Mar 25, 2017

2017.03.24 「マキサカルシトール事件(均等の第5要件)」 最高裁平成28年(受)1242

均等の第5要件(特段の事情)の判断基準(マキサカルシトール事件)最高裁平成28年(受)1242

【背景】

「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」に関する特許権(特許第3310301号)の共有者である中外製薬(被上告人)が、上告人らの販売に係る各マキサカルシトール製剤の製造方法は、本件発明と均等であり、その技術的範囲に属すると主張して、上告人ら製品の輸入、譲渡等の差止め及び廃棄を求めた事案。

原審である知財高裁大合議判決( 2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10014)では、均等の成否の判断における第5要件(特段の事情)について、本件では「特段の事情」が存するとはいえず、上告人らの製造方法は本件特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するとし、被上告人の請求を認容すべきものとした。それに対し、上告人らの主張は、原審の上記判断は「特段の事情」が認められる範囲を狭く解しすぎている旨をいうものである。

【要旨】

最高裁は、原審である知財高裁大合議判決( 2016.03.25 「DKSH・岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ v. 中外製薬」 知財高裁平成27年(ネ)10014)と同様に、均等の成否の判断における第5要件(特段の事情)の判断基準について以下のように判示した。
(1) 出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても,それだけでは,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえないというべきである。

(2) もっとも,上記(1)の場合であっても,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。
最高裁は、本件について、事実関係等に照らすと、被上告人が、本件特許の特許出願時に、本件特許請求の範囲に記載された構成中の上告人らの製造方法と異なる部分につき、客観的、外形的にみて、上告人らの製造方法に係る構成が本件特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて本件特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたという事情があるとはうかがわれないから、原審の判断は、これと同旨をいうものとして是認することができると判断した。上告棄却。

【コメント】

本事件は化学(医薬)分野の発明であり、その特許請求の範囲の構成は化学構造として認識でき、当該発明の技術的範囲に包含されるかどうかは文言上明確に判断できるものであったため、そのような発明であっても均等論が柔軟に適用されるのかどうかが注目された事件だったが、均等の成否の判断における第5要件(特段の事情)について一歩踏み込んだ判断基準を知財高裁大合議判決が示したことにより、化学分野だけに限らず、一般的にも、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの「特段の事情」とはどのような事情まで含まれるのかについての解釈が注目されることとなった。知財高裁大合議での解釈は最高裁でも是認されたことになる。

参考:



Mar 24, 2017

オゼックス(トスフロキサシントシル酸塩)製剤特許侵害訴訟でMeiji Seikaファルマ・高田製薬と富山化学工業が和解

2017年3月23日付けのMeiji Seikaファルマおよび高田製薬のプレスリリースによると、Meiji Seika ファルマの「トスフロキサシントシル酸塩小児用細粒15%『明治』」および高田製薬の「トスフロキサシントシル酸塩細粒小児用15%「タカタ」」の製造販売行為が富山化学工業の製剤特許(特許第5799061号)を侵害するとして、富山化学工業は特許権侵害差止請求訴訟を2016年3月7日付で東京地裁に提起していましたが(過去記事)、2017年3月22日付で裁判上の和解が成立したとのことです。先発製品は富山化学工業が製造販売するオゼックス®細粒小児用15%。

参考:

Mar 21, 2017

2017.02.14 「ナンジン キャベンディッシュ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10112

レブラミド(Revlimid)®の有効成分レナリドミド(lenalidomide)の結晶多形: 知財高裁平成28年(行ケ)10112

【背景】

「3-(置換ジヒドロイソインドール-2-イル)-2,6-ピペリジンジオン多結晶体及び薬用組成物」に関する特許出願(特願2012-535589; 特表2013-509357)の拒絶審決(不服2014-15527)取消訴訟。

請求項1:

Cu-Kα放射を使用したX線回折図が下記の回折ピークを有する,3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン半水和物の多結晶体I。


【要旨】

結晶形の発明の新規性・進歩性が争点。裁判所は、新規性欠如を理由とした拒絶審決を否定したが、進歩性欠如については審決に誤りはないと判断した。また、引用発明認定の誤りと意見書提出機会の付与に関して一部手続違背はあるもののこれらは審決の結論に影響を及ぼすものでないと判断した。請求棄却。

1. 新規性について
「本願補正発明に係る結晶と引用発明に係る結晶の各粉末X線回折パターンとの間には,おおむね同じ位置(2θ値)に存在する回折ピークであっても,その高さ(相対強度)が異なるものがあるということができる。そして,前記のとおり,粉末X線回折パターンの比較による結晶の同定に当たり,回折ピークの強度は,回折ピークの数や位置と同様に重要なパラメータであるから,本願補正発明に係る結晶と引用発明に係る結晶は同一の結晶ということはできず,よって,本願補正発明は,引用発明と同一のものとして特許法29条1項3号に該当するということはできない。」

2. 進歩性について

(1) 本願補正発明と引用発明との相違点に係る容易想到性について

本願補正発明と引用発明との一致点:
3-(4-アミノ-1-オキソ-1,3-ジヒドロ-2H-イソインドール-2-イル)ピペリジン-2,6-ジオン(以下、化合物Pという。)の半水和物の結晶である点
本願補正発明と引用発明との相違点:
本願補正発明に係る結晶は,Cu-Kα放射を使用したX線回折図が,表1記載の19個の2θの数値及びその2θの数値ごとに特定の数値のFlex幅,d-値,強度及びL/LOである,回折ピークの組を有する,化合物Pの半水和物の多結晶体I(すなわち,結晶多形のうちIと称する結晶)であると特定されているのに対し,引用発明に係る結晶は,図6で代表される,約16,18,22,及び27度の2θに回折ピークを有するCu-Kα放射を使用したX線回折図を与える,化合物Pの半水和物の形体Bの結晶である点
動機付けについて、裁判所は、
「(ア) 周知例2の化学便覧には,「おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である。これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性…などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である。」との記載があることから,①結晶多形は,晶癖や粒径等と共に主な結晶特性の1つであり,結晶特性が異なれば,溶解度や安定性等が異なってくること,②特に医薬品の場合は,結晶特性によってバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なるので,結晶特性の制御が重要な意義を有することは,本件優先日当時において技術常識であったものと認められる。
そして,引用例には,「発明の分野」として「本発明は,化合物Pの多形相…並びに制限されないが炎症性疾患,自己免疫疾患,及び癌を含む疾患及び状態を治療するためのこれらの使用方法に関するものである。」との記載があることから,化合物Pの結晶を医薬品として用いることは明らかであり,引用例に接した当業者は,上記技術常識を踏まえて,結晶多形を含む主な結晶特性に注目するものということができる。
(イ) さらに,引用例には,…(略)…との記載がある。本件優先日当時の当業者は,これらの記載に接して,前記(ア)の主な結晶特性のうちとりわけ結晶多形に着目し,①化合物Pには,溶解性,安定性,バイオアベイラビリティなど医薬品において特に重視される性質が引用発明に係る結晶よりも優れた異なる構造を有する結晶が存在し得ること,②そのような結晶を,溶媒再結晶化等の公知の方法によって製造するとともに,X線粉末回折法等の周知技術によって検出し得ることを認識するものといえる。したがって,引用発明に接した当業者は,上記の医薬品において特に重視される性質がより優れた異なる構造の結晶を求めて,さらに溶媒再結晶化等の公知の方法による化合物Pの結晶の製造及びX線粉末回折法等の周知技術による検出を試行する動機付けがあるものというべきである。」
と判断した。

原告らは、
「対象化合物の結晶形及び形成可能な条件は予測不可能なものであり,結晶多形の分野において,動機付けがあることと実際に結晶を得ることができることとを単純に結び付けることはできない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「引用発明に接した当業者には,溶解性や安定性など医薬品において特に重視される性質がより優れた異なる構造の結晶を求めて,さらに溶媒再結晶化等の公知の方法による化合物Pの結晶の製造及びX線粉末回折法等の周知技術による検出を試行する動機付けがあったということができる。確かに,当業者は,引用発明から直ちに本願補正発明に係る結晶の構造及びその製造方法を具体的に想定し得たとまではいえないものの,上記動機付けに基づき,公知の方法による化合物Pの結晶の製造及び周知技術による検出を試行する過程において,前記ウ(イ)のとおり本件優先日当時において技術常識ないし周知技術であった貧溶媒晶析の操作及び粉末X線回折法によって本願補正発明に係る結晶を製造・検出し得たといえるのであるから,本願補正発明を容易に想到し得たものというべきである。」
と判断した。

(2) 顕著な効果の看過について

原告らは、
「本願補正発明に係る結晶の製造方法は,引用例及び周知例2から5に接した当業者であれば回避するジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドを溶媒として用いて結晶化を行い,その結果得られる上記結晶は,安定性が高く,また,残留溶媒がほとんどないという顕著な効果を奏するにもかかわらず,本件審決は,これを看過した」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「引用例及び周知例2から5に接した当業者が必ずしもジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシドを溶媒として使用することを回避するとはいい難い。…(略)…当業者は,引用例の上記の記載により,引用発明に係る結晶は一定の安定性を備えたものであることを認識し,さらに,前記(4)イ(イ)のとおり,化合物Pには,安定性等において引用発明よりも優れた異なる構造の結晶が存在し得ることを認識するものといえる。また,前記(4)ウ(イ)のとおり本願補正発明に係る結晶の製造方法は,本件優先日当時の技術常識であったのであるから,上記結晶の製造に当たり残留溶媒がほぼ生じなかったとしても,それは,当業者において予期し得ないものとまではいうことができない。したがって,原告らが主張する効果は,引用発明に接した当業者において予期し得ない,顕著なものとまでは認めるに足りないというべきである。」
と判断した。

【コメント】

特許庁は、本願発明は粉末X線結晶回折パターンを値によって限定したに過ぎないことからもともとの回折パターン図と引用発明の粉末X線結晶回折パターンが「ほぼ同じ」であることから、測定誤差等の技術常識を踏まえて、同一であるものと推認した。

この審決判断に対して、裁判所は、粉末X線回折パターンの比較による結晶の同定に当たっては回折角及び回折X線の相対強度は重要なパラメータであることを踏まえ、本願発明の剛体強度は異なるから同一ではないと判断した。

互いに現物を持ち寄って直接同時比較しない限り、回折パターンが全く同一なのか、したがって互いに同一の結晶形であるのかどうかの判断には困難を伴う場合があるところ、裁判所は進歩性の問題として結論を導いた。結晶形発明において、①クレームに記載された数値に対して限定的に発明を認定して引用発明との同一性を判断する方向性、および、②新たな結晶形発明を発見しても、既に同一有効成分について他の結晶形が知られている場合にはその進歩性のハードルが高いという方向性、は、これまでのいくつかの判決の流れと変わりはないと思われる(結晶形に関する過去全記事はこちら)。

本件発明の結晶は、レブラミド(Revlimid)®カプセルの有効成分であるレナリドミド水和物(Lenalidomide Hydrate)に関連するものである。レブラミド(Revlimid)®カプセルは、セルジーン(Celgene)社が創製した多発性骨髄腫及び5番染色体長腕部欠失を伴う骨髄異形成症候群を効能・効果とする抗造血器悪性腫瘍剤。本件の引用例はセルジーン(Celgene)社の出願(特表2007-504248)であった。セルジーン社の2016年Financial Information(CELGENE REPORTS FOURTH QUARTER AND FULL-YEAR 2016 OPERATING AND FINANCIAL RESULTS)によれば、2016年のREVLIMID®の売上は69億7400万ドル。

Mar 14, 2017

オゼックス(トスフロキサシントシル酸塩)製剤特許侵害訴訟で東和薬品と富山化学工業が和解

2017年3月13日付の東和薬品のプレスリリースによれば、東和薬品のニューキノロン系経口抗菌製剤トスフロキサシントシル酸塩細粒小児用 15%「トーワ」の製造販売行為が富山化学工業の製剤特許(特許第5799061号)を侵害するとして、富山化学工業は、特許権侵害差止請求訴訟を2016年3月7日付で東京地裁に提起していましたが(過去記事)、2017年3月9日付で裁判上の和解が成立したとのことです。東和薬品は今後も引き続きトスフロキサシントシル酸塩細粒小児用 15%「トーワ」を製造販売できる和解内容とのことです。


Mar 13, 2017

AbbVieアダリムマブ(ヒュミラ®) 用法用量特許 英国で無効判決

2017年3月3日付けの協和キリン富士フイルムバイオロジクス press releaseによると、協和キリン富士フイルムバイオロジクスは、ヒト型抗TNFαモノクローナル抗体製剤「アダリムマブ(Adalimumab)」バイオシミラー(開発番号:FKB327、先発薬:ヒュミラ(Humira)®)の製造販売承認申請に向けて準備しているところ、AbbVie社の「アダリムマブ」の用法用量の特許が公知の技術に照らして無効であるとして、2015年10月29日に当該特許の無効・確認訴訟を英国特許裁判所で提起していました。訴訟の過程で、AbbVie社は訴訟対象の同特許を取下げましたが、同裁判所は確認訴訟を継続する判決を2016年12月に下し、2017年3月3日付で、「アダリムマブ」の関節リウマチ、乾癬(かんせん)および関節症性乾癬の用法用量は公知または自明であるため特許性がないとの判決(Fujifilm Kyowa Kirin Biologics Company Ltd v Abbvie Biotechnology Ltd [2017] EWHC 395 (Pat) (03 March 2017))を下したとのことです。

アダリムマブ(Adalimumab)の英国での基本特許(EP 0,929,578)はSPC 含めて2018年10月15日に満了するため、その後も存続しているアダリムマブの用法用量特許がバイオシミラーの英国での販売の障壁となっていました。2016年度通年のヒュミラの全世界での売上高は営業ベースで160億7,800万ドル。

Mar 6, 2017

2017.02.02 「沢井・テバ・ホスピーラ v. イーライ リリー」 知財高裁平成27年(行ケ)10249; 平成28年(行ケ)10017; 平成28年(行ケ)10070

抗悪性腫瘍剤アリムタ®のビタミン療法特許知財高裁平成27年(行ケ)10249; 平成28年(行ケ)10017; 平成28年(行ケ)10070

【背景】

被告(イーライリリー)が保有する「新規な葉酸代謝拮抗薬の組み合わせ療法」に関する特許5102928について原告(沢井製薬、テバ、ホスピーラ)がした無効審判請求を不成立とした特許庁審決(無効2014-800039)に対して、原告が審決取消しを求めて本件訴訟を提起した。争点は、進歩性、サポート要件、実施可能要件。

請求項1:
葉酸とビタミンB12との組み合わせを含有するペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持するための剤であって,
ペメトレキセート二ナトリウム塩の有効量を,葉酸の約0.1mg~約30mgおよびビタミンB12の約500μg~約1500μgと組み合わせて投与し,該ビタミンB12をペメトレキセート二ナトリウム塩の第1の投与の約1~約3週間前に投与し,そして該ビタミンB12の投与をペメトレキセート二ナトリウム塩の投与の間に約6週間毎~約12週間毎に繰り返すことを特徴とする,該剤。
【要旨】

2017.02.02 「沢井・テバ・ホスピーラ v. イーライ リリー」 知財高裁平成28年(行ケ)10001; 平成28年(行ケ)10018; 平成28年(行ケ)10082

と内容は同じ。

Mar 1, 2017

2017.02.02 「沢井・テバ・ホスピーラ v. イーライ リリー」 知財高裁平成28年(行ケ)10001; 平成28年(行ケ)10018; 平成28年(行ケ)10082

抗悪性腫瘍剤アリムタ®のビタミン併用療法特許知財高裁平成28年(行ケ)10001; 平成28年(行ケ)10018; 平成28年(行ケ)10082

【背景】

被告(イーライリリー)が保有する「新規な葉酸代謝拮抗薬の組み合わせ療法」に関する特許5469706について原告(沢井製薬、テバ、ホスピーラ)がした無効審判請求を不成立とした特許庁審決(無効2014-800063)に対して、原告が審決取消しを求めて本件訴訟を提起した。争点は、進歩性、サポート要件、実施可能要件。

請求項1:
葉酸及びビタミンB12と用いられる,ペメトレキセート二ナトリウム塩を含有するヒトにおける腫瘍増殖を抑制するための医薬であって,下記レジメで投与される医薬:
a.有効量の該医薬を投与し;
b.葉酸の0.3mg~5mgを,該医薬の投与前に投与し;そして,
c.ビタミンB12の500μg~1500μgを,該医薬の第1の投与の1~3週間前に投与し,
該レジメは,該医薬の毒性の低下および抗腫瘍活性の維持を特徴とする,
上記医薬。

【要旨】

裁判所は、原告ら主張の取消事由(進歩性に係る判断の誤り、サポート要件に係る判断の誤り、実施可能要件に係る判断の誤り)にはいずれも理由がないとして請求棄却とした。取消事由1(進歩性に係る判断の誤り)について取り上げる。

裁判所は、当業者において、引用発明に基づいて、毒性の低下及び抗腫瘍活性の維持のためにビタミンB12を組み合わせて用いることまで容易に想到し得るとは認めるに足りないと判断した。以下理由抜粋。
「引用例には,葉酸の補充を受けても重篤な毒性を経験した患者がいたことも記載されているが,…(略)…葉酸以外のものを組み合わせれば,より一層MTA毒性の低下ないし抗腫瘍活性の維持が促進されるなど,さらに別のものを組み合わせる動機付けとなる記載も示唆もない。」

「ビタミンB12を投与するとホモシステインレベルが低下し,葉酸と併用投与すると,葉酸の単独投与に比してより一層ホモシステインレベルが低下することは,本件優先日当時の技術常識であった。しかし,ベースラインのホモシステインレベルは,MTAを含む葉酸代謝拮抗薬の投与に関連する毒性の程度に影響を与える同投与開始前における葉酸の機能的状態の指標として信頼性の高いものであることから,上記毒性のリスクを予測させるものにすぎない。証拠上,ホモシステインが上記毒性の発現に直接関与していることは認められない。よって,ホモシステインレベルを低下させること自体によって直ちに葉酸代謝拮抗薬の投与に関連する毒性が低下するということはできず,本件優先日当時においてそのような事実が公知であったことを認めるに足りない。」

「さらに,栄養障害を来すことが多いがん患者に対しては,通常,治療の一環として,葉酸,ビタミンB12等のビタミンやその他の栄養素を含む栄養補給が行われ,その効果の1つとして抗がん剤による副作用の軽減も挙げられているが,上記栄養補給の効果に関する本件優先日当時の公知文献の記載によれば,上記副作用の軽減は,葉酸,ビタミンB12のみならず,他の栄養素をも含む栄養補給によって患者の栄養状態を主とする全身状態が改善することによるものであると解され,葉酸とビタミンB12を組み合わせて投与したことによるものではない。よって,上記栄養補給は,葉酸,ビタミンB12に限らず必要な栄養素の補給により患者の栄養状態を主とする全身状態が改善することによる抗がん剤の副作用の軽減という効果を目的の1つとするものである。
したがって,上記のとおり葉酸補充の際にビタミンB12の併用が推奨されること及び上記栄養補給のいずれも,葉酸代謝拮抗薬の毒性の低下及び抗腫瘍活性の維持のために葉酸とビタミンB12を併用投与するという本件発明1の構成とは用途を異にし,上記構成に係る動機付けないし示唆となるものということはできない。」
原告は、
「相違点1に係る容易想到性を肯定する根拠として,…(略)…本件発明1は,従来から広く行われていたがん患者に対する栄養補給のうち,葉酸及びビタミンB12の補充を特に取り出して構成要件としたものにすぎない」
と主張した。

しかし、裁判所は、
「葉酸補充の際にビタミンB12の併用が推奨されるのは,本件優先日当時における技術常識であったから,がん患者に対してMTA等の葉酸代謝拮抗薬を投与するに当たり,その抗腫瘍活性を維持しながら投与に関連する毒性を低下させるために葉酸を補充する際,ビタミンB12を併用することが多かったものと推認することができる。しかし,上記併用が推奨されるのは,ビタミンB12の欠乏が看過されて同欠乏に特徴的な神経症状が引き起こされるおそれがあることによるものであり,葉酸代謝拮抗薬の抗腫瘍活性維持ないし毒性低下とは関係がない。
したがって,上記のがん患者に対する葉酸及びビタミンB12を含む栄養補給並びに葉酸補充の際におけるビタミンB12の併用は,いずれもMTA毒性の低下及び抗腫瘍活性の維持のために葉酸とビタミンB12を併用投与するという本件発明1の構成とは目的を異にし,同構成に係る動機付けないし示唆となるものではない。」
と判断した。

【コメント】

用途発明において、引用発明と本願発明とが「目的を異」にすれば直接的には動機付けは生まれない。

抗悪性腫瘍剤アリムタ®(ペメトレキセド注射剤。有効成分はペメトレキセドナトリウム水和物(Pemetrexed Sodium Hydrate))に関する2件のビタミン併用療法特許(特許第5102928号及び特許第5469706号)に関し、沢井製薬(株)らが請求した無効審判(無効2014-800039及び無効2014-800063)においてそれぞれ特許維持審決を下した特許庁審決の結論を知財高裁も支持した。本件特許は2021年6月まで有効に存続することになる。

抗悪性腫瘍剤アリムタ®は複数の葉酸代謝酵素を同時に阻害する葉酸拮抗剤。日本では、悪性胸膜中皮腫に対しては2007年1月に承認(再審査期間は~2015年1月3日)、切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌に関しては2009年5月に承認(再審査期間は同じく~2015年1月3日まで)。

抗悪性腫瘍剤アリムタ®における<用法・用量に関連する使用上の注意>には以下の記載があり、本件特許はこの用法用量に関するものと思われる。
1. 本剤による重篤な副作用の発現を軽減するため、以下のように葉酸及びビタミン B12を投与すること。

(1) 葉酸:本剤初回投与の 7 日以上前から葉酸として 1 日 1 回 0.5mg を連日経口投与する。なお、本剤の投与を中止又は終了する場合には、本剤最終投与日から 22 日目まで可能な限り葉酸を投与する。

(2) ビタミン B12:本剤初回投与の少なくとも 7 日前に、ビタミン B12として 1 回 1mg を筋肉内投与する。その後、本剤投与期間中及び投与中止後 22 日目まで 9 週ごと(3 コースごと)に 1 回投与する。
本事件に関する参考記事:
併用療法特許の進歩性に関しての過去参考判決記事:
米国でも2017年1月12日、CAFCはアリムタ(Alimta)®のビタミン併用療法特許の有効性を認め、同後発品のANDAを申請したテバの特許侵害を認める判決を下したところであった(Eli Lilly v. Teva No.15-2067 (Fed. Cir. 2017))。
アリムタの全世界の売上高(2016年通年)は約23億ドル(2017.02.23 イーライリリー press release: 米国イーライリリー社、2016年第4四半期および通年の業績を報告)。

ところで、日本において、このような組み合わせ特許が後発医薬品に対して実際に権利行使できるのかどうかについては。下記事件のとおり議論の余地がある。いわゆる「組み合わせ医薬」の発明は、医薬用途発明として「物」としての特許は認められている一方で、「方法」ではなく「物」でしか表現できない現在の特許法解釈・審査基準により、配合剤ではない「組み合わせ医薬」の発明に係る特許権の効力には問題が残されている。薬の組み合わせ方だけに限らず、IoT、AI、ビッグデータ等の「物」として表現できない組み合わせが期待される今後の医療技術の発展にとって、より良い医療方法・医薬投与方法を生み出していくことは重要であり、このような「方法」に特徴のある技術について、柔軟かつ安定した権利付与と活用が可能な法制度への改革の必要性議論が望まれる。

Feb 19, 2017

2017.01.26 「デビオファーム v. ナガセ医薬品・日本ケミファ」 東京地裁平成27年(ワ)29159

オキサリプラチンのシュウ酸包含溶液特許は無効: 東京地裁平成27年(ワ)29159

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)が、被告(ナガセ医薬品)に対し、被告製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被告製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。無効理由の有無が判断の決め手となった。

請求項1:
オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,緩衝剤の量が,以下の…(略)…の範囲のモル濃度である,組成物。
裁判所(民事46部)は、被告が提出した追試結果に基づいて乙3公報に本件発明等のオキサリプラチン溶液組成物の記載があると認めることはできないとして新規性欠如の被告主張は認めなかったものの、オキサリプラチンの濃度を5mg/mlとする水溶液を調整してこのシュウ酸の濃度を測定することは当業者にとって容易であり、構成要件に規定されている範囲内にすることが格別困難でもなく、何らかの臨界的意義があるとは認められないとして進歩性を欠くと判断した。


また、乙3公報においてシュウ酸が不要な不純物とされている点は、シュウ酸を添加することを要する発明に至る上では阻害要因となるとしても、シュウ酸の添加を不要とみる以上は本件において阻害要因となるものでないと判断した。

請求棄却。

参考:

Feb 14, 2017

2017.01.23 「X1・X2・X3 v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10022

引用発明の認定: 知財高裁平成28年(行ケ)10022

「タンパク質からなる疣と新生物を溶解して除去できる薬物及びその用途」に関する特許出願(特願2012-525865; WO2011/023013)の拒絶審決取消訴訟。

本願発明は引用例に記載された発明であると認定して新規性及び進歩性を否定した審決に対して、原告は、「審決は、引用例記載の構成から、目的達成のために必須の構成を除外し、技術的意義を失ったものを取り出して引用発明とし、このように誤って認定された引用発明の構成と本願発明を対比したものであり、考慮すべきでない事項を考慮し、考慮すべき事項を考慮していないことから、違法であり、取り消されるべきである。」と主張した。しかし、裁判所は、本件審決の引用発明の認定に誤りはないと判断した。請求棄却。

Feb 8, 2017

2017.01.18 「X v. ロート製薬」 知財高裁平成28年(行ケ)10005

「平均分子量」とは?(明確性要件): 知財高裁平成28年(行ケ)10005

【背景】

ロート製薬(被告)が保有する「眼科用清涼組成物」に関する特許権(第5403850号)の無効審判(無効2015-800023)請求不成立の審決取消訴訟。

請求項1:
a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,
b)0.01~10w/v%の塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種,および
c)平均分子量が0.5万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001~10w/v%含有することを特徴とするソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物。
【要旨】

裁判所は、明確性要件(特許法36条6項2号)違反及び進歩性(特許法29条2項)欠如についての無効理由があるとして、無効審判請求不成立とした審決を取り消した。

1.「平均分子量」についての記載不備に関する判断の誤りについて

原告は、本件特許請求の範囲及び本件明細書における「平均分子量」という記載が不明確であり、明確性要件を欠くと主張した。

裁判所は、
「特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。」
と特許法36条6項2号の趣旨を説示したうえで、本件については、
「「平均分子量」という概念は,一義的なものではなく,測定方法の違い等によって,「重量平均分子量」,「数平均分子量」,「粘度平均分子量」等にそれぞれ区分される(甲17)。そのため,同一の高分子化合物であっても,「重量平均分子量」,「数平均分子量」,「粘度平均分子量」等の各数値は,必ずしも一致せず,それぞれ異なるものとなり得る(甲27)。…(中略)…本件特許請求の範囲にいう「平均分子量が0.5万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,「重量平均分子量」,「粘度平均分子量」等のいずれを示すものであるかについては,本件明細書において,これを明らかにする記載は存在しない。もっとも,このような場合であっても,本件明細書におけるコンドロイチン硫酸あるいはその塩及びその他の高分子化合物に関する記載を合理的に解釈し,当業者の技術常識も参酌して,その平均分子量が何であるかを合理的に推認することができるときには,そのように解釈すべきである。しかし,本件においては,次に述べるとおり,「コンドロイチン或いはその塩」の平均分子量が重量平均分子量であるのか,粘度平均分子量であるのかを合理的に推認することはできない…(中略)…以上,上記記載は,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であり,特許法36条6項2号に違反すると認めるのが相当である。」
と判断し、原告主張の取消事由には理由があるとした。

2.甲1(特開2003-183157)発明に基づく進歩性欠如に関する判断の誤りについて

裁判所は、
「甲1公報には,「該点眼剤としては,医療用点眼剤でもよく,一般用点眼剤でもよく,またソフトコンタクトレンズ,ハードコンタクトレンズ等を装用した状態でも点眼可能である。」と記載されており,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズの装用者にも適用し得ることが示唆されているのであるから,当業者は,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いることを容易に想到することができたものと認められる。
特許出願に係る発明の構成が,公知技術である引用発明に他の公知技術,周知技術等を適用することによって容易に想到することができる場合であっても,上記発明の有する効果が,当該引用発明等の有する効果と比較して,当業者が技術常識に基づいて従来の技術水準を参酌した上で予測することができる範囲を超えた顕著なものであるときは,上記発明はその限度で従来の公知技術等から想到できない有利な効果を開示したといえるから,当業者は上記発明を容易に想到することができないものとして,上記発明については,特許を受けることができると解するのが相当である。
これを本件についてみると,前記(1)の認定事実によれば,本件発明は,ソフトコンタクトレンズ装用者に十分な清涼感を付与し,かつ,刺激がなく安全性が高い眼科用清涼組成物を提供するものであり,本件明細書(【0055】【表6】)に記載されている実施例19ないし21において,ソフトコンタクトレンズ装用中の点眼直後の清涼感は◎と評価され,かつ,ソフトコンタクトレンズ装用中の点眼直後の刺激も○又は◎と評価されている。
しかしながら,…(中略)…上記評価から,直ちに本件発明1の奏する効果が甲1発明と比較して予測できないほど顕著であると推認することはできず,その他に,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に適用した場合と比較して,本件発明1が奏する効果が当業者の予測を超える顕著なものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。のみならず,前記(2)の認定事実によれば,甲1発明の点眼剤は,目に対する刺激性が低く,良好な清涼感を付与することができ,かつ,清涼感の持続性の高いものであり,前記アのとおり,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズの装用者にも適用し得ると示唆されているのであるから,これらの記載に接した当業者は,甲1発明の点眼剤につき,ソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いた場合に,裸眼時やハードコンタクトレンズ装用時と同程度に,眼に対する刺激性が低く,良好な清涼感を付与することができ,清涼感の持続性が高いものであることを十分に予測することができる。しかも,甲1発明の点眼剤の効果と本件発明の効果は,そもそも清涼感を付与し刺激性が低いという同種のものにすぎず,本件明細書には,ハードコンタクトレンズ装用時における清涼感との比較評価等が一切記載されていないのであるから,本件優先日当時の技術常識を考慮しても,具体的にどの程度の清涼感の差異があるのかは不明である。
したがって,本件発明1の有する効果が予測することができる範囲を超えた顕著なものであると認めることはできない。」
と判断し、原告主張の取消事由には理由があるとした。

【コメント】

1.平均分子量

下記事件でも、判決文において用語が明確性要件を充足するか疑問視された。慣用的に使用されている用語であっても、クレームに記載する際には、単位や添加剤そのものの名称も含めて、何通りかの解釈がありえるのかどうか、正確な表現なのかどうか、注意を払う必要がある。
過去取り上げた事件で、「平均分子量」がクレームに記載された事例:

2.進歩性の判断、特に顕著な効果に関する判断について

本判決も取消された原審決も、当業者は引用発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いることを容易に想到することができると判断した点は共通した結論だったが、顕著な効果があるか否かという点では異なる判断となった。

審決では、ソフトコンタクトレンズ装用時にはハードコンタクト装用時とは異なる特有の問題が起こるとの記載を踏まえ、引用例には引用発明につきソフトコンタクトレンズ装用中においても同じような効果についての記載も示唆もないことから、引用発明をソフトコンタクトレンズ装用時に使用すれば同様の効果を奏すると当業者が予測し得たとはいえないと判断していた。

一方、裁判所は、引用発明はハードコンタクトレンズ装用時には本願発明と同じような効果があり、引用例にはソフトコンタクトレンズ装用時にも使用できるとの示唆があるのだから、同じような効果を奏すると予測され、そのうえで引用発明と比較して予測できないほどの顕著な効果があるとの証拠はないとして進歩性を否定したわけである。

引用発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いることを当業者は容易に想到することができると判断されるのだから、顕著な効果の判断は容易想到とされたことを踏まえたうえでの予期できる効果と比較してどうなのかということになる。

特許権者(被告)は、ソフトコンタクトレンズ装用時にはハードコンタクト装用時とは異なる特有の問題が起こるとして効果の顕著性を主張したのだが、そのような特有の問題が具体的に引用例や明細書に記載されているわけではなく、またその問題について具体的に比較検討された主張がされているわけでもなかった。特有の問題があるとして進歩性を主張するのであれば、阻害要因の存在を明確に示して容易想到性を否定するか、具体的な比較試験データを明細書に示して効果の顕著性を示す必要があったと思われる。