May 21, 2017

2017.04.27 「デビオファーム v. サンド」 知財高裁平成28年(ネ)10103

オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸と特許発明の技術的範囲: 知財高裁平成28年(ネ)10103

【背景】

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告: デビオファーム)が、被控訴人(一審被告: サンド)に対し、サンド製品1及び2の生産等が本件発明1の技術的範囲に属し特許権侵害に当たると主張して、サンド製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。原判決(2016.09.12 「デビオファーム v. サンド」 東京地裁平成27年(ワ)28849)は、サンド製品1及び2はいずれも本件発明1の技術的範囲に属しないとしてデビオファームの請求を棄却したため、デビオファームは控訴した。また、デビオファームは、サンド製品3についても特許侵害に当たる旨及びサンド各製品が本件発明2の技術的範囲に属する旨の追加の訴えを申し立てた。

サンド製品は、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)が本件発明に規定されているモル濃度の範囲内で含有するものだが、このシュウ酸は外部から添加されたもの(添加シュウ酸)ではなかった。サンド製品における「解離シュウ酸」が、本件発明にいう「緩衝剤」に含まれるかどうかが争点。

【要旨】

知財高裁は、本件発明1における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は、添加シュウ酸に限られ、解離シュウ酸を含まないものと解されるから、解離シュウ酸を含むのみで、シュウ酸が添加されていないサンド製品1及び2は、構成要件の「緩衝剤」を含有するものではなく、したがって、サンド製品1及び2は本件発明1及び本件訂正発明2の技術的範囲に属しないものと判断した。控訴棄却。

また、知財高裁は、デビオファームの追加の訴えの申し立てを却下しなかったが、本件発明2は、本件発明1の「緩衝剤」であるという構成を含むものであるから、サンド各製品は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも本件発明2の技術的範囲にも属さないと判断した。

【参考】

原判決:

May 14, 2017

2017.04.25 「グロービア v. ナチュラルビューティー」 知財高裁平成28年(ネ)10106

フェルガードとフェルゴッド知財高裁平成28年(ネ)10106

【背景】

「フェルガード」と標準文字で書してなる商標(指定商品: フェルラ酸とガーデンアンゼリカを主成分とする粉末及びカプセル状の加工食品。)に関する商標権(第5059677号)を保有するグロービアが、ナチュラルビューティーに対して東京地裁に提起した商標権侵害訴訟において非侵害の判決を受けたため、控訴した事案。争点は、フェルラ酸含有商品を販売するナチュラルビューティーの各標章は本件商標に類似するかであった。

【要旨】

裁判所は、
「本件商標と被告各標章は,外観は異なり,いずれも特定の観念を生じさせるものではなく,その称呼においても,全体の語調,語感において,異なる印象を与えるものである。そして,原告商品及び被告各商品の具体的な取引の実情を踏まえつつ,本件商標と被告各標章が,その外観,観念,称呼等によって需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察した場合,本件商標と被告各標章について,需要者に,商品の出所につき誤認混同を生じさせるおそれがあるということはできない。」
として控訴を棄却した。

「被告各商品は,原告商品を故意に似せて作ったものであり,その販売形態が類似している。サプリメントは需要者が誤って商品を購入すれば,その生命や身体に多大な影響を及ぼすことなどから商標法による保護が一層重要である」等のグロービアの主張に対して、裁判所は、
「被告各商品は,原告商品と外箱のデザインなどが類似しているほか,インターネット上のウェブサイトにおいて,被告各商品が「フェルガードに替わるフェルラ酸含有食品」などと紹介されており,また,検索サイトで原告商品である「フェルガード」を検索すると,「フェルゴッド」との標章を有する被告各商品が表示されることが認められる。しかし,これらの事情は,他の法律の規制を受けることの一事情になり得るとしても,これらの事情によって,本件商標と被告各標章との間で,商標法上,出所の誤認混同のおそれを生じさせるに至るということはできない。」
と判断した。

【コメント】

原告の主張によれば、「被告各商品は,かつて原告と取引関係にあり,原告商品を販売していた株式会社サンユーコーポレーションの関係者が,原告との取引解消直後に,関連会社をして「フェルゴッド」との文字からなる商標に係る商標権を取得させ,さらに,被告を設立してこれを販売元として販売を開始しているのであって,原告商品又は本件商標の有するブランド力を利用する目的で作られたことが明らかである。」(原審より引用)との事情があったようである。

ところで、グロービアの商品に関連する判決として以下のものがある。

May 11, 2017

臨床開発中のemicizumabの米国内製造等が特許侵害にあたるとしてバクスアルタ社が中外製薬を提訴

中外製薬のニュースリリースによると、臨床開発中の血友病Aに対する新薬候補物質「emicizumab」(開発コード:ACE910)がバクスアルタ社保有の米国特許第7,033,590号に触れるとし、米国における上記emicizumabの製造、使用、譲渡の申出、譲渡、輸入の差止め等を求める訴えが中外製薬および米国ジェネンテック社に対して米国デラウェア州連邦地方裁判所において提起されたとのことです。

バクスアルタ社は、米国内でのemicizumab製造、販売および輸入等がバクスアルタ社の米国特許を侵害すると主張しているようですが、中外製薬は、emicizumabがバクスアルタ社の特許を侵害しないものと確信しており、当該特許の非侵害及び無効の主張、その他適切な反論を行っていく方針であるとのことです。

米国特許第7,033,590号のclaim 1:
1. An isolated antibody or antibody fragment thereof that binds Factor IX or Factor IXa and increases the procoagulant activity of Factor IXa.
Emicizumab(開発コード:ACE910):
中外製薬にて創製された抗factor IXa/X バイスペシフィック抗体(注射剤)であり、血友病Aを予定適応症として、現在、第III相(国際共同治験)の段階。
ちょうど昨年の今日、日本での行為に対して訴訟が提起されたというニュース(バクスアルタ社が国内臨床試験中emicizumabの製造・使用を特許侵害にあたるとして中外製薬を提訴)がありました。

参考:

May 8, 2017

2017.03.23 「DKSH v. ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ・中外製薬」 知財高裁平成28年(行ケ)10101

マキサカルシトールの製造方法の進歩性: 知財高裁平成28年(行ケ)10101

【背景】

ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティ及び中外製薬が保有する「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許(第3310301号)に対して、DKSHがした無効審判請求を不成立とした審決(無効2015-800057)の取消訴訟。争点は進歩性の有無及びサポート要件違反の有無。

【要旨】

請求棄却。進歩性の有無についての裁判所の判断(一部)は下記のとおり。

原告は、
「甲1発明は,「甲1記載の化合物(9)を用い,SN2反応を経由してマキサカルシト-ル(1α,25-(OH)2-22-オキサ-D3。以下「OCT」ともいう。)を製造する方法」と認定されるべきである。…甲1には「化合物(9)を用いたOCTの製造方法」の発明が記載されていることが認められるところ,第1級ハロゲン化アルキルとアルカリ金属アルコキシドのような求核性化合物との反応がSN2反応となることは,技術常識であるから,「化合物(9)を用い,SN2反応を経由するOCTの製造方法」は,甲1に記載されているに等しい事項であり,原告主張の甲1発明が認定できる。仮に,ステロイド-20(S)-アルコールからOCTを得るまでの工程として,審決認定の甲1発明以外に具体的な記載が甲1にないとしても,審決認定の甲1発明の上位概念たる原告主張の甲1発明を認定することは,当然に許される。」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「ウィリアムソン反応がSN2反応の一種であることが技術常識であったとしても,甲1に,ウィリアムソン反応ではない反応も含むSN2反応について記載されているとは認められず,また,ウィリアムソン反応ではない反応も含むSN2反応が,甲1に記載されているに等しい事項であるとも認められないのであって,甲1に,「甲1記載の化合物(9)を用い,SN2反応を経由して,OCTを製造する方法」が記載されているとは認められないし,これが記載されているに等しい事項であるとも認めることはできない。
また,以上に述べたところからすると,甲1発明を原告が主張するような上位概念として認定することも相当ではない。」
と判断した。

また、原告は、
「甲1発明と甲2に記載された事項とは,技術分野,課題,作用・機能が共通する」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「甲1発明と甲2に記載された事項の技術分野,課題,作用・機能が共通するのは,前記イ(ウ)a~cのとおり,アルコール類と第1級のハロゲン化アルキルとの反応であり,その反応がいずれもSN2反応であるという限度においてである。アルコール類も第1級のハロゲン化アルキルも多数存在し,SN2反応をする化合物は,ウィリアムソン反応の対象となる化合物に限られないにもかかわらず,前記の限度での共通性をもって,甲1発明に甲2に記載された事項を適用する動機付けと認めることはできない。」
と判断した。

【コメント】

原告は、引用例に記載された発明から、技術常識に基づいて記載されているに等しい事項として、或いは、上位概念として、原告主張の発明が認定されるべきであることを主張したが、裁判所は認めなかった。

参考:

Apr 25, 2017

2017.03.22 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 知財高裁平成28年(ネ)10094

訴訟提起した者が敗訴した場合、訴えの提起が相手方に対する違法な行為とされるのか?知財高裁平成28年(ネ)10094

【背景】

本件は、バイオセレンタックが提起した特許権侵害訴訟(バイオセレンタックが敗訴。東京地裁平成25年(ワ)4303; 知財高裁平成26年(ネ)10109)の被告であったコスメディと同社の代表取締役であるXが、同訴訟の原告であったバイオセレンタック、同訴訟でバイオセレンタックを代表した代表取締役のY1、バイオセレンタックの代表取締役であり本件特許の発明者であるY2並びに同訴訟で訴訟代理人を務めたY3に対し、バイオセレンタックが「コスメディによる本件特許権侵害及びY2の研究成果盗用」という虚偽の事実をコスメディの協業相手である岩城製薬及び資生堂に告知した行為は不競法2条1項14号(現行法では15号)の不正競争に該当する或いは上記告知がXの名誉を毀損したと主張して、不競法4条、民法709(719条1項)または会社法429条1項に基づき損害賠償の支払を求めた事案である。

【要旨】

知財高裁は、必要な範囲で判断を付加したほかは、原判決を引用し、控訴を棄却した。付加判断のうち、不正競争の成否について以下に引用する。
「訴えの提起が相手方に対する違法な行為となるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる(最高裁第三小法廷昭和63年1月26日判決・民集42巻1号1頁参照)。かかる要件を満たさないのに,訴訟提起という形による虚偽事実の告知が形式的に不正競争に当たることを理由として,これを違法とすることは,たとえ訴訟提起の相手方(本件では岩城製薬)との関係で違法と評価するものではなかったとしても(不正競争かどうかは,飽くまで競業者である控訴人コスメディとの関係において問題となるものである。),結局はこれを不当提訴であると断じるに等しく,裁判制度の自由な利用を著しく阻害することとなり妥当でない(むしろ,特許権者が自己の権利を侵害されているとの認識の下に,当該侵害者を相手方として訴訟を提起することは,当該訴訟が不当訴訟と評価されるような特段の事情がない限り,裁判を受ける権利の行使として当然許される行為であるというべきである。)。
したがって,かかる制度的観点からは,特許権者が,競業者ないしその取引先に対する関係でおよそ請求が成り立たないことを知りながら,あるいは,当然そのことを知り得たはずであるのに,あえて当該取引先をも共同被告として訴訟を提起するなど,訴訟制度を濫用的に利用したと評価し得るような特別な事情が存する場合は格別として,そのような場合でなければ,外形的には不正競争に当たり得るとしても,訴訟提起自体を違法と評価することはできないというべきである。

これを本件についてみるに…(略)…被控訴人バイオが,あらかじめ本件特許にかかる無効理由が存することを知りながら,あるいは,これを当然知り得たはずであるのに,あえて(無理を承知で)同訴訟を提訴したというような事情はうかがわれないし…(略)…,被控訴人バイオに,専ら控訴人コスメディの信用を毀損する目的など,訴訟制度を濫用的に利用したと評価されるべき不当な目的があったことを認めるに足りる的確な証拠もない。

以上によれば,被控訴人バイオが岩城製薬を共同被告として別件侵害訴訟を提起したのは,正当な権利行使の一環というべきであって,それが外形的には不正競争防止法2条1項14号の不正競争に該当し得る行為であったとしても,正当行為として違法性が阻却されるものと認めるのが相当である。原判決の認定判断もかかる趣旨を述べるものと理解することが可能であって,論旨不明との指摘は当たらない。」

従って、裁判所は、コスメディの主張は採用できないと判断した。

また、研究成果盗用の指摘が虚偽事実の告知に当たるとのコスメディの主張について、これを主張したコスメディは独自に開発した過程を明らかにして具体的に主張立証すべきところ、これを全く行わなかったため、虚偽事実の告知の成否についても裁判所はコスメディの主張は採用できないと判断した。

【コメント】

バイオセレンタックから「侵害だ、盗用だ」と訴えられたコスメディが、非侵害判決を受け、「言いがかりをつけやがって。どうしてくれるんだよ。責任とれ。」ということで、会社だけでなく代表取締役及び当時の訴訟代理人も相手にして訴え返したという事件。訴えの提起が違法な行為となるかどうかについては、判決文中でも引用されている下記最高裁判決での判示事項が参考になる。
  • 1988.01.26 最高裁昭和60(オ)122
    「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。」
本件特許は、「経皮吸収製剤,経皮吸収製剤保持シート,及び経皮吸収製剤保持用具」に関する特許第4913030号。

参考:

Apr 17, 2017

2017.03.08 「ホスピーラ v. デビオファーム」 知財高裁平成27年(行ケ)10167

「緩衝剤」としての「シュウ酸」は添加シュウ酸に限られ、解離シュウ酸を含まない(審決取消): 知財高裁平成27年(行ケ)10167

【背景】

被告(デビオファーム)が保有する「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許第4430229号の無効審判請求を不成立とした審決(無効2014-800121)の審決取消訴訟。

請求項1(訂正発明1):

オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,
1)緩衝剤の量が,以下の:
(a)5x10-5M~1x10-2M ,
(b)5x10-5M~5x10-3M ,
(c)5x10-5M~2x10-3M ,
(d)1x10-4M~2x10-3M ,または
(e)1x10-4M~5x10-4M
の範囲のモル濃度である,pHが3~4.5の範囲の組成物,あるいは
2)緩衝剤の量が,5x10-5M~1x10-4Mの範囲のモル濃度である,
組成物。

【要旨】

審決を取り消す。

本件訂正発明の「緩衝剤の量」とは、解離シュウ酸をも含んだ「オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」ではなく、解離シュウ酸を含まない「オキサリプラチン溶液組成物を作製するためにオキサリプラチン及び担体に追加され混合された緩衝剤の量」を意味するものと解釈すべきであり、そうすると、本件審決が、本件訂正発明の「緩衝剤の量」は「オキサリプラチン溶液組成物に現に含まれる全ての緩衝剤の量」を意味するとの解釈に基づいてした本件訂正発明の要旨認定は誤りであるといえる。そして、本件審決は、当該要旨認定を前提として、実施可能要件違反、サポート要件違反、新規性欠如及び進歩性欠如の各無効理由(無効理由2ないし5)についての判断をしたものであり、上記「緩衝剤の量」が「オキサリプラチン溶液組成物を作製するためにオキサリプラチン及び担体に追加され混合された緩衝剤の量」を意味することを前提とした場合の上記各無効理由の有無については判断していない。特に、進歩性欠如の無効理由(無効理由5)については、請求人(原告)が当該解釈を前提とした場合の本件訂正発明1ないし17に係る進歩性の欠如を具体的に主張していたところ、本件審決は、当該解釈が採用できないことを理由に、請求人(原告)の上記主張を検討の対象とせず、これについて何ら判断をしていない。してみると、本件審決の上記要旨認定の誤りは、少なくとも本件訂正発明1ないし17に係る進歩性欠如の無効理由についての審決の判断に影響を及ぼすものといえる。したがって、原告主張の取消事由2には理由がある。

【コメント】

裁判所は、無効審判における要旨認定において問題となった「緩衝剤」についての「シュウ酸」が添加シュウ酸に限られ解離シュウ酸を含まないことを意味するものと解釈すべきであることを、特許請求の範囲の記載、明細書における定義の記載及び定義以外の記載、並びに、発明の目的及び発明と引用発明との関係に照らして丁寧に検討し、結論を下した。

Apr 10, 2017

2017.02.28 「ザ・ヘンリー・エム・ジャクソン・ファンデイション v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10107

臨床効果が証明されていなければ引用発明にならない?知財高裁平成28年(行ケ)10107

【背景】

「乳癌再発の予防用ワクチン」に関する特許出願(特願2011-540853; 特表2012-511578; WO2010/068647)の拒絶審決(不服2014-19365)取消訴訟。争点は、引用発明の認定の適否。

請求項1:
製薬上許容される担体,配列番号2のアミノ酸配列を有するペプチドの有効量及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を含み,配列番号3のアミノ酸配列を有するE75ペプチドを含まないワクチン組成物。

すなわち、「製薬上許容される担体,GP2の有効量及びGM-CSFを含み,E75を含まないワクチン組成物。」
審決は、引用文献には「GP2とGM-CSFを含有するワクチン」の発明(引用発明)が記載されているものと認め、本願発明と引用発明は一致し、両者の発明を特定するための事項に差異はないと判断したが、原告は、引用発明は「GP2とGM-CSFを含有し,E75と組み合わせて使用される細胞傷害性T細胞(CTL)誘導剤」と認定されるべきであり、審決は引用発明の認定を誤ったものであり取り消されるべきであると主張した。

【要旨】

裁判所は、原告請求の取消事由1(引用発明はCTL誘導剤であってワクチンではないこと)には理由があるとして審決を取り消した。以下、裁判所の判断の抜粋。
「本願優先日当時,「癌ワクチン」について,以下の技術常識が存在したものと認められる。ペプチドが「ワクチン」として有効であるというためには,①当該ペプチドが多数のペプチド特異的CTLを誘導し,②ペプチド特異的CTLが癌細胞へ誘導され,③誘導されたCTLが癌細胞を認識して破壊すること,が必要である。あるペプチドにより,多数のペプチド特異的CTLが誘導されたとしても,誘導されたCTLが癌細胞を認識することができない,誘導されたCTLが癌細胞を確実に破壊するとは限らないなどの理由により,当該ペプチドに必ずしもワクチンとしての臨床効果があるということはできない。

引用発明は・・・標準治療後のHLA-A2型のリンパ節転移陰性乳癌患者について,GP2ペプチドとアジュバントのGM-CSFを6か月接種したところ,全ての患者においてGP2特異的CTL細胞のレベルが増加したというものであり,GP2ペプチドがワクチンとして有効であるというために必要な,当該ペプチドが多数のペプチド特異的CTLを誘導したことを示したものである。これに対し,本願発明は,上記1のとおり,GP2ペプチドとGM-CSFを投与した無病の高リスク乳癌患者に,GP2特異的CTLが増大したのみならず,再発率が低減した,すなわち,誘導されたCTLが腫瘍細胞を認識し,これを破壊することによって,臨床効果があることを示したものである。・・・本願優先日当時,あるペプチドにより多数のペプチド特異的CTLが誘導されたとしても,当該ペプチドに必ずしもワクチンとしての臨床効果があるとはいえない,という技術常識に鑑みると,ペプチド特異的CTLを誘導したことを示したにとどまる引用発明は,本願発明と同一であるとはいえない。」

これに対し、被告は、

「CTLが誘導されれば癌に効くという技術的事項は,本願優先日前から周知であるから,引用発明の組成物は本願発明の「ワクチン」と同一である」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「本願優先日当時の技術常識を踏まえると,CTLが誘導されることは,癌ワクチンとして有効であるための前提条件であるものの,さらにCTLが癌細胞へ誘導され,癌細胞を破壊することが必要であり,そのような誘導や破壊ができない場合があるから,CTLが誘導されることと,癌ワクチンとして有効であることが技術的に同一であるとはいえない。したがって,被告の主張は,理由がない。」

と判断した。

また、被告は、

「引用文献の組成物は,フェーズIの臨床試験の結果を開示するものである上,「ワクチン」と表記されている」

と主張した。

しかし、裁判所は、

「引用文献(甲1)は,フェーズIの臨床試験の結果の概要を示すものであるが,引用発明は,・・・標準的治療後のHLA-A2型のリンパ節転移陰性乳癌患者について,GP2ペプチドとアジュバントのGM-CSFを6か月接種したところ,全ての患者においてGP2特異的CTL細胞のレベルが増加したというものであって,ペプチド特異的CTLを誘導したことを示したにとどまるものであるし,また,引用文献には「ワクチン」と表記されている箇所があるものの,「ワクチン」としての使用の可能性があることから,そのように述べたものと解されるから,引用発明が本願発明と同一であるということはできない。」
と判断した。

【コメント】

引用文献の著者は本願発明の発明者自身であり、自ら引用文献で「抗癌ワクチンとしてGP2+GM-CSFの臨床試験を実施し」、「6カ月間ワクチン接種した」と表記している。
引用文献中の臨床試験は、本願発明者がワクチンとしての効果を期待して実施したことは明らかであるし、そのような可能性が期待されて実施されたのだろうということは引用文献を見た当業者であれば認識できるわけであるが、裁判所は、引用文献には、その臨床効果、すなわち癌の再発率が低減したことまで示されていないことから、引用発明はワクチンではないと判断した。

すなわち、引用文献からその効果を期待して実施されたことが当業者が見て明らかであっても、臨床効果が証明されたという記載がなければ、医薬用途発明の引用発明として認定されないということを示した判断であり、本事件の個別具体的な判断だったとしても、医薬用途発明の新規性判断における引用発明の適否に関して極めてインパクトのある判決であると思われる。

今回の判決は、下記過去判決とは異なる考え方を示したものである。
ワクチンに限らず、医薬品分野の技術常識として、非臨床試験でデータを積み上げてきたとしても、必ずしも薬剤としての臨床効果があると証明することはできない(臨床効果があるかどうかは臨床試験しなければ証明できない)のは当たり前の話である。一方で、臨床効果を証明していなくても、非臨床試験データからでも、医薬品として有用であろう/期待できる/推論できるとの技術思想の創作は当業者であればできるわけである。臨床試験で結果確認しないかぎり、ワクチンとして開発中であることが知られても、当業者は本当にワクチンとしての発明をそこから認識できないのか。

臨床試験プロトコールが引用文献に記載されていたとしても、試験結果が記載されていない引用文献の内容からだけでは、(判決の文言を借りれば)「必ずしも[医薬品]としての臨床効果があるとはいえない」から、ヒト用医薬用途発明の新規性判断において、引用発明として認定されないことになってしまうのか。

裁判所の技術常識のあてはめ方は、医薬品として効果が「有用であろう/期待できる/推論できる」と当業者が認識できるかどうかという観点での技術常識をあてはめるべきところ、医薬品として効果が「証明できる」と当業者が認識できるかどうかという観点での技術常識をあてはめた点で、本判決における引用発明の認定判断は妥当だったのかどうか疑問が残る。

米国では、クレームを乳がんや患者細胞での遺伝子発現レベルについて限定することによって特許になっている(欧州でも同様の補正をして特許許可されたようである)。

US 9,114,099 B2
1. A method of preventing breast cancer recurrence in a subject, comprising: a) selecting the subject, wherein the subject is in remission following treatment with a standard course of therapy, and wherein the subject, prior to remission, had breast cancer cells with low or intermediate expression of HER2/neu, wherein low or intermediate expression of HER2/neu is an immunohistochemistry (INC) rating of 1+ or 2.sup.+ protein expression or a fluorescence in situ hybridization (FISH) rating of less than about 2.0 for HER2/neu gene expression; and b) administering to the subject selected in step a) a composition in an amount effective to prevent breast cancer recurrence, wherein the composition comprises a pharmaceutically effective carrier, a peptide consisting of the amino acid sequence SEQ ID NO: 2, and granulocyte macrophage-colony stimulating factor, and wherein, other than the peptide consisting of the amino acid sequence of SEQ ID NO: 2, the composition does not contain any other Her2/neu-derived peptides.



Apr 3, 2017

2017.02.22 「エヌ・エル・エー v. 東洋新薬」 知財高裁平成27年(行ケ)10231

「一部」、僅かな部分のサポート要件違反知財高裁平成27年(行ケ)10231

【背景】

東洋新薬(被告)が保有する「黒ショウガ成分含有組成物」に関する特許権(第5569848号)の無効審判(無効2015-800007)請求不成立の審決取消訴訟。

請求項1:
黒ショウガ成分を含有する粒子を芯材として,その表面の一部又は全部を,ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したことを特徴とする組成物。
原告は、
  • 請求項1における「ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆した」との文言は,コート層の厚み,被覆率等が規定されていない以上,コート剤に含まれるナタネ油あるいはパーム油の量が極小量である構成をも許容していることが明らかであるところ,これらが極小量の場合には,当該ナタネ油あるいはパーム油に起因して本件発明の効果を奏するとはいえないこと
  • 「その表面の一部又は全部を…」との文言は,芯材(黒ショウガ成分を含有する粒子)におけるコート剤によって被覆されている部分がごく一部である構成を許容していることが明らかであるところ,例えば,芯材におけるコート剤によって被覆されている部分が全表面積の10%,露出部分が同90%である場合に,「摂取前の黒ショウガ成分の酸化を防止して保存安定性も高め,摂取後の胃液等による変性を防止することができる」とする根拠が不明であること
の2点を理由に、本件発明は、発明の目的である「ポリフェノール類の体内への吸収性の向上」や「黒ショウガ成分の酸化の防止」を達成し得ない範囲を包含しており、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているのに、本件審決がサポート要件違反を認めなかったのは誤りであると主張した。

【要旨】

裁判所は、上記原告主張を認め、サポート要件違反を認めなかった審決を取り消した。

裁判所の判断(抜粋)
「特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,①発明の詳細な説明に記載された発明で,②発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。」
「当業者は,たとえ,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面を「油脂を含むコート剤」で被覆することにより,本件発明の課題が解決できると認識し得たとしても,その量や程度が不十分である場合には,本件発明の課題を解決することが困難であろうことも予測するといえる。
ところが…(略)…コート剤による被覆の量や程度が不十分である場合には,本件発明の課題を解決することが困難であろうとの当業者の予測を覆すに足りる十分な記載が本件明細書になされているものとは認められないのであり,また,これを補うだけの技術常識が本件出願当時に存在したことを認めるに足りる証拠もない。したがって,本件明細書の記載(ないし示唆)はもとより,本件出願当時の技術常識に照らしても,当業者は,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の僅かな部分を「油脂を含むコート剤」で被覆した状態が本件発明の課題を解決できると認識することはできないというべきである。…(略)…そうすると,本件発明の特許請求の範囲の記載は,いずれも,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識に照らして,当業者が,本件明細書に記載された本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており,サポート要件に適合しないものというべきである。」
被告は、
「芯材である「黒ショウガ成分を含有する粒子」におけるコート剤によって被覆されている部分がごく一部である態様等,本件明細書の記載や本件出願当時の技術常識からみて,当業者が通常想定しないような極端なケースを挙げてサポート要件違反とすることは,適切な発明の保護が観点からみて不当である」
と主張した。

しかしながら、裁判所は、
「サポート要件の趣旨は,要するに,発明の詳細な説明に記載していない発明が特許請求の範囲に記載され,公開されていない発明について独占的,排他的な権利を認めることを許容しないことにあるところ,本件発明には,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の僅かな部分を「油脂を含むコート剤」で被覆した態様が包含されているといえるのであるから,このような態様についてのサポート要件を検討することが不当であるとはいえないことはもちろんであって,上記被告の主張は採用することができない。」
と判断した。

【コメント】

「その表面の一部又は全部を」というクレームの構成をサポートできるほどの記載が明細書になかった。クレーム自体どのように表現すればよかったか、明細書にどこまで詳細に記載すべきだったかという点を考えてみることは、製剤関連発明の出願をする際の参考になるかもしれない。

本特許においては分割出願があり、特許5964344号及び特許5997856号が登録されているが、いずれも無効審判請求はされていないようである。
  • 特許5964344号
    請求項1: 黒ショウガの乾燥粉末を芯材として、その表面の一部又は全部を、ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したことを特徴とする経口用組成物。
    請求項2: 黒ショウガ抽出物の乾燥粉末を芯材として、その表面の一部又は全部を、ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したことを特徴とする経口用組成物。
  • 特許5997856号
    請求項1: 黒ショウガの乾燥粉末に対してナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤を噴霧することにより、前記黒ショウガの乾燥粉末を前記コート剤で被覆することを特徴とする経口用組成物の製造方法。
    請求項2: 黒ショウガ抽出物の乾燥粉末に対してナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤を噴霧することにより、前記黒ショウガ抽出物の乾燥粉末を前記コート剤で被覆することを特徴とする経口用組成物の製造方法。
参考:

Mar 25, 2017

2017.03.24 「マキサカルシトール事件(均等の第5要件)」 最高裁平成28年(受)1242

均等の第5要件(特段の事情)の判断基準(マキサカルシトール事件)最高裁平成28年(受)1242

【背景】

「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許権(特許第3310301号)の共有者である中外製薬(被上告人)が、上告人らの販売に係る各マキサカルシトール製剤の製造方法は、本件発明と均等であり、その技術的範囲に属すると主張して、上告人ら製品の輸入、譲渡等の差止め及び廃棄を求めた事案。

原審である知財高裁大合議判決( 2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10014)では、均等の成否の判断における第5要件(特段の事情)について、本件では「特段の事情」が存するとはいえず、上告人らの製造方法は本件特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するとし、被上告人の請求を認容すべきものとした。それに対し、上告人らの主張は、原審の上記判断は「特段の事情」が認められる範囲を狭く解しすぎている旨をいうものである。

【要旨】

最高裁は、原審である知財高裁大合議判決( 2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10014)と同様に、均等の成否の判断における第5要件(特段の事情)の判断基準について以下のように判示した。
(1) 出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても,それだけでは,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえないというべきである。

(2) もっとも,上記(1)の場合であっても,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。
最高裁は、本件について、事実関係等に照らすと、被上告人が、本件特許の特許出願時に、本件特許請求の範囲に記載された構成中の上告人らの製造方法と異なる部分につき、客観的、外形的にみて、上告人らの製造方法に係る構成が本件特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて本件特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたという事情があるとはうかがわれないから、原審の判断は、これと同旨をいうものとして是認することができると判断した。上告棄却。

【コメント】

本事件は化学(医薬)分野の発明であり、その特許請求の範囲の構成は化学構造として認識でき、当該発明の技術的範囲に包含されるかどうかは文言上明確に判断できるものであったため、そのような発明であっても均等論が柔軟に適用されるのかどうかが注目された事件だったが、均等の成否の判断における第5要件(特段の事情)について一歩踏み込んだ判断基準を知財高裁大合議判決が示したことにより、化学分野だけに限らず、一般的にも、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの「特段の事情」とはどのような事情まで含まれるのかについての解釈が注目されることとなった。知財高裁大合議での解釈は最高裁でも是認されたことになる。

参考:



Mar 24, 2017

オゼックス(トスフロキサシントシル酸塩)製剤特許侵害訴訟でMeiji Seikaファルマ・高田製薬と富山化学工業が和解

2017年3月23日付けのMeiji Seikaファルマおよび高田製薬のプレスリリースによると、Meiji Seika ファルマの「トスフロキサシントシル酸塩小児用細粒15%『明治』」および高田製薬の「トスフロキサシントシル酸塩細粒小児用15%「タカタ」」の製造販売行為が富山化学工業の製剤特許(特許第5799061号)を侵害するとして、富山化学工業は特許権侵害差止請求訴訟を2016年3月7日付で東京地裁に提起していましたが(過去記事)、2017年3月22日付で裁判上の和解が成立したとのことです。先発製品は富山化学工業が製造販売するオゼックス®細粒小児用15%。

参考: