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2008/04/05

2007.06.28 「Takeda v. Alphapharm」 CAFC Docket No.06-1329

ACTOS(アクトス)米国特許侵害訴訟: CAFC Docket No.06-1329

【背景】
武田薬品が販売するチアゾリジンジオン系糖尿病治療薬である塩酸ピオグリタゾン(pioglitazone hydrochloride、商標名:ACTOS、アクトス)について、ジェネリックメーカーであるAlphapharm社がFDAにANDA申請したことに対し、特許権者である武田薬品が侵害訴訟を提起した。Alphapharm社は、該特許(US4,687,777)は自明であり、特許は無効である等を主張した。地裁は特許は有効であると判断、Alphapharm社は控訴した。
争われたクレームは下記の一般式



で表されるピオグリタゾンをカバーする化合物等であり、公知化合物は、ピリジン環の6位にメチル基を有する点のみが構造上異なるチアンゾリンジオン誘導体(化合物b)であった。



【要旨】
CAFCは、
「化学物質における一応の自明性(prima facie obviousness)を判断する際に、
"prior art would have suggested making the specific molecular modifications necessary to achieve the claimed invention"
であることを明示するよう要求してきた判断は、KSR事件で最高裁が出した法理に一致しており、従って、
"in cases involving new chemical compounds, it remains necessary to identify some reason that would have led a chemist to modify a known compound in a particular manner to establish prima facie obviousness of a new claimed compound."
である」
と言及した。

Alphapharm社は、
「当業者なら化合物bをリード化合物として選択するだろうし、そうすれば、
"one of ordinary skill in the art would have made two obvious chemical changes: first, homologation, i.e., replacing the methyl group with an ethyl group, which would have resulted in a 6-ethyl compound; and second, “ring-walking,” or moving the ethyl substituent to another position on the ring, the 5-position, thereby leading to the discovery of pioglitazone"」
と主張し、また、
「KSR事件での判断に依拠して、"homologation"及び "ring-walking"の技術を使用することは"obvious to try"であった」
と主張した。

しかし、CAFCは、化合物bの副作用の懸念を示唆した文献を考慮して、
"Significantly, the closest prior art compound (compound b, the 6-methyl) exhibited negative properties that would have directed one of ordinary skill in the art away from that compound."
と認定し、当業者なら化合物bをリード化合物として選択するであろうとのAlphapharm社の主張に同意しなかった。

さらに、CAFCは、武田薬品が毒性という点でピオグリタゾンと化合物bとは有意に異なる旨を示している点を挙げ、たとえ上記のAlphapharm社の主張が認められたとしても、
"Takeda rebutted any presumed expectation that compound b and pioglitazone would share similar properties."
であると判断した。

Alphapharm社はクレームされた化合物がprima facie obviousであったであろう点を証明できておらず、特許は有効であるとの地裁判断に誤りはないとし、特許有効判決を支持した。

【コメント】
化学物質における一応の自明性(prima facie obviousness)が争われた事例。判決文中にKSR事件での最高裁の判断を明確に考慮している点でも注目すべき判決。
但し、補足意見で指摘されているように、ピオグリタゾン以外の6-ethyl compoundについては予期できない結果を示す証拠は示されておらず、ピオグリタゾンに限定されていないgenus claimであるクレーム1及び5を有効とした判断については果たして妥当なのかどうか疑問である。
Orange Bookによれば、本件特許の存続期間は2011年1月17日までとのこと。

CAFC判決を不服としてAlphapharm社は米国最高裁判所に上告していたが、2008年3月31日、同裁判所は上告を棄却する決定を下した。

参考:


2007/12/04

2005.01.27 「Vertex v. Guilford」 EPO審決T134/01

ディスクレーマーの許容性(EPOの判断): EPO審決T134/01

【背景】
本件発明は医薬に有用な化合物(Novel immunosuppressive compounds having an affinity for FK-506 binding protein)のクレーム。ある化合物(especially used as analeptics)を開示した文献(5)による新規性欠如を回避するために、ディスクレーマーを行った。しかし、文献(5)が、ディスクレーマーの要件となるaccidental anticipationに該当するか否かが争われた。

【要旨】
文献(5)は医薬分野、すなわち本件発明と同じ技術分野に属する。従って、文献(5)は、ディスクレーマーが許される要件のうち、accidental anticipationには該当しない。従って、ディスクレーマーはArt.123(2)EPCに反し、認められない。

【コメント】
化合物クレームと公知文献との技術分野が医薬分野として共通していれば(たとえ、具体的な作用メカや医薬用途が異なっていたとしても)、accidental anticipationに該当しないと判断され、ディスクレーマーをすることはできない。
日本には無い要件である。しかもaccidental anticipationは非常に狭く解釈されている。
出願前の新規性調査は念入りに。また、ディスクレーマーに頼らなくても補正できるようにクレーム・明細書には十分な措置を施しておくことに留意すること。

参考:ディスクレーマーの許容性が示されたEPO審決

2007/11/17

2001.11.29 「ウェルカム/グラクソ v. 沢井製薬(アシクロビル事件)」 東京高裁平成13年(ネ)959

購入製剤から有効成分を抽出して製剤を製造販売する行為は再生産?それとも消尽?(アシクロビル事件): 東京高裁平成13年(ネ)959

【背景】

アシクロビルをカバーする化学物質発明の特許権(特公昭56-033396; 登録番号1090820)の存続期間が延長された。原告(グラクソ)は、本件特許権の独占的通常実施権者である。一方、被告(沢井製薬)は、特許権の延長期間中に、原告が製造販売する製剤を購入した上で、その製剤から有効成分であるアシクロビルを抽出・精製し、被告製剤を製造・販売した。原告は、被告が製造販売した製剤が特許権を侵害するとして損害賠償を請求した。

アシクロビルは、帯状疱疹等を効能効果とする抗ウイルス化学療法剤(販売名: ゾビラックス(Zovirax))の有効成分である。

【要旨】
裁判所は、
「被控訴人沢井製薬が,原告製剤からアシクロビルを取り出し,精製し,再結晶させた前記の行為が,控訴人グラクソが販売した原告製剤に含まれるアシクロビルをその同一性の範囲内で単に使用し,譲渡等する行為とみられる限り,本件特許権の効力は,前記のとおり,消尽により消滅しているため,これには及ばないものであり,本件特許権の効力が及ぶのは,被控訴人沢井製薬の上記行為が,本件特許発明の実施対象であるアシクロビルを生産したものと評価される場合のみであることは,前記のとおりである。
しかし,~被告製剤に含まれるアシクロビルは,原告製剤に含まれていたアシクロビルそのものであって,アシクロビルについて何らかの化学反応が生じたり,何らかの化学反応によりアシクロビルが新たに生成されたりしたわけではないのであるから,被控訴人沢井製薬の行為についてみると,本件特許発明の実施対象であるアシクロビルを新たに生産したものと評価することはできないのである。
以上によれば,被控訴人沢井製薬が,原告製剤からアシクロビルを取り出して,これを含有する被告製剤を製造した行為は,本件特許発明の実施対象となるアシクロビルを生産する行為ではなく,単にこれを使用する行為というべきであるから,本件特許発明の実施対象という側面からみる限り,これを新たな生産行為ということはできず,したがって,被控訴人沢井製薬による被告製剤の製造行為についても,被控訴人らがこれを譲渡した行為についても,本件特許権の効力は及ばないものという以外にない。」
と判断した。また、
「本件は,特許製品の部品を交換した事例ではないが,あえて部品交換の事例に例えていえば,特許発明の実施対象であるアシクロビルを部品として使用した製品(原告製剤)から,その部品そのものを取り出し,これを他の製品(被告製剤)の部品として使用しただけのことであり,実施対象であるアシクロビルは,その同一性を維持しつつ,その本来の目的に供されているだけのことである。」
「本件特許発明の対象となる部分は、アシクロビルであり、原告製剤全体でも、被告製剤全体でもないのであるから、~アシクロビルについてのみ、本件特許発明の実施品としての同一性を検討したのは正当であり、原告製剤と被告製剤との間でその同一性を判断する必要は無い。」
と言及した。

特許権の効力は消尽により消滅しているため及ばないし、また、被告の行為は、本件特許発明の実施対象であるアシクロビルを新たに生産したものと評価することはできないので、特許権の効力は及ばない。控訴棄却。

【コメント】
化学分野で、消尽と再生産が争点とされた数少ないケース。後発品メーカーが、特許侵害せずに販売義務を履行するためやむを得ず行った行為(薬価の高い先発品をわざわざ購入して、薬価の低い後発品を販売するという採算の合わない行為)であり、レアなケースではなかろうか。アシクロビルという物質(有効成分)にしか特許権が成立しておらず、製剤そのものについては特許権は成立していない。従って、発明の対象であるアシクロビルを再生産していない限り、消尽であるという裁判所の判断は妥当だろう。
原告は、「アシクロビルを含有する医薬組成物」のようなクレームもセットで特許を取得していたならば、被告行為が製剤の再生産に該当するから侵害であるという主張を発展できたかもしれない。

See also

2007/11/13

2003.01.29 「除草剤性イミダゾール事件」 東京高裁平成13年(行ケ)219

化学物質発明について明細書には何が開示されるべきか?(除草剤性イミダゾール事件) : 東京高裁平成13年(行ケ)219

【背景】
化合物の一部について、具体的な構造式が記載されていたものの、それらの物性データ及び除草活性テストの結果について記載していなかったため、発明未完成が問われた事案。

【要旨】
「いわゆる化学物質発明は、・・・その成立性が肯定されるためには、化学物質そのものが確認され、製造できるだけでは足りず、その有用性が明細書に開示されていることを必要とする。」との化学物質発明の成立要件を判示した。本件化合物については、除草効果が全く確認されていないものを相当含まれること及び置換基が異なればその効果の有無に差異が生ずることが予測されることから、本件化合物の除草活性について裏づけを全く欠く明細書の記載からは、有用性が当業者に予測可能であるということはできず、未完成発明というべきである・・・として、特許性を否定された(特29条柱)。

【コメント】
化学物質発明は、化学物質そのものが確認され、製造できるだけでは足りず、その有用性が明細書に開示されていることを必要とする。審査基準によれば、明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者の観点から、実施可能要件及びサポート要件が判断される。しかし、クレーム範囲まで一般化・拡張できると信じて記載した出願が特許になったとしても、第三者から記載要件違反を理由に攻撃される恐れがある。従って、確実な特許性を確保するためには、化合物全てに確認(物性)データ、薬理データ(有用性、実施可能性の担保)を掲載するのがより望ましいのではなかろうか。

2007/11/11

2000.09.05 「杏林製薬 v. 特許庁長官」 東京高裁平成11年(行ケ)207

化学物質発明の物性データが基礎出願時に無い場合、優先権の利益は認められるか?: 東京高裁平成11年(行ケ)207

【背景】
原告は、「8-メトキシキノロンカルボン酸の製造中間体」との発明の特許権者。異議申立てがあり、本件発明は基礎出願の明細書(基礎明細書)に記載されていると認められないから優先権の利益を得られず、出願日前の公開引例によって特29条の2違反とされ特許取消の決定が下されたため、原告は取消決定取消を求め訴訟を提起した。出発物質(化合物Ⅱ)は優先日において新規化合物だったが、基礎明細書にはその製造方法及び物性値等の記載がなかった。また、発明化合物(化合物Ⅰ)へと導く製造方法に関する記載についても、基礎明細書には合成経路図が記載されていたのみで、各工程の反応溶媒、温度、化合物使用量等の反応条件等は記載されていなかった。

【要旨】
裁判所は、「化学物質につき特許が認められるためには、それが現実に提供されることが必要であり、単に化学構造式や製造方法を示して理論上の製造可能性を明らかにしただけでは足りず、化学物質が実際に確認できるものであることが必要であると解すべきである。なぜなら、化学構造式や製造方法を机上で作出することは容易であるが、そのことと、その化学物質を現実に製造できることとは、全く別の問題であって、机上で作出できても現実に製造できていないものは、未だ実施できない架空の物質にすぎないからである。そして、ある化学物質に係る特許出願の優先権主張の基礎となる出願に係る明細書に、その化学物質が記載されているか否かについても、同様の基準で判断されるべきことは明らかである。」と一般原則を示し、本件においては、「基礎明細書には、化合物Ⅱの製造方法はもとより、その物性等、これが現実に製造されたことを示す根拠も記載されていないから、実際に確認できるものではない。従って、化合物Ⅱが基礎明細書に記載されているということはできない。~そうである以上、基礎明細書には、化合物Ⅱを出発物質とする化合物Ⅰは、その製造方法が記載されていないというべきである。しかも、基礎明細書には、化合物Ⅰの物性等、これが現実に製造されたことを示す根拠も記載されていないのであるから、化合物Ⅰは実際に確認できるものではない。したがって、化合物Ⅰが基礎明細書に記載されていると認めることはできない。」と判断した。原告は、当業者であれば公知刊行物に記載の方法に準じてそれら化合物を合成することは容易であり優先権の利益は得られる旨を主張したが、裁判所は、化学反応においては他の置換基の性質、反応性等により、反応が異なり得るとして、原告の主張を認めなかった。
また、原告は、「①化合物Ⅰの構造式から予測できる物性値と得られた化合物を測定した物性値とを対比することによって、目的物の確認をすることが可能である、②その公開公報には具体的な合成方法や物性が記載されていたのであるから、発明の追試者が実質的に不利益を被るということはない」と主張した。しかし、裁判所は、「①については、原告は、原告が構造式から予測していた物性値がどのようなものであったか自体を明らかにしないうえ、何故にその「予測される物性値」が現実の物性値と必ず一致するというのかが全く不明であり(一致しない場合があり得るというのなら、得られた化合物の物性値との対比による確認ができないことになり、結局、確認はできないことになる。)、②は、本件優先日から出願の公開までに原告が知った合成方法や物性によって、原告が机上の化学構造を作出した時点である本件優先日を出願日とする特許が得られると主張するに等しいものであって、いずれも失当であることは明らかである。」と判断した。
また、原告は、「化合物Ⅰの製造中間体としての有用性が、基礎明細書に、化学式及び反応経路図で記載されている」と主張した。しかし、裁判所は「単に化学構造式や製造方法を示しただけでは、明細書に化合物が記載されているとすることができないことは、前示のとおりである。原告の主張は、採用することができない。」とした。請求棄却。

【コメント】
化学物質発明の確認データ(本件は物性データ)の重要性を示した判決。合成経路に新規化合物を使用した場合には、基礎出願時に、しっかりと当業者が追試できるように、その製造方法及びその確認データを明細書に記載するよう気をつけなければならない。

2007/11/10

1999.09.21 「Fuji v. Konica事件」 EPO審決T0859/94

複数の置換基リストから置換基をsingle outする補正は許されるか?(EPOの判断): EPO審決T0859/94

【背景】
「Colour photographic material」に関する出願(出願番号85111246.6/公開番号0177765)。異議申立手続中に提出されたクレームの補正が新規事項の追加であり、A123(2)EPCに反するとした異議部の判断に対して、特許権者は審判部へappealした。
請求人(特許権者)は、審判手続きにおいて、new main requestを提出した。

出願当初クレームで問題となった一般式の記載は左記の通りであった。

wherein at least one of R11 and R12 in the formulae (V) and (VI) is an alkyl group of -C(R1R2R3);
R1 is a straight chain or branched chain or cyclic alkyl group;
R2 and R3 each is a hydrogen atom, a halogen atom, an alkyl group, an aryl group, ・・・etc;
When R11 and R12 are substituents other than the alkyl group of -C(R1R2R3), said substituents each is a hydrogen atom, a halogen atom, an alkyl group,・・・etc;
X is a hydrogen atom, a halogen atom, a carboxy group, a group bonded via an oxygen atom, a group bonded via a nitrogen atom, an arylazo group, or a group bonded via sulfer atom;

補正後(main request)の一般式における変更点は下記のとおりであった。

・両一般式中の6位のR11が-C(R1R2R3)に置き換えられ、R2及びR3は"an alkyl grouop"に限定された。
・R12のリストから"a heterocyclic oxy group"及び"a heterocyclic thio group"が削除された。
・一般式VのXが"a halogen atom"に限定され、一般式VIのXのリストから"a hydrogen atom, a carboxy group, a group bonded via a nitrogen atom and an arylazo group"が削除された。

【要旨】
Catchword
An amendment of a generic chemical formula is not admissible under Article 123(2) EPC if it leads - by deleting meanings of residues - to a particular combination of specific meanings of the respective residues, i.e. to a particular structural feature of the compounds concerned which was not disclosed originally and amounts to an inadmissible singling out of a sub-class of chemical compounds (points 2.4.3 and 2.5 of the Reasons for the Decision).

2.4.3
In the present case, the Appellant's "deletions" amounted - as demonstrated above - to an inadmissible singling out of the specific sub-classes of 6-tertiary-alkyl-pyrazolotriazoles of formulae V and VI encompassed by but not disclosed as such in the application as filed.

請求人(特許権者)は、当業者であれば、tertialy butyl基を有する実施例M-17に基づいて、pyrazolotriazoleの6位にtertiary alkyl基が好ましいと考えるだろうから、R1、R2、R3がalkylである-C(R1R2R3)にR11を限定する補正は許容されるべきで、さらにX及びR12も関係ないと主張した。
しかし、審判部は、「当業者にしてみれば、type V及びtype VIの全ての6-tertiary-butyl化合物をカバーするよう開示した概念の開示が必要であったであろうし、さらに6-primary-alkyl化合物及び6-secondary-alkyl化合物よりも6-tertiary-alkyl化合物が優れているとの結論に至ることが必要があったであろう。しかし、請求人から証拠は示されなかった(point 2.4.1 of the Reasons for the Decision)。」と言及し、請求人(特許権者)の主張を退けた。

補正はA123(2)EPCの下、許容されない。
請求棄却。

【コメント】
医薬に関する発明ではないが、一般式で示された化合物の置換基リストから選択肢を削除する補正において、新規事項追加の判断が厳格に適用された審決。いざというときにA123(2)に違反せずにsub-classのsingling outができるよう、クレーム又は明細書に充分な記載をしておく必要がある。実施例に依拠した概念を抽出した補正に頼るのは避けたほうがよい。

2007/11/09

1997.12.16 「Ciba Corning Diagnostics事件」 EPO審決T0615/95

一般化学式から置換基を間引く補正は新規事項の追加か?(EPOの判断): EPO審決T0615/95

【背景】
「Acridinium ester」に関する出願(出願番号89309705.5/公開番号0361817)について、補正が新規事項の追加でありA123(2)EPCに反することを理由に拒絶査定となったことに対して、出願人は審判部へappealした。
右記一般式中の独立した3つの置換基(R4, R8, R6)各々から、選択肢を1つずつ削除する補正(R6は形式上disclaimerだったが)を、審査部はA123(2)EPCに反する、特にR4とR8から水素原子を削除した補正に関しては、"novel selection"へと導くとの判断であった。

【要旨】
審判部の判断
If there are three independent lists of sizeable length specifying distinct meanings for three residues in a generic chemical formula in a claim, then the deletion in each list of one originally disclosed meaning is allowable under Article 123(2) EPC if it does not result in singling out any hitherto not specifically mentioned individual compound or group of compounds, but maintains the remaining subject-matter as a generic group of compounds differing from the original group only by its smaller size. Such shrinking of the generic group of chemical compounds is not objectionable if these deletions do not lead to a particular combination of specific meanings of the respective residues which was not disclosed originally or, in other words, do not generate another invention (see no. 6 of the Reasons for the Decision).
拒絶査定を無効とし、審査部に差し戻した。

【コメント】
EPOでは、新規事項追加の判断において、いわゆる"novelty test"を運用して厳格に適用しているが、一般化学式の独立した複数の置換基各々から、選択肢を1つずつ削除する補正なら許容されるようである。

2007/11/06

1994.03.22 「除草剤性イミダゾール事件」 東京高裁平成2年(行ケ)243

化学物質発明について明細書には何が開示されるべきか?(除草剤性イミダゾール事件) : 東京高裁平成2年(行ケ)243

【背景】
数多くの化合物の構造を開示していたが、具体的な製造方法、物性(融点)、除草活性テストの結果について明細書に開示しているものは一部だった。問題となった2つの化合物について、当初明細書に構造は開示されていたが、その具体的な製造方法、物性、除草活性テストの結果は開示されておらず、それらを追加する補正が、当初明細書からの要旨変更か否かが問題となった。

【要旨】
「いわゆる化学物質発明は、・・・その成立性が肯定されるためには、化学物質そのものが確認され、製造できるだけでは足りず、その有用性が明細書に開示されていることを必要とする。」との化学物質発明の成立要件を判示した。さらに、その化学物質の製造可能性については「類似のもので、提供し得たも同然のものと評価されるものであれば、それも確認されたものとして取り扱うべきである」と説示し、また、有用性の判断については「一般に化学物質発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり、試験してみなければ判明しない」のであるから、「実際に試験することによりその有用性を証明するか、その試験結果から当業者にその有用性が認識できることを必要とする」と説示した。本件については製造可能性は肯定されたが有用性を否定された。

【コメント】
化学物質発明は、化学物質そのものが確認され、製造できるだけでは足りず、その有用性が明細書に開示されていることを必要とする。補正の要旨変更(旧法)の事案であるが、化学物質発明の特許性について何が開示されるべきかを裁判所が示した事案である。審査基準によれば、明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者の観点から、実施可能要件及びサポート要件が判断される。しかし、クレーム範囲まで一般化・拡張できると信じて記載した出願が特許になったとしても、第三者から記載要件違反を理由に攻撃される恐れがある。従って、確実な特許性を確保するためには、化合物全てに確認(物性)データ、薬理データ(有用性、実施可能性の担保)を掲載するのがより望ましいのではなかろうか。