Jul 15, 2017

2017.06.14 「DIC v. JNC」 知財高裁平成28年(行ケ)10037

化合物の選択・組み合わせに関する選択発明の特許性: 知財高裁平成28年(行ケ)10037

【背景】

DICが保有する「重合性化合物含有液晶組成物及びそれを使用した液晶表示素子」に関する特許第5196073号を無効とした審決(無効2014-800103)の取消訴訟。本件発明と引用発明(甲1発明)は、いずれも多数の選択肢から成る化合物として「第一成分」、「第二成分」および「第三成分」を含有することを特徴とする液晶組成物の発明である。

本件審決は、① 甲1発明Aの「第三成分」として、甲1の…で表される重合性化合物を選択すること、② 甲1発明Aの「第一成分」として、甲1の…で表される化合物を選択すること、③ 甲1発明Aの「第二成分」として、甲1の…で表される化合物を選択すること、④ 甲1発明Aにおいて、「塩素原子で置換された液晶化合物を含有しない」態様を選択すること、の各技術的意義について、上記①の選択と、同②及び③の選択と、同④の選択とをそれぞれ別個に検討した上、それぞれについて、格別な技術的意義が存するものとは認められないとして、相違点1ないし4を実質的な相違点であるとはいえないと判断し、本件発明1の特許性(新規性)を否定した。要するに、本件審決は、引用発明である甲1発明と本件発明との間に包含関係(甲1発明を本件発明の上位概念として位置付けるもの)を認めた上、甲1発明において相違点に係る構成を選択したことに格別の技術的意義が存するかどうかを問題にしており、その結果、本件発明が甲1発明と実質的に同一であるとして新規性を認めなかった。

【要旨】

主 文
1 特許庁が無効2014-800103号事件について平成27年12月28日にした審決のうち,「特許第5196073号の請求項1ないし17に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
裁判所の判断

裁判所は、いわゆる選択発明の特許性の有無についての考え方に言及したうえで、本件審決の判断の妥当性を検討し、本件審決は必要な検討を欠いたまま本件発明1の特許性を否定しているものであるから審理不尽の誹りを免れないのであって特許性判断の結論に影響を及ぼすおそれのある重大な誤りを含むものであるから、本件審決の判断は妥当でないと判断した。以下、裁判所の判断の抜粋。
「特許に係る発明が,先行の公知文献に記載された発明にその下位概念として包含されるときは,当該発明は,先行の公知となった文献に具体的に開示されておらず,かつ,先行の公知文献に記載された発明と比較して顕著な特有の効果,すなわち先行の公知文献に記載された発明によって奏される効果とは異質の効果,又は同質の効果であるが際立って優れた効果を奏する場合を除き,特許性を有しないものと解するのが相当である。
ここで,本件発明1が甲1発明Aの下位概念として包含される関係にあることは前記3のとおりであるから,本件発明1は,甲1に具体的に開示されておらず,かつ,甲1に記載された発明すなわち甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏する場合を除き,特許性を有しないというべきである。
そして,甲1に本件発明1に該当する態様が具体的に開示されているとまでは認められない(被告もこの点は特に争うものではない。)から,本件発明1に特許性が認められるのは,甲1発明Aと比較して顕著な特有の効果を奏する場合(本件審決がいう「格別な技術的意義」が存するものと認められる場合)に限られるというべきである。」

「本件発明1は,甲1発明Aにおいて,3種類の化合物に係る前記①ないし③の選択及び「塩素原子で置換された液晶化合物」の有無に係る前記④の選択がなされたものというべきであるところ,証拠(甲42)及び弁論の全趣旨によれば,液晶組成物について,いくつかの分子を混ぜ合わせること(ブレンド技術)により,1種類の分子では出せないような特性を生み出すことができることは,本件優先日の時点で当業者の技術常識であったと認められるから,前記①ないし④の選択についても,選択された化合物を混合することが予定されている以上,本件発明の目的との関係において,相互に関連するものと認めるのが相当である。
そして,本件発明1は,これらの選択を併せて行うこと,すなわち,これらの選択を組み合わせることによって,広い温度範囲において析出することなく,高速応答に対応した低い粘度であり,焼き付き等の表示不良を生じない重合性化合物含有液晶組成物を提供するという本件発明の課題を解決するものであり,正にこの点において技術的意義があるとするものであるから,本件発明1の特許性を判断するに当たっても,本件発明1の技術的意義,すなわち,甲1発明Aにおいて,前記①ないし④の選択を併せて行った際に奏される効果等から認定される技術的意義を具体的に検討する必要があるというべきである。
ところが,本件審決は,前記のとおり,前記①の選択と,同②及び③の選択と,同④の選択とをそれぞれ別個に検討しているのみであり,これらの選択を併せて行った際に奏される効果等について何ら検討していない。このような個別的な検討を行うのみでは,本件発明1の技術的意義を正しく検討したとはいえず,かかる検討結果に基づいて本件発明1の特許性を判断することはできないというべきである。」
【コメント】

本件発明は、医薬に関するものではないが、化合物の選択・組み合わせに関する選択発明の特許性について争われた事案であり、有効成分の選択発明や、成分の組み合わせに関する医薬発明においても参考になる事例と考えられる。


Jul 9, 2017

2017.05.30 「フォーモサ・ラボラトリーズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10154

訂正が誤記の訂正を目的とするものであるというためには: 知財高裁平成28年(行ケ)10154

【背景】

「マキサカルシトール中間体およびその製造方法」に関する特許5563324の訂正審判請求(訂正2015-390128)不成立審決の取消訴訟。本件訂正の訂正事項は、明細書【0034】の「EAC(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載を「EAC(アクリル酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載に訂正するものだった。


【要旨】

主 文
1 特許庁が訂正2015-390128号事件について平成28年3月8日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
裁判所の判断

取消事由1(目的要件の判断の誤り)について、裁判所は、
「特許法126条1項2号は,「誤記・・・の訂正」を目的とする場合には,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすることを認めているが,ここで「誤記」というためには,訂正前の記載が誤りで訂正後の記載が正しいことが,当該明細書,特許請求の範囲若しくは図面の記載又は当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の技術常識などから明らかで,当業者であればそのことに気付いて訂正後の趣旨に理解するのが当然であるという場合でなければならないものと解される。」
と述べ、次のステップで、本件を検討し、本件明細書に接した当業者であれば、本件訂正事項に係る【0034】の「EAC(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載が誤りであることに気付いて、これを「EAC(アクリル酸エチル,804ml,7.28mol)」の趣旨に理解するのが当然であるということができるから、本件訂正は、「誤記・・・の訂正」を目的とするものということができると判断した。

Step 1: 本件明細書に接した当業者が,明細書の記載は原則として正しい記載であることを前提として,本件訂正前の本件明細書の記載に何らかの誤記があることに気付くかどうか。
「本件明細書に接した当業者は,【0034】の【化14】(化合物(3)から化合物(4)を製造する工程)において,側鎖を構成する炭素原子数の不整合によって,【0034】に何らかの誤記があることに気付くものと認められる。」
Step 2: 特定の反応工程(【0034】の【化14】)における技術的矛盾と,それに伴う誤記の存在を認識した当業者が,当該反応工程のうち,誤記が「EAC(酢酸エチル)」であると分かるかどうか。
「「(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載に示された化学物質名と,体積と,モル数とが整合しているかどうかを確認することは容易であるところ,…本件明細書に記載されているモル数と整合していないことが理解できる。…本件明細書に接した当業者は,…化合物(3)及び化合物(4)の化学構造については正しいものと理解し,「酢酸エチル」が誤記であると理解するものということができる。」
Step 3: 正しい記載が「アクリル酸エチル」であると分かるかどうか。
「化合物(3)と反応剤EACの反応機構に加え,化合物(4)の化学構造から,当業者は,【化14】の反応は,化合物(3)のアルコール性水酸基-OHの酸素の非共有電子対が反応剤(EAC)中のカルボニル基を構成する炭素原子の二つ隣の炭素原子を求核攻撃する,①3位に脱離基を有するプロピオン酸エチルを反応剤とする置換反応,又は,②アクリル酸エチルを反応剤とする付加反応のいずれかであると理解する。そして,…これらの反応剤の体積及びモル数が「804ml,7.28mol」という記載に整合するかどうかを検証してみると,…アクリル酸エチルの方が,本件明細書記載の上記数値に整合することが理解できる。…以上のとおり,「EAC」は,「アクリル酸エチル」の英語表記と整合し,略称と一致するものである上,モル数の記載とも整合するのであるから,当業者は,正しい反応剤が「アクリル酸エチル」であることを理解することができるというべきである。」
取消事由2(新規事項追加の判断の誤り)について、裁判所は、
「前記3の取消事由1で判断したとおり,本件明細書に接した当業者であれば,本件訂正事項に係る【0034】の「EAC(酢酸エチル,804ml,7.28mol)」という記載が誤りであり,これを「EAC(アクリル酸エチル,804ml,7.28mol)」の趣旨に理解するのが当然であるということができるから,本件訂正後の記載である「アクリル酸エチル」は,本件訂正前の当初明細書等の記載から自明な事項として定まるものであるということができ,本件訂正によって新たな技術的事項が導入されたとは認められない。したがって,本件訂正は,特許法126条5項に規定する要件に適合するものということができる。」
と判断した。

【コメント】

裁判所は、明細書の誤記の訂正(訂正前の記載「A」から訂正後の記載「B」に訂正すること)が許されるかどうかについての検討手順を下記のように行った。実務上の参考になる。
  • Step 1: 本件明細書に接した当業者が、明細書の記載は原則として正しい記載であることを前提として、本件訂正前の本件明細書の記載に何らかの誤記があることに気付くかどうか。
  • Step 2: 誤記の存在を認識した当業者が、誤記が訂正前の記載「A」であると分かるかどうか。
  • Step 3: 正しい記載が訂正後の記載「B」であると分かるかどうか。
とはいえ、審決では逆の結論だったのであり、Step 2および3の適否の判断が最も難しい点といえることには違いない。

参考: 審判便覧(第16版)38―03 P 訂正要件より
3.誤記の訂正

(1) 「誤記の訂正」とは、本来その意であることが、明細書、特許請求の範囲又は図面の記載などから明らかな内容の字句、語句に正すことをいい、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるものをいう。

(2) 誤記の訂正が認められるためには、特許がされた明細書、特許請求の範囲又は図面中の記載に誤記が存在することが必要である。このうち、請求項中の記載が、それ自体で、又は特許がされた明細書の記載との関係で、誤りであることが明らかであり、かつ、特許がされた明細書、特許請求の範囲又は図面の記載全体から、正しい記載が自明な事項として定まるときにおいて、その誤りを正しい記載にする訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
本件特許は、INPADOC family searchで検索しても本件日本特許以外の出願は海外にされていない。優先権の主張もない。本件特許に無効審判請求はされていない。本件特許発明は、化合物(3)等の中間体及びその製法であり、化合物(4)やその製法の発明ではない。つまり、本件で問題となった記載を訂正しようがしまいが本件特許発明の記載要件の適否には影響せず特許が無効とされる可能性はないと思われる。なぜ特許権者は本件訂正審判を請求したのかは定かではない。


Jul 1, 2017

ベポタスチンベシル酸塩(タリオン®)に関する特許権について

2017年6月30日、田辺三菱製薬(株)および宇部興産(株)より「ベポタスチンベシル酸塩(商品名 タリオン®)に関する特許権について」の謹告文が掲載されました(参照: 日刊薬業website: 【謹告】ベポタスチンベシル酸塩(商品名 タリオン®)に関する特許権について)。

田辺三菱は、一般名ベポタスチンベシル酸塩(bepotastine besilate)を有効成分とし、その効能・効果を「アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患に伴うそう痒(湿疹・皮膚炎、痒疹、皮膚そう痒症)」とする医薬品を、「タリオン®錠5㎎」「タリオン®錠10㎎」「タリオン®OD錠5㎎」「タリオン®OD錠10㎎」の商品名で製造販売している。タリオン®錠は、宇部興産と田辺三菱の共同研究により創成された抗アレルギー剤。国内において2000年7月に効能・効果をアレルギー性鼻炎としてタリオン®錠(普通錠)が承認された。また、蕁麻疹、皮膚疾患に伴う掻痒(湿疹・皮膚炎,痒疹,皮膚掻痒症)の効能・効果については2002年1月に承認された。2007年7月に口腔内崩壊錠を発売し、2015年5月に小児(7-15歳)適応の承認を取得した。タリオンの国内売上収益(2016年)は189億円、2017年度は200億円を超えると予想されている。

ニプロは、田辺三菱の完全子会社だった田辺製薬販売(株)の発行済株式の全てを取得し子会社化したことで、タリオン®錠のオーソライズド・ジェネリック薬品(タリオン AG)を自社製品として取り扱うことが可能となっている(ニプロ press release 2017.03.28 「ジェネリック医薬品の製造販売会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」)

田辺三菱および宇部興産は、ベポタスチンベシル酸塩を有効成分とする医薬品に関し、下記日本特許を有している。
その他参考:

Jun 29, 2017

オキサリプラチン特許侵害訴訟 日本化薬の侵害認めず(知財高裁)

2017年6月29日付の日本化薬のプレスリリースによると、日本化薬から製造販売されている「オキサリプラチン点滴静注液50㎎『NK』」、「オキサリプラチン点滴静注液100㎎『NK』」、「オキサリプラチン点滴静注液200㎎『NK』」に関して、デビオファーム社及びヤクルト本社が特許権及び専用実施権の侵害を理由に損害賠償を請求していた訴訟において、2017年6月28日、知財高裁は、東京地裁の判決(2016.10.31 「ヤクルト・デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成28年(ワ)15355)を支持し、デビオファーム社及びヤクルト本社の控訴を棄却する判決を言い渡したとのことです。

なお、2016年12月8日付リリースのとおり、「オキサリプラチン点滴静注液50mg『NK』」等について、上記訴訟とは別に、デビオファーム社より特許侵害訴訟が提起されていましたが、知財高裁は、同訴訟に対しても、日本化薬による特許権等の侵害を否定していました(過去記事: オキサリプラチン特許侵害差止訴訟 日本化薬の侵害認めず(知財高裁)2016.12.08 「日本化薬 v. デビオファーム」 知財高裁平成28年(ネ)10031))。

参照:

Jun 24, 2017

田辺三菱 ジレニア®(Gilenya®)米国特許訴訟で勝訴

2017年6月20日付けの田辺三菱製薬のプレスリリースによると、2017年6月9日、米国デラウェア連邦地方裁判所は、「製品名「ジレニア®(Gilenya®)」の有効成分であるフィンゴリモド塩酸塩(Fingolimod hydrochloride)を保護する米国特許(US5,604,229)は有効であり、本件特許が満了する2019年2月18日(小児臨床試験実施に基づく6か月間の排他期間の追加の可能性あり)より早く、米国において後発品は承認されない」との判決を下したとのことです。この判決は、被告である後発品会社6社が、後発品をFDAに簡略申請するに当たり、本件特許の無効を主張してきたものの、本件特許は有効であり、原告3社(田辺三菱製薬、ノバルティス社(米国新薬申請ホルダー)および三井製糖(共有特許権者))の権利行使が可能であると認めたものであるとのことです。

ジレニア®:
フィンゴリモド塩酸塩を有効成分とする1日1回経口投与カプセル剤。フィンゴリモド塩酸塩は、スフィンゴシン 1-リン酸(S1P)受容体を標的とする多発性硬化症治療剤であり、田辺三菱製薬による開発着手の後、ノバルティス社に導出。米国においては、2010年9月21日に承認、日本(製品名「イムセラ®/ジレニア®」)をはじめ、欧州、カナダ等80か国以上で承認されている。
ジレニア®のOrangebookによると、リストされている特許は4つ。
  • 5,604,229 (Patent Expiration: Feb 18, 2019)
  • 6,004,565 (Patent Expiration: Sep 23, 2017)
  • 8,324,283 (Patent Expiration: Mar 29, 2026)
  • 9,187,405 (Patent Expiration: Jun 25, 2027)

US8,324,283は製剤特許。IPRでの無効判断がCAFCでも容認された(Novartis AG v. Torrent Pharmaceuticals. Ltd., No. 2016-1352 (Fed. Cir. Apr. 12, 2017))。

US9,187,405は用途特許。2015年11月17日に成立した。Apotexが2017年2月3日、Argentumが2017年6月9日に、IPRをfileしたようである(IPR2017-00854; IPR2017-01550)。

参考:
2017.06.20 田辺三菱製薬プレスリリース: 「米国におけるフィンゴリモド塩酸塩 特許侵害訴訟の地裁勝訴について


Jun 11, 2017

2017.05.16 「メソ スケール テクノロジーズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10196

イムノアッセイの連続交互プロセス: 知財高裁平成28年(行ケ)10196

【背景】

「アッセイ装置,方法,および試薬」に関する特許出願(特願2014-23320; 特開2014-130151)の拒絶審決(不服2015-12712)取消訴訟。争点は進歩性。具体的には、引用発明との相違点2(コンピュータを実装したプロセスが,本願補正発明では,「連続交互プロセス」であるのに対し,引用発明では,そのように特定されていない点)の容易想到性が争われた。


本願補正発明(請求項1):
マルチウェルプレートにおいてアッセイを実施するための方法であって,ここで前記方法は,(a)光検出サブシステム;(b)液体操作サブシステム;(c)プレート操作サブシステム,およびソフトウェアのスケジューラーへと動作可能に接続されたコンピュータを含有する装置を用い,

前記方法が,前記マルチウェルプレートの個々のウェルにおいて実施される以下のステップ:
(i)期間nを含有するサンプル添加フェーズの間に前記個々のウェルに対してサンプルを添加するステップ;
(ii)期間mを含有する放置フェーズの間に前記個々のウェル中に前記サンプルを放置するステップ;
(iii)期間pを含有する試薬添加フェーズの間に前記個々のウェルへと試薬を添加するステップ;ならびに
(iv)前記ソフトウェアのスケジューラーによって前記マルチウェルプレートの個々のウェルに対するステップ(i)~(iii)の状態をトラックするステップ,

を含有するコンピュータを実装した連続交互プロセスを含有し,

ここでステップ(i)が,サンプルを添加するステップの前に前記個々のウェルのシールを穴開けするステップをさらに含有し,

ここで前記マルチウェルプレートの第一のウェルがステップ(i)~(iii)へと供され,そして前記第一のウェルの少なくともステップ(i)が完了したのちに前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいてこれらのステップ(i)~(iii)が繰り返され,
かつ
期間n,mもしくはpの一つもしくはそれ以上が,前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上のウェルにおいて,前記ソフトウェアのスケジューラーによって調整できる,方法。

【要旨】

引用発明1に引用例2に記載された技術事項を適用することについて、裁判所は、
「引用例1と引用例2(甲2)は,共にイムノアッセイに係る技術であり,イムノアッセイにおける全作業時間を短縮させるという課題は,イムノアッセイ全般の一般的な技術課題にすぎない。したがって,引用例2に記載されている,マルチウェルプレートの第一のウェルに反応開始に必要な液体を添加するステップを行ってイムノアッセイの処理を開始し,その第一のウェルでのインキュベーション期間に,前記マルチウェルプレートの一つの追加のウェルに反応開始に必要な液体を添加するステップを行ってイムノアッセイの処理を開始し,マルチウェルプレートにおけるイムノアッセイの全作業時間を短縮することを,引用発明に適用することは,当業者が容易になし得たことである。
そうすると,引用例2に記載された技術事項を適用した引用発明は,「第一のウェル」に対するステップ(ii)中に「前記マルチウェルプレートの一つもしくはそれ以上の追加のウェルにおいて,」少なくともステップ(i)を行い,その後で,「第一のウェル」に対するステップ(iii)を行う,つまり「連続交互プロセス」を含有することになる。
よって,相違点2の容易想到性についての本件審決の判断に誤りはない。」
と判断した。請求棄却。

【コメント】

本出願についてINPADOC patent familyを見てみると、下記日本出願群が存在しているようである。
  • 優先権US 61/123,975 ⇒PCT/US2009/002244(WO2009/126303)
    ⇒特願2011-504004(特表2011-518323)
    ⇒拒絶審決

    ⇒特願2011-504004の分割⇒特願2014-23320(特開2014-130151)
    ⇒拒絶審決(本願
  • 優先権US 60/752,745; 60/752,513: 11/642,968 ⇒PCT/US2006/049049(WO2008/057111)
    ⇒特願2008-547613(特表2009-533650)
    ⇒特許5080494

    ⇒特願2008-547613の分割⇒特願2012-158378(特開2012-230122)
    ⇒拒絶審決

    ⇒特願2012-158378の分割⇒特願2014-148593(特開2014-211450)
    ⇒特許5885788

    ⇒特願2012-158378の分割⇒特願2015-237447(特開2016-048260)
    ⇒審査係属中
  • 優先権US 60/752,745; 60/752,513; 11/642,970 ⇒PCT/US2006/049048(WO2007/076023)
    ⇒特願2008-547612(特表2009-521686)
    ⇒特許5345854

    ⇒特願2008-547612の分割⇒特願2012-179913(特開2013-007751)
    ⇒特許5845156

    ⇒特願2012-179913の分割⇒特願2015-144598(特開2015-232568)
    ⇒特許6113788

    ⇒特願2015-144598の分割⇒特願2016-200778(特開2017-026635)
    ⇒審査係属中

Jun 4, 2017

2017.05.10 「コスメディ製薬 v. バイオセレンタック」 大阪地裁平成27年(ワ)11759

敗訴となった訴訟行為が不法行為を構成するのか大阪地裁平成27年(ワ)11759; 別紙1

【背景】

本件は、バイオセレンタックが提起した特許権侵害訴訟(バイオセレンタックが敗訴。東京地裁平成25年(ワ)4303; 知財高裁平成26年(ネ)10109)の被告であったコスメディと同社の代表取締役であるP1が、同訴訟の原告であったバイオセレンタック、同訴訟でバイオセレンタックを代表した代表取締役のP2、バイオセレンタックの代表取締役であり本件特許の発明者であるP3並びに同訴訟で訴訟代理人を務めたP4に対し、バイオセレンタックが「コスメディによる本件特許権侵害及び研究成果盗用」という虚偽の事実をコスメディの取引先である岩城製薬及び資生堂に告知した行為は不競法2条1項14号(現行法では15号)の不正競争に該当する或いは上記告知がP1の名誉を棄損したと主張して、不競法4条、民法709(719条1項)または会社法429条1項に基づき損害賠償の支払を求めた事案である。

「告知行為」に関するコスメディの主張は主に下記の点であった。
  • 「被告バイオは,別件侵害訴訟において,原告コスメディの取引先である岩城製薬を共同被告として訴えていたから,同訴訟を通じて,原告コスメディの営業上の信用を害する虚偽の事実を岩城製薬に継続的に告知したといえる。」
  • 「原告ら製品は,原告コスメディから資生堂に販売され,資生堂で製品として完成されて岩城製薬に販売される関係にあるので,原告コスメディは,別件侵害訴訟の情報を資生堂に提供せざるを得なかったが,被告バイオは上記取引関係を認識しながら岩城製薬を共同被告にしたのであるから,被告バイオは虚偽の事実を資生堂にも告知していたといえる。」
【要旨】

主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

裁判所の判断(抜粋)

1.資生堂に対する関係での告知行為について
「不正競争防止法2条1項14号にいう「告知」とは,自己が関知した一定の事実を特定の人に知らせる伝達行為をいうところ,そもそも資生堂に対する関係で被告バイオが告知したわけではないことは原告コスメディも認めているところである。また原告コスメディは,取引関係上,同原告が資生堂に同事実を伝えざるを得なかったことを指摘するが,もし,そうであったとしても,そのことをもって被告バイオが告知したことになるわけではない。」
2.岩城製薬に対する関係での告知行為について
「被告バイオは,原告ら製品の販売が本件特許権の侵害行為に該当するとして岩城製薬を共同被告として訴えているところ,岩城製薬に対する請求を理由づけるためには,岩城製薬が販売している原告ら製品が本件発明の技術的範囲に属するという事実を主張立証する必要があり,その事実関係を具体的に主張立証するためには,結局,共同被告である原告コスメディによる原告ら製品の製造販売が本件特許権の侵害行為であること,すなわち原告ら製品が本件特許権の侵害品であることを主張立証すべきことは避けようがない。

したがって,別件侵害訴訟における原告ら製品が本件特許権の侵害品である旨の事実主張が,共同被告である岩城製薬との関係で不正競争防止法2条1項14号の虚偽事実の告知に該当するということはできない(仮に岩城製薬だけを被告として本件特許権侵害を理由に訴訟を提起したとしても,岩城製薬が販売する製品が本件特許権の侵害品である旨主張することは,その購入先を知っている岩城製薬にとっては,原告ら製品が本件特許権の侵害品であるとの事実指摘を受けたと同じになるから,原告コスメディの論が失当であることは明らかである。)。

なお,被告バイオによる別件侵害訴訟の提起が,権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したことなどを理由として裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くため違法な行為といえるような場合には,同訴訟の被告それぞれに対する訴訟提起が不法行為を構成するとともに,取引先である岩城製薬を共同被告とされた原告コスメディに対する関係では,訴訟制度を濫用的に利用した不正競争防止法2条1項14号に該当する虚偽の事実の告知として不正競争となる余地はあり得ると考えられる。しかし,…別件侵害訴訟の審理経過に照らせば,同訴訟提起が違法な行為であるという余地がないことは明らかであり,そうであれば,やはり岩城製薬を原告コスメディの共同被告として提起された別件侵害訴訟においてなされた原告ら製品が本件特許権の侵害品である旨の事実主張は,不正競争防止法2条1項14号に該当する余地はないというほかない。」
3.研究成果の盗用指摘について
「仮に上記記載事実が虚偽であるとしても,…上記事実は,別件侵害訴訟の審理判断の上で,全く不要な事実であったとはいえないし,全く根拠のない推認に基づくものであったとも,また原告コスメディをもっぱら誹謗中傷するような態様で主張されたものとも認められないから,民事訴訟が,事実関係を究明するため,紛争当事者が攻撃防御方法として相互に立証命題となるべき事実主張を尽くすことが求められるものである以上,これらの事実主張は,訴訟行為として適法というべきであって,これをもって不正競争防止法2条1項14号に該当する「虚偽の事実を告知」したものということはできないというべきである。」
4.名誉棄損の成否について
「原告P1が名誉棄損である旨指摘する引用に係る別紙一覧表の各記載内容は,要するに,原告P1がアクセスして得た被告P3の研究に係る技術情報を不正に利用して原告ら製品を開発したことを指摘するものであるから,原告P1が原告コスメディの代表取締役であるとともに,大学研究室に所属して研究者としても活動している者であることからすると,その指摘に係る事実は,原告P1の社会的評価を低下させるものであり,その名誉を棄損するものということができる。

しかし,これらの事実指摘のうち別紙一覧表記載3ないし5に係る事実については,いずれも別件侵害訴訟において,被告バイオの訴訟活動の一環としてなされたものであり,その事実が別件侵害訴訟の審理判断の上での必要性が肯定されるべきことは上記…で説示したとおりであり,別紙一覧表記載1,2の各事実も結局,同じ問題であるので,その事実を主張することが名誉棄損として不法行為を構成するものということはできない。」
【コメント】

下記裁判でも同事件が取り扱われている。

民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、「その訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる」という観点で、その訴えに関連する行為の違法性の当否が判断されるということであろう。

1988.01.26 最高裁昭和60(オ)122
「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。」

May 28, 2017

2017.04.27 「デビオファーム v. 日医工」 知財高裁平成28年(ネ)10111

対応外国出願の禁反言が特許発明の技術的範囲に適用されるのか: 知財高裁平成28年(ネ)10111

【背景】

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告: デビオファーム)が、被控訴人(一審被告: 日医工)に対し、日医工各製品の製造販売等が特許権侵害に当たると主張して、日医工製品の製造等の差止及び廃棄を求めた事案。原判決(2016.10.28 「デビオファーム v. 日医工」 東京地裁平成27年(ワ)28468)は、日医工各製品はいずれも本件発明の技術的範囲に属しないとしてデビオファームの請求を棄却したため、デビオファームは控訴した。

日医工各製品は、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)が本件発明に規定されているモル濃度の範囲内で含有するものだが、このシュウ酸は外部から添加されたもの(添加シュウ酸)ではなかった。日医工各製品における「解離シュウ酸」が、本件発明にいう「緩衝剤」に含まれるかどうかが争点。

【要旨】

知財高裁は、本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は、添加シュウ酸に限られ、解離シュウ酸を含まないものと解されるから、解離シュウ酸を含むのみで、シュウ酸が添加されていない日医工各製品は、構成要件の「緩衝剤」を含有するものではなく、したがって、本件発明の技術的範囲に属しないものと判断した。控訴棄却。

【コメント】

知財高裁は、判断の理由を、原判決を一部補正するほか原判決の記載のとおりであるからこれを引用した。すなわち、下記部分も引用しており、知財高裁は、クレームの用語の意義を対応外国出願の審査過程における出願人の主張内容も参酌して解釈する、ということを排除していない。

原判決41頁11行目~:
「確かに,対応米国特許及び対応ブラジル特許は本件特許とは異なる国における別個の出願であるから,それぞれの国の手続において成立する特許発明の範囲に差異がでることは否定できないものの,本件特許と同じ国際出願を基礎とするものである以上,その技術思想は基本的には共通すると考えられるところ,本件発明における「緩衝剤」としての「シュウ酸」が添加したものに限られず,解離シュウ酸をも含むものと解すると,上記対応米国特許及び対応ブラジル特許の技術思想とは整合しなくなり不合理である。」
原判決:

May 21, 2017

2017.04.27 「デビオファーム v. サンド」 知財高裁平成28年(ネ)10103

オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸と特許発明の技術的範囲: 知財高裁平成28年(ネ)10103

【背景】

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する控訴人(一審原告: デビオファーム)が、被控訴人(一審被告: サンド)に対し、サンド製品1及び2の生産等が本件発明1の技術的範囲に属し特許権侵害に当たると主張して、サンド製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。原判決(2016.09.12 「デビオファーム v. サンド」 東京地裁平成27年(ワ)28849)は、サンド製品1及び2はいずれも本件発明1の技術的範囲に属しないとしてデビオファームの請求を棄却したため、デビオファームは控訴した。また、デビオファームは、サンド製品3についても特許侵害に当たる旨及びサンド各製品が本件発明2の技術的範囲に属する旨の追加の訴えを申し立てた。

サンド製品は、オキサリプラチンが溶媒中で分解して生じたシュウ酸(解離シュウ酸)が本件発明に規定されているモル濃度の範囲内で含有するものだが、このシュウ酸は外部から添加されたもの(添加シュウ酸)ではなかった。サンド製品における「解離シュウ酸」が、本件発明にいう「緩衝剤」に含まれるかどうかが争点。

【要旨】

知財高裁は、本件発明1における「緩衝剤」としての「シュウ酸」は、添加シュウ酸に限られ、解離シュウ酸を含まないものと解されるから、解離シュウ酸を含むのみで、シュウ酸が添加されていないサンド製品1及び2は、構成要件の「緩衝剤」を含有するものではなく、したがって、サンド製品1及び2は本件発明1及び本件訂正発明2の技術的範囲に属しないものと判断した。控訴棄却。

また、知財高裁は、デビオファームの追加の訴えの申し立てを却下しなかったが、本件発明2は、本件発明1の「緩衝剤」であるという構成を含むものであるから、サンド各製品は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも本件発明2の技術的範囲にも属さないと判断した。

【参考】

原判決:

May 14, 2017

2017.04.25 「グロービア v. ナチュラルビューティー」 知財高裁平成28年(ネ)10106

フェルガードとフェルゴッド知財高裁平成28年(ネ)10106

【背景】

「フェルガード」と標準文字で書してなる商標(指定商品: フェルラ酸とガーデンアンゼリカを主成分とする粉末及びカプセル状の加工食品。)に関する商標権(第5059677号)を保有するグロービアが、ナチュラルビューティーに対して東京地裁に提起した商標権侵害訴訟において非侵害の判決を受けたため、控訴した事案。争点は、フェルラ酸含有商品を販売するナチュラルビューティーの各標章は本件商標に類似するかであった。

【要旨】

裁判所は、
「本件商標と被告各標章は,外観は異なり,いずれも特定の観念を生じさせるものではなく,その称呼においても,全体の語調,語感において,異なる印象を与えるものである。そして,原告商品及び被告各商品の具体的な取引の実情を踏まえつつ,本件商標と被告各標章が,その外観,観念,称呼等によって需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察した場合,本件商標と被告各標章について,需要者に,商品の出所につき誤認混同を生じさせるおそれがあるということはできない。」
として控訴を棄却した。

「被告各商品は,原告商品を故意に似せて作ったものであり,その販売形態が類似している。サプリメントは需要者が誤って商品を購入すれば,その生命や身体に多大な影響を及ぼすことなどから商標法による保護が一層重要である」等のグロービアの主張に対して、裁判所は、
「被告各商品は,原告商品と外箱のデザインなどが類似しているほか,インターネット上のウェブサイトにおいて,被告各商品が「フェルガードに替わるフェルラ酸含有食品」などと紹介されており,また,検索サイトで原告商品である「フェルガード」を検索すると,「フェルゴッド」との標章を有する被告各商品が表示されることが認められる。しかし,これらの事情は,他の法律の規制を受けることの一事情になり得るとしても,これらの事情によって,本件商標と被告各標章との間で,商標法上,出所の誤認混同のおそれを生じさせるに至るということはできない。」
と判断した。

【コメント】

原告の主張によれば、「被告各商品は,かつて原告と取引関係にあり,原告商品を販売していた株式会社サンユーコーポレーションの関係者が,原告との取引解消直後に,関連会社をして「フェルゴッド」との文字からなる商標に係る商標権を取得させ,さらに,被告を設立してこれを販売元として販売を開始しているのであって,原告商品又は本件商標の有するブランド力を利用する目的で作られたことが明らかである。」(原審より引用)との事情があったようである。

ところで、グロービアの商品に関連する判決として以下のものがある。