「ピリミジン誘導体」に関する特許(第2648897号; 2017.05.28満了)無効審判請求(請求人として参加: 日本ケミファ)を不成立とする審決(無効2015-800095号)の取消訴訟。争点は、訴えの利益の有無、進歩性の有無及びサポート要件違反の有無。

【要旨】

裁判所は、訴えの利益を認めた上で、本件特許が進歩性及びサポート要件を充足することを認め、原告らの請求を棄却した。

1.訴えの利益の有無について

「当時の特許法123条2項は,「特許無効審判は,何人も請求することができる(以下略)」として,利害関係の存否にかかわらず,特許無効審判請求をすることができる旨を規定していた。・・・そして,特許無効審判請求は,当該特許権の存続期間満了後も行うことができるのであるから(特許法123条3項)・・・改正前の特許法の下において,特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益は,特許権消滅後であっても,特許権の存続期間中にされた行為について,何人に対しても,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り,失われることはない。以上を踏まえて本件を検討してみると,本件において上記のような特段の事情が存するとは認められないから,本件訴訟の訴えの利益は失われていない。」

2.進歩性の有無について

「進歩性の判断に際し,・・・引用発明として主張された発明が「刊行物に記載された発明」であって,当該刊行物に化合物が一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場合には,特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできず,これを引用発明と認定することはできないと認めるのが相当である。この理は,本願発明と主引用発明との間の相違点に対応する・・・「副引用発明」・・・があり,主引用発明に副引用発明を適用することにより本願発明を容易に発明をすることができたかどうかを判断する場合において,刊行物から副引用発明を認定するときも,同様である。」

本件発明1(請求項1):
式(I):
(式中,
R1は低級アルキル;
R2はハロゲンにより置換されたフェニル;
R3は低級アルキル;
R4は水素またはヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;
Xはアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基;
破線は2重結合の有無を,それぞれ表す。)
で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物。

甲1(特表平3-501613号公報)発明:
(M=Na)の化合物

一致点:
「式(I)
(式中,
R1は低級アルキル;
R2はハロゲンにより置換されたフェニル;
R3は低級アルキル;
破線は2重結合の有無を,それぞれ表す。)
で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物」である点

相違点:
(1-ⅰ)
Xが,本件発明1では,アルキルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
(1-ⅱ)
R4が,本件発明1では,水素又はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオンであるのに対し,甲1発明では,ナトリウム塩を形成するナトリウムイオンである点

原告らは、
「相違点(1-ⅰ)につき,甲1発明に甲2(特開平1-261377公報)発明を組み合わせること,具体的には,甲1発明の化合物のピリミジン環の2位のジメチルアミノ基(-N(CH3)2)の二つのメチル基(-CH3)のうちの一方を甲2発明であるアルキルスルホニル基(-SO2R’(R’はアルキル基))に置き換えること,すなわち,甲1発明の化合物のピリミジン環の2位の「ジメチルアミノ基」を「-N(CH3)(SO2R’)」に置き換えることにより,本件発明1に係る構成を容易に想到することができる」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「甲2の一般式(I)で示される化合物は,甲1の一般式Iで示される化合物と同様,HMG-CoA還元酵素阻害剤を提供しようとするものであり,ピリミジン環を有し,そのピリミジン環の2,4,6位に置換基を有する化合物である点で共通し,甲1発明の化合物は,甲2の一般式(I)で示される化合物に包含される。甲2には,甲2の一般式(I)で示される化合物のうちの「殊に好ましい化合物」のピリミジン環の2位の置換基R3の選択肢として「-NR4R5」が記載されるとともに,R4及びR5の選択肢として「メチル基」及び「アルキルスルホニル基」が記載されている。
しかし,甲2に記載された「殊に好ましい化合物」におけるR3の選択肢は,極めて多数であり,その数が,少なくとも2000万通り以上あることにつき,原告らは特に争っていないところ,R3として,「-NR4R5」であってR4及びR5を「メチル」及び「アルキルスルホニル」とすることは,2000万通り以上の選択肢のうちの一つになる。また,甲2には,「殊に好ましい化合物」だけではなく,「殊に極めて好ましい化合物」が記載されているところ,そのR3の選択肢として「-NR4R5」は記載されていない。さらに,甲2には,甲2の一般式(I)のXとAが甲1発明と同じ構造を有する化合物の実施例として,実施例8(R3はメチル),実施例15(R3はフェニル)及び実施例23(R3はフェニル)が記載されているところ,R3として「-NR4R5」を選択したものは記載されていない。
そうすると,甲2にアルキルスルホニル基が記載されているとしても,甲2の記載からは,当業者が,甲2の一般式(I)のR3として「-NR4R5」を積極的あるいは優先的に選択すべき事情を見いだすことはできず,「-NR4R5」を選択した上で,更にR4及びR5として「メチル」及び「アルキルスルホニル」を選択すべき事情を見いだすことは困難である。
したがって,甲2から,ピリミジン環の2位の基を「-N(CH3)(SO2R’)」とするという技術的思想を抽出し得ると評価することはできないのであって,甲2には,相違点(1-ⅰ)に係る構成が記載されているとはいえず,甲1発明に甲2発明を組み合わせることにより,本件発明の相違点(1-ⅰ)に係る構成とすることはできない。
・・・仮に,甲2に相違点(1-ⅰ)に係る構成が記載されていると評価できたとしても,甲1発明の化合物のピリミジン環の2位のジメチルアミノ基を「-N(CH3)(SO2R’)」に置き換えることの動機付けがあったとはいえないのであって,甲1発明において相違点(1-ⅰ)に係る構成を採用することの動機付けがあったとはいえない。
・・・そうすると,相違点(1-ⅱ)について検討するまでもなく,当業者が,甲1発明に甲2発明を組み合わせることにより,本件発明1を容易に発明をすることができたとは認められない。」
と判断した。

3.サポート要件違反の有無について
(省略)
【コメント】

特許法29条1項3号に規定されている「刊行物に記載された発明」を検討する際に、当該刊行物に化合物が一般式の形式で記載され、当該一般式が膨大な数の選択肢を有する場合には、特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り、当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできず、これを引用発明と認定することはできない。本件は進歩性違反の主張に挙げられた副引用発明の認定の是非が問題となったわけだが、判示された内容は、膨大な数の選択肢を有する一般式記載化合物の場合のこととはいえ、「刊行物に記載された発明」として認定される引用発明の認定是非であったことから、進歩性判断に必要な副引用発明だけでなく、主引用発明の認定判断、さらに新規性判断に必要な引用発明の認定判断にも及ぶことになるだろう。化合物発明に係る特許出願の審査において、膨大な数の選択肢を有する一般式記載化合物が記載された刊行物が引用され進歩性欠如の拒絶理由が発せられた場合には、今回の判示内容を活用し、反論内容を検討することが出来るだろう。

本件特許は、高コレステロール血症治療薬「クレストール(Crestor)®」の有効成分であるロスバスタチンカルシウム(Rosuvastatin Calcium)を保護する物質特許であり、1992年5月28日出願、1997年に登録、特許存続期間延長登録を経て、2017年5月28日に満了した。

2015年3月31日付で請求された本件無効審判は2016年7月5日に請求不成立審決となった。従って、さらに審決取消訴訟を提起しても1年以内に(おそらく訴訟係属中に)①特許満了日(2017年5月28日)を迎えること、②物質特許が有効なものとして裁判が係属する以上、年2回やってくる後発品承認タイミングである2016年8月か2017年2月ではクレストール後発品の承認は下りないだろうこと、は予測できたと思われ、審決取消訴訟をしてもしなくても特許満了となり2017年8月のタイミングでは承認が下りることは推測できたわけであるから、あえて審決取消訴訟する必要があったのか・・・という疑問はあるが、日本ケミファはとにかく最後まで裁判を続けたわけである。

本件特許が満了する前の2017年2月にクレストールのオーソライズドジェネリック(第一三共エスファ)が承認され、同年6月薬価収載、他の後発品に先駆けて販売となった。他のクレストール後発品は本件特許満了後の同年8月に承認、同年12月に薬価収載(20社以上)となった。日本ケミファからのクレストール後発品も同年8月15日に承認、12月に薬価収載となり、本判決前での販売となった。

本件特許の対応米国特許もジェネリックメーカーとの侵害訴訟の中で非自明性が争われ、特許権者側が勝訴している。

参考:

Apr 11, 2018

ハーセプチン®用途特許侵害訴訟。日本化薬バイオシミラーの承認効能効果受け、中外が差止請求放棄

2018年4月11日付の中外製薬のプレスリリースによると、中外製薬は、日本化薬を被告として提起していた特許侵害訴訟について、4月10日に請求放棄の手続を執ったとのことです。

中外製薬は、ジェネンテック社が保有する抗HER2ヒト化モノクローナル抗体「ハーセプチン®注射用60、同150」の乳癌治療に関する用途特許(おそらく、乳癌を治療するための医薬組成物に関する特許第5818545号と推測されます)の侵害を理由として、同製品のバイオ後続品の製造販売承認申請者である日本化薬に対し、2017年8月17日付で東京地裁にバイオ後続品の製造販売等の差し止めを求める訴訟を提起していました(過去記事: 2017.09.09 「中外がハーセプチン®バイオシミラー承認申請した日本化薬に対し用途特許侵害で製造販売差止訴訟提起」)。

中外製薬は、日本化薬のバイオ後続品がまだ承認されていない(従って、薬価収載・製造販売には至っていない)2017年8月17日時点で、差し止め請求及び仮処分命令申立という訴訟提起に踏み切ったわけですが、2018年3月23日に製造販売承認となった日本化薬のバイオ後続品の効能・効果が「HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌」のみであり、「HER2過剰発現が確認された乳癌」は含まないこと(すなわち上記特許権への侵害が回避されたこと)から、上記訴訟における当初目的が達せられたと判断したと推測されます。

すなわち、ハーセプチン®注射用は、国内では、日本化薬のバイオ後続品により、「HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌」という効能・効果への浸食を受けることになりますが、「HER2過剰発現が確認された乳癌」への浸食は免れたということになります。

参考:

Apr 5, 2018

興和、東和の「リバロ」後発品特許訴訟で勝訴

2018年4月5日付の興和からのプレスリリースによると、興和が有する高コレステロール血症治療剤「リバロ錠」(一般名:ピタバスタチンカルシウム)の医薬特許(特許第5190159号)の侵害を理由として、東和薬品(株)が製造販売する「リバロ」の後発医薬品である『ピタバスタチン Ca・OD 錠 4mg「トーワ」』の製造販売の差し止めを求めた訴訟に関し、2018年4月4日付で、知財高裁が同社の控訴を棄却する判決を言い渡し、興和が勝訴したとのことです。

過去記事:

参考:

Mar 31, 2018

臨床開発中のエミシズマブについての特許侵害訴訟で中外勝訴

2018年3月28日付の中外製薬プレスリリースによると、中外製薬の新薬エミシズマブに関し提起された特許侵害訴訟につき、東京地裁において中外製薬勝訴の判決が言い渡されたとのことです。血友病Aに対するエミシズマブ(薬価収載前。開発コード:ACE910)が、バクスアルタ社保有の特許第4313531号に触れるとし、エミシズマブの製造、使用、譲渡、輸出、譲渡の申出の差止め、ならびに廃棄を求める訴えがバクスアルタ社から提起されていました。

中外製薬 press release:
過去記事:

Mar 4, 2018

2018.01.30 「イデラ ファーマシューティカルズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10218

特許法50条を準用する同法159条2項の意義: 知財高裁平成28年(行ケ)10218

「トール様受容体に基づく免疫反応を調整する免疫調節ヌクレオチド(IRO)化合物」に関する特許出願(特願2008-535681; 特表2009-515823; WO2007/047396)の拒絶審決(不服2014-14059)取消訴訟。争点は、手続違背(取消事由1)、本願発明の認定の誤り(取消事由2)、実施可能要件及びサポート要件に係る各判断の誤り(取消事由3)の有無。

裁判所は、取消事由2(本願発明の認定の誤り)及び3(実施可能要件及びサポート要件に係る各判断の誤り)は理由がないが、取消事由1(手続違背)は理由があるから、審決を取り消した。

以下、取消事由1(手続違背)についての裁判所の判断の抜粋。

「特許法50条本文は,拒絶査定をしようとする場合は,出願人に対し拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなければならないと規定し,同法17条の2第1項1号に基づき,出願人には指定された期間内に補正をする機会が与えられ,これらの規定は,同法159条2項により,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも準用される。この準用の趣旨は,審査段階で示されなかった拒絶理由に基づいて直ちに請求不成立の審決を行うことは,審査段階と異なりその後の補正の機会も設けられていない(もとより審決取消訴訟においては補正をする余地はない。)以上,出願人である審判請求人にとって不意打ちとなり,過酷であるため,手続保障の観点から,出願人に意見書の提出の機会を与えて適正な審判の実現を図るとともに,補正の機会を与えることによって,出願された特許発明の保護を図ったものと理解される(知的財産高等裁判所平成22年(行ケ)第10298号同23年10月4日判決,知的財産高等裁判所平成25年(行ケ)第10131号同26年2月5日判決各参照)。
このような適正な審判の実現と特許発明の保護との調和は,複数の発明が同時に出願されている場合の拒絶査定不服審判において,従前の拒絶査定の理由が解消されている一方,複数の発明に対する上記拒絶査定の理由とは異なる拒絶理由について,一方の発明に対してはこれを通知したものの,他方の発明に対しては実質的にこれを通知しなかったため,審判請求人が補正により特許要件を欠く上記他方の発明を削除する可能性が認められたのにこれを削除することができず,特許要件を充足する上記一方の発明についてまで拒絶査定不服審判の不成立審決を最終的に免れる機会を失ったといえるときにも,当然妥当するものであって,このようなときには,当該審決に,特許法50条を準用する同法159条2項に規定する手続違背の違法があるというべきである。」
「本件拒絶査定不服審判において,本件拒絶理由通知では,TLR9に関する拒絶理由のみを通知し,実質的にはTLR7及び8に関する拒絶理由を通知しなかったため,原告はTLR7及び8に係る各発明を削除するなどの補正をする機会を失うことになり,実施可能要件及びサポート要件をいずれも充足するTLR9に係る発明まで最終的に特許を受けることができないことになったものと認められる。このような結果は,原告にとって,不意打ちとなるため,原告に過酷というほかなく,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2項の趣旨に照らし,相当ではないというべきである。
かえって,被告は,本件訴訟に至っては,そもそもTLR7及び8が認識するものと,TLR9が認識するものが異なるという技術常識に基づけば,TLR9に対して本願IRO化合物がアンタゴニスト作用を奏するとする原告の作用機序の説明が,TLR7及び8には妥当し得ないことは明らかであるなどとして,現にTLR7及び8に固有の拒絶理由を具体的に主張しているのであるから,実質的にみても,上記のように,本件拒絶査定不服審判においてTLR7及び8に固有の拒絶理由を通知することが,審判合議体にとって困難なものであったとは認められない。
したがって,被告の主張は,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2項の意義を正解しないものに帰し,採用することができない。
なお付言するに,本願IRO化合物が治療効果を有するかどうかの点につき,本件拒絶理由では,TLR7ないし9によって媒介される疾患以外の疾患については治療効果を示すことが確認できないとしているところ,原告は,本件拒絶査定不服審判においては,TLR7ないし9によって媒介される疾患については治療効果を示すことが確認されたものと理解した上,本件拒絶理由を踏まえてTLR1ないし6を削除する補正をし,さらに,その後の意見書において,この点に係る拒絶理由が解消されたとまで述べているのであるから,審決においてTLR7ないし9によって媒介される疾患についても治療的に処置することができるといえる根拠がないと判断するのであれば,審判請求人の手続保障を規定する特許法159条2項の法意に照らすと,本件拒絶査定不服審判において,この点についても改めて拒絶理由を通知することが相当であったものと認められる。」

Feb 26, 2018

大日本住友 LATUDA®の用途特許でANDA訴訟提起(続報)

2018年2月24日付の大日本住友製薬のプレスリリースによると、大日本住友製薬は、FDAに非定型抗精神病薬「LATUDA®」(一般名:ルラシドン塩酸塩)の後発品申請(ANDA)を行った計15社およびその関係会社に対し、大日本住友製薬が保有する用途特許(米国特許番号:9,815,827、2017年11月に成立)の侵害を理由として、2018年2月23日、米国子会社サノビオン社と共同で、米国ニュージャージー州連邦地裁に特許侵害訴訟を提起したとのことです。本訴訟は、LATUDA®の用途特許に基づく特許侵害訴訟であり、2018年2月14日付けのニュースリリース(参考: 大日本住友 LATUDA®の用途特許でANDA訴訟提起)で発表された訴訟と同様のものとのことです。

参考:

Feb 22, 2018

炭酸ランタン水和物に関する特許権について

2018年2月21日、東和薬品より「炭酸ランタン水和物に関する特許権について」の謹告文が掲載されました(参照: 日刊薬業website: 【謹告】炭酸ランタン水和物に関する特許権について

東和薬品は、2018年2月15日に、炭酸ランタン顆粒分包250mg/500mg「トーワ」の承認を取得しており、粒度を特定の範囲とする炭酸ランタンの7~9水和物に関する日本特許(第6225270号)を保有しているとのことです。

請求項1:
90%積算径(D90)が70μm以下である、La2(CO3)3・xH2O(式中、xは7~9の間の数字を示す。)で表される炭酸ランタン水和物からなる、高リン血症を治療するための医薬(ただし、懸濁剤を除く)。
先発薬はバイエルのホスレノール(一般名:炭酸ランタン水和物(Lanthanum Carbonate Hydrate)、分子式: La2(CO3)3・xH2O(x=主として4))。日本では1998年にシャイア社により第Ⅰ相臨床試験が実施され、その後、2003年にバイエルが国内における開発及び製造販売権を取得、「透析中の慢性腎不全患者における高リン血症の改善」の効能・効果でホスレノールチュアブル錠が2008年10月に、また顆粒分包が2012年に承認され、さらに2013年8月に「慢性腎臓病患者における高リン血症の改善」の効能・効果として適応拡大、ホスレノールOD錠が2017年2月に承認。再審査期間は2016年10月15日で終了。

シャイア社が保有する炭酸ランタン水和物に関する特許(第3224544号)は、特許権存続期間延長(2009-700005; 2009-700006; 処分の対象となった物: 炭酸ランタン水和物(販売名:ホスレノールチュアブル錠250mg、500mg)/処分の対象となった物について特定された用途: 透析中の慢性腎不全患者における高リン血症の改善)により存続期間満了日は2021年3月19日となっていますが、沢井製薬が特許無効審判を請求し、現在審決取消訴訟が知財高裁に係属しているようです(平29行ケ10171)。

請求項1:
高リン酸塩血症の治療のための医薬組成物であって、以下の式:La2(CO3)3・xH2O{式中、xは、3~6の値をもつ。}により表される炭酸ランタンを、医薬として許容される希釈剤又は担体と混合されて又は会合されて含む前記組成物。
謹告文からすると東和薬品はシャイア社の特許権を回避した水和物で承認を取得したと考えられます。2018年2月15日には東和薬品だけでなく多くのジェネリックメーカーがホスホレノール後発品の承認を取得していることからすると、それらメーカーは、沢井製薬と同様にシャイア社の特許無効を理由に非侵害であるとの立場であるか、東和薬品と同様にシャイア社特許を回避した水和物で承認を取得したか(であっても東和薬品特許との問題もあり得る)と思われます。

参考:

薬食審査発0616第1号(平成23年6月16日)「異なる結晶形等を有する医療用医薬品の取扱いについて」では、異なる結晶形等を有する医薬品の承認申請(審査)上の取扱いについての基本的考え方が示されている。
「結晶形又は水和物/無水物の違いは、塩違い(酸塩又は金属塩)又はエステル違いの場合と異なり、化学構造の基本的相違を伴わないことから、一般的名称が異なる場合にあっても、承認申請(審査)にあたっては、原則として、次のとおり取扱うものとする。
既承認医薬品の原薬と結晶形等が異なる原薬から成る製剤を新規に承認申請する場合には、既承認医薬品と同一の有効成分から成る製剤を申請する場合と同様に取扱うこととする。」

Feb 14, 2018

大日本住友 LATUDA®の用途特許でANDA訴訟提起

2018年2月14日付の大日本住友製薬のプレスリリースによると、大日本住友製薬は、FDAに非定型抗精神病薬「LATUDA®」(一般名:ルラシドン塩酸塩)の後発品申請(ANDA)を行ったEmcure社およびAmneal社に対し、大日本住友製薬が保有する用途特許(米国特許番号:9,815,827、2017年11月に成立)の侵害を理由として、2018年2月13日、米国子会社サノビオン社と共同で、米国ニュージャージー州連邦地裁および米国デラウェア州連邦地裁にそれぞれ特許侵害訴訟を提起したとのことです。なお、本訴訟は、LATUDA®の用途特許に基づく特許侵害訴訟であり、大日本住友製薬が保有する物質特許に基づき2015年1月に提起した特許侵害訴訟(2015年1月15日公表「大日本住友 LATUDA® ANDA訴訟提起」参照)とは異なる特許侵害訴訟であり、並行して訴訟手続は追行されるとのことです。

2018年2月14日付の大日本住友製薬の記者懇談会・社長会見資料によると、本件による大日本住友製薬の2017年度の連結業績への影響は軽微であり、2018年度以降の業績影響は現在精査中とのことです。2016年5月12日付 2015年度(平成28年3月期)決算説明会資料においては、下記のとおり、北米でのラツーダの特許切れにより、2019年度の業績は落ち込むとの見通しでした。



LATUDA®は、大日本住友製薬が創製した非定型抗精神病薬。米国では、2010年10月に成人における統合失調症治療薬として承認され、2011年2月より「LATUDA®」の販売名でサノビオン社が販売。米国においては、大日本住友製薬はサノビオン社に対して本特許の独占的実施権を許諾しています。

参考:

Feb 8, 2018

塩野義資本参加のViiVがGileadの抗HIV薬を特許侵害で提訴

2018年2月8日付の塩野義製薬のプレスリリースによると、塩野義製薬がGlaxoSmithKline社およびPfizer社とともに資本参加しているViiV社が、米国およびカナダにおけるGilead社のHIVインテグラ―ゼ阻害薬bictegravirに対する特許権侵害訴訟を提起したとのことです。米国では米国特許No.8,129,385に基づいてデラウエア地区連邦地裁に、カナダではカナダ特許No.2,606,282に基づいてトロントのカナダ連邦裁判所に訴状を提出したとのことです。ViiV社は、Gilead社のbictegravirを含む3剤合剤の抗HIV薬が、dolutegravirの特徴的な化学骨格を有するdolutegravirやその関連化合物を包含するViiV社の特許を侵害していることを証明し、損害賠償を求めていくとのことです。

Gilead社のbictegravir

ViiV社のdolutegravir

参考:

Feb 5, 2018

2018.01.22 「バイエルクロップサイエンス v. ビ-エ-エスエフ」 知財高裁平成29年(行ケ)10007

化学物質(マーカッシュ形式)に係る発明の訂正要件・実施可能要件・サポート要件・進歩性: 知財高裁平成29年(行ケ)10007

【背景】

ビ-エ-エスエフ(被告)が保有する「2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン」に関する特許(第4592183号)の無効審判請求不成立審決(無効2015-800065)の取消訴訟。審決の理由は、本件訂正を認めた上で、実施可能要件・サポート要件違反ではなく、進歩性違反でもなく、原文新規事項追加にも当たらないというもの。

訂正後【請求項1】:
(訂正により削除された部分は削除線、追加記載された部分は赤字で示す)

式Ⅰa
[但し,R1が,ニトロ,ハロゲン,シアノ,チオシアナト,C1~C6アルキル,C1~C6ハロアルキル,C1~C6アルコキシC1~C6アルキル,C2~C6アルケニル,C2~C6アルキニル,-OR3又は-S(O)nR3を表し,
R2が,水素,又はハロゲン以外のR1で述べた基の1個-S(O)nR3を表し,
R3が水素,C1~C6アルキルを表し,
nが1又は2を表し,
Qが2位に結合する式Ⅱ
[但し,R6,R7,R8,R9,R10及びR11が,それぞれ水素又はC1~C4アルキルを表し,上記CR8R9単位が,C=Oで置き換わっていても良い]
で表されるシクロヘキサン-1,3-ジオン環を表し,
X1が酸素により中断されたエチレン,プロピレン,プロぺニレンまたはプロピニレン,或いはまたは-CH2O-を表し,
Hetが,
窒素,酸素及び硫黄から選択される1~3個のヘテロ原子を有する,3~6員の部分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基,又は
下記の3個の群:窒素,酸素と少なくとも1個の窒素との組み合わせ,又は硫黄と少なくとも1個の窒素との組み合わせから選択されるヘテロ原子を3個まで有する,3~6員のヘテロ芳香族基,を表し,且つ上述のヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基は,部分的に又は完全にハロゲン化されていても,及び/又はR5で置換されていても良く,・・・

オキシラニル,2-オキセタニル,3-オキセタニル,2-テトラヒドロフラニル,3-テトラヒドロフラニル,2-テトラヒドロチエニル,2-ピロリジニル,2-テトラヒドロピラニル,2-ピロリル,5-イソオキサゾリル,2-オキサゾリル,5-オキサゾリル,2-チアゾリル,2-ピリジニル,1-メチル-5-ピラゾリル,1-ピラゾリル,3,5-ジメチル-1-ピラゾリル,または4-クロロ-1-ピラゾリルを表す
で表される2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン又はその農業上有用な塩。

【要旨】

裁判所は、原告主張の取消事由(本件訂正の可否、実施可能要件に係る判断の誤り、本件訂正発明の容易想到性に係る判断の誤り、原文新規事項追加に係る判断の誤り)はいずれも理由がないとして、原告の請求を棄却した。以下、裁判所の判断の抜粋。

取消事由1(本件訂正の可否)について
「(1)・・・すなわち,本件訂正発明は,本件発明のR1を1種類(ハロゲン),R2を1種類(-S(O)nR3),X1を2種類(酸素により中断されたエチレン鎖又は-CH2O-),Hetをヘテロシクリル基及びヘテロ芳香族基(ヘテロアリール)のうちの本件明細書に挙げられている多数の物質の中から18種類又は15種類の化合物に限定したものである。そして,本件訂正後の化学物質群は,いずれも本件訂正前の請求項に記載された各選択肢に内包されていることが明らかである。したがって,本件訂正は,特許請求の範囲を減縮するものである。また,訂正後の化学物質群は,訂正前の基本骨格(シクロヘキサン-1,3-ジオンの2位がカルボニル基を介して中央のベンゼン環に結合した構造。本件共通構造)を共通して有するものである。加えて,訂正後の化学物質群について,訂正前の化学物質群に比して顕著な作用効果を奏するとも認め難い。そうすると,選択肢を削除することによって,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではない。このように,本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とし,また,本件明細書に開示された技術的事項に新たな技術的事項を導入するものでないから,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内である。したがって,本件訂正は,特許法134条の2第9項が準用する126条5項の規定に違反しない。

・・・原告は,選択肢を削除する訂正が認められるのは,特定の選択肢の組合せを採用することが当初明細書等に記載されているといえる場合だけであり,本件明細書の【0061】は,多種多様なヘテロシクリルやヘテロ芳香族基(ヘテロアリール)を,単に「列挙」しているにすぎず,本件明細書の他の記載を参酌しても,訂正後のHetの「18個の選択肢」やそれらと特定のX1(酸素により中断されたエチレン鎖又は-CH2O-)との組合せは記載されていないことから,本件訂正は新たな技術的事項を導入するものであり,認められない,特許庁の審査基準においても同旨の考え方が採用されていると主張する。

しかし,原告がその主張の根拠とする審査基準においても,訂正の結果,残った発明特定事項で特定されるものが新たな技術的事項を導入するものであるか否かで判断すべきものとされているところ,本件訂正においては,前記(1)のとおり,新たな技術的事項は導入されていない。

・・・したがって,本件訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,新規事項の追加には当たらないから,本件訂正を認めた審決の判断に誤りはない。」
取消事由2(実施可能要件に係る判断の誤り)について
「・・・製造実施例(【0131】~【0134】)にはX1として「-CH2O-」である化合物に関するものが示されているのみで,X1が「-CH2OCH2-」である化学物質の製造に関する実施例の記載こそないものの,原料化学物質であるHO-CH2-Het(甲62,69参照)が入手できれば,上記方法Cの記載(【0050】~【0056】)も参考にしつつ,合成例の工程bに示された周知の反応と同様の合成を行うことにより,X1が「-CH2OCH2-」である化学物質も当業者が容易に合成することができるものと認められる。 そうすると,請求項1の式ⅠaにおけるX1が「-CH2O-」,「-CH2OCH2-」のいずれの場合についても,本件明細書の記載と出願時の技術常識に基づけば,当業者に通常期待し得る程度を超える試行錯誤を求めることなく,当該化学物質を製造することができるものと認められる。

・・・当業者は,本件訂正発明に係る,本件共通構造を有する2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物を【0136】~【0140】に記載の使用実施例に従って施用すれば,従来技術から除草剤の有効成分とされる2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物と同様に課題を解決できることを理解することができるから,実際に除草試験を行った結果の記載の有無にかかわらず,過度の試行錯誤を要することなく,本件訂正発明に係る新規化学物質を除草剤として使用することができる。

・・・原告は,実施可能要件を満たすためには,実際に試験を行い,その試験結果から,当業者にその有用性が認識できることを必要であって,通常,一つ以上の代表的な実施例が必要である,また,用途発明であれば,通常,用途を裏付ける実施例が必要であると主張する。
しかし,前記イのとおり,本件共通構造を有する2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物は,除草作用を有し,除草剤の有効成分として有用であることが従来から知られていたことからすれば,本件共通構造を有する2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物であれば,同様の効果を奏するものと推認できるから,本件訂正発明については,改めて試験を行うまでもなく,有用性が認められるというべきである。また,本件訂正発明は,除草剤の有効成分の化学物質に係る発明であるから,いわゆる用途発明には当たらないし,用途発明に準じて実施例が必要であるということもできない。」
取消事由3(サポ-ト要件に係る判断の誤り)について
「特許請求の範囲の記載が,明細書のサポ-ト要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。発明の課題は,原則として,発明の詳細な説明の記載から把握すべきであるところ,一般に,化学物質に関する発明の課題は,新規かつ有用な化学物質を提供することにあるものと考えられる。

・・・また,サポ-ト要件を満足するために,発明の詳細な説明において発明の効果に関する実験デ-タの記載が必ず要求されるものではない。特に本件訂正発明は,新規な化学物質に関する発明であるから,医薬や農薬といった物の用途発明のように具体的な実験デ-タ,例えば,具体的な除草活性の開示まで求めることは相当でない。

・・・本件訂正明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて,本件訂正発明に係る化学物質が,従来技術の除草剤の有効成分と同様に課題を解決できることを推認することができるのであるから,被告が出願後に行った実験成績証明書の参照の有無にかかわらず,発明の詳細な説明に具体的な実験デ-タがないことをもってサポ-ト要件違反とする,原告の主張を採用することはできない。

・・・原告は,本件共通構造をもった化合物であれば必ず除草活性を示すという技術常識はなく(甲99),また,本件訂正発明がサポ-ト要件を満足するとの根拠(化学構造上の共通性)として本件審決が示した従来技術(引用例1ないし4)は限られた先行技術であって,当業者の技術常識とはいえない旨主張する。
しかし,2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物(本件共通構造を有する化合物群)が除草活性を示すことが従来から知られていることについては,本件明細書【0003】~【0006】に記載されているとおりである。そうすると,発明の詳細な説明において,請求項に係る発明が発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているものと認めるのが相当である。また,甲99に示された化合物番号55など,仮に,本件訂正発明に係る一般式と共通構造を有する化学物質に,特定のある植物に対して除草活性を示さないものが含まれるとしても,前記3(3)ウ(イ)のとおり,共通構造を有する化学物質が除草活性を示すことを推認できる以上,本件訂正発明に係る化学物質のうち実際に除草活性を示さない態様を確認し,これを除くように請求項を記載しなければ,サポ-ト要件を満たさないと解することは相当でない。」
取消事由4(本件訂正発明の容易想到性に係る判断の誤り)について
引用発明1(特開平8-20554)
「本件訂正発明1と引用発明1との間には,本件審決が認定したとおりの相違点1及び2が認められる。

・・・相違点1は,本件訂正発明1は,R2が,-S(O)nR3であるのに対し,引用発明1においては・・・クロロ(塩素)である点である。
引用例1では,シクロヘキサンジオン化合物のベンゼン環の3位に直鎖状の基が結合している化合物(従来技術である比較薬剤AないしD)に対して,同位置に置換フェニル基を導入することにより優れた除草効果を奏することを見いだしている。そして,引用例1においては,上記ベンゼン環の4位(本件訂正発明のR2に相当)に結合する基は塩素に固定されていることから,ベンゼン環の4位にアルキルスルホニル基(-S(O)nR3)である化合物が開示された引用例2を参酌しても,引用発明1の上記4位の塩素基をアルキルスルホニル基に変更する動機付けはない。

引用発明2(特開平7-206808)
原告は,引用例2には,引用発明2が,ベンゼン環の4位に引用発明1と同様に塩素基が結合した(ただし,同3位の置換基は引用発明1と相違する。)比較薬剤Cよりも除草活性に優れること等が記載されていることから,引用発明1の同4位の塩素基を,引用発明2の同4位のアルキルスルホニル基(-S(O)nR3)に置換する動機付けがあると主張する(下図参照)。


しかし,引用例2における比較薬剤C及びAは,ベンゼン環の3位の置換基が引用発明1よりも除草活性の劣る,引用発明1の従来技術の置換基と同じであり,引用発明2との関係においても,引用発明2よりも除草活性の劣るものとして開示されているのであるから,引用発明1の同4位の塩素基をアルキルスルホニル基(-S(O)nR3)に置換することによって優れた除草効果が期待される等の動機を見いだすことはできない。
したがって,引用例2の比較薬剤の記載から,引用発明1のベンゼン環の4位の置換基の変更を想起することはできない。以上のとおり,相違点1は,容易に想到することができない。

・・・相違点2は,本件訂正発明1は,Hetが,・・・2-テトラヒドロフラニル・・・であるのに対し,引用発明1においては,対応する基が,特定の基Xを0,1又は2個有するフェニル基である点である。
・・・引用例2ないし4のいずれにも前記相違点2に係る特定のHetのいずれかについての開示はない。また,引用例2ないし4のいずれにも,ベンゼン環の3位を特定のヘテロ環オキシメチルとすることは記載されておらず,3位の基としてヘテロ環を有する構造が少数記載されているものの,・・・ヘテロ環の連結基は本件訂正発明1におけるX1とは異なる。したがって,引用発明1に,引用例2ないし4に記載された発明を組み合わせても,3位の構造が,本件訂正発明1に係る特定のヘテロ環オキシメチル(-CH2O-Het)構造を有する化学物質を得ることはできない。そうすると,引用発明1に,引用例2ないし4に記載されている事項を組み合わせても,引用発明1に係る化合物におけるベンゼン環の3位の置換基が本件訂正発明1に係る特定のHet構造とはならない。そして,上記組合せによって得られる化合物について,引用発明1の特定のHet構造(相違点2)に置換する動機付けがあるともいえない。

以上のとおり,本件訂正発明1は,引用発明1及び引用例2ないし4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。」
取消事由5(原文新規事項追加に係る判断の誤り)について
「本件訂正後の明細書に記載されているX1の定義は,国際出願日における国際出願の明細書に記載した事項の範囲内であるから,取消事由5に理由はない。」
【コメント】

1.マーカッシュ形式における選択肢を削除する補正・訂正の許容性について

本件判決によれば、訂正が明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではないと判断されるためには、特許請求の範囲を減縮するものであることを前提として、以下の2点が満たされれば十分のようである。
  • 訂正後の化学物質群は、訂正前の基本骨格を共通して有するものであること
  • 訂正後の化学物質群について、訂正前の化学物質群に比して顕著な作用効果を奏するとも認め難いこと
化学物質群のクレームについてのマーカッシュ形式における置換基等の選択肢を削除する補正・訂正(言い換えれば、選択肢の新しい組合せをつくる補正・訂正)は、かなり緩やかに許容されるということになる。しかし、今回の審決・判決により、明細書中の記載の備えが不要になったわけではない。補正要件・訂正要件に疑義がないようにしておくことは将来にわたり無用な争点を作らないためにも重要であるし、欧州含めた海外での補正・訂正の許容性を考えるのであれば、特定の選択肢の組合せを念入りに明細書に記載しておくことは依然として熟考すべきであろう。

2.化学物質に係る発明の実施可能要件・サポート要件について

化学物質に係る発明において、明細書の記載と出願時の技術常識に基づいて、当業者が、通常期待し得る程度を超える試行錯誤を求めることなく当該化学物質を製造することができ且つ課題を解決できる(使用することができる)ことを理解することができるのであれば、実施可能要件を満たすために実際に発明の効果確認のための試験結果の記載が必ずしも必要というわけではない。この点は、実施例及び発明の効果に関する実験デ-タの記載が原則必要とされる用途発明と区別される。

サポート要件については、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断されるべきものであるところ、一般に、化学物質に係る発明の課題は新規かつ有用な化学物質を提供することにあるから、サポート要件を満たすためには当該化学物質が課題を解決できることを推認することができれば足り、用途発明のように具体的な発明の効果に関する実験デ-タの開示までは求められない。

実施可能要件及びサポート要件における実施例及び発明の効果に関する実験デ-タの明細書記載の必要性について、化学物質に係る発明と用途発明とでは区別されることが示された。懸念点は、第三者の出願として極端に広いマーカッシュ形式の化学物質に係る発明が開示されたとき、その範囲全体にわたりfreedom-to-operationにリスク度が増す方向として留意しなければならないこと、また、その範囲全体にわたり化学物質の引用発明としての適格性が増したことに留意しなければならないことである。本件判決において、マーカッシュ形式における選択肢を削除する補正・訂正の許容性が欧州に比べ明らかに緩やかである(言い換えれば、マーカッシュ形式のクレームの補正・訂正の自由度が比較的高い)方向に判断されたことも踏まえれば、上記点はその懸念を増したといえるのではないだろうか。

3.発明の容易想到性に係る判断の誤り

本件訂正発明1と引用発明1との相違点1である置換基部位にことさら着目することの動機づけは引用例1の記載に存在せず、従って、引用発明1と他の引用例の記載を参酌して組合せる動機付けもなく、本件訂正発明に容易に想到することはできないと判断された。機械的に引用発明どうしの組合せまたは後知恵的な組合せは排除されるべきである。

4.別件訴訟

ビーエーエスエフとバイエルクロップサイエンスとは特許権侵害訴訟でも争っており、東京地裁も特許権者であるビーエーエスエフの請求を認め、本件特許は有効であり、バイエルクロップサイエンスの製品(テフリルトリオン)は侵害であると判断した(2017.12.25 「ビ-エ-エスエフ v. バイエルクロップサイエンス」 東京地裁平成27年(ワ)2862
)。

テフリルトリオン

Jan 30, 2018

テリパラチド酢酸塩に関する特許権について

旭化成ファーマ(株)は、ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)の活性部分である N 端側の 1-34 ペプチド断片であるテリパラチド(Teriparatide)酢酸塩を有効成分とする週 1 回皮下投与の骨粗鬆症治療剤「テリボン(TERIBONE)®皮下注用56.5μg」を製造販売しています(再審査期間は、2011年9月26日~2017年9月25日(6年))。旭化成(株)の2017年度第2四半期決算説明資料(2017年11月7日)によるとテリボンの国内売上高2017年度見込みは271億円。

2018年1月29日付の「【謹告】テリパラチド酢酸塩に関する特許権について」によれば、旭化成ファーマ(株)は、テリパラチド酢酸塩を有効成分とする骨粗鬆症治療ないし予防剤に関する特許権(日本特許第6150846号、日本特許第6043008号、日本特許第6198346号)、テリパラチド酢酸塩を有効成分とする凍結乾燥製剤に関する特許権(日本特許第5922833号、日本特許第5960935号、日本特許第5996824号、日本特許第6031633号、日本特許第6057492号)およびテリパラチド酢酸塩を有効成分とする凍結乾燥製剤の製造方法に関する特許権(日本特許第6025881号、日本特許第6258426号)を保有しており、これら特許権は有効に存続しているとのことです。

上記特許権(日本特許第6150846号、日本特許第6043008号、日本特許第6198346号)は元をたどると特願2011-530844(再表2011/030774; WO2011/030774)を原出願とするものです。この特願2011-530844については、拒絶審決取消訴訟(2016.11.28 「旭化成ファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成27年(行ケ)10241)で新規性・進歩性が争われた経緯があります。

また、上記凍結乾燥製剤に関する特許権は、類縁物質の種類と含有量が特徴である発明となっています。

参考:

Jan 23, 2018

田辺三菱 エダラボン点滴静注バッグ 特許侵害訴訟を取下げ

2018年1月23日付の田辺三菱製薬プレスリリースによると、田辺三菱製薬は、フリーラジカルスカベンジャー「ラジカット®点滴静注バッグ30mg」の後発医薬品を販売する日新製薬に対して、2017年3月10日付で東京地裁にプラスチック容器に関する特許権に基づく侵害差止等請求訴訟を提起していましたが、協議の結果、容器本体の材質変更前の日新製薬の製品について、本特許権の取扱いに関して円満解決に至り、1月19日付で本訴訟の取下げを行ったとのことです。

なお、田辺三菱製薬は、「ラジカット®点滴静注バッグ30mg」の後発医薬品を販売する他の複数の会社とも、本特許権の取扱いに関して協議の結果、既に合意しており、また、交渉継続中の同製品の後発医薬品を販売する会社とも侵害問題の解決をめざしていくとのことです。

「ラジカット®点滴静注バッグ30mg」は、田辺三菱製薬が創製したフリーラジカル消去作用を有するエダラボン(edaravone)を有効成分とする薬剤。効能効果は「脳梗塞急性期に伴う神経症候、日常生活動作障害、機能障害の改善」及び「筋萎縮性側索硬化症(ALS)における機能障害の進行抑制」。アンプル製剤であった「ラジカット注 30mg」は使用時に適当量の生理食塩液等で用時希釈する必要があったことから、より利便性の高いバッグ製剤として「ラジカット点滴静注バッグ 30mg」の開発が行われ、2010年1月に承認、2010年5月より販売が開始された。

参考:

Jan 21, 2018

2018.01.15 「日産化学 v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10278

ピタバスタチン結晶多形の請求項記載をめぐる補正要件・分割要件判断: 知財高裁平成28年(行ケ)10278

【背景】

日産化学が保有する「ピタバスタチンカルシウムの新規な結晶質形態」に関する特許(第5702494号)の異議申立てについて一部請求項に係る特許取消決定(異議2015-700094)の取消訴訟。本件特許(第5702494号)は、分割出願によるものであり、本件出願時の請求項1で特定される結晶多形Aから、いわゆる親出願(第1出願)で成立した特許(特許第5192147号)発明(構成要件Eで特定される結晶多形A)を除く補正を経て成立していた。

本件取消決定の理由は、
  • 当該構成要件Eを追加した補正が新規事項の追加であること
  • サポート要件・実施可能要件を満たさないこと
  • 直近の親出願(第3出願)当初明細書等にはX線粉末回析において26個偏差内相対強度図形を示す結晶多形Aしか記載されていなかったから、6個のピーク及び1個のピークの不存在で結晶多形Aを特定する本件発明1は、第3出願当初明細書等に記載された事項の範囲を拡大するもの(分割出願要件違反)であり、結果、原出願日が認められないことにより新規性・進歩性違反であること
であった。

請求項1(下線は構成要件Eを示す):
2θで表して,5.0±0.2°,6.8±0.2°,9.1±0.2°,13.7±0.2°,20.8±0.2°,24.2±0.2°に特徴的なピークを有し,20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない,特徴的なX線粉末回折図形を示し,FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9~15%である(但し,10.5~10.7%(w/w)の水を含むものを除く),(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。
但し,2θで表して,5.0±0.2°(s),6.8±0.2°(s),9.1±0.2°(s),10.0±0.2°(w),10.5±0.2°(m),11.0±0.2°(m),13.3±0.2°(vw),13.7±0.2°(s),14.0±0.2°(w),14.7±0.2°(w),15.9±0.2°(vw),16.9±0.2°(w),17.1±0.2°(vw),18.4±0.2°(m),19.1±0.2°(w),20.8±0.2°(vs),21.1±0.2°(m),21.6±0.2°(m),22.9±0.2°
(m),23.7±0.2°(m),24.2±0.2°(s),25.2±0.2°(w),27.1±0.2°(m),29.6±0.2°(vw),30.2±0.2°(w),34.0±0.2°(w)[ここで,(vs)は,非常に強い強度を意味し,(s)は,強い強度を意味し,(m)は,中間の強度を意味し,(w)は,弱い強度を意味し,(vw)は,非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し,FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3~15%であるものを除く。
本件特許までの分割経緯:
  • 【第1出願】PCT/EP2004/050066(2004.02.02出願)/WO2004/072040(2004.08.26公開)/特願2006-501997号/特表2006-518354(2006.08.10公開)⇒特許第5192147号(2013.02.08登録)
  • ⇒分割【第2出願】:特願2011-127696号(2011.06.07出願)/特開2011-201915(2011.10.13公開)⇒出願取下
  • ⇒分割【第3出願】:特願2013-264348号(2013.12.20出願)/特開2014-055185(2014.03.27公開)⇒出願取下
  • ⇒分割【本件出願】:特願2014-155001号(2014.07.30出願)(本件出願)/特開2014-198743(2014.10.23公開)⇒特許第5702494号(2015.02.27登録)(本件特許)

【要旨】

主 文
1 特許庁が異議2015-700094号事件について平成28年11月18日にした決定のうち,特許第5702494号の請求項2,4,6及び9に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。
裁判所の判断

裁判所は、取消事由1(本件補正が新規事項の追加に当たるとした判断の誤り)並びに取消事由2及び3(サポート要件の判断の誤り及び実施可能要件の判断の誤り)はいずれも理由があるとして特許庁によるこれら部分の取消決定を否定したが、取消事由5(引用発明2又は2’に基づく進歩性の判断の誤り)は理由がないとして特許庁による取消決定を支持。結果、本件決定のうち、請求項1、3、5、7及び10ないし13に係る本件特許を取り消した部分に誤りはなく、請求項2、4、6及び9に係る本件特許を取り消した部分は誤りであると判断した。

以下、請求項1についての取消事由1における新規事項の追加の該当性及び取消事由5における分割要件充足性と進歩性判断に関する部分についての判断を抜粋。

1.取消事由1(本件補正が新規事項の追加に当たるとした判断の誤り)について
「明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法17条の2第3項),補正が,当業者によって,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものということができる。・・・本件出願当初明細書等の記載を総合すれば,構成要件Eで特定される結晶多形Aだけではなく,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定される結晶多形Aも,導くことができるから,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定される結晶多形Aから,構成要件Eで特定される結晶多形Aを除くものを,本件出願当初明細書等の全ての記載を総合することにより導くことができるというべきである。したがって,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】に,構成要件Eを追加する本件補正は,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。」
2.取消事由5(引用発明2又は2’に基づく進歩性の判断の誤り)について
「分割出願が適法であるための実体的要件としては,①もとの出願の明細書,特許請求の範囲の記載又は図面に二以上の発明が包含されていたこと,②新たな出願に係る発明はもとの出願の明細書,特許請求の範囲の記載又は図面に記載された発明の一部であること,③新たな出願に係る発明は,もとの出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であることを要する。なお,本件出願が第1出願の出願時にしたものとみなされるためには,本件出願,第3出願及び第2出願が,それぞれ,もとの出願との関係で,上記分割の要件①ないし③を満たさなければならない。」

「・・・本件発明1は,2θで表して,5.0±0.2°,6.8±0.2°,9.1±0.2°,13.7±0.2°,20.8±0.2°,24.2±0.2°に特徴的なピークを有し,20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない,特徴的なX線粉末回折図形を示すこと等により特定されるピタバスタチンカルシウムの結晶多形であるところ,第3出願当初明細書等には,結晶多形Aとして,このような結晶多形は記載されておらず,結晶多形Aと名付けられた結晶多形以外の結晶多形としても,このような結晶多形が記載されているということはできない。したがって,本件発明1は,第3出願当初明細書等に記載された事項の範囲内にあるということはできず,前記分割の要件③は満たさない。・・・26個無偏差相対強度図形のうち,比較的相対強度の強い6個においてピークを確認できる結晶多形が,第3出願当初明細書等に開示された結晶多形Aであると同定できたとしても,第3出願当初明細書等において開示された結晶多形Aは,26個無偏差相対強度図形のうち,比較的相対強度の強い6個においてピークを確認できる結晶多形ではない。・・・したがって,本件発明1に係る本件出願は,第3出願の一部を新たに特許出願とするものではないから,その出願日は平成26年7月30日となる。したがって,引用例2は,本件出願の出願日前に頒布された刊行物である。」

「・・・引用発明2は,引用例2【0136】に記載された白色結晶性粉末であるところ,当該段落には,当該白色結晶性粉末の製造方法が記載されているから,当業者であれば,引用例2【0136】に記載された白色結晶性粉末の製造方法に基づく追試を行うことは容易に想到し得るものである。そして,同記載の条件を基に夏苅英昭博士が行った実験(以下「本件実験」という。)により得られた白色粉末は,本件発明1の構成要件A,D及びEに含まれるものであったと認められる(甲36,37)。・・・引用発明2に接した当業者であれば,引用例2【0136】に記載された白色結晶性粉末の製造方法に基づく追試を,技術常識を参酌することにより適宜設定可能な範囲で実験条件を加えて行うことは,容易に想到し得るものであり,その結果得られた白色粉末は,本件発明1の構成要件A,D及びEに含まれる。・・・以上によれば,引用発明2に接した当業者であれば,引用例2【0136】に記載された白色結晶性粉末の製造方法において,乾燥条件を適宜設定することにより,引用発明2の含水量を,構成要件Bの範囲内の含水量とすることは容易に想到し得る。・・・以上によれば,本件発明1は,引用発明2及び技術常識に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。」

【コメント】

1.本件特許出願の親特許(第5192147号)について

本件特許出願の親出願(第1出願)は特許第5192147号として成立しており(2013.02.08登録)、「2013.08.28 謹告 ピタバスタチンカルシウムに関する特許権について」においても言及されていた。沢井製薬からの無効審判請求を受けたが、請求不成立との審決に至っていた(無効2013-800212)ため、特許権者である日産化学がジェネリック会社に対して権利行使を試みたのかどうかは明らかでないが、現状としてはジェネリックが多数参入しており、ジェネリック参入阻止には有効でなかったと思われる。

特許第5192147号の請求項1:
2θで表して、5.0(s)、6.8(s)、9.1(s)、10.0(w)、10.5(m)、11.0(m)、13.3(vw)、13.7(s)、14.0(w)、14.7(w)、15.9(vw)、16.9(w)、17.1(vw)、18.4(m)、19.1(w)、20.8(vs)、21.1(m)、21.6(m)、22.9(m)、23.7(m)、24.2(s)、25.2(w)、27.1(m)、29.6(vw)、30.2(w)、34.0(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3~12%である、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。
2.本件特許の請求項1がその記載となった背景

その後、分割出願を重ねて本件出願は、上記親出願特許発明との重複(構成要件Eで特定される結晶多形A)を除く補正を経て成立したわけであるが、日産化学は上記親特許の請求項1の記載に比べて若干の工夫を試みたようである。ひとつは、特徴的なピークを6つのみとすることで結晶形の粉末X線回折ピークの本数を減らしたこと(この点が本件事件で分割要件違反として問題となった・・・)、もうひとつは、回折角の数値にそれぞれ±0.2°の誤差を許容させたことである。これらの記載の工夫は、下記特許侵害訴訟事件からの教訓によるものと想像される。下記事件は同じくピタバスタチンカルシウム塩の結晶多形特許発明についてその技術的範囲の属否判断が争われた事件であり、裁判所は、請求項の記載に基づいて、発明の構成要件を充足するためには15本のピークの全ての回折角の数値が小数点第2位まで一致することを要し、その全部又は一部が一致しない被告ピタバスタチンカルシウム塩の結晶はその技術的範囲に属するということができないものと解するのが相当である、と判断した。すなわち、問題点は、請求項に係る結晶形の粉末X線回折ピークの本数が多すぎたこととそれらの回折角の数値を特定しすぎていたことだったわけである。日産化学としては、これら判決の教訓から、本件親特許の請求項1が26本のピークとそれぞれ誤差範囲のない回折角による特定が特許発明の技術的範囲を狭めすぎてしまっていたことに懸念を抱いたのだろう。その後の分割出願(本件特許)にて特許発明の技術的範囲を広げようと6本のピークとそれぞれ誤差範囲を許容する回折角により特定した請求項での成立を目指した、そして特許査定を得ることに一旦は成功したわけである。

3.補正が新規事項の追加に該当するかどうかの判断について

一見、本件出願時の請求項1で特定される結晶多形A(6本ピーク特定)から構成要件Eで特定される結晶多形A(26本ピーク特定)を除いた後に残る発明としての結晶は何なのか、実体のない「結晶多形A」が残ってしまうのではとも思ってしまう。しかし、そもそも親出願特許請求の範囲を6本ピークで特定できるように成立させていればよかったわけで、26本ピークで特定するという狭すぎた親出願特許請求の範囲を本件特許で広い範囲まで取り直そうとした、というだけのことであり、形式的には、本件出願当初明細書には、本件出願時の請求項1で特定される結晶多形A(6本ピーク特定)も、構成要件Eで特定される結晶多形A(26本ピーク特定)も記載されていたため、本件出願時の請求項1で特定される結晶多形A(6本ピーク特定)から構成要件Eで特定される結晶多形A(26本ピーク特定)を除くものを導くことが出来るとした裁判所の判断は正しいように思える。

4.分割要件の充足の有無の判断について

本件出願明細書の記載において、第3出願明細書には記載されていなかった6本ピークで特定できるような結晶多形Aを書き加えて請求項としたことが仇となった。補正(または分割)の可能性を考え、出願当初明細書の記載をどれだけ充実させておくかということは極めて重要である。分割要件を充足しないことにより本件特許の出願日が2014年7月30日となるのであれば、本件特許出願の親出願である第1出願、第2出願、第3出願のそれぞれの出願公開に記載された発明自体が引用発明ともなるだろう。

参考: ピタバスタチン結晶の特許性について補正要件違反及び分割要件違反が問題となった過去事件:

Jan 9, 2018

サンド・協和発酵キリンのリツキシマブ・バイオシミラーに対する用途特許侵害訴訟に中外・全薬工業が参加

2018年1月9日付プレスリリースによると、中外製薬は、抗CD20モノクローナル抗体「リツキサン®注10mg/mL」について、同製品のバイオ後続品の製造販売者であるサンドおよび販売者である協和発酵キリンに対し、バイオジェン社が保有する3件の用途特許の侵害を理由としてジェネンテック社(本特許権の専用実施権者)が2017年12月28日付で東京地裁に提起したバイオ後続品の販売等の差し止めを求める訴訟に、全薬工業とともに補助参加の申出を行ったとのことです(全薬工業は本剤の独占的販売権者、中外製薬は本剤の全薬工業との共同販売権者)。また、中外製薬は、本訴訟に併せてなされた仮処分命令の申立てについても、補助参加の申出を行ったとのことです。

リツキサン(Rituxan)®は、マウス/ヒトキメラ型抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブ(Rituximab)(遺伝子組換え)を有効成分とするバイオ医薬品。アイデック社(現 バイオジェン・アイデック社)にて、Bリンパ球表面の分化抗原CD20に対するマウス型モノクローナル抗体の可変部領域と、ヒト免疫グロブリン(IgG1κ)の定常部領域を有するマウス-ヒトキメラ型抗CD20モノクローナル抗体の開発が進められ、1991年、リツキシマブ(遺伝子組換え)が創薬されました。1995年3月、アイデック社はジェネンテック社と共同開発契約を締結、1997年11月には米国FDAより承認を受け、日本では、1995年11月に全薬工業が開発及び輸入販売契約を締結、2001年6月にCD20陽性の低悪性度又はろ胞性B細胞性非ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫の治療薬として承認を受けました。

現在、効能又は効果は下記の通り。
  • CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫
  • 免疫抑制状態下のCD20陽性のB細胞性リンパ増殖性疾患
  • ヴェゲナ肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎
  • 難治性のネフローゼ症候群(頻回再発型あるいはステロイド依存性を示す場合)
  • 慢性特発性血小板減少性紫斑病
  • 下記のABO血液型不適合移植における抗体関連型拒絶反応の抑制
    腎移植、肝移植
  • インジウム(111In)イブリツモマブ チウキセタン(遺伝子組換え)注射液及びイットリウム(90Y)イブリ ツモマブ チウキセタン(遺伝子組換え)注射液投与の前投与

被疑侵害品であるリツキシマブBS点滴静注100mg/500mg「KHK」は2017年9月27日に製造販売承認され、同年11月29日に薬価基準収載されています。
効能又は効果は下記の通り。
  • CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫
  • 免疫抑制状態下のCD20陽性のB細胞性リンパ増殖性疾患
  • ヴェゲナ肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎

参考: