病態部位と微生物を特定した細菌感染治療法: 知財高裁平成18年(行ケ)10219
【背景】
「家畜抗菌剤としての8a-アザライド」に関する発明を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。
請求項1:
「家畜の呼吸器又は腸内の細菌感染の治療又は予防方法であって,前記治療又は予防を必要とする家畜に治療又は予防的に有効な量の8a-アザライドを投与すること,呼吸器又は腸内に感染する微生物がパスツレラ種,アクチノバシラス種,Haemophilus somnus,マイコプラズマ種,Treponema hyodysenteriae又はサルモネラ種であること,及び,前記8a-アザライドが式I:
【化1】(省略)
をもつ化合物又は医薬的に許容されるその塩,又は医薬的に許容されるその金属錯体であり,前記金属錯体が銅,亜鉛,コバルト,ニッケル及びカドミウムから構成される群から選択され,前記式中,
R1は‥‥‥(置換基の特定に関する記載は省略)‥‥‥
であることを特徴とする前記方法。」
引用発明1との一致点・相違点:
(一致点)
「家畜の細菌感染の治療方法であって,前記治療を必要とする動物に治療に有効な量の,引用例1記載の式(Ⅱ)の化合物を投与する治療方法」である点。
(相違点)
本願補正発明は,細菌感染が呼吸器又は腸内の細菌感染であって,感染する微生物がパスツレラ種,アクチノバシラス種,Haemophilus somnus,マイコプラズマ種,Treponema hyodysenteriae又はサルモネラ種であることが特定されているのに対し,引用例1では明記されていない点。
【要旨】
裁判所は、
「マクロライド系の抗生物質であるエリスロマイシンが,パスツレラ菌の接種によって起こる子牛の肺炎の治療に有効であることが引用例2に記載されている。」
と認定した審決に誤りはなく、
引用例1の記載部分は、
「当業者に対し,その化合物がエリスロマイシンと同じ目的,用途に利用できることを示唆していると解するのが自然である。」
と判断した。
これに対し原告は、
「8a-アザライドは他のマクロライド抗生物質と構造が異なり,その抗菌活性を予測することができないから,家畜の呼吸器感染症に適用することを推論することに阻害事由がある」
との阻害要因の存在を主張した。
しかし裁判所は、
「原告が根拠とする甲23~27は,いずれも本願の出願後の文献であるが,各記載内容を見ても,マクロライド分子の①安定性,②浸透性,③リボソーム結合性に関する知見が本願の優先権主張日当時の技術常識であると認めるに足る記載はない。」
と判断し、阻害事由があるとの主張は採用することができないとした。
格別の作用効果について
原告は、8a-アザライドに関する実験データと従来のチルミコシンに関する実験データとを比較した試験結果を提示し,顕著な治療効果をもたらすものであると主張した。
しかし、裁判所は、
「本願補正明細書には,上記アのとおり,本願補正発明の具体的な効果については,特定の病原生物に対する抗菌活性範囲が記載されているのみであって,従来のマクロライド系抗生物質と比較してどの程度に有利な効果があるのかは何も開示されていない。
したがって,本願出願後に提示された試験結果に基づく有利な作用効果は,本願補正明細書の記載から推測できるものではないから,原告の主張は採用できない。」
と判断した。
進歩性なし。
請求棄却。
【コメント】
進歩性判断における有利な効果の参酌の可否について、明細書の記載を問題としている。
本願発明は引例と有効成分である化合物の点で一致しており、病態部位を限定している点(呼吸器又は腸内)、及び微生物を特定している点で相違しているのであるから、示すべき格別の作用効果についての考え方として、そもそも従来の化合物と比較しても意味が無く、相違点に注目して、他の部位や、他の微生物と比較した効果があるか否かを検討するのが正しい筋道ではなかろうか。
2008/04/13
2008.03.31 「メルク v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10219
Categories *Case2008, Advantageous effects, Inventive step/Obviousness, ★★, ・Indication
2008/04/08
2008.03.19 「フランシスカス v. 特許庁長官」 知財高裁平成19年(行ケ)10270
鼻内投与製剤の形態をパウダーにすること、賦形剤として糖類又は糖アルコールを含有すること: 知財高裁平成19年(行ケ)10270
【背景】アポモルヒネの鼻内投与製剤に関する発明(特表平8-508472号)を進歩性なしとした拒絶審決の取消訴訟。
請求項1:
「鼻内投与用のパウダー状の薬剤組成物であって,アポモルヒネ又はアポモルヒネ塩と賦形剤とを含有しており,前記賦形剤が糖類または糖アルコールを含んでいる,薬剤組成物。」
(引用発明Aの内容)
パーキンソン病の患者に対しアポモルヒネ1%溶液が鼻腔内投与用の薬剤組成物として使用されたこと。
(一致点)
いずれも「アポモルヒネを含む鼻内投与用の薬剤組成物」である点。
(相違点1)
本願発明はパウダー状であるのに対し,引用発明Aは溶液状である点。
(相違点2)
本願発明は賦形剤として糖類又は糖アルコールを含むのに対し,引用発明Aは賦形剤についての記載がされていない点。
【要旨】
取消事由1(相違点1の判断の誤り)について
裁判所は、
「鼻内投与用の薬剤組成物についてパウダー状組成物の構成を採用することは,本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)にとって容易に想到できるものであることは明らかである。」
と判断した。
これに対し原告は、引用例A中の副作用の存在(阻害要因1)や、粉末形態投与による不快感(阻害要因2)、刺激性のリスク(阻害要因3)、治療効率を悪化させる可能性(阻害要因4)といった阻害要因を主張したが、裁判所は、阻害要因になるというほどのものではないとして採用せず。
取消事由2(相違点2の判断の誤り)について
裁判所は、
「アポモルヒネを含有する薬剤組成物をパウダー状とするに当たり,賦形剤として糖類又は糖アルコールを含むものとする相違点2の構成は,当業者において容易想到である」
と判断した。
これに対し、原告は、
「既知の多くの物質群の中から本願発明と同様の賦形剤を選択することは,当業者にとって容易ではなかった」
と主張した。
しかし裁判所は、
「本願の優先日前において糖又は糖アルコールの賦形剤自体が一般的であったと認められるのであるから,賦形剤として他に多くの物質が既知であるからといって,そのことから直ちに糖又は糖アルコールを賦形剤として用いることが困難となるものではない。」
として原告主張を採用しなかった。
取消事由3(本願発明の効果に関する判断の誤りに)について
原告は、
「甲4~6実験を挙げつつ,本願発明は①副作用が少なく②生物学的利用能が高いという顕著な効果を有する」
旨主張した。
しかし裁判所は、
「甲4~6実験の内容は本願明細書に開示されておらず,いずれも本願の出願後に公表ないし実験されたものであるから~同実験の結果をもって本願発明についての効果を論ずることは失当といわなければならない。
そして,本願明細書(甲16)には,~具体的に適用した試験例は記載がなく,ただ,「…この水溶液の最大欠点は,アポモルヒネに安定性が欠けていることである。」(10頁11行~12行)として従来技術の液剤の欠点を述べた上で,「…本発明によると,…アポモルヒネの驚くほど高い生物学的利用能及び優れた安定性を得ることができる。」と記載されているにすぎない(10頁15行~18行)のであるから,このような記載をもって本願発明が顕著な効果を有すると認めることはできない。なお,原告が提出した甲4~甲6実験は,~原告主張の上記①,②の効果が格別顕著であることを示すものではない。」
と判断し、原告主張は採用することができないとした。
進歩性なし。
請求棄却。
【コメント】
鼻内投与製剤の形態の選択肢として、
パウダーが知られている点、及び
鼻内投与製剤の賦形剤の選択肢として、糖類又は糖アルコールが知られている点
を考慮すれば、それらを採用するのには動機付けが存在するだろうから、予測できない効果を主張できるか否かが進歩性のハードルをクリアできるかどうかの一番のポイントであった。
残念ながら、明細書には顕著な効果を有すると認めることのできる試験例は開示されていなかったようである。また、原告主張の阻害要因は、動機付けを否定できる(当業者であれば試してみようと思わないといえる)ほどの強いものではなかった。
参考:
2008/03/24
2006.10.25 「ノバルティス v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10773
薬剤耐性という観点で疾患を限定した医薬発明に進歩性は認められるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10773
【背景】ノバルティス(Novartis)を出願人とする本願発明(出願番号: 平成8年特許願第533792号)は、テルビナフィン(terbinafine)とアゾール系14 α-メチルデメチラーゼ阻害剤の併用抗真菌剤であり、対象疾患を「アゾール耐性真菌感染症」と限定していた。同一併用抗真菌剤だが、耐性菌株について記載のない引用例が進歩性を否定するか否かが争われた。
【要旨】
原告は、
「本願発明の相乗的な薬理効果を予測することは困難であった」
と主張したが、
裁判所は、
「審決は~本願発明にいう相乗効果を奏するか否かについて,判断しているのではなく,既に2種の抗真菌剤の併用の相乗効果を奏するとされた引用例によって,~テルビナフィンとアゾール系阻害剤という具体的組合せについて,アゾール耐性真菌株に対しても,その組合せによる相乗効果が奏されることを困難なく予測ないしは期待して,用いることができるか否かを判断したものである。
そして,本願明細書~によれば,本願当時,既に,耐性真菌の出現は当該技術分野における重要な課題であったものであり,~テルビナフィンとアゾール系阻害剤を含む抗真菌組成物が,ある種のアゾール耐性真菌株誘起の真菌感染症に対しても,それぞれ単独で用いる場合とは異なる作用機序による相乗的な治療効果が得られることを期待することは,当然のことであるというべきである。したがって,引用例に接した当業者においては,その引用例に記載されたテルビナフィンとアゾール系阻害剤を含む抗真菌組成物が,アゾール耐性真菌株誘起の真菌感染症に対しても治療効果を有することを予測ないしは期待し,これを確認しようと動機付けられるものというべきである。したがって,引用例に接した当業者が耐性菌に対しても引用例記載の2剤併用の抗真菌組成物を用いることは容易に想到できるものであり,原告主張の取消事由は理由がないことが明らかである。」
と判断し、進歩性を否定した。
請求棄却。
【コメント】
課題が知られている場合には、動機付けは確立され易い。
本事件では、進歩性判断において、積極的な動機付けがあるという点が問題となった。一方、効果の参酌という点は、既に2種の抗真菌剤の併用の相乗効果を奏するとされた引用例が存在していたことによって、主な議論の対象とはならなかった。
本願発明は、上位概念である「真菌感染症」という用途(疾患)を「アゾール耐性真菌感染症」という特定の用途(疾患)に限定した選択発明である(ありえる)、という見方で捉えることもできるだろう。しかし、特定の用途(疾患)を特徴とする選択発明として進歩性を担保するためには、上位概念用途(疾患)で包含される他の下位概念用途(疾患)と比較して、その選択発明として選択した特定用途(疾患)に顕著な効果・異質な効果があることを主張する必要がある。「アゾール耐性真菌感染症」以外の真菌感染症、すなわち、普通(?)の真菌感染症にも優れた効果がある以上、それに比べて格別顕著な効果を「アゾール耐性真菌感染症」という選択肢に見出すことは困難であり、効果の参酌が議論されたとしても、進歩性なしの結論に変わりはなかったと思われる。
参考:
2008/03/16
2006.10.17 「X v. 日立製作所」 最高裁平成16年(受)781
職務発明 - 外国特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求: 最高裁平成16年(受)781
【背景】
原告Xは、職務発明について、我が国の特許を受ける権利と共に外国の特許を受ける権利を使用者に譲渡したことにつき、使用者に対し、特35条所定の相当の対価の支払を求めた。日立は、外国特許に基づき、複数の企業との間で実施許諾契約を締結し、その実施料を収受するなどして利益を得ていた。
【要旨】
「従業者等が特35条1項所定の職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合において,当該外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については、同条3項及び4項の規定が類推適用されると解するのが相当である。」
【コメント】
従業者は、使用者に職務発明に係る外国特許を受ける権利を譲渡したときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。
Categories *Case2006, Inventorship/Remuneration, ★★
2008/03/13
2006.09.28 「アボット・セントラル硝子 v. バクスター」 東京地裁平成17年(ワ)10524
セボフルラン(Sevoflurane)- 貯蔵方法の特許権が後発品排除に有効に働いた事例: 東京地裁平成17年(ワ)10524
【背景】ルイス酸抑制剤で被覆する工程を含むセボフルランの貯蔵方法に関する特許(第3664648号)を有する原告(アボット、アエントラル硝子)が、被告(バクスター)に対し、被告が輸入および販売の準備をしている後発品で全身吸入麻酔剤「セボネス」(一般名:セボフルラン)の生産方法が本件特許の技術的範囲に属するとして、被告製品の輸入、販売および販売の申出の差止めを求めた。
請求項1:
「一定量のセボフルランの貯蔵方法であって,該方法は,
内部空間を規定する容器であって,かつ該容器により規定される該内部空間に隣接する内壁を有する容器を供する工程,
一定量のセボフルランを供する工程,
該容器の該内壁を空軌道を有するルイス酸の当該空軌道に電子を供与するルイス酸抑制剤で被覆する工程,及び
該一定量のセボフルランを該容器によって規定される該内部空間内に配置する工程
を含んでなることを特徴とする方法。」
【要旨】
本件特許のルイス酸抑制剤は、明細書に具体的に記載された化合物に限定されず、被告方法のエポキシフェノリックレジンのラッカーもこのルイス酸抑制剤に含まれるとして、被告方法は本件特許発明の構成要件を充足する。被告は、本件特許が36条及び補正要件違反に基づく無効理由を有すると主張したが、裁判所は採用できないと判断した。
請求認容。仮執行できると判決。
【コメント】
不安定な性質を有する有効成分の貯蔵に関する特許が、有効にジェネリックメーカーの実施を差し止めた事案。方法でなく、物を製造する方法の発明とされた(被告は争わなかった)点も、輸入・販売等を差止めできたポイントでは。
セボフルランは1968年に米国トラベノール社(Travenol Laboratories、現米国バクスター(Baxter)社)によって合成された。丸石製薬がトラベノール社より開発権を取得し、日本並びに海外における開発に着手、1990年に「セボフレン」の販売名で世界に先駆けて日本で製造承認申請を行い販売開始。1992年には米国アボットが日本など一部の国を除く全世界の開発権を取得、その開発過程で、本件特許発明を創作したのであろう。セボフルランの合成に成功したバクスターは開発権を手放したにもかかわらず、セボフルランが吸入麻酔剤として成功すると後発品を販売しようとした。しかし、開発権を取得し、本件特許も取得していたアボットにより特許権侵害を理由に差し止められてしまった。
それにしても、分割出願も多いが、無効審判の数も多い・・・(下記)。本判決後にバクスターが請求した無効審判の結果は・・・。
原告特許に関連した日本出願ファミリー:
特願平10-532168/特表2000-510159/特許3183520
無効審判2005-080139(平17.5.6): 高裁出訴
無効審判2006-080095(平18.5.22): 審判請求取下
無効審判2007-800138(平19.7.20): 係属中
(審判請求人はいずれもバクスター)
↓
特願2000-349024/特開2001-187729/特許3664648
無効審判2006-080264(平18.12.15): 結審通知(平20.2.13)
無効審判2006-080265(平18.12.15): 結審通知(平20.2.13)
無効審判2007-800195(平19.9.14): 結審通知(平20.2.13)
(審判請求人はいずれもバクスター)
↓
特願2005-109476/特開2005-279283: 出願却下処分
↓
特願2005-374621/特開2006-143742: 出願却下処分
特願2005-374622/特開2006-137769: 出願却下処分
参考:
Categories *Case2006, Infringement, ★★, ・Package/Container
2008/03/08
2007.09.10 「大洋薬品 v. アステラス」 知財高裁平成19年(ネ)10034
セフジニルの結晶形特許の有効性は?: 知財高裁平成19年(ネ)10034
【背景】
2007.03.13 「アステラス v. 大洋薬品」 東京地裁平成17年(ワ)19162の控訴審。
抗生物質セフジニル(商品名:セフゾン®カプセル)のA型結晶に関する発明(特許第1943842)の特許権者であるアステラス製薬が、その後発医薬品としてセフジニルを有効成分とする大洋薬品製剤の製造販売の差止め及び同製剤の破棄を求め特許侵害訴訟を提起。主に、本件特許の出願日前に公開されたセフジニルの物質発明に係る引例に基づき、本件特許が新規性を欠く発明に対してなされたもので無効にされるべきか否か、が争われた。
地裁は、引例明細書中の実施例に開示されたセフジニルとA型結晶とのIRスペクトルが一致しないことから、両者は同一であるとはいえない、と判断した。また、同引例実施例に記載された方法によりセフジニルのA型結晶が得られるか否かについて、原告・被告両者からの鑑定合戦となったが、結局地裁は、被告(大洋薬品)の追試によっては実験工程を忠実に再現してもA型結晶を得ることはできず、原告(アステラス製薬)の追試によれば無晶形のみが得られると判断し、当時の技術常識に基づいて上記実施例においては当業者において容易に実施し得る程度にセフチジニルのA型結晶の製造方法が開示されているとはいえないから、新規性欠如を理由とする本件特許の無効主張は認められないとし、原告(アステラス製薬)の主張を認めた。大洋薬品はこれを不服として控訴した。
【要旨】
知財高裁も、原判決をほぼ引用し、
「①被告(大洋薬品)製剤は本件特許発明の技術的範囲に属するとの原告(アステラス製薬)の主張は理由があり,②本件特許は特許無効審判により無効にされるべきである等の被告(大洋薬品)の主張はいずれも失当である」
と判断した。
控訴棄却。
【コメント】
結晶特許が後発品排除に有効に働いた事例。
同剤の物質特許は2003年に特許期間満了したが、本件結晶特許は2008年8月まで存続するとのことである。
本件判決内容とは直接関係無いが、出願当時は別結晶(元結晶)として得られたものが、その後、結晶多形が明らかとなり安定晶が得られると、先の出願明細書に記載した方法ではもはや元結晶を再現して得られないという事態(安定晶が得られてしまう)が起こりうる。特許取得上に限らず、後の争いを想定して、既に開示された元結晶と、新結晶とが明確に区別できるような対策や証拠の準備をしておくことは非常に重要だろう。
なお、本件特許侵害訴訟は、最高裁が大洋薬品の上告を棄却したため、アステラスの勝訴が確定した(関連記事: 2007.12.27 「アステラスのセフゾン®カプセル特許侵害訴訟で最高裁が大洋薬品の上告を棄却」)。
参考:
Categories *Case2007, Infringement, Novelty, ★★, ・Polymorph
2008/02/12
2006.07.19 「X v. 和光純薬」 知財高裁平成18年(ネ)10020
着想を提出した者は発明者か?: 知財高裁平成18年(ネ)10020
【背景】
営業の職務に従事していた原告Xは、着想を記載した検討依頼書を研究所に提出していたことを理由に、本件発明「洗浄処理剤」(特許第3219020号)は原告の職務発明であって、特許を受ける権利を会社に承継させたとして、特35条に基づき、会社に譲渡の対価を請求した(原審: 2006.01.31 東京地裁平成17年(ワ)2538)。
請求項1:
(a)モノカルボン酸,ジカルボン酸,トリカルボン酸,没食子酸以外のオキシカルボン酸,及びアスパラギン酸及びグルタミン酸から選ばれたアミノカルボン酸から成る群より選ばれた有機酸及び(b)エチレンジアミン四酢酸及びトランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸から選ばれたアミノポリカルボン酸,ホスホン酸誘導体,縮合リン酸,ジケトン類,アミン類,及びハロゲン化物イオン,シアン化物イオン,チオシアン酸イオン,チオ硫酸イオン及びアンモニウムイオンから選ばれた無機イオンから成る群より選ばれた錯化剤を主に含んで成る,金属配線が施された半導体基板表面の洗浄処理剤。
【要旨】
控訴人は、
「控訴人が「本件検討依頼書」に記載した有機酸と錯化剤とを含む洗浄処理剤という着想(本件着想)は本件発明そのものであるから,控訴人が本件検討依頼書の起案をした以上,控訴人は,本件発明の発明者である」
と主張した。
しかしながら、裁判所は、
「発明者(共同発明者を含む。)に当たるというためには,当該発明における技術的思想の創作行為に現実に加担したことが必要であり,単なるアイデアや研究テーマを提示したにすぎない者などは,技術的思想の創作行為に現実に加担したとはいえないから,発明者ということはできない。のみならず,化学の技術分野に属する発明については,一般に,ある物品を構成する有効成分の物質名やその化学構造のみから,当該物品の有用性を予測することが困難であるため,これを構成する物質についての着想のみから,直ちに当業者において実施可能な発明が完成するものではなく,有用性を確認するための実験を繰り返し,有用性が認められる範囲のものを明確にして初めて技術的思想の創作をしたといい得るものも数多く存在する。そして,そのような場合においては,上記着想を示したのみでは,技術的思想の創作行為に現実に加担したとはいえないから,当該着想を示したのみの者をもって発明者ということはできない。~本件発明は,化学の技術分野において,実験により有用性が認められる範囲のものを明確にして初めて技術的思想の創作をしたといい得る発明というべきであるから,そのような実験以前の,洗浄処理剤を構成する物質についての単なる着想それ自体は発明ということができず,したがって,そのような着想を示したにすぎない者は,これを発明者と認めることはできない。」
と判断した。
控訴棄却。
【コメント】
医薬に関する事例ではないが、化学分野の発明者(共同発明者)の認定についての判決。
化学の技術分野において、技術的思想の創作(発明)をしたか否かの判断には、「着想」よりも「実験」に重きが置かれているといえる。
Categories *Case2006, Inventorship/Remuneration, ★★
2008/01/20
2006.06.26 「三共 v. テバ」 知財高裁平成17年(行ケ)10781
プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product by process claim)は公知プロダクトにより新規性を失うか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10781
【背景】
製造方法に特徴を有する「プラバスタチンナトリウムを含有する組成物」の原告(三共)の特許発明(特許第3463875号)について、先願明細書(国際出願PCT/US01/31230(国際公開WO02/030415。出願人はテバであり、日本では特表2004-510817号公報として公表、登録となった(特許3737801))に記載された発明と同一であるから特29条の2に違反するとされ無効とされた審決の取消訴訟。
請求項1:
「菌により生成されたプラバスタチン類を含む培養濃縮液から,有機溶媒を用いて,プラバスタチン類を抽出する工程において,有機溶媒として,
式CH3CO2R(上記式中,Rは炭素数3又は4のアルキル基を示す。)を有する溶媒を使用し,並びに,不純物を無機酸を用いて分解する工程,不純物を無機塩基を用いて分解する工程及び結晶化を行う工程を組み合わせることにより得られる,一般式(I)
[化1]
を有する化合物を,プラバスタチンナトリウムに対して0.1重量%以下の量で含有することを特徴とする,工業的に生産されたプラバスタチンナトリウムを含有する組成物。」
【要旨】
「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」であり、結局、組成物そのものの発明ということになる。従って、先願明細書に記載された発明と同一であり、特29条の2違反である。三共は、発明未完成等を理由に引例は29条の2先願の適格性が無い旨主張したが、裁判所は認めなかった。
請求棄却。
【コメント】
プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product by process claim)は、いくらプロセスを限定しても、プロダクトそのものとして特許性の判断がなされる。
一方、プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(product by process claim)の権利解釈についても同様に、特許権の効力がクレームの製法に限定されるとする「限定説」よりも、製法がどうであれプロダクトそのものが同一であれば特許権の効力が及ぶとする「同一性説」が原則と考えた方がよいだろう。
本件は、不純物が議論された点でも興味深い。
参考:(3) 製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合(プロダクト・バイ・プロセス・クレーム)
請求項中に製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合には、1.5.1(2)にしたがって異なる意味内容と解すべき場合を除き、その記載は最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解する(注)。したがって、請求項に記載された製造方法とは異なる方法によっても同一の生産物が製造でき、その生産物が公知である場合は、当該請求項に係る発明は新規性が否定される。
(注)このように解釈する理由は、生産物の構造によってはその生産物を表現することができず、製造方法によってのみ生産物を表現することができる場合(例えば単離されたタンパク質に係る発明等)があり、生産物の構造により特定する場合と製造方法により特定する場合とで区別するのは適切でないからである。したがって、出願人自らの意思で、「専らAの方法により製造されたZ」のように、特定の方法によって製造された物のみに限定しようとしていることが明白な場合であっても、このように解釈する。
スタチンではリピトール®(Lipitor、一般名: Atorvastatin)のシェアが圧倒的。
メバロチンの世界売上高推移
2003年度:2054億円
2004年度:1667億円
2005年度:1432億円
2006年度: 935億円
2007年度: 790億円(予測)
2008/01/17
2006.03.29 「X v. ファイザー」 知財高裁平成17年(ネ)10117
共同発明者とは ? : 知財高裁平成17年(ネ)10117
【背景】製剤研究室長だった原告Xは、本件特許権(特許第3015677号)に係る発明「ノルバスク分割錠」と同一の形状を着想していたと主張し、職務発明について特許を受ける権利を会社に承継させたとして、特35条に基づき、会社に相当の対価を請求した。本件特許公報中の発明者欄には、原告 X の氏名も記載されていた。
請求項 1:
「盤状の素錠の上面に錠剤の分割を容易にする少なくとも一本の溝からなる割線を設け,該上面は対向する縁部から割線へ向けて徐々に凹ませ,素錠の下面は周辺部から中心部に向けて徐々に盛り上げ,凹ませた上面および盛り上げた下面には各々曲面を形成させるが,上面の曲率半径を下面の曲率半径より小さくすることによって,周辺部より中心部の方が薄肉となるようにした上記素錠に,フィルムコーティングを施してなる,分割錠剤。」
【要旨】
「本件発明は、錠剤の形状についての着想を得ただけでは、期待する作用効果を奏するか否かが明らかでなく、実際に実験等を繰り返すことによって、初めて発明が具体化し、完成したものであるから、本件発明における発明者を認定するに当たっては、実際にフィルムコーティング実験等を実施して創作的にその構成を見いだしたか否かという観点に依拠するのが相当である。」と裁判所は言及。実際、控訴人Xは、本件発明の着想を提案したり、伝えたりしたとの事実は認められず、真の共同発明者と認めることはできないとされた。
控訴棄却。
【コメント】
化学発明(製剤)の発明者の認定について言及した判決。製剤の発明者認定において、着想よりもむしろ実験を経た創作に重きをおいた観点が示されている。しかし、原審(2005.09.13 「X v. ファイザー」 東京地裁平成16年(ワ)14321)の判決文中に記載されている双方の主張を読んだほうが、むしろ実務には参考になる部分が多い。
発明の対価を請求するケースが増えてきたが、医薬に関する発明は通常研究グループのチームワークによって生み出されるので、単なる助言者~発明者~単なるテクニシャンの線引きをすることは困難な作業である。しかし、将来の争いに備えるという点で、出願時の発明者決定プロセスにおいて誰が発明者なのかという合理的・客観的な証拠資料を残しておくことは、企業側としては非常に重要なことであろう。
参考:ノルバスク(Norvasc): ベシル酸アムロジピン(amlodipine besilate)を有効成分とする高血圧症薬(持続性Ca拮抗薬)であり、1993年12月からその非分割錠が発売開始され、1996年以降は分割錠に一本化して販売されている。
Categories *Case2006, Inventorship/Remuneration, ★★, ・Composition/Formulation
2008/01/15
2007.12.06 「Novopharm v. Janssen-Ortho, Daiichi」 Supreme Court of Canada Docket No. 32200
Levofloxacin(レボフロキサシン)特許の有効性は?(カナダ最高裁上告棄却): Supreme Court of Canada Docket No. 32200Levaquin(一般名:levofloxacin(レボフロキサシン)、ニューキノロン系抗生物質、日本での販売名はクラビット)の後発品をカナダで販売するNovopharm(Tevaの子会社)に対して、その特許権者である第一製薬(現・第一三共)とそのライセンシーであるJanssen-Ortho(Johnson&Johnsonの子会社)が特許権(CA1,304,080)侵害を主張。カナダ最高裁がNovopharmの上告を棄却したことによって、特許は有効であって特許権侵害であるとした連邦控訴裁判所の判断が確定した。
カナダ最高裁websiteより:Summary
Intellectual property - Patents - Medicines - Whether the law of selection patents confers a second monopoly to a compound on the basis of properties that are the same as those of the genus from which the compound was selected - Whether “motivation” to select a previously disclosed compound should be imported into and given central importance in the test for obviousness - Whether the unpredictability of the properties of a previously disclosed compound permit an otherwise obvious invention to be the subject of a second monopoly - Whether a second monopoly may be granted for a compound disclosed in the prior art on the basis that routine testing is required to enable the invention - Whether a selection patent should be exempt from the requirement that the claims be unambiguous.
Daiichi Pharmaceutical Co., Ltd. (“Daiichi”) discovered ofloxacin, an antimicrobial drug used in the treatment of infections and obtained a patent for it in the early 1980s that expired in 2001. Ofloxacin is a racemic compound with a single chiral centre, a junction where there are two identical, three-dimensional molecules called enantiomers or optical isomers that are mirror images of each other. The right hand or dextro version is called (+) ofloxacin and the left or levo side is called (-) ofloxacin or “levofloxacin”. Further, the configuration of the enantiomers can be chemically described as being either “S” or “R”. After the discovery of ofloxacin, researchers at Daiichi experimented with techniques to isolate or resolve its enantiomers from the racemic compound. Their research indicated that the “S(-)” enantiomer had twice the antimicrobial activity, was less toxic, and was more soluble than the racemic compound. In 1986, Daiichi filed a patent application for levofloxacin which became Canadian Patent 1,304,080 (the “080” patent in 1992. This patent will expire in June 2009. Janssen-Ortho Inc. (“Janssen”), Daiichi’s Canadian licencee, markets and sells levofloxacin in Canada. In 2004, the Applicant, Novopharm Limited (“Novopharm”), obtained a notice of compliance from the Minister of Health, which allowed it to market its generic version of levofloxacin in Canada. In Daiichi’s prohibition proceedings launched under the Patented Medicines (Notice of Compliance) Regulations, Novopharm was successful in establishing that the 080 patent was void for obviousness and anticipation. When Novopharm began marketing its product, however, Janssen and Daiichi commenced infringement proceedings. In dispute was the validity of claim 4 of the 080 patent.
See also:
2007/12/25
2007.11.22 「アンジオテック v. 特許庁長官」 知財高裁平成18年(行ケ)10303
発明の構成要素の用途は発明を特定する要素となり得るか?: 知財高裁平成18年(行ケ)10303
【背景】
「抗-血管形成性組成物およびそれにより被覆されたステント」に関する発明の特許権者(共有者)である原告が、特許異議の申立てを受けた特許庁により本件特許(特許第3423317号)を取り消す旨の決定がされたため、同決定の取消しを求めた。
請求項1:
身体通路の管腔の開放状態を維持するためのステントであって,該ステントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステントであって,該抗血管形成ファクタがタキソールであり,かつ,該ステントが該身体通路の再発性狭窄を処置または予防するために使用される,ステント。
(他請求項は省略)
決定の理由の要点は、刊行物記載の発明に基づき進歩性を有しないから取り消されるべきであるとしたものである。
【要旨】
裁判所は、
「本件第1発明の要旨のうち
「該ステントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステントであって,該抗血管形成ファクタがタキソールであり,」
の部分は,端的に
「該ステントの閉塞を防止するためのタキソールで被覆されている,ほぼ管状の構造を有する,ステントであり,」
と規定するのと何ら変わりはない。
この点につき,原告は,タキソールは,抗血管形成性を有する薬剤としてステントに被覆されるのであり,その点が,本件発明1の要旨の「ステントの閉塞を防止するための抗血管形成ファクタで被覆されて」おり,かかる「抗血管形成ファクタがタキソール」であるという規定に反映されているとか,タキソールといっても,薬剤としての用途が異なれば,別の物であることは我が国の特許法における確立した考え方であると主張する。
しかしながら,物の発明である本件発明1において,ステントを被覆する物質として構成されているタキソールの用途ないし作用が何であるかは,本来,発明を特定する要素とはなり得ないものである。仮に,原告の上記主張の趣旨が,タキソールを抗血管形成性を有する薬剤としてステントに被覆する場合と,他の作用を奏する薬剤として(例えば,抗増殖性を有する薬剤として)ステントに被覆する場合とでは技術思想が異なるというものであったとしても上記用途ないし作用の相違は単に身体通路の再発性狭窄を予防する機序に関係するのみであって,同一構成から成る発明を別発明と評価し得るほど,その技術思想において異なるということはできない。
したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
そしてそうであれば,ことさら「抗血管形成性」に着目しなくとも「再発性狭窄を処置または予防するため」に使用される血管ステントに,タキソールを被覆することが,引用各刊行物から容易に想到することができれば,相違点に係る本件発明1の構成は容易想到ということができる。」
と判断し、結論として進歩性なしとした特許庁の判断を支持した。
請求棄却。
【コメント】
発明の構成要素のひとつ(たとえば、本件での"タキソール")が有する特徴的な用途または作用(たとえば、本件での"抗血管形成性")によってその構成要素をクレームのなかで特徴づけても、その構成要素のみに対する特徴づけは発明全体を特定する要素とはなり得ない。従って、用途または作用によってある構成要素を特徴づけても、発明全体の特許性判断においては、その構成要素自体で(特徴づけに関係なく)評価されることに注意が必要である。
参考:
Categories *Case2007, Inventive step/Obviousness, ★★, ・Combination therapy, ・Indication
2007/12/16
2007.11.13 「ホーファーリサーチ v. 東洋新薬」 知財高裁平成19年(行ケ)10098
動機付けは、本願発明と引用発明とが同じ効果の観点でなければならないか?: 知財高裁平成19年(行ケ)10098
【背景】
被告(東洋新薬)は「皮膚外用剤」に関する特許(第3533392号)の特許権者である。本件は、無効審判請求人である原告(ホーファーリサーチ)が、審決のうち請求不成立とされた部分についての取消しを求めた事案である。
争点は、進歩性及びサポート要件。
請求項1:
松樹皮抽出物および平均分子量が3,000以上7,000以下のコラーゲンペプチドを含有する,皮膚外用剤であって,該松樹皮抽出物はカテキン類を5重量%以上および2~4量体のプロアントシアニジンを20重量%以上含有し,かつ,5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2~4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有し,そして,プロアントシアニジンが0.001重量%~2重量%含有され,コラ-ゲンペプチドが0.0001重量%~5重量%含有される,皮膚外用剤。
争点となった引用発明との相違点1:
引用発明には平均分子量3,000以上7,000以下の加水分解コラーゲンを用いることが記載されていない点
【要旨】
進歩性に関する争点について、裁判所は、
「甲12には,実施例1において,平均分子量3000のコラーゲンペプチドを用いた皮膚外用剤に皮膚の抗老化効果,しわ抑止効果が認められたことが記載されている。そうすると,平均分子量7000以下との記載はないものの,上記のとおり甲12に平均分子量3000のコラーゲンペプチドを用いた皮膚外用剤において,皮膚の抗老化等の効果が認められたことからすれば,審決が,甲2発明と本件発明2との相違点1に関し,甲12に記載ないし示唆がないと認定した点(14頁23行~27行9行)については誤りである。なお,審決は,上記に関し,保湿性に優れた効果を示す範囲として平均分子量3000以上7000以下のコラーゲンペプチドを使用することが示唆されていないことをその理由としているが,化粧品等の皮膚外用剤において,相違点に係る構成が容易想到というための動機付けとして,保湿性の観点でなければならないということはなく,上記甲12のように抗老化効果,しわ抑制効果等の観点であっても差し支えないから,上記認定を左右するものではない。」
また、
「甲36の上記記載によれば,平均分子量3,000~7,000の範囲を含むコラーゲンペプチドが保湿性を目的として皮膚外用剤に配合されることが技術常識であることが推認できる。よって,甲36を適用する動機付けはあるということができる。」
と判断し、結論として、
「原告主張の取消事由4に関し,本件発明2と甲2発明との相違点1に関しても,当業者にとって甲12の記載,甲36の技術常識から当業者にとり容易想到であると判断すべきである。
そうすると,審決は甲2発明と本件発明2との相違点1,2のいずれについての判断も誤ったことになり,これが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。」
とした。
また、サポート要件に関する争点について、裁判所は、
「本件明細書に開示された内容(上記化粧水2,3が化粧水6,7等に比べ保湿効果,血流改善効果がある等)からは,本件発明2における「該プロアントシアニジンが5量体以上のプロアントシアニジン1重量部に対し,2~4量体のプロアントシアニジンを1重量部以上の割合で含有する」との点につき,本件明細書の発明の詳細な説明にこれを十分裏付ける記載がないというほかなく,いわゆる原告のいうサポート要件を欠くというべきである。」
と判断した。
特許庁がした審決のうち請求不成立とされた部分を取り消す。
【コメント】
審決が取り消された事案。
引用発明との相違点に係る構成が容易想到というための動機付けとして、本願発明と引用発明とが同じ効果の観点でなければならないということはない(異なる効果の観点であっても差し支えない)と判断した点に注意。
サポート要件についても、当たり前のことではあるが、特許庁は言いくるめることが出来ても、第三者からの攻撃に耐えることができるように客観的に見てつじつまの合うデータの記載が必要である。
See also:
2007/12/12
2005.06.02 「ゼファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10459
【背景】
「局所投与製剤」に関する特許(特許3264301号)に係る発明が進歩性無しとの取消決定に対して取消しを求めた訴訟(2005.06.02 「ゼファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10458)が係属しつつ、特許権者は本件特許につき訂正審判を請求したが、訂正後の発明は特29条2項の規定により独立して特許を受けることができないものであるとされ、審判請求は成り立たないとされた。その審決取消訴訟である。
訂正審判請求による特許請求の範囲:
1. クロモグリク酸ナトリウム1%,マレイン酸クロルフェニラミン0.25%及び塩酸ナファゾリン0.025%を含有することを特徴とする点鼻剤。
本件訂正発明と刊行物7記載の製剤(インタール点鼻液(クロモグリク酸ナトリウムを2%含有するアレルギー性鼻炎治療用の点鼻液))とを対比すると,両者はクロモグリク酸ナトリウムを含有する点鼻剤である点で一致し、前者はクロモグリク酸ナトリウムの濃度が1%、マレイン酸クロルフェニラミン0.25%及び塩酸ナファゾリン0.025%の配合剤であるのに対し,後者はクロモグリク酸ナトリウムの濃度2%の単剤である点で相違していた。
【要旨】
(1) 配合自体の容易性の判断
ゼファーマ(参加人)は、
「刊行物に3剤(クロモグリク酸ナトリウム,抗ヒスタミン剤,血管収縮剤)から選ばれる2剤の配合(併用)の例が記載されていても,当業者は,3剤を配合して初めて生じる物理的変化や化学的変化,副作用,拮抗作用等の有害現象が生じ得ると考える。したがって,2剤配合剤を組み合わせて,単純に3剤配合剤を容易に想到し得るものではない。また,刊行物6によれば,クロモグリク酸ナトリウム単剤と,クロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合剤との間では治療効果に相違がなく,かえって配合剤には副作用(鼻内への強烈な感触,鼻の灼熱感と痛み,鼻のほてり)が見られる。~むしろ,刊行物6の上記報告によれば,当業者はクロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合を避けようと動機付けられる。」
と主張した。
しかし、裁判所は、
「A意見書(甲13)は,~3剤配合における有害現象の発生可能性に言及するものではあるが,その言及は一般論としてのものであって,~その薬効低下・有害現象の発生が懸念されるべき具体的事情があることに言及しているものではなく,むしろ~安全性については,少なくとも,濃度の観点からは,直ちにその配合を躊躇するべきであるといえるような格別の事情はない,との理解を排斥するものではないと解される。」
さらに、
「刊行物6の解釈としては~副作用がなかったと総括的に認識していたと解すべきであり,当業者は,クロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合について,これを避けようと動機付けられるというよりは,むしろ,マレイン酸クロルフェニラミンの配合量を0.2%よりも増やして配合しようと動機付けられていたということができる。」
と判断した。
(2) 配合量の容易性の判断
裁判所は、
「A意見書(甲13)は,「医療用の半分の濃度であって,有効濃度範囲と証明されていない1%クロモグリク酸ナトリウム」というだけであって,1%は有効濃度範囲から排除されるべき値であるとまでの見解を示すものでない。~してみると,「出願当時,当業者は,クロモグリク酸ナトリウムの濃度を1%に設定することを避け,1%よりも高濃度に設定しようと動機付けられたことは明らかである」とする参加人の主張は,理由がない。そして,~単剤として有効であることが確認されている濃度2%のクロモグリク酸ナトリウムに基づいて,配合剤の濃度として1%をその候補値の1つとすることを想到することが,医薬業界の技術常識に反するものであるということもできない。」
と判断した。
(3) 訂正発明の効果に関する判断
ゼファーマ(参加人)は、訂正発明の濃度の特異性を示すデータを補充して訂正発明の「ピーク的効果」を主張した。
しかし、裁判所は、
「明細書に記載された事項としては,その最終的な算出結果である「有効率」の数値のみであって,前記9つの諸症状の各々の改善度や,濃度の特異性を示すピーク的効果を看取し得る根拠となるデータは,具体的に記載されていない。~本件明細書には,9つの症状ごとの改善度が一切記載されておらず,具体的にどの症状が「飛躍的に改善」するものであるのかを確認することもできない。したがって,参加人が主張する訂正発明のピーク的効果も9つの症状の飛躍的改善も,本件明細書の記載からは具体的に確認することができないというほかない。」
また、
「3剤の配合によれば「当然に得られる結果として予測可能である」とまではいえないとしても,期待し得る効果として十分に期待可能であるという意味で予測可能な範囲内にあるということができる。~さらに,塩酸ナファゾリン及びマレイン酸クロルフェニラミンの配合量に関して,訂正発明以外の他の態様が容易に想定されるところ,本件明細書中には訂正発明の組成以外に,訂正発明に係る3剤が配合された他の態様は記載されていない。したがって,従来公知の単剤である比較例1の有効率との比較のみをもって,訂正発明の実施例の有効率が格別顕著であるということはできない。」
と判断した。
進歩性ないため訂正発明は独立特許要件を満たさず。
請求棄却。
【コメント】
格別顕著な効果は、当業者に予測不可能であることを客観的に示したデータを明細書に記載して主張しておく必要があるだろう。
一般的な意味での「副作用の危険性がある」等を主張するのみでは、進歩性の動機付けを否定するための阻害要因としては無理があるだろう。具体的事情を主張する必要がある。
脱退原告・藤沢薬品(アステラス製薬に吸収承継)が特許権者であった本件特許につき、山之内製薬より特許異議の申立てがなされ、特許を取り消すとの決定があり、藤沢薬品が本訴を提起したが、ゼファーマ(参加人)は、藤沢薬品株式会社から会社分割により本件特許権を承継し、本訴に訴訟参加した。これに伴い、藤沢薬品の原告の地位を承継したアステラス製薬は、本訴から脱退した。異議申立人であった山之内製薬は、その後、特許権者である藤沢薬品と合併し、アステラス製薬となったのだから、なんとも皮肉な話である。
ゼファーマはアステラス製薬から第一三共に売却され、さらに第一三共の大衆薬部門子会社の第一三共ヘルスケアに統合された。
本件特許は、第一三共ヘルスケアが販売元(ゼファーマが元々販売)のクロモグリク酸ナトリウム配合点鼻薬「エージーノーズ」をカバーする特許だったようである。
2007/12/11
2005.06.02 「ゼファーマ v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10458
各々効果が確認されている有効成分の配合剤に進歩性はあるか?: 知財高裁平成17年(行ケ)10458
【背景】
「局所投与製剤」に関する特許(特許3264301号)に係る発明の進歩性無しとの取消決定に対して取消しを求めた訴訟である。
特許請求の範囲:
1. クロモグリク酸ナトリウム1%,抗ヒスタミン剤及び血管収縮剤を含有することを特徴とする点鼻剤又は点眼剤。
2. 抗ヒスタミン剤がマレイン酸クロルフェニラミンである請求項1に記載の点鼻剤又は点眼剤。
3. 血管収縮剤が塩酸ナファゾリンである請求項1又は2に記載の点鼻剤又は点眼剤。
本件発明1と刊行物7記載の製剤(インタール点鼻液(クロモグリク酸ナトリウムを2%含有するアレルギー性鼻炎治療用の点鼻液))とを対比すると、両者はクロモグリク酸ナトリウムを含有する点鼻剤である点で一致し、以下の点で相違していた。
(A) 前者はクロモグリク酸ナトリウムの他に抗ヒスタミン剤及び血管収縮剤も含有するのに対し、後者は有効成分はクロモグリク酸ナトリウムのみである点
(B) 前者はクロモグリク酸ナトリウムの濃度が1%であるのに対し、後者はその倍の2%である点
【要旨】
1. 相違点(A)に関する進歩性判断について
ゼファーマ(参加人)は、
「クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤を配合しても鼻炎治療効果に差が見られず,逆に,抗ヒスタミン剤を配合することは副作用や拮抗性の危険性を与えるから,刊行物6,11に接した当業者は,むしろ,クロモグリク酸ナトリウムに抗ヒスタミン剤を配合することを避けようとする。」
と主張したが、
裁判所は、
「刊行物6の解釈としては~副作用がなかったと総括的に認識していたと解すべきであり,当業者は,クロモグリク酸ナトリウムとマレイン酸クロルフェニラミンとの配合について,これを避けようと動機付けられるというよりは,むしろ,マレイン酸クロルフェニラミンの配合量を0.2%よりも増やして配合しようと動機付けられていたということができる。」
と判断した。
また、同様に、ゼファーマ(参加人)は、
「クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤を配合しても鼻炎治療効果が増大せず,逆に,血管収縮剤を配合することが副作用や拮抗性の危険性を与えるから,刊行物3,4,8,11に接した当業者は,むしろ,クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤を配合することを避けようとする。」
と主張したが、裁判所は、
「特に留意すべき副作用が確認されなかったことも踏まえると,これを阻害するべき個別具体的な事情はないといわざるを得ない。」
と判断した。
2. 相違点(B)に関する進歩性判断について
裁判所は、
「「クロモグリク酸ナトリウムに血管収縮剤や抗ヒスタミン剤を配合した場合,各配合成分の使用濃度を単剤の場合より減少させ,配合剤としての総合的な作用を適切な範囲に留めようとすることは当業者が当然に配慮することであって,特にその濃度を単剤の場合の2%(刊行物7)から,有効濃度の範囲内である1%とする点にしても格別な創意を要するものと認めることはできない。」とした決定の判断に誤りはない。」
と判断した。
ゼファーマ(参加人)は、明細書記載の試験例等で示された有効率の上昇が当業者の予想を超える顕著な効果である旨主張したが、
裁判所は、
「訂正発明に係る具体的3剤,すなわち,クロモグリク酸ナトリウム,塩酸ナファゾリン,マレイン酸クロルフェニラミンは,いずれも鼻炎の症状緩和に使用され,その効果が確認されている成分であり,特に後者の2成分は,日本においても,その配合剤(一般薬)としても広く使用されているものであるところ,これら3剤の配合に当たっては,有効性,安全性が高い範囲を考慮して設定されるのが常識であることは前記のとおりであり,最終的には臨床的に有効性,安全性を確認することは当然に必要ではあるものの,設計の段階では,期待するところとしての効果は既に明確に存在している。3剤の配合によれば「当然に得られる結果として予測可能である」とまではいえないとしても,期待し得る効果として十分に期待可能であるという意味で予測可能な範囲内にあるということができる。」
と判断した。
進歩性無し。
請求棄却。
【コメント】
「効果に差が認められない」とか、単に「副作用の危険性がある」等を主張するのみでは、進歩性の動機付けを否定するための阻害要因としては無理があるだろう。容易に想到することを妨げる具体的事情を主張する必要がある。
脱退原告・藤沢薬品(アステラス製薬に吸収承継)が特許権者であった本件特許につき、山之内製薬より特許異議の申立てがなされ、特許を取り消すとの決定があり、藤沢薬品が本訴を提起したが、ゼファーマ(参加人)は、藤沢薬品株式会社から会社分割により本件特許権を承継し、本訴に訴訟参加した。これに伴い、藤沢薬品の原告の地位を承継したアステラス製薬は、本訴から脱退した。異議申立人であった山之内製薬は、その後、特許権者である藤沢薬品と合併し、アステラス製薬となったのだから、なんとも皮肉な話である。
ゼファーマはアステラス製薬から第一三共に売却され、さらに第一三共の大衆薬部門子会社の第一三共ヘルスケアに統合された。
本件特許は、第一三共ヘルスケアが販売元(ゼファーマが元々販売)のクロモグリク酸ナトリウム配合点鼻薬「エージーノーズ」をカバーする特許だったようである。
Categories *Case2005, Inventive step/Obviousness, ★★, ・Combination therapy
2007/12/10
2005.05.30 「シャイアー・バイオケム v. 特許庁長官」 知財高裁平成17年(行ケ)10012
併用療法が承認済みの場合、合剤承認に基づく合剤特許の存続期間延長は可能か?: 知財高裁平成17年(行ケ)10012
【背景】
原告は抗ウィルス薬ラミブジン及びそれと他の抗ウィルス薬との併用剤に関する特許の特許権者であり、ラミブジンとジドブミンとの合剤(販売名コンビビル錠)の薬事法上の承認を得たことに基づき同特許の存続期間延長登録の出願をしたが拒絶審決を受けたため審決取消訴訟を提起した。審決理由は下記のとおり。