Feb 22, 2018

炭酸ランタン水和物に関する特許権について

2018年2月21日、東和薬品より「炭酸ランタン水和物に関する特許権について」の謹告文が掲載されました(参照: 日刊薬業website: 【謹告】炭酸ランタン水和物に関する特許権について

東和薬品は、2018年2月15日に、炭酸ランタン顆粒分包250mg/500mg「トーワ」の承認を取得しており、粒度を特定の範囲とする炭酸ランタンの7~9水和物に関する日本特許(第6225270号)を保有しているとのことです。

請求項1:
90%積算径(D90)が70μm以下である、La2(CO3)3・xH2O(式中、xは7~9の間の数字を示す。)で表される炭酸ランタン水和物からなる、高リン血症を治療するための医薬(ただし、懸濁剤を除く)。
先発薬はバイエルのホスレノール(一般名:炭酸ランタン水和物(Lanthanum Carbonate Hydrate)、分子式: La2(CO3)3・xH2O(x=主として4))。日本では1998年にシャイア社により第Ⅰ相臨床試験が実施され、その後、2003年にバイエルが国内における開発及び製造販売権を取得、「透析中の慢性腎不全患者における高リン血症の改善」の効能・効果でホスレノールチュアブル錠が2008年10月に、また顆粒分包が2012年に承認され、さらに2013年8月に「慢性腎臓病患者における高リン血症の改善」の効能・効果として適応拡大、ホスレノールOD錠が2017年2月に承認。再審査期間は2016年10月15日で終了。

シャイア社が保有する炭酸ランタン水和物に関する特許(第3224544号)は、特許権存続期間延長(2009-700005; 2009-700006; 処分の対象となった物: 炭酸ランタン水和物(販売名:ホスレノールチュアブル錠250mg、500mg)/処分の対象となった物について特定された用途: 透析中の慢性腎不全患者における高リン血症の改善)により存続期間満了日は2021年3月19日となっていますが、沢井製薬が特許無効審判を請求し、現在審決取消訴訟が知財高裁に係属しているようです(平29行ケ10171)。

請求項1:
高リン酸塩血症の治療のための医薬組成物であって、以下の式:La2(CO3)3・xH2O{式中、xは、3~6の値をもつ。}により表される炭酸ランタンを、医薬として許容される希釈剤又は担体と混合されて又は会合されて含む前記組成物。
謹告文からすると東和薬品はシャイア社の特許権を回避した水和物で承認を取得したと考えられます。2018年2月15日には東和薬品だけでなく多くのジェネリックメーカーがホスホレノール後発品の承認を取得していることからすると、それらメーカーは、沢井製薬と同様にシャイア社の特許無効を理由に非侵害であるとの立場であるか、東和薬品と同様にシャイア社特許を回避した水和物で承認を取得したか(であっても東和薬品特許との問題もあり得る)と思われます。

参考:

薬食審査発0616第1号(平成23年6月16日)「異なる結晶形等を有する医療用医薬品の取扱いについて」では、異なる結晶形等を有する医薬品の承認申請(審査)上の取扱いについての基本的考え方が示されている。
「結晶形又は水和物/無水物の違いは、塩違い(酸塩又は金属塩)又はエステル違いの場合と異なり、化学構造の基本的相違を伴わないことから、一般的名称が異なる場合にあっても、承認申請(審査)にあたっては、原則として、次のとおり取扱うものとする。
既承認医薬品の原薬と結晶形等が異なる原薬から成る製剤を新規に承認申請する場合には、既承認医薬品と同一の有効成分から成る製剤を申請する場合と同様に取扱うこととする。」

Feb 14, 2018

大日本住友 LATUDA®の用途特許でANDA訴訟提起

2018年2月14日付の大日本住友製薬のプレスリリースによると、大日本住友製薬は、FDAに非定型抗精神病薬「LATUDA®」(一般名:ルラシドン塩酸塩)の後発品申請(ANDA)を行ったEmcure社およびAmneal社に対し、大日本住友製薬が保有する用途特許(米国特許番号:9,815,827、2017年11月に成立)の侵害を理由として、2018年2月13日、米国子会社サノビオン社と共同で、米国ニュージャージー州連邦地裁および米国デラウェア州連邦地裁にそれぞれ特許侵害訴訟を提起したとのことです。なお、本訴訟は、LATUDA®の用途特許に基づく特許侵害訴訟であり、大日本住友製薬が保有する物質特許に基づき2015年1月に提起した特許侵害訴訟(2015年1月15日公表「大日本住友 LATUDA® ANDA訴訟提起」参照)とは異なる特許侵害訴訟であり、並行して訴訟手続は追行されるとのことです。

2018年2月14日付の大日本住友製薬の記者懇談会・社長会見資料によると、本件による大日本住友製薬の2017年度の連結業績への影響は軽微であり、2018年度以降の業績影響は現在精査中とのことです。2016年5月12日付 2015年度(平成28年3月期)決算説明会資料においては、下記のとおり、北米でのラツーダの特許切れにより、2019年度の業績は落ち込むとの見通しでした。



LATUDA®は、大日本住友製薬が創製した非定型抗精神病薬。米国では、2010年10月に成人における統合失調症治療薬として承認され、2011年2月より「LATUDA®」の販売名でサノビオン社が販売。米国においては、大日本住友製薬はサノビオン社に対して本特許の独占的実施権を許諾しています。

参考:

Feb 8, 2018

塩野義資本参加のViiVがGileadの抗HIV薬を特許侵害で提訴

2018年2月8日付の塩野義製薬のプレスリリースによると、塩野義製薬がGlaxoSmithKline社およびPfizer社とともに資本参加しているViiV社が、米国およびカナダにおけるGilead社のHIVインテグラ―ゼ阻害薬bictegravirに対する特許権侵害訴訟を提起したとのことです。米国では米国特許No.8,129,385に基づいてデラウエア地区連邦地裁に、カナダではカナダ特許No.2,606,282に基づいてトロントのカナダ連邦裁判所に訴状を提出したとのことです。ViiV社は、Gilead社のbictegravirを含む3剤合剤の抗HIV薬が、dolutegravirの特徴的な化学骨格を有するdolutegravirやその関連化合物を包含するViiV社の特許を侵害していることを証明し、損害賠償を求めていくとのことです。

Gilead社のbictegravir

ViiV社のdolutegravir

参考:

Feb 5, 2018

2018.01.22 「バイエルクロップサイエンス v. ビ-エ-エスエフ」 知財高裁平成29年(行ケ)10007

化学物質(マーカッシュ形式)に係る発明の訂正要件・実施可能要件・サポート要件・進歩性: 知財高裁平成29年(行ケ)10007

【背景】

ビ-エ-エスエフ(被告)が保有する「2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン」に関する特許(第4592183号)の無効審判請求不成立審決(無効2015-800065)の取消訴訟。審決の理由は、本件訂正を認めた上で、実施可能要件・サポート要件違反ではなく、進歩性違反でもなく、原文新規事項追加にも当たらないというもの。

訂正後【請求項1】:
(訂正により削除された部分は削除線、追加記載された部分は赤字で示す)

式Ⅰa
[但し,R1が,ニトロ,ハロゲン,シアノ,チオシアナト,C1~C6アルキル,C1~C6ハロアルキル,C1~C6アルコキシC1~C6アルキル,C2~C6アルケニル,C2~C6アルキニル,-OR3又は-S(O)nR3を表し,
R2が,水素,又はハロゲン以外のR1で述べた基の1個-S(O)nR3を表し,
R3が水素,C1~C6アルキルを表し,
nが1又は2を表し,
Qが2位に結合する式Ⅱ
[但し,R6,R7,R8,R9,R10及びR11が,それぞれ水素又はC1~C4アルキルを表し,上記CR8R9単位が,C=Oで置き換わっていても良い]
で表されるシクロヘキサン-1,3-ジオン環を表し,
X1が酸素により中断されたエチレン,プロピレン,プロぺニレンまたはプロピニレン,或いはまたは-CH2O-を表し,
Hetが,
窒素,酸素及び硫黄から選択される1~3個のヘテロ原子を有する,3~6員の部分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基,又は
下記の3個の群:窒素,酸素と少なくとも1個の窒素との組み合わせ,又は硫黄と少なくとも1個の窒素との組み合わせから選択されるヘテロ原子を3個まで有する,3~6員のヘテロ芳香族基,を表し,且つ上述のヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基は,部分的に又は完全にハロゲン化されていても,及び/又はR5で置換されていても良く,・・・

オキシラニル,2-オキセタニル,3-オキセタニル,2-テトラヒドロフラニル,3-テトラヒドロフラニル,2-テトラヒドロチエニル,2-ピロリジニル,2-テトラヒドロピラニル,2-ピロリル,5-イソオキサゾリル,2-オキサゾリル,5-オキサゾリル,2-チアゾリル,2-ピリジニル,1-メチル-5-ピラゾリル,1-ピラゾリル,3,5-ジメチル-1-ピラゾリル,または4-クロロ-1-ピラゾリルを表す
で表される2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン又はその農業上有用な塩。

【要旨】

裁判所は、原告主張の取消事由(本件訂正の可否、実施可能要件に係る判断の誤り、本件訂正発明の容易想到性に係る判断の誤り、原文新規事項追加に係る判断の誤り)はいずれも理由がないとして、原告の請求を棄却した。以下、裁判所の判断の抜粋。

取消事由1(本件訂正の可否)について
「(1)・・・すなわち,本件訂正発明は,本件発明のR1を1種類(ハロゲン),R2を1種類(-S(O)nR3),X1を2種類(酸素により中断されたエチレン鎖又は-CH2O-),Hetをヘテロシクリル基及びヘテロ芳香族基(ヘテロアリール)のうちの本件明細書に挙げられている多数の物質の中から18種類又は15種類の化合物に限定したものである。そして,本件訂正後の化学物質群は,いずれも本件訂正前の請求項に記載された各選択肢に内包されていることが明らかである。したがって,本件訂正は,特許請求の範囲を減縮するものである。また,訂正後の化学物質群は,訂正前の基本骨格(シクロヘキサン-1,3-ジオンの2位がカルボニル基を介して中央のベンゼン環に結合した構造。本件共通構造)を共通して有するものである。加えて,訂正後の化学物質群について,訂正前の化学物質群に比して顕著な作用効果を奏するとも認め難い。そうすると,選択肢を削除することによって,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではない。このように,本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とし,また,本件明細書に開示された技術的事項に新たな技術的事項を導入するものでないから,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内である。したがって,本件訂正は,特許法134条の2第9項が準用する126条5項の規定に違反しない。

・・・原告は,選択肢を削除する訂正が認められるのは,特定の選択肢の組合せを採用することが当初明細書等に記載されているといえる場合だけであり,本件明細書の【0061】は,多種多様なヘテロシクリルやヘテロ芳香族基(ヘテロアリール)を,単に「列挙」しているにすぎず,本件明細書の他の記載を参酌しても,訂正後のHetの「18個の選択肢」やそれらと特定のX1(酸素により中断されたエチレン鎖又は-CH2O-)との組合せは記載されていないことから,本件訂正は新たな技術的事項を導入するものであり,認められない,特許庁の審査基準においても同旨の考え方が採用されていると主張する。

しかし,原告がその主張の根拠とする審査基準においても,訂正の結果,残った発明特定事項で特定されるものが新たな技術的事項を導入するものであるか否かで判断すべきものとされているところ,本件訂正においては,前記(1)のとおり,新たな技術的事項は導入されていない。

・・・したがって,本件訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,新規事項の追加には当たらないから,本件訂正を認めた審決の判断に誤りはない。」
取消事由2(実施可能要件に係る判断の誤り)について
「・・・製造実施例(【0131】~【0134】)にはX1として「-CH2O-」である化合物に関するものが示されているのみで,X1が「-CH2OCH2-」である化学物質の製造に関する実施例の記載こそないものの,原料化学物質であるHO-CH2-Het(甲62,69参照)が入手できれば,上記方法Cの記載(【0050】~【0056】)も参考にしつつ,合成例の工程bに示された周知の反応と同様の合成を行うことにより,X1が「-CH2OCH2-」である化学物質も当業者が容易に合成することができるものと認められる。 そうすると,請求項1の式ⅠaにおけるX1が「-CH2O-」,「-CH2OCH2-」のいずれの場合についても,本件明細書の記載と出願時の技術常識に基づけば,当業者に通常期待し得る程度を超える試行錯誤を求めることなく,当該化学物質を製造することができるものと認められる。

・・・当業者は,本件訂正発明に係る,本件共通構造を有する2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物を【0136】~【0140】に記載の使用実施例に従って施用すれば,従来技術から除草剤の有効成分とされる2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物と同様に課題を解決できることを理解することができるから,実際に除草試験を行った結果の記載の有無にかかわらず,過度の試行錯誤を要することなく,本件訂正発明に係る新規化学物質を除草剤として使用することができる。

・・・原告は,実施可能要件を満たすためには,実際に試験を行い,その試験結果から,当業者にその有用性が認識できることを必要であって,通常,一つ以上の代表的な実施例が必要である,また,用途発明であれば,通常,用途を裏付ける実施例が必要であると主張する。
しかし,前記イのとおり,本件共通構造を有する2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物は,除草作用を有し,除草剤の有効成分として有用であることが従来から知られていたことからすれば,本件共通構造を有する2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物であれば,同様の効果を奏するものと推認できるから,本件訂正発明については,改めて試験を行うまでもなく,有用性が認められるというべきである。また,本件訂正発明は,除草剤の有効成分の化学物質に係る発明であるから,いわゆる用途発明には当たらないし,用途発明に準じて実施例が必要であるということもできない。」
取消事由3(サポ-ト要件に係る判断の誤り)について
「特許請求の範囲の記載が,明細書のサポ-ト要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。発明の課題は,原則として,発明の詳細な説明の記載から把握すべきであるところ,一般に,化学物質に関する発明の課題は,新規かつ有用な化学物質を提供することにあるものと考えられる。

・・・また,サポ-ト要件を満足するために,発明の詳細な説明において発明の効果に関する実験デ-タの記載が必ず要求されるものではない。特に本件訂正発明は,新規な化学物質に関する発明であるから,医薬や農薬といった物の用途発明のように具体的な実験デ-タ,例えば,具体的な除草活性の開示まで求めることは相当でない。

・・・本件訂正明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて,本件訂正発明に係る化学物質が,従来技術の除草剤の有効成分と同様に課題を解決できることを推認することができるのであるから,被告が出願後に行った実験成績証明書の参照の有無にかかわらず,発明の詳細な説明に具体的な実験デ-タがないことをもってサポ-ト要件違反とする,原告の主張を採用することはできない。

・・・原告は,本件共通構造をもった化合物であれば必ず除草活性を示すという技術常識はなく(甲99),また,本件訂正発明がサポ-ト要件を満足するとの根拠(化学構造上の共通性)として本件審決が示した従来技術(引用例1ないし4)は限られた先行技術であって,当業者の技術常識とはいえない旨主張する。
しかし,2-ベンゾイルシクロヘキサン-1,3-ジオン化合物(本件共通構造を有する化合物群)が除草活性を示すことが従来から知られていることについては,本件明細書【0003】~【0006】に記載されているとおりである。そうすると,発明の詳細な説明において,請求項に係る発明が発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているものと認めるのが相当である。また,甲99に示された化合物番号55など,仮に,本件訂正発明に係る一般式と共通構造を有する化学物質に,特定のある植物に対して除草活性を示さないものが含まれるとしても,前記3(3)ウ(イ)のとおり,共通構造を有する化学物質が除草活性を示すことを推認できる以上,本件訂正発明に係る化学物質のうち実際に除草活性を示さない態様を確認し,これを除くように請求項を記載しなければ,サポ-ト要件を満たさないと解することは相当でない。」
取消事由4(本件訂正発明の容易想到性に係る判断の誤り)について
引用発明1(特開平8-20554)
「本件訂正発明1と引用発明1との間には,本件審決が認定したとおりの相違点1及び2が認められる。

・・・相違点1は,本件訂正発明1は,R2が,-S(O)nR3であるのに対し,引用発明1においては・・・クロロ(塩素)である点である。
引用例1では,シクロヘキサンジオン化合物のベンゼン環の3位に直鎖状の基が結合している化合物(従来技術である比較薬剤AないしD)に対して,同位置に置換フェニル基を導入することにより優れた除草効果を奏することを見いだしている。そして,引用例1においては,上記ベンゼン環の4位(本件訂正発明のR2に相当)に結合する基は塩素に固定されていることから,ベンゼン環の4位にアルキルスルホニル基(-S(O)nR3)である化合物が開示された引用例2を参酌しても,引用発明1の上記4位の塩素基をアルキルスルホニル基に変更する動機付けはない。

引用発明2(特開平7-206808)
原告は,引用例2には,引用発明2が,ベンゼン環の4位に引用発明1と同様に塩素基が結合した(ただし,同3位の置換基は引用発明1と相違する。)比較薬剤Cよりも除草活性に優れること等が記載されていることから,引用発明1の同4位の塩素基を,引用発明2の同4位のアルキルスルホニル基(-S(O)nR3)に置換する動機付けがあると主張する(下図参照)。


しかし,引用例2における比較薬剤C及びAは,ベンゼン環の3位の置換基が引用発明1よりも除草活性の劣る,引用発明1の従来技術の置換基と同じであり,引用発明2との関係においても,引用発明2よりも除草活性の劣るものとして開示されているのであるから,引用発明1の同4位の塩素基をアルキルスルホニル基(-S(O)nR3)に置換することによって優れた除草効果が期待される等の動機を見いだすことはできない。
したがって,引用例2の比較薬剤の記載から,引用発明1のベンゼン環の4位の置換基の変更を想起することはできない。以上のとおり,相違点1は,容易に想到することができない。

・・・相違点2は,本件訂正発明1は,Hetが,・・・2-テトラヒドロフラニル・・・であるのに対し,引用発明1においては,対応する基が,特定の基Xを0,1又は2個有するフェニル基である点である。
・・・引用例2ないし4のいずれにも前記相違点2に係る特定のHetのいずれかについての開示はない。また,引用例2ないし4のいずれにも,ベンゼン環の3位を特定のヘテロ環オキシメチルとすることは記載されておらず,3位の基としてヘテロ環を有する構造が少数記載されているものの,・・・ヘテロ環の連結基は本件訂正発明1におけるX1とは異なる。したがって,引用発明1に,引用例2ないし4に記載された発明を組み合わせても,3位の構造が,本件訂正発明1に係る特定のヘテロ環オキシメチル(-CH2O-Het)構造を有する化学物質を得ることはできない。そうすると,引用発明1に,引用例2ないし4に記載されている事項を組み合わせても,引用発明1に係る化合物におけるベンゼン環の3位の置換基が本件訂正発明1に係る特定のHet構造とはならない。そして,上記組合せによって得られる化合物について,引用発明1の特定のHet構造(相違点2)に置換する動機付けがあるともいえない。

以上のとおり,本件訂正発明1は,引用発明1及び引用例2ないし4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。」
取消事由5(原文新規事項追加に係る判断の誤り)について
「本件訂正後の明細書に記載されているX1の定義は,国際出願日における国際出願の明細書に記載した事項の範囲内であるから,取消事由5に理由はない。」
【コメント】

1.マーカッシュ形式における選択肢を削除する補正・訂正の許容性について

本件判決によれば、訂正が明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではないと判断されるためには、特許請求の範囲を減縮するものであることを前提として、以下の2点が満たされれば十分のようである。
  • 訂正後の化学物質群は、訂正前の基本骨格を共通して有するものであること
  • 訂正後の化学物質群について、訂正前の化学物質群に比して顕著な作用効果を奏するとも認め難いこと
化学物質群のクレームについてのマーカッシュ形式における置換基等の選択肢を削除する補正・訂正(言い換えれば、選択肢の新しい組合せをつくる補正・訂正)は、かなり緩やかに許容されるということになる。しかし、今回の審決・判決により、明細書中の記載の備えが不要になったわけではない。補正要件・訂正要件に疑義がないようにしておくことは将来にわたり無用な争点を作らないためにも重要であるし、欧州含めた海外での補正・訂正の許容性を考えるのであれば、特定の選択肢の組合せを念入りに明細書に記載しておくことは依然として熟考すべきであろう。

2.化学物質に係る発明の実施可能要件・サポート要件について

化学物質に係る発明において、明細書の記載と出願時の技術常識に基づいて、当業者が、通常期待し得る程度を超える試行錯誤を求めることなく当該化学物質を製造することができ且つ課題を解決できる(使用することができる)ことを理解することができるのであれば、実施可能要件を満たすために実際に発明の効果確認のための試験結果の記載が必ずしも必要というわけではない。この点は、実施例及び発明の効果に関する実験デ-タの記載が原則必要とされる用途発明と区別される。

サポート要件については、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断されるべきものであるところ、一般に、化学物質に係る発明の課題は新規かつ有用な化学物質を提供することにあるから、サポート要件を満たすためには当該化学物質が課題を解決できることを推認することができれば足り、用途発明のように具体的な発明の効果に関する実験デ-タの開示までは求められない。

実施可能要件及びサポート要件における実施例及び発明の効果に関する実験デ-タの明細書記載の必要性について、化学物質に係る発明と用途発明とでは区別されることが示された。懸念点は、第三者の出願として極端に広いマーカッシュ形式の化学物質に係る発明が開示されたとき、その範囲全体にわたりfreedom-to-operationにリスク度が増す方向として留意しなければならないこと、また、その範囲全体にわたり化学物質の引用発明としての適格性が増したことに留意しなければならないことである。本件判決において、マーカッシュ形式における選択肢を削除する補正・訂正の許容性が欧州に比べ明らかに緩やかである(言い換えれば、マーカッシュ形式のクレームの補正・訂正の自由度が比較的高い)方向に判断されたことも踏まえれば、上記点はその懸念を増したといえるのではないだろうか。

3.発明の容易想到性に係る判断の誤り

本件訂正発明1と引用発明1との相違点1である置換基部位にことさら着目することの動機づけは引用例1の記載に存在せず、従って、引用発明1と他の引用例の記載を参酌して組合せる動機付けもなく、本件訂正発明に容易に想到することはできないと判断された。機械的に引用発明どうしの組合せまたは後知恵的な組合せは排除されるべきである。

4.別件訴訟

ビーエーエスエフとバイエルクロップサイエンスとは特許権侵害訴訟でも争っており、東京地裁も特許権者であるビーエーエスエフの請求を認め、本件特許は有効であり、バイエルクロップサイエンスの製品(テフリルトリオン)は侵害であると判断した(2017.12.25 「ビ-エ-エスエフ v. バイエルクロップサイエンス」 東京地裁平成27年(ワ)2862
)。

テフリルトリオン

Jan 30, 2018

テリパラチド酢酸塩に関する特許権について

旭化成ファーマ(株)は、ヒト副甲状腺ホルモン(PTH)の活性部分である N 端側の 1-34 ペプチド断片であるテリパラチド(Teriparatide)酢酸塩を有効成分とする週 1 回皮下投与の骨粗鬆症治療剤「テリボン(TERIBONE)®皮下注用56.5μg」を製造販売しています(再審査期間は、2011年9月26日~2017年9月25日(6年))。旭化成(株)の2017年度第2四半期決算説明資料(2017年11月7日)によるとテリボンの国内売上高2017年度見込みは271億円。

2018年1月29日付の「【謹告】テリパラチド酢酸塩に関する特許権について」によれば、旭化成ファーマ(株)は、テリパラチド酢酸塩を有効成分とする骨粗鬆症治療ないし予防剤に関する特許権(日本特許第6150846号、日本特許第6043008号、日本特許第6198346号)、テリパラチド酢酸塩を有効成分とする凍結乾燥製剤に関する特許権(日本特許第5922833号、日本特許第5960935号、日本特許第5996824号、日本特許第6031633号、日本特許第6057492号)およびテリパラチド酢酸塩を有効成分とする凍結乾燥製剤の製造方法に関する特許権(日本特許第6025881号、日本特許第6258426号)を保有しており、これら特許権は有効に存続しているとのことです。

上記特許権(日本特許第6150846号、日本特許第6043008号、日本特許第6198346号)は元をたどると特願2011-530844(再表2011/030774; WO2011/030774)を原出願とするものです。この特願2011-530844については、拒絶審決取消訴訟(2016.11.28 「旭化成ファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成27年(行ケ)10241)で新規性・進歩性が争われた経緯があります。

また、上記凍結乾燥製剤に関する特許権は、類縁物質の種類と含有量が特徴である発明となっています。

参考:

Jan 23, 2018

田辺三菱 エダラボン点滴静注バッグ 特許侵害訴訟を取下げ

2018年1月23日付の田辺三菱製薬プレスリリースによると、田辺三菱製薬は、フリーラジカルスカベンジャー「ラジカット®点滴静注バッグ30mg」の後発医薬品を販売する日新製薬に対して、2017年3月10日付で東京地裁にプラスチック容器に関する特許権に基づく侵害差止等請求訴訟を提起していましたが、協議の結果、容器本体の材質変更前の日新製薬の製品について、本特許権の取扱いに関して円満解決に至り、1月19日付で本訴訟の取下げを行ったとのことです。

なお、田辺三菱製薬は、「ラジカット®点滴静注バッグ30mg」の後発医薬品を販売する他の複数の会社とも、本特許権の取扱いに関して協議の結果、既に合意しており、また、交渉継続中の同製品の後発医薬品を販売する会社とも侵害問題の解決をめざしていくとのことです。

「ラジカット®点滴静注バッグ30mg」は、田辺三菱製薬が創製したフリーラジカル消去作用を有するエダラボン(edaravone)を有効成分とする薬剤。効能効果は「脳梗塞急性期に伴う神経症候、日常生活動作障害、機能障害の改善」及び「筋萎縮性側索硬化症(ALS)における機能障害の進行抑制」。アンプル製剤であった「ラジカット注 30mg」は使用時に適当量の生理食塩液等で用時希釈する必要があったことから、より利便性の高いバッグ製剤として「ラジカット点滴静注バッグ 30mg」の開発が行われ、2010年1月に承認、2010年5月より販売が開始された。

参考:

Jan 21, 2018

2018.01.15 「日産化学 v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10278

ピタバスタチン結晶多形の請求項記載をめぐる補正要件・分割要件判断: 知財高裁平成28年(行ケ)10278

【背景】

日産化学が保有する「ピタバスタチンカルシウムの新規な結晶質形態」に関する特許(第5702494号)の異議申立てについて一部請求項に係る特許取消決定(異議2015-700094)の取消訴訟。本件特許(第5702494号)は、分割出願によるものであり、本件出願時の請求項1で特定される結晶多形Aから、いわゆる親出願(第1出願)で成立した特許(特許第5192147号)発明(構成要件Eで特定される結晶多形A)を除く補正を経て成立していた。

本件取消決定の理由は、
  • 当該構成要件Eを追加した補正が新規事項の追加であること
  • サポート要件・実施可能要件を満たさないこと
  • 直近の親出願(第3出願)当初明細書等にはX線粉末回析において26個偏差内相対強度図形を示す結晶多形Aしか記載されていなかったから、6個のピーク及び1個のピークの不存在で結晶多形Aを特定する本件発明1は、第3出願当初明細書等に記載された事項の範囲を拡大するもの(分割出願要件違反)であり、結果、原出願日が認められないことにより新規性・進歩性違反であること
であった。

請求項1(下線は構成要件Eを示す):
2θで表して,5.0±0.2°,6.8±0.2°,9.1±0.2°,13.7±0.2°,20.8±0.2°,24.2±0.2°に特徴的なピークを有し,20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない,特徴的なX線粉末回折図形を示し,FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9~15%である(但し,10.5~10.7%(w/w)の水を含むものを除く),(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。
但し,2θで表して,5.0±0.2°(s),6.8±0.2°(s),9.1±0.2°(s),10.0±0.2°(w),10.5±0.2°(m),11.0±0.2°(m),13.3±0.2°(vw),13.7±0.2°(s),14.0±0.2°(w),14.7±0.2°(w),15.9±0.2°(vw),16.9±0.2°(w),17.1±0.2°(vw),18.4±0.2°(m),19.1±0.2°(w),20.8±0.2°(vs),21.1±0.2°(m),21.6±0.2°(m),22.9±0.2°
(m),23.7±0.2°(m),24.2±0.2°(s),25.2±0.2°(w),27.1±0.2°(m),29.6±0.2°(vw),30.2±0.2°(w),34.0±0.2°(w)[ここで,(vs)は,非常に強い強度を意味し,(s)は,強い強度を意味し,(m)は,中間の強度を意味し,(w)は,弱い強度を意味し,(vw)は,非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し,FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3~15%であるものを除く。
本件特許までの分割経緯:
  • 【第1出願】PCT/EP2004/050066(2004.02.02出願)/WO2004/072040(2004.08.26公開)/特願2006-501997号/特表2006-518354(2006.08.10公開)⇒特許第5192147号(2013.02.08登録)
  • ⇒分割【第2出願】:特願2011-127696号(2011.06.07出願)/特開2011-201915(2011.10.13公開)⇒出願取下
  • ⇒分割【第3出願】:特願2013-264348号(2013.12.20出願)/特開2014-055185(2014.03.27公開)⇒出願取下
  • ⇒分割【本件出願】:特願2014-155001号(2014.07.30出願)(本件出願)/特開2014-198743(2014.10.23公開)⇒特許第5702494号(2015.02.27登録)(本件特許)

【要旨】

主 文
1 特許庁が異議2015-700094号事件について平成28年11月18日にした決定のうち,特許第5702494号の請求項2,4,6及び9に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。
裁判所の判断

裁判所は、取消事由1(本件補正が新規事項の追加に当たるとした判断の誤り)並びに取消事由2及び3(サポート要件の判断の誤り及び実施可能要件の判断の誤り)はいずれも理由があるとして特許庁によるこれら部分の取消決定を否定したが、取消事由5(引用発明2又は2’に基づく進歩性の判断の誤り)は理由がないとして特許庁による取消決定を支持。結果、本件決定のうち、請求項1、3、5、7及び10ないし13に係る本件特許を取り消した部分に誤りはなく、請求項2、4、6及び9に係る本件特許を取り消した部分は誤りであると判断した。

以下、請求項1についての取消事由1における新規事項の追加の該当性及び取消事由5における分割要件充足性と進歩性判断に関する部分についての判断を抜粋。

1.取消事由1(本件補正が新規事項の追加に当たるとした判断の誤り)について
「明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法17条の2第3項),補正が,当業者によって,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものということができる。・・・本件出願当初明細書等の記載を総合すれば,構成要件Eで特定される結晶多形Aだけではなく,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定される結晶多形Aも,導くことができるから,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】で特定される結晶多形Aから,構成要件Eで特定される結晶多形Aを除くものを,本件出願当初明細書等の全ての記載を総合することにより導くことができるというべきである。したがって,本件出願時の特許請求の範囲【請求項1】に,構成要件Eを追加する本件補正は,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。」
2.取消事由5(引用発明2又は2’に基づく進歩性の判断の誤り)について
「分割出願が適法であるための実体的要件としては,①もとの出願の明細書,特許請求の範囲の記載又は図面に二以上の発明が包含されていたこと,②新たな出願に係る発明はもとの出願の明細書,特許請求の範囲の記載又は図面に記載された発明の一部であること,③新たな出願に係る発明は,もとの出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内であることを要する。なお,本件出願が第1出願の出願時にしたものとみなされるためには,本件出願,第3出願及び第2出願が,それぞれ,もとの出願との関係で,上記分割の要件①ないし③を満たさなければならない。」

「・・・本件発明1は,2θで表して,5.0±0.2°,6.8±0.2°,9.1±0.2°,13.7±0.2°,20.8±0.2°,24.2±0.2°に特徴的なピークを有し,20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない,特徴的なX線粉末回折図形を示すこと等により特定されるピタバスタチンカルシウムの結晶多形であるところ,第3出願当初明細書等には,結晶多形Aとして,このような結晶多形は記載されておらず,結晶多形Aと名付けられた結晶多形以外の結晶多形としても,このような結晶多形が記載されているということはできない。したがって,本件発明1は,第3出願当初明細書等に記載された事項の範囲内にあるということはできず,前記分割の要件③は満たさない。・・・26個無偏差相対強度図形のうち,比較的相対強度の強い6個においてピークを確認できる結晶多形が,第3出願当初明細書等に開示された結晶多形Aであると同定できたとしても,第3出願当初明細書等において開示された結晶多形Aは,26個無偏差相対強度図形のうち,比較的相対強度の強い6個においてピークを確認できる結晶多形ではない。・・・したがって,本件発明1に係る本件出願は,第3出願の一部を新たに特許出願とするものではないから,その出願日は平成26年7月30日となる。したがって,引用例2は,本件出願の出願日前に頒布された刊行物である。」

「・・・引用発明2は,引用例2【0136】に記載された白色結晶性粉末であるところ,当該段落には,当該白色結晶性粉末の製造方法が記載されているから,当業者であれば,引用例2【0136】に記載された白色結晶性粉末の製造方法に基づく追試を行うことは容易に想到し得るものである。そして,同記載の条件を基に夏苅英昭博士が行った実験(以下「本件実験」という。)により得られた白色粉末は,本件発明1の構成要件A,D及びEに含まれるものであったと認められる(甲36,37)。・・・引用発明2に接した当業者であれば,引用例2【0136】に記載された白色結晶性粉末の製造方法に基づく追試を,技術常識を参酌することにより適宜設定可能な範囲で実験条件を加えて行うことは,容易に想到し得るものであり,その結果得られた白色粉末は,本件発明1の構成要件A,D及びEに含まれる。・・・以上によれば,引用発明2に接した当業者であれば,引用例2【0136】に記載された白色結晶性粉末の製造方法において,乾燥条件を適宜設定することにより,引用発明2の含水量を,構成要件Bの範囲内の含水量とすることは容易に想到し得る。・・・以上によれば,本件発明1は,引用発明2及び技術常識に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。」

【コメント】

1.本件特許出願の親特許(第5192147号)について

本件特許出願の親出願(第1出願)は特許第5192147号として成立しており(2013.02.08登録)、「2013.08.28 謹告 ピタバスタチンカルシウムに関する特許権について」においても言及されていた。沢井製薬からの無効審判請求を受けたが、請求不成立との審決に至っていた(無効2013-800212)ため、特許権者である日産化学がジェネリック会社に対して権利行使を試みたのかどうかは明らかでないが、現状としてはジェネリックが多数参入しており、ジェネリック参入阻止には有効でなかったと思われる。

特許第5192147号の請求項1:
2θで表して、5.0(s)、6.8(s)、9.1(s)、10.0(w)、10.5(m)、11.0(m)、13.3(vw)、13.7(s)、14.0(w)、14.7(w)、15.9(vw)、16.9(w)、17.1(vw)、18.4(m)、19.1(w)、20.8(vs)、21.1(m)、21.6(m)、22.9(m)、23.7(m)、24.2(s)、25.2(w)、27.1(m)、29.6(vw)、30.2(w)、34.0(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3~12%である、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。
2.本件特許の請求項1がその記載となった背景

その後、分割出願を重ねて本件出願は、上記親出願特許発明との重複(構成要件Eで特定される結晶多形A)を除く補正を経て成立したわけであるが、日産化学は上記親特許の請求項1の記載に比べて若干の工夫を試みたようである。ひとつは、特徴的なピークを6つのみとすることで結晶形の粉末X線回折ピークの本数を減らしたこと(この点が本件事件で分割要件違反として問題となった・・・)、もうひとつは、回折角の数値にそれぞれ±0.2°の誤差を許容させたことである。これらの記載の工夫は、下記特許侵害訴訟事件からの教訓によるものと想像される。下記事件は同じくピタバスタチンカルシウム塩の結晶多形特許発明についてその技術的範囲の属否判断が争われた事件であり、裁判所は、請求項の記載に基づいて、発明の構成要件を充足するためには15本のピークの全ての回折角の数値が小数点第2位まで一致することを要し、その全部又は一部が一致しない被告ピタバスタチンカルシウム塩の結晶はその技術的範囲に属するということができないものと解するのが相当である、と判断した。すなわち、問題点は、請求項に係る結晶形の粉末X線回折ピークの本数が多すぎたこととそれらの回折角の数値を特定しすぎていたことだったわけである。日産化学としては、これら判決の教訓から、本件親特許の請求項1が26本のピークとそれぞれ誤差範囲のない回折角による特定が特許発明の技術的範囲を狭めすぎてしまっていたことに懸念を抱いたのだろう。その後の分割出願(本件特許)にて特許発明の技術的範囲を広げようと6本のピークとそれぞれ誤差範囲を許容する回折角により特定した請求項での成立を目指した、そして特許査定を得ることに一旦は成功したわけである。

3.補正が新規事項の追加に該当するかどうかの判断について

一見、本件出願時の請求項1で特定される結晶多形A(6本ピーク特定)から構成要件Eで特定される結晶多形A(26本ピーク特定)を除いた後に残る発明としての結晶は何なのか、実体のない「結晶多形A」が残ってしまうのではとも思ってしまう。しかし、そもそも親出願特許請求の範囲を6本ピークで特定できるように成立させていればよかったわけで、26本ピークで特定するという狭すぎた親出願特許請求の範囲を本件特許で広い範囲まで取り直そうとした、というだけのことであり、形式的には、本件出願当初明細書には、本件出願時の請求項1で特定される結晶多形A(6本ピーク特定)も、構成要件Eで特定される結晶多形A(26本ピーク特定)も記載されていたため、本件出願時の請求項1で特定される結晶多形A(6本ピーク特定)から構成要件Eで特定される結晶多形A(26本ピーク特定)を除くものを導くことが出来るとした裁判所の判断は正しいように思える。

4.分割要件の充足の有無の判断について

本件出願明細書の記載において、第3出願明細書には記載されていなかった6本ピークで特定できるような結晶多形Aを書き加えて請求項としたことが仇となった。補正(または分割)の可能性を考え、出願当初明細書の記載をどれだけ充実させておくかということは極めて重要である。分割要件を充足しないことにより本件特許の出願日が2014年7月30日となるのであれば、本件特許出願の親出願である第1出願、第2出願、第3出願のそれぞれの出願公開に記載された発明自体が引用発明ともなるだろう。

参考: ピタバスタチン結晶の特許性について補正要件違反及び分割要件違反が問題となった過去事件:

Jan 9, 2018

サンド・協和発酵キリンのリツキシマブ・バイオシミラーに対する用途特許侵害訴訟に中外・全薬工業が参加

2018年1月9日付プレスリリースによると、中外製薬は、抗CD20モノクローナル抗体「リツキサン®注10mg/mL」について、同製品のバイオ後続品の製造販売者であるサンドおよび販売者である協和発酵キリンに対し、バイオジェン社が保有する3件の用途特許の侵害を理由としてジェネンテック社(本特許権の専用実施権者)が2017年12月28日付で東京地裁に提起したバイオ後続品の販売等の差し止めを求める訴訟に、全薬工業とともに補助参加の申出を行ったとのことです(全薬工業は本剤の独占的販売権者、中外製薬は本剤の全薬工業との共同販売権者)。また、中外製薬は、本訴訟に併せてなされた仮処分命令の申立てについても、補助参加の申出を行ったとのことです。

リツキサン(Rituxan)®は、マウス/ヒトキメラ型抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブ(Rituximab)(遺伝子組換え)を有効成分とするバイオ医薬品。アイデック社(現 バイオジェン・アイデック社)にて、Bリンパ球表面の分化抗原CD20に対するマウス型モノクローナル抗体の可変部領域と、ヒト免疫グロブリン(IgG1κ)の定常部領域を有するマウス-ヒトキメラ型抗CD20モノクローナル抗体の開発が進められ、1991年、リツキシマブ(遺伝子組換え)が創薬されました。1995年3月、アイデック社はジェネンテック社と共同開発契約を締結、1997年11月には米国FDAより承認を受け、日本では、1995年11月に全薬工業が開発及び輸入販売契約を締結、2001年6月にCD20陽性の低悪性度又はろ胞性B細胞性非ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫の治療薬として承認を受けました。

現在、効能又は効果は下記の通り。
  • CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫
  • 免疫抑制状態下のCD20陽性のB細胞性リンパ増殖性疾患
  • ヴェゲナ肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎
  • 難治性のネフローゼ症候群(頻回再発型あるいはステロイド依存性を示す場合)
  • 慢性特発性血小板減少性紫斑病
  • 下記のABO血液型不適合移植における抗体関連型拒絶反応の抑制
    腎移植、肝移植
  • インジウム(111In)イブリツモマブ チウキセタン(遺伝子組換え)注射液及びイットリウム(90Y)イブリ ツモマブ チウキセタン(遺伝子組換え)注射液投与の前投与

被疑侵害品であるリツキシマブBS点滴静注100mg/500mg「KHK」は2017年9月27日に製造販売承認され、同年11月29日に薬価基準収載されています。
効能又は効果は下記の通り。
  • CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫
  • 免疫抑制状態下のCD20陽性のB細胞性リンパ増殖性疾患
  • ヴェゲナ肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎

参考:

Dec 27, 2017

2017年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。

(1) 先発医薬品メーカー同士の主導権争い

2017年、日本においては、均等の成否の判断における第5要件(特段の事情)の判断基準について示された最高裁判決(2017.03.24 「マキサカルシトール事件(均等の第5要件)」 最高裁平成28年(受)1242)や延長された特許権の効力範囲とその類型が示された知財高裁大合議判決(2017.01.20 「デビオファーム v. 東和薬品」 知財高裁平成28年(ネ)10046)など、先発医薬品メーカーと後発品メーカーとの特許係争における大きな判決がありました。

一方で、先発医薬品メーカー同士の日本を含めた世界的な特許係争の進展も2017年では顕著だったように思います。

特許権侵害という違法行為に対して差止請求権を行使することは特許権者の正当な権利です。しかし、差止請求権行使によって抗癌剤や抗エイズ薬のような患者の生命に極めて関わるような代替性の無い新薬を市場から排除することが患者の利益を害しはしないかという観点から裁判所の判断や特許権者である各製薬メーカーの態度が気になっていました。

2017年初めには、抗PD-1抗体であるオプジーボ(Opdivo)®(有効成分はニボルマブ、nivolumab)を販売する小野薬品・BMS社と、同じ抗PD-1抗体であるキイトルーダ(Keytruda)®(有効成分はペムブロリズマブ、pembrolizumab)を販売するMSD社との間で起きていた世界的な特許係争は和解という形で決着しました。小野薬品とBMS社は、MSD社によるキイトルーダの販売を阻止するつもりはないとして実施料の請求を主張していました。

HIVインテグラーゼ阻害薬であるテビケイ(Tivicay)®(有効成分はドルテグラビル、dolutegravir)を販売するViiV社に資本参加している塩野義製薬と、同じHIVインテグラーゼ阻害薬であるアイセントレス(Isentress)®(有効成分はラルテグラビル、raltegravir)を販売するMSD社との間で起きていた世界的な特許係争が大きく進展しました。塩野義はMSD社に対して金銭的な請求の他、アイセントレスの販売差止も請求しました。しかし、ドイツでは裁判所がMSDに塩野義特許の強制実施権を認め、その後も欧州特許庁において塩野義欧州特許は無効と判断されたため、差止・損害賠償を求めて塩野義が提訴していたドイツ、英国、オランダ、フランスでの訴訟も塩野義の敗訴判決が出される見込みとのプレスリリースが出されました。日本においても塩野義特許は無効理由の存在により権利行使できないとして塩野義によるアイセントレスの差止・廃棄請求を棄却する東京地差判決が12月に出されたところです。

(2) 2017年、医薬系"特許的"な判決を賑わせた製品は・・・
抗悪性腫瘍剤エルプラット(Elplat)®(一般名:オキサリプラチン(Oxaliplatin))でした。


オキサリプラチンに関する別々の特許係争(主に特許発明の技術的範囲について争われたいわゆる「解離シュウ酸事件」と延長された特許権の効力について争われたいわゆる「水溶液事件」)において知財高裁判決が出され、昨年に引き続き、この一年話題となりました。

オキサリプラチン(Oxaliplatin)は白金錯体系抗悪性腫瘍剤。本剤はDebiopharm 社(スイス)がライセンスを保有しており、欧米における開発・販売権はSanofi-Aventis社が保有している(商品名: ELOXATIN)。日本における開発・販売権はヤクルトが取得し、商品名エルプラット(ELPLAT)として製造販売しています。2010年6月には水溶性製剤(点滴静注液)を発売し、既存の凍結乾燥製剤(注射用)からの切り替えを行っています。

ブログで取り上げたオキサリプラチン(Oxaliplatin)に関する記事等はこちら


(3) 過去の「医薬系"特許的"な判決を振り返る。」
  • 「2016年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2015年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2014年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2013年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2012年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2011年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2010年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2009年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら
  • 「2008年、医薬系"特許的"な判決を振り返る。」はこちら


Dec 24, 2017

2017.11.30 「明治 v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10279

優先権主張を伴う特許出願において手続を履行しなかったために新規性喪失の例外適用を受けることができないとされた事件知財高裁平成28年(行ケ)10279

【背景】

「NK細胞活性化剤」に関する特許出願(特願2013-55183; 特開2013-173746)の拒絶査定不服審判請求に対する不成立審決(不服2015-10465号)の取消訴訟。争点は、いわゆる基礎出願においては特許法30条4項の手続を履践したものの、優先権主張を伴う特許出願においては同手続を履践していないときには、同条1項の規定(新規性喪失の例外)の適用を受けることができないとした判断の誤りの有無である。

請求項1:
酸性多糖類を有効成分として含有することを特徴とするNK細胞活性化剤。
【要旨】

裁判所は、
「国内優先権主張出願に係る発明(基礎出願の当初明細書等に記載された発明を含む。)について,平成23年改正前特許法30条1項の適用を受けるためには,同条4項所定の手続的要件として,所定期間内に4項書面及び4項証明書を提出することが必要であり,基礎出願において提出した4項書面及び4項証明書を提出したことをもって,これに代えることはできないというべきである。」

「基礎出願Xにおいて,平成23年改正前特許法30条4項所定の手続が履践されているものの,これを基礎出願とする国内優先権主張出願である出願Aにおいて,同項所定の手続が履践されていないから,出願Aの分割出願である本願の原出願をさらに分割出願した本願は,刊行物Aについて同条1項の適用を受けることはできず,本願発明は,刊行物Aに記載された発明であるか,同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」
と判断した。請求棄却。

【コメント】

本件特許出願(本願)は分割出願であり、本事件で問題となった優先権出張を伴う出願A(特願2004-203601)自体はクレームを補正して登録に至っている(特許5177728)。

特許5177728の請求項1:
「L. bulgaricus OLL1073R-1およびS. thermophilus OLS3059をスターター菌として製造する、NK細胞活性化作用を有する発酵乳。」
この特許5177728は、明治プロビオヨーグルトR-1を保護する特許のようである。
  • 特願2004-203601(出願A)⇒登録 特許5177728
  • 分割(第1世代)特願2010-230889⇒登録 特許5744462
  • 分割(第2世代)特願2013-055183(本願)⇒拒絶査定⇒拒絶審決⇒審決取消訴訟請求棄却(本事件)
  • 分割(第3世代)特願2016-146787⇒拒絶査定