Feb 19, 2017

2017.01.26 「デビオファーム v. ナガセ医薬品・日本ケミファ」 東京地裁平成27年(ワ)29159

オキサリプラチンのシュウ酸包含溶液特許は無効: 東京地裁平成27年(ワ)29159

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)が、被告(ナガセ医薬品)に対し、被告製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被告製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。無効理由の有無が判断の決め手となった。

請求項1:
オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,緩衝剤の量が,以下の…(略)…の範囲のモル濃度である,組成物。
裁判所(民事46部)は、被告が提出した追試結果に基づいて乙3公報に本件発明等のオキサリプラチン溶液組成物の記載があると認めることはできないとして新規性欠如の被告主張は認めなかったものの、オキサリプラチンの濃度を5mg/mlとする水溶液を調整してこのシュウ酸の濃度を測定することは当業者にとって容易であり、構成要件に規定されている範囲内にすることが格別困難でもなく、何らかの臨界的意義があるとは認められないとして進歩性を欠くと判断した。


また、乙3公報においてシュウ酸が不要な不純物とされている点は、シュウ酸を添加することを要する発明に至る上では阻害要因となるとしても、シュウ酸の添加を不要とみる以上は本件において阻害要因となるものでないと判断した。

請求棄却。

参考:

Feb 14, 2017

2017.01.23 「X1・X2・X3 v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10022

引用発明の認定: 知財高裁平成28年(行ケ)10022

「タンパク質からなる疣と新生物を溶解して除去できる薬物及びその用途」に関する特許出願(特願2012-525865; WO2011/023013)の拒絶審決取消訴訟。

本願発明は引用例に記載された発明であると認定して新規性及び進歩性を否定した審決に対して、原告は、「審決は、引用例記載の構成から、目的達成のために必須の構成を除外し、技術的意義を失ったものを取り出して引用発明とし、このように誤って認定された引用発明の構成と本願発明を対比したものであり、考慮すべきでない事項を考慮し、考慮すべき事項を考慮していないことから、違法であり、取り消されるべきである。」と主張した。しかし、裁判所は、本件審決の引用発明の認定に誤りはないと判断した。請求棄却。

Feb 8, 2017

2017.01.18 「X v. ロート製薬」 知財高裁平成28年(行ケ)10005

「平均分子量」とは?(明確性要件): 知財高裁平成28年(行ケ)10005

【背景】

ロート製薬(被告)が保有する「眼科用清涼組成物」に関する特許権(第5403850号)の無効審判(無効2015-800023)請求不成立の審決取消訴訟。

請求項1:
a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,
b)0.01~10w/v%の塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種,および
c)平均分子量が0.5万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001~10w/v%含有することを特徴とするソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物。
【要旨】

裁判所は、明確性要件(特許法36条6項2号)違反及び進歩性(特許法29条2項)欠如についての無効理由があるとして、無効審判請求不成立とした審決を取り消した。

1.「平均分子量」についての記載不備に関する判断の誤りについて

原告は、本件特許請求の範囲及び本件明細書における「平均分子量」という記載が不明確であり、明確性要件を欠くと主張した。

裁判所は、
「特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。」
と特許法36条6項2号の趣旨を説示したうえで、本件については、
「「平均分子量」という概念は,一義的なものではなく,測定方法の違い等によって,「重量平均分子量」,「数平均分子量」,「粘度平均分子量」等にそれぞれ区分される(甲17)。そのため,同一の高分子化合物であっても,「重量平均分子量」,「数平均分子量」,「粘度平均分子量」等の各数値は,必ずしも一致せず,それぞれ異なるものとなり得る(甲27)。…(中略)…本件特許請求の範囲にいう「平均分子量が0.5万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,「重量平均分子量」,「粘度平均分子量」等のいずれを示すものであるかについては,本件明細書において,これを明らかにする記載は存在しない。もっとも,このような場合であっても,本件明細書におけるコンドロイチン硫酸あるいはその塩及びその他の高分子化合物に関する記載を合理的に解釈し,当業者の技術常識も参酌して,その平均分子量が何であるかを合理的に推認することができるときには,そのように解釈すべきである。しかし,本件においては,次に述べるとおり,「コンドロイチン或いはその塩」の平均分子量が重量平均分子量であるのか,粘度平均分子量であるのかを合理的に推認することはできない…(中略)…以上,上記記載は,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であり,特許法36条6項2号に違反すると認めるのが相当である。」
と判断し、原告主張の取消事由には理由があるとした。

2.甲1(特開2003-183157)発明に基づく進歩性欠如に関する判断の誤りについて

裁判所は、
「甲1公報には,「該点眼剤としては,医療用点眼剤でもよく,一般用点眼剤でもよく,またソフトコンタクトレンズ,ハードコンタクトレンズ等を装用した状態でも点眼可能である。」と記載されており,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズの装用者にも適用し得ることが示唆されているのであるから,当業者は,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いることを容易に想到することができたものと認められる。
特許出願に係る発明の構成が,公知技術である引用発明に他の公知技術,周知技術等を適用することによって容易に想到することができる場合であっても,上記発明の有する効果が,当該引用発明等の有する効果と比較して,当業者が技術常識に基づいて従来の技術水準を参酌した上で予測することができる範囲を超えた顕著なものであるときは,上記発明はその限度で従来の公知技術等から想到できない有利な効果を開示したといえるから,当業者は上記発明を容易に想到することができないものとして,上記発明については,特許を受けることができると解するのが相当である。
これを本件についてみると,前記(1)の認定事実によれば,本件発明は,ソフトコンタクトレンズ装用者に十分な清涼感を付与し,かつ,刺激がなく安全性が高い眼科用清涼組成物を提供するものであり,本件明細書(【0055】【表6】)に記載されている実施例19ないし21において,ソフトコンタクトレンズ装用中の点眼直後の清涼感は◎と評価され,かつ,ソフトコンタクトレンズ装用中の点眼直後の刺激も○又は◎と評価されている。
しかしながら,…(中略)…上記評価から,直ちに本件発明1の奏する効果が甲1発明と比較して予測できないほど顕著であると推認することはできず,その他に,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に適用した場合と比較して,本件発明1が奏する効果が当業者の予測を超える顕著なものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。のみならず,前記(2)の認定事実によれば,甲1発明の点眼剤は,目に対する刺激性が低く,良好な清涼感を付与することができ,かつ,清涼感の持続性の高いものであり,前記アのとおり,甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズの装用者にも適用し得ると示唆されているのであるから,これらの記載に接した当業者は,甲1発明の点眼剤につき,ソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いた場合に,裸眼時やハードコンタクトレンズ装用時と同程度に,眼に対する刺激性が低く,良好な清涼感を付与することができ,清涼感の持続性が高いものであることを十分に予測することができる。しかも,甲1発明の点眼剤の効果と本件発明の効果は,そもそも清涼感を付与し刺激性が低いという同種のものにすぎず,本件明細書には,ハードコンタクトレンズ装用時における清涼感との比較評価等が一切記載されていないのであるから,本件優先日当時の技術常識を考慮しても,具体的にどの程度の清涼感の差異があるのかは不明である。
したがって,本件発明1の有する効果が予測することができる範囲を超えた顕著なものであると認めることはできない。」
と判断し、原告主張の取消事由には理由があるとした。

【コメント】

1.平均分子量

下記事件でも、判決文において用語が明確性要件を充足するか疑問視された。慣用的に使用されている用語であっても、クレームに記載する際には、単位や添加剤そのものの名称も含めて、何通りかの解釈がありえるのかどうか、正確な表現なのかどうか、注意を払う必要がある。
過去取り上げた事件で、「平均分子量」がクレームに記載された事例:

2.進歩性の判断、特に顕著な効果に関する判断について

本判決も取消された原審決も、当業者は引用発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いることを容易に想到することができると判断した点は共通した結論だったが、顕著な効果があるか否かという点では異なる判断となった。

審決では、ソフトコンタクトレンズ装用時にはハードコンタクト装用時とは異なる特有の問題が起こるとの記載を踏まえ、引用例には引用発明につきソフトコンタクトレンズ装用中においても同じような効果についての記載も示唆もないことから、引用発明をソフトコンタクトレンズ装用時に使用すれば同様の効果を奏すると当業者が予測し得たとはいえないと判断していた。

一方、裁判所は、引用発明はハードコンタクトレンズ装用時には本願発明と同じような効果があり、引用例にはソフトコンタクトレンズ装用時にも使用できるとの示唆があるのだから、同じような効果を奏すると予測され、そのうえで引用発明と比較して予測できないほどの顕著な効果があるとの証拠はないとして進歩性を否定したわけである。

引用発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いることを当業者は容易に想到することができると判断されるのだから、顕著な効果の判断は容易想到とされたことを踏まえたうえでの予期できる効果と比較してどうなのかということになる。

特許権者(被告)は、ソフトコンタクトレンズ装用時にはハードコンタクト装用時とは異なる特有の問題が起こるとして効果の顕著性を主張したのだが、そのような特有の問題が具体的に引用例や明細書に記載されているわけではなく、またその問題について具体的に比較検討された主張がされているわけでもなかった。特有の問題があるとして進歩性を主張するのであれば、阻害要因の存在を明確に示して容易想到性を否定するか、具体的な比較試験データを明細書に示して効果の顕著性を示す必要があったと思われる。


Feb 3, 2017

アリムタ®のビタミン療法特許 知財高裁が維持判決

イーライリリー・アンド・カンパニーの2017年2月2日付プレスリリースによると、抗悪性腫瘍剤アリムタ(Alimta)®(ペメトレキセド注射剤)の2件のビタミン療法特許に関し、沢井製薬が2015年11月の特許庁の特許維持審決を不服として提訴していた審決取消訴訟において、知財高裁は、特許庁の特許維持審決を支持し、本件特許が有効に維持される内容の判決を下したとのことです。
本件特許は2021年6月まで有効に存続するとのことです。

過去記事:
参考:

Feb 1, 2017

沢井と興和がLIVALO®ANDA訴訟で和解 沢井発売は2023年

2017年2月1日付の沢井製薬のpress releaseによれば、沢井と興和との間で争っていたLIVALO®(ピタバスタチン錠)米国ANDA特許侵害訴訟は和解に至ったとのことです。この和解契約に基づき、沢井のピタバスタチン錠は、2023年5月2日または特定の状況下においてはそれ以前の日を開始日として、発売が可能となるとのことです。

参考:

Jan 24, 2017

小野・BMS v. Merck 抗PD-1抗体特許係争で和解

2017年1月21日付の小野薬品のプレスリリースによると、小野薬品およびブリストル・マイヤーズ スクイブ社(BMS社)は、小野薬品と本庶佑氏との共有に係る抗PD-1抗体の用途特許および小野薬品とBMS社との共有に係る抗PD-1抗体の物質特許を保有しており、メルク社による抗PD-1抗体製品である「キイトルーダ®」(一般名:ペムブロリズマブ)の販売等の特許侵害に対し、日本、米国、欧州等において特許侵害訴訟を提起するなど係争していましたが、このたび小野薬品およびBMS社はメルク社と和解し、ライセンス契約を締結したとのことです。

本契約により、小野薬品およびBMS社が保有する用途特許および物質特許が有効であることを確認した上で、メルク社の「キイトルーダ®」の販売を許諾すること、また、メルク社は
小野薬品およびBMS社に対して6億2500万ドルの頭金を支払い、2017年1月1日から2023年12月31日まではキイトルーダの全世界売上の6.5%、2024年1月1日から2026年12月31日までは2.5%をロイヤルティとして支払うことで合意に至ったとのことです。

なお、頭金およびロイヤルティは当社に25%、BMS社に75%の割合で分配されるとのことです。

今回の和解により、メルク社の「キイトルーダ®」販売に関する各国の訴訟は終結することになります。

参考:

Jan 22, 2017

2017.01.20 「デビオファーム v. 東和薬品」 知財高裁平成28年(ネ)10046

延長された特許権の効力(知財高裁大合議判決): 知財高裁平成28年(ネ)10046
(原審: 2016.03.30 「デビオファーム v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)12414

【背景】

「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する特許第3547755号の特許権者であるデビオファーム(一審原告)が、東和薬品(一審被告)各製品は本件発明の技術的範囲に属し、かつ、存続期間の延長登録を受けた本件特許権の効力は一審被告各製品の生産等に及ぶ旨主張して、一審被告に対し一審被告各製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。原判決は延長された特許権の効力が一審被告各製品に及ばないとして一審原告の請求を棄却したため、一審原告がこれを不服として控訴した。知財高裁は本件を大合議事件に指定し審理された。

請求項1(本件発明):
濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液からなり,医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤。
【要旨】

争点は、存続期間が延長された本件特許権の効力が一審被告による一審被告各製品の生産等に及ぶか否か。

知財高裁大合議判決は、延長された特許権の効力は、政令処分の対象となった物と同一の物のみならず、これと実質同一なものにも及ぶこと、及び、実質同一の範囲とはどの範囲であると解すべきかについて説示した上で、特許請求の範囲と明細書から認定される本件発明の技術的特徴から、一審被告各製品は、本件の各政令処分の対象となった物と実質同一なものとはいえないと判断した。また、特許請求の範囲と明細書及び出願の経過で提出された意見書から、本件発明の技術的範囲を認定し、一審被告各製品は本件発明の技術的範囲に属しないとも判断した。控訴棄却。

本判決で示された考え方の要点は以下の通り。

1. 存続期間が延長された特許権の効力範囲について
延長された特許権の効力は、政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず、これと医薬品として実質同一なものにも及び、政令処分で定められた上記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても、当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ、存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属する。
2. 「実質同一なもの」の範囲の考え方について
医薬品の成分を対象とする物の特許発明において、政令処分で定められた「成分」に関する差異、「分量」の数量的差異又は「用法、用量」の数量的差異のいずれか一つないし複数があり、他の差異が存在しない場合に限定してみれば、僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどうかは、特許発明の内容に基づき、その内容との関連で、政令処分において定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して、当業者の技術常識を踏まえて判断すべきである。

実質同一の範囲を定める場合には、均等論を適用ないし類推適用することはできない。ただし、延長登録出願の手続において、延長された特許権の効力範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がある場合には、特許法68条の2の実質同一が認められることはない。
3. 「実質同一なもの」に含まれる類型について
以下の場合は、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれる。①、③及び④は、両者の間で、特許発明の技術的特徴及び作用効果の同一性が事実上推認される類型である。

① 医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長された特許発明において、有効成分ではない「成分」に関して、対象製品が、政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合

② 公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において、対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合で、特許発明の内容に照らして、両者の間で、その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき

③ 政令処分で特定された「分量」ないし「用法、用量」に関し、数量的に意味のない程度の差異しかない場合

④ 政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法、用量」も併せてみれば、同一であると認められる場合
4. 先発医薬品への依拠性との関係について
後発医薬品は、先発医薬品と治療学的に同等であるものとして製造販売が承認されるものであり、先発医薬品と代替可能な医薬品として市場に提供されることが前提であるから、そもそも医薬品としての品質において先発医薬品に依拠するものであることは当然である。しかし、これは飽くまで有効成分や治療効果(有効性、安定性を含む。)が原則として同一であるということを意味するにすぎず、特許発明の観点からその成果に依拠するかどうかを問題にしているわけではない。医薬品としての有効成分や治療効果(有効性,安定性)のみから延長された特許権の効力範囲を論じるべきではなく、少なくとも、法68条の2が、およそ後発医薬品であるが故に、すなわち、先発医薬品と同等の品質を備え、これに依拠するが故に直ちに特許権の効力を及ぼそうとする趣旨のものでないことは明らかである。裁判所は、特許発明の実施ができなかったことにより得られた成果に依拠して承認を得ていることから実質同一物に該当すると解釈すべきとの原告主張を否定した。
【コメント】

知財高裁大合議は、延長された特許権の効力が及ぶ実質同一の範囲を、「特許発明の内容との関連で、技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して判断する」との一般原則を示した。この考え方は、原審(民事第29部)(2016.03.30 「デビオファーム v. 東和薬品」 東京地裁平成27年(ワ)12414)でも言及されていた「延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして…実質同一物についての実施行為にまで及ぶと解するのが合理的である」との考え方に沿ったものと思われる(若干の言葉の違いはあるにせよ)。一方、実質同一の範囲に均等論を適用した地裁判決(民事第40部)(2016.12.02 「デビオファーム v. ホスピーラ」 東京地裁平成27年(ワ)12415)の考え方は本大合議判決により否定された。また、別の地裁判決(民事第47部)(2016.12.22 「デビオファーム v. 武田テバファーマ」 東京地裁平成27年(ワ)12412)では、「その相違が周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないと認められるなど」との一般的な考え方を示していたが、特許発明の内容と関連させて検討する観点が欠落したものであった。

今回大合議判決で説示・類型①として示されたところによれば、有効成分のみを特徴とする特許発明について延長された特許権については、当該政令処分の対象となった先発医薬品と、同有効成分を有する後発品との間でその特許発明(有効成分)の技術的特徴及び作用効果の同一性が事実上推認されることから、当該後発医薬品は実質同一なものとしてその効力が原則及ぶとの考え方が示されたといえよう。このことはすなわち、延長された有効成分特許権の効力が当該政令処分の「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」と同一物にしか及ばないと解釈されてしまうという最悪の事態は避けられたことを意味する。

一方、類型②として示されたように、いわゆる製剤発明に関する延長された特許権については、製剤発明の技術的特徴及び作用効果に照らして、当該政令処分の対象となった先発医薬品と後発医薬品との間で同一性があるのかどうかが重要なポイントとなり、事案によってその判断が異なってくると思われる。本事件においては、問題となった製剤発明の技術的特徴が極めて限定された範囲である(他の添加剤等の成分を含まない水溶液)と解釈されたため、実質同一性が否定された。しかし、だからといって、延長された製剤発明の特許権は一般的にはもはや意味のないものとなったと悲観することはないと考えられる。製剤発明の技術的特徴及び作用効果を後発医薬品が明らかに持ち合わせているような場合であれば、一部において異なる成分を付加、転換しているような場合であっても実質同一なものとして認定される余地は残されているからである。今後、延長された特許権の効力が及ぶか否かの争いは、製剤発明に関するもので多発すると思われるが、技術的特徴及び作用効果は事案毎に異なるだろうから、個別具体的に判断されていくことになると予想される。

特許発明の内容との関連で技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して実質同一性を判断するということは、すなわち、延長された複数の特許権が存在する場合、それぞれの効力は、それぞれの特許発明の技術的特徴等に応じて互いに重畳的に後発医薬品に及ぼし得ることを意味すると考えられる。今後、製剤発明に関する延長された特許権の効力はその発明の技術的特徴によって個別具体的な判断で争われるにしても、有効成分発明に関する延長された特許権の効力がこれまでどおり後発医薬品に及ぶと解されることから、今回の大合議判決は、先発医薬品メーカーにとっても妥当な内容としてとらえることができるのではないだろうか。

本審理において、一審原告から追加的主張(当該政令処分対象物の成果に依拠して承認を得ていることから実質同一物に該当するとの主張)が出され、大合議はその主張についても判断している。当ブログ記事「2016.12.02 「デビオファーム v. ホスピーラ」 東京地裁平成27年(ワ)12415」のコメントにおいて、後発医薬品の依拠性に関連して「実質的同一物」の範囲について一提案を示したが、残念ながら大合議はそのような観点での解釈を制度趣旨や解釈論を無視するものとして否定している。

参考:

Jan 16, 2017

2016.12.20 「デビオファーム v. 武田テバファーマ」 東京地裁平成27年(ワ)28467

オキサリプラチンのシュウ酸包含溶液特許は無効東京地裁平成27年(ワ)28467

「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」に関する特許権(第4430229号)を有する原告(デビオファーム)が、被告(武田テバファーマ)に対し、被告製品の生産等が特許権侵害に当たると主張して、被告製品の生産等の差止及び廃棄を求めた事案。無効理由の有無が判断の決め手となった。

請求項1:
オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,緩衝剤の量が,以下の…(略)…の範囲のモル濃度である,組成物。
裁判所(民事46部)は、被告が提出した追試結果に基づいて乙7の1公報に本件発明等のオキサリプラチン溶液組成物の記載があると認めることはできないとして新規性欠如の被告主張は認めなかったものの、オキサリプラチンの濃度を5mg/mlとする水溶液を調整してこのシュウ酸の濃度を測定することは当業者にとって容易であり、構成要件に規定されている範囲内にすることが格別困難でもなく、何らかの臨界的意義があるとは認められないとして進歩性を欠くと判断した。



また、乙7の1公報においてシュウ酸が不要な不純物とされている点は、シュウ酸を添加することを要する発明に至る上では阻害要因となるとしても、シュウ酸の添加を不要とみる以上は本件において阻害要因となるものでないと判断した。

請求棄却。

参考: