Nov 12, 2017

2017.09.28 「レオ ファーマ v. 中外製薬・マルホ」 東京地裁平成28年(ワ)14131

マーデュオックス®軟膏の差止請求訴訟東京地裁平成28年(ワ)14131

【背景】

原告(レオ ファーマ)が保有する「医薬組成物」に関する特許権(第5886999号)を侵害すると主張して、被告ら(製造販売元である中外製薬及び販売会社であるマルホ)に対して被告物件(尋常性乾癬治療剤「マーデュオックス®軟膏」)の生産等の差止め及び廃棄を求めた事案。

請求項1:
ヒトまたは他の哺乳動物において乾癬を処置するための皮膚用の非水性医薬組成物であって,マキサカルシトールからなる第1の薬理学的活性成分A,およびベタメタゾンまたは薬学的に受容可能なそのエステルからなる第2の薬理学的活性成分B,ならびに少なくとも1つの薬学的に受容可能なキャリア,溶媒または希釈剤を含む,医薬組成物。
請求項11:
ヒトの乾癬を処置するための,請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物
請求項12:
医学的有効量で1日1回局所適用される,請求項11に記載の組成物
【要旨】

本件発明12は本件優先日における公知文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、そして、本件発明12に従属している他のいずれの発明も同様に当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、本件発明1ないし4、11及び12に係る本件特許には、特許法29条2項違反の無効理由があるから、原告は上記各発明に係る本件特許権を行使することができない。よってその余の点について検討するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。請求棄却。

相違点に係る容易想到性についての判決抜粋:
「乙15発明は,「ヒトにおいて乾癬を処置するために皮膚に塗布するための混合物であって,1α,24-dihydroxycholecalciferol(タカルシトール),およびBMV(ベタメタゾン吉草酸エステル),ならびにワセリンとを含有する非水性混合物であり,皮膚に1日2回塗布するもの」というものである。そして,乙16及び17に開示されているように,本件優先日において,乾癬治療剤としてのマキサカルシトールの軟膏が既に知られていたのであるから,当業者であれば,乾癬を処置するための混合物である乙15発明において,ビタミンD3の類似体からなるタカルシトールに代えて,同じくビタミンD3の類似体からなるマキサカルシトールを使用する程度のことは,容易に想到できることというべきである。

・・・乙24及び25に開示されているように,本件優先日において,タカルシトール軟膏が1日1回の用法で乾癬処置に使用されることも既に知られていたのであるし,そもそも塗布方式(1日1回か,2回か)の検討は,治療効果の向上や,副作用の低減等の観点から,当業者が適宜行うことにすぎないことであるから,当業者であれば,乙15発明において,塗布の回数を1日1回とする程度のことは,容易に想到できることというべきである。」
相違点に係る顕著な作用効果についての判決抜粋:
「・・・乙15に開示されている治療効果は,本件明細書に開示された本件発明12における有効な斑治癒の効果と実質的に変わらないというべきである。
なお,原告は,本件発明12の治療効果に関して,甲10及び甲11を提出するが,これらが頒布されたのは本件優先日以降であるから,本件明細書に開示された範囲を超えてこれらに基づく効果を本件発明12の進歩性の判断において参酌することは許されない。

・・・少なくとも,原告が主張するような効果,すなわち,混合物を適用する場合,1日の適用回数を減らしても優れた効果が得られることを,本件明細書の記載から読み取ることはできないから,そのような効果を本件発明12の進歩性の判断において考慮することはできない(まして,原告が指摘する甲11に示されるようなサイトカイン分泌の相乗的抑制効果については,かかるメカニズムは本件明細書には一切記載されていないから,そのような効果を本件発明12の進歩性の判断において参酌することは許されない。)。」
【コメント】

明細書に開示された範囲を超える効果や記載から読み取ることはできない効果を、進歩性の判断において参酌することは許されない。本事件では、控訴人が提出した論文(甲10)は参酌されなかった。発明の効果が顕著かどうかについての結論はよいとしても、効果に関する主張として提出された論文が参酌されなかった点については、理由が明らかでない。優先日?(出願日の間違いでは?)以降に頒布されたものだから参酌されなかったのか、明細書に開示された範囲を超えていたから参酌されなかったのか(判決文を見る限り、控訴人は新たな効果を主張しているようには感じられないが・・・)。顕著でないとの結論に変わりはないから説明を省略したということはないと思うが、進歩性における効果の顕著性を主張する際に後出しデータが参酌されるかどうかは両当事者にとって極めて重要なポイントとなることから、判決には丁寧な理由付けを示していただきたい。

マーデュオックス®軟膏(Marduox® Ointment)は活性型ビタミンD3外用剤であるマキサカルシトール(Maxacalcitol)軟膏の有効成分Maxacalcitolとvery strongクラスのステロイド外用剤であるベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル(BBP)軟膏の有効成分BBPをそれぞれ承認製剤濃度で配合した尋常性乾癬治療外用剤である。

参考:

ところで、本件特許の実施例として記載されているカルシポトリオール(Calcipotriol)とベタメタゾンジプロピオネート(Betamethasone Dipropionate)を含む軟膏に直接関連すると思われる製品は、レオファーマが製造販売元・協和発酵キリンが販売元となっている尋常性乾癬治療剤ドボベット®軟膏(Dovobet® Ointment)。

ドボベット®軟膏(Dovobet® Ointment)は、活性型ビタミンD3誘導体であるカルシポトリオール水和物52.2μg/g(カルシポトリオールとして50.0μg/g)と副腎皮質ホルモンであるベタメタゾンジプロピオン酸エステル0.643mg/gを含有する配合剤であり、レオ ファーマで開発され、日本では2014年7月に承認された。ドボベット®軟膏の配合成分であるカルシポトリオール(無水物)は「ドボネックス®軟膏 50μg/g」として、ベタメタゾンジプロピオン酸エステルは「リンデロン®‐DP 軟膏」として市販されている。

参考:
国内において、尋常性乾癬の適応を有する活性型ビタミンD3誘導体とステロイドの配合剤という点で、マーデュオックス®軟膏(Marduox® Ointment)(中外・マルホ)とドボベット®軟膏(Dovobet® Ointment)(レオ ファーマ・協和発酵キリン)は競合関係にある。

本件特許は第1の薬理学的活性成分Aがマキサカルシトールに限定されたものとして登録されたが、もともと本件出願は特願2013-014098(特開2013-075923)の分割出願であり、さらにその原出願は特願2008-191182(特開2008-297309、特許5721926)の分割出願であり、さらにその原出願は特願2000-613441(WO2000/064450、特表2002-542293、特許4426729)の分割出願であった。特許4426729は、第1の薬理学的活性成分Aとしてカルシポトリオール、第2の薬理学的活性成分Bとしてベタメタゾンに限定されたものとして登録され、ドボベット®軟膏で存続期間延長登録もされている(延長登録出願番号2014-700172、存続期間満了日2023.12.04)。特許5721926は、溶媒成分C等の限定下ではあるが第1の薬理学的活性成分Aも第2の薬理学的活性成分Bも一定の範囲で登録されている(存続期間満了日2020.01.27。存続期間延長登録出願情報なし)。


Nov 6, 2017

The 10th Anniversary

「医薬系"特許的"判例」ブログをこのドメイン(tokkyoteki.com)で2007年11月6日に再スタートしてから10年が経ちました。この10年間、ブログへのページビューで特に顕著なピークを認めた記事を一日当たりのページビューのグラフとともに振り返りました。この10年、特許期間延長登録制度の運用は判決に振り回され、今だに法的安定性を欠いた不透明な状況が続いています。10年とは長いようで短いですね。


① 特67条の3第1項1号の解釈と特68条の2の解釈 -特許存続期間延長登録制度のこれまでの運用が見直される契機となった判決
② 2009.07.16 「第5回 特許権の存続期間の延長制度検討ワーキング・グループ開催」

③ レボフロキサシン訴訟 全面終結

④ アクトス(ACTOS)併用の進歩性判断における効果の格別顕著性
⑤ 武田薬品 特許権の存続期間の延長登録出願 最高裁判決
⑥ 2011.09.09 「アリセプトの高度アルツハイマー型認知症に係る特許期間延長訴訟 最高裁が上告棄却」

⑦ プロダクト・バイ・プロセス・クレームの発明の要旨認定及び特許発明の技術的範囲
⑧ 2012.09.27 アクトス併用療法 特許侵害訴訟 大阪地裁判決

⑨ アバスチン®(有効成分 ベバシズマブ) 特許権の期間延長の拒絶審決取消請求事件 知財高裁 大合議事件に指定

⑩ 特許権存続期間延長登録出願の登録要件について知財高裁大合議判決
⑪ プロダクト・バイ・プロセス・クレームの発明の要旨認定及び特許発明の技術的範囲は物同一説で判断、明確性要件に一定のハードル
⑫ 特許権の存続期間の延長登録出願の登録要件についての最高裁判決(アバスチン事件)
⑬ マキサカルシトール製法特許の均等侵害事件を知財高裁が大合議事件に指定

⑭ デビオファームがエルプラット® (オキサリプラチン)後発品販売の日本化薬に対して特許侵害訴訟で勝訴

⑮ 小野薬品がMSD「キイトルーダ」を抗PD-1抗体特許侵害で提訴

⑯ 延長された特許権の効力(知財高裁大合議判決)
⑰ 均等の第5要件(特段の事情)の判断基準(マキサカルシトール事件)

そして、この10年間のページビューtop 10記事は下記のとおりでした(total 677,676ページビューのうち、トップページへのアクセス分の243,324ページビューは差し引く)。

1位(5,065ページビュー)
2011.04.28 「特許庁長官 v. 武田薬品」 最高裁平成21(行ヒ)326
2位(4,187ページビュー)
イーライリリー エビスタ®の用途特許の無効審決の取り消し求め審決取消訴訟を提起
3位(4,167ページビュー)
2011.12.05 「フリバンセリン事件」特許庁審決 不服2006-027319号事件
4位(4,154ページビュー)
2009.05.29 「武田薬品 v. 特許庁長官」 知財高裁平成20年(行ケ)10458
5位(4,066ページビュー)
2011.03.22 「沢井製薬 v. 武田薬品」 特許無効審判事件 2010-800087, 2010-800088
6位(3,990ページビュー)
2012.10.05 「サノフィ アレグラ®後発医薬品に対する侵害訴訟提起」
7位(3,476ページビュー)
小野薬品・BMSがMerckを抗PD-1抗体特許侵害で提訴
8位(3,441ページビュー)
抗PD-1抗体を巡る特許訴訟~小野/BMS(オプジーボ; Opdivo) vs Merck(キートルーダ; Keytruda)
9位(3,393ページビュー)
アリセプト®の特許権存続期間延長登録
10位(2,994ページビュー)
オキサリプラチンに関する特許権について

また、これまでコメント頂いた記事はこちら(リンク)。各記事のタイトルをクリックして記事ごとにご覧頂くか、記事下のタブ"comment"をクリックして頂ければ、各記事にお寄せくださったコメントを見ることができます。

貴重なコメントをお寄せくださった方々、メールにて直接ご質問・ご指摘等のコメントをお寄せくださった方々には御礼申し上げます。
今後とも末永くよろしくお願いいたします。





Oct 29, 2017

2017.09.11 「三菱ケミカル v. 理研ビタミン」 知財高裁平成28年(行ケ)10056

進歩性判断の考慮要素にできる顕著な効果の明細書記載: 知財高裁平成28年(行ケ)10056

【背景】

原告(三菱ケミカル)が保有する「コーヒー飲料」に関する特許権(第5252873)の無効審決(無効2014-800165)取消訴訟。争点は進歩性における顕著な効果に関する判断。原告は、「本件発明1には,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」が弱いという効果があり,その効果は,TPの含有とマンナン分解酵素処理との組合せにより発現するものであって,甲4発明(TPを含有するものの,マンナン分解酵素処理が行われていないもの)と比較して当業者が予測できない顕著な効果であるといえるから,本件発明1が有する顕著な効果を否定し,その容易想到性を認めた本件審決の判断は誤りである」旨主張した。

【要旨】

裁判所は、本件発明1について甲4発明と比較して当業者が予測できない顕著な効果があるとする原告らの主張は理由がなく、したがって、本件発明1に甲4発明と比較した顕著な効果があることを否定し、これを前提に本件発明1は甲4発明と甲1ないし3記載の事項に基づいて容易に想到し得るものであるとした本件審決の判断に誤りはない、と判断した。請求棄却。以下、裁判所判断の抜粋。
「・・・甲4発明において相違点3に係る本件発明1の構成とすることが,その構成という観点からは当業者が容易に想到し得たものといえることは,上記アのとおりであるが,その場合でも,本件発明1に引用発明(甲4発明)と比較した有利な効果が認められ,それが本件特許の優先日当時の技術水準から当業者が予測し得る範囲を超えた顕著な効果といえる場合には,本件発明1の進歩性を認める余地があるものといえる。ただし,先願主義を採用し,発明の公開の代償として特許権(独占権)を付与するという特許制度の趣旨に鑑みれば,上記のような顕著な効果は,明細書にその記載があるか,又は,明細書の記載から当業者がその効果を推論できるものでない限り,進歩性判断の考慮要素とすることはできないというべきである。

・・・この点,コーヒー飲料の風味とマンナン分解酵素処理との関係を確認するのであれば,マンナン分解酵素処理されたコーヒー抽出物にTPを加えたミルクコーヒー(実施例1及び2)とマンナン分解酵素処理がされていないコーヒー抽出物にTPを加えたミルクコーヒー(本件明細書の比較例1(段落【0054】))との風味の比較が行われてしかるべきところ,本件明細書には,このような比較が行われたことを示す記載はない。また,マンナン分解酵素処理を行ったコーヒー抽出液を用いたコーヒー飲料に係る公知文献(甲1ないし3)をみても,当該処理がコーヒーの風味に与える影響についての記載はなく,技術常識に照らしても,当該処理を行うことによるコーヒー飲料の風味への影響を推測することは困難といえる。
してみると,原告らが本件発明1の顕著な効果であると主張する「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みは弱い」との風味に係る効果が,TPの含有とマンナン分解酵素処理を組み合わせることにより発現するものであることについては,本件明細書にその旨の記載はなく,本件明細書の記載から当業者がこれを推論することができるともいえないから,上記効果をもって,本件発明1が有する甲4発明(TPを含有するものの,マンナン分解酵素処理が行われていないもの)と比較した有利な効果として認めることはできないというべきである。

・・・原告らは,本件訴訟提起後に自らが実施し,又は第三者機関に実施させた官能評価試験の結果を証拠として提出し,これらによって,本件発明1の「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みは弱い」との効果がTPの含有とマンナン分解酵素処理の組合せにより発現するものであることが確認できる旨を主張する。しかしながら,前記のとおり,引用発明と比較した有利な効果が発明の進歩性判断の考慮要素となり得るのは,当該効果が明細書に記載され,又は,明細書の記載から当業者がこれを推論できる場合に限られるところ,本件明細書の記載からは,本件発明1の「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みは弱い」との効果を甲4発明と比較した有利な効果として認めることができないことは,上記(ア)bで述べたとおりである。これに対し,原告らの上記主張は,本件明細書の記載を離れ,事後的に実施した官能評価試験の結果に基づいて,本件発明1が甲4発明と比較した有利な効果を有する旨を述べようとするものであって,そもそも失当というべきである。」
【コメント】

引用発明と比較した有利な効果が発明の進歩性判断の考慮要素となり得るのは、当該"比較した有利な"効果が明細書に記載され、又は、明細書の記載から当業者がこれを推論できる場合に限られるとして、明細書記載からは、本願発明効果を"引用発明と比較した有利な効果として"認めることができなとした判決。

裁判所は、念のため、原告が事後的に主張した官能性評価試験結果を検討しているが、技術常識によれば統計学的な有意差を認めるためのn数が足りないこと等を理由にそれら試験結果から有利な効果を確認できると断ずることはできないと判断した。

日本における進歩性の判断において、引用発明と比較した有利な効果が参酌されるためには、(1)「引用発明と比較」という観点、及び、(2)いわゆる「後出しデータ」の許容性という観点があり、出願当初明細書にどのような記載が具体的に必要とされるのかについては特許法上規定されていないが、"進歩性のための明細書記載要件"なるものは存在している。2010.07.15 「P&G v. 特許庁長官」 知財高裁平成21年(行ケ)10238にて裁判所は「出願人が出願当時には将来にどのような引用発明と比較検討されるのかを知り得ないこと,審判体等がどのような理由を述べるか知り得ないこと等に照らすならば,出願人に過度な負担を強いることになり,実験結果に基づく客観的な検証の機会を失わせ,前記公平の理念にもとる」と言及し、当初明細書に定量的な効果比較の記載をあらかじめ要求する特許庁の主張を公平の観点から否定している。

本事案では、「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みがある」との本願発明の効果は記載されていたが、明細書に記載された比較の相手が進歩性に求められる比較相手ではなかったわけであり、出願人に過度な負担を強いる方向の判決であったように思える。硬直的な進歩性のための明細書記載要件へ進なないことを望む。これまでの具体的な事例として参考になりそうな判決(特に医薬に関する判決)はこちら

Oct 28, 2017

田辺三菱 タリオン®後発品薬価収載希望書提出したジェネリックメーカーに対する特許侵害差止仮処分命令申立てを取下げ

田辺三菱製薬の2017年10月26日付プレスリリースによると、田辺三菱は、ベポタスチンベシル酸塩を有効成分とするアレルギー性疾患治療剤「タリオン®」について、同製品の後発品薬価収載希望書を提出した東和薬品、シオノケミカルおよび大興製薬に対して、田辺三菱が保有する物質特許等の侵害行為の差止めを求める仮処分命令の申立てを2017年9月15日付で東京地裁および大阪地裁にそれぞれ行っていましたが、今般、各社との協議の結果、円満解決に至ったとのことで、田辺三菱は10月25日付で両地裁に本仮処分命令の申立ての取下げを行ったとのことです。

参考:
過去記事:

Oct 22, 2017

2017.08.29 「ロート製薬 v. 特許庁長官」 知財高裁平成28年(行ケ)10162

コンタクトレンズ装着液及び装用中点眼液の両方の用途知財高裁平成28年(行ケ)10162

【背景】

「眼科用組成物」に関する特許出願(特願2013-89552; 特開2013-139485)の拒絶審決(不服2015-4779)取消訴訟。本件審決の理由は、本願発明は引用例(同出願人による特開2006-241085)に記載された発明(引用発明)並びに周知例1及び周知例2に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというもの。

本願発明(請求項1):
(A)セルロース系高分子化合物,ビニル系高分子化合物,ポリエチレングリコール及びデキストランからなる群より選択される1種以上,及び(B)テルペノイドを含有するコンタクトレンズ用装着点眼液であって,
同一の組成でコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いられる,コンタクトレンズ用装着点眼液。
引用発明:
カルボキシメチルセルロースナトリウムとテルペノイドを含有する眼科用組成物
本願発明と引用発明との一致点及び相違点:
(ア) 一致点
(A)セルロース系高分子化合物,ビニル系高分子化合物,ポリエチレングリコール及びデキストランからなる群より選択される1種以上,及び(B)テルペノイドを含有する眼科用組成物

(イ) 相違点
本願発明は,眼科用組成物が「コンタクトレンズ用装着点眼液」であって,「同一の組成でコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いられる」ものであるのに対し,引用発明においては単に「眼科用組成物」としている点
【要旨】

請求棄却。以下、裁判所の判断の抜粋。

1. 周知技術について
「周知例1,周知例2及び乙1は,同一の眼科用組成物を,コンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いることについて,具体的な実施例を前提にしたり(乙1),具体的な用法をもって説明したり(周知例1,乙1),個別の用途だけではなく,両方の用途に用いることも可能であることを明示したりしつつ(周知例2),開示している。・・・よって,同一の組成でコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いられる眼科用組成物は,本願優先日当時の周知技術であったということができる(以下,この周知技術を「本件周知技術」という。)。」
2. 本件周知技術の適用について
「引用発明と本件周知技術の技術分野は共通し,引用発明と本件周知技術が前提とする発明の作用機能も共通している上,眼科用組成物について,コンタクトレンズ装着液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分と,コンタクトレンズ装用中の点眼液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分に差異がないことが知られている。
そして,眼科用組成物において,同一の組成をコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いることにより利便性を向上させることは,引用発明も当然に有する自明の課題であるから,当業者は,本願発明と同様に利便性を向上させるために,引用発明に本件周知技術を組み合わせることを試みるというべきである。
よって,引用発明に本件周知技術を組み合わせる動機付けがあるということができる。」

「確かに,引用例には,引用発明に係る眼科用組成物を,コンタクトレンズ装着液として用いた実施例2(【表4】)と,人工涙液型点眼薬(コンタクトレンズ装用中の点眼液)として用いた実施例7~9(【表7】)とが別々に記載されており,同一の組成でコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いられる眼科用組成物が具体的に記載されているとはいえない。
しかし,前記ウのとおり,コンタクトレンズ装着液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分と,コンタクトレンズ装用中の点眼液として用いる場合の配合可能成分及び配合不可成分に差異がないことは,本願優先日において,技術常識であったものである。主薬成分か佐薬成分かによって,成分の含有量などに影響が及ぶことがあったとしても,配合可能成分及び配合不可成分に影響が及ぶものでもない。
したがって,引用例に接した当業者において,同一の組成でコンタクトレンズ装着液及びコンタクトレンズ装用中の点眼液の両方の用途に用いられる眼科用組成物が想定できなかったということはできない。」
3. 顕著な効果の有無について
「本願発明は,ドライスポットの総面積,涙液安定性,並びに収斂感,清涼感及び乾燥感という使用感において優れるという効果を有するものである(試験1~3)。
これに対し,・・・引用発明は,コンタクトレンズ表面や角膜表面の濡れを持続させ潤いを保つことができ,使用感に優れ,ドライアイなどの粘膜が乾燥状態を呈する疾患や症状の予防や改善に効果を有するものである。そして,濡れの改善は涙液の安定性に関連があること(乙3),涙液安定性に優れていれば,ドライスポットの総面積の割合が小さくなること(乙4),「清涼感の好み」はテルペノイドの量に依存すること(甲11)が,それぞれ認められる。そうすると,引用発明の眼科用組成物が,ドライスポットの総面積,涙液安定性,並びに清涼感及び乾燥感などの使用感において優れた効果を奏するであろうことは当業者が予測できたものということができる。
(イ) なお,・・・本願明細書には,本願発明について,フリッカー値改善率が増大し(試験4),コントラスト感度が改善される(試験5)という効果を有する旨記載されている。しかし,・・・試験4及び試験5の結果は,A成分とB成分を含有する眼科用組成物を同一の組成で両方の用途に用いることによって奏せられる本願発明の効果,すなわち,コンタクトレンズ装着液としてのみ用いた場合と比較して奏せられる効果,及びコンタクトレンズ装用中の点眼液としてのみ用いた場合と比較して奏せられる効果の双方を示すものとはいえない。」
【コメント】

裁判所は、当業者が引用発明に本件周知技術を組み合わせることを試みるというべきであるかどうかについて、技術分野の共通性、作用機能の共通性、技術常識、本願発明が解決する課題が引用発明も当然に有する自明の課題かどうか、を検討し、結果、動機づけがあり、また、示されている顕著も予測可能なものであるとして、本願発明は進歩性を有しないと判断した。

引用発明である特願2005-59757(特開2006-241085)は本件出願人ロート自らが出願したもの。出願日が2005.3.3、公開日が2006.9.14、優先権主張はせず、INPADOC family searchによれば日本以外の出願はしていない。

本願(特願2013-89552; 特開2013-139485)は、もともと特願2009-532212(WO2009-035034、日本以外に米国、中国、香港に出願されている(INPADOC family searchによる))の分割出願であり、このいわゆる親出願では下記請求項1で特許登録(特許5525816)されている。
【請求項1】
(A)セルロース系高分子化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコール及びデキストランからなる群より選択される1種以上、(B)テルペノイド及び(C)非イオン性界面活性剤を含有する、コンタクトレンズ用装着点眼液であって、
(1)コンタクトレンズ装着時に該コンタクトレンズ用装着点眼液を直接コンタクトレンズに滴下し、コンタクトレンズの両面もしくは片面を濡らし、
(2)該コンタクトレンズを目に装着し、
(3)該コンタクトレンズ装用中に(1)で用いたものと同一処方からなるコンタクトレンズ用装着点眼液を点眼する
ことにより、目の乾きもしくはドライアイを抑制すること、または疲れ目もしくはコントラスト感度を改善することを特徴とするコンタクトレンズ用装着点眼液。
本願からは、特願2014-016418(特開2014-098013)及び特願2015-034892(特開2015-127329)として分割出願がなされたがいずれも拒絶査定となり、その後さらに分割出願(特願2016-117964(特開2016-190860))でつないできたが、現在、拒絶理由通知を受けた段階となっている。

Oct 14, 2017

塩野義 欧州特許は無効、メルク社のラルテグラビルに対する差止訴訟敗訴へ

2017年10月13日付け塩野義製薬のプレスリリース(メルク社とのHIVインテグラーゼ阻害薬に関する欧州特許庁審判部での係争について)によると、塩野義が保有するHIVインテグラーゼ阻害薬に関する欧州特許(EP1422218)につき、2017年10月11日、欧州特許庁審判部が、メルク社の主張を認め、当該欧州特許が無効である旨の審決(T1150/15)を出したとのことです。

当該欧州特許についてはメルク社が異議を申立てていましたが、2015年に欧州特許庁異議部が特許有効である旨の審決を出したため、メルク社がその審決を不服として不服申立を行っていました。

現在、塩野義は、当該欧州特許を利用してアイセントレス(Isentress)®(有効成分はラルテグラビルカリウム(raltegravir potassium))を販売するメルク社に対して、ドイツ、英国、オランダ、フランスで差止・損害賠償を求め提訴していますが、これらの国の訴訟でも、当該審決を受けて敗訴判決が出される見込みとのことです。

販売されている抗HIV薬アイセントレスの差止を求め、塩野義がメルク社を各国で提訴しましたが、結局、塩野義特許は無効である(MSDのアイセントレス®(ラルテグラビル) 英国特許訴訟で塩野義が敗訴)か、販売差止を認めない判決(アイセントレスを販売するMSDに塩野義特許の強制実施権が認められる(ドイツ))が出されており、欧州特許も無効審決という塩野義にとっては望ましくない結果となりました。

日本特許(第5207392号)については、メルク社が請求項1ないし3について特許無効審判を請求し特許庁は塩野義による訂正を認めた上で請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする審決を下しました(無効2015-800226)。現在は知財高裁に審決取消訴訟が提起されています(平成29年(行ケ)10172)。

参考:
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Oct 12, 2017

興和による東和リバロ後発品の製造販売差止請求で東京地裁が容認判決

2017年10月11日の興和のプレスリリースによると、興和は東和薬品に対し、興和が保有する高コレステロール血症治療剤「リバロ錠」(一般名:ピタバスタチンカルシウム)」の医薬特許(特許第5190159号)の侵害を理由として、同社が製造販売する「リバロ」の後発医薬品である『ピタバスタチンCa・OD 錠 4mg「トーワ」』の製造販売の差し止めを求める訴訟を東京地裁に提起していましたが、2017年9月29日付で、興和の請求を全面的に認める判決が言い渡されたとのことです。

参考:
ピタバスタチンCa・OD 錠 4mg「トーワ」の組成:
1錠中の有効成分
日局 ピタバスタチンカルシウム水和物
(ピタバスタチンカルシウムとして4mg)

添加物
D-マンニトール、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、メタケイ酸アルミン酸Mg、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、タルク、黄色三二酸化鉄、酸化チタン、アスパルテーム(L-フェニルアラニン化合物)、香料、ステアリン酸Mg、その他3成分
特許第5190159号:
請求項1
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;
を含有し、かつ、水分含量が2.9質量%以下である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。

請求項6
次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;
を含有し、かつ、水分含量が2.9質量%以下である固形製剤。
J-PlatPatの経過情報を見る限り、特許無効審判は請求されていない。

    Oct 8, 2017

    2017.08.08 「FONTEC R&D v. サラヤ」 知財高裁平成28年(行ケ)10269

    数値限定発明のサポート要件: 知財高裁平成28年(行ケ)10269

    被告(サラヤ)が保有する「高純度羅漢果配糖体を含有する甘味料組成物」に関する特許第3502587号の特許無効審判請求に対する一部無効・一部不成立審決のうち一部不成立部分の取消訴訟。争点は、サポート要件判断の誤りの有無。請求棄却。

    本件発明:
    甘味料組成物を調製するための羅漢果エキスであって,モグロサイドⅤ,モグロサイドⅠⅤ,11-オキソ-モグロサイドⅤおよびシアメノサイドⅠの合計含有量が,35重量%以上である,羅漢果エキス。
    原告は、
    「本件明細書に接した当業者は,本件4成分のうち1成分のみを含有する実施例2及び実験例1は,本件発明の実施例ではなく,成分の単離に関する記述と認識するにすぎず,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の構成を満たすサンプルとして,4成分合計含有量が35.10重量%,53.00重量%,60.80重量%の例が記載されているにすぎないから,4成分合計含有量が「35重量%以上」という本件発明の全範囲(特に4成分合計含有量が60.80重量%を超えるもの)まで,これを拡張又は一般化することはできない。」
    などと主張した。

    裁判所は、平成17年(行ケ)10042号「偏光フィルムの製造法」大合議判決に言及して、
    「本件明細書には,4成分合計含有量が35.10重量%~60.80重量%であるサンプルH~Jが,ショ糖の甘味質と類似した優れた甘味質を示す水溶液であることが開示されている上,4成分合計含有量が60.80重量%を超える範囲においては,本件4成分のいずれかを増加させることになるところ,前記(3)のとおり,本件4成分は,いずれも,本件味覚9要素のいずれにおいてもショ糖との乖離の程度は小さく,ショ糖と類似した優れた甘味質を有することが開示されているから,本件明細書に接した当業者は,4成分合計含有量が35重量%以上の羅漢果エキスは,ショ糖よりも少量で,ショ糖と同等の甘味強度を得ることができ,ショ糖と類似した優れた甘味質を示すものと理解することができる。
    したがって,本件特許の請求項2に記載された本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり,サポート要件に適合するものと認められる。」
    と判断した。

    参考:

    http://www.lakanto.jp/products/lakanto/


    Oct 4, 2017

    オキサリプラチン(解離シュウ酸事件)特許侵害差止訴訟 最高裁上告不受理

    日本化薬は、2015年5月8日、日本化薬が製造販売している抗悪性腫瘍剤「オキサリプラチン点滴静注液50mg『NK』」、「オキサリプラチン点滴静注液100mg『NK』」、「オキサリプラチン点滴静注液200mg『NK』」について、デビオファーム社から特許権侵害に基づく製造販売の差止訴訟を提起され、2016年3月3日の東京地裁判決(2016.03.03 「デビオファーム v. 日本化薬」 東京地裁平成27年(ワ)12416)では、日本化薬の主張が認められませんでしたが、2016年12月8日、知財高裁は、東京地裁の判決を取り消し、デビオファーム社の請求をいずれも棄却するとの判決を言い渡しました(2016.12.08 「日本化薬 v. デビオファーム」 知財高裁平成28年(ネ)10031)。

    2017年10月4日の日本化薬のpress releaseによると、この判決に対してデビオファーム社は、最高裁に上告していましたが、2017年10月3日、最高裁第三小法廷は、裁判官全員一致の意見で、デビオファーム社の上告を棄却するとともに、上告不受理決定をしたとのことです。

    参考:

    Oct 1, 2017

    2017.07.27 「 中外製薬 v. 岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ」 東京地裁平成27年(ワ)22491

    特許権侵害に当たる後発医薬品薬価収載に伴う先発医薬品の薬価引下げによる損害賠償東京地裁平成27年(ワ)22491

    【背景】

    「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」とする特許権(特許第3310301号)を第三者(コロンビア大学)と共有する原告(中外製薬)が、マキサカルシトール製剤を販売等する被告ら(岩城製薬・高田製薬・ポーラファルマ)に対し、これらの行為が上記特許権の均等侵害に当たるものであるところ、
    • 被告ら製品の販売により原告製品(オキサロール軟膏)の市場におけるシェアが下落し、損害を被ったとして、民法709条ないし特許法102条1項に基づき、被告らに対し、それぞれ損害賠償金及び遅延損害金の支払、
    • 被告ら製品の薬価収載により原告製品(オキサロール軟膏及びオキサロールローション)の薬価が下落し、その取引価格も下落したことにより、損害を被ったとして、民法709条に基づき、被告らに対し、連帯して損害賠償金及び遅延損害金の支払
    を、それぞれ求めた事案である。

    【要旨】

    先発医薬品メーカーの特許を侵害していた後発医薬品メーカーが後発医薬品を薬価収載したことと先発医薬品薬価引下げによる損害との間に因果関係が認められ、結果、原告先発医薬品メーカーによるその損害賠償請求(下記争点(4))が認められた判決である。

    主 文(他略)
    1 被告岩城製薬は,原告に対し,2億0363万2798円・・・を支払え。
    2 被告高田製薬は,原告に対し,1億1815万9458円・・・を支払え。
    3 被告ポーラファルマは,原告に対し,1億6822万3686円・・・を支払え。
    4 被告らは,原告に対し,連帯して5億7916万9686円・・・を支払え。
    裁判所の判断(抜粋)

    1 争点(1)(本件製造方法について,本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの「特段の事情」の有無)について
    「乙A10にはトランス体のビタミンD構造を出発物質とすることを内容とする本件発明と同一の構成の発明が記載されているとは認められず,被告らの上記主張は前提を欠くものであるから,原告が,本件特許出願の際に,本件製造方法(トランス体のビタミンD構造を出発物質とするマキサカルシトールの製造方法)を特許請求の範囲から意識的に除外したものに当たるなどの特段の事情が存するとはいえない。・・・本件製法方法は本件発明の構成と均等であるものと認められる。」
    2 争点(2)(原告が本件特許権の共有者の1人であることに関し,原告が被告らに対して損害賠償請求できる範囲)について
    「原告は,自らが有する本件特許権の持分2分の1に基づき,特許権侵害に係る逸失利益の損害賠償請求権を有しているほか,・・・コロンビア大学の共有持分2分の1について独占的通常実施権を有するから,被告らによる本件特許権侵害は,原告に対する上記独占的通常実施権の積極的債権侵害に当たるといえ,原告は被告らに対し,同侵害行為による逸失利益の損害賠償を請求することができる。・・・なお,原告・コロンビア大学間の本件ライセンス契約においては,・・・既に原告が被告らに対して訴訟を提起した本件において,コロンビア大学が,別途,被告らに対して損害賠償請求し,被告らがコロンビア大学に二重払いしなければならないリスクがあるとは解されない。・・・以上によれば,原告は,被告らに対し,本件特許権の侵害によって被った損害(独占的通常実施権者として受けた損害も含む。)の全額について賠償を請求し得る。」
    3 争点(3)(外用ビタミンD3製剤の市場でのオキサロール軟膏のシェア喪失による原告の損害額)について
    「被告らは,オキサロール軟膏には複数の競合品(ボンアルファ,ボンアルファハイ,ドボネックス)があるところ,被告製品は,その性能が上記各競合品と同等であることに加え,安価であるため,原告製品だけでなく,上記各競合品のシェアをも奪ったものであるとし,上記各競合品は,乾癬の治療薬としての外用ビタミンD3製剤の市場において42%のシェアを有しているから,42%分について推定を覆滅すべきである,と主張する。
    確かに,・・・ボンアルファ,ボンアルファハイ及びドボネックスは,いずれもオキサロール軟膏の競合品であって,被告製品は,オキサロール軟膏だけでなく,上記各競合品のシェアをも一定程度奪っていたものと認められる。・・・他方で,・・・オキサロール軟膏や被告製品,上記各競合品は,いずれも医師の処方箋を必要とする薬品であり,・・・オキサロール軟膏から被告製品に変更する場合と比較すると,上記各競合品から被告製品に変更するのは容易ではないというべきであって,上記各競合品(ボンアルファ,ボンアルファハイ,ドボネックス)が,乾癬の治療薬としての外用ビタミンD3製剤の市場で42%程度のシェアを有していたとしても,被告製品が同シェアをそのまま代替したものとは到底認められない。以上の諸事情を総合的に考慮すると,被告製品は,上記各競合品のシェアを一定程度奪ったものとして,特許法102条1項本文による推定が覆滅される割合を10%と認定するのが相当である。以上を前提とすると,前記(2)で計算した金額につき,10%分を控除した後の金額が,シェア喪失による原告の損害額となる。なお,民法709条のみに基づく請求についても,特許法102条1項に基づき計算した額を超える損害額は認められない。」
    4 争点(4)(原告製品の取引価格下落による原告の損害額)について
    「原告は,新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度によって,被告製品が薬価収載されるまでは,現に原告製品について薬価の維持という利益を得ていたところ,後発品である被告製品が薬価収載されたことにより,平成26年4月1日に原告製品の薬価が下落したものである。この薬価の下落は被告製品の薬価収載の結果であり,本件特許権の侵害品に当たる被告製品が薬価収載されなければ,原告製品の薬価は下落しなかったものと認められるから,被告らは,被告製品の薬価収載によって原告製品の薬価下落を招いたことによる損害について賠償責任を負うべきである。被告らは,そもそも薬価の維持は保護に値する利益ではなく,厚生労働省の薬価政策による結果にすぎないとも主張するが,新薬創出・適応外薬解消等促進加算という制度が実際に存在し,しかも,同制度に基づく加算は厚生労働省が裁量で行うものではなく,所定の要件を充たす新薬であれば一律に同制度による加算を受けられる以上,これは法律上保護される利益というべきであって,被告らの上記主張は採用できない。・・・現に,後記ウのとおり,原告・マルホ間での原告製品の取引価格の下落率は,薬価の下落率とほぼ同一である。以上によれば,原告・マルホ間の取引価格の下落分は,その全てが被告製品の薬価収載と相当因果関係のある損害と認められる。」
    5 争点(5)(被告らの過失の有無)について
    「被告らは,特許法103条は均等侵害を前提としておらず,均等侵害の場合に侵害者の過失を推定することは,立法趣旨にも反するから,均等侵害の場合に同条は適用されない旨主張する。しかしながら,均等侵害も特許権侵害に当たることに変わりはないところ,特許法103条は「他人の特許権…を侵害した者は,その侵害の行為について過失があったものと推定する。」と規定し,文言侵害と均等侵害とを何ら区別していないし,同条について均等侵害が成立する場合にその適用が排除されることを裏付けるような立法趣旨を認めるに足りる証拠もないから,本件のような均等侵害の事案においても,特許法103条が適用され,被告らの過失が推定されるものと解すべきである。」
    6 争点(6)(過失相殺の成否)について
    「本件全証拠によっても,被告らについて過失の推定を覆滅させるような事情が存在するとは認めるに足りず,被告らの主張は採用できない。」
    7 争点(7)(特許法102条4項後段の適用の有無)について
    「被告らは,本件において被告らには故意・重過失がない上,原告が特許出願時に容易にクレームに記載し得る技術をクレームに記載しなかった以上,特許法102条4項後段を適用して損害額を減額すべき旨主張する。しかし,前記5のとおり,被告らは,いずれも医薬品の製造販売等を業としているのであるから,その販売する医薬品の特許権侵害については高度の注意義務を負うというべきところ,被告製品の販売前に,本件特許の内容や本件製造方法が本件特許権を侵害する可能性について慎重に検討したならば,本件製造方法が本件発明の構成と均等であると判断される可能性について十分認識可能であったこと,前記6のとおり,原告に特許請求の範囲の記載について過失があったとまでは認められないこと等を考慮すれば,本件において,特許法102条4項後段を適用して原告の損害額を減額すべきほどの事情は見当たらず,被告らの上記主張は採用できない。」
    【コメント】

    注目すべき点は、後発品3社による侵害品の販売によって、中外製薬のオキサロール軟膏の販売が失われたことによる損害についての後発品3社の賠償責任を認めただけでなく、オキサロール軟膏及びオキサロールローションの薬価加算分の引き下げについて後発品3社の賠償責任も認められた点。2017年7月27日付の中外製薬のニュースリリース(「オキサロール®軟膏製法特許侵害に対する損害賠償請求訴訟の判決に関するお知らせ」)によると、薬価算定において新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象だった中外製薬のオキサロール軟膏及びオキサロールローションは、オキサロール軟膏の後発品の参入により、本来の時期より早く加算分の引き下げが行われた。本件は、薬価加算分の引き下げに起因して先発医薬品企業に生じた損害について判断された初めての事例とのこと。

    後発医薬品メーカーは、特許侵害判断される可能性が残されている段階で、たとえそれが物質特許や用途特許ではなく製法特許のような特許であったとしても、薬価収載して販売に踏み切ることには、今回のような薬価引下げ分の損害賠償という金銭的なリスクも伴い得る、ということが判決上でも明らかとなったといえる。

    過去に、セフゾン(Cefzon、一般名:セフジニル(Cefdinir)、経口用セフェム系製剤)の特許侵害訴訟に勝訴したアステラス製薬が、大洋薬品に対して、セフゾン特許存続期間中に大洋薬品がした後発品薬価申請行為が不法行為であるとしてセフゾンの2006年4月の薬価改定時の特例引下げ(通常改定に加えて8%の追加引下げ)分を逸失利益とする損害賠償を請求した訴訟はあった(2008.03.05 「アステラス v. 大洋薬品 セフゾン訴訟和解へ」; アステラス プレスリリース: 2007.08.09 経口用セフェム系製剤「セフゾン®」の損害賠償請求提訴のお知らせ)。しかし、この事件は、大洋薬品がアステラス製薬へ和解金を支払うことなどを内容とする和解契約を締結したことで一連の係争は終結しており(アステラス プレスリリース: 2008.03.05 大洋薬品工業との経口用セフェム系製剤「セフゾン®」に関する訴訟等の和解のお知らせ)、特許権侵害に当たる後発医薬品薬価収載に伴う先発医薬品の薬価引下げによる損害賠償請求を認めるという判決に至ったケースはこれまでなかった。

    参考: