「医薬系"特許的"判例」ブログでは、最近の日本における医薬特許判決、特に医薬特許のライフサイクル最大化に関する側面についてコメントしています。
Iyakukei-"Tokkyoteki"-Hanrei blog provides comments about recent pharmaceutical patent cases in Japan, especially aspects relating to maximizing pharmaceutical patent life cycles.
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2008/05/11
「医薬系"特許的"判例」ブログ 2008年4月の検索ワード/フレーズ/コメント
2008/04/21
2007.10.10 「USPTO Publishes Examination Guidelines for Determining Obviousness」
USPTO Publishes Examination Guidelines for Determining Obviousness in Light of the Supreme Court’s KSR v Teleflex Decision
KSR事件における最高裁判決を受けて、USPTOは自明性判断の審査ガイドラインを公表しました。このガイドラインでは、発明が自明であるとする理論的根拠として下記項目を列挙しています。III. Rationales To Support Rejections Under 35 U.S.C. 103
なかでも注目すべきは、(E) "Obvious to try"において、下記の医薬品に関する判決が例示されている点です。現時点では、これら事件で下された論理が、医薬品における"塩の発明"及び"製剤の発明"が"Obvious to try"により自明であるか否かを判断するための道しるべであると言えるでしょう。
Rationales
(A) Combining prior art elements according to known methods to yield predictable results;
(B) Simple substitution of one known element for another to obtain predictable results;
(C) Use of known technique to improve similar devices (methods, or products) in the same way;
(D) Applying a known technique to a known device (method, or product) ready for improvement to yield predictable results;
(E) "Obvious to try"—choosing from a finite number of identified, predictable solutions, with a reasonable expectation of success;
(F) Known work in one field of endeavor may prompt variations of it for use in either the same field or a different one based on design incentives or other market forces if the variations would have been predictable to one of ordinary skill in the art;
(G) Some teaching, suggestion, or motivation in the prior art that would have led one of ordinary skill to modify the prior art reference or to combine prior art reference teachings to arrive at the claimed invention.
医薬品において、有効成分の許容される塩の種類が限られていること、医薬品の添加剤の種類も当局のガイドライン等で制限されていることなど、医薬品のライフサイクルパテントに関する発明が医薬品当局の規制という限られた枠の中で創作されなければならないことを考えれば、米国の自明性判断(特に、"Obvious to try")の方向性が新薬メーカーにとって厳しい状況に進んだことは間違いないでしょう。
Categories *Pharma/IP news, Inventive step/Obviousness
2008/04/20
2008.03.31 「メリアル v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10221
動物の種を超えて薬剤を適用することは困難?: 知財高裁平成18年(行ケ)10221
【背景】
「家畜抗菌剤としての9a-アザライド」に関する発明を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。
請求項1:
「パスツレラ種,アクチノバシラス種,ヘモフィルス・ソムナス(Haemophilus somnus)又はマイコプラズマ種に起因するウシ又はブタの呼吸器感染,又は大腸菌,トレポネーマ・ハイオディセンテリー(Treponema hyodysenteriae)又はサルモネラ種に起因するウシ又はブタの腸内感染の治療又は予防方法であって,前記治療又は予防を必要とするウシ又はブタに治療又は予防的に有効な量の式Iの化合物を投与することを特徴とし,
式I は下記:
【化1】(省略)
である化合物又は医薬的に許容されるその塩,又は医薬的に許容されるその金属錯体であり,前記金属錯体が銅,亜鉛,コバルト,ニッケル及びカドミウムから構成される群から選択され,前記式中,
R1は‥‥‥(置換基の特定に関する記載は省略)‥‥‥
である前記方法。」
引用発明との一致点・相違点:
(一致点)
パスツレラ種に起因する哺乳動物の感染,又は大腸菌に起因する哺乳動物の感染の治療方法であって,前記治療を必要とする動物に治療に有効な量の式Iの化合物を投与する治療方法。
(相違点)
本願補正発明は,パスツレラ種に起因するウシ又はブタの呼吸器感染,又は大腸菌に起因するウシ又はブタの腸内感染をその治療の対象とするのに対し,引用例1,4ではこの点の記載がされていない点。
【要旨】
ウシ又はブタへの適用の困難性について、
裁判所は、
「原告は,甲9を根拠として,動物の種間における薬理学上及び代謝上の相違の理由について説明できない以上は,マウス等の生体内における抗菌活性のデータからウシやブタのような家畜動物における抗菌活性を推論することはできないと主張する。
しかし,この点の原告の主張も,以下のとおり失当である。
確かに,甲9には,動物種間で薬剤の排泄及び消失半減期が異なることや,同類の動物種間においてさえ,既知の薬剤の薬物動態学的データを置き換えるのは不可能であって,合理的な投与スケジュールの設定は,臨床的な使用が意図されている動物の種ごとに得られたデータに基づくべきであることが記載されているが,同記載の趣旨は,全体をみれば,抗菌剤等の薬剤が動物の種を超えて使用され得ることを前提として,動物種の違いに応じて製剤の処方や形態,投与量,投与期間,投与間隔などを適宜設定すべきであるとの留意点に言及したものと理解するのが相当である。したがって,甲9の記載をもって,ウシやブタに適用することが困難であるとする原告の主張は,採用できない。」
と判断した。
容易想到性の判断の誤りについての原告のその他主張を認めず。
進歩性なし。
請求棄却。
【コメント】
ある薬剤が動物の種を超えて使用され得ることを前提としているのであれば、当然ながら異種の動物に適用することには積極的な動機づけがあるということになるだろう。
Categories *Case2008, Inventive step/Obviousness, ★, ・Indication
2008/04/17
明細書記載要件としての選択発明の効果の記載の程度(韓国)
I.P.R. vol.22, No.3, p194-195, 2008
選択発明の効果が明細書にどの程度記載されていなければならないかの判決情報(大法院2007.9.6言い渡し2005フ3338判決、特許法院2008.1.18言い渡し2006ホ6303判決)が掲載されている。
参考:
2008/04/15
2006.10.30 「X v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10820
当業者に過度の試行錯誤を強いる: 知財高裁平成17年(行ケ)10820
【背景】
本発明(特願平4-507654)は、骨形成用の活性剤複合体を生成する方法であり、明細書中には、具体的手段や操作に関する記載がなかったため、実施可能要件違反を理由に拒絶査定、拒絶審決を受けたため、原告は審決取消訴訟を提起した。原告は、周知慣用技術を用いて当業者であれば試行錯誤して容易に実施できる等主張した。
請求項1:
「骨形成用の活性剤複合体を生成するための方法であって,
骨から,コラーゲン,エラスチン,プロテオグリカン及びその混合物の形態における少なくとも一種の構造成分,少なくとも一種の走化学性ペプチド又はアラキドン酸代謝物の形態における少なくとも一種の補充成分,フィブロネクチン,テネイシン,ラミニン,コラーゲンタイプⅠⅤ型,Ⅴ型,ⅤⅠⅠ,L-CAM,N-CAM又はインテグリンの形態における少なくとも一種の接着成分並びに少なくとも一種のサイトカインの形態における少なくとも一種の増殖及び成熟成分を含んでなる少なくとも一の初期複合体を調製し,そしてそれを次の工程に従って処理する,
a)当該初期複合体に変性手段を供給するか,又は当該初期複合体を変性手段で処理して,当該初期複合体の前記成分の少なくとも一部を変性させて均質相を獲得し;
b)このようにして形成された均質相を二以上の部分に分割し;
c1)当該均質相を二部に分けたなら,当該均質相の一の部における前記成分のうち枯渇もしくは富化を所望する1又は複数種の成分を選定し;
c2)当該均質相を二部超に分けたなら,当該均質相の少なくとも一の部における前記成分のうち枯渇もしくは富化を所望する1又は複数種の成分を選定し;
d)当該均質相の少なくとも一の部から前記選定した成分を分画し;
e)このようにして獲得した画分の少なくと(も)一部を前記均質相の他の部と混合し;
f)工程eにより得られた混合均質相を,前記変性手段を取り除くことにより,又は前記変性剤による処理を停止させることにより再生し,これにより
g1)前記活性剤複合体を構成する最終複合体を形成する;又は
g2)前記工程a)ないしf)を1又は複数回繰り返して前記活性剤複合体を構成する最終複合体を形成する;
ことを特徴とする方法。」
【要旨】
裁判所は、
明細書中に具体的手段や操作に関する記載がなければ、当業者に過度の試行錯誤を強いるものというべきであって、実施可能要件を満たさない、
と判断した。
請求棄却。
【コメント】
当業者に過度の試行錯誤を強いることとならないように、発明を実施できるように記載しなければならない。
Categories *Case2006, Utility/Description requirement, ★, ・Process/Manufacture
2008/04/13
2008.03.31 「メルク v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10219
病態部位と微生物を特定した細菌感染治療法: 知財高裁平成18年(行ケ)10219
【背景】
「家畜抗菌剤としての8a-アザライド」に関する発明を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。
請求項1:
「家畜の呼吸器又は腸内の細菌感染の治療又は予防方法であって,前記治療又は予防を必要とする家畜に治療又は予防的に有効な量の8a-アザライドを投与すること,呼吸器又は腸内に感染する微生物がパスツレラ種,アクチノバシラス種,Haemophilus somnus,マイコプラズマ種,Treponema hyodysenteriae又はサルモネラ種であること,及び,前記8a-アザライドが式I:
【化1】(省略)
をもつ化合物又は医薬的に許容されるその塩,又は医薬的に許容されるその金属錯体であり,前記金属錯体が銅,亜鉛,コバルト,ニッケル及びカドミウムから構成される群から選択され,前記式中,
R1は‥‥‥(置換基の特定に関する記載は省略)‥‥‥
であることを特徴とする前記方法。」
引用発明1との一致点・相違点:
(一致点)
「家畜の細菌感染の治療方法であって,前記治療を必要とする動物に治療に有効な量の,引用例1記載の式(Ⅱ)の化合物を投与する治療方法」である点。
(相違点)
本願補正発明は,細菌感染が呼吸器又は腸内の細菌感染であって,感染する微生物がパスツレラ種,アクチノバシラス種,Haemophilus somnus,マイコプラズマ種,Treponema hyodysenteriae又はサルモネラ種であることが特定されているのに対し,引用例1では明記されていない点。
【要旨】
裁判所は、
「マクロライド系の抗生物質であるエリスロマイシンが,パスツレラ菌の接種によって起こる子牛の肺炎の治療に有効であることが引用例2に記載されている。」
と認定した審決に誤りはなく、
引用例1の記載部分は、
「当業者に対し,その化合物がエリスロマイシンと同じ目的,用途に利用できることを示唆していると解するのが自然である。」
と判断した。
これに対し原告は、
「8a-アザライドは他のマクロライド抗生物質と構造が異なり,その抗菌活性を予測することができないから,家畜の呼吸器感染症に適用することを推論することに阻害事由がある」
との阻害要因の存在を主張した。
しかし裁判所は、
「原告が根拠とする甲23~27は,いずれも本願の出願後の文献であるが,各記載内容を見ても,マクロライド分子の①安定性,②浸透性,③リボソーム結合性に関する知見が本願の優先権主張日当時の技術常識であると認めるに足る記載はない。」
と判断し、阻害事由があるとの主張は採用することができないとした。
格別の作用効果について
原告は、8a-アザライドに関する実験データと従来のチルミコシンに関する実験データとを比較した試験結果を提示し,顕著な治療効果をもたらすものであると主張した。
しかし、裁判所は、
「本願補正明細書には,上記アのとおり,本願補正発明の具体的な効果については,特定の病原生物に対する抗菌活性範囲が記載されているのみであって,従来のマクロライド系抗生物質と比較してどの程度に有利な効果があるのかは何も開示されていない。
したがって,本願出願後に提示された試験結果に基づく有利な作用効果は,本願補正明細書の記載から推測できるものではないから,原告の主張は採用できない。」
と判断した。
進歩性なし。
請求棄却。
【コメント】
進歩性判断における有利な効果の参酌の可否について、明細書の記載を問題としている。
本願発明は引例と有効成分である化合物の点で一致しており、病態部位を限定している点(呼吸器又は腸内)、及び微生物を特定している点で相違しているのであるから、示すべき格別の作用効果についての考え方として、そもそも従来の化合物と比較しても意味が無く、相違点に注目して、他の部位や、他の微生物と比較した効果があるか否かを検討するのが正しい筋道ではなかろうか。
Categories *Case2008, Advantageous effects, Inventive step/Obviousness, ★★, ・Indication
2008/04/10
進歩性のための明細書記載要件
日本における進歩性の判断において、引用発明と比較した有利な効果が参酌されるためには、
(1) 「引用発明と比較」という観点、及び
(2) いわゆる「後出しデータ」の許容性という観点で、
当初明細書にどのような記載が具体的に必要とされるのでしょうか?
"進歩性のための明細書記載要件"(勝手にそう呼んでます)なるものは、特許法上規定されていませんが、これまでの判決を見ているとどうも一定の要件として存在するようです(個人的には疑問を感じていますが)。これは欧米には無い日本特有の要件ではないでしょうか。
具体的な事例として参考になりそうな最近の判決(特に医薬に関する判決)を下記に列挙しつつ、判決間の整合性を検討していく予定です。
参考事例:
本記事は、画面右「TOPICS」欄にリストしています(→)。
参考:
特許・実用新案審査基準 第Ⅱ部 第2章 新規性・進歩性(抜粋)
2.5 論理づけの具体例
(3) 引用発明と比較した有利な効果
引用発明と比較した有利な効果が明細書等の記載から明確に把握される場合には、進歩性の存在を肯定的に推認するのに役立つ事実として、これを参酌する。ここで、引用発明と比較した有利な効果とは、発明を特定するための事項によって奏される効果(特有の効果)のうち、引用発明の効果と比較して有利なものをいう。①引用発明と比較した有利な効果の参酌
請求項に係る発明が引用発明と比較した有利な効果を有している場合には、これを参酌して、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことの論理づけを試みる。そして、請求項に係る発明が引用発明と比較した有利な効果を有していても、当業者が請求項に係る発明に容易に想到できたことが、十分に論理づけられたときは、進歩性は否定される。
(中略)
しかし、引用発明と比較した有利な効果が、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであることにより、進歩性が否定されないこともある。
例えば、引用発明特定事項と請求項に係る発明の発明特定事項とが類似していたり、複数の引用発明の組み合わせにより、一見、当業者が容易に想到できたとされる場合であっても、請求項に係る発明が、引用発明と比較した有利な効果であって引用発明が有するものとは異質な効果を有する場合、あるいは同質の効果であるが際だって優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測することができたものではない場合には、この事実により進歩性の存在が推認される。
特に、後述する選択発明のように、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属するものについては、引用発明と比較した有利な効果を有することが進歩性の存在を推認するための重要な事実になる。
②意見書等で主張された効果の参酌
明細書に引用発明と比較した有利な効果が記載されているとき、及び引用発明と比較した有利な効果は明記されていないが明細書又は図面の記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるときは、意見書等において主張・立証(例えば実験結果)された効果を参酌する。しかし、明細書に記載されてなく、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない意見書等で主張・立証された効果は参酌すべきでない。

