スポンサーリンク

知的財産推進計画2026に向けた意見 ― 治療方法発明の保護と医師免責、医薬品臨床試験データ保護、パテントリンケージの法制度化を求めて ―

日本政府の知的財産戦略本部では、同本部の下に設置された構想委員会において、「知的財産推進計画 2026」の策定に向けた検討が進められています。その一環として、今後の検討に資することを目的に、2025年12月1日から2026年1月7日までの期間で意見募集が実施されました。

私自身もこの意見募集に対し、①再生医療等の進展により治療方法それ自体が重要な知的成果となるにもかかわらず、現行特許制度における方法発明の位置づけは必ずしも明確ではないことから、治療方法の特許成立可能性を認めつつ、医師の医療行為に対する効力制限を法令上明確化すべきであること、②日本には医薬品データ保護を直接規律する法律が存在せず、国際水準に照らして独立した法制度の整備が必要であること、③行政運用にとどまっているパテントリンケージについても、関係機関の役割分担を明示した法制度化が求められること、の3点について意見を提出しました。

Fubuki
Fubuki

匿名なので受け付けてもらえないかもしれませんが、一国民として意見を提出しました。

以下に提出した意見を掲載します。

(B3) 産業財産権制度・運用の強化

1.治療方法の発明の特許保護と、医師の実施に対する効力制限を明確化する法改正の必要性

要約

再生医療等の進展により治療方法自体が重要な知的成果となる一方、日本では治療方法の発明が原則特許保護されず、物・方法の形式差により保護が左右されている。知財高裁「東海医科 v. Y」判決はこの制度的歪みを浮き彫りにした。知的財産推進計画2026では、治療方法の特許成立可能性を明確化するとともに、医師の医療行為には特許権の効力が及ばないことを法令上明示すべきである。

全文

近年、再生医療、遺伝子治療、個別化医療等の分野において、治療行為そのものが高度な技術的創作の成果としての性格を強めています。「どのような方法で治療を行うか」という点自体が、医薬品や医療機器と同等、あるいはそれ以上に多大な研究開発投資を要する知的成果となっています。

しかし、我が国の特許制度においては、いわゆる治療方法の発明は原則として特許保護の対象外と整理されており、実務上は、同一の技術内容であっても、「物の発明」としてクレームできるか否かによって、保護の可否や範囲が大きく左右されています。このような構造は、制度としての分かりにくさにとどまらず、研究開発のインセンティブや法的安定性の観点からも看過できない問題を内包しています。

この点を象徴する事例が、知的財産高等裁判所大合議判決(2025年3月19日、いわゆる「東海医科 v. Y」事件)です。同判決は、美容医療の現場で用いられる「物の発明」について、人体への投与であることのみを理由に産業上の利用可能性を否定することはできないと判示しました。また、特許法69条3項の免責規定についても限定的に解釈し、医師による調合・投与行為が特許権侵害となり得ることを明確に示しました。

本判決は、医療分野における特許権の射程を一定程度明確にした点で重要な意義を有する一方、現行制度が「物の発明」と「方法の発明」という形式的区別に過度に依存していること、そして、医療行為と特許権の関係が裁判例の積み重ねによってしか見通せない状況にあることを、あらためて浮き彫りにしました(参照: https://www.tokkyoteki.com/2025/05/2025-03-19-r5-ne-10040.html)。

本来、治療方法の発明は、医療技術の進歩を支える重要な知的成果であり、特許として保護されるに値するものです。他方で、医師が患者の生命・身体を守るために行う医療行為に対して、特許権の効力が直接及ぶことについては、強い慎重さが求められます。研究開発の促進と医療の円滑な実施は、対立すべき価値ではなく、制度設計によって両立させるべき価値です。

そこで、知的財産推進計画2026においては、

① 治療方法の発明について、特許としての成立可能性を法令上明確に認めること

② その一方で、医師が患者に対して行う医療行為については、特許権の効力が及ばないことを、特許法上明文で規定すること

という方向性を明確に打ち出すことが望まれます。

このような整理により、研究開発主体は治療方法に関する技術的成果を正当に保護・活用することが可能となり、医師は特許侵害の懸念なく患者にとって最善の医療を提供することができます。また、クレーム形式の選択によって保護の可否が左右されるという現在の歪みも是正され、制度の透明性と予見可能性が大きく向上します。

医療と知的財産の関係は、裁判所の解釈に委ね続けるべき段階を超えています。知的財産推進計画2026において、治療方法の発明の位置づけと医療行為に対する特許権効力のあり方について、立法を見据えた明確な方向性を示すことは、我が国の医療イノベーションと国民医療の双方にとって極めて意義深い施策であると考えます。

2.医薬品データ保護制度を趣旨とする明確な法律を日本において整備すべきことについて

要約

新薬の臨床試験データは特許と並ぶ重要な知的資産であり、国際的には独立した法制度による保護が確立している。しかし日本では再審査制度による代替運用にとどまり、制度目的の混同や予見可能性の低下を招いている。知的財産推進計画2026では、再審査制度と切り離した医薬品データ保護制度を、独立した法律として明確に位置づけるべきである。

全文

医薬品産業におけるイノベーションは、長期間にわたる研究開発と高い失敗リスクを前提としています。特に新薬の臨床試験データは、特許と並ぶ重要な知的資産であり、その保護は研究開発投資を回収し、次なるイノベーションにつなげるための基盤的制度として国際的に確立されています。

しかし、日本においては、医薬品データ保護を直接規定する明確な法律は存在していません。薬機法に基づく再審査制度が結果としてデータ保護と類似の機能を果たしていると説明されることがありますが、再審査制度は本来、市販後の安全性・有効性を確認する規制制度であり、臨床試験データを知的成果として保護することを目的とするものではありません。この整理は、制度目的の混同を招いています。

この問題意識は、製薬業界のみならず、政府レベルでも共有されつつあります。2025年6月に決定された「知的財産推進計画2025」では、欧米諸国と異なり日本には医薬品データ保護を直接規定する法律が存在しないことが明示され、次期薬機法改正に向けて、医薬品データ保護制度の法制化の必要性について調査・分析を行うことが求められました。これは、日本政府が初めて、医薬品データ保護の法制化を正面から検討課題として位置づけたものとして、高く評価されるべき動きです。

国際的に見れば、TRIPS協定をはじめ、日EU・日英EPA等においても、未公表の臨床試験データの保護は明確に求められています。米国、EU、韓国など主要国では、データ保護制度が独立した法制度として整備されており、特に韓国では、再審査制度を廃止したうえで、新たにデータ保護制度を創設する法改正が行われました。これは、異なる目的を有する制度を峻別し、法体系を合理化した好例といえます。

これに対し、日本が依然として再審査制度による代替的運用にとどまっている状況は、グローバルスタンダードからの遅れであるだけでなく、日本市場の予見可能性を低下させ、国内外の研究開発投資を萎縮させかねません。また、国際的な通商交渉や対外評価の場において、日本の知的財産保護水準に対する疑念を招く要因ともなっています。

医薬品データ保護制度は、後発医薬品の参入を不当に妨げるものではありません。むしろ、保護期間や対象を法律上明確に定めることにより、先発・後発双方にとってルールの予見可能性を高め、健全な競争環境を整えることができます。結果として、イノベーションの促進と安定的な医薬品供給という二つの政策目標を、より高い次元で両立させることが可能となります。

以上を踏まえ、知的財産推進計画2026においては、医薬品の臨床試験データを保護する制度を、再審査制度とは切り離し、独立した法律上の制度として明確に位置づける方向性を示すこと、が強く求められます。これは、単なる制度の追加ではなく、日本の医薬品政策と知的財産政策を国際水準に整合させ、将来にわたる医療イノベーションを支える基盤を整備するための、極めて重要な施策であると考えます。

3.日本のパテントリンケージ制度を法制度として明確化すべきことについて

要約

日本のパテントリンケージ制度は通知に基づく行政運用にとどまり、承認判断と特許判断の関係や司法的救済の在り方が不明確である。運用改善は進むものの制度の法的性格は解消されていない。知的財産推進計画2026では、制度の目的、行政関与の範囲、司法との役割分担を明確化し、法律上の制度として位置づけるべきである。

全文

現在、日本のパテントリンケージ制度は、法令に基づく制度として明確に位置付けられておらず、「二課長通知」に基づく行政運用として実施されています。これは、後発医薬品やバイオ後続品の承認可否に実質的な影響を及ぼし、特許権の効力判断を事実上前提とする運用となっています。

近時の裁判例(知的財産高等裁判所令和4年(ネ)第10093号判決)は、こうした承認判断に起因する不利益が、特許侵害訴訟によって直接解消されるものではないことを明確にしました。その結果、パテントリンケージの発動に対する司法的救済の在り方が構造的に不明確であることが浮き彫りとなっています。

しかしながら、仮に行政訴訟等の手段が採られたとしても、医薬品承認の可否を左右する核心である特許発明の技術的範囲への属否について、司法による実体的判断が示されるとは限りません。その結果、後発医薬品メーカーは、パテントリンケージの発動により事実上承認を阻まれているにもかかわらず、その前提となる特許判断について、適切な司法的救済を受けにくい状況に置かれています。

確かに、2025年10月の二課長通知改正により、バイオ後続品が制度対象として明記され、特許情報の提出期限も整理されました。また、同年11月には、特許専門家の意見を聴取する「専門委員制度」が試行的に導入されています。これらの取組は、運用面での改善として一定の評価が可能です。

もっとも、これらはいずれも通知や運用レベルでの対応にとどまっており、パテントリンケージ制度そのものの法的性格や限界を明確にするものではありません。とりわけ、特許権侵害の有無という本来は司法判断に委ねられるべき事項について、行政がどの範囲まで、どのような基準で関与するのかという根本的な問題は、依然として解消されていません。専門委員の意見も、裁判所の判断に代わる法的拘束力を有するものではなく、制度全体の不透明さを十分に払拭するには至っていないのが実情です。

このような状況を踏まえ、知的財産推進計画2026においては、日本のパテントリンケージ制度を単なる行政運用としてではなく、法律上の制度として明確に位置付ける方向性を示すことが強く望まれます。具体的には、制度の目的、行政が関与する範囲、判断の基準、ならびに司法判断との役割分担を明示することにより、先発医薬品メーカー及び後発医薬品メーカーの双方にとって、予見可能性の高い制度的枠組みを構築すべきです。

パテントリンケージは、本来、行政が特許紛争を代替的に解決する仕組みではなく、医薬品承認制度と特許権行使との「接点」を整理するための制度です。その基本構造を法律上明確にすることは、不要な紛争や不信感を抑制し、結果として医薬品分野におけるイノベーションの促進と安定供給の両立に資するものと考えます。

現在のように、通知改正や運用改善を積み重ねるのみでは、制度の限界が将来的に再び顕在化することは避けられません。知的財産推進計画2026において、パテントリンケージ制度の法制化および制度設計の再検討を中長期的課題として明確に位置付けることは、日本の医薬品産業及び知的財産制度全体の信頼性を高める上で、極めて意義深い施策であると考えます。

以上

Fubuki
Fubuki

パテントリンケージについては、裁判に発展した事例はあるものの、概ね現行の運用で円滑に機能しているとの見方もあります。しかし、法的根拠が必ずしも明確ではない仕組みに、医薬品の承認可否を左右する特許権侵害の成否といった重要な判断を委ねてよいのかについては、改めて議論されるべきではないでしょうか。


※ご覧いただきありがとうございます。この記事の内容について、読者の皆さまのご意見や気づきもぜひお聞かせください!

以下のようなご感想・質問、大歓迎です!

  • 🤔ここ理解しづらいな、という部分はありましたか?
  • 🤔このニュース、事件、判決例の実務影響についてご意見ありますか?
  • 🤔過去の類似事例や判決例をご存じでしたら教えてください!
  • 🤔恥ずかしい質問、つぶやき、大歓迎です
  • 「👍」「なるほど」「疑問あり」だけでもOK!

コメント欄は↓ コメントは匿名OK! ぜひ気軽に投稿してください🙇

皆さんの反応が、次回の記事や解説のヒントになります🥰

コメント

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました