バイエル薬品株式会社(以下「バイエル薬品」)は、眼科用VEGF阻害剤「アイリーア®硝子体内注射液40 mg/mL」「アイリーア®硝子体内注射用キット40 mg/mL」(一般名:アフリベルセプト(Aflibercept)、以下、「アイリーア®」)について、当該製品をバイエル社と共同開発し、米国以外での独占的販売権をバイエル社に許諾しているリジェネロン ファーマシューティカルズ社(以下「リジェネロン社」)が、アイリーア®に係る知的財産権の保護を目的として、大阪地方裁判所に仮処分を申し立てたことを発表しました(2025.11.12 バイエル薬品 press release: 眼科用VEGF阻害剤「アイリーア®」の知的財産権保護に関する仮処分申立の提起について)。
本申立は、リジェネロン社が保有するアイリーア®に関する特許7733706号(発明の名称: 血管新生眼疾患を処置するためのVEGFアンタゴニストの使用、登録日: 2025年8月26日、存続期間満了日: 2032年1月11日)に係る特許権(以下「本特許権」)に基づくものであり、富士製薬工業株式会社(以下「富士製薬工業」)が2025年9月19日に製造販売承認を取得したバイオ後続品[アフリベルセプトBS硝子体内注射液40 mg/mL「NIT」][アフリベルセプトBS硝子体内注射用キット40 mg/mL「NIT」]に関する製造・販売等の行為(以下「対象行為」)が、本特許権に抵触するものであると判断し、富士製薬工業による対象行為の差し止めを求めるものとのことです。
アイリーア®の用法・用量
2012年9月、アイリーア®は、「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性」を効能・効果としてバイエル薬品により承認されました。以降、「網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫」、「病的近視における脈絡膜新生血管」、「糖尿病黄斑浮腫」、「血管新生緑内障」、「未熟児網膜症」への適応追加も承認されています。 用法及び用量は以下のとおり。
- 〈中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性〉アフリベルセプト(遺伝子組換え)として2mg(0.05mL)を1ヵ月ごとに1回、連続3回(導入期)硝子体内投与する。その後の維持期においては、通常、2ヵ月ごとに1回、硝子体内投与する。なお、症状により投与間隔を適宜調節するが、1ヵ月以上あけること。
- 〈網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、病的近視における脈絡膜新生血管〉アフリベルセプト(遺伝子組換え)として1回あたり2mg(0.05mL)を硝子体内投与する。投与間隔は、1ヵ月以上あけること。
- 〈糖尿病黄斑浮腫〉アフリベルセプト(遺伝子組換え)として2mg(0.05mL)を1ヵ月ごとに1回、連続5回硝子体内投与する。その後は、通常、2ヵ月ごとに1回、硝子体内投与する。なお、症状により投与間隔を適宜調節するが、1ヵ月以上あけること。
- 〈血管新生緑内障〉アフリベルセプト(遺伝子組換え)として1回、2mg(0.05mL)を硝子体内投与する。なお、必要な場合は再投与できるが、1ヵ月以上の間隔をあけること。
- 〈未熟児網膜症〉アフリベルセプト(遺伝子組換え)として1回、0.4mg(0.01mL)を硝子体内投与する。なお、必要な場合は再投与できるが、1ヵ月以上の間隔をあけること。
富士製薬工業のバイオ後続品
一方、富士製薬工業のバイオ後続品において承認された効能・効果は、「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性」、「網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫」及び「病的近視における脈絡膜新生血管」であり、2025年11月11日に薬価基準への収載が官報告示されています(2025.11.11 富士製薬工業 press release: アフリベルセプト(遺伝子組換え)製剤のバイオ後続品(バイオシミラー)の薬価基準収載のお知らせ)。
同バイオ後続品について、製造販売承認の申請時及び独立行政法人医薬品医療機器総合機構による審査報告書作成時には、その効能・効果には「糖尿病黄斑浮腫」が含まれていましたが(2025.08.05審査報告書より)、承認時(2025年9月19日)には削除されています。
リジェネロン社の特許7733706号
リジェネロン社が保有するアイリーア®に関する特許7733706号の請求項1は以下のとおり。2025年8月26日に登録されました。
患者における血管新生眼疾患の処置に使用するための医薬製剤であって、ここで、前記医薬製剤は、製薬学的に許容される担体およびVEGFアンタゴニストを含み、ここで、前記製剤は、単回の初期用量の製剤、続いて4回またはそれより多い第2次用量の製剤、続いて1回またはそれより多い第3次用量の製剤を逐次的に患者に投与することにより使用され、
ここで、各第2次用量は、その直前の用量の4週後に投与され、そして
ここで、各第3次用量は、その直前の用量の8週後に投与され、
ここで、VEGFアンタゴニストは、以下:
(省略)
のアミノ酸配列を含むVEGF受容体ベースのキメラ分子であり、
ここで、前記製剤は、硝子体内投与により患者に投与される、上記医薬製剤。

富士製薬工業のバイオ後続品の承認よりも前にこの特許は登録されています。この特許の存在は厚労省内でパテントリンケージの問題として考慮されなかったのでしょうか。
富士製薬工業の見解
富士製薬工業は「知的財産権を尊重し、知的財産権保護の重要性を認識しておりますが、本件につきましては特許権に抵触するものでないと考えております。当社は、本件の解決に向けて誠実に対応してまいります。」と発表しています(2025.11.13 富士製薬工業 press release: 仮処分申立てに対する当社見解について)。
アフリベルセプトBSを巡る関連事件
- 2025.09.07ブログ記事「2025.08.13 「サムスン v. リジェネロン」 知財高裁令和7年(ラ)10003 ― アイリーア®(アフリベルセプト)のパテントリンケージにおける特許権者による情報提供と不競法の信用棄損行為該当性」
- 2025.04.22ブログ記事「2024.12.16 「サムスン v. リジェネロン」東京地裁令和6年(ヨ)30028 ― パテントリンケージにおける特許権者による情報提供と不競法の虚偽告知該当性(2) ―」
- 2024.11.23ブログ記事「2024.10.28 「サムスン v. バイエル」東京地裁令和6年(ヨ)30029 ― パテントリンケージにおける特許権者による情報提供と不競法の虚偽告知該当性 ―」



コメント
用量としては決まった数字になっているようなので第n次用量なるものはなさそうかな?と思いました。 結果的にクレームみたいな投与のされ方をする場合はあるのかもしれませんがそういう場合もクレームに含むなら特許の有効性がかなり怪しいですし。
アフリベルセプトBS硝子体内注射液40mg/mL「NIT」の用法及び用量は以下の通りですが、特許7733706の第2次用量の回数は4回以上に対し、「NIT」は3回となっています。
〈中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性〉
アフリベルセプト(遺伝子組換え)[アフリベルセプト後続2]として2mg(0.05mL)を1ヵ月ごとに1回、連続3回(導入期)硝子体内投与する。その後の維持期においては、通常、2ヵ月ごとに1回、硝子体内投与する。なお、症状により投与間隔を適宜調節するが、1ヵ月以上あけること。
〈網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、病的近視における脈絡膜新生血管〉
アフリベルセプト(遺伝子組換え)[アフリベルセプト後続2]として1回あたり2mg(0.05mL)を硝子体内投与する。投与間隔は、1ヵ月以上あけること。
お二方からコメント頂きました。ありがとうございます。ご指摘の部分はとても気になるところですね。
バイエル薬品の発表によると「本申立は、リジェネロン社が保有するアイリーア®に関する特許7733706号に係る特許権に基づくもの」とありますが、具体的にはどのような主張なのか明らかではありませんので、その内容が明らかになることを心待ちにしたいと思います。
【追加情報】
2025.11.14 富士製薬工業: 2025年9月期(第61期)決算説明会質疑応答
https://www.fujipharma.jp/__upload/QA_Business_Results_of_FY2025_20251117.pdf
質問11:
「アフリベルセプトBSの先行品メーカーからの仮処分の申立てに対して、御社から法的な対応を取られるのか教えてください。」
回答:
「知的財産の保護は重要と考えており、また知的財産を尊重しております。該当特許の申請や成立についても認識した上で現在に至っております。弊社としては、本件が特許には抵触するとは考えておりません。引き続き本件の解決に向けて誠実に対応してまいる所存です。」
質問13:
「アフリベルセプトBSの発売時期はいつになるのか教えてください。」
回答:
「発売準備中であり、時期の回答は控えさせていただきます。」
2025.12.05 参天製薬株式会社/バイエル ホールディング株式会社 press release: アフリベルセプト硝子体内注射用キット40 mg/mL「バイエル」の薬価基準収載について
https://www.santen.com/ja/news/2025/2025_1/20251205
https://www.bayer.jp/ja/news/20251205?token=bzwpL0Z8K2xHSjwjdFxjcA==
参天製薬とバイエル ホールディング子会社のバイエル ライフサイエンスは、バイエル ライフサイエンスが厚生労働省より製造販売承認を取得した[アフリベルセプト硝子体内注射用キット40 mg/mL「バイエル」]について、2025年12月5日薬価基準に収載されましたことを公表しました。
本後発バイオ医薬品(バイオオーソライズド・ジェネリック)は、バイエル薬品が2012年に製造販売承認を取得した「アイリーア®硝子体内注射液40 mg/mL」のキット製剤として、Santenが日本国内で販売している眼科用VEGF阻害剤「アイリーア®硝子体内注射用キット40 mg/mL」と原薬、添加剤、製造方法等が同一の製剤であり、「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性」、「網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫」、「病的近視における脈絡膜新生血管」および「糖尿病黄斑浮腫」の4つの適応を取得しているとのことです。
すなわち、「アイリーア®硝子体内注射用キット40 mg/mL」の適応症のうち、「血管新生緑内障」、「未熟児網膜症」への適応は除かれているようです。
製造販売元:
バイエル ライフサイエンス株式会社
発売元:
参天製薬株式会社