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2008/04/05

2007.06.28 「Takeda v. Alphapharm」 CAFC Docket No.06-1329

ACTOS(アクトス)米国特許侵害訴訟: CAFC Docket No.06-1329

【背景】
武田薬品が販売するチアゾリジンジオン系糖尿病治療薬である塩酸ピオグリタゾン(pioglitazone hydrochloride、商標名:ACTOS、アクトス)について、ジェネリックメーカーであるAlphapharm社がFDAにANDA申請したことに対し、特許権者である武田薬品が侵害訴訟を提起した。Alphapharm社は、該特許(US4,687,777)は自明であり、特許は無効である等を主張した。地裁は特許は有効であると判断、Alphapharm社は控訴した。
争われたクレームは下記の一般式



で表されるピオグリタゾンをカバーする化合物等であり、公知化合物は、ピリジン環の6位にメチル基を有する点のみが構造上異なるチアンゾリンジオン誘導体(化合物b)であった。



【要旨】
CAFCは、
「化学物質における一応の自明性(prima facie obviousness)を判断する際に、
"prior art would have suggested making the specific molecular modifications necessary to achieve the claimed invention"
であることを明示するよう要求してきた判断は、KSR事件で最高裁が出した法理に一致しており、従って、
"in cases involving new chemical compounds, it remains necessary to identify some reason that would have led a chemist to modify a known compound in a particular manner to establish prima facie obviousness of a new claimed compound."
である」
と言及した。

Alphapharm社は、
「当業者なら化合物bをリード化合物として選択するだろうし、そうすれば、
"one of ordinary skill in the art would have made two obvious chemical changes: first, homologation, i.e., replacing the methyl group with an ethyl group, which would have resulted in a 6-ethyl compound; and second, “ring-walking,” or moving the ethyl substituent to another position on the ring, the 5-position, thereby leading to the discovery of pioglitazone"」
と主張し、また、
「KSR事件での判断に依拠して、"homologation"及び "ring-walking"の技術を使用することは"obvious to try"であった」
と主張した。

しかし、CAFCは、化合物bの副作用の懸念を示唆した文献を考慮して、
"Significantly, the closest prior art compound (compound b, the 6-methyl) exhibited negative properties that would have directed one of ordinary skill in the art away from that compound."
と認定し、当業者なら化合物bをリード化合物として選択するであろうとのAlphapharm社の主張に同意しなかった。

さらに、CAFCは、武田薬品が毒性という点でピオグリタゾンと化合物bとは有意に異なる旨を示している点を挙げ、たとえ上記のAlphapharm社の主張が認められたとしても、
"Takeda rebutted any presumed expectation that compound b and pioglitazone would share similar properties."
であると判断した。

Alphapharm社はクレームされた化合物がprima facie obviousであったであろう点を証明できておらず、特許は有効であるとの地裁判断に誤りはないとし、特許有効判決を支持した。

【コメント】
化学物質における一応の自明性(prima facie obviousness)が争われた事例。判決文中にKSR事件での最高裁の判断を明確に考慮している点でも注目すべき判決。
但し、補足意見で指摘されているように、ピオグリタゾン以外の6-ethyl compoundについては予期できない結果を示す証拠は示されておらず、ピオグリタゾンに限定されていないgenus claimであるクレーム1及び5を有効とした判断については果たして妥当なのかどうか疑問である。
Orange Bookによれば、本件特許の存続期間は2011年1月17日までとのこと。

CAFC判決を不服としてAlphapharm社は米国最高裁判所に上告していたが、2008年3月31日、同裁判所は上告を棄却する決定を下した。

参考:


2008/04/02

2006.10.26 「Takeda事件」 EPO審決T0512/02

ピオグリタゾンの併用特許の進歩性: EPO審決T0512/02

【背景】
「ピオグリタゾンとα-グルコシダーゼインヒビターとの医薬組成物」に関する出願(出願番号EP96304570.3/公開番号EP0749751)について、進歩性無しを理由に拒絶査定となったことに対して、出願人は審判部へappealした。
出願人は、審判手続きにおいて、比較実験データとともにnew main request(下記独立クレーム1)を提出した。

1. A pharmaceutical composition which comprises pioglitazone or a pharmacologically acceptable salt thereof in combination with acarbose or voglibose.

Closest prior artとして引用された文献(1)には、α-グルコシダーゼインヒビター、好ましくはinsulin sensitivity enhancerとの併用、は非インスリン依存型糖尿病の治療に有用である旨が記載されており、α-グルコシダーゼインヒビターとしてacarbose、voglibose及びmiglitol、そしてinsulin sensitivity enhancerとしてciglitazone、pioglitazone及びtroglitazoneが具体的に例示されていた。

【要旨】
審判部の判断
2.5
However, the provision of further pharmaceutical compositions for the treatment of NIDDM does not involve an inventive step over document (1) for the following reasons: as was mentioned in paragraph 2.2 above, document (1) teaches to use an insulin sensitivity enhancer in combination with an α-glucosidase inhibitor for the treatment of certain forms of NIDDM. As far as specific active agents are concerned, it is noted that (1) describes three α-glucosidase inhibitors, namely acarbose, miglitol and voglibose and three insulin sensitivity enhancers: pioglitazone, troglitazone and ciglitazone which yields nine possible combinations altogether. From this very limited number of options, the applicant chose two combinations: pioglitazone plus acarbose and pioglitazone plus voglibose. In this context, it is worthwhile to analyse the expermental data submitted by the appellant as annex to the statement of the grounds of appeal. In said tests the performance of a combination of active agents of the invention is compared with each of the individual compounds but not with combinations outside the present invention but encompassed by document (1).

To summarise the results of the tests: said tests show effects which are not mentioned in the closest prior art as defined by document (1), but the effects are not related to the selection of the two combinations as claimed out of the nine possible combinations of document (1). Therefore, they are considered to be inherent in said combinations of (1). There is no evidence at all that the two alternatives of the present invention are in any way advantageous over, e.g., the combination ciglitazone + voglibose or pioglitazone + miglitol.
It follows therefrom that the subject-matter as claimed in claim 1 merely constitutes an arbitrary selection out of the nine possible combinations of document (1) which cannot give rise to an inventive step.
請求棄却。

【コメント】
併用療法の発明において、併用の組み合わせを示唆する引例からの進歩性を主張するためには、有効成分単独効果との比較ではなく、該組合せ以外の組合せと比較したデータが要求される。要求される比較データが、単独効果と比較した効果ではなく、他の併用の組み合わせと比較した効果である点は、日本の実務と同じ(参考:2005.11.08 「興和 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10389;2007.05.16 「ロレアル v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10291)と思われるが、下記に示すように日本特許庁の審査官は特許査定を出してしまっている。

ピオグリタゾン:

武田薬品が開発した2型糖尿病治療薬(商品名:アクトス、ACTOS、一般名:塩酸ピオグリタゾン)で、他の薬剤との併用・合剤を開発することによる製品のライフサイクルマネージメントを積極的に進めている。2006年度のアクトスの売り上げは対前年38%増の約3400億円。また、武田薬品の平成20年3月期第3四半期財務・業績の概況(2008.01.31公表)によれば、アクトスの売り上げは、2008年度第3四半期累計で既に約3100億円に達している。

esp@cenet®及びIPDL (JPO)により本特許出願のファミリー(日米欧)を調べたところ、状況は現時点で下記のとおり。日米欧それぞれの審査状況を比較すると興味深い。

  • EP749751:本件出願


  • EP861666:本願の分割出願、メトフォルミンとの併用クレームとして特許となったが、異議申立がなされ、その決定に対して審判請求されている(T1357/06)。


  • EP1174135:本願の分割出願、glibenclamide又はglimepirideとの併用クレームであり、審査係属中。


  • EP1764110:本願の分割出願、biguanideとの併用クレームであり、審査係属中。


  • JP3148973:α-グルコシダーゼインヒビターであるacarbose、voglibose、miglitolとの併用クレームとして特許となり、存続期間延長登録もされている(出願番号2002-700098、2002-700099)。


  • JP3973280:上記出願の分割出願。ビグアナイド剤、スタチン系化合物との併用クレームとして特許。


  • JP2007-191494:上記出願の分割出願。


  • US:多くの併用特許が成立。


2008/02/13

2007.07.12 「エンシステックス v. バイエルクロップサイエンス」 知財高裁平成18年(行ケ)10482

進歩性判断の引用発明の認定(適格性): 知財高裁平成18年(行ケ)10482

【背景】
被告(バイエルクロップサイエンス)の有する「工芸素材類を害虫より保護するための害虫防除剤」に関する特許(特許3162450号)に係る発明について、原告(エンシステックス)が無効審判を請求。特許庁は、被告がした訂正請求に係る訂正を認めた上、上記審判請求は成り立たない(進歩性あり)との審決(無効2005-80225)をしたため、原告が、その取消しを求めた事案。

請求項1:
1-(6-クロロ-3-ピリジルメチル)-2-ニトロイミノ-イミダゾリジンを有効成分として含有することを特徴とする工芸素材類をイエシロアリ又はヤマトシロアリより保護するための害虫防除剤。

引例に記載された発明は、同有効成分を含有する害虫防除剤であり、「ヤマトシロアリ,イエシロアリ」と具体的に例示されていたが、その対象害虫に関して具体的な生物試験の結果が示されていなかった。

【要旨】
裁判所は、

「甲2には,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物を一つの代表例とするニトロイミノ誘導体が広汎な害虫に対して強力な殺虫作用を示すとともに,木材における優れた残効性を示すこと,さらに,同化合物が殺虫効果を示す対象害虫類の一つとして,等翅目虫のヤマトシロアリ,イエシロアリが具体的に挙げられているのであるから,上記の課題に直面していた当業者が,同一技術分野に属する刊行物である甲2に接したならば,イミダクロプリドを有効成分として含有する害虫防除剤をヤマトシロアリやイエシロアリに適用してみようとすることは何ら困難な事柄ではないというべきである。
被告は,上記第4の1(3)のとおり,化学物質の害虫に対する防除効果は害虫の種類によって大きな差異があるから化学物質の効果が生物試験によって裏付けられていない限り,所期の効果を予測することはできないと主張するが,このような事情を考慮したとしても,イミダクロプリドを有効成分として含有する化合物をヤマトシロアリ及びイエシロアリの防除剤として適用してみようとする動機付けとする限りにおいては,上記・u桙ノ説示したところを左右するには足りない。
また,被告は,用途発明の一種である医薬発明に関しては,特許庁の審査基準に「, 当該刊行物に何ら裏付けされることなく医薬用途が単に多数列挙されている場合は,技術的に意味のある医薬用途が明らかであるように当該刊行物に記載されているとは認められず,その発明を引用発明とすることはできない。」と記載されていることから,甲2のヤマトシロアリ,イエシロアリに関する記載を引用発明とすることは不適当である旨主張しているが,上記審査基準は,発明の公知性の有無に係る新規性の判断に関するものであり,進歩性の判断の当否を問題とする本件に妥当するものではないから,失当である。」

と判断した。
審決中、「本件審判請求は、成り立たない。」との部分を取消す。

【コメント】
医薬ではなく殺虫剤関連の発明に関する訴訟だが、進歩性判断における引用発明の認定(適格性)について争われた事例であり、且つ、審決が取消された事例でもあったので取り上げた。

新規性判断における引用発明の認定手法については特許・実用新案審査基準 第II部 第2章 「新規性・特許性」中の下記項に記載されている。

1.5.3 第29条第1項各号に掲げる発明として引用する発明(引用発明)の認定

そして、進歩性判断における引用発明として採用されるべきものとは何なのかについては、同審査基準中下記項のように"「新規性の判断の手法」と共通"と記載されている。

2.4 進歩性判断の基本的な考え方
「(3) なお、請求項に係る発明及び引用発明の認定、並びに請求項に係る発明と引用発明との対比の手法は「新規性の判断の手法」と共通である(1.5.1~1.5.4参照)。」


上記のように、審査基準中、進歩性判断における引用発明認定の手法に関する記載は、本事件における裁判所の判断と矛盾している。進歩性判断における引用発明の認定手法が、新規性判断における引用発明の認定手法と異なるのであれば、審査基準の記載は再検討されるべきだろう。

なお、本事件については、その後、被告が最高裁に対して上告受理の申立てを行ったが、上告不受理決定となった。被告は最高裁決定後も訂正請求を行って本件特許権の有効性を維持しようとし、原告は、被告から差止請求権を行使されるおそれがあることから、被告に対して、特許無効を主張して、原告製品の生産等に対する差止請求権の不存在確認を求めた(2008.01.30 「エンシステックス v. バイエルクロップサイエンス」 東京地裁平成19年(ワ)24878)。

参考:


2008/01/07

2006.01.25 「メディカライズ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10438

限られた数の組合せの中から選択した発明に進歩性はあるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10438

【背景】
「ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有する健康食品」の発明に関して、進歩性なしとの拒絶審決に対して取消訴訟を提起。引例との相違点は、デルマタン硫酸がその上位概念であるムコ多糖類となっている点のみであった。原告は選択発明であると主張した。

請求項1: 少なくともヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含有することを特徴とする健康食品。

【要旨】
裁判所は、
組合せの容易想到性について、
「引用例1が示唆するところに従って,限られた数の組合せの中から,ヒアルロン酸と組合せて使用する効果を確認しつつ,適するものを特定し,結果的にデルマタン硫酸を含有する組合せを特定するに至ることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとっては容易であるというべきである」
とし、
本願発明の効果については、
「このような発明が,常に格別顕著な効果を奏するものであることを裏付けるためには,本願発明1に包含される任意の組合せの任意の配合比率の態様が,引用例1に示唆された31通り又は15通りの全組合せのうちの,本願発明1に相当しない15通り又は7通りの組合せの任意の配合比の態様と比較しても,また,引用例1に明示されたムコ多糖類の各々を単独に含有する態様と比較しても,常に格別顕著な効果を奏するものであることを証明する必要がある
~前記のとおり,その格別顕著な効果を主張するための根拠となるべき比較試験が記載されていないことに変わりはないから,ヒアルロン酸とデルマタン硫酸を含む組合せである本願発明1が,その配合比によらず,常に引用例1及び刊行物2の記載事項から予測し得ない,際だって優れた効果あるいは異質な効果を有するものであるということができないことにも変わりはない。
~したがって~本願発明1が,任意の含有量において,格別顕著な効果を奏するものであると認めることはできないというほかない」
と判断した。
請求棄却。

【コメント】
ムコ多糖類の成分の一つとしてデルマタン硫酸が知られていることから、その組み合わせは当業者にとって容易であり、格別顕著な効果を奏するとの証拠もない、と判断され進歩性なしと判断された。組み合わせの上位概念が公知だが、公知物質同士の新規な特定の組合せを選択発明として進歩性を主張するためには、該選択発明以外の全ての組合せの任意の配合比と比較しても、常に格別顕著な効果を奏するものであることを証明する必要があることに注意。

2007/12/23

2005.11.16 「千寿製薬・大塚製薬 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10184

既存薬の改良製剤特許は延長登録の対象になるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10184

【背景】
先発メーカーの先の薬事承認処分(オキシグルタチオン、眼手術時の洗浄)の後、別メーカーが本件薬事承認処分(オキシグルタチオン含有キット、販売名:オペガードネオキット(Opeguard neo kit))に基づいて、新規包装体特許(特許第3116118号)の延長登録を試みたが、特68条の2における「物」すなわち「有効成分」について、本件処分前に同用途において実施できたとされ、拒絶審決を受けたため、審決取消訴訟を提起した。

【要旨】
本件特許発明の実施のために、「物(有効成分)」及び「用途(効能・効果)」という観点から、本件処分を受けることが必要であったということができない。先の処分に対応する特許権者が別人であろうと関係ない。請求棄却。

【コメント】
存続期間の延長登録要件として、延長登録の特許権の効力に関する規定(特68条の2)から、「物(有効成分)」及び「用途(効能・効果)」という観点から判断するという判決。既存薬の有効成分及び効能・効果に変更が無い限り、新規製剤に関する承認を得るために該製剤をカバーする製剤特許権を実施できなかったとしても、該製剤特許権の存続期間を延長することはできない。

個人的な感想であるが、登録要件を権利の効力の規定(特68条の2)を持ち出して判断し、さらに「用途」という要件を一義的に「効能・効果」であると解釈するという、存続期間延長登録要件に関する下記一連の判決内容にはいまいち納得いかない感じを受けるのは私だけであろうか? 既存薬の毒性を低減させたり、有効性を持続させたり、医師・患者の使い勝手を向上させたりするための改良薬は、益々強く望まれるようになってきている一方、多大な開発費用を要するのは事実である。存続期間延長制度の立法当時には、このような実情を想定していなかったとしても、登録要件を権利の効力の規定から説き起こすのはやはり乱暴ではなかろうか? また、既存薬の組成や用法・用量等を改善した用途発明の特許権も、承認が得られるまで実施できないという点では同様であるのだから、その処分が既存薬の効能・効果と同一だからという理由によって存続期間延長登録の対象にならないとするのは、そもそもの存続期間延長制度の趣旨に反するのではなかろうか? 用途発明として、効能・効果に限らず、用法用量や製剤に特徴がある"用途"発明が医薬発明として認められている(「医薬発明」の審査基準においても明記されいるところである)ことを踏まえれば、仮に延長登録出願の登録要件として"用途"の同一性を判断するとしても、その"用途"を一義的に医薬品の"効能・効果"とする解釈は、医薬発明の"用途"の解釈と食い違っている。

参照:


2007/12/20

2005.11.08 「興和 v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10389

公知薬剤同士の具体的組み合わせが新規な合剤の発明に進歩性はあるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10389

【背景】
「トラネキサム酸及びエテンザミドを含有する解熱鎮痛消炎剤」の出願に対して、特許庁は、トラネキサム酸と他の解熱鎮痛消炎剤との併用が記載されており、その一例としてエテンザミドが記載されていた引例に基づいて、進歩性なしとする拒絶審決を下した。本願明細書には、トラネキサム酸と、エテンザミド以外のサリチル酸系抗炎症剤との配合例の記載がなく、比較して格別に顕著な効果を奏するとの記載もなかった。しかし、エテンザミドとの併用が相乗効果を示すことを本願明細書中に示しており、且つ、出願人は、審査中、試験成績証明書にて他の組み合わせでは抗炎症効果の増強作用が認められないことを示していた。

【要旨】
格別顕著な効果を示すには、単なる相乗的効果では足りず、他では得ることのできない固有の効果があるという根拠を明細書に記載しなければならない。試験成績書でデータを示しても、明細書には格別顕著な効果を奏するものであることをうかがわせる記載は無いことから、出願人の主張は、明細書の記載に基づかないものである、とされ、進歩性なし。請求棄却。

【コメント】
組み合わせの上位概念が公知だが、公知薬剤同士の具体的組み合わせが新規な併用に関する発明(選択発明)において、進歩性ありと主張するためには、明細書中に、その構成や効果を単に記載するだけでは足りず、引用発明となるべき他の組み合わせと比較した(つまり格別に)顕著な効果を記載する必要がある。

2007(平成19)年3月26日、特許庁審判部から進歩性検討会報告書が公表され、その中で本事案が検討されている。
引用発明と比較した効果は明細書で主張する必要があるとの結論が導かれているかと思われるが、思わぬ引例により進歩性が否定された場合、明細書中に、その引例と比較した効果を主張していなかったがために拒絶理由を覆せなくなってしまうことが危惧される。そもそも審査官が果たすべき進歩性があるか否かを判断する負担を、出願人に過度に課すことになるのではなかろうか?本事案及び本検討会報告書の内容をよく吟味して、出願する際には、進歩性の引例となる先行技術をしっかり調査し、明細書に引例との比較結果を記載すべきか否かを慎重に検討する必要があるだろう。

参考:資料室(答申・報告書・講演録) >研究会・懇談会等 >進歩性検討会報告書(平成19年3月 特許庁審判部)より抜粋。

(1)本願明細書における顕著な効果の記載の有無について
本願明細書の記載を見ると,エテンザミドとトラネキサム酸を併用した実施例しか記載されておらず,それ以外のサリチル酸系抗炎症剤を使用した実験例は一切ない。また,本願明細書に「エテンザミドが特に好ましい」との記載はあるものの,その記載だけで,この効果が技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであるか否か判断できない以上,本願明細書に他のサリチル酸系抗炎症剤に比べて顕著な効果について記載があるとするには無理があるのではないかとの結論となった。

(2)顕著な効果の認定における実験成績証明書の参酌について
審査基準には,「引用発明と比較した有利な効果は明記されていないが明細書又は図面の記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるときは,意見書等において主張・立証(例えば実験結果)された効果を参酌する。」と記載されており,実験成績証明書を参酌して顕著な効果を認定することは可能である。しかしながら,同時に「明細書に記載されていなく,かつ,明細書又は図面の記載から当業者が推論できない意見書等で主張・立証された効果は参酌すべきでない。」とされており,明細書に構成が記載されていれば,どのような場合でも,その効果を事後的に実験成績証明書で補充できるわけではない
したがって,本願明細書の「エテンザミドが特に好ましい」との記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるかどうかということが問題になるわけであるが,上で述べたように,この記載のみから当業者が他のサリチル酸系抗炎症剤に比べて技術水準から予測される範囲を超えた顕著な効果があると推論するには無理があると考えられる。
なお,特36条の改正(平成6年法改正)に伴い,請求項に係る発明が従来技術との関連において有する有利な効果を記載する必要はなくなった(委任省令要件として扱わない)のに,明細書にその効果が記載されていないことで進歩性が否定されることについて疑問視する意見もあったが,法改正の趣旨は明細書の記載要件として,従来技術との関連において有する有利な効果を不要としただけであって,請求項に係る発明が引用発明に比較して有利な効果によって進歩性の存在を肯定的に推認しようとするのであれば,明細書にその効果が記載されている必要がある

(3)本願発明と引用発明との対比判断(顕著な効果の判断)について
エテンザミドを含むサリチル酸系抗炎症剤とトラネキサム酸との組み合わせと両者の協力作用が引用例1に記載されており,また,同種薬剤の組み合わせであるイブプロフェンとトラネキサム酸との併用による効果が引用例2に記載されている以上,本願発明が効果として比較する引用発明は,エテンザミド以外のサリチル酸系抗炎症剤とトラキネム酸との組み合わせであり,この組み合わせの効果と比較して,本願発明の組み合わせにさらに顕著な相乗効果が認められなければ進歩性は否定されてもやむを得ないとの結論となった。

2007/12/18

2005.10.11 「ロシュ(参加人:武田薬品) v. 特許庁長官(酢酸ブセレリン徐放性製剤事件)」 知財高裁平成17年(行ケ)10345

既存薬の改良製剤特許は延長登録の対象になるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10345

【背景】
先の薬事承認処分(一般名:酢酸ブセレリン(buserelin acetate)、販売名:スプレキュア(Suprecur)、子宮内膜症)の後、本件薬事承認処分(スプレキュアMP1.8(酢酸ブセレリン徐放性製剤)、子宮内膜症)に基づいて、新規製剤特許の延長登録を試みたが、特68条の2における「物」すなわち「有効成分」について、本件処分前に同用途において実施できたとされ、拒絶審決を受けたため、審決取消訴訟を提起した。

【要旨】
特許法としては、薬事法による承認が得られた品目に限定して延長に係る特許権の効力が及ぶとするものではなく、延長に係る特許権の効力は、「物(有効成分)」及び「用途(効能・効果)」について特許発明を実施する場合全般に効力が及ぶとしたものであり、このような概念によって、薬事法の規定とは別に、処分という概念を画そうというものである、と裁判所は解釈した。従って、本件特許発明の実施のために、「物(有効成分)」及び「用途(効能・効果)」という観点から、本件処分を受けることが必要であったということができない。棄却。

【コメント】
製剤に関する一変承認に基づいて、その新規製剤特許の延長登録を試みた事案。補助参加した武田薬品が非常に明快な主張を展開、裁判所もやむなく権利の効力の規定(特68条の2)から登録要件の規定に関する解釈を説き起こさざるを得なかった。現法律では問題がある点も言及され、制度の歪みについて一応の認識がなされた。なお、有効成分以外の製剤処方を変えたジェネリック医薬品に対しても、先発品の延長登録特許権の効力は、有効成分及び効能・効果が同一であればその権利範囲内で及ぶ点は変わりなし。
上告受理申立てたが不受理(2006.03.07)。

本件承認医薬品であるスプレキュアMP1.8は、Aventis(現Sanofi-aventis)社と販売契約を締結した持田製薬が販売。同じくLH-RH誘導体である「リュープリン」を販売する武田薬品が競合製品「スプレキュア」の存続期間の延長登録に協力した理由を考えてみることは興味深い。

参考:


2007/12/07

2005.04.08 「SmithKline Beecham v. Apotex」 CAFC Docket No.03-1285, -1313

必然的に生成してしまう場合には、"inherently anticipated"?: CAFC Docket No.03-1285, -1313

【背景】
1975年、Ferrosan社はパロキセチン(paroxetine)及びその塩をクレームする'196特許を取得、その明細書中には無水物として塩酸パロキセチンの製造方法が開示されていた。その後、SmithKline Beecham(SKB)は該特許のライセンスを受け、より安定な結晶性の塩酸パロキセチン半水和物を見出し、該結晶形に関する米国特許第4,721,723('723特許)を取得、FDA認可を得て販売(抗うつ薬、商標名Paxil)していた。Apotexは塩酸パロキセチンの無水物をANDA申請、パラグラフIV証明を提出した。これに対しSKBは271(e)(2)に基づく侵害を主張し、連邦地裁に訴訟を提起。非侵害の略式判決に対してSKBが控訴した。SKB社は、'196特許に従って塩酸パロキセチン無水物を製造すると、必然的に半水和物が製造されるので、少なくとも微量の半水和物を生産することになり、Apotex社は'723特許のクレーム1(量的限定のない塩酸パロキセチン半水和物結晶クレーム)を侵害することになると主張した。

【要旨】
PHC hemihydrateの存在は知られていなかったが、'196特許に従ってPHC anhydrateを製造すると、必然的にPHC hemihydrateが製造されるので、'723特許のクレーム1(量的限定のないPHC hemihydrateクレーム)は'196特許により新規性なく(inherently anticipated)、無効であるとされた。

【コメント】
2004.04.23 「SmithKline Beecham v. Apotex」 CAFC Docket No.03-1285について再審理され、上記判決内容に差し替えられた。
結晶特許で後発品の参入を阻止しようと試みたが失敗した事例。
新規結晶であっても公知結晶が変化して必然的に生成してしまう場合には、inherently anticipatedとされ、新規性なしと判断されかねないので注意。本事件のような場合では、量的限定のないクレームだけでなく、結晶純度について段階的なクレームを立ておくのもひとつの有効策なのでは。

パロキセチン(パロキセチン塩酸塩水和物、Paroxetine)は、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor: SSRI)であり、うつ病等の治療薬(商品名: パキシル, Paxil)としてグラクソ・スミスクライン社により販売されている。

2007/12/04

2005.01.27 「Vertex v. Guilford」 EPO審決T134/01

ディスクレーマーの許容性(EPOの判断): EPO審決T134/01

【背景】
本件発明は医薬に有用な化合物(Novel immunosuppressive compounds having an affinity for FK-506 binding protein)のクレーム。ある化合物(especially used as analeptics)を開示した文献(5)による新規性欠如を回避するために、ディスクレーマーを行った。しかし、文献(5)が、ディスクレーマーの要件となるaccidental anticipationに該当するか否かが争われた。

【要旨】
文献(5)は医薬分野、すなわち本件発明と同じ技術分野に属する。従って、文献(5)は、ディスクレーマーが許される要件のうち、accidental anticipationには該当しない。従って、ディスクレーマーはArt.123(2)EPCに反し、認められない。

【コメント】
化合物クレームと公知文献との技術分野が医薬分野として共通していれば(たとえ、具体的な作用メカや医薬用途が異なっていたとしても)、accidental anticipationに該当しないと判断され、ディスクレーマーをすることはできない。
日本には無い要件である。しかもaccidental anticipationは非常に狭く解釈されている。
出願前の新規性調査は念入りに。また、ディスクレーマーに頼らなくても補正できるようにクレーム・明細書には十分な措置を施しておくことに留意すること。

参考:ディスクレーマーの許容性が示されたEPO審決

2007/11/23

2004.04.23 「SmithKline Beecham v. Apotex」 CAFC Docket No.03-1285

臨床試験の実施は公然実施(public use)なのか?: CAFC Docket No.03-1285

【背景】

1975年、Ferrosan社はパロキセチン(paroxetine)及びその塩をクレームする特許(米国特許第4,007,196)を取得、その明細書中には無水物として塩酸パロキセチンの製造方法が開示されていた。その後、SmithKline Beecham(SKB)は該特許のライセンスを受け、より安定な結晶性の塩酸パロキセチン半水和物を見出し、該結晶形に関する特許(米国特許第
4,721,723)を取得、FDA認可を得て販売(抗うつ薬、商標名Paxil)していた。Apotexは塩酸パロキセチンの無水物をANDA申請、パラグラフIV証明を提出した。これに対しSKBは271(e)(2)に基づく侵害を主張し、連邦地裁に訴訟を提起。非侵害の略式判決に対してSKBが控訴した。SKB社は、'196特許に従って塩酸パロキセチン無水物を製造すると、必然的に半水和物が製造されるので、少なくとも微量の半水和物を生産することになり、Apotex社は'723特許のクレーム1(量的限定のない塩酸パロキセチン半水和物結晶クレーム)を侵害することになると主張した。

【要旨】
SKBが'723特許の出願日より1年を超える前に守秘義務を課すことなく行った塩酸パロキセチン半水和物の臨床試験は「public use」に当たるとされた。そこで、その臨床試験が「public use」の適用除外である「experimental use」に該当するものだったか否かが争点となった。「experimental use」はクレーム発明の特徴を試験した場合にのみ認められるものであるが、
(1) 本件特許クレームは、塩酸パロキセチン半水和物自体をクレームしており、その医薬品としての安全性や有効性(antidepressant use)に関する限定は含まれていない。さらに、
(2) 発明の実施化後(本件の場合、化合物自体の製造)後の追加的試験は、もはや「experimental use」とは認められない、
とCAFCは判断。従って、当該臨床試験は、「public use」の適用除外である「experimental use」とは認められず、'723特許は102(b)に基づき無効であるとされた。

【コメント】
上記判決は、再審理され、判決内容は差し替えられた(
2005.04.08 「SmithKline Beecham v. Apotex」 CAFC Docket No.03-1285, -1313)。従って、本事案において、臨床試験がpublic useか否かという問題の結論は藪の中である。

しかしながら、臨床試験による実施が「public use」になり得るという考え方がされた点は非常に注意を要する。このような考え方を簡単にまとめてしまうと以下のようになるのではなかろうか。

治験に関与する第三者(医師、治験者、(被験者も?)など)に守秘義務がなければ・・・
(1) 化合物発明の場合・・・臨床試験で投与すれば少なくともその時点で「public use」に該当する。
(2) 用途発明の場合・・・非臨床薬理試験結果(in vitro又はin vitro試験)が存在すれば、臨床試験は「experimental use」にならない。即ち、用途発明についても臨床試験は「public use」に該当する。

臨床試験が発明の「公然実施」に該当するか否かについて、日本における取扱いを考える際に、審査基準等の説明が参考になるが、それでも、例えば、臨床試験を実施するにあたり、
(1) 被験者と秘密保持契約を交わさない(守秘義務を課していない)場合には、「公然」に該当すると判断され、且つ
(2) 被験者がその発明の内容を知ることが可能な状況(隠し持ち帰って分析?)、又はその発明の内容について説明してもらうことが可能な状況(医師が拒否しない)
であれば、臨床試験が発明の「公然実施」に該当してしまう可能性がある・・・なんて考えすぎだろうか?

パロキセチン(パロキセチン塩酸塩水和物、Paroxetine)は、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor: SSRI)であり、うつ病等の治療薬(商品名:
パキシル, Paxil)としてグラクソ・スミスクライン社により販売されている。

See also


2007/11/21

2004.04.08 「Genetic system v. Roche」 EPO審決G02/03

ディスクレーマーの許容性(EPOの判断): EPO審決G02/03

【背景】
異議決定について審判請求された後、ディスクレーマー(除くクレーム補正)はEPC123(2)において許容されるか、許容されるならばそのクライテリアは何なのかについての判断について、拡大審判部に付託された。

【要旨】
明細書に開示のないディスクレーマーは下記の目的であればEPC123(2)に反しない。
(i)post-published prior art(EPC54(3)(4))と区別するため。
(ii)accidental anticipation(54(2))と区別するため。
(iii)非技術的理由。
Accidental anticipationは、当業者が本発明をなす際に決して考慮しないであろう本発明から無関係又は程遠い開示を意味する。
また、デイスクレーマーを用いたとしても、ディスクレーマーを含まない基礎出願からの優先権には影響しない。
"Therefore, its introduction is allowable also when drafting and filing the European patent application without affecting the right to priority from the first application, which does not contain the disclaimer."

【コメント】
G01/03とともにディスクレーマーの許容性について判断されている(審決内容はG01/03とG02/03は同じ)。上記要件を満たさなければ、そもそもディスクレーマーは認められない。特に上記(ii)の要件について言えば、進歩性の引例となるような同技術分野の発明を除くディスクレーマーはできないことになる。また、ディスクレーマーは優先権に影響しない。一方、日本においては、ディスクレーマーが許容されているが、その補正後に進歩性が問われることになる。また、審査基準によれば、国内優先権主張の効果について、「後の出願の請求項に係る発明が、先の出願の願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内のものであるか否かの判断は、新規事項の例による。」とある。従って、審査基準に示された「除くクレーム」とする補正(デイスクレーマー)は、EPOの判断と同様に、国内優先権には影響しないようである。

参考:審査基準「第III部 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正、第I節 新規事項、4. 特許請求の範囲の補正 4.2 (4)除くクレーム」 より。

(4) 除くクレーム
「除くクレーム」とは、請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう。
補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、補正により当初明細書等に記載した事項を除外する「除くクレーム」は、除外した後の「除くクレーム」が当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである場合には、許される。

なお、次の(i)、(ii)の「除くクレーム」とする補正は、例外的に、当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものと取扱う
(i)
請求項に係る発明が、先行技術と重なるために新規性等(第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条)を失う恐れがある場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該重なりのみを除く補正
(ii)
請求項に係る発明が、「ヒト」を包含しているために、特許法第29条柱書の要件を満たさない、あるいは、同法第32条に規定する不特許事由に該当する場合において、「ヒト」が除かれれば当該拒絶の理由が解消される場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該「ヒト」のみを除く補正。

(説明)
上記(ⅰ)における「除くクレーム」とは、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、特許法第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条に係る先行技術として頒布刊行物又は先願の明細書等に記載された事項(記載されたに等しい事項を含む)のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう。

(注1)「除くクレーム」とすることにより特許を受けることができるのは、先行技術と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有する発明であるが、たまたま先行技術と重複するような場合である。そうでない場合は、「除くクレーム」とすることによって進歩性欠如の拒絶の理由が解消されることはほとんどないと考えられる。
(注2)「除く」部分が請求項に係る発明の大きな部分を占めたり、多数にわたる場合には、一の請求項から一の発明が明確に把握できないことがあるので、留意が必要である。

上記(ii)における「除くクレーム」は、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、「ヒト」のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう。

このような取扱いとする理由は、以下の通りである。
①たまたま先行技術と重複するために新規性等を欠くこととなる発明について、このような補正を認めないとすると、発明の適正な保護が図れない。そして、このような場合、先行技術として記載された事項を当初の請求項に記載した事項から除外しても、これにより第三者が不測の不利益を受けることにもならない。
②「ヒト」を包含するために、特許法第29条柱書の要件を満たさないか、あるいは同法第32条に規定する不特許事由に該当する場合、「ヒト」を除く補正をしても、除かれる範囲は明確であり、かつ、これにより当該拒絶の理由が解消される。また、これにより、特許を受けようとする発明が明確でなくなることはない。

2007/11/19

2004.04.08 「PPG v. Saint-Gobain」 EPO審決G01/03

ディスクレーマーの許容性(EPOの判断): EPO審決G01/03

【背景】
異議決定について審判請求された後、ディスクレーマー(除くクレーム補正)はEPC123(2)において許容されるか、許容されるならばそのクライテリアは何なのかについての判断について、拡大審判部に付託された。

【要旨】
明細書に開示のないディスクレーマーは下記の目的であればEPC123(2)に反しない。
(i)post-published prior art(EPC54(3)(4))と区別するため。
(ii)accidental anticipation(54(2))と区別するため。
(iii)非技術的理由。
Accidental anticipationは、当業者が本発明をなす際に決して考慮しないであろう本発明から無関係又は程遠い開示を意味する。
また、デイスクレーマーを用いたとしても、ディスクレーマーを含まない基礎出願からの優先権には影響しない。
"Therefore, its introduction is allowable also when drafting and filing the European patent application without affecting the right to priority from the first application, which does not contain the disclaimer."

【コメント】
G02/03とともにディスクレーマーの許容性について判断されている(審決内容はG01/03とG02/03は同じ)。上記要件を満たさなければ、そもそもディスクレーマーは認められない。特に上記(ii)の要件について言えば、進歩性の引例となるような同技術分野の発明を除くディスクレーマーはできないことになる。また、ディスクレーマーは優先権に影響しない。一方、日本においては、ディスクレーマーが許容されているが、その補正後に進歩性が問われることになる。また、審査基準によれば、国内優先権主張の効果について、「後の出願の請求項に係る発明が、先の出願の願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内のものであるか否かの判断は、新規事項の例による。」とある。従って、審査基準に示された「除くクレーム」とする補正(デイスクレーマー)は、EPOの判断と同様に、国内優先権には影響しないようである。

参考:審査基準「第III部 明細書、特許請求の範囲又は図面の補正、第I節 新規事項、4. 特許請求の範囲の補正 4.2 (4)除くクレーム」 より。

(4) 除くクレーム
「除くクレーム」とは、請求項に係る発明に包含される一部の事項のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう。
補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、補正により当初明細書等に記載した事項を除外する「除くクレーム」は、除外した後の「除くクレーム」が当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである場合には、許される。

なお、次の(i)、(ii)の「除くクレーム」とする補正は、例外的に、当初明細書等に記載した事項の範囲内でするものと取扱う
(i)
請求項に係る発明が、先行技術と重なるために新規性等(第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条)を失う恐れがある場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該重なりのみを除く補正
(ii)
請求項に係る発明が、「ヒト」を包含しているために、特許法第29条柱書の要件を満たさない、あるいは、同法第32条に規定する不特許事由に該当する場合において、「ヒト」が除かれれば当該拒絶の理由が解消される場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該「ヒト」のみを除く補正。

(説明)
上記(ⅰ)における「除くクレーム」とは、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、特許法第29条第1項第3号、第29条の2又は第39条に係る先行技術として頒布刊行物又は先願の明細書等に記載された事項(記載されたに等しい事項を含む)のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう。

(注1)「除くクレーム」とすることにより特許を受けることができるのは、先行技術と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有する発明であるが、たまたま先行技術と重複するような場合である。そうでない場合は、「除くクレーム」とすることによって進歩性欠如の拒絶の理由が解消されることはほとんどないと考えられる。
(注2)「除く」部分が請求項に係る発明の大きな部分を占めたり、多数にわたる場合には、一の請求項から一の発明が明確に把握できないことがあるので、留意が必要である。

上記(ii)における「除くクレーム」は、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、「ヒト」のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう。

このような取扱いとする理由は、以下の通りである。
①たまたま先行技術と重複するために新規性等を欠くこととなる発明について、このような補正を認めないとすると、発明の適正な保護が図れない。そして、このような場合、先行技術として記載された事項を当初の請求項に記載した事項から除外しても、これにより第三者が不測の不利益を受けることにもならない。
②「ヒト」を包含するために、特許法第29条柱書の要件を満たさないか、あるいは同法第32条に規定する不特許事由に該当する場合、「ヒト」を除く補正をしても、除かれる範囲は明確であり、かつ、これにより当該拒絶の理由が解消される。また、これにより、特許を受けようとする発明が明確でなくなることはない。

2007/11/16

2003.10.08 「ピジョン v. 特許庁長官(人工乳首事件)」 東京高裁平成14年(行ケ)539

実施例補充型の優先権主張の効果は認められるのか?(人工乳首事件): 東京高裁平成14年(行ケ)539
【背景】
「人工乳首」に関する発明についての、拒絶審決取消訴訟。審決の内容は、本事案において、いわゆる実施例補充型の優先権主張の効果を認めず、特29条の2違反で特許を受けることができないとするものであった。

【要旨】
裁判所は、「後の出願に係る発明が先の出願の当初明細書等に記載された事項の範囲のものといえるか否かは,単に後の出願の特許請求の範囲の文言と先の出願の当初明細書等に記載された文言とを対比するのではなく,後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項と先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項との対比によって決定すべきであるから,後の出願の特許請求の範囲の文言が,先の出願の当初明細書等に記載されたものといえる場合であっても,後の出願の明細書の発明の詳細な説明に,先の出願の当初明細書等に記載されていなかった技術的事項を記載することにより,後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が,先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることになる場合には,その超えた部分については優先権主張の効果は認められないというべきである。」と判示し、本件については、「後の出願の当初明細書等に本願発明1の実施例として記載された~人工乳首は,先の出願の当初明細書等に明記されていなかったばかりでなく,先の出願の当初明細書等に現実に記載されていた~実施例に係る人工乳首の奏する効果とは異なる~特有の効果を奏するものである。したがって,当該~人工乳首の実施例を後の出願の明細書に加えることによって,後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が,先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることになることは明らかであるから,その超えた部分については優先権主張の効果は認められないというべきである。」とし、優先権主張の効果を認めず、請求棄却。

【コメント】
医薬に関する事案でないが、実施例補充型優先権主張の効果に関して非常に重要な判決。実施例補充型の優先権を主張した際、補充された実施例が先の出願当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えると判断された場合には、その部分については優先権主張の効果は認められない。本判決において、その「技術的事項の範囲を超える」との判断のポイントは、補充実施例が先の出願当初明細書に記載の効果とは異なる特有の効果もさらに奏するかどうか、ということであり、つまり、優先権主張の効果の判断に、後の出願の明細書等の記載も考慮するという点である。この判断については今後の判決の蓄積が待たれる。新たな実施例や作用効果を「補充」する際には、先の出願の「技術的事項の範囲」を超えるものでないかどうか注意深く検討し、上位概念クレームの優先権主張の効果を失うリスクとその補充する内容の重要性等を勘案することによって個々の事案毎に出願のストラテジーを検討することになると思われる。


See also

2007/11/10

1999.09.21 「Fuji v. Konica事件」 EPO審決T0859/94

複数の置換基リストから置換基をsingle outする補正は許されるか?(EPOの判断): EPO審決T0859/94

【背景】
「Colour photographic material」に関する出願(出願番号85111246.6/公開番号0177765)。異議申立手続中に提出されたクレームの補正が新規事項の追加であり、A123(2)EPCに反するとした異議部の判断に対して、特許権者は審判部へappealした。
請求人(特許権者)は、審判手続きにおいて、new main requestを提出した。

出願当初クレームで問題となった一般式の記載は左記の通りであった。

wherein at least one of R11 and R12 in the formulae (V) and (VI) is an alkyl group of -C(R1R2R3);
R1 is a straight chain or branched chain or cyclic alkyl group;
R2 and R3 each is a hydrogen atom, a halogen atom, an alkyl group, an aryl group, ・・・etc;
When R11 and R12 are substituents other than the alkyl group of -C(R1R2R3), said substituents each is a hydrogen atom, a halogen atom, an alkyl group,・・・etc;
X is a hydrogen atom, a halogen atom, a carboxy group, a group bonded via an oxygen atom, a group bonded via a nitrogen atom, an arylazo group, or a group bonded via sulfer atom;

補正後(main request)の一般式における変更点は下記のとおりであった。

・両一般式中の6位のR11が-C(R1R2R3)に置き換えられ、R2及びR3は"an alkyl grouop"に限定された。
・R12のリストから"a heterocyclic oxy group"及び"a heterocyclic thio group"が削除された。
・一般式VのXが"a halogen atom"に限定され、一般式VIのXのリストから"a hydrogen atom, a carboxy group, a group bonded via a nitrogen atom and an arylazo group"が削除された。

【要旨】
Catchword
An amendment of a generic chemical formula is not admissible under Article 123(2) EPC if it leads - by deleting meanings of residues - to a particular combination of specific meanings of the respective residues, i.e. to a particular structural feature of the compounds concerned which was not disclosed originally and amounts to an inadmissible singling out of a sub-class of chemical compounds (points 2.4.3 and 2.5 of the Reasons for the Decision).

2.4.3
In the present case, the Appellant's "deletions" amounted - as demonstrated above - to an inadmissible singling out of the specific sub-classes of 6-tertiary-alkyl-pyrazolotriazoles of formulae V and VI encompassed by but not disclosed as such in the application as filed.

請求人(特許権者)は、当業者であれば、tertialy butyl基を有する実施例M-17に基づいて、pyrazolotriazoleの6位にtertiary alkyl基が好ましいと考えるだろうから、R1、R2、R3がalkylである-C(R1R2R3)にR11を限定する補正は許容されるべきで、さらにX及びR12も関係ないと主張した。
しかし、審判部は、「当業者にしてみれば、type V及びtype VIの全ての6-tertiary-butyl化合物をカバーするよう開示した概念の開示が必要であったであろうし、さらに6-primary-alkyl化合物及び6-secondary-alkyl化合物よりも6-tertiary-alkyl化合物が優れているとの結論に至ることが必要があったであろう。しかし、請求人から証拠は示されなかった(point 2.4.1 of the Reasons for the Decision)。」と言及し、請求人(特許権者)の主張を退けた。

補正はA123(2)EPCの下、許容されない。
請求棄却。

【コメント】
医薬に関する発明ではないが、一般式で示された化合物の置換基リストから選択肢を削除する補正において、新規事項追加の判断が厳格に適用された審決。いざというときにA123(2)に違反せずにsub-classのsingling outができるよう、クレーム又は明細書に充分な記載をしておく必要がある。実施例に依拠した概念を抽出した補正に頼るのは避けたほうがよい。